2024年11月02日
あなたの仕様書見せてください(基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾(その1))
■MANPADSベースでLOALが出来るのはゲームチェンジャーに成りえる
■有人攻撃ヘリはこれで完全に終わった
画像引用元: https://www.mod.go.jp/j/press/news/2021/12/24b.pdf
大火力リークス 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾(その1)
https://drive.google.com/file/d/1MPEOrv0084n_-fyeb5Tx--pZ3LpZ17wj/view?usp=sharing
実は「あなたの仕様書見せてください」シリーズはこれを取り上げたかったら始めたようなものです。管理人の意見として、このミサイルは非常に画期的であり、もっと注目されて然るべきものだとと思います。
基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾につきましては、防衛省から開発計画がパブリックリリースされてますので、こちらの文言を引用してみます。
令和3年度(最終公表)レビューシート 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾
https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/rev_suishin/r02/pdf/03-0008.pdf
敵の巡航ミサイルによる我が国への同時多数攻撃に有効に対処するため、既存の基地防空用地対空誘導弾の改善型として基地防空用地対空誘導弾(改)を開発する。また、島嶼等防衛における各種経空脅威を撃墜するとともに、本土における重要防護施設に飛来する各種経空脅威を撃墜し、自ら機動性を発揮して部隊等に直接対空火網を構成して部隊等の安全を確保するため、93式近距離地対空誘導弾の後継として、低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を持った新近距離地対空誘導弾を開発する。
引用元: 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾
つまり、航空事業部の基地防空用ミサイルと地べた事業部の近SAMを統合して対CM能力を持たせることになります。従来、基地防空用ミサイルは短SAMベースのものですから、MANPADSベースのものとなりダウンサイジング化を諮ると共に数が出ることでコストダウンも意図しているのでしょう。
このミサイルの一番のトピックは 低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力 を持つことでしょう。つまり、MANPADSベースのミサイルに見通し線外射撃能力を持たせるという極めて意欲的なものです。見通し線外射撃能力を持つということは、このミサイルはLOAL(Lock-On After Launch 発射後ロックオン 分かり易く言うと空中ロックオン)が出来るということです。元々、歩兵が担ぐような超小型のミサイルであるMANPADSにこのような能力を持たせることは凄く画期的と言えます。
では、LOALというか見通し線外射撃能力、低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を得るためには何が必要かですが、
?@低高度で飛しょうする目標を複雑な地表のノイズから判別して誘導出来るシーカー
?A独力で航法を行える装置(INS、IRS等)
?B目標位置のアップデートを外部から受信して更新する装置(指令受信装置等)
以上を頭に入れながら、この仕様書を拝見することといたしましょう。この仕様書ではミサイルの開発部分は誘導制御部のみとなっています。つまり、従来の91式携行SAMの誘導制御部のみを換装するかたちになっています。ASM-2やAAM-5の誘導制御部を換えてASM-2BやAAM-5Bにするのと同様な手法ですね。
?@については黒塗りだらけで、全く内容を伺えないので先ほどのレビューシートから見てみます。
小型・低熱源目標抽出技術
誘導弾及び目標の双方が動的な環境下において、複雑背景下から小型・低熱源目標をシーカで抽出するための画像処理技術の確立
引用元: 令和3年度(最終公開レビューシート
ミサイルが超低高度で飛しょうする目標を狙う際は、上から下を見下ろすかたちになります。そうなると背景が地表になることから、非常に複雑な背景の中から低シグネチャの目標を識別して追跡する必要があるため、高度な目標類別機能が求められることになります。それをMANPADSベースの小さな筐体に収めるのは技術的に高度なものを求められるでしょう。
以下はAIM-9Xで低高度をフレアを撒きながら飛行するQF-4への実射映像
?Aですが、仕様書の表3-1 構成及び数量に IMU という文言が確認できます。ではIMUというのは何なのか。こちらのページを引用させていただきます。
慣性計測ユニット(IMU)とは?
IMUとは慣性計測ユニット加速度、方位、角速度、その他の重力を測定し、報告する電子機器である。3つの加速度計、3つのジャイロスコープ、そして方位の要件によっては3つの磁力計で構成される。車両の3つの軸(ロール、ピッチ、ヨー)それぞれについて、1軸につき1つ。
引用元: SBG Systems https://www.sbg-systems.com/ja/inertial-measurement-unit-imu-sensor/
IMU(Inertial Measurement Unit)は最近の車やオートバイにも使われているので、お聞きになった方も多いかもしれません。基本はジャイロスコープと加速度センサーを組み合わせたものです。これにより姿勢・方位を得ます。INSのように高度な自律航法をもたらすものではありませんが、ミサイルの初期誘導には充分なものでしょう。
?Bですが、同じく仕様書の表3-1 構成及び数量に コマンドアップリンク受信機 と コマンドアップリンク受信アンテナ が確認できます。即ち、このミサイルはMANPADSベースにも関わらず、UTDC(Up To Date Command)機能を有することになります。
ではこの基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾は現在の戦場にどんな影響をもたらすか考えてみます。
まず、基地防の対CMの対処能力が向上することです。航空事業部は前世紀からCMを大変脅威と認識し、その対応を行ってきました。運用上の不利を承知でAIM-120ではなくAAM-4を採用したのもそのためです。このミサイルは従来の基地防SAMより安価で機動性も高いでしょうから、数を揃えることが出来て同時多数攻撃のような従来の構成では対応が難しかった事態へも対応出来ることになります。
さらに、このミサイルによって武装ヘリはもはや完全にトドメを刺されたと言えるでしょう。管理人は地べた事業部がAHを捨てる決断に至ったのは11式短距離地対空誘導弾の導入が大きかったと考えています。この優秀な眼を持つミサイルに狙われると、稜線からチラッと出たらもはやアウトです。それに匹敵するミサイルが大量に配備されれば、もはや攻撃ヘリは生き残れないでしょう。
