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9月21日にナイロビにあるショッピング・モールがアル・カイダ系のアル・シャバブに襲われ、67名以上が死亡、多くの負傷者が出たようだが、ここにきて胡散臭い雰囲気が漂い始めている。この襲撃をケニア当局は前日に知っていて、事件の数時間前にはケニアの情報機関員が現場に配置されていたというのだ。 それだけでなく、人質が取られた直後にはイスラエルの治安部隊が中に入ってケニア人部隊を指揮したと伝えられ、イギリスのMI6も支援、また襲撃に遭遇した世界銀行の弁護士によると、アメリカの治安チームもいたという。これだけの体制で待ち構えていたにしては犠牲者が多すぎる。よほど間抜けだったのか、別の理由があるのか。ちなみに、イギリスとアメリカとアル・カイダはリビアやシリアで同盟関係にある。 襲撃グループのリーダーはイギリス出身のサマンサ・ルースウェイト、通称「白い未亡人」だと言われている。夫はジャマイカ生まれのジャーマイン・リンゼーで、2005年7月にロンドンで爆破事件を起こし、その際に死亡している。グループにはイギリス人とケニア人のほか、アメリカ人、カナダ人、フィンランド人が含まれていたようだ。
2013.09.30
シリアの反政府勢力は一貫して「西側」、イスラエル、湾岸の産油国から支援を受けてきたが、その内部にはいくつものセクトが存在している。そのセクトを統一するため、アル・カイダ系のジャバト・アル・ヌスラを中心とする「イスラム主義者同盟」