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はじまりの大地男は ただ 男らしく女は ただ 女らしく少年は ただ 少年らしかった鉄を含んだ土は 風に赤く燃やされ蟻塚は 硬く すべてを拒んでいる蒼い光孤独の穴いくつもの丘を越えユーカリの木々が林と呼ぶには離れすぎる間隔で永遠につづいているはじまりなんて いつもそうだはじまりは とてつもなく退屈でとてつもなく正しいしかしこの大地はそれを不変のものとした時間への反抗か時間との完全なる調和かそれは永遠にはじまりつづけるという完璧な美なのかもしれない男は女は少年は今日も耳を澄ます求めることも与えることもないその大地の声を聞くために--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 30, 2006
風が吹く風が吹いている大木を曲げ赤い花びらをむしり古い看板をはがし 転がす風が吹く風が吹いている閉ざされた窓を破り屋根を持ち上げ絨毯をめくり 探すマグネシウムの光もはや蟲の仔さえも逃げることはできないそうして幼い涙 ベッドにしがみつく僕らをも引き剥がすのだ木の葉のようにくるくるとまわり投げ出された空間無標識もなく信号もなく道さえもない風がいう少年よそれが自由だ僕らは恐れながら震えながら圧倒的自由その空間へ足をのばすその蒼白いつま先は空間を押し拡げ小さな空気の流れを生むそうして僕らの小さな気流はいつしか硬く柔らかく結びつき新しい風になるのだ風が吹く風が吹いている大木を曲げ赤い花びらをむしり古い看板をはがし 転がす--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 21, 2006
細い石の階段が過去へ導くのか見たこともない土蔵の街を僕はゆく巻き貝のからみついた網幾年も干されている手拭い両輪がはずされたスクーターが土に帰ろうと泣いている日本の端っこ誰も通らないくせに小さな二またの道がなんの根拠もない自信偉そうに選べと言う左だ太陽を追って歩く下りることをやめてしまった踏切育ちすぎた観葉植物は主を探す最後の板を渡ると岬だった最果ての地ブリキの小屋オレンジの光の中少年が だらしなく着たシャツを砂で汚しストローをくわえている弟を待っているのか僕はポケットの中のチョコレートをとり出すかどうかためらう--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 20, 2006
鳩はチラリと僕を見る僕はなにも持ってはいないよそれでも一羽 また一羽 舞い降りる犬はチラリと僕を見る僕はなにも持ってはいないよそれでも尻尾をふり走り回る僕に動物の言葉が話せたらなにも持っていないことを伝えられるのに鳩はチラリと僕を見る犬はチラリと僕を見るなんだ君たちは僕の中身を食べにきたのか鳩はチラリと僕を見る悲しい順に悲しい順に犬はチラリと僕を見る楽しい順に楽しい順に--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 19, 2006
拒まれた仔はどこへゆくビルとビルの間自動販売機の裏ビニール傘でつついてみるがいい悲鳴をあげて散らばり隙間という隙間へ消えてゆく寂しがり群がり固まりしかしけして一つにはならず故に大きな仔になるはずもなくただ疑い続ける遠い日確かになめた感覚心臓の裏あたりに予め用意されていた塊が破裂して胡椒の粒ほどの顆粒体内へ拡がる不幸になりたくてなる者は本当は誰もいないしかし不幸はなんの約束もなしに訪れるだが僕は知っている不幸は幸せの影幸せの落とす塵だから僕は目をこらす真白なしっくいの壁に朝の憂鬱なミルクに午後の気だるいカーテンに僕は探すのだ--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 19, 2006
