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2023年12月31日

12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の仕様書をさらっと読んでみた

■12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の仕様書が公開された

■衛星及び航空機からのUTDC受信、また限定的ながら双方向データリンクが出来る様だ

■ミサイル間通信能力や自立脅威回避能力といった機能は持たず、取り敢えず早期の装備化を目指している印象


何も年末も押し迫った日にこんな大ネタをやらんでも良さそうですが(^^)

12/29に大火力先生(@Military_Hobbys)より 12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型の初回量産仕様書 が公開されました。自腹を切ってこのような貴重な資料を公開している大火力先生に感謝であります。

さて、管理人はこのミサイルのことは全く存じません。殆ど初見だということをご留意ください。まぁ、市井の自称料理研究家じゃなくて兵器オタクが世迷言を述べているという認識でお願いします。年末で時間も無いことですし、ここでは主に誘導装置関連を中心として見てみたいと思います。

さて、仕様書に載っている概要図を見てみると、このミサイルが"12式地対艦誘導弾"という名前が付いているのに関わらず、従来のASM-1眷属とは全く異なることが分かると思います。

ASM-1ファミリーの図
The_development_of_Japanese_anti-ship_missiles.png
画像引用元: Los688 - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=30811400 による

外観は何となくRTX社のAGM-129やMBDA社のSCALP-EG/ストーム・シャドウを彷彿とさせます。

RTX社のAGM-129 ACM
1257px-Agm-129_acm (1).jpg
画像引用元: パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=196347

MBDA社のSCALP-EG/ストーム・シャドウ巡航ミサイル
StormShadow-Hendon_1.jpg
画像引用元: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:StormShadow-Hendon_1.jpg#/media/ ファイル:StormShadow-Hendon_1.jpg

なのに、12式地対艦誘導弾という名称が付いているのは、73式小型トラックみたいなもんでしょう。つまり、全くの新規開発ではなく既存の誘導弾の改良型であるという体裁を取っている訳です。これにより本来開発モノとして必要な手続きや手順をすっ飛ばして装備化を早められるって訳ですね。

通常、開発品の場合は部内研究から始まり、研究試作から所内試験を経て開発決定し、試作を行って技術試験を行い、ユーザーである運用者側の試験である実用試験を経て装備審議会に掛けられて制式化するというプロセスが必要になります。もし、研究開発要素が無くいきなり試作から入れるのであれば、大幅に開発期間を短縮できます。このような開発例として代表的なのは中距離多目的誘導弾でしょう。このミサイルは01式軽対戦車誘導弾のシーカの開発成果を最大限に流用して開発を簡素化させています。

中距離多目的誘導弾
JGSDF_Middle_range_Multi-Purpose_missile_and_launcher.jpg
画像引用元: JGSDF - 中距離多目的誘導 誘導弾及び発射装置, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26307972 による

前置きが長くなりました。仕様書の17ページ、附属書A(規定)誘導弾を中心に読んでいきます。

ます、誘導部というところを見てみると、ホーミング装置が電波式であることが分かります。これは恐らく、12SSMからの流用じゃないかと思います。

次に慣性装置ですがGNSS(全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System))からの電波を受信し、また飛しょう体の加速度及び角速度を検出しとなってますから、GNSSをベースに光学式INS(恐らくFOG)を組み合わせたものなのでしょう。ASM-2BのようにGPS併用航法と言っていないのがミソ(つまりGNSSメイン)でしょうね。また、GPSではなくわざわざGNSS と呼んでいるのは、GPSだけではないということでしょう(無償貸付品に準天頂衛星システム関連資料が含まれています)。

誘導部で注目すべきは衛星艦船情報受信装置と目標情報装置でしょう。

衛星艦船情報受信装置は衛星経由で艦船から目標情報を受信するもののようです。所謂、UTDC(Up To Date Command)です。ここで注目すべきは地発型なのに発射プラットフォームではなく艦船からの情報を受信する点です。これは長射程(1,000km以上)のため前方へ進出している艦船から情報を入手するためでしょう、最近は本邦の潜水艦にも Xバンド衛星を使った衛星通信装置が装備されつつあるようですから、目標付近まで前進した潜水艦からのUTDC送信、もっと進んで潜水艦から目標初期値情報を受けて発射してUTDCで誘導指示を行うこともも有り得ると思います(それがメインかも)。

目標情報装置というのは初めて聞く名称ですが、仕様書によると航空機の対空無線によりUTDC受信する装置とのことです。また、誘導弾のステータス情報などを中継機、地上局へ送信する機能もあるようです。所謂、双方向データリンク(2 way datalink)が出来ることになります。シーカが画像誘導方式ではないので命中直前の目標の画像を送ると言った芸当は出来ないと思いますが、もしシーカーのレーダーで捉えた情報を送信できるのであれば、情報収集の一助となるかもしれません。

さて、自分的に注目していたのはこのミサイルに以下のような機能が存在するかどうかです。

・ミサイル間通信機能
・ミサイル自身のセンサー情報による自律的脅威回避能力
・デコイ等の自己防御(欺瞞)手段


仕様書をさらっと除く限りはそのようなものは見受けられないようです。まぁ、このミサイルについてはアジャイル開発に近い手段が取られるようですから、今後装備する可能性もあるかもしれません。

このミサイルについては今後もウォッチしていきたいと思います。

今年の更新はこれで終わりです。今年一年のご愛顧を感謝いたします。
来年も細々と続けていければと思います。


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2023年12月18日

ASM-2B改善弾の謎の新機能を無理くり推理する

■ASM-2B改善弾では「飛しょう」、「誘導」、「起爆」について機能が追加されている

■仕様書のベースとなった技術要求事項では当該箇所は全て黒塗りされている

■恐らく、GPSの新規追加とオートパイロットのデジタル化に即した機能が追加されているのであろう


ASM-2ネタが続きます(^^)

ASM-2B改善弾の仕様書のベースとなった「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」ですが、こちらでは表1の機能を追加するとなってますが、これが見事なまでに黒塗りであることは先日申し上げました。