11式短距離地対空誘導弾(発射) 陸上自衛隊
画像引用元: 衛省ホームページ https://www.flickr.com/photos/90465288@N07/39227773454/in/album-72157632230016328/
一つ期待したいのが、このミサイルのさらなる派生型が生まれることです。例えば、フランスのミストラルのように艦船へ導入したり、UAVのような無人航空機へ導入したら如何でしょうか。
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2024年08月05日
F-15在来機へのAMRAAM搭載改修を考察してみる
■ただ費用対効果的には疑問が残る
■F-15在来機は出来るだけ早く退役させ、最新機種へ更新させるべき
ペンギン先生の掲示板 において、F-15在来機へAIM-120(AMRAAM)搭載の可能性を論じられていたので、こちらでも考察してみることにします。ネタを提供していただいたペンギン先生で感謝であります。
まず、F-15在来機にAMRAAMを搭載するには以下の改修が必要になります。
1.ランチャ改修
2. 畿内配線追加
3. バスインターフェイスモジュールの追加
4. RADAR/OFPの改修
5. アダプタ・パッド/ストレージボックスの追加
1. ランチャ改修
ランチャの改修ですが、まず胴下ランチャであるLAU-106AをLAU-106A/Aに改修します。これは改修キットが用意されており、既存のランチャから改修できます。
外観等について、よく纏められたサイトがありますので、こちらをご覧ください
EAGLE応援団 F-15J/DJ MRM改修機の識別ポイント
http://www.f-15j.com/archive/mecha/mrm/mrm.htm
写真を比べてみると、銘版があった部分に新たにコネクターが追加されているのが確認出来ると思います。これがAIM-120用のアンビリカルコネクタで、既存のAIM-7用のものとシーソーのようにつながっており、どちらかが突き出すと、もう一方が引っ込むようになってます。なお、ミサイルとランチャのコネクタはシアウェハと呼ばれる板の上下にコネクタがある器材を挟みます。あと、AIM-7では必要だったミサイル・モーターファイアリングケーブルがAIM-120では不要になります。これは一長一短があるのですが、一手間省けるという点ではメリットでしょう。
ランチャで問題となるのは内弦ランチャです。ここは既存のLAU-114をAIM-120運用可能なLAU-128へ変更しなくてはなりません。その際はランチャアダプタも既存のADU-407からADU-552へ変更します。
ここで一つ問題があります。在来機には後述するデータバスの配線が無いこと、LAU-128へ国産ミサイルであるAAM-3及びAAM-5を適合させる必要があることです。現在も生産されているAAM-5を適合させることはそれほど難しくはないと思いますが、AAM-3を適合させるのは難しいかもしれません。そうなると、AAM-3との適合は諦める等の判断が必要となるでしょう。
無人機研究システム無人機及び90式空対空誘導弾(AAM-3)
画像引用元: Hunini - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53091006 による
2. 機内配線追加
機内配線追加ですが、MSIP機へのAIM-120搭載改修においてもLAU-106へデータバスの機内配線追加は行われていますので、在来機で行うこともそれほど難しくないかもしれません。問題は内弦ランチャへの機内配線追加です。これは少なくても本邦では実績が無いので、慎重な検討が必要になると思います。
3. バスインターフェイスモジュールの追加
F-15在来機の元々のデータバスはH009ですが、AIM-120とのインターフェイスはMIL-STD-1553/1760が使われています。AIM-120は発射の際にこのデータバスを介してミサイルへ目標までの慣性データを送信し、この慣性データを元にミサイルは慣性誘導で目標へ向かいます。そのため、H009とMIL-STD-1553の間をやり取りさせるインターフェイスモジュールが必須となります。
これに関してはNASAが興味深い資料を公開しています。
NASA HiDEC F-15A with F-18
画像引用元: Jim Ross - Cropped from EC91-677-1 from [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3089363 による
Predicted Performance Benefits of an Adaptive Digital Engine Control System on an F-15 Airplane
画像引用元: https://ntrs.nasa.gov/api/citations/19850007420/downloads/19850007420.pdf
Produced by the NASA Center for Aerospace Information (CASI)
これは在来機であるF-15AにMIL-STD-1553Bデジタルデータバスで制御されるデジタルエンジン制御システムとデジタルCAS(Control Augmentation System)を追加するにあたって、既存のデータバスであるH009へインターフェイスユニットを介して統合しています。このような機器を介すれば在来機へMIL-STD-1553Bデジタルデータバスを追加するのも可能でしょう。というか現状のMSIP機においてもH009と1553が並列で用いられています。従って、MIP機においてもこのようなインターフェイスユニットが存在すると思われます。1553を導入した場合、もう一つのメリットとしてLINK-16の端末であるMIDS-LVTの搭載もポン付けで可能になります。コクピットのディスプレイ追加も必要でしょうが。。。。
4. RADAR/OFPの改修
F-15在来機へAIM-120管制能力を付与するためには、レーダーや中央コンピューターのソフトウェア(OFP Operational Flight Program)の改修が必要となります。これに関しては平成10年度契約の『飛行教導隊F-15型機のAIM-120B搭載改修(その2)』において在来機用AIM-120管制OFPが米国ボーイング社から提供されたとの噂レベルの話があります。管理人はこの件についてGM関連の方に直接尋ねたことがありますが、その方もご存じないような感じでした。
あと、以下の写真の赤枠内のACS(Armament Control Set)の改修も必要ですね。MSIP機のように青枠内のAN/AWG-20 PACS(Progmable Armament Control Set)だとソフトの改修だけで済むのですが、ACSだとスイッチ等の物理的な改修が必要と思います。丁度、お店のレジスターとタッチパネルのPOSの違いを思い浮かべて頂ければ分かり易いでしょう。
ACSを装備したF-15のコクピット
A close-up view of an F-15 Eagle aircraft instrument panel.
