・特にミサイルへのdigital ignitionの導入は注目に値する
・航空事業部は赤外線誘導空対空ミサイルを対ステルス機用として重要だと考えている
暫く、PCから遠ざかっておりました。
気球騒動の際に使用されたこともあって、俄かに赤外線画像誘導空対空ミサイルであるAIM-9Xに注目が集まっています。
画像引用元: Public Domain US Navy - https://acquisition.navy.mil/content/view/full/4705
個人的にAIM-9X-2は世界中で最も先進的なミサイルの一つだと思っています。
製造メーカーの ウェブサイト で最新型のBlock IIの記述を見てみます。
Block II variant
The AIM-9X Block II missile adds a redesigned fuze and a digital ignition safety device to improve handling and in-flight safety. It's equipped with updated electronics, including a lock-on-after-launch capability using a new weapon datalink to support beyond visual range engagements.
引用元: https://www.raytheonmissilesanddefense.com/what-we-do/naval-warfare/advanced-strike-weapons/aim-9x-sidewinder-missile
この中で注目されるワードは digital ignitionと new weapon datalinkです。
通常、AIM-9のような短距離空対空ミサイルの発射は、ランチャーよりミサイルのロケットモーターへ大電力を流して発火させます。そのため、短距離空対空ミサイルのランチャーにはパワーサプライと呼ばれる専用機構があります。ランチャーからはストライカーポイントと呼ばれる突起状の電極がバネの力で2つ飛び出しており、ミサイル側には柔らかい金属で出来た受電用の電極が2つあってそこに刺さるようになっています(この電極が刺さる圧力には厳格な規定があり、専用のテストセットも存在します)。
ちょっと見難いのですが、拡大していただくとミサイルの前方フック(赤丸)内に円形の電極が2つあることが確認できると思います。
画像引用元: David Monniaux - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2272437 による
パワーサプライがどんなものかと言うと、こんな感じのモノです。
https://aerospacellc.com/wp-content/uploads/2020/01/F-16-AIM-9-CAPABILITIES-25JUNE2019.pdf
なお、パワーサプライは高い信頼性を要求されることから、ランチャーの構成品の中でも非常に高価なシロモノであります。そしてこんなこともありました。
百里基地F-15のミサイル、スクランブル直前に暴発!! (1986年9月4日)
http://komatsuairfield.web.fc2.com/page152.html
この事故の原因は表向きパワーサプライとされていますね(棒)
話を戻してミサイル側にdigital ignitionを備えるということはミサイル側でロケットモーターへの点火が行える=パワーサプライが要らなくなるということになります。
こうなるとミサイルランチャー側は大幅な簡素(軽量)化とコストダウン及び安全性の向上、メンテナンスコストの低減が図れることになります。大雑把に言えば、ランチャーにはミサイルのレールとレール上のロック解除機構(ソレノイド)、ミサイルへ接続するデジタルデータバスさえあれば良いことになります。
これは武器屋さんにとっては垂涎のアイテムでしょう。
さらにこのミサイルにはweapon datalinkを搭載するとされています。日本語風に言うと指令受信装置ですね。所謂、UTDC(Up-To-Data-Command)を実現するものです。これにより、目標の大体の位置に発射しておいて、途中コースの変更の必要が生じたらコマンド指令によりコースを修正することが可能になります(指令自爆も可能かもしれません)。これにより、多目標同時発射や射程の延伸、オフボアサイト能力の向上が期待できます。
AIM-9Xで自分が評価するのは、開発時に低高度目標への射撃試験をちゃんと行っていることです。以前にも述べましたが、赤外線画像誘導で地表を這うように進む超低高度目標を狙うことは、レーダー誘導に比べても技術的に高度なものが要求されます。それは地上には様々な赤外線ノイズ源が多く、その中で真目標を見分けて追尾することは困難を極めるからです。
AIM-9x SIDEWINDER Trial
このビデオではフレアを撒きながら超低空を飛行する標的機(QF-4)を上空から見事に撃墜しています。
翻って我らがAAM-5Bです。
画像引用元: Hunini - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44536075 による
上が従来のAAM-5、下が改良型のAAM-5B。AAM-5Bにはシーカー部に冷却ガスのゲージが無いことが分かる。
実は微力ながら、管理人はAAM-5の開発のお手伝いをしております。なので、思い出深い装備の一つでもあります。また、AAM-5Bの開発の主任はかつて岐阜の誘導武器開発実験隊等でお世話になった方です。
さて、開発元である技術研究本部のGM2室のご担当者から以下のような話を聞いたことがあります。
「 レーダーが全く使えないような強度な電子戦の下では、赤外線誘導空対空ミサイルが主兵装になる。」
「ステルス機同士の戦いでは、お互い近づくまで相手を発見出来ない。よって赤外線誘導空対空ミサイルが重要だ。」
以上の話から、航空事業部が赤外線誘導空対空ミサイルを重要だと考えていたことがお分かりかと思います。
また、ご担当者から以下のようなお話もお聞きしました。
「 AAM-5の最大の売りはLOAL(発射後ロックオン=空中ロックオン)が出来ることだ。」
LOALの最大のメリットは射程の延伸です。上記のこともあり航空事業部は赤外線誘導対空ミサイルの射程の延伸に重きを置いていたと感じられます。これは初期案には翼の大きさをもっと大きくした案が存在していたこともそれを裏付けると思います(機体側のランチャーアダプターの強度上の問題で断念されました)。
ただ、AAM-5ではAIM-9のような超低高度目標に対する実射試験は行われていません(訓練でやりたいという話はありましたが。。)。
いづれにしても、AAM-5BでもAIM-9X-2ではちょっと差をつけられてしまいました。F-35やF-15能力向上型へのインテグレーションは行われないようですし、AIM-9XやIRIS-T、ASRAAMのようにSAM化も行われる様子もないので、。
ただ、F-15在来機へAAM-5Bの搭載は、在来機の手っ取り早い能力向上策として評価したいと思います。
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