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ハナブサチロロ
世田谷区出身。

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2019年11月13日

映画『コンプリシティ/優しい共犯』(2018/日・中/近浦啓監督)@松竹試写室

法事で帰ってきた弟と台所で口喧嘩する姉。それを居間で聴いている弟の妻。外では不器用な親父とどんくさい中国の青年が一服している…。このシーンだけでこの家の今が見えてくる。その家は蕎麦屋でこの物語の装置であり主役でもある。
恋の香りも散りばめて社会派サスペンスのハラハラドキドキもあるが風景で優しく人物を包むような撮影がこの物語をもっと素朴な物にしている。中国青年の口煩い母と祖母の回想シーンが彼がついている嘘をより悲しく重い物にさせる。
終盤、蕎麦屋の親父が中国の青年を出前に行かせる。まるで時代劇のように決まるシーンだった。映画俳優・藤竜也のカッコよさに痺れっぱなしであった。


2019年11月02日

映画『ジョーカー』(米/2019/トッド・フィリップス監督)@TOHOシネマズ新宿

タイトル表記から鳥肌だった。奇をてらわないクラシックな作品に感じた。
ロケ地はニュージャージー州とのこと。エキストラ、車の動きも秀逸で広い画を多用したダイナミックな映像だ。モブシーン、外さないカーアクション、美術を含め「荒れきった都会」を表現している。
ホアキン・フェニックス演じるアーサーは脳の損傷に起因した笑う発作を持つ。そう言えばホアキンの兄のリバー・フェニックスは『マイ・プライベート・アイダホ』(ガス・ヴァン・サント監督)で強い眠気の発作を発症する青年を演じていた。


「悪」はあるのだと思う。
暴動のように何かしら気持ちが伝播していくものではなく、もっと自分だけの「悪」。
気づかないふりをしてもおそらくみんな知っている事だと思う。

ネット上に気味悪いほどに流れて来る数多の情報は信じたくないが、アーサーが見てきたこと、感じた孤独は信じたい。
共感ではなく日々の風景として。

アーサーが見た(観客も一緒に見た)妄想は寂し過ぎる。


2019年10月29日

映画『家族を想うとき』(2019/英・仏・ベルギー/ケン・ローチ監督)@京橋テアトル試写室

石川啄木の「はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」が浮かぶ。いやいや何とも言葉が出ないラストカット。せめて夜は家族で食卓を囲んで欲しい。『わたしは、ダニエル・ブレイク』と異なりまだ家族の存在に救われたが…。

夫婦役の俳優はいずれも40歳から役者を始めたこと、主人公の上司役を演じた俳優は現役の警察官、とキャスティングにも驚きだが、運送会社や病院の描写が丁寧な演出で作品の重みが増す。

世の中がどうであれ自分で何とか一所懸命に働いても、何もかもうまくいかず、抜け出せず、そしてまたトラックのハンドルを手にする主人公の姿が胸を打つ。


2019年10月11日

映画『魔法少年 ワイルドバージン』(2019/宇賀那健一監督)@映画美学校

ばかばかしいと思う方もいるだろうが熱き童貞系ヒーロームービー。

使う度に痛くなるビームが笑える星村(前野朋哉)がクリスチャン・ベールに見えるか見えないかくらいになる瞬間がある。月野(芹澤興人)の笑顔と森山周一郎のようなしぶい声がとても良く、そして何と言っても高橋(斎藤工)の天井を突き抜けるビームは男前過ぎて感動的ですらあった。


2019年09月13日

映画『人生、ただいま修行中』(2018/仏/ニコラ・フィリベール監督)@京橋テアトル

病院という所はいるだけで不安感が募る場所である。だからこそ看護師の存在は医者以上に大きく感じる時がある。感動を呼ぶ演出、というわけではなく、どちらかというと看護学校で学ぶ生徒達を傍で見つめている感覚だ。基礎から教え、生徒一人一人をしっかりケアしている学校のようだが、生徒たちのセンシティブな気持ちは露わになっていく。
病院で採血される時、このドキュメンタリーを思い出してしまうだろうな。

2019年09月06日

映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(米/2019/クエンティン・タランティーノ監督)@イオンシネマ新百合ヶ丘