画像引用元: DoD DF-ST-82-05603 National Archive#NN33300514 2005-06-30
アメリカ合衆国連邦政府の著作物として、この画像はアメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。
PACSを装備したF-15Cのコクピット
画像引用元: By SSGT. JAMES WILLIAMS - http://www.dodmedia.osd.mil/Assets/Still/2007/Air_Force/DF-SD-07-36540.JPEG, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3066785
5. アダプタ・パッド/ストレージボックスの追加
AIM-7とAIM-120では直径が1インチ違いますから、AIM-120をLAU-106へ搭載する際はパッドを介します。そのため、それらのパッドとパッドを機内に収納するストレージボックスが必要になります。
なお、海外にはMIL-STD-1553Bが搭載されていなかった機体に搭載改修を実施してAIM-120の運用能力を付与した例は幾つかあります。写真のドイツ空軍のF-4F ICEやシンガポール空軍のF-5Sなどはその代表例でしょう。
AIM-120を発射するF-4F ICE。ランチャから射出されたAIM-120の姿勢に注目。
F-4F ICE Phantom launches AIM-120
画像引用元: By U.S. Navy - U.S. Navy National Museum of Naval Aviation photo No. 1996.253.7324.035, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24584829
シンガポール空軍のF-5S。同じく1553を介するAGM-65 Maverickを搭載しているところに注目。
Maverick armed RSAF F-5S
画像引用元: By Dave1185 at English Wikipedia, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=6809201
どうでしょう? 在来機へAIM-120を搭載するのは結構大変なのがお分かりいただけると思います。F-15在来機は航空機としての能力は兎も角として、搭載電子機器が古く、電子戦能力も高いとは言えません。AIM-120を搭載してもその能力を生かしきれないと思います。だとしたら、 現状は小改修(AAM-5搭載等)に留めて早期に新しい機体(F-35、XF-3)へ更新した方がコスパが良いんじゃないでしょうか。
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2024年07月20日
あなたの仕様書見せてください(03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上 編)
■仔細に見てみると、従来のSAMに無かった機能が確認できる
■本邦のミサイル開発は変わりつつある
画像引用元: 防衛装備庁 - https://www.mod.go.jp/atla/soubi_system.html, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113530740 による
夏枯れでネタが無いので、毎度おなじみ 大火力先生(@Military_Hobbys)のところ から最近アップされた仕様書を見させて頂くことにしました。ということで、今回は「03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上」を取り上げることにします。
防衛装備庁試作仕様書 03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上
https://drive.google.com/file/d/1KJMML6cp7JcyrCvxdm9304MhurS8yD91/view?usp=sharing
03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上はwikipediaによると令和5年(2023年)度から令和10年(2028年)度にかけて、新型の短距離弾道ミサイル (SRBM) と極超音速滑空体 (HGV) への対処能力を高めた中SAM改のさらなる改善型を開発する事業だそうです。
契約内容は以下の通りです。
品目 03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上
契約日 2023/04/07
契約相手方 三菱電機
契約額 59,790,390,000 円
中SAM(改)の能力向上の開発で期間は2023年度から2028年度まで。
しかし、仕様書は全体で200頁以上あります。管理人も仕様書のゴーストライターやったことありますが、さすがにこんなには書けないですね(w
開発は既存の改善弾に適用出来るBlock1と、より性能を向上させたBlock2の2つに分かれています。Block1はASM-2B改善弾のように既存品に対して主にソフトウェア改修や付属品の更新による改善弾みたいなものでしょう。
管理人の仕様書を一読しての面白いなと感じたのは以下です。
?@UTDC(Up To Date Command)に拠る近接信管の動作停止機能
?A電子戦対処機能を有すること
?@についてミサイル側が射撃統制装置から、発射後においてもかなり統制されることです。指令自爆機能を持つのは勿論ですが、目新しいのは以下の機能です。
附属書4 誘導弾(B 1 o c k 1)
2 .6 機能 ・性能
2. 6. 1 機 能
b) 誘導制御部
ア.、、、なお、ホーミングヘッドは、 射撃統制装置から発射装置を経由して受信する目標の類別結果に基づいて、近接センサに対して弾頭 の起爆を制御する信号を出力できるものとする。
エ .、、、なお、 近接センサは、ホーミングへツドからの指示に基づき、弾頭を起爆させるための信号を出力しない機能も有すること。
引用元: 4−05−2004−582A−AD−0003
防衛装備庁試作仕様書
03式中距離地対空誘導弾(改善型)能力向上
つまり、発射後にUTDCの指令によって近接信管の機能を殺す(=直撃)モードにすることが出来ることになります。これにより、航空機や巡航ミサイルのような目標には近接信管による起爆で弾片をばらまくことでPK率の向上を諮り、弾道弾のような目標には直撃の運動エネルギーをもって目標を確実に破壊するという2つの方式を選択できるようになります。
イスラエル ラファエル社製Iron Domeの発射シーン
Iron Domeは重要目標へ飛来する目標にはSTS(Shoot To Shoot)射撃で連射を行い、そうでないものは単発で対応するそうです。映像をよく見るとSTSで発射した場合、最初の1発目で目標を破壊した際は既に発射された2発目は指令自爆させているように見えます。
この仕様書の中に従来のミサイルの仕様書で余り見かけない文言が出てきます。
附属書6 対空戦闘指揮装置(Blockl) 用 ソフトウェア
2.4 機能・性能
2. 4. 1 機能
イ. 目標変換等幾能
(ア )射撃の禁止機能
発射指令を禁 止し て、目標指定を解除できるこ と。
(イ )射撃の控置機能
発射指令を禁止 して、新たな射撃を行わないよう指令できること。
(ウ) 目標変換機能
交戦を打切り、新たな目標へ交戦の指示ができるこ と。
これはSTS射撃の際に、次弾として待機しているミサイルを一旦発射禁止にして、目標指定を解除し新たな目標へ指向させるということでしょう。STS射撃は確実性が高い反面、無駄弾が出る可能性も高いですから、タマの消費を抑えるという意味で有効だと思われます。
?Aについては以下の文言が出てきます。
附属書7 射撃統制装置(Blockl) 用ソフトウェア
2,4 機能・性 能
2. 4. 1 機能
f)情報収集機能
オ 電子戦対処能
(ア) ES情報及び電子妨害機情報を収集できるこ と。
用語及び定義
32 ES Electronic Supportの略
敵の電子的情報(電波)を分析し、電波諸元等を分析することにより、敵に対する妨害(ECM :Electronic Counter Measure) 又は対妨害(EP)の手段選択の支援のための機能
