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2008.08.12
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

ジョルジュはもうジャンヌの後ろに立っていて、南仏にいるはずのコクトーがマレーと遅い朝食を共にしているのを見てしまった。
ジョルジュとマレーの間がギクシャクし始めていることを知らないコクトーは立ち上がり、笑顔でジョルジュを迎えた。
「君もアンリのお見舞いに来たのかい?」
暖かなコクトーの声。
「ええ、まあ……。フランシーヌとドゥードゥーは?」
「相変わらずサン・ジャンだよ」
「じゃあ、今日は1人で?」
「もう帰るところだよ」

コクトーは明らかにジョルジュに遠慮していた。ミュージカル・コメディの公演以来、ジョルジュはコクトーを避けるようになっており、コクトーもそれを感じていた。
「いいじゃないか、ジャン。ゆっくりしていけば」
マレーが思わず口を出す。
「そうですよ――」
ジョルジュの声は、むしろ挑発的だった。
「――ぼくが出直しますから」
「ジョルジュ、何を言っているんだよ。座れよ」
「……そうだ」
ジョルジュは手に持った郵便物をマレーに差し出した。
「郵便が来てたから、取ってきたよ」
「じゃあ、ジャノ。ぼくはこれで。また来るよ」
コクトーはそそくさと帰り支度を始めた。慌てて受け取った手紙をテーブルに置き、マレーはコクトーを門まで送っていった。

戻ってくると、ダイニングルームにジョルジュはいなかった。ジャンヌに聞くとアンリの部屋にいるという。マレーはテーブルの上に置かれた手紙を開けた。生まれ故郷のシェルブールからの手紙で、差出人はムートン夫人というまったく知らない女性だった。

「幼なじみの縁でこの手紙を書いています。あなたのお兄様が末期癌のため、今や希望のもてない状態でいらっしゃることをお伝えしなければなりません。今はエクードゥルヴィル病院に入院中です。あなたからの連絡を待ちわびていらっしゃいます。病院以外への連絡先は、ラ・デュシェ通り28番地になります」

――何のことだ? アンリが入院? 連絡を待ちわびている?
眉をひそめたところに、ジョルジュが戻ってきた。
「いたずらかな?」
手紙をジョルジュに見せるマレー。
「兄貴が癌で、なんとかって病院に入院中って……」
ジョルジュは手紙を受け取って読み始めた。
「ジャン、アメリカ人のぼくが言うのも変かもしれないけどさ」
「うん?」
「兄(フレール)じゃなくて、父(ペール)って書いてあるよ」
「え?」
マレーはもう一度文面を見た。確かに、読み違いをしていたのはマレーだった。

幼いころ母が父の元を去ったため、記憶の中にもない父。2年前にも一度、マレーはアンリと一緒に父を捜そうとしたことがあった。なんとか電話番号を突き止めて2人で電話をした。あいにくそのとき父は留守だった。連絡をくれるように住所を伝えた。期待して待ったが、結局何の便りも来なかった。兄弟は連絡を寄こさない父に驚き、落胆した。だが、それ以上何もできなかった。というのは、母がマレーに、父に会おうとするのは自分に対する最大の裏切りだと言って泣き叫び、どんな名女優でも決して真似できないほどにすさまじい「狂乱の場」を見せつけて、マレーを恐怖のどん底に突き落としたからだ。

――父さんはね、まだ小さいお前を理由もなく折檻するような男だったのよ。
――貧乏な私たちをほったらかしで、愛人を作ってエジプト旅行をするような最低の人間よ。

マレーは、母が父と別れる決心をしたのは、戦争から帰ってきた父に挨拶をしない幼い自分に腹を立てた父が自分を殴りつけたからだと聞かされていた。自分を暴力から守るために夫と別れた母の反対を押し切ってまで、父と会いたいとはとても言えなかった。

「本当かな? 兄貴がこんな状態のときに、同じ癌で入院だなんて……」
「病院に電話してみたらいいよ」
「そうだな」
シェルブールのエクードゥルヴィル病院の番号を調べてかけた。
アルフレッド・マレー氏のことを尋ねる。
「どちらさまですか?」
当然の質問が返ってきた。もしかしたら、アルフレッド・マレー氏が自分は俳優のジャン・マレーの父だと病院で話してくれているかもしれない。
「ジャン・マレーです。息子の」
「ジャン・マレー?」
鸚鵡返しのあと、相手は沈黙した。それからようやく、
「2週間前に退院されましたが」
という答えが返ってきた。
「住所はわかりませんか?」
再び沈黙。退院から2週間もたって突然電話をかけてきて、住所も知らずに息子と名乗る男を疑っているのだ。
「存じませんが」
予想通りの答えがそっけなく返ってきた。
「何だって?」
と、ジョルジュ。
「だめだ。もう退院していて、住所は教えてくれない」
「この手紙にある連絡先に書いてみたら?」
「そうだな…… こういう場合、『テュ』を使ったらいいのかな、それとも他人行儀に『ブゥ』とすべきなのかな」
「……ジャン・コクトーに聞けば?」
「ジョルジュ、こんなときに、いちいち突っかかるなよ」

