前回扱った、車椅子での鉄道乗車拒否について、彼女が常任幹事を務めている政党の公式見解が出されました。
しっかりと見解が書かれていますが、問題としたいのはこの部分。
--以下引用、ただし固有名詞に関しては伏せ字に変えました。--
〇〇(鉄道会社)の労働環境や法律にのっとった対応ができなかったことに問題があるにも関わらず、△△△さん(車椅子利用者)の行動や人格を攻撃する誹謗中傷がおこり、それは一カ月近くたった今でもやみません。これは〇〇が対応の過ちを認めず、△△△さんに謝罪をしていないため、△△△さんがあたかも「加害者」のように扱われてしまったことも一因だといえるでしょう。〇〇には今回の対応への見解と伊是名さんへの正式な謝罪を求め、今後の改善につなげていただきたいと考えます。
--引用ここまで--
これは、「個人への人格攻撃は許しません!」という章での一部です。
疑問点を挙げます。
1、政党が民間会社に正式な謝罪を公式に求める案件なのか。
2、人格攻撃や誹謗中傷の原因が、鉄道会社が謝罪しないことにあるのか。
3、鉄道会社の対応が悪いと言えるのか。むしろ政治の問題の側面も劣らず強いのではないか。
まず、政党が民間会社に正式な謝罪を公式に求める案件なのかという点。
これは、車椅子利用者である常任幹事のプライベートでのこと。政党が相手会社に何かを求める根拠は何でしょうか。この常任幹事が、党を自分の代理人とする旨の委任状を鉄道会社に示した上でのことならば、正当性がありますが、それは考えにくいです。
この問題について、党にも励ましや抗議のメールや電話があったそうです。党の常任幹事ということを公にして書いているブログですから、それはあるでしょう。それに応えること、党の公式見解を出すことは自然なことです。
鉄道会社の対応が悪いとか、改善を求めていかなくてはならないというのが党の考え方ならば、それを発信することは大いに賛成です。鉄道会社は党常任幹事に対して謝罪をすべきであると考えているなら、そう言うことも結構。しかし、「正式な謝罪を求める」とは。車椅子利用者もいわゆる健常者同様に事前予約なく全ての駅での乗降が保障される世でなければならないという気持ちの強さからだったとしても、この表現は勇み足。「謝罪をすべきと考える」と、「正式な謝罪を求める」は全然違う。当事者以外の者が謝罪要求って、甚だ疑問です。
政府や省庁、地方自治体などへの謝罪要求でしたら分かります。行政機関は政治の問題ですから、政治団体であればこうすべき、こうあるべきという要求はしていくべきです。国会にも議席を持つ政党ですから、国会で追及し改善を訴えるのもありでしょう。国交省に指導を求めていくとか、今回の件を改善する法案や条例案を作ったりとか、それが政治団体の役割。しかし、民事に介入して謝罪要求、これは政治団体の役割ではない。
国民の声に後押しされてというのであればまだ分かりますが、自分のところの常任幹事の問題。党に批判が来たから、その批判を鉄道会社に向けるというのが、理解を得られるとは思わない。なぜならば、政党が批判の声に応える適切な方法は、国交省や自治体に改善を働きかけたり、政策争点として有権者に訴えていくことですから。
比較するのが適切でないかもしれないが、あえて挙げたい。
正社員から非正規への代替が進み、歪んだ法解釈で派遣を都合よく使う大手メーカーが増え、ワーキングプアが問題視されたり、派遣村、蟹工船などのワードが多く出ていた時代のこと。小泉内閣に対して、国会でメーカー名と具体的な雇用状況を挙げて、指導するように敢然と追及した万年野党がいた。党を挙げて問題周知を試み、国会やメディアで追及して、改善に全力を尽くしながらも、民間企業の謝罪など求めなかった。いや、求めていない証明は限りなくできない。どこかでしていたかもしれない。ただ、謝罪を求める求めない以前に、大手メーカーの姿勢は徹底的に間違っていると言っていた。それは問題ない、政治活動、選挙活動だから。
改善のために問題にすることは、監督省庁とか、政府のやり方。そしてそれを選挙戦でアピールして、争点として、堂々と戦った。これこそが、国会に議席が持てていて、政党要件も満たした、有力政治団体の行動。
次に、人格攻撃や誹謗中傷の原因が、鉄道会社が謝罪しないことにあるのかということについて。
侮辱罪などの犯罪行為は、鉄道会社の対応以前の問題でしょう、理由があるから他人の人格的なところを攻撃してもいいという理屈自体間違っている。もちろん、人格ではなく主張に対しての正当な批判ならオッケーですけれどもね。
だから、誹謗中傷、人格攻撃の原因を鉄道会社に振ること自体が大間違い、と言わざるを得ない。
相手鉄道会社にも言い分がある。その言い分が正しいかどうかは別として、鉄道会社側の主張や言い分を無視して、折れろ、謝れという姿勢には怒りすら感じる。
当事者同士で話せばいいのに。帰路の途中で有名コラムニストとしての実力を行使して新聞社に取材するように連絡した上、それをブログで発信した。会社名、駅名も書いたのですから、営業にも影響が出る。ハッキリ言って、宣戦布告です。それ以外のなにものとも感じられない。