つまり、相手のレーダーや電子妨害波などの電子戦情報を収集して持ち帰れるようにするということです。戦闘機などに搭載されているRWR(radar Warning Receiver)、例えばF-15Jに搭載されているAPR-4はRECモードがあり、パイロットの操作により受信情報をデータとして持ち帰れるようになっています。F-2はRWRと言わず、わざわざESM(electric Support Measure)と呼んでいることから、もっと広範囲な情報を収集できると思われます。意外なのはC-2輸送機で、海外任務に従事する関係上、RWRを装備してそれなりの電子情報収集機能を持っているそうです。
特に地対空ミサイルシステムの場合は、レーダーを備えている訳ですから、レーダー情報と受信した電波情報の双方を持ち帰ることが出来ることから、より精度が高い情報を持ち帰れることになります。
令和6年度調達予定品目(中央調達分) で艦船用としてSAAB社製電波探知装置CRS−NAVAL、電波探知装置SME−150の導入が伝えられましたが、陸海空の各プラットフォームの電波情報収集機能を強化する動きは注目に値するでしょう。
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2024年05月26日
SM-2は何故外れたか
■目標は味方機(MQ-9)だったので外れたこと自体は幸運であった
■高価なSM-2が無人機に無力であったことは深刻
■本件の背景にはドイツ海軍の抱える深刻な問題が伺えれる
SM-2MRを発射する同型艦「ザクセン(F219)」
画像引用元: By Bundeswehr-Fotos - originally posted to Flickr as Fregattee SACHSEN, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11538413
ご無沙汰してます。
新しい機体(バイク)が来たので、電子戦システムの装備作業とOFPの改修作業を行っておりました(^^)
最近、 CIMSEC のサイトに大変興味深い記事が掲載されました。
ANALYZING THE GERMAN FRIGATE HESSEN’S NEAR-MISS OF A U.S. DRONE IN THE RED SEA
(紅海でドイツのフリゲート艦ヘッセンが米軍無人機にニアミスした事の分析)
https://cimsec.org/analyzing-the-german-frigate-hessens-near-miss-of-a-u-s-drone-in-the-red-sea/
今年の2月26日に紅海で作戦行動中のドイツ海軍のフリゲート艦ヘッセンが接近する未確認航空機(実際は味方の無人機MQ-9)に対して2発のSM-2を発射したところ、両方とも外れてしまったというものです。こちらの記事ではこの事案の背景として現状のドイツ海軍が抱える深刻な状況について軍人らしい詳細な分析が為されていますが、本サイトではSM-2が何故外れたに絞って考察してみたいと思います。
MQ-9 リーパー
画像引用元: By U.S. Air Force photo by Master Sgt. Robert W. Valenca - http://www.af.mil/shared/media/photodb/photos/071110-F-1789V-991.jpg, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11200064
まず、みんな大好きwikiの記事を参照してヘッセンはどのような艦なのか確認してみます。
ザクセン級フリゲート
ヘッセンは2006年就役のザクセン級フリゲートの3番艦であり、対空レーダーはタレス社の以下の2種類が装備されています。
・SMART-L
・APAR 多機能型
また、艦載のt対空戦闘システムはNAAWS(NATO Anti-Air Warfere System: NATO対空戦闘システム)が搭載されており、これもタレス社の製品ですが、1番艦のザクセンの発注が1996年であること、及び仕様ユーザーがドイツ、オランダ、デンマークの3艦種のみであることを考えると若干古め(故にUAVなどの新しい脅威が余り想定されていない、、)で且つ余り流行らなかったシステム(故にアップデートも微妙、、)と言えるかもしれません。
発射されたミサイルは本邦でもお馴染みのSM-2MRですが、こちらはRTX社(旧レイセオン)の製品でNAAWSによって管制され、MK41VLSから発射されていたとなると、モノはSM-2MRブロックIIIA(RIM-66M-2)でしょう。
組み立て中のSM-2MRミサイル
画像引用元: U.S. Navy - http://www.navy.mil/view_photos_top.asp, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3271202 による
ミサイルの誘導方法は初期・中期は指令(UTDC)付き慣性誘導で、終末誘導はAPARのICWI(Interrupted Continuous Wave Illuminator: 間欠連続波照射)によるセミ・アクティブ誘導です。これは本邦のFCS-3やOPY-1などと同様です。というか。本邦のシステムはAPARの技術を部分的に導入しています(これの導入の経緯は結構生臭い話があったりします)。
さて、ミサイルが発射された際の状況です。
・2/26にヘッセンが作戦行動中に未確認の無人航空機(UAV)が接近しているのを探知した
・無人航空機からIFFの返信は無かった
・上級司令部と協議後に2発のSM-2を目標に向けて発射したが両方とも外れた
・無人機は巡行飛行中(200kt以下)であり、 ドローンは艦と平行に飛行していた( the drone flew parallel to the vessel)、
ミサイル2発の発射間隔は分かりませんが、恐らくSTS射撃(Shoot To Shoot)だったんじゃないかと思います。
ここまでピンときた方がおられるかもしれません。
つまり、まとめると
・目標は低速な無人機だった
・目標は艦と同航で飛行していた
・ミサイルはセミ・アクティブ誘導のSM-2
・対空管制システムはやや古めだった
ということになります。
実は考察するまでもなく、記事の中でクロスレンジ効果の影響として語られています。
ストリップマップ方式合成開口レーダ
画像引用元: 電気情報通信学会 「遠隔情報センシングシステムにおける信号処理技術」
https://www.journal.ieice.org/conts/kaishi_wadainokiji/200202/200202-6.html
上の図は ストリップマップ方式合成開口レーダのものですが、感覚的に分かり易いと思い流用させていただきました。つまり、電波を発している母機と目標は平行で且つ低速で進行しており、その反射波には相手の速度成分(ドップラー偏移)が載り難い状況が分かると思います。
以前、本ブログでセミ・アクティブレーダー誘導ミサイルの誘導において、目標の速度成分が非常に重要であることを述べさせていただいておりますが (結局はデコイしかない) 、ミサイルは発射する際に目標の速度レンジを設定してます。つまり目標の速度はこれ位だから、そこから外れた目標は無視せよと設定されている訳です。なので低速で且つ、平行に飛行する目標はセミ・アクティブレーダー誘導ミサイルは非常にやっかいな目標な訳です。
本来であれば、その辺りの差を射撃管制システムや熟練した乗組員が補完してくれるでしょう。しかし、記事によるとシステムは古めで且つ技術サポートやレーダーオペレーターなどの高度なスキルを持つ専門家は大幅に不足し、また軍縮のあおりで実射訓練等の機会も限られていたとなるとこの状況にうまく対応できなかったことが考えられます。
昨今のドイツ連邦軍の体たらくぶりは度々耳にしますが、本邦もこれを他山の石としなくてはならないでしょう。
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2024年04月04日
艦載ミサイルは何が違う
■最近のミサイルには不感型(IM)ロケットモータがよく使われる
■LOVAとIMによりミサイルの安全性は大幅に高まる
米国ホワイトサンズ・ミサイル実験場での03式中距離地対空誘導弾 (改)の発射
画像引用元: 防衛装備庁 - https://www.mod.go.jp/atla/soubi_system.html, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113530740 による
文谷先生が開発中の艦対空誘導弾について私見を述べてらっしゃいます。
