■距離欺瞞を行えるEJは画期的
■将来的にはNulkaのような動力付きEJが主流となるだろう
電波妨害弾1型(wikipedia)
電波妨害弾1型は自艦のレーダーやESMの情報を元に相手のミサイルに対して距離欺瞞を実施します。これによって相手ミサイルのアクティブレーダーのレンジゲート内に偽目標を出現させ、電波妨害弾へ追尾転移させます。
アクティブレーダーのレンジゲートと電波妨害弾の位置
イラスト画像引用元: https://www.ac-illust.com/
簡単な図を作ってみました。対艦ミサイルはアクティブレーダーで目標艦を追尾しますが、その際に目標艦との距離をベースとしてレンジゲート(黄色部分)を設定します。ミサイルから見てこの部分に入っているものを目標として認識し、入っていないものを無視します。
電波妨害弾は妨害波を遅延させて発信することにより、ミサイルから見た距離を目標艦との距離と等しくなるようにして相手のレンジゲートに入ってしまいます。さらに目標艦のエコーよりも強い信号をミサイル側へ指向することによりミサイルを電波妨害弾へ追尾転移させることになります。妨害波は一方通行だけに目標艦の反射波より遥に出力が大きく、また目標艦がもがみ型のようなステルス艦であれば、さらにその違いは大きい訳です。
レンジゲート内に入った偽目標のエコーが目標エコーより大きくなる
画像引用元: 特許情報プラットフォーム 特開平08-200995 電波妨害装置 独立行政法人工業所有権情報・研修館
このように電波妨害弾1型は相手ミサイルに対して距離欺瞞を行うことにより、妨害当初から有効な妨害を行うことになります。これによりリアクションタイムの短縮と妨害持続時間を有効に確保することが期待出来るので、射出型妨害機の弱点である有効時間の短さを補うことが可能です。
なお、距離欺瞞を行わない妨害機はレンジゲートから外れているので、ミサイルは追尾転移を行いませんが、ミサイルが目標艦に接近するとレンジゲートが意味を為さなくなるため、レンジゲートから外れていた妨害機にも追尾転移する可能性が出てきますが、前述のとおりミサイルが相当接近しなくてはならず、貴重な時間を無駄にすることと、J/S比(ジャミング対信号比)が大きく悪化する(妨害が効かなくなる)ことになります。
さて話が長くなりました。以下のビデオをご覧ください。
BAE Systems Nulka - Advance Anti-ship missiles decoy defence system
https://www.youtube.com/watch?v=9j66ZvGGErQ
1:20と2:00付近で発射されたNulkaが発射母艦の進行方向の前方と後方に移動しているのが確認出来ると思います。つまり、相手ミサイル側から見て目標艦と同じ距離を保っている訳です。先ほどのお話を加味すると、Nulkaは相手ミサイルのレンジゲート内で移動していることになります。
画像引用元: Di U.S.Navy Naval Research Laboratory - http://www.nrl.navy.mil/pao/pressRelease.php?Y=2003&R=16-03r, Pubblico dominio, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=120106211
アクティブレーダーのレンジゲートとNulkaの位置
つまり、Nulkaでは最初から距離欺瞞を行う必要性が無いことを意味します。これはNulkaが自分自身の動力で自由に移動出来るので可能な芸当でしょう。電波妨害弾1型は Mk36 SRBOC チャフロケットシステムの固定式ランチ ャーから発射されてパラシュートで浮揚するので、このような真似は出来ません。なお、 ペンギン先生 によると電波妨害弾1型に関してもMk36 SRBOC ではなく、投射型静止式ジャマーランチャー 4連装発射機(FAJ)から発射しようという構想もあったそうです。
投射型静止式ジャマーランチャー 4連装発射機(FAJ)
画像引用元: Yasu osugi - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36555439 による
個人的に有効な投棄型電波妨害機はNulkaのような内部動力を持ち、自由に移動できるものが望ましいでしょう。先日、艦載ヘリに妨害装置を搭載するような話も聞きましたが、今後はUAVのようなものに搭載する可能性も高いでしょう。
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