2016年12月28日
スティーヴン・ウィット(著)関美和(翻訳) 「誰が音楽をタダにした? -巨大産業をぶっ潰した男たち-」
たまに、自分(30歳)くらいの世代から大きく変わった、というか一番変わったのを実感してるんだろうな、と思う事がある。
小学校低学年の時には黒電話、高学年でFAXとはじめてのパソコンが家に入ってきた。
14歳の時から、雑誌に載っていた楽器屋マップなんか見ながら御茶ノ水に買い物に行ったり、お年玉を握りしめて西新宿のブート屋に行っていたのだけど、そういう経験は私より下の世代には無いようだ。
エロサイトを見まくって、ダイヤルQ2経由で10万ほど電話代の請求がきて、親に怒られたのもその頃。まだADSLは無かった。ちなみに後に携帯で全く同じ事をする。
15歳で不登校になって2chにズブズブ。その後はパソコンから離れて16歳から音楽専門学校に行った。失恋を期にパソコンを買ったのが19歳、youtubeが出来ていて、P2Pソフト全盛だったので、1人暮らしになっていた私はまたズブズブにハマった。
『誰が音楽をタダにした?』というタイトルを目にしたときは、「はいはい、またか。っていうか今更?」という感じだったのだけど、パラッとめくったら、「CDの製造工場のバイトが弁当箱にCDを入れて警備を潜り抜け〜」みたいな文章に当たって、
え?社会学者がなにやら分析するやつじゃなく、そういう感じ?そこまで取材できたの?
と驚き、お正月用に購入した。が、もちろんすぐ読んだ。
帯に
「すでに知っている話だと思うなかれ」 −NYタイムズ
「まるでスリラー小説のように読ませる」 −テレグラフ
と書いてあるが、まさにその通り。それなりに知っていると思っていたはずなのだが、全くもって違う一面が見えてきた。
そして、なにより読み物としてとても面白い。本当に小説を読むような感じで、一気に楽しみながら読めた。
大筋としては、mp3の誕生、音楽業界とレコード会社の動き、ヒップホップの攻勢、そしてネット上のファイル共有、発売前のリークなどだ。
mp3の開発話から入るので、いささか退屈かと思いきやそれにも紆余曲折あり、その部分だけでも十二分に面白い。
そしてCDが一番売れていた時代があり、それは2000年をピークに劇的に減っていく。
同時期に技術の進歩やパソコンの価格の下落、回線速度のアップなどでファイル共有が盛んになっていく。
そんなわかっている筈の話でも、実際にレコード会社のトップにいた人や、CD1枚でパソコンの容量が7割使われてしまう様な時代からファイル共有をしていた、そして世界一のリークサイトの主要人物をキチンと取材しているので、そこで聞ける話は今までの薄っぺらい認識を完全に変えられてしまう。
「CD工場のバイトが弁当箱に詰めてCDを盗む」というとアホみたいだが、11年で約2万曲を発売前にリークした。という数字を聞くと、絶句してしまう。
ピンクパレスという、究極的にアーカイビングを進めたサイトには100万枚近いアルバムが無料でダウンロード出来る状態にあり、それは「日本盤限定ボーナストラック入り」なんかも各種揃っていたらしい。そんな時代があったのだ。
まぁこれも余談だけど、うちの従兄弟が昔CD工場に勤めてまして、やっぱりディスクのみのCDがゴロゴロ部屋にありましたからねぇ。20年ほど前のユルイ時代ですし、当然合法的に貰ってきたんでしょうけど、やっぱり自分が3000円とか出して買ってたもんが無造作に転がってると驚きますよね。
あと私が古本屋でバイトしてたときにも、買い取りに持ってきた本の発売日見たら2ヵ月後とか、付録すら開封していない同じ雑誌を何冊も買い取りに持ってくるとか、怪しいにも程があるものも沢山ありましたし。
これ、日本だったら更に2chとかWinnyの裁判とかも出てくるんだろうなぁ。日本にもリーク部隊がいたと本にも書かれていたし、そこら辺も読んでみたいなぁ。
音楽をやっている人間からすると「ユートピアかと思ったらディストピア」っていうよくあるSF小説の感じが現実になっていると思う現在なんだけど、一番CDが売れていた時から15年程度でこうなったわけで、この本を読んで理解を深めるってのは必要だと思います。
けっこうね、マーケティングって部分でも学ぶものがあったりする本なんだよね。レコード会社の重役しかり、リル・ウェインしかり。
なにより本として面白い。私の中で今年ナンバーワンだわ。
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