国産ミサイルは本当に使い物になるのか? 防衛省・新導入の艦対空誘導弾「A-SAM」によぎる一抹の不安
管理人はA-SAMの前身であるXRIM-4では若干の係わりがあったので、こちらの内容については一部異論があるのですが、ミサイルの艦載化について以下の部分については特筆すべきでしょう。
ただ、軍艦での利用には不安が残る。陸上向けミサイルの転用なので本質的に軍艦に向いてはいない。例えば海軍型の発射器の規格と相性が悪い。必須となる艦船攻撃モードの実装も怪しい。
引用元: 国産ミサイルは本当に使い物になるのか? 防衛省・新導入の艦対空誘導弾「A-SAM」によぎる一抹の不安
https://news.yahoo.co.jp/articles/bd0291df85b737099f01a42c39f297c060a99c2a?page=1
陸上向けミサイルと艦載ミサイルの違いを語るうえで、よく語られるのが安全性に対する要求の違いです。艦載ミサイルは狭い艦内で取り扱われることから、陸上で運用される物以上に安全性を高めなくてはなりません。その中でよく聞かれるのがLOVA化とIM化です。
LOVA(Low Vulnerability)は一言でいえば誘爆対策です。本邦のミサイルではASM-2の弾頭がLOVA化の先鞭を着けたことが良く知られています。具体的に炸薬はPBX(Polymer bonded explosive)系を採用し、以下のような過酷な試験を行っています。
スレッド試験
地上でロケットを使って高速で滑走して目標へ衝突させ、爆発しないかどうか確認する。
殉爆試験
弾頭を一定間隔で複数配置し、その内の一つを爆発させて誘爆しないかどうか確認する。
熱感度試験
燃焼させた軽油の上に弾頭を吊るし、何度で爆発するか確認する。
なお、ロケットモーターの推進薬にもLOVA化が行われており、熱や摩擦、衝撃に強いことが要求されます。
LOVA化は陸上のミサイルにも普及しつつあるのですが、艦載ミサイルで特筆すべきこととしてIM化が進んでいることが挙げられます。
IM(Insensitive munitions)は不感化とも呼ばれ、一言で言えばわざと壊れ易くすることで安全性を高める方策です。
IM化の代表例として Steel strip laminateが挙げられます。これは薄い鋼鈑を樹脂で接着しながら円筒状に巻いていくもので、その中に推進薬を入れます。
Steel strip laminateを使ったロケットモーターケースの製造
画像引用元: 英国Roxel社 https://www.roxelgroup.com/en/competencies-uk/
火災や被弾した際は、ストリップの接着が溶けることによりモーターケースは原型を留めずにバラバラになります。そうすることで推進薬はむき出しの状態となり、例え着火したとしてもただ単に燃えるだけで、推進力を得てミサイルが飛び出すような恐れは無くなります。
SSLモーターケースを用いて、はっきりとIM化を謳っているミサイルとして代表的なものはMBDA社のBimstone2があります。
Brimstone Sea Spear missile
LOALで撃っていると思われるが、発射された3発のミサイルがそれぞれ近接した3つの別々の目標に命中していることに注目。
今後、ミサイルのLOVA化とIM化はプラットフォームの枠を超えて大幅に進むと思われ、シーカーや弾頭、誘導装置等に比べると目立たない分野ですが、注目すべき技術でしょう。
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2024年03月17日
AAM-4の特殊変調方式
■AAM-4の送信方式は技本50年史では"特殊変調方式"と呼称している
■この方式によりAAM-4は高い電波秘匿性とECCM能力を得ている
画像引用元: 日本語版ウィキペディアのHidekiさん - 原版の投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=13296614 による
先日、AAM-4Bの仕様書を閲覧したことをお伝えしましたが、
AAM-4Bは指令による飛しょう停止機能を持つ
その仕様書の中の 付表3 システム性能で以下の文言があります。
5 被発見性
排煙の被視認性尾が顕著に高くならないものとする。
(ア)方式を使用し、ミサイル誘導に使用する放射電波はレーダ警戒装置による探知の可能性の低いものとする。
引用元: 99式空対空誘導弾(B)仕様書(CPS-U13200-4)
つまり、AAM-4の仕様書の中に電波系(アクティブレーダーシーカー、指令受信装置、4象限電波式近接信管)は相手のレーダ警戒装置(RWR)に引っ掛からないようにしろとの要求がある訳です。ではこの(ア)方式とは一体何なのでしょうか。
展示されているAAM-4B 、4象限アクティブレーダー近接信管の窓が確認できる
画像引用元: By Motokoka - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=96175286
現在公開されている、 技本50年史 ではAAM-4について以下のような記述があります。
(エ)結果
d. 特殊変調方式 及び高い妨害電波除去機能を有する信号処理アルゴリズムを実現したことにより、電波の秘匿性に優れ、強度の電子戦環境下で有効に対処できる高いECCM性を有した。
(オ)特記事項
b 特殊変調方 式の信号処理技術は、高いECCM性及びクラッタ抑圧性を有しており、広範囲な兵器システムに活用できる。
引用元: 技本50年史P177
この(ア)方式は 特殊変調方式と呼称されているようです。では、この特殊変調方式とは何なのか?
管理人はこの内容について存じていますが、ここで公言するのは控えさせて頂くことにします。というのは、以前官側からXAAM-4の資料を頂いた際に、この内容に少し触れたものがあったため(勿論、方式の名称は□です)、その資料が上席の指示により回収されたという経験がありました。AAM-4が制式化されてからもう四半世紀になりますが、この方式について世の中に殆ど触れたものが無いことから、官側が如何にこの秘密保持に努めているかが容易に想像できます。
ただ、どうしても知りたい方は以下の要点を抑えつつ、主にネットを探してみると良いでしょう。一つヒントを申し上げれば、この呼称名は英文字です。
・最近のレーダーの技術動向、被探知性(LPI)を高めるためにどのような送信方式を採用しているか
・AAM-4の主契約会社はどのような特許を有しているか(随契根拠)
・欺瞞妨害に強い変調方式
いささか消化不良ですが、今回はこの辺りでご勘弁を(^^)
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2024年03月07日
RWRでミサイルから逃れられるか
■F-15J/DJのRWRであるAPR-4ではミサイル発射が警告出来る
■恐らくRWRはPRFの変化を見て警告を出しているのだろう
Defense Express で面白い記事を見つけました。
How Aircraft Can Evade Patriot Missile: Why Is It Easier to Shoot Down Su-34 Than Su-35
(どうやってパトリオットミサイルから逃れるか: 何故Su-34がSu-35より撃墜し易いのか)
Patriot MIM-104 surface-to-air defense missile system US Army United States
The guidance system of this missile is radio-command on marching section as well as on terminal section - with the target coordinates specified through the semi-active missile head (Track-via-missile - TVM). With such a guidance system, even before the missile is launched, the onboard equipment of any combat aircraft, including russian ones, will firstly detect the Patriot radar operating on it. And then the radar will switch from tracking mode to firing mode, which will mean the start of the countdown in seconds.