こんな感じです。
FireShot Capture 1653 -  - misae-server.png

ただ機能として 「飛しょう」、「誘導」、「起爆」 の3つが挙げられています。

今回は足らない頭を絞りに絞ってその内容を無理くり推測してみたいと思います(笑

◆「飛しょう」

これは恐らく、は事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することが出来るようになったことを指していると想像します。特にGPS搭載により、より正確に3Dウェイポイントが指定できるようになったことが大きいでしょう。3Dウェイポイントとは位置情報が緯度経度だけではなく、高度でも設定できることです。これにより発射プラットフォームと目標との間に島嶼や山岳、又はSAMのような防空システムがあっても、山越えや廻りこみ、回避機動等によって、高度を上げなくてもそれを避けるように低空で飛しょうできるようになり、被探知性や複数発射時の異方向同時攻撃時のTOT(Time On Target)が容易となりました。

この辺りのことはSaab社の対艦ミサイルRBS15 Gungnir(北欧神話の主神オーディンが持つ槍)の以下のページが大変分かり易いと思います。

RBS15 Gungnir ALWAYS ON TARGET
https://www.saab.com/site-settings/html5/gungnir/index.html

◆「誘導」

ここは例え知っていたとしても書けない部分が多く、IRCCMに関することなのか、はたまた以前問題になったあの事なのか。。。一つ想像するに終末誘導時の回避機動、SSM-1で言うと揺動機能が盛り込まれたかもしれません。

88式地対艦誘導弾(SSM-1)試験映像

このビデオの中(0:29)に"揺動"と思われるシーンが出てきます。

◆「起爆」

元々、無印ASM-2においても、オートパイロット電子装置からの信号によって起爆する自爆機能を持ちます。オートパイロット電子装置のデジタル化で柔軟な運用が可能になったことによって、座標による爆破ポイントの設定により、目標への近接爆破が可能となり、目標の上空にて爆破することで、爆風効果及び破片効果によってより広範囲の目標物(特にソフトスキン目標)を破壊するとか、座標と高度で起爆することによって実質的に地上目標攻撃能力を得るといったことが考えられます。

以上、非才の身でつらつらと想像してみました。今後も情報収集に努めます。



2023年12月11日

ASM-2B改善弾では何が改善されたのか

■ASM-2B改善弾ではASM-2Bからソフトウェアが改修されている

■この改修によって,多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定出来るようになった

■ASM-2はこれでやっと他国の対艦ミサイルに比肩する能力を得たと言える


ASM-2B誘導部試験用CFTポッド
1272px-JASDF_ASM-2B_Captive_Flight_Test_Pod_20131124.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=29945751

ASM-2Bは平成20年度(2008年度)に「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」が空幕技術部内で起案され、これを基に装備部長に対して「93式空対艦誘導弾(B)に対する技術要求事項(空幕技第141号23.6.28)」が通知されることになります。

この技術要求事項は開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 技術資料の収集(開発集団開第2号23.1.13」と「ASM-2B改善弾の技術的追認 個別報告書 要改善事項等(開発集団開第2号23.1.13」がベースとなっていると思われます。ここで注目すべきは既に"ASM-2B改善弾"という用語が用いられている点です。

この技術要求事項の別紙第7項 機能及び性能に関する部分を抜粋してみます。

CP-Y-0067Lによるほか、次による。
VET09018 表1.2-1の妨害対処機能を追加するとともに、ASM-2B改善弾の技術的追認の成果((開発集団開第2号23.1.13別冊付録第5 「注意」)のうち、誘導部単体で改善が可能な事項を適用するものとする。


上記の内、VET09018は別文書の 「ASM-2の改修 システム報告書」であることから、改善弾では以下の改修が為されたと考えられます。

(1)「ASM-2の改修 システム報告書」に基づく 妨害対処機能の追加
(2)開発集団から出された「ASM-2B改善弾の技術的追認の成果」の内、 誘導部単体で改善が可能な機能

(1)については詳細が不明ですが、IRCCM(赤外線妨害排除)機能の何らかの新しい能力の追加があったと考えられます。ASM-2Bは元々、IRCCM能力がありますが、既存の機能の能力向上ではなく新たな能力の追加とは何を指しているのかは分かりません。

(2)の改善内容については、空幕技術部で起案された「ASM-2Bの技術改善に関する技術要求事項について(空幕技第300号20.9.18)」の中に書かれています。

ASM-2Bのソフトウェア改修等に対する技術要求事項

1.目的
航空自衛隊が調達する93式空対空誘導弾(B)(以下「ASM-2B」という。)の搭載ソフトウェア及び部隊用点検器材の改修によりASM-2Bの■■■を図る。(管理人注 ■■■は黒塗り)
.
3 設計条件
(1) 誘導部については、CP-Y-0067の2.1によるほか、 ASM-2部隊用点検器材により初期値(目標の位置情報等)を設定できる 設計とする。
(2) ASM-2部隊用点検器材については、CPS-W66009の2.1によるほか、 誘導部への初期値を設定できる設計 とする。

.

7. 機能及び性能
従来の機能に加え、表1の■■■(管理人注 ■■■は黒塗り)を追加する。そのためにシステム設計の変更となる部分の見直しを実施する。また、システム設計見直し結果及び細部設計報告書等に基づき、次の改修を実施する。
(1)誘導部の改修は別紙第1による。
(2)ASM-2部隊用点検器材の改修は別紙第1による。

そこで表1を確認するのですが、これが見事なまでに黒塗りです(T_T)
項目として、 飛しょう、誘導、起爆があることから、それらに関連する機能でしょう。

次に”別紙第1 誘導部の改修”を見てみます。

2 製品に関する要求を見てみると、(1)では改修対象は慣性装置とオートパイロット電子装置であることが確認できます。(2)は改修内容となってますが、この部分も黒塗りです。

別紙第2はASM-2部隊用点検器材の改修ですが、追加された項目は黒塗りとなっています。ただ、接続ケーブルが付随すること、また付図第1のASM-2部隊用点検器材 附属品を見るとラップトップPCのようなものが確認できます。恐らく、パナソニック社のタフブックのような耐環境性ラップトップPCでしょう。(管理人注 航空事業部はフライトラインでの点検器材としてDRS社(現レオナルド社)の耐環境性ラップトップPCを使っていたと記憶しています)

上記の件から、ASM-2B改善弾の改善とは以下なのではと推測します。

(1)IRCCM(赤外線妨害排除)の新機能追加
(2)誘導部のソフトウェアの改修により、部隊用点検器材から初期値(目標の位置情報等)を設定できる機能追加


(1)の内容は不明ですが、(2)についてはASM-2Bのベースとなった 「ASM-2の技術改善」(仕様書番号:4補LPS-X02556)の記述と合わせるとある程度の推測が可能です。