朝日の昇る前ニワトリのさぼっている庭を通る新聞配達員を信じず友人宅の玄関の吹き抜けに張り巡らされた上流社会の直線を疑い排水口の中のゲンゴロウがけたたましくぶつかるのを怖がる僕は何だ僕の組成物質は日曜日の午後プードルの着る小さな赤い服を笑い読みもしない小説で鞄を重く垂らし用もないのに机の引き出しを開けては閉める僕は何だ何という生き物だ君は知っている僕以上に僕を知っている君は名前のない訪問者僕に記念品をくれるだから僕は君の道を通って会いに行く上下のない王冠をあたえるために--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 18, 2006
駅前の本屋が閉店する二十一年間ありがとうございましたとマジックインキの文字が告げるこの本屋の二十一年前を僕は知らないだが一昨日の店主の顔を僕は知っている人は店の上に店をつくる新しいものを更に新しいもので塗り潰す解ってる僕らはもう 拡がることができないだから僕らは今日も大空に手を伸ばして請うのだ空は応えず僕らは折り重なり積まれていく高く高く太陽に その翼が焼かれてしまう日まで--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 18, 2006
人々は振り返る乳母車の赤子を石垣の溝に咲くタンポポを往来の少女を夕暮れの犬の尻を人々は振り返る捨てられた自転車を蝋石で書かれた円を放課後の音楽室を雨の日の小川を人々は振り返る夕日が落とす鳥の影をおたまじゃくしの黒さを波板の留め金を少年の日の膝小僧をそれらはかつて確かに存在した憧れの代償誰かが言うそれは 人々ではなく お前自身だろうと僕は振り返るその男の蒼白い頬を固まった笑顔を--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね!
April 17, 2006
凍てつく夜空三日月はその欠片を取り戻そうと太陽を探している真鍮に良く似た色の天秤が砂漠の街に立つその子供等の正義はこの子供等の正義ではないだが 同じように母親の迎えに笑い父親の死に涙する争いを分割してゆけば隣人への憎しみになり平和を繙いてゆけば家庭の幸福になるのならばそれは僕たちの力の及ぶところにあるいつしか僕たちの子供等によって倒された天秤は忌まわしい記憶と共に砂の中に沈むのかもしれない--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね! 人気blogランキング
April 16, 2006
砂丘の終わるところ空の始まり浜茄子の花蟹の子等他に動くものは無いまるめた春着を枕に僕は目を閉じる遠く波の音に幼い日の唄を聞くのかくすぐられた心おかしくて目を開ける銀河の星は湧き出てさぼっている僕をせかすいいさ僕は立ち上がるそして 東へと向かうただ古い日記を捨てるために--------------------------------------------------------------------------↓今日の詩が気に入ったら、押してくださいね!
April 15, 2006
崩れた柱なのか 自然の石なのか僕は冷たい鉱物の上にいる闇が降りブーゲンビリアはその花を空中へ浮かべはじめる閉鎖された団地の中庭さびたブランコは真っ直ぐに垂れかつての幸福を僕に教える破れた障子置き去りにされたカーテン鳥もいない蟲もいないただ時折 冷たい風が伸びきった雑草を整えては過ぎる僕はノートを鞄にしまい星が帰るのを待つ
April 14, 2006
夕焼けに焼かれるものは少なくない信号機や屋上や絵日記やホームベースや課長だとか新入社員だとか殺される覚悟ではなく殺す覚悟だとかコーヒーやおやつまでオレンジ色はみんな焼いてしまうそうして地球の裏側で朝日にバトンを渡すのだ
April 14, 2006
