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第二五巻　癩王のテラス/LONG AFTER LOVE

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梅沢さんは１歳７ケ月で舞台デビューされたのだそうです。
梅「『伊那の勘太郎』という、当時流行っていた･･･」
美「♪影か柳か勘太郎さんか♪っていう歌があるの」

梅「昔はお芝居を３本やっていましてね、お芝居が中心だったんですけど、お袋はもともと
娘歌舞伎の座長さんでしたから、踊りをよくやっていたんです。だから
『これからの役者は踊ったり歌ったりしなくてはいかんよ』って
舞踊ショーというのを作ったんです。

僕は役者さんを観ていたんだと思うんですね。
お芝居が終わったときに、お袋が下でお化粧を直していたら
いきなりお客さんがわぁーっと騒いだものだから
怪我でもしたんじゃないかと舞台に上がったら、たまたまかかっていた
『伊那の勘太郎』を僕が花道で踊っていたんですね。

お袋がこれは面白いということで、僕にカツラと衣装を着けて出したら
『天才子役現れる』って新聞に出て。親父が『この子はいい役者になるよ』と言って。
僕はお芝居が好きで、いつも花道とかで見ていたんです。すぐ上の兄は寝ていたんです
『寝てる子供は駄目だ。起きてお芝居をじっと見ているような子供が上手くなるんだよ』
僕はすぐ子役としてデビューして、ずっとスターでいたんですね」

大きな転機は小学校のときに訪れます。
梅「学校に行かなくてはならないから、福島のお祖母ちゃんのところに預けられて。
僕のお付きに大人の女性の方が５、６人いて読み書きを教えてくれたものですから。
昭和２５年生まれ、小学校１年のときは３２年、ひらがなすら書けないような
洟を垂らした子供がいっぱいいる横で、僕は池田富美男（本名）って漢字で書けましたから。
東京から行って半ズボンで、１人浮いていましたけれどね。

そうしたら急に、うちが貧乏になってしまって、裕福だったのがＴＶとか映画が大ヒットして
実演を観なくなってしまった」
美「終戦後まではよかったんだけど、ＴＶが出てきて、地方を回っている劇団の人は
本当に苦労したのね、お客が入らなくて」

梅「僕は座長の子供で、親父はもともと軍人、陸軍中野学校（諜報・防諜・宣伝など
秘密・情報戦の訓練・教育を行う旧陸軍の学校）でしたから
『義務教育は必ず受けさせなければ駄目だ』といって、福島に預けられたんです。

それで舞台が駄目になって、仕送りもしたんですけど、いっぱい人がいるから
食べ切れなかったんですね。僕は小学校３年のときに新聞配達のアルバイトもして
最後なにも出来なくなって。

あのころは金偏（かねへん）ブーム（鉄や銅などの金属が高騰し子供の鉄くず拾いが流行）
といって、鉄がよく売れたんですよ。工場に行けば鉄がいっぱいあるから
取りに行こうという話になって。僕は小さいから持ちきれない
一個だけ持って出ればいいのに二つ袋に入れて逃げようとしたら、捕まっちゃったんです。

『すぐ警察に突き出してやる』となったときに、お芝居みたいですよ、後ろから
『やめなさい！』と工場の奥さんが出てきて。
『勘弁してあげなさい。ぼくね、そういう悪いこと･･･』と僕の顔を見た途端に
『トンちゃん？』と言ったんですね。『はい』と言ったら、わぁっと泣いて。
お袋のお弟子さんだったんです。それでお袋に電話をして
『迎えに来てやってくれ。あんな名子役だったトンちゃんがあんなに汚くなって
とっても見られないから』もう洟も垂らしていましたから☆

それでうちの兄貴が迎えに来てくれた。劇団というのは、やはり
腕のいい方が上に行きますから、僕はとても上手だったし、兄貴はまだペーペーで。
だから梅沢武生を顎の先で使っていて、その兄貴が僕を見て抱きしめながら
男泣きに泣いてすぐに親父のところに連れて行って
『俺が面倒を見るから、この子を福島から出してくれ。俺の手元に』」
美「立派だわね」
梅「もうそのひと言で。『俺はこの人には一生頭が上がらないな』とその時に誓ったんです」

女形になられたのも、お兄様がきっかけなのだそう。
梅「役者ってそろそろ色気のある歳になるというのがあるんですね。
僕は１５で役者を目指しましたから、１０年経って、いろいろな役はやりましたけれど
女形はやっていないので『やってみろ』