「ASM-2の技術改善」」(仕様書番号:4補LPS-X02556)
(6)将来発展性
オートパイロット電子装置は、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報等)を入力できるものとする。


つまり、部隊用点検器材により目標の位置情報を入力し、これにより多方向から目標を攻撃できるようになった。より具体的には複数のウェイポイントを設定し、各々のミサイルを多方向から目標へ向かわせることが出来るようになったと解釈するのが妥当と思われます。

陸のSSM-1では、指揮統制装置と射撃統制装置によって最大96発が管制され、射撃目標位置,発射弾数,飛しょう体初期値,命中時刻の指定、発射時刻の指定等が行われます。つまり、複数のミサイルの同時発射においてそれぞれのミサイルが統制されており、またミサイルが持つ目標選択アルゴリズムも相まって、複数同時発射のメリットを最大限生かすような方策が取られています。

これに対して、ASM-1やASM-2では個々の搭載母機にのみ管制されており、多数機による複数同時発射の際に目標の重複や、攻撃方向が偏ってしまって相手の防御が容易になってしまう可能性があります。ASM-2B改善弾では事前に目標の初期値を入力し、多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定することにより同時発射の際のメリットを生かせるようになったと考えられます。

SAAB RBS15 MK3 Surface to Surface Missile

1:56頃の映像で複数の3Dウェイポイントを経て異方向から着弾時間を4秒の時間差を以て目標へ向かっていることが確認出来る。このRBS-15のMk3モデルは、ASM-2B改善弾の装備化より10年ほど早い2004年から配備が始まっている。

なお、管理人がASM-2の仕様書で確認したかったのは、果たしてASM-2が複数同時発射の際にミサイル間で目標情報をやりとりする「ミサイル間通信機能」を持っているかどうかでしたが、こちらの方は確認できませんでしたが、この能力は恐らく持っていないんでしょう。


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2023年12月06日

ASM-2Bって地上攻撃出来るの?

■ASM-2の改良型であるASM-2Bは中間誘導用にGPSが搭載された

■そのためASM-2Bは地上攻撃が出来るとされているが果たしてそうか

■恐らく、地上施設の攻撃は難しいが艦船への泊地攻撃は出来るであろう



ご無沙汰しております(^^)

93式空対艦誘導弾のwikiのページには以下のような記述があります。

1280px-JASDF_ASM-2(Dummy)_at_Gifu_Air_Base_October_30,_2016.jpg
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52876836

93式空対艦誘導弾(きゅうさんしきくうたいかんゆうどうだん)は、日本が開発・配備した空対艦ミサイル(対艦誘導弾)別称はASM-2[1]、1993年から航空自衛隊に配備されている。改良版(ASM-2/B)は誘導方式にGPSを用いているため、座標を入力すれば対地攻撃も行うことができる。

引用元: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』93式空対艦誘導弾


何かミサイルにGPSが付くと、漏れなく地上攻撃能力が付いてくると言わんばかりですが、果たして本当にそうなんでしょうか?

◆仕様書にはそんなこと一切書かれていない◆

まず、手元にあるASM-2の最新の仕様書はH23.7.19改訂のCP-Y-0067Mですが、その中には地上攻撃に関することなどは一言も書かれてはいないことです。最初の文言である1.1.1 適用範囲には以下のように記述されています。

1.1 適用範囲
この仕様書は、戦闘機(以下、"搭載母機"という。)に搭載し、侵攻艦船に対する攻撃に使用する93式空対艦誘導弾(B)(以下、"ASM-2B"という)について規定する。


勿論、仕様書に書かれていないからと言ってそういう使い方はしないということはありません。開発している内にこういう使い方も出来るだろうと思って試験することもあります。例えば、某観測ヘリから某空対空ミサイルを地上目標に向かって撃ってみようとかです。

ただ、寡聞にしてASM-2Bを地上目標に向かって実射試験したとかいう類の話は聞いてません。また、地上目標相手だと、SSM-1のように地形回避や回り込み等の能力の確認が必要ですが、日本国内にそのような射場は無いため、米国カリフォルニア州ポイントマグー射場のような場所での試験が必要でしょう。そのような話も聞いたことありません(米国での試験なら少なくても公告位出るでしょう)。

◆GPSの搭載の目的はあくまでも誘導精度の向上◆

GPSに関してですが、これがどのように用いられるかは、ASM-2(B)の開発の元となったH12年度契約の「ASM-2の技術改善」の仕様書の中に以下の文言が出てきます。

ア 慣性装置
(ア) GPSからの信号により自己の位置情報をアップデートできるものとする。


また、航空幕僚監部技術部長より装備部長に対して発せられた空幕技1第12号(平成15.1.31)「93式空対艦誘導弾(B)の技術要求事項について(通知)」では以下の文言が出てきます。

(b) 慣性装置
慣性装置は、加速度検出、角速度検出、姿勢角計算、速度計算、位置計算、高度計算の各機能を有するものとする。また、GPS併用航法機能を有するものとする。


つまり、ASM-2(B)で新たに搭載されたGPSは中間誘導をこれ一つで担うものではなく、従来の慣性航法装置(ASM-2(B)では機械式から光学式へ変更されている)を補完するものであるということです。例えれば、時計の時刻の狂いを自動的に補正する類のモノでしょう。

なお、余談ですが慣性航法装置は機械式でも光学式でも航法精度にそれほど差が無く、下手をするとコンベンショナルな機械式の方が精度が高い場合もあるそうです。光学式は機械的可動部分が無いため、メンテナンスが不要で取得価格が安いというメリット(FOGの場合)があります。

慣性航法装置は時間が経つとともに誤差が徐々に蓄積していきますから、途中でGPSにより誤差修正が為されるならば航法精度の大幅な向上が見込めることでしょう。特に最終の目標捜索段階において目標を失探する可能性を低減し、相手に探知される可能性を高める再捜索の回避に役立つでしょう。

2011年のMAKS航空見本市で展示された、ウクライナの "Arsenal "社のジャイロスコープ
960px-Ring_laser_gyroscope_at_MAKS-2011_airshow (1).jpg
画像引用元: Nockson, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

以下はスウェーデンSAAB社のFiber Optic Gyro(FOG)のページ
https://www.saab.com/products/fiber-optic-gyro-products

