あるへは山へ竹をとりに、もうひとりのあるへは川へ洗濯にいきます。
山道を歩いていて、てごろな竹をみつけたあるへは、
「はぁ〜ぁ、どっこいせどっこいせ。毎日いきてるのがつらい」
と気合いをいれてオノをいれました。
するとどうでしょう。
まっぷたつに割れた竹の中に黄金がつまっているではありませんか。
おどろいたあるへはガクガクとふるえ、きょろきょろとあたりを見回しました。
「どなたか、黄金をお忘れではないですか。ここにありますよ」
と言いたいのですが、竹につまった黄金のように、あるへの喉もおどろきにつまっていて声がでません。
チキンハートな彼は、もう一度竹をかぶせて接着剤でかため、なにごともなかったかのように別の竹を探しました。
一方、川へ洗濯にいったあるへです。
醤油のしみがとれないものかと、削り取るいきおいで洗濯板におしつけています。
汗水たらしながらせっせとゴシゴシしていましたが、疲れてきたので顔をあげました。すると、川上のほうからなにやら大きなものが流れてきます。
「おや、あれは桃だね」
目ざとく正体をみやぶったあるへは流れてくる桃をつかもうと手をのばしました。
届きません。
このままでは桃は流れていってしまいます。どうしても桃が食べたいあるへは何か手はないかとあたりを見回します。
ちょうどよい棒きれをみつけました。
急いで取って、すぐさまもどってきたあるへ。いざ挑戦、と棒を川につきいれますが、桃はどこにもありません。
すでに川下へ流れていってしまったようです。
夕飯の時間。
竹取りあるへが黄金を見つけ慌てふためいた話をすると、洗濯あるへは
「あらあら、あなたらしいこと」
と言って笑いました。
そして洗濯あるへが桃を見つけたけれど逃してしまった話をすると、
「桃いいな桃。夏だしひさしぶりに食べたいな」
と言いました。
そして二人は明日、近くのスーパーに桃を買いに行くことにしましたとさ。
めで……。
さてさて、それから少しばかりがたちました。
竹取りあるへがおもわず隠した竹は、接着剤のあとをつけながらも立派に成長しました。そしてなんと竹自体が黄金色に光り輝いています!
となり山のいじわるあるへが竹を取りにきたところ、偶然この竹を発見しました。
「おお、まぶしい! これなら夜も仕事がはかどるぞ」
なんて心にもないことを言いながら、頭の中はお金のことでいっぱいです。
さっそくいじわるあるへは黄金の竹を根元からバッサリ切り倒し、売って大もうけしようと街へおりました。
いそいで質屋にいってピカピカ光る竹をピカピカ光るお金にかえようとしますが、ここで質屋さんが待ったをかけました。
「待った!」
質屋のあるへが言うには、「とてもうさんくさい」らしいです。
あれよあれよという間に警察のあるへやら鑑識のあるへやら近所のあるへやらがどやどやと入ってきて、黄金の竹はあっという間に持っていかれてしまいました。
あとで聞いた話によると、黄金の竹は調査のためにバラバラにされて葉っぱ一枚残らなかったそうです。
がっかりしたいじわるあるへは夕飯のとき、奥さんのあるへに事のてんまつをつたえました。
「あーた、そんなだからいっつも貧乏ざますよ。楽してもうけようなんて考えるから、いつまでたっても芽がでないざます」
しかしいじわるあるへも黙ってはいません。
「てやんでい、黄金色の竹をみつけたら、だれだってスゲーと思うだろうが。持って行って『俺が採ったんだ』って自慢したくなるだろうが」
「あらあら、それじゃあ、大人気だったようで良かったじゃないざますか。みんなして取り合いになったんざましょ?」
高飛車なあるへにあげあしをとられたあるへは言葉がでてきません。しかし不満たらたらのいじわるあるへはちゃぶ台でもひっくり返そうかと、机のふちに手をかけました。
高飛車のあるへも空気をさっして「旦那がもしちゃぶ台をひっくり返したら、ひそかに買ってあった高級お肉は絶対一人で食べてやる」とはらにきめました。
ふたりがにらみあっていると、突然呼び鈴がなりました。
なんととなり山のあるへさんからのおすそわけです。
とどいた箱には甘い香りの桃がぎっしり詰まっていました。
「おお、こいつはいい! 初物じゃないか」
実がつまっていて、リンゴのような歯ごたえの、それでいてとても甘い、この土地の新しい桃です。
あるへはこの桃が大好きでした。となり山のあるへも、警察のあるへも、質屋のあるへも、みんなこの桃が大好きでした。
「しょうがねえ、まだ土に埋まってる根っこのぶぶんを明日とってきて、箸でも作るか」
いじわるあるへは桃にかじりつきながら、気持ちにふんぎりをつけました。
「それがいいざます。となり山のあるへさんにもお返しをしたら、そのお箸でお肉を食べるざます。いいお肉を買ってあるざます」
と、高飛車あるへもほこをおさめましたとさ。
めでたしめでたし。
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思いつきで書いただけです。「昔々あるところにあるへが〜」まで考えて、あとは流れで、ってやつです。
作中の桃は、福島県の桃なんですが、そこに住む親戚の家へ遊びに行ったとき一度だけこの桃を食べてから忘れられません。
熟れていても実は硬く、噛むとシャリシャリと音がするくらいですが、味はれっきとした桃で、とても甘く、すっぱさはまったく感じません。
普通の柔らかい桃も、桃ならなんでも好きなあるへですが、やっぱりこの独特の食感の桃が一番好きです。
銘柄をご存知の方がいらっしゃれば、教えてくださいな。