老化を止めるスイッチ?B
1970年代、イースター島の土壌から
真菌の成長を止める物質が見つかり、
同島の現地名「ラパ・ヌイ」から
「ラパマイシン」と命名された。
成長や増殖などの細胞活動に
必要なある酵素を
ラパマイシンが阻害することが
後にわかった。
これらの細胞活動は最終的に
細胞の機能を劣化させるため、
細胞活動に必要な酵素を阻害すると
細胞が元気でいられる期間が長くなる。
この酵素は「ラパマイシンの標的機構
(mechanistic target of rapamycin)」
を略してmTORと呼ばれ、
老化スイッチのオン・オフを
切り替えることで
動物の寿命を延ばすと見られている。
この経路こそ
「ラパマイシンの標的機構(mTOR エムトア)」
で、細胞という小さな工場の 電流遮断機 となっている。
ラパマイシンに欠点がないわけではない。
副作用があり、
一部の患者では口内炎が生じるほか、
感染症にかかる例が増える。
これは免疫応答を抑えるため。
マウスの実験では、
オスの睾丸の萎縮が見られた。
これらの副作用は
がん患者や移植患者など
すでに重篤な状態にある人には
許容できても、
健康な人に
抗老化薬として使う場合には
認められないだろう。
悪影響が効果を上回りかねない。
治療量ではなく、低容量にしたらどうだろう?
老年生物学の第一人者である
ワシントン大学(シアトル)の
ケバーライン(Matt Kaeberlein)
と同僚の
プロミスロウ(Daniel Promislow)は
低容量のラパマイシンを
中齢の飼い犬に与えるという試験を始めている。
イヌは私たちと同じ環境に暮らし、
年をとるとヒトと同じ病気にかかる。
ラパマイシンをほんの数週間与えた
イヌは心臓超音波検査の結果、
心臓の働きが若々しかった。
「ラパマイシンを与えなかった
イヌに比べ、心臓がよく収縮するのがはっきり見える」
と言う。
「老齢の動物では、おそらく
血流の低下が体の他の組織を衰えさせる
要因になっている」。
抗老化薬としての可能性
を期待させる材料として、
ラパマイシンは 低容量 では
免疫抑制剤ではなく、
免疫調節剤として作用すると
ケバーラインは言う。
それどころか、低容量では
いくつかの 免疫機構を
ようだ。
【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日
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