(補足)
FOGはRLG(Ring Laser Gyro)より精度は劣るが、コンパクトで価格が安く消費電力が小さい。そのため、ミサイルやUAVに多く用いられる。RLGは主に航空機に搭載される。


<追記>
もしかすると、ASM-2BへのGPS追加は従来の機械式慣性装置からFOGへの変更に伴う航法精度の低下を補うという目的もあるのかもしれません。


◆シーカーは地上目標を捉えられるのか◆

ASM-2のシーカーはIIRであり、アクティブ・レーダー式では持ちえない個艦識別能力、命中点選択能力を持ちます。ただ、基本的に赤外線シグネチャーが大きな艦船を狙うもので、大きな建物とかを狙うのならともかく、小さな目標を狙えるような高い赤外線画像解像度は持っていないと思われます(逆に温度が高いホットスポットはIRCCMの対象になる)。また、地上となると海上と違って雑多な赤外線ノイズがある訳で、それらを排除し目標を正確に識別する能力が求められます。以前、構想されていたASM-D/L(データリンク)も命中精度を上げるための試みでしたが、もし地上攻撃するのならそのような機能が必要になるでしょう。

◆弾頭と信管◆

基本的に対艦ミサイルの弾頭は半徹甲弾になります。それは船殻を貫いて艦の船体内部や艦上構造物の内部へ食い込ませるためです。そのため、信管は必然的に遅延信管になります。地上目標だったら、弾頭は破片効果を狙って榴弾で、信管は着発又は空中炸裂を狙った近接信管が向いていると思われますが、そのような機能はASM-2Bには見受けられません。
<追記>
元々、無印ASM-2でもオートパイロット電子装置から自爆指令を出せますから、GPSの3D座標をトリガーにして起爆指令を出すことによって、疑似的に着発又は近接信管と同様なことは可能ではあるでしょう。


◆では地上攻撃できないのか◆

これまで、ASM-2Bの地上攻撃能力の可否を論じてきましたが、ASM-2Bになって新たに得た又は向上した能力があると考えます。

それは  泊地攻撃能力  です。

例えば以下のような写真の場合です。

HMS アンドロメダとキャンベラ
1007px-SS_Canberra_&_HMS_Andromeda_Falklands_1982.jpg
画像引用元: Ken Griffiths - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3531099 による

フォークランド紛争時の写真ですが、艦船が狭い島嶼海域に停泊しています。これはミサイル側から見ると非常に難しい目標になります。何故なら、海側から見るとフネは島陰に隠れ、またシーカーに捉えられたとしてもフネの背景には島嶼の地形が入り込むため、艦船との識別が必要になります。さらにこれが港湾ともなると赤外線ノイズ源となる多くの地上施設も存在します。

このような目標を狙うには島嶼の地形を避けて正確に飛翔して背景に地形が入らない方向から狙う必要があります。そのためには非常に高い航法精度と多くのウェイポイントなどの経路をプリプログラムできる機能が必要になるでしょう。ASM-2B改善型はソフトウェアの改善により、新たに導入した地上支援器材によって多方向から目標を攻撃できる飛翔パターンを設定するための初期値(目標の位置情報)を設定できるようになったようです。

つらつら述べてきましたが、ASM-2B改善弾についてはまだまだ不明な点があり(仕様書の黒塗り部分が多いため)、もっと多様な機能があると想像できますが、それらについては今後の課題としておきましょう。


タグ: ASM-2(B)

2023年11月07日

対電波放射源ミサイル(XASM−3)

■ASM-3は対レーダーミサイルとしても期待されている

■技術研究本部(当時)の研究開発項目として、対電波放射源ミサイル(XASM−3)というものが存在した

■元々、ASM-3は対レーダーミサイルとして始まったのかもしれない


新空対艦誘導弾XASM-3(E型)
1280px-JASDF_XASM-3-E_left_front_view_at_Gifu_Air_Base_November_19,_2017_01.jpg
画像引用元: Hunini - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64205374 による

以前、補給本部の部内誌だった「つばさ」に掲載されていたXASM-3の構想図はもっとカクカクしていて、まるでウルトラホーク1号α号の趣がありましたが、大分丸くなったものです(w

実のところ、管理人はASM-3には全く関わっておりません。ただ、XAAM-4やXASM-2でお世話になった技術幹部の方が、開発室長となり孤軍奮闘されていたことから、その推移を見守っておりました。もれ聞くところに依ると、ソ連崩壊後は大規模な艦船による侵攻は予想しえないということから、このプロジェクトについては何時ポシャってもおかしくない状況だったそうで、関係者のご努力の賜物だったと言えるでしょう。

F-2からのXASM-3の発射シーン


退役した護衛艦しらねを標的とした試験の様子も間接的ながらお聞ききして、この手の試験では何時もお世話になる 某社さん はさぞご活躍されているんでしょうなとほくそ笑んだりしたものです。

標的艦となったしらねの回航の様子


いやぁ、アスロックやMK42、シースパロー発射装置も付いたままなんですね。何か凄く勿体ないような気がします(w

ところで、この標的艦には従来の標的には無かったある装置が備わっておりました。それは艦船のレーダーを模擬する装置です。ただ、従来の標的のようにMDI(射撃評価装置)も備わっていたため、多くは語りませんが色々と大変だったそうです。。。。

何でこんな苦労してまでこの装置を付けたかというと、XASM-3にはアクティブとパッシブの二種類のレーダーシーカーが備わっており、相手艦船のレーダー波を受信しての艦艇識別と電波妨害時のECCMを行うためです。ASM-3がパッシブ電波シーカによる目標識別等の機能で艦種の識別を行うことは、部内誌上でGM開発官が明言しています。

さて、管理人は某所で以下のような話を聞いたことがあります。

「航空事業部がHARM(AGM-88)の導入を見送ったのは、開発中のXASM-3に対レーダーを担わせるため。」

確かに高速性能とパッシブレーダーを持つXASM-3はその任にふさわしいと言えるでしょう。そして、公開されている公文書の中に以下の文言が出てきます。

対電波放射源ミサイル(XASM−3)

これは会計検査院の 平成16年度決算検査報告 の中で出てくる文言です。

報告書の内容としては、技術研究開発として研究されていたものの、その後開発に移行していないとして槍玉に上がっています。管理人は知らなかったのですが、技術研究本部(当時)の技術研究項目として「対電波放射源ミサイル(XASM−3)」というものが存在したということでしょう。航空事業部の対レーダーミッションというと、真っ先に挙げられるのは海洋SEADですが、もしかするとXASM-3は元々海洋SEADで使われることをメインに構想されたものなのかもしれません。