結局マレーは親しい相手に使う『テュ』という人称を使い、「親愛なる(シェール)父上」という書き出して手紙を書いた。手紙には、2年前にも捜そうと努めたが無駄だったこと、月曜日が休みなので、できれば月曜にお見舞いに行きたいことなどを書き、「私の訪問をあなた(テュ)が望み、お許しくださるようなら、伺います。心からの愛情をこめて。あなたの息子、ジャン」と結んだ。

返事はすぐに来た。あまりにも早く。しかも父からの手紙には、何年もマレーを待ち焦がれていたとあった。「月曜とはいつの月曜か、電報で知らせてくれ」とも書いてあった。はやる気持ちを抑えきれない様子が伝わってくる文面だった。今まで音信不通だった父からの突然の愛情あふれる手紙。マレーは信じられない思いで、すぐに直近の月曜日に行くと電報を打った。

土曜日、マレーは母に内緒で日曜深夜の寝台車を予約した。その夜は、ジョルジュの新作バレエを母と見に行った。今度のバレエはリュリュが十分に目配りをし、オケは録音でダンサーの数も少なかった。ジョルジュは相変わらず美しく、バレエは見事だとマレーは思ったが、母には感動した様子はなかった。公演後に3人で食事をした。母がトイレに立ったすきに、マレーはジョルジュに明日の夜シェルブールに行くと打ち明けた。
「ロザリーには黙っていてくれ」
「わかった。明日、君の舞台が終わってから行くんだね。じゃあ、ぼくのほうの舞台が終わってからクルマで送るよ」

日曜日の朝。月曜日がはるか遠くに感じられた。旅行カバンの留め金をかけるとき、胸が高鳴るのを感じた。日曜日はゆっくりと過ぎていった。寝台車は深夜12時15分発。マレーには夜の公演があった。万が一のことを考えて、幕間の休憩時間を短縮してもらった。公演が終わっても、ジョルジュのクルマはまだ着いていなかった。渋滞で遅れているのだろう。マレーはタクシーを呼ぶことにして、ジョルジュには伝言を残して1人で出かけた。

寝台車は2人部屋で、同室になった男性はシェルブール高校の哲学教師だと言った。
「どうしてあんなさびれて薄汚い町へ行くんですか?」
「生まれ故郷だからですよ」
哲学教師は失言を詫びた。

月曜日、朝6時半。まだ暗いシェルブール駅に寝台車が着いた。誰もいないホームはこのうえなく陰鬱な感じだった。上からの小さな2つの灯りに照らされて、控えめな細い白いプレートにCHERBOUGの赤い文字が浮かび上がる。白く塗られた木製のベンチは雨ざらしでペンキが剥がれかけていた。

ほとんど眠れなかったマレーはホテルに入った。父との約束は午前10時だった。部屋でバスタブに水を張り、裸になったところで電話が鳴った。
「俳優のジャン・マレーさんですね」
フロント係だった。そうだと答えると、最初にチェックインしたときとは打って変わって丁寧な声が返ってきた。
「失礼いたしました。もっとよい部屋に移られますか?」
「いえ、結構ですよ。もうバスを使ってしまいましたから」
ゆっくり身支度を整えても、8時までかからなかった。幼いころ離れた故郷を訪ねたのは、これが初めてだった。ずっと来たいと思っていた。何より父に会いたかった。『悲恋(永劫回帰)』がヒットして、フランス中に自分の顔と飼い犬のムールークが知れ渡ったころ、ムールークを身分証明書代わりに、シェルブールで父を捜そうと夢想したこともあった。

コクトーには何度もその計画を話したマレーだったが、結局実行には移せなかった。母の話によれば、父は自分を嫌って暴力をふるった。新しい家族と暮らしているかもしれない。いまさら別れた息子が会いに来るのは迷惑かもしれない。そもそも、自分には会いたくないかもしれない。

マレーは街に出た。昔住んでいた家のあるイヴェット広場に本能が連れて行ってくれるのを期待した。だが、ダメだった。仕方なく道を尋ねる。教えられたとおりに行くと、突然生まれた家に出た。思い出の中の家とは違っていた。なによりもまず、圧倒的に小さかった。広場ももっと広いはずだった。家は物寂しく、薄汚れていた。まるでマルセル・カルネの映画のオープンセットのようだとマレーは思った。玄関に入ろうとして、通行人が不審げに見るのを感じ、引き返した。

10時まで歩くことにした。すると、街の人々が、「ボンジュール」と挨拶してくる。ジャン・マレーがシェルブール生まれであることを、狭い街の住民は知っていたのだ。サインを求めるでもなく、ただ帽子を取り、
「こんにちは、マレーさん」
と挨拶する。まるでマレーが一度もシェルブールを離れたことのない人間のように。マレーも挨拶を交わしながら歩いた。年老いた男性が立ち止まり、握手を求めてきた。

「お父さんに会いに来たのかね?」
「はい」
「お父さんのことはよく知ってるよ。同じ通りに住んでいるからね。ルロワ夫人のところだ。案内してあげよう」
その女性の名前は初めて聞いた。彼女が父の愛人だった女性だろうか?

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.08.12 20:05:05


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