自分で戦闘を起こしておいて、第三者から攻撃を受けたからと更に政党の威を行使して、謝りなさい。おかしくないですか。鉄道会社だって、駅だって、世間からの攻撃食らっているはずですよね。世論巻き込んだ戦闘を挑んだ側が原因で。でも鉄道会社側は不満を口にせず、愚直に言い分を最低限に言うだけ。東日本の一企業がですよ、全国区の政党から攻撃されるという非対称戦闘で、言いたいことも言えなくされてしまいかねない状態。ちょっとおかしい。
とにかく、人格攻撃、誹謗中傷と、鉄道会社の姿勢は別です。関係ないのに、そこまで言われて責められている。鉄道会社が非を認めないせいで、謝らないせいで、誹謗中傷が起きた、人格攻撃が行われた、とするのは屁理屈でしかなく、完全に誤りです。
さてね、最後に鉄道会社の対応が悪いと言えるのかという点ですが、むしろ政治の問題の側面も劣らず強いのではないかと思います。
障害者差別解消法の合理的配慮は努力義務。実行できているかどうかは問題ではない。もちろん、実行できるように改善していかなければならないですが、それは今後順次やっていくというものも含んでです。
現実として、今できるだけの努力はしているというのは、伝わるのではないでしょうか。バリアフリーがまだまだ行き届いていない駅はありますが、かつてよりは格段に良くなっています。今も順次改修工事が進んでいます。
階段しかない駅については事前連絡が欲しいです、対応に必要なんです。こんな対応は望ましくないですよ、たしかに。しかし、今は無理、隣の駅までしか案内できないというのが、これが精一杯だったとしても、努力していないと決めるのは乱暴に感じる。現に、利用者が隣の駅まで移動している間も必死に人を集める努力をしていたではないですか。
公式見解でも言われている、「バリアフリー化や合理的配慮の水準向上のための人員増を求めて共闘することこそが重要だと考えます」、これはそのとおりだと思います。ただ、それは鉄道会社の問題のみではなく、社会全体の問題として捉えるべきだと私は思うのです。
疑問に思う記述、もう一つ引用します。
--以下引用、駅名や路線名は伏せ字にしています。--
今回問題になった××駅も2015年3月8日に◇◇◇◇線の▽▽ー◎◎駅間の4駅が無人化されたうちのひとつでした。当時住民側からは「エレベーター設置」の要望も出されましたが、いまだ実現していません。合理化を優先する一方で、乗客の利便性は後回しにされている現状があります。
--引用ここまで--
合理化を進めることは、利便性を後退させることでしょうか。無人駅に駅員を最低限配置したところで、階段から重たい車椅子を運べるようになるわけではありません。むしろ、合理化を進め経費を削減することも、バリアフリー設備の早期導入につながるのではないでしょうか。
鉄道会社もいっぺんにやるべきことを全てできるわけではないので、公共交通機関としての配慮を実現するためには地域や政治の支援が必要です。早期にエレベーターの設備を全駅で導入したいなら、国や自治体がその費用を立て替えるなどして、進めるべきだと思います。こういう車椅子利用者とか高齢者とかへの福祉に主に使うための、消費税ではなかったでしたっけ。
エレベーターだけではない。例えば車椅子対応のタクシーをどこからでも呼べるようにするとか、ヘルパー会社と鉄道会社を結びつけたり、鉄道警察隊の任務に駅での福祉活動を加えるなどして、鉄道会社や現場の負担を減らしたりとか、アプローチの方法は考えられる。
これは車椅子での移動経験がない、こういう問題に対しては素人の私が思い付きで言ったことですが、政治的働きかけが不足しているのを棚にあげて、社会全体で対応すべき問題という認識があまりにも欠如しているように感じられます。
「バリアフリー化や合理的配慮の水準向上のための人員増」が充分にされていないのは、鉄道会社の努力不足もあるかもしれませんが、政治の責任もまた大きい。
誰しも、突然、いわゆる障碍を持つことになる可能性はある。バリアフリー、安全策、オストメイト対応トイレなど、政治主導で、全ての鉄道駅に一刻も早く展開されて欲しいと願っています。
最後に、私自身この乗車拒否のブログを見るまで、車椅子で乗降できない駅があるとは知らなかった。というか、関心がなかった。でも、考えてみれば、去る2020年に、東京パラリンピックが行われる予定だった。静岡県は、日本の象徴の1つである富士山があり、オリンピックとパラリンピックで自転車競技の会場となっている県。コロナのせいで延期になりましたが、外国人パラリンピック関係者も多く静岡県を訪れたはずでした。そこは国を挙げて、対応すべき問題だと思いましたが、私も無知を、オリンピック開催国の国民として恥ずかしいと思わなくてはいけないかもしれない。
その意味で、それに気付かせてくれたコラムニストさんの発言は、前進の引き金になるかもしれない。炎上して多くの国民に注目させたことは、近い将来、日本を世界に誇れる福祉国家になるきっかけになったかもしれない。否、していかないといけないと思う。
是々非々あるけれど、声を挙げることは大切。
言いたいことは言った。
彼女の声のあげ方云々のモヤモヤ感は、多数の人の心に残るかもしれない。
でも、とにかく今は、弱者にやさしい公共交通機関を、都市部過疎地関係なく実施する方向に、この炎上が向かうことを願うばかりでありまする。
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