そして対レーダーミサイルの代表格はAGM-88HARMですが、このミサイルの弾頭であるWDU-37/B 爆風破砕弾頭は137.75 pounds(約66kg)に過ぎません。このミサイルはレーザー近接/着発信管により起爆し、爆風破片効果により目標を破壊しますが、この程度の弾頭ですとレーダーアンテナを破壊して機能停止に追い込む程度で、レーダー本体を破壊するには威力が小さ過ぎるのではないかとの懸念があります。そのため、完全に相手レーダーを破壊するためには、より大威力のミサイルが求められており、ASM-3の使用はそれに合致したものと言えるでしょう。






タグ: XASM-3

2023年10月25日

AAM-5ベースのSAMは何故出てこないのか

■近年のミサイルはASM-1やAAM-4を始めとして、派生型が開発されファミリー化している

■AAM-5と同世代の赤外線誘導AAMは何れもSAMの派生型が開発されている

■AAM-5がSAM化されないのは何故か


以前、会社にいらっしゃった航空事業部のOBの方から以下のような相談を受けたことがあります。

「〇〇くん、AAM-5を拡販するとしたら何処が良い?」(OB氏)

「陸さんのOHやAH用に売り込んだら如何でしょう。いざとなれば陸上目標へも使えますよ」(オラ)

M41戦車へ発射されたAIM-9L
893px-AIM-9L_hits_tank_at_China_Lake_1971.jpg

画像引用元: By U.S. Navy - U.S. Navy National Museum of Naval Aviation photo No. 1996.488.022.024, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11855314

「おーいいね。」(OB氏)

「でも、AAM-5って1発6千万ですよね。陸さんから見たら1発で装甲車1両分飛んでいくことになりますよ。」(オラ)

「だよねー(笑)。」(OB氏)

その後、AAM-5は改良型であるAAM-5(B)が開発されますが(開発主任は良く存じ上げている方です)、SAMなどの派生型は開発されずに今日に至っています。

AAM-5の同世代の海外の赤外線誘導AAMは何れもSAMの派生型が開発されています。

一番有名なのは図らずもAAM-5のそっくりさん(笑)であるドイツのIRIS-Tでしょう。ウクライナにも供与されています。

IRIS-T SL(surface-launched)
1194px-Eldenhet_98_IRIS-T_SLS.png

画像引用元: Matti Blume - File:ILA_2018,_(1X7A6890).jpg, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=111003281 による

AIM-132(ASRAAM)はレーダーシーカーへ変更され、CAMM (Common Anti-Air Modular Missile) として艦載型や陸上型が開発されています。

A Sky Sabre air defence missile system of the Royal Artillery.
1008px-Royal_Artillery_Sky_Sabre_system.jpg

画像引用元: By Ministry of Defence - https://www.defenceimagery.mod.uk/, archived source, OGL v1.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=116190856

勿論、我らがAIM-9も様々な派生型が開発されています。一番有名なのはRIM-116 RAMでしょう。これはAIM-9の弾体とFIM-92のシーカー及びパッシブシーカーを組み合わせ、回転させることによりジャイロの省略し、二本の長さが違うロッドアンテナへコニキャルスキャンをさせるというアイデア一杯のシロモノでした。そのため、開発に手間取り何度も開発中止の危機に陥ったり、本邦のあぶくま型DE艦への装備化が見送られるなどの紆余曲折がありました。

USS Green Bay (LPD-20)から発射されるRAM
1087px-thumbnail.jpg

画像引用元: U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Larry S. Carlson - この画像データはアメリカ合衆国海軍が ID 090929-N-2515C-482 で公開しているものです。パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8370861 による

少し世代が違いますが、おフランスのMICAもMICA VLSとして陸上発射型が開発されています。

Lanceur terrestre du missile "VL Mica" Exposition MBDA au salon du Bourget 2015
896px-MBDA_MICA_VL_Lanceur_terrestre_Paris_Air_Show_2015.jpg

画像引用元: Tiraden - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=41070763 による

そして最後はAAM-5のライバルであったイスラエルのPython(XAAM-5開発時に航空事業部へラファエル社から強力な売り込みがあった)です。

SPYDER air defense missile system
908px-SPYDER.jpg

画像引用元: By Ereshkigal1 - Own work, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4793482

以上のように、赤外線誘導AAMは例外無くSAMなどの派生型が開発されています。では、何故AAM-5はSAMなどの派生型が出てこないのでしょうか?

明確な答えは知る由もないのですが、恐らくは、、、、、

短SAMとバッティングするからではないでしょうか。

つまりは業界への仕事の割り振りの問題です。

11式短距離地対空誘導弾
1280px-Type_11_(SAM)_firing,_Japan_GSDF.jpg

画像引用元: 防衛省 - 出典:防衛省ホームページ https://www.flickr.com/photos/90465288@N07/39227773454/in/album-72157632230016328/, CC 表示 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=88146565 による

余り知られてはいませんが、11式短SAMは極めて優秀なシーカーを持ち、個人的にはこのミサイルの存在が地べた事業部がAHを手放す切っ掛けの一つになったと勝手に考えています

そんな状況ですが、近SAMと基地防SAMを統合化することにより 「基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾」 の開発が現在行われており、もしかすると従来の体系に何らかの変化があるかもしれません。今後の展開に期待しましょう。


タグ: SAM AAM-5

2023年09月15日

航空事業部は何故AAM-4を選んだのか

■各国が続々とAIM-120を採用する中、日本は独自開発したAAM-4の装備を選択した

■AAM-4の選択は航空事業部のアクティブホーミング誘導ミサイル化を10年遅らせたとの批判もある

■当時、巡航ミサイルの脅威に晒されていた航空事業部はAIM-120には満足できなかったのであろう




ネット上で文谷先生がAAM-4Bの調達について辛辣に批判しておりました。

防衛省の合理的な説明がつかない、「国産兵器」と「米国製」のダブル購入
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/329118

小松基地で展示されたAAM-4
重量や大きさは従来のAIM-7と同等(投下特性をAIM-7と合わせている)
AAM-4.jpg
画像引用元: 日本語版ウィキペディアのShiftさん - 原版の投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=107674464 による