窓の外に何を探す折り重なる柱四角い穴人たちは ぶつからないようにそれでも 自分のエゴで歩く間違えるな神ではないそれは犬だ4月特有のペンギンの群が夕暮れの交差点を渡る17時をまわり捕食する街は今日もその花をつけはじめるだから僕は明日のシーツにくるまり即席の安らぎに眠るのだ人なつっこい熟れた果実のその香りを感じながら
April 14, 2006
どうでもいいどうでもどうでもいいものにいっぱいくっつけて棘の不揃いな歯車かみ合わなくてギリギリ鳴るどうでもいいんだどうでもいいから壊れたっていいそう思ったら見えてきたなんだ君の歯車もどうでもいいものだったんだなんだなんだ僕らは二人でそれを捨てた
April 14, 2006
よく晴れた空を後ろに背の高いビルが交差する日差しが変わったのか今年の夏の暑さを予感させる一雨ごとに夏が近づいてくるそうかそうだったなあの午前中の涼しさ午後の暑さそして確実に訪れる夏の終わりを隠そうとする夜の切なさ忘れていた僕は夏が好きではない夏の夜の切なさは毒をもっているから
April 14, 2006
一段一段上がる人くだる人空へと伸びるこの階段を僕らは人生と呼ぶそこには踏み外すことなど存在しない上がるか くだるか一歩づつだだから僕はまたこの硬い平をしっかりと踏み動く上がるか くだるかたいした問題じゃないゴールが上にあるとは限らないのだから
April 13, 2006
階段をあがる背広 背広 背広夕闇を抜けツバメが雛に餌を運ぶパンタグラフは蜘蛛の足忙しく こすれる繰り返し繰り返すきっとどこかで 誰かがゼンマイを巻いているのだ
April 13, 2006
森は眠る大好きな仔等を育てるために山は眠る朝日に赤く応えるために人は眠る昨日の嘘を忘れるために今は皆 夢の中飴色のゆりかご僕は眠る何のためでもないただ深く眠るまた明日会おうまた明日会おう
April 12, 2006
ねらって着地したのかしくじったのかタンポポが線路のわきに咲くここからでも解る鮮やかな黄色誇り高き 垂直成る程着地した場所が自分の場所だと言っているのか
April 12, 2006
雨が上がろうとしている聞き分けのない子供のように長い間 だだをこねた暗雲が泣きながら 遠くへ逝く陽は我慢できずに 雲の隙間から飛び出し花々は本来の色を取り戻したすでに乾きはじめた道の上僕は空に礼を言う蒸発する水分が空気に土のにおいを混ぜるそれは若葉であり根であり命のにおい僕はポケットの中のものに羽根をつけ空へと逃がした
April 12, 2006
降りだしそうな空荷物の群れ異形の塔親しい人々を連れだし知らない者たちを連れてくる赤い光 黒い犬ライトグレーの空間を大きな影が切り裂いてゆく僕はフェンスに手をかけ大気の声を聞く
April 12, 2006
乳白色の空が街に冷たい霧雨を降らせている4月だというのに僕はコートを巻き付けて石畳を歩く家々の窓はカーテンを閉め公園にも人影は無く雨に濡れたベンチは笑いながら泣いている冬の日を恋しがっているのか冷たい風が路地を探す大丈夫こんな景色幼い頃に腐るほど見たから
April 11, 2006
路肩に咲く椿の前に 節子はもう1時間も立っている椿は 風にふかれる度に その大きな花を落として鈍い音をたてる節子は願った どうかそれ以上 落とさないで椿は不愉快に言ったなんて傲慢な娘だ 節子の願いとはうらはらに春の風は強く 空の上でゴウゴウとうなっているその間も休むことなく 椿は鈍い音をたてているそんなに奇麗に咲いたのにどうして全てをすててしまうの僕は必要の無くなったものを 持っているほどの余裕がないのさただ今日を死なずにこえるために 捨てているのだ奇麗だとは悠長な 花の気持ちも知らないで君はいつもあたたかな窓から ただ眺めているだけだろう節子のハンカチは もうその役目を果たさなかった一面に広がる赤い絨毯に節子はゆっくりとしゃがんだひとつ もらってもいい好きにすればいい 必要の無いものだ節子はひとつだけ拾うと 濡れたハンカチにくるんださよならさようなら うぬぼれた娘よ節子は通りを渡りアパートの黒いむき出しの階段を上がったそして安っぽい鍵を開け部屋に入ると一つしかない椅子にかけたそっと窓を開けて下を見た何も無い殺風景な闇に 先程の椿だけが花を落としつづけている節子の唇がかすかに動いたが 言葉にはならなかった節子はしずかに窓を閉め脱いだままで冷たくなったパジャマに着替えるとしきっぱなしの布団に入ったそして拾ってきた大きな赤い花を 枕元にそっと置いた
April 10, 2006
60センチ四方の小さな窓四畳半の和室の中央老女は行儀よく座卓についている正しく着込んだ和服真白な足袋その眼差しは小さな文庫のページへと注がれているtobacco今にも消えてしまいそうな錆びた看板僕は想うこの老女だって最初からタバコ屋のおばあさんではないかつてはタバコ屋のお嬢さんだったはずだそのころの彼女はどうだったろうかやはり今と同じようにこの部屋に座り小さな窓越しにタバコを売っているタバコ屋のマドンナそしてマドンナは小さな恋をして ある日母親になったのだ子を学校へ行かせこの部屋でタバコを売り夫の帰りを待つ彼女の生涯の 全てはこの小さな窓越しに見える世界本当に彼女は幸せだったろうか僕は少し寂しくなったその時老女はふと顔を上げ窓の外の僕を見たそして少し笑って会釈をした僕はあわてて歩き出した一点の曇りもない笑顔本当の笑顔なんだなんだ僕は恥ずかしかった小さな窓から見ていたのは僕の方だったのだ
April 9, 2006
ただの独りならいい誰かがくれば 笑顔に戻れるからしかし 孤独だとしたら誰かがきたとしても今の僕は孤独だからと笑うのを止めてしまうだろうだから僕は 今から孤独という名を殺しに行く大丈夫多分それは これからの人生に必要のない名だから名は時として欲深く人を縛りそのすべてを欲しがる名に惑わされるなそれはただの言葉だ分類されるなそんなものは昨日今日できたものだ自分の名前を口にだしてみたまえ君は人でありその名前以外の呼び方は存在しない天のつくりしもの以外はただの人間がつくったものなのだから
April 9, 2006
曇りなのか 晴れなのかまだ空が決めかねている正しく折られた朝刊の束ジョギングの男はいつもの道をやってくる芝は誇らしげに僕のサンダルを濡らす役目を終えた月は 白く空へ逃げるラジオ体操 第二オハヨウゴザイマスオハヨウゴザイマス僕は想うはやく夕闇が降り皆が目覚めてくれるといい
April 8, 2006
流れているのだと教えられなければ気付かない深い緑色の上つがいの水鳥誰かが夫婦なのだと指をさす動物に夫婦もなにもないただ一緒にいたいからいるのだたまにヒト科は言い訳がましく夫婦なのだから仕方がないという聞きたまえ夫婦は後だ一緒にいたいから夫婦になったのだ
April 8, 2006
朝の光は白く 食卓を焼く放送は過ぎた時間を繰り返し告げ母親は勝手口で音をたてる全ての直線は 空中で交差し僕はそれに触れないように 椅子につくエスプレッソマシンの埃をはらうと空中で光の帯になった小さなエスカレーターはそのまま雲の上までつながっている門だとか 許しだとか充電を終えた携帯電話がチケットになるわけでもあるまい
April 7, 2006
金色の髪を清潔に束ね少女は車窓から見つめるその眼差しはハローウインの子供この国に用意されたお菓子をもらいにきたいつもの街錆びた線路僕は知りたいその菓子が何なのかそしてそれは僕にも用意されているのだろうか
April 7, 2006
真理の翼を得た僕は20000マイルの飛行ある者は退きある者は過ぎるその場所にはもう誰も居ないしかし欲深いあなたの仕掛けた罠はその役割を果たすまで 死ぬことはない逃げなさいあなたがそこを訪れるたび毎に罠はあなたを見つけだすそして自分の存在意義をあなたに問うけして終わることのない後悔逃げなさい欲深いあなたの罠があなた自身を食い尽くしてしまわないうちに
April 7, 2006
10万人の中100万人の中16人の中僕は吐き出す産まれてきたのかあらかじめ用意されていたのか吐き出されたものは 美しいはずもなく幼稚で 羞恥と困惑に満ちているだけど僕は その言葉たちを愛しているその一片ごとが 絶え間なく語りかけ僕の中にあった 本当を教えてくれる僕はその代償として君たちをさし出すそうして手に入れた真理の翼優しい君は見ないふりをしてくれるだろう
April 7, 2006
夜は万物に闇ではないただ鳥など高いところに留まった者達から世界を隔てるのだ夜はそうして世界を少し休ませる仔は本来の足で歩き草花は呼吸を始める僕は湿った大地に寝そべり夜明けのオレンジを待つ
April 6, 2006
4月の雨が窓を叩く小さな音濡らされた者たちがかすかに漏らした吐息天高く産まれたその粒は音もなく まっすぐに空間を落ちてくる一つ また一つ幾千もの粒が降りそそぐ草花に生命を与え土を潤し石を洗い薄汚れたこのおでこにも口づけをくれる僕らは分け隔てなく濡らされこの星の者達と共に生きている喜びを知る
April 6, 2006
両の腕を伸ばしても何も触れるものもない空間空間浮んでいるのか落ちているのか上なのか下なのかどれだけの時間が流れたのか忘れてしまったしかし彼らは死んではいない遠すぎるがゆえの共振鳥になり魚になり獣になり若者になり乙女になり見る事もない星の会う事もない少年に言葉を送るキャラバンの馬の横でマングローブのほとりでバオバブの樹の下で少年たちはその澄んだ光を聞く
April 5, 2006
桜の花が散る今年も桜の季節が逝くと 誰かが言うしかし彼らの本当の一年はこれから始まるのだやわらかな葉をつけ 虫たちを育み鳥たちに その実を与え6月の雨に 唄い 真夏の日差しから 子供たちを守るだがその頃になると夏の悪戯彼らが桜であることを憶えている者はいないだから彼らはもう一度裸になって自分自身を見つめ直すくりかえしくりかえし幾百年も行われるその純粋さがまた来年も人々に美しいと言わせるのだ
April 5, 2006
愛した者愛された者愛を捨てた者奪った者罪を犯した者笑った者泣いた者朝になれば太陽はみんなを照らす平等になにもなかったかのようにもしかしたら明日は今日とはつながっていないのかもしれない
April 4, 2006
僕は眠らなければならない深い海の底に沈んだ一枚のコインは本来の価値を忘れ魚たちの月になりたかった飛沫と呼ぶには あまりにも小さな波紋地中海の白い家々しかし月もまた太陽の届かない深海においては輝けるはずもないそれでも魚たちは異国から来た若者を歓迎する深い海の底に沈んだ一枚のコインは口づけをされるたびに クルクルとまわりその弱い光を 反射させるだから僕は眠らなければならないその光に 僕まで焦がされてしまわないように
April 4, 2006
ぶつかってぶつかって相手を削って自分を削ってここへ辿り着いた君たち拾い上げその完成されたまるみを撫で優しさとエゴイズムの仔この河のいちばん深いところへ僕は投げ込むおやすみおやすみ
April 4, 2006
もう間に合わない 閉ざした僕のココロ深く黒い地球の底に 沈んでった時々キラキラ光る 小さな空気の欠片一生懸命かき集めて 希望にした誰のせいにしたって 気付いていればいいさ心を折るのは結局 自分自身なんだ必死で泳いでった場所に 何もなかったとしてもがんばったって自分がきっと 答えを知る手に残ったものは 小さな種だけど僕とともに眠って 目を覚ます時誰にも負けないくらい 強い芽を吹く言い訳や 泣き言や 叫びだっていいさ心の中育ったもの 声にしてその分厚い大地を 砕いて飛び出すんだ戻れなくたっていいさ土の中眠ってた 孤独の種が今空に向かって まっすぐに伸びる大嫌いだった僕も 大好きだった僕も 力をくれるこの命終わるまで 伸ばし続けよう手に触れる 全てのものが希望だから心が折れなきゃ 何度でも始められるんだいつか大きな花 開いてゆくんだ
April 3, 2006
見下ろすと、漆黒の闇の底に、滔々と黒い河が流れている。時折、キラキラと光って見えるのは、魚がはねた波紋だろうか。20年、否、もっとか。久しぶりだった。こうやって橋の手すりの上に座るのは。見上げれば、満開の桜。街灯に照らされて、浮かび上がった花は、幾重にも折り重なって夜空を隠している。27時をまわると風が冷たさを増し、長袖のシャツに春用のコートではさすがに寒い。僕はかじかんだ手を温めるため、今しがた買ってきた缶コーヒーを開けた。もうずいぶんぬるくなってしまってはいたが、冷えきった身体にはそれでもありがたかった。風邪をひくかな?そう考えたとき、今週の仕事のスケジュールを気にしていることに気がついて、少し苦笑した。もしもこのままこの河に落ちてしまったなら、スケジュールどころではないのにな。最後に見たものが桜の花だったら、あるいは僕の人生も格好がつくのだろうか?桜はなにもこたえずに、黙って咲いている。静かすぎて、この目の前の花が、死んでいるようにも見える。ふいに聞き覚えのない鳴き声が聞こえ、見下ろすと、降りしきる桜の花の落ちてゆくその先に、小さな水鳥が浮んでいた。何も言わない桜のかわりに、お前がこたえてくれたのか。水鳥は知らん顔で、藻を食べ始めた。僕は橋の手すりから路上に飛び降りると、コートのボタンをあわせた。
April 2, 2006
森へ入ってどれくらいたったろうか。枯れ枝を踏み、伸びた芦をかき分け進んでゆくと、突然に視界が開ける場所へと出た。ポルカドットは、自分の足下から伸びるその風景に固唾をのんだ。彼の目の前一面を見たこともない真赤な花が埋め尽くしているのだ。ポルカドットはその美しい花を踏まないように、左右に別のルートを探す。声がした。「若い人。どうぞ、そのままお入りなさい」何処にいたのか。見ると、異常に背の高い老紳士が花の中に立っていた。「はい。でも」「大丈夫。私の花は、そんなに弱くはない」老紳士は笑った。ポルカドットはそれでも花を踏まないようによけながら進んでいった。かき分ける毎に、花は甘く香った。老紳士のそばまで行くと、背が高いのではなく、枝を組んだ高い三脚のようなものに座っていることが解った。老紳士はここへ座りなさいとばかりに、自分のとなりを手のひらで示した。旅人としての心得を得ていたポルカドットは、ためらい無くそこへ並んだ。「どうだね?たいしたものだろう」「はい。美しい花ですが、僕はこの花を見たことがありません」「そりゃそうさ。これは私が造った花なのだから」「不思議ですね。ありふれた形なのに、悲しさとあたたかみを感じる」しばらくの間、無言で二人は花を見つめていた。夏の終わりをつげる虫たちの声だけが、絶えず聞こえている。沈黙をやぶるのはいつものようにポルカドットではなかった。「ここへ人が来るのは、この30年で始めてだよ」だいたいこんな感じで、人は自分の記憶を話し出す。旅慣れたポルカドットには解っていた。だから話の糸口をいつも造ってあげるのだ。「あなたは、ここで何をしているのですか?いえ、さしつかえなければ聞かせてください。それが旅人としてのせめてもの楽しみですから」老紳士の口角がすこし上がった気がした。ポルカドットは口髭に隠れた大きなしわを見た。「ペテントスという小さな街に産まれた私は、幼い頃から花に異常な興味を持っていた。3歳の誕生日に花の図鑑をもらい、6歳のころには世界中の花の名を言えた。経済的に裕福だったせいもあり、10歳の誕生日には自宅の庭をまるごと美しい花だけで埋め尽くした。それが、某大富豪の目にとまり、自分の家の装花を一手に任せたいという申し出を受けた。そしてその美しい花の選択は絶賛され、記者にとりあげられ、またたくまに国中へと拡がったのだ。こうなると、黙っていないのが花職人達で、自分の育てた花を一目見てもらおうと、国中から私の前に集まった。なにしろ、私が一言奇麗だと言えば、その花は飛ぶように売れたからだ。20歳になった時、私はもっと世界中の花が見たいと思った。そこで世界的な花のコンテストを開き、最優秀賞に自分の名前を付けた」「マリオット・フレネール賞」ポルカドットが口を挟んだ。老紳士は苦笑して続けた。「世界中から、花職人たちがこの賞を目当てに集まった。受賞者には多額の富が約束されたが、しかし、多くの者たちは、私の度を超えた辛口なコメントと共に吐き捨てられた。私が醜いとか、品がないという言葉をつけた花々は、まったく売れなくなり。種ごと捨てられ、二度と栽培されることはなかったのだ。それからも、私はその厳しい批評により名声を上げつづけ、50歳をむかえるころには、世界的な大富豪となっていた。欲しいものはなんでも手に入った。私無しでは、花など咲くこともできないだろうと確信していた。だが、ある年のコンテスト会場で、最愛の孫の手を引いて会場を巡っていた時のことだ。そのちいさな女の子は、せわしなく辺りを探している。私は不思議に思い、孫に聞いてみた。「どうだ?きれいな花がいっぱいあるだろう」「うん。でも、おじいちゃんの育てた花はどこ?」その言葉を聞いて、私は自分の顔から血が引くのが解った。まるで足下がグラグラと揺れているようで、立っていられなくなり、その場にしゃがみ込んでしまった。言われた!言われた!先生だの師匠だのとあがめたてられ、何でも手に入れることができる私だが、なんのことはない!自分では花を育てもしないで、ただ永遠の美だとか、品がない駄花だとか、言いたいことを言ってきた。なぜもっと早く気が付かなかったのか?いいや、気が付いてはいたさ。私は怖かったのだ。自分にもしも花を育てる才能が無かったらと思うと。だから、他人が育てた花を批評することで、自分の才能に置き換えてきたのだ。世界的なコンテストを開いたのもそうだ。世界の頂点を良しと言えば、私はその上に君臨することが出来るからだ。ずっと解っていたのだ。畜生。畜生。その日以来、私は世間から姿を消した。そして、誰も知る者のいない、澄んだ水のある土地を探したのだ。私は育て始めた。誰の目をも気にすることなく、自分の思ったようにやった。なんども失敗して、なんどもダメにした。そしてこの花がここを埋め尽くした年、私は泣いた。わんわん泣いた。嬉しくて泣いたのではない。その時になってはじめて、自分のしてきたことを本当に理解して、悲しくて涙が止まらなかったのだ。花に良いも悪いも無かった、“正しい花”など初めから無かったのだ。その良さが解らないのは、自分の器が小さかったから、自分の感性では見つけられなかっただけなのだ。職人達はみんな、一本一本心を込めて育てていたんだ。だってそうしなきゃ、一本だってまともに咲いたりはしない。それを私は、品がないだの、よく見る駄花だのと吐き捨てた。この世界に一本だって同じ花など無かったのに。私無しでは、花など咲くこともできないだろうなどとどうして想ったのか?花は私が産まれるずっと前から、ここにあったというのに。私は、彼らに謝りたい」老紳士は、顔をくしゃくしゃにして泣いた。ポルカドットは、その表情に嘘はないと感じたが、情に流されることはなかった。「人は一度口に出してしまった言葉を引き戻すことはできない。だからこそ、常に思いやりというものを持っているのでしょう。あなたが潰した人々、多分、財産を失った方もいるのでしょうね。その家族はどうなったのか?子供は?僕は、年老いて誤るような生き方をしてきた人に大丈夫などとは言えません」老紳士はわんわんと声をあげて泣いた。ポルカドットはつづけた。「だって、僕が心に無い気休めを言うような者だったら、あなたのその想いを彼らに伝える時、信じてもらえそうにないですよね。はじめから、そのつもりだったのでしょ?」老紳士は薄茶色のハンカチで涙を拭くと、上着の内ポケットから小さな紙の包みを取り出した。「彼らの街へ行くことがあったら、渡して欲しい。これが咲く時、私の想いが伝わるはずだ」小さな音をたてて開くと、そこには数粒の花の種が入っていた。ポルカドットはそれを自分の上着のポケットへ大切にしまうと、花の中へと降り立った。そして少しの間その赤い花弁に目をやり立ち止まったが、すぐに茂みの中へと消えていった。
April 1, 2006
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