The pilot takes evasive action according to instructions. The easiest way to deal with this situation is when the aircaft is at altitude and cruising speed. In this case pilot needs to dive down with a maximum speed and break the distance in turbine mode.
In this situation, every second is matter as well as a lot depends on the aircraft itself, its maneuverability and the permitted overloading.
このミサイルの誘導システムは、中間過程と終末過程において無線指令であり、目標座標はセミアクティブ・ミサイル・シーカ(Track Via Missile - TVM)を通じて指示されます。このような誘導システムでは、例えミサイルが発射される前であっても、ロシア製を含むあらゆる戦闘機の搭載機器は、まずその戦闘機で作動するパトリオットのレーダーを探知することになる。そしてレーダーは追跡モードから射撃モードに切り替わり、数秒以内にカウントダウンが始まります。
パイロットは規定に従って回避行動をとります。この状況に対処する最も簡単な方法は、航空機が高度と巡航速度にあるときです。この場合、パイロットはタービンモードで最高速度で急降下し、相手との距離を取る必要があります。
引用元: https://en.defence-ua.com/news/how_aircraft_can_evade_patriot_missile_why_is_it_easier_to_shoot_down_su_34_than_su_35-9713.html
つまり、ロシア軍機はパトリオットのレーダー波を探知し、捜索モードから射撃モードに切り替わったのを確認していることになります。ロシア軍機のRWRにはパトリオットのレーダー波がライブラリ情報として登録されており、それらを認識出来ているのでしょう。
ロシアのバックファイア爆撃機(Tu-22M)のRWRインジケーター
画像引用元: Di 040sm - Opera propria, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=55760106
F-15J/DJにはAPR-4という国産のRWRが装備されています。
F-15Jの垂直尾翼にあるRWRアンテナ
画像引用元: Nii Piccolo Photo Studio, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16117128 による
アンテナは写真の垂直尾翼の他に、左右主翼と機首下面に無指向の計5つのアンテナにより構成されます。RWRはこれらのアンテナの受信波から、主に追尾状態にあるレーダーの脅威の種類、相対位置、驚異の優先度等をインジケーターに表示し、ICCP(Integrated Communications Control Panel)を介して警報音を発します。
APR-4では以下のような警報音を発します。
?@新しい脅威 ピーという連続信号が4秒間
?A注意 ピー、ピー、ピーという断続した連続信号
?B発射 ピ、ピ、ピという断続した連続信号
注目すべきはRWRで相手のミサイルの発射を判断していることです。ではRWRは何を見ているのでしょうか。RWRは主に受信波の以下の内容を見ています。
?@周波数帯
?A到来時刻
?B電波到来方位
?Cパルス幅
?Dパルス振幅
これらの受信内容からまずPRI(パルス繰り返し間隔、Pulse Repetition Interval)を分析します。PRIが分析出来たら、脅威ライブラリの情報と照合して脅威の種類を判別し、相対位置計算や優先度判定を行います。
警報を出すにあたって、RWRはPRF(パルス繰り返し周波数 Pulse-Repetition Frequency、PFIはPRFの逆数になる)の変化を見ているのではないかと考えます。F-15に搭載されているAPG-63の場合はMPRFとHPRFの二種類のパルス繰り返し周波数を使いますが、MPRFで10kHz程度、HPRFで200kHz程度と聞いたことがあります。PRFの高低の違いは色々とあるのですが、単純に言うと距離を測定するには低いPRF、速度を測定するには高いPRFを使うと覚えておけばそんなに間違ってはいないと思います。
レーダーの方形パルス
画像引用元: 日本財団 図書館 平成15年度 通信講習用 船舶電気装備技術講座(レーダー、機器保守整備編) https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2003/00138/contents/0002.htm#002
つまり、相手のレーダーが低いPRFから切り替わって、高いPRFを使い始めたらもはや発射の脅威度が上がったと考えても良い訳です。また、HPRFはセミアクティブレーダー誘導ミサイルのイルミネーター波(AIM-7だとAIM-7F以降)としても使われる場合があるので、いよいよヤバいのです(w
ただ、相手のミサイル発射の警告に関してはRWRでどう判断しているのか分かりません。恐らく、HPRFを受信した時間の長さで判断しているんじゃないかと考えますが、何とも言えないところです。
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2024年03月01日
AAM-4Bは指令による飛しょう停止機能を持つ
■指令自爆としていないのは弾頭を持たないテレメ弾との絡みだろう
■LOAL可能なアクティブ誘導では飛しょう停止機能は重要
画像引用元: By Motokoka - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=96175286
先日、大火力先生(@Military_Hobbys)の サイト を覗いていた際に AAM-4Bの仕様書 が公開されていることに気づきました。内容を拝見させていただいたころ、まぁあるだろうなという機能を確認できたので嬉しくなった次第です。
2.7.1 機能
b) 誘導及び目標追尾
7) 飛しょう停止
AAM-4Bは飛しょう停止指令を受けた場合、飛しょうを停止する。
引用元: 99式空対空誘導弾(B)仕様書(CPS-U13200-4)
アクティブレーダー誘導でミサイルの誤射を防ぐためには外部指令で飛しょうを停止させる(≒自爆)ことは非常に重要になります。
セミアクティブ誘導の場合、発射されたミサイルを無効化させるのは簡単で、イルミネータの送信を止めれば良いだけです。そうすればミサイルは目標をロストし、そのまま飛しょうを続ければ設定秒時で自爆します。
ミサイルを発射前にロックオン(LOBL)させる赤外線誘導ミサイルの場合は、確実を期すためにミサイルを発射する前、FCSレーダーとのエンゲージを解除してシーカーをセルフトラックさせ、HUDなどでシーカーヘッドポジションを確認して意図する目標をロックオンしていることを確認してから発射することが推薦されています。そのため、ロックオンしてから発射するため誤射する可能性は低いと考えられます。なお、余談ですが海洋事業部のP-1がAGM-65を装備しているのもLOBLできちんと目標をロックオンして打てるからではないかと考えています。
HUDのシーカーポジションが分かる写真が無かったのでGUNモードのHUDの写真
画像引用元: e2a2j - US Navy, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4280111 による
Inert AGM-65 Maverick missile of the Swiss Air Force, on display at Payerne Airbase.