AAM-4の開発時は、管理人は開発元(GM2室)に近いところにいた訳ですが、AAM-4導入にに当たって、航空事業部から「AAM-4買うんでAIM-120要りません。」と内局へ一筆入れています。つまり、完全に退路を断ってAAM-4導入を邁進した訳です(実際には後に飛行教導隊の運用研究で120発程度のAIM-120を購入している)。

F-16の翼端に搭載されるAIM-120
AAM-4に比べて小型で軽量(約2/3)なAIM-120は写真のようにSRMランチャに搭載可能で汎用性が高い。
900px-AIM-120_AMRAAM.jpg
画像引用元: Staff Sergeant Vince Parker (USAF) - http://www.defenselink.mil/photos/Dec1998/981228-F-6082P-996.jpg, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2130562 による

といことで、航空事業部の非常に強い意志が無ければAAM-4じゃなくてAIM-120装備化の芽もあったことになります。それ程までに航空事業部はAAM-4を推していました。

航空事業部がAAM-4推しだった理由は一体何だったのでしょうか。

参考までに当時(90年代中頃)、開発メーカーが配布していたXAAM-4のパンフレットにはXAAM-4の特徴として以下のように書かれています。

(1)長い射程---攻撃範囲を広げ、先制攻撃を可能とする。

(2)撃ち放し性---母機生存性を高める。

(3)長いスタンドオフレンジ---母機生存性を高める。

(4)多目標同時対処能力---保有航空機の効率的運用を可能とする。

(5)高いECCM性---強度の電子戦環境下でも対処する。

(6)高い被発見性---進行に対する防御が探知されなければより効率的な運用が可能となる。

(7)大きい撃破能力---航空機だけでなくASM等小型目標も撃破する。

(8)超低空目標対処能力---低高度目標についても対処可能である。


引用元:XAAM-4 新中距離空対空誘導弾 開発メーカー配布パンフレット


このパンフに依るとAAM-4は以下だと言ってるわけです。管理人が特に重要と考えるものを赤字にしています。

長射程
・撃ちっ放し性
・多目標同時攻撃
・ECCM能力
・LPI(Low Probability of Intercept、低傍受可能性)

・高い撃破能力(SSKP)
・超低空目標対処


以上の点を鑑みると、航空事業部がこのミサイルに何を期待しているか薄らと見えてくると思います。
そして管理人的に考えて、このミサイルが主に想定した目標は以下じゃないかと思います。

・超低高度を飛翔する低RCSの巡航ミサイル

・高高度を高速で飛翔するASM

・強力なジャマーを伴った敵攻撃機

どうでしょうか。AIM-120は非常に優れたミサイルですが以下の点についてAAM-4は優位性があると考えます。

・高い誘導精度と大きな弾頭重量(AIM-120のほぼ倍)による高い撃破率

・高度な被探知性(AIM-120では発射母機からの指令誘導波を捉えられて早めの回避行動を取られた)

・高いECCM性(AAM-4では特殊な送信方法を用いることにより効率的に妨害成分を排除)

以上から、AAM-4は航空事業部が求めていた能力を具現化したものだったと言えます。

F-35の導入により航空事業部の空軍化が推進され、空対空ミサイルに求められる能力も変わってくると思われます。その場合は各国が保有し、アップデートも早く、より汎用性が高いAIM-120の方が重視されてくるかもしれません。ただ、AAM-4は中SAM改や新艦対空誘導弾、次期中距離空対空誘導弾にしっかりと遺伝子は残しました。そこは強調しておきたいと思います。

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タグ: AIM-120 AAM-4

2023年07月17日

9K330 Tor


■9K330 Torがドローンに対してミサイルを発射した珍しい映像が公開された

■9K330 Torのミサイル自体の誘導精度は高そうだ

■近接信管が作動しなかったのは信管が活性化されてなかったか、近接信管が小さくて低速なドローンを捉えられなかったことが考えられる

■旧東側の兵器を決して侮ってはならない



大変珍しい映像が公開されました。9K330 Torがドローンに対してミサイルを発射した映像をドローン側から捉えています。

Russian 9K330 Tor Missile Fail To Intercept Ukrainian Drone


まずミサイルの9M330ですが、みんな大好きwiki(日本語版)によると誘導方式は赤外線誘導+TV誘導式無線指令誘導となっています。ただ、ミサイルの写真を見ると頭部に赤外線シーカーが装備されているようには見えません。

9M330
1109px-9M330_surface-to-air_missile_of_Tor_system.jpg
画像引用元: By Vitaly V. Kuzmin - http://www.vitalykuzmin.net/?q=node/598, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=39789341

一見して前翼操舵の制御系ユニット部の後ろが弾頭部、黄色の線が電波式近接信管の窓でしょう。その後ろがロケットモーター部、最後部が別体っぽく見えるのはTVCが装備されてるのか、ただ弾体にケーブルトンネルが見えないところを見るとTVC無しかもしれません。

海外のサイトを拝見すると、9M330の誘導方式はRadio command guidanceとなってますが、外見から見るとこちらの方が正しいように思われます。果たして何処から赤外線誘導という話が出てきたかと思ったら、管理人もよく拝見する 戦車研究室 の9 K330 の記述も赤外線誘導となってました。ここから文章を引かれたかもしれません。

ミサイルの誘導方式として無線指令誘導方式は古めかしく感じるかもしれませんが、ミサイル自体にシーカーが存在しないので、ミサイル自体を安価に出来ること。ミサイルへチャフやフレアなどの妨害が無効なこと、パッシブなので目標はミサイルが向かってくる方向が分からないことなど、メリットがそれなりにあります。デメリットとしては多目標同時の対応が難しいこと、送信コマンドが妨害される可能性があること、遠距離の場合は誘導精度が劣ることでしょうか。

さて、ミサイル発射の映像ですが、VLSからコールドラウンチで発射された後に一旦らせん状に機動して目標の方へミサイルを向けているように見えます。これは発射母機側からコマンドを受けて方向転換をしているのか、またサイドスラスタ無し空力制御で素早く方向を変えるためなのか(通常だと相当高く上げないといけない)なんでしょうか。

ミサイルが横方法に機動せずにほぼ一直線に飛んできているところを見ると、この目標(ドローン)はかなり速度が遅い目標じゃないかと思われます。恐らく固定翼のドローンじゃなくて、クワッドローターのような目標だったんじゃないかと考えられます。

