10月1日から始まる新年度(2014会計年度)予算が米議会を通過できず、米国は1995年12月から1996年1月かけての26日間以来、約17年ぶりに政府機関の一部閉鎖に追い込まれた。共和党が多数派である下院と、民主党方数派である上院及びオバマ大統領との間で、オバマケア(包括的な医療保険改革)を巡って対立を解消できずに期限が過ぎた形。病院や交通など社会保障やインフラに関わる部門を除き、日本では下院にあたる衆議院に予算の優先権があるが、米国において下院は先議権(先に審議する権利)を持つものの、優先権はなく、予算は必ず両院を通らなければ成立しない。前回からは相当間が空いたものの、1980年代には短期間の閉鎖が風物詩になっていた時代もある。
政府機関閉鎖の相場への影響
もっとも、政府機関閉鎖だけであれば、そこまで大きな問題ではない。それ以上に大きな問題を引き起こしそうなのが、債務上限問題である。
最悪米国のデフォルトというシナリオも
新年度予算と並んで議会対立の矛先となっているのが、米政府の債務上限問題。米国では無秩序名赤字拡大を防ぐために、連邦政府の債務(国債の発行額)に上限が定められている。現状では約16.7兆ドルというこの上限、5月に既に上限まで達し、その後は様々な緊急措置で資金のやりくりをしている状況。ルー財務長官はこうした緊急措置の期限が今月17日でつき、その後はわずか300億ドル程度の手元資金が残るのみとなると明らかにしている。300億ドルというと日本円にして3兆円近いお金であり、それなりに持ちそうにも見えるが、国家予算レベルでは、国債の利払いや償還などで一気に吹き飛ぶ程度の金額。18日以降の国債償還予定などを見ると、24日に約930億ドルのTBill(米国財務省証券)の償還、31日に約890億ドルのTBillの償還と約614億ドルの国債償還及び利払いが控えており、このままでは安全資産の代表格であった米国国債がデフォルトに陥る可能性まで抱えている。
米デフォルトのもたらす意味
2007年から08年にかけてのサブプライムショックからリーマンショックにいたる世界的な金融危機とそれによる景気の後退は、米国債に次ぐ規模を誇った住宅ローン担保債券(MBS)の信用毀損が引き金となった。ある程度リスクを意識した投資先である株式などと違い、債券への投資は資産の安全な避難場所という意味が大きく、この信用毀損がもたらす金融市場への影響は相当のもの。MBS以上に規模も信用も大きい米国債が無秩序なデフォルトに陥った場合、リーマンショック以上のショックが市場を襲うこととなる。
市場の反応と今後の収束見込み
市場は比較的落ち着いた反応を見せている。ドル円は事態が深刻化した9月半ば以降、99円台から一時96円台までドル安円高が進行する動きを見せた。ただ、逆に言うとその程度の反応に留まっているともいえる。リーマンショックの時には2008年9月の110円近辺から年末までの87円台まで下落、その後も下降トレンドが続き75円台までドル安円高が進行した。もし、米国債がデフォルトとなると、それ以上の影響が出る可能性がある割には、動きは落ち着いていると言える。限りなく0%に近かったTBillの1ヶ月もの利回りが0.35%台まで急騰(債券価格が下落)するといった影響は見られていますが、こちらもデフォルトとなるとその程度で済むはずはなく、デフォルトリスクを織り込みながらも、本格的に認めているわけではないと行った動きとなっている。
結局市場では今回の共和/民主両党の対立がぎりぎりの所でうまくまとまるという楽観論が大勢となっているようだ。実際、デフォルトを起こした場合の悪影響は理解されており、議員たちも実際にデフォルトにまで踏み込むとは考えにくい所である。
デッドラインを前に収束していくことが望まれており、又今後の可能性として最も高いところとなっている。
今回のオバマケアに関しては、米市民の比較的多くの支持を得ており、政府閉鎖、デフォルトの危機に際して、共和党の支持率が過去最低水準まで下がるなど、共和党への批判が強まっていることも、そろそろ事態が収束に向かう可能性を高めている。共和党穏健派を中心に、何らかの妥協が引き出される可能性は高いと見ている。
楽観論のもたらすリスク
このように、最悪の状況を前に楽観論が強い今回の事態であるが、一つだけリスクがある。本当のデッドライン見極めの難しさである。17日に資金繰りの措置が手詰まりになるとは言え、それで直ぐにデフォルトを起こすわけではない。様々なところへの支払いなどを一時的に遅延し(これも広義にはデフォルトであるが)、国債の元利払いを最優先させれば、今月末ぐらいまでデフォルトを回避できる可能性はある(31日の国債元利払いは流石にどうにもならないと思われる)。しかし、17日を過ぎて対立が進み、短期債の管理デフォルトなどを引き起こした場合、市場のリスク警戒感はダムが決壊するかのように一気に飽和量を超える可能性がある。過去の株の大暴落のように、一度崩れ始めた相場はポジションの投げ売りを伴って動きが加速する。共和党を中心とする議員の考えるまだ大丈夫というラインと、市場の考えるまだ大丈夫というラインが違っていたとき、思っている以上のインパクトを市場にもたらす可能性は充分あると考える。
中長期的な影響と投資機会
もっともこうしたリスクを意識しても、相場が完全に崩れる可能性は低い。株価・ドルの大幅下落などが起こったとすると、それを契機に事態の進展が一気に進むはずである。リーマンショックを経験した米国にとって、それほどデフォルリスクに対する危機感は大きい。
今回の事態が進展さえすれば、米国は元の景気回復基調へ復していくとみられる。9月からのドル安円高トレンドも反転を見せてくるだろう。中長期的にはドル高円安基調継続を前提に、じっくりと買い下がる形での投資を検討するなど、今回の事態を投資機会の場として意識してみたいところである。どこまでドル安が進むのかについて見極めが難しいこと、デフォルトに陥る最悪の状況があり得ることなど、リスクについての認識があり、ポジション管理がきちんと出来ていれば、今回の事態を投資機会として捉えることは可能と考えている。
最後に
雇用統計が発表されないなど、毎日相場を見ている投資家にとっても状況が特殊でやりにくい感もある今回の状況。自動で買い下がって、ストップロス機能も付いているトラリピ(トラプリピートイフダン(R))などを使って、うまくリスクを管理して、収益に結びつけていって欲しいところである。
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