画像引用元: By Rama - Own work, CC BY-SA 2.0 fr, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1723166
LOALで発射されるアクティブ誘導ミサイルの場合、発射前に母機から渡されるデータは慣性データだけです。勿論、目標付近まではその慣性データと母機からのUTDC(Up To Data Command)によって飛しょうし、それ以後は自らのシーカーによって目標を捉えます(所謂、空中ロックオン)。
従って、どんな目標を捉えて飛んでいくかはミサイル任せになり、意図しない目標へ向かう可能性もあり得ます。また、STS(Shoot To Shoot)で連続発射した場合、1発目のミサイルで目標を撃破してしまったら、次弾は目標を探して飛び続けるわけです。
そんな際は、誰しもミサイルを無効化したいと考えるでしょう。なので、アクティブ誘導(≒LOAL)の際は外部指令でミサイルを無効化する機能が必須となります。
指令自爆機能については面白いエピソードがあります。
勝手に姉妹サイトである 改自衛隊で奏でた交響曲 の管理人であらせられるペンギン先生によると、以前開発が行われていた艦対空誘導弾であるXRIM-4がとん挫したのは、運用側が指令自爆機能の搭載を強く望み、ミサイル側は対応できたが、FCS-3側の対応が困難だったため計画が遅延し、Zに因縁つけられてXRIM-4を断念してFCS-3を何とか残したんだそうです。GM開発担当者は恐らく歯ぎしりして悔しがったんでしょう。それから暫くは海洋事業部とGM関連(TRDI)で遺恨が残ったそうです。
ところで、お気づきでしょうか。ミサイルなら指令自爆で良い筈なのに何故わざわざ飛しょう停止なのかと。。。。
仕様書を読み進んでいるとこのミサイルには弾頭の代わりにテレメータ送信装置を積んで、テレメータ弾化出来るようになっています。つまり弾頭を積まない場合があるのです。そのため、自爆以外で飛しょう停止させる必要があるのでしょう。
では、どのような手段で飛しょう停止させるのか。
引用元: https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku/soubiseisakugijutu/introduction2020_en.pdf
写真は無人標的機のJ/AQM-1ですが、以下の2つの緊急飛しょう停止モードを持っています。
EMER 1
エンジンを停止させ、螺旋操舵により廃棄
EMER 2
EMER 1が不可能な場合、カートリッジ・アクチュエータにより強制的に操舵して廃棄
固体ロケットモーターを使うミサイルの場合、エンジンの停止は出来ないでしょうから、恐らくここで上げたEMER 2のような方法で飛しょう停止させるのでしょう。ただ、実弾であれば鹵獲を防ぐためにも指令自爆で良いと思います。
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2024年02月18日
AAM-5BはF-15在来機の能力を大幅に向上させる
■従ってF-15在来機へ投資せずに新型機(F-35)へ置き換える判断は正しい
■そんな中でF-15在来機へAAM-5Bを搭載することは手っ取り早い能力向上策となる
画像引用元: By 防衛装備庁 - https://www.mod.go.jp/atla/soubi_system.html, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113530741
近代化改修以前の航空事業部のF-15は担当者が頭を抱えたほど色々な種類があるわけですが(近代化改修の目的の一つは様々なタイプを統一するという目論見もあります)、大きく分けると前期型の在来型と後期型のMSIP(Multi-Stage Improvement Program)型に分かれます。
在来機型(計109機)
F-15J 97機(02-8801号機-82-8898号機)とF-15DJ 12機(12-8051号機-52-8062号機)但し42-8832号機はMSIP機に改修
MSIP機型(計104機)
F-15J型:68機(82-8899号機-82-8965号機及び42-8832号機)、F-15DJ 型:35機(52-8063号機-92-8098号機)
MSIPと在来機は様々な違いがあるのですが(実は各パーツの部品番号もかなり違います)、最も大きな違いはMSIPにはMIL-STD-1553Bデジタルデータバスが搭載されていることです。1553はF-15の初飛行後に制式化されましたから、当然といえば当然の話です(F-15開発時のデータバスはH009が採用され、その発展型としてのMIL-STD-1553Bの採用はF-16から)。
F-15の近代化を行うにあたって、在来機とMSIP機のどちらに行うかが話題になりましたが、結局はMSIP機が対象になりました。何故かといえば在来機を近代化するのにはかなり大掛かりな改修が必要になりますが、MSIP機であれば、極端に言えば搭載機器のポン付け交換で済むため、費用も時間も大幅に節約できるからに他ありません。
近代化改修の対象から外れた在来機はそのまま陳腐化していくことになります。ただ、航空機としては在来機と言えどもまだまだ高い能力を備えているわけですから、非常に勿体ない話ではあります。そこで、お金も手間も掛からない何らかの能力向上策が無いかと思うわけです。
では、手っ取り早く搭載ウェポンを更新しようかと考える訳ですが、ここで大きな壁が立ちはだかります。近年の搭載ウェポンのインターフェイスにはMIL-STD-1553B/1760が必須なわけです。最新のF-35のデータバスは1553系から下図のように新しいデータバスであるIEEE1394へ置き換えられていますが、搭載ストアとのインターフェイスだけは1553系を残しています。
F-35のコンピュータとネットワーク
画像引用元: http://www.jsf.mil/downloads/documents/AFA%20Conf%20-%20JSF%20Program%20Brief%20-%2026%20Sept%2006.pdf from http://www.jsf.mil/downloads/down_documentation.htm
作者 Brigadier General Charles R.Davis, USAF
Document states "distribution is unlimited" Document attribute states "content copy allowed"
そうなると、在来機にMIL-STD-1553Bを追加する必要が出てきますが、これが一筋縄ではいきません。ただ、例が無いわけでなく、F-15在来機にMIL-STD-1553Bを追加したり(旧ブログ F-15のH009バスであります )、F-4に追加した例(F-4F ICE、F-4E 2020等)、F-5に追加した例(F-5S/T等)も存在します。
ただ出来れば、機体側へ何の改修もせず搭載ウェポン側を近代化出来れば大変都合が良いわけです。
ところで、情報公開請求で入手した各種仕様書を公開されている大火力先生(@Military_Hobbys)の サイト では AAM-5Bの仕様書 が公開されています。
そしてその中の一節にはこう書かれています。
2.1.2 母機適合性
e) AAM-5搭載未改修機にAAM-5Bを搭載した場合でも、AAM-3相当の目標補足並びに発射が可能であること。
では、在来機で運用した場合はどんな機能が制約されるのでしょうか?