この映像を見た際に、疑問を感じるのは何故近接信管が作動しなかったかということだと思います。ミサイル自体のミスディスタンスは結構接近していましたので、最適位置で起爆していれば、このドローンは間違いなく破壊されていたでしょう。

そこで近接信管が作動しなかった理由を幾つか考えてみました。なお、理由として故障は除くこととします。

?@近接信管がまだアーミングされていなかった
?A目標(ドローン)が低速且つ小さな目標だったため、起爆する目標の対象とならなかった。
?B近接信管から起爆信号は出たが、着発信管がまだアーミングされていなかった

?@は目標の距離が近かったため、ミサイルの近接信管がまだ活性化(起爆できる状態)されていなかったという説です。地上から発射する砲弾やミサイルの場合、発射直後から近接信管が作動すると自軍内で誤爆してしまう可能性があるため、一定時間後に活性化するようになっています。そのため、距離が近すぎたのでまだ近接信管が活性化してなかったため起爆しなかった可能性です。

?Aは目標が遅すぎ小さ過ぎていたため、近接信管が目標として感知せず、起爆信号を出すに至らず起爆しなかった可能性です。

?Bは近接信管から起爆信号は発せられたが、信号を受信した着発信管がまだ活性化されてなかった可能性です。これは旧東側のミサイルに当てはまるかどうかは分かりませんが、国内で開発されている対空ミサイルは実際に弾頭を起爆させるのは着発信管と近接信管のどちらかになっています。

近接信管からの起爆信号により着発信管で起爆し、且つ着発信管は衝撃で起爆するもの
(1) 着発信管

(a) 近接信管からの起爆信号により,弾頭又は発煙弾頭を起爆させる。

(b) 実弾及び演習弾が目標に直撃した場合,又は所定の秒時飛しょうした場合,弾頭及び発煙弾頭を起爆させる。

引用元: 81式短距離地対空誘導弾


近接信管の起爆信号により着発信管で起爆、着発信管の起爆信号も近接信管を介すもの
6.4 着発信管  着発信管は,弾着時の衝撃加速度を検知して,近接信管に着発信号を出力する。

 また,近接信管から作動信号を受け,弾頭に起爆エネルギーを出力する。主な性能は,表10に示すものが標準である。

引用元: 制式要綱 90式空対空誘導弾


以上が考えられるのですが、ここは?Aの説を取っておきたいと思います。目標が非常に小さく低速な目標で、且つミサイルが充分に速度が出ていない状態だったため、起爆に必要なシグネチャーが得られてなかったんじゃないかと思います。

とはいえ、短距離ではありますがこのミスディスタンスには驚きました。 いつも思うことですが、我々は旧東側の兵器を常に上から目線で見がちです。しかし、そこには我々が普段目にする、米国、欧州のものとは違う技術、創意工夫、思想があります。決して侮ってはいけないと考えます。






2023年06月13日

F-15在来機はAMRAAMを撃てるのか?

・F-15在来機へMIL-STD-1553Bを後付け追加することは可能

・在来機のAMRAAM管制用RADAR/OFPは既にリリースされている可能性がある


・LOBLのみで運用しても、そのメリットは大きい

とある資格の試験勉強のためにすっかり更新が疎かになりました。。。相変わらずの管理人です(w

能力向上の対象にならなかった本邦のF-15在来機の約100機ですが、もし何処かの国で第二の人生を送るのならそれなりの能力向上が必要です。最も手っ取り早いのはAIM-120(AMRAAM)やAIM-9Xが使えることでしょう。

胴体下にAIM-120を装備したUSAFのF-15C
F-15C_AIM-9_AIM-120_m02006120700063.jpg
画像引用元: http://www.deagel.com/library2/  US Air Force Original work of the US Federal Government - public domain

さて、AIM-120の能力を生かすためには、初期・中期誘導の為に慣性データをデータバス(MIL-STD-1553B)経由でミサイルへ送信する必要があります。ミサイルはそれを頼りに目標へ向かい、途中で母機からUTDC(Up To Date Command)を受けて飛行コースを修正し、終末はミサイル自身のアクティブレレーダーシーカーにて目標を捉えます。

自分がAIM-120に間接的に触れたのは LAU-128ランチャー のマニュアルを見た時でしたが、そのマニュアル上でもAIM-120では発射前に機体から慣性データがミサイルに送信されて発射されるとの記述があります。

ご承知の通り在来機にはMIL-STD-1553Bデジタルデータバスが装備されておらず、これが在来機が能力向上の対象にならなかった一因にもなっています。ただ、在来機に何もデータバスが備わっていない訳ではなく、H009と言われるデータバスが実装されています。

これは電気電子学会(IEEE)のフェローであった Erwin Carl 'Erv' Gangl 氏によると、以下のようです。

When the initial F-15 design was found to exceed the required gross takeoff weight, hardware and functionality were trimmed as much as possible. But there was still a need to reduce the weight a couple hundred pounds more. So the lead engineer grabbed me and asked whether my idea of time-sharing wires would reduce the weight in cabling. I said, "definitely!" There would be weight savings due to fewer wires, fewer connectors, etc.

【訳文】
F-15 の初期設計が必要な総離陸重量を超えていることが判明した際に、ハードウェアと機能は可能な限りトリミングされました。しかし、さらに数百ポンド軽量化する必要がありました。そこで主任エンジニアは私を捕まえて、ワイヤをタイムシェアリングするという私のアイデアがケーブル配線の重量を軽減するかどうか尋ねました。私は「間違いなく!」と言いました。ワイヤやコネクタの数が減るため、重量が軽減されます。

引用元: AVIATION TODAY
https://www.aviationtoday.com/2002/09/01/interview-erv-gangl/


元々は機体重量を軽減するためだったようですね。そしてデータバスの選定を行い、マクドネル・ダグラス社に選定されたのがH009だったようです。これはその後の1553の前身となり、多重化デジタルアビオニクスバスの最初の適用となりました。

ただ、H009はノイズ対策等でハーネスには非常に厳密な制御と厚いシールドが必要という実装上の問題があり、またデータバスの共通化を意図して、より改良された新規格である1553へと進化していきます。そして1553を最初に実装したのはF-16になります。

