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2008.08.15
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

数日後、今度はアンリの病状が悪化した。あと一晩もつかどうか――マレーは内心思っていた。ところが母はいつものようにアンリに小言を言ったり、忠告をしたりした。
「ママン、お願いだ。――休ませてくれないか」
絶え絶えの息の下で、アンリが懇願した。
すると、母は怒り出した。
「私の言うことが聞けないって言うんなら、出て行くわよ」
マレーは慌てて引き止めた。
「外出する場合じゃないだろ!」
「イヤよ。アンリは私がいらないって言ってるのだもの。出て行くわ」
「出て行くって、どこに行くんだよ」
「自分のアパルトマンに戻るのよ。もう金輪際、アンリの面倒は見ないわ」
マレーの腕を振り切って、母は出て行った。

その夜、アンリは亡くなった。
マレーは母の家に電話をかけて、アンリが重態だからすぐに来るように言った。
母は戻ってきた。門のところで、衣装係と立ち話をしているのが見えた。恐らく、アンリの死を聞かされて気も動転しているだろう――マレーはそう思って迎えたが、母は何も聞かされていなかった。

アンリの部屋で、ようやく彼女はすべてを理解した。すると、すさまじい勢いで神を罵る言葉を口にし始めた。――あたかも神が眼前にいるかのように…… 荒れ狂う母を見て、マレーは疲れ果て、麻痺した脳で考えた。

――ロザリー、神を罵るためには、まず信じる必要があるんじゃないか?

彼女は若いころは修道女を志すほど信心深い女性だった。修道院に入っていた彼女をむりやり結婚させたのは、彼女の父。その相手が、当時獣医学校に通っていたアルフレッド・マレー氏だった。

今の母は完全な無神論者で、かつて「仕事」と呼んでいた盗みも、完全にやめてはいないことをマレーは知っていた。十分すぎるほどの生活費を与えても、欲しがるものはすべて買ってあげても、治らない母の盗癖と虚言癖。

――ぼくはお金持ちになるよ。そうしたら、ロザリーはもう、仕事をする必要がないでしょ。
――そうなりたいもんだね。

マレーは母のためにも成功したかったのだ。母を救い、幸せにするために。マレーは確かに約束を果たしたが、母の病気は、返って見えないところで深く進行していった。

マレーは自分とコクトーの関係が最愛の母を苦しめたのではという自責の念を捨てきれずにいた。マドレーヌ広場に見つけたアパルトマンでコクトーと暮らすことを決めたとき、母はこれまでマレーが見たことのない鬼のような形相で2人の「不道徳な関係」を非難した。マレー自身の意思で決めたことだったにもかかわらず、彼女は責任をすべてコクトーに負わせた。

マレーが家を出て行くとき、母は息子が地獄に堕ちると叫んだ。息子は自分は不道徳なことは何もしていないと返した。それは、2人の間に起きた最初の、そして最大の諍いで、それからゆっくりと、四半世紀かけて築きあげた王国は崩壊していった。

息子は母への償いの気持ちを、ふんだんに与える金銭や高価なプレゼントに込めた。だが、それは対処療法にすぎず、華やかな息子の成功は親子の時間を奪い、2人だけの王国は完全に崩壊し、母をさらに孤独に追いやった。わかっていながら対処療法を繰り返したことで、いつしか息子の母への愛までツギハギだらけになってしまった。

アンリの葬儀の日、葬送の列でマレーは母の後ろにしたがった。コクトーがマレーにぴたりと寄り添い、離れなかった。それをジョルジュが遠くから見ていた。

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.08.15 14:59:16


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