それは同じサイトで公開されている「 04式空対空誘導弾(改)(その1) 」に書かれています。
表1-1 システム設計の目標性能
番号9 目標値等
(3) AAM-5及びAAM-5(改)の搭載改修を実施していない母機(F-2についてはAAM-5用にランチャーを改修した期待をいう。)からの運用が可能であるものとし、当該母機からの発射において HMD連接機能及び管制計算 を除き、可能な限り本来の機能及び性能が発揮できるものとする。
つまりHMDと"管制計算=LOAL(発射後ロックオン)"が使えない訳です。逆に言えば、それ以外の能力、AAM-3と比べて大きなオフボアサイト能力、長大なロックオンレンジ、高度なIRCCM能力は大幅に向上します。
AAM-5Bの仕様書には興味深い一節があります。
2.7.3 性能
e)対妨害性
2) ECCM(ELECTRIC COUNTER COUNTER MEASURE)能力 ECM(ELECTRIC COUNTER MEASURE)環境下で母機レーダが使用できない場合においても、セルフサーチ又はHMD(HELMET MOUNTED DISPLAY)スレーブにより目標補足が可能であること。
本来、赤外線誘導空対空ミサイルに余り関係のないECCM性にわざわざ触れていることに注目すべきです。というのは航空事業部関係者からは赤外線誘導空対空ミサイルの存在意義として対ステルスや高度な電子戦環境下における運用を散々聞いていたからです。在来機の欠点の一つとして電子戦に弱いということが言われてますから、これは大きな利点となるでしょう。
纏めると、在来機がAAM-5Bを搭載することにより以下の能力を獲得することになります。
1. 大幅に向上したロックオンレンジ(=射程)
2. 大幅に拡大したオフボアサイト能力
3. 大幅に向上したIRCCM能力
4. 大幅に拡大した冷却持続時間(スターリングクーラ)
5. 1と2に関連してミサイルのセルフサーチを活用することにより高度な電子戦環境下における目標補足能力の拡大(IRSTの代わり)
そしてAAM-5Bを搭載しても得られない能力は以下です。
1. HMDとの連接
2. LOAL(発射後ロックオン)による射程の延伸
以上のように、在来機の手っ取り早い能力向上策としてAAM-5Bの搭載が有効なことが分かると思います。現にスクランブル機を中心に在来機へのAAM-5B搭載は急速に進んでいるようです。
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2024年01月04日
チャフ/フレアを撒く巡航ミサイル
■我々の常識を超えるこのようなギミックは注目に値する
■何度も繰り返すが、我々は旧東側の兵器を決して侮ってはいけない
波乱の年明けではありますが、今年もよろしくお願いします(^^)
さて、ウクライナ戦争でロシアのKh-101巡航ミサイルがチャフ/フレアを射出する映像が公開されました。この映像では、射出時に煙を引いておらず且つ爆発しているようですのでチャフのように見えますが、チャフ/フレアの双方を射出する可能性があるので、ここではチャフ/フレアとします。
Russian cruise missile Kh-101, firing the traps
映像では3から4発づつ複数回に渡って射出を繰り返しているように見えます。映像の後半に地上で爆発しているようですから、目標のすぐ近くで撮られたんでしょうね。
以前、撃墜されたKh-101に搭載されていたCMD(Counter Measure Dispencer)のL-504の写真を見ると1器当たり計12発を搭載できるようです。となると、これが両サイドにあるとすると1回に3-4発づつ射出するとして、最大で計6から8回射出できることになります。この写真では機体が横転して逆さまになっているようですから、射出は機体から左右上方に向かって打ち上げるかたちになるのでしょう。
2023年1月26日にウクライナのヴィーンヌィツャ州で撃墜されたKh-101、上下ひっくり返っているが底面に電波高度計又は地形照合レーダー及び光学誘導系の窓が確認出来る
画像引用元: By Командування Пов?тряних Сил ЗСУ / Air Force Command of Ukrainian Armed Forces (license) - https://www.facebook.com/photo/?fbid=561921512642468&set=pcb.561921729309113 (the whole post), CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=128604401
同じ機体のL-504CMDが見える写真
画像引用元: Командування Пов?тряних Сил ЗСУ / Air Force Command of Ukrainian Armed Forces (license) - https://www.facebook.com/photo/?fbid=561921522642467&set=pcb.561921729309113 (the whole post), CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=128604345 による
映像ではチャフ/フレアを撒いた後にゆるく旋回しているように見えます。チャフ/フレアのカーテンを作って妨害するとしたら、そのような動きになるでしょう。
ところで、巡航ミサイルにCMDを装備するに当たっては、次のような疑問が沸きます。
?@CMDがスペースを圧迫しないのか。
?Aチャフ/フレアの射出の衝撃は機体に影響を与えないのか。
?Bチャフ/フレアの射出のタイミングはどのように設定されているのか。
まず?@ですが、こちらの映像(08:30辺り)を見るとL-504CMDの大きさは(W)400mm x (D)300mm x (H)150mmってところでしょうか。Kh-101の大きさが全長7mを超える巨体であることを考えるとスペース的には問題なさそうです。
БРИФ?НГ НА ТЕМУ "ПРОВАЛ МОДЕРН?ЗАЦ?? РОС?ЙСЬКО? СТРАТЕГ?ЧНО? КРИЛАТО? РАКЕТИ Х-101".
?Aに関しては、CMDの射出時の衝撃は結構大きなものであり、下手をすると機体に損傷を与えるレベルです。F-4に装備されていたCMDであるAN/ALE-40ではパイロンに付いていたため、射出の衝撃でパイロンの外殻にクラックが入ってしまう程でした。
韓国空軍のF-4Eの翼下パイロンに装備されたALE-40CMD
画像引用元: Hunini, CC BY-SA 4.0
Kh-101ではCMDが機体に内蔵されており、また機体も大きめであることから余り問題ないのかもしれません。
さて、最大の疑問は?Bになります。
管理人の意見としては、センサー情報によるものではなく、目標に近づいたら自動的に射出するように予めプリプログラムされているものではないでしょうか。これは機体にRWSやMWSのようなものが確認出来ないこと、そしてその様な高価な機器はミサイルのような使い捨て兵器にはコスパが合いません。
目標近辺でこのようにチャフ/フレアを散布するのは、AAA(対空火器)やMANPADS(携行SAM)のような最終防御兵器の突破を目的としたものでしょう。従って、目標へ向かっている途中でむやみに射出するものではないと考えます。
それにしても巡航ミサイルにチャフ/フレアのような自己防御手段を搭載するとは、西側の常識からは考え難いでしょう。西側だったら、機体のステルス化、デコイの活用、ウェイポイントの複雑化、パッシブ手段による脅威の自立回避等といった手段を取るのではないでしょうか。
この手の話題を扱うと何時も思うことですが、旧東側の兵器には我々西側とは違う思想、技術等が存在し、常に我々の斜め上を行くものを世に出しています。決して侮ってはいけないでしょう。
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