嫌だったですよ。腰巻、襦袢を着けてしなしな踊るのは嫌だなと思っていましたけれども
お袋も親父も『座長の言うことは、はいと言って聞きなさい』
『人前では、座長が白と言ったら白、黒っぽいなと思っても白よ』
『裏に回って兄弟二人きりになったときに
「武生ちゃんね、あれはちょっと黒っぽくないですか？」
「うん、僕もそう思うんだ」ってきっと言うから、人前では逆らっちゃ駄目』

じゃあやってみようかな。どうやったらいいんだろうってすごく悩んだんですよ。
そうしたら兄貴が『いろんなものを見ても、自分の中で消化はできないだろう。
お前は女好きなんだから、女を見て勉強すればいいじゃないか』
これは簡単だなと思って☆」
国「納得がいったわけですか☆」

梅「僕は納得しないことはやりたくない性質ですから☆近くにいっぱいいるわけですからね。
『じゃあちょっと観察してやろう』それで女性を見るようになって」
国「観察で生まれたんですか」
梅「だって『役者は見て真似ろ』っていう教えがありますから。
『いい事は真似てみな。悪い事もやってみるんだよ。
自分の中で、これは駄目だなと思ったことは捨てるんだよ』という教えがあるんですよね」

美「新派の花柳章太郎（はなやぎしょうたろう 1894-1965 新派の名女形）さんもそうでしたね。
向こう岸から観察するから見えるのよ。渦巻きには渦巻き自身の形は見えないの。
渦巻きの形も、向こう岸、松の岸、桜の岸から見えるから
どういう風に流れているか、渦巻きの形に見えるのね。
それと同じように、花柳さんも、花柳界の女とか、素人の奥さまとか
山の手の奥さま、下町の奥さまをじーっと見てね
言葉のしゃべり方、襟の抜き方、立ち上がり方。

『なるほど、御守殿（ごしゅでん　位の高い御殿女中のこと）というのは左から立つ』
右から立つと着物の裾が開いて行儀が悪いから。左から立つと中が見えない。
そういうことをじーっと見ていた。長谷川一夫さんもそうおっしゃっていた」
梅「僕は見すぎて警察に捕まりました☆」
夏場、銭湯の入り口で入浴後に浴衣姿で出てくる女性の後ろ姿を丸二日観察していて
注意されてしまったのだそうです。

守護してくださる方は、意外にも役者さんではなく
お茶屋遊び（芸妓、舞妓さんとお座敷で遊ぶこと）を極めた呉服問屋の若旦那さん。
美「世之介（井原西鶴　「好色一代男」の主人公）みたいなものね☆」

梅「お祖母ちゃんが僕のことを大嫌いで。旦那さんが女を作って逃げたんですよ。
うちのお袋のところは旧家で、今でも大きな家で。
金に飽かしてお祖父ちゃんと結婚したんですね。
ところが遊び人でいろんなことをして、顔が僕によく似てて。

『お前を見ると昔を思い出すのよ』お祖母ちゃんは僕が一番嫌いだって。
お袋はその親父に会いたくて、女優になったと言ってましたね」
国「いろんなところを回れば会えるんじゃないかと」
梅「そうです。日本中回れば、どこかで会えると」
江「だから着る物とか全部、生地っていいものじゃなければお嫌でしょう？
昔からちゃんとした一流の物、織りとか光沢とか、物凄く見る方だと思うんですよ。
それは前の世からのものなので」

この方以外の前世は西洋の方が多いようです。
江「だから和の人じゃないんです。いままでもそうですが
和の雰囲気の人はどうして西洋なんだろうかと。西洋文化そのままで
しかもアメリカとか大陸の方に行ったような人、いわゆるカウボーイハット
馬に乗って、ブーツを履いて、という人がいらっしゃってね」

梅「カウボーイになりたかったんですよ。うちに来てくださいよ」
幼いときから刺繍の入った鞍やウェスタン帽などを揃えているのだそう。
梅「悔しいな、こんなことマスコミに言うの嫌だな☆ＴＶで言うの嫌だな」
国「部屋で何をやっているんですか？」
梅「カウボーイになっているんです☆ジョン・ウェイン（1907-1979）が大好きで。
姿見を見て、自分の中でカウボーイになったつもりで。
１時間はしてますね☆部屋に鍵はかけますけど。

ジョーバくん、あれの一番高いやつを買って、あれに鞍をのせて。
僕は馬が好きで馬主にもなったんですけど、馬は家に持って来られませんから。
ちゃんとカウボーイハットを被って、銃、ウィンチェスターも下げて･･･」
国「鍵をかけて、１時間ジョーバくんにまたがって、カウボーイをやって…☆」
梅「バーボンも置いてあるんです☆」
国「すごいカミングアウトしましたね☆」
梅「何でわかるんですかね･･･」
美「前世の記憶をそのままやっているわけですよね」