もしもな昔々のハリウッド・バディムービー。
落ちぶれていく俳優を演じたディカプリオも良いがそれを支えるスタントマンを演じたブラピがとても良い。
愛犬にドッグフードを与えたり車を運転するだけで映画のシーンになってしまい痺れる。
『ロング・グッドバイ』(ロバート・アルトマン監督)のフィリップ・マーロウ(エリオット・グールド)並みではないだろか。

かつてオープンセットとして使われたスパーン映画牧場の荒廃が切なく、時代の流れを感じさせる。
シャロン・テート(マーゴット・ロビー)が訪れる映画館の描写も良かった。スターもみんな映画に憧れるのであった。

ママス&パパスではなくホセ・フェリシアーノの「夢のカリフォルニア」がより一層寂しげに響く。

ふと西部警察や大映ドラマが放映されていた頃のことを思い出した。
今は難しいことを大胆にやっていたと思う。
その半面、映画界は斜陽が続いていったと聞く。
ずっと時代は流れているのだなあと思う。

夕飯は新百合ヶ丘のだしやでいい気分。
おでんはもちろん、刺身もフライドポテトも旨い。
瓶に少し残っていた千葉の日本酒・不動をサービスで頂く。さらにいい気分。

2019年08月04日

映画『ラスト・キャバレー』(1988/金子修介監督)@高円寺シアターバッカス

昭和から平成に移り変わっていく時代の物語。
何かが終わっていき何かが始まっていく物語。

ズームや移動、何しろカメラがアグレッシブ。屋内での雨の中のラブシーンも青く浮かび上がりいい感じ。

駅前開発のため閉店を余儀なくされるキャバレーの物語なのに明るく軽やか。女性たちは男たちの何歩も先を進んでいくように見える。
クレーンがじわりじわりと街を変えてゆき、誰もいないキャバレーが最期を待つ。そして女性たちは先を行く。どことなく今の時代に似ている。

2019年06月29日

映画『オーファンズ・ブルース』(2018/工藤梨穂監督)@アップリンク吉祥寺

異国のような風景が続く。日本はやはりアジアなんだなと思う。
ズルズルムシャムシャガブガブスパスパしている女の子・エマから目が離せない。
ヤンとは誰なのか。登場人物がいつも想っているこのヤンという男の影をずっとこちらも追い続けることになる。

店の金を盗んで海外に高飛びしようとするバンとユリの逃亡に昭和を感じる。
彼らが辿り着いた場所はどこか理想郷のコテージのようだ。
ここではあまり考えつかないような所にカメラポジションがあり、少し不思議なカットバックになる。
雷のせいかと思っていた停電はそうでもなく停電し、画の色は部屋の暖色から外のブルーにパッと切り替わり、ドキッとする。
この時、当然暗いので人物は当然見えづらくなる。
懐中電灯のオンオフで見えたり見えなかったりもあるのだが。
なのでスリル感が増すのであった。
また、人物のバックショットも印象的でこの客観的なショットが緊張感と美しさを生んでいるのだなと思った。

彼らが溜め込んだものは見えそうで見えない。
ザ・テンプターズの「忘れ得ぬ君」じゃないけど、忘れられない記憶からは逃れられない。
廃墟に溜まる水のようにいつまでもヌルヌルとして。
そんな残像のようで狂おしい映画。

2019年06月27日

映画『風をつかまえた少年』(2018/英・マラウイ/キウェテル・イジョフォー監督)@京橋テアトル

貧困により教育を受けることが出来ず、愛犬はあばら骨を浮き上がらせて死んでいき、家族は崩壊へと向かう。
貧困は放置され、無情にも砂埃が舞う。

電気を起こす風車を作った少年の物語であるが、彼の偉業以上に貧困がしっかりと描かれていた。
そして何より教育が大切だ。教育は人を救う。

ふと、監督は黒澤映画が好きなのでは、と思った。

2019年06月16日

映画『鉄道運転士の花束』(2016/セルビア・クロアチア/ミロシュ・ラドヴィッチ監督)@映画美学校

これまでに28人も轢き殺してしまった鉄道運転士の物語。
終始トーンを変えず淡々とした演出であった。
ブラックなのに心温まる。主人公やその仲間夫婦が暮らす車両基地がこれまた素敵なファンタジー装置なのである。
スパルタ頑固爺の亡き妻、血のつながらないみなしごの「息子」に対する溢れんばかりの愛情を描く85分。

下北沢に移動し久々にLADY JANEへ。
亡くなった店の常連の方の話を聞く。
さらに祖師ヶ谷大蔵の古代楼へ。
いい時間であった。

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