■従ってF-15在来機へ投資せずに新型機(F-35)へ置き換える判断は正しい
■そんな中でF-15在来機へAAM-5Bを搭載することは手っ取り早い能力向上策となる
https://www.mod.go.jp/atla/soubi_system.html, CC BY 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113530741
近代化改修以前の航空事業部のF-15は担当者が頭を抱えたほど色々な種類があるわけですが(近代化改修の目的の一つは様々なタイプを統一するという目論見もあります)、大きく分けると前期型の在来型と後期型のMSIP(Multi-Stage Improvement Program)型に分かれます。
在来機型(計109機)
F-15J 97機(02-8801号機-82-8898号機)とF-15DJ 12機(12-8051号機-52-8062号機)但し42-8832号機はMSIP機に改修
MSIP機型(計104機)
F-15J型:68機(82-8899号機-82-8965号機及び42-8832号機)、F-15DJ 型:35機(52-8063号機-92-8098号機)
MSIPと在来機は様々な違いがあるのですが(実は各パーツの部品番号もかなり違います)、最も大きな違いはMSIPにはMIL-STD-1553Bデジタルデータバスが搭載されていることです。1553はF-15の初飛行後に制式化されましたから、当然といえば当然の話です(F-15開発時のデータバスはH009が採用され、その発展型としてのMIL-STD-1553Bの採用はF-16から)。
F-15の近代化を行うにあたって、在来機とMSIP機のどちらに行うかが話題になりましたが、結局はMSIP機が対象になりました。何故かといえば在来機を近代化するのにはかなり大掛かりな改修が必要になりますが、MSIP機であれば、極端に言えば搭載機器のポン付け交換で済むため、費用も時間も大幅に節約できるからに他ありません。
近代化改修の対象から外れた在来機はそのまま陳腐化していくことになります。ただ、航空機としては在来機と言えどもまだまだ高い能力を備えているわけですから、非常に勿体ない話ではあります。そこで、お金も手間も掛からない何らかの能力向上策が無いかと思うわけです。
では、手っ取り早く搭載ウェポンを更新しようかと考える訳ですが、ここで大きな壁が立ちはだかります。近年の搭載ウェポンのインターフェイスにはMIL-STD-1553B/1760が必須なわけです。最新のF-35のデータバスは1553系から下図のように新しいデータバスであるIEEE1394へ置き換えられていますが、搭載ストアとのインターフェイスだけは1553系を残しています。
F-35のコンピュータとネットワーク
画像引用元: http://www.jsf.mil/downloads/documents/AFA%20Conf%20-%20JSF%20Program%20Brief%20-%2026%20Sept%2006.pdf from http://www.jsf.mil/downloads/down_documentation.htm
作者 Brigadier General Charles R.Davis, USAF
Document states "distribution is unlimited" Document attribute states "content copy allowed"
そうなると、在来機にMIL-STD-1553Bを追加する必要が出てきますが、これが一筋縄ではいきません。ただ、例が無いわけでなく、F-15在来機にMIL-STD-1553Bを追加したり(旧ブログ F-15のH009バスであります )、F-4に追加した例(F-4F ICE、F-4E 2020等)、F-5に追加した例(F-5S/T等)も存在します。
ところで、情報公開請求で入手した各種仕様書を公開されている大火力先生(@Military_Hobbys)の サイト では AAM-5Bの仕様書 が公開されています。
そしてその中の一節にはこう書かれています。
2.1.2 母機適合性
e) AAM-5搭載未改修機にAAM-5Bを搭載した場合でも、AAM-3相当の目標補足並びに発射が可能であること。
では、在来機で運用した場合はどんな機能が制約されるのでしょうか?
それは同じサイトで公開されている「 04式空対空誘導弾(改)(その1) 」に書かれています。
表1-1 システム設計の目標性能
番号9 目標値等
(3) AAM-5及びAAM-5(改)の搭載改修を実施していない母機(F-2についてはAAM-5用にランチャーを改修した期待をいう。)からの運用が可能であるものとし、当該母機からの発射において HMD連接機能及び管制計算 を除き、可能な限り本来の機能及び性能が発揮できるものとする。
つまりHMDと"管制計算=LOAL(発射後ロックオン)"が使えない訳です。逆に言えば、それ以外の能力、AAM-3と比べて大きなオフボアサイト能力、長大なロックオンレンジ、高度なIRCCM能力は大幅に向上します。
AAM-5Bの仕様書には興味深い一節があります。
2.7.3 性能
e)対妨害性
2) ECCM(ELECTRIC COUNTER COUNTER MEASURE)能力 ECM(ELECTRIC COUNTER MEASURE)環境下で母機レーダが使用できない場合においても、セルフサーチ又はHMD(HELMET MOUNTED DISPLAY)スレーブにより目標補足が可能であること。
本来、赤外線誘導空対空ミサイルに余り関係のないECCM性にわざわざ触れていることに注目すべきです。というのは航空事業部関係者からは赤外線誘導空対空ミサイルの存在意義として対ステルスや高度な電子戦環境下における運用を散々聞いていたからです。在来機の欠点の一つとして電子戦に弱いということが言われてますから、これは大きな利点となるでしょう。
纏めると、在来機がAAM-5Bを搭載することにより以下の能力を獲得することになります。
1. 大幅に向上したロックオンレンジ(=射程)
2. 大幅に拡大したオフボアサイト能力
3. 大幅に向上したIRCCM能力
4. 大幅に拡大した冷却持続時間(スターリングクーラ)
5. 1と2に関連してミサイルのセルフサーチを活用することにより高度な電子戦環境下における目標補足能力の拡大(IRSTの代わり)
そしてAAM-5Bを搭載しても得られない能力は以下です。
1. HMDとの連接
2. LOAL(発射後ロックオン)による射程の延伸
以上のように、在来機の手っ取り早い能力向上策としてAAM-5Bの搭載が有効なことが分かると思います。現にスクランブル機を中心に在来機へのAAM-5B搭載は急速に進んでいるようです。
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