こうして改良された1553はF-15にもバックフィットされて、これがMSIP機となります。ただ、注意すべきはMSIP機となってもH009バスの部分は残っているということです。これはAAM-4搭載試改修を実施されたMSIP機がH009バス・モニタ・ユニットが搭載されていたことからも分かると思います。

では、在来機にも同様に1553バスを追加すれば良いのではないかと思うのですが、これには実例があり、旧blogでも取り上げています。

旧blogでの投稿記事(F-15のH009バスであります。)

PASCOT(Programable Asychronous Serial Communication Translator)と言われるインターフェイスユニットを通してH009と1553が連接されています。


Highly Integrated Digital Electronic Control -- HIDEC
hidec.jpg
画像引用元: NASA Highly Integrated Digital Electronic Control -- HIDEC
https://www.nasa.gov/centers/dryden/pdf/88077main_H-1318.pdf の11ページより抜粋

1553が後付け追加出来るのであれば、あとはRADAR/OFPとランチャーさえ備えればAIM-120を撃てるようになるでしょう。RADAR/OFPについては平成10年度契約のAMRAAM運用研究事業で在来機用OFPもボーイングからリリースされているとの噂レベルの話があります。ランチャーについてはLAU-106AをLAU-106A/Aへ改修するのは容易と思われますが、AIM-120を運用できるLAU-128ランチャーとADU-552ランチャーアダプターを搭載するのは難しいかもしれません。

もう一つ考えられるのは、1553データバスを新たに搭載せずにミサイルをLOBLのみ運用してしまうことです。

実際、在来機の手っ取り早い能力向上としてAAM-5の搭載が行われておりますが、1553バスを搭載しないことからAAM-5の最大の利点であるLOAL(Lock On After Launch 発射後ロックオン)能力とHMDによるキューイング機能は使えません。ただ、LOBL(Lock On Before Launch)のみの運用となりますが、AAM-3との比較で約3倍と言われる最大ロックオンレンジと高いIRCCM能力を活用出来ることから、従来のAIM-9LやAAM-3と比べて大幅な能力向上が期待できます。

勿論、LOBLは最大射程はシーカーのロックオンレンジ以内となるので射程も大幅に低下しますが、中間誘導も要らないのでミサイル撃ってそのまま退避も可能です。

在来機といえどF-15は本当に出来た子なので、末永く活躍していただきたいと思います(w



2023年05月14日

大型機へAAMを積む

・開発中の新型戦略爆撃機であるB-21には空対空ミサイル(AAM)を搭載する構想がある

・過去にも大型機にAAMを搭載した機体が実戦投入されている

・今後、AAMは大型機の自機防御システムの一部となるだろう


いま、スマホでAir Combat系のゲームをしているのですが、これがなかなか面白い。今まで自分の愛機はF-22でしたけど、面白そうなので今はB-2に代えました。ゲームの中とはいえB-2でドッグファイトやCASをするのは中々楽しいです(^^)

さて、USAFが開発中の戦略爆撃機B-21Raidarは空対空防衛能力を備える可能性が高いとの記事がありました。

Artist_Rendering_B21_Bomber_Air_Force_Official.jpg
画像引用元: By U.S. Air Force Graphic - This image was released by the United States Air Force with the ID 160226-F-YZ123-001 Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47192262

U.S. Air Force’s new B-21 bomber will likely have air-to-air defense capabilities
https://defence-blog.com/u-s-air-forces-new-b-21-bomber-will-likely-have-air-to-air-defense-capabilities/

味方のエアカバーが及ばない場所まで出張っていく爆撃機や哨戒機、偵察機等は自機防御のため高度な電子戦システムやデコイ、あるいはチャフやフレアなどの防御手段を備えるのが普通ですが、一歩進んで相手を積極的に攻撃する手段を保有すれば大変心強いでしょう。

大型機同士の空対空戦闘は第二次大戦中でも数多く発生したようであり、実際にお互い哨戒に出た敵味方の大型機が戦場で遭遇し、タマを撃ち尽くすとこまでやりあうような事例があったそうです。

良く知られている話ですが、次期哨戒機(MPA 現在のP-1)のM社初期案はM61A1とAAM-4を搭載するという4発戦闘機のような過激なものでした。後に普通に短魚雷、機雷、対潜爆弾、ASM等を搭載する常識的な案となりますが、内装ランチャーシステムを装備して搭載武器を全て腹の中に収め、またASMの搭載量が最大10発など、現在のP-1とはかなり違いが見られます。

さて、大戦中は別にして今時の大型機にAAMを搭載した事例はあるのかというと、哨戒機であるP-3CやBAE NimrodにAIM-9を搭載した事例があります。

Naval Air Test Center (NATC) のP-3CがAIM-9を発射する様子(1989)
P-3_Orion_NATC_launching_Sidewinder_1989.jpg
画像引用元: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:P-3_Orion_NATC_launching_Sidewinder_1989.jpg


BAE Nimrod MR2がフォークランド戦争中にAIM-9Lを装備してアセンション島から哨戒行動を行った記述
The Nimrod MR2’s self-defence capability was also enhanced by modifying their under-wing hard points to
take AIM-9L Sidewinder air-to-air missiles.17 They flew numerous patrols over the South Atlantic from Ascension Island in support of British operations during the Falklands War.

引用元: The Nimrod Review
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/229037/1025.pdf

AIM-9Lを装備したBAE Nimrod MR2
wyje714o85691.jpg
画像引用元: BAE Systems https://www.baesystems.com/en/heritage/hawker-siddeley-nimrod

これらの事例は簡易な改修だと思われます。ではAIM-9Lを装備するには最低限どのような改修が機体に必要になるのでしょう。

電気的なインターフェイス
・ミサイルへのアクティベイト(Master Armオン)
・ミサイルからのロックオン信号の受信(ミサイルがロックオンした旨を射手へ知らせる)
・ミサイルへの発射信号

機械的インターフェイス
・レール式ランチャーのロック解除(Master Armに連動)

以上の構成はミサイルを目標の方角へ向けてミサイル自身のセルフトラックにてロックオンさせて撃つことが出来るだけの構成です。

将来的には自機のレーダー情報や味方のネットワーク情報により、AIM-120Dのような双方向データリンクを持ったミサイルで、後方や側方といった自機の全方位へ遠距離から脅威目標へミサイルを撃てるようになるでしょう。またこれらのミサイルの発射は、自機防御システム等により自動的に行われることになるでしょう。




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