[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2022.11.17
XML
カテゴリ: 宝塚
生田大和はいつも何かしら意図を持って脚本を書いているように見えるが、前作【巡礼の年】のキーワードが「反転」だとすると、本作【ディミトリ】は「重なる」だと言えるだろうか。

例えば、ディミトリ(礼真琴)とルスダン(舞空瞳)の関係性は、ギオルギ(綺城ひか理)とバテシバ(有沙瞳)に重なるように描かれている。
また、ギオルギの人物像はジャラルッディーン(瀬央ゆりあ)に、ディミトリのジャラルッディーンに対する敬意はアヴァク(暁千星)のギオルギに対する敬意と重ねられている。
ディミトリとジャラルッディーンの最後のやり取りも、祖国に対する2人の想いが重なればこそ成立する場面だろう。
そうした幾つもの重なりが少しずつ物語に深みを与え、あの大きな感動に繋がったのだと思う。

また、本作には心底の悪党が登場しない。
亡国ホラズムの王ジャラルッディーンはジョージア側から見れば確かに侵略者だが、指導者としては非常に魅力的で求心力も統率力もあり、ディミトリや部下に対しても一方的な物言いをしない、度量の大きな人物として描かれている。

また、一見すると悪役に映るアヴァクも、決して私利私欲で動いている訳ではなく、飽くまでギオルギに対する忠誠心と祖国ジョージアを守るためという彼なりの正義がある。
(ルスダンには政治経験がまるで無かったし、ディミトリは疑われても仕方が無い行動を見せており、アヴァクが2人を信認できない気持ちも分かる)
宝塚ファンだって、自分の贔屓を差し置いて他のジェンヌが出世するのを目の当たりにしたら、アヴァクと同じ感情を抱くのではないか。





ジョージアの歴史を紐解くと、この地域は昔から国家間、民族間の紛争が絶えなかったようだ。
そうした不安定な国際情勢の中で、ディミトリは非常に難しい立場にいただろうと察せられる。
何しろ、自身は王子ながら人質も同然に異国のジョージアで暮らしており、理解者と呼べる人間はルスダンとギオルギくらいしかいない。
本来であれば、ジョージアに義理立てする理由はどこにも無い人間だ。
それでもディミトリが選んだ道は、愛するルスダンとその祖国ジョージアを守る事だった…。

物語の展開が早いため、その時々でディミトリの心情を的確に掴み表現しなければならず、恐らく礼真琴がこれまで演じた役の中でもかなりの難役なのではないかと、観劇しながら感じた。
それでも、さすがトップスターとして星組を牽引して約3年、積み重ねた経験と自信で見事にディミトリを演じ切っている。
このコロナ禍に体感したり考えたりした事も、役作りに活きているかも知れない。
(喜びも悲しみも全てを糧にするのが役者の仕事だ)
更に役が深まれば、本作も礼真琴の代表作の1つとして語り継がれる事になるだろう。



そんなディミトリとジャラルッディーンの最後のやり取りは、男の魂を震わせる名場面だった。
命を懸けて守りたい女性への愛と、男が惚れた男への信頼を同時に示すには、あれ以上の方法は考えられない。
いつものように原作を読まずに観劇したが、あの場面を観て初めて「原作を読んでみたい」という気持ちになった。

それはディミトリの誠意ばかりでなく、ジャラルッディーンの男の度量の大きさがあってこそ成り立つ場面だ。
(まあ、敵に対しては無慈悲で残忍な側面も見せるのだが…)
瀬央ゆりあは、そんなジャラルッディーンの魅力を完璧に体現していた。
どんな時も腐らず、同期の出世を妬まず、自分にできる事をコツコツと前向きに取り組んで来た瀬央の人間性が、見事に役に反映されている。
よくぞここまで立派な男役に成長したと思う。

また、あの場面は礼と瀬央が10余年に渡って築いて来た信頼関係をも感じさせる瞬間であり、そこまで重ねてこの配役にしたのだとしたら生田大和は天才だ(笑)。
ARIがジャラルッディーン役では、きっとあそこまでの感動は生まれなかっただろう。



ディミトリの妻であり国の女王でもあるルスダンも、かなり難しい立場にいるヒロインだ。
ディミトリとの幸せな日々から一転、異民族の侵攻やアヴァクの策略などによりどんどん追い詰められて行く様を、舞空瞳は迫真の演技で魅せた。
白人奴隷・ミヘイル(極美慎)との場面には些か唐突な印象を受けたが、これは脚本の問題もあるし、ルスダンが彼を信頼しているのはきちんと伝わって来たので許容の範囲内と言えるか。
これで星風まどかのような貫禄が出れば、非の打ち所がないトップ娘役になれるだろう。

ありがとう!!

他のキャストについてはまた後日。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2022.11.19 20:52:27


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

love_hate no.9

love_hate no.9

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: