愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

2003.11.02
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以前の日記

手塚治虫が『鉄腕アトム』『リボンの騎士』といった少年少女向けのマンガと平行して『ブラック・ジャック』『奇子』『きりひと賛歌』といった大人向けのマンガを描いていたことは広く知られている。しかし藤子・F・不二雄が『ドラえもん』『パーマン』などと平行して、大人向けコミック雑誌に短編を発表していたことは、意外と知られていない。

この短編集『ミノタウロスの皿』に収録されている作品は、どれもシニカルで時に終末的なラストを迎える。藤子先生お得意の「非現実性」や「ファンタジー性」はここでも健在だが、この作品における「非現実性」「ファンタジー性」は必ずしも夢を与えてくれるわけではない。奇妙でブラックで、暗澹たる気分にさせられる作品集である。

その中でも白眉なのは『ヒョンヒョロ』という30ページ強の作品である。

この『ヒョンヒョロ』には宇宙から来た、ウサギによく似た可愛らしいキャラクターが登場する。その滑稽な風貌と飄々としたキャラクターから藤子先生特有の夢のあるファンタジー作品であることを予想させるが、ラスト4ページでその可愛らしいキャラクターは恐怖の権化へと変貌する。夜明けと共に迎えた寒々しいラストにゾッとさせられる、衝撃的な作品である。

『劇画・オバQ』もある意味衝撃的な作品である。

大人になった正ちゃんのもとに15年ぶりにオバケのQちゃんが現れる。Qちゃんはオバケであるから歳を取らないが、正ちゃんは確実に大人になっていた。そして彼らを取り巻く現実は大きく変化していた。それを察したQちゃんは静かに去っていくのである。

『オバケのQ太郎』というマンガは「非現実性」を強く押し出した名作であるが、この『劇画・オバQ』は「現実性」が強い。ここでのQ太郎は、現実を描くためのスパイスのような存在である。どうにもこうにもやり切れない、切なくて胸がしめつけられる作品である。劇画調に描かれたラストは涙を禁じえない。

タイトルにもなっている『ミノタウロスの皿』もとても面白い。

宇宙を漂流していた地球人は、行き着いた星で少女ミノアに恋をする。しかしその星の支配者は牛にそっくりの「ズン類」であり、ミノアたち人間たちは「ウス」と呼ばれ家畜として扱われている。しかもミノアはとびっきりの家畜として、毎年開かれる「ミノタウロスの皿」という祝宴での食料に選ばれているのである。

ここで感じられるのは「価値観の違いから来る矛盾」である。このマンガの主人公である地球人は、人間にそっくりであるミノアが牛にそっくりな民族に食べられることに憤りを感じる。しかしその星ではそれはごく当たり前のことなのである。生活が違えば価値観が異なってくるのは当然のことである。藤子先生は「クジラは賢いから殺すな」と同じような矛盾をこのマンガで描きたかったのであろう。

そう考えると藤子先生の作品には「価値観の違い」を描いた作品が多い。特に宇宙人を扱った作品ではそれが顕著である。徹底的に非現実であるファンタジー作品から、「人間がいかに矛盾した存在であるか」ということを浮き彫りにしている。藤子先生は作品を通じて、凝り固まった固定概念から人々を開放しようとしていたのかもしれない。

少なくとも私が抱いていた藤子・F・不二雄のイメージはこの作品でちょっと変わった。「こんなマンガも描ける人だったんだ」という感慨と、毒っ気あふれる視線にちょっとニヤリとしたり。荒唐無稽に見えて、実はリアリティに満ちている。この作品集での藤子・F・不二雄の視線は的確に未来を捉えている。そんな気がしてならない。





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最終更新日  2003.11.03 01:17:03
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