仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2016.02.25
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カテゴリ: 国政・経済・法律
先日、山形県で32年間無免許のまま県立学校教諭として教えていた件で、任用無効の法理などについて記した。

■  山形県教委の教員任用無効の法理を考える (2016年2月23日)

この女性が受給した1億数千万円の給与は、全額返還となるのかどうか。ここには様々な論点が含まれている。前回の記事では、理論上は女性による根拠のない労務提供が県側の不当利得となり、県側はこれを女性に返還すべき義務を負うから、女性の負う給与返還義務と相殺できる余地があると書いた。

より突っ込んで考えてみたい。(思いつくままに記す。判例や学説の検討などは後回しです。)

1 労務提供による不当利得が成立するか

まず、女性の給与返還義務については、受益者である女性は悪意というべきで(法律上の原因を欠くことを知っている)、利息を付して返還する義務を負う(民法704条)。ここは問題ないだろう。そして、労務提供という県の受益の返還義務が問題となるが、受益者の県が善意とみるならば、返還額は現存利益に縮減されることになる(703条)。(県側には、しっかり調べるべきだという落ち度には大きいものがあるが、まずは善意であることとする。)なお、受益及び現存利益の存否が一応問題となるが、ともかくも7700人に授業を教えて単位を与えて、あるいは生徒指導をして卒業させたきたのだから、当人がいなければ他の教員を一人任用して従事させねばならなかったはずで、利益は存在したのであり、また、生徒達が卒業したということからは高校教育を施すという県の「利益」は現存していると考えて良いように思われる。

ただし、女性の労務提供は、その義務が本来存在しないことを知って行ってきたのだから、非債弁済(705条)であって女性側に返還請求権は生じないとも言えそうだ。この論点は相当に微妙な気がする。形式的にみれば、たしかに免許状がないことを知って任用されたし、いつでも白状して自ら違法状態を解消できた(そうすべき)だったから、法の保護に値しないというのは、正論だ。しかし、実質的に考えると、どうか。そもそも不当利得や非債弁済の制度があるのは、当事者の公平の観点から適正な結果を導くためのもの。実態としては、学校や生徒の求めに応じて長年にわたり教育活動を実践していたこと、教育を通じた人間関係を形成し、さらには給与が女性の生活基盤であったことなどを、どこまで評価してやれるか(やるべきか)。

2 時効の適用

不当利得の返還請求権の消滅時効期間は10年間。起算点は、請求できる時点であるから、県側の給与返還請求権は無免許を知った時点(つい最近)で、さほど問題はない。

問題は、女性側の返還請求権(上記の検討で請求権が発生するとして)で、起算点は権利行使できた時点(166条)、すなわち最も早くには任用された時点にさかのぼるということができるだろう。そして、その後、継続的に労務を提供したから、その時点時点で返還請求権の消滅時効が起算しているということになるのではないだろうか。結果として、現在から10年前までの部分については、女性は県の時効援用を拒むことができる、つまり県に返還請求できるということになると考える。

3 民法の適用があるか

さて、ことは公務員の任免と公務労働の問題だから、一般私人関係を律する民法の適用があるかが、そもそも問題となる。時効の期間や援用の要否などで違いが出ると思われるが、任免関係を通説である行政行為とみるか契約説をとるかどうかにかかわらず、勤務に基づく給与支給や労務提供の問題は、公の債権としての規律をあてはめるべきではないと考える。


以上、後に時間を見つけて補充します。





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最終更新日  2016.02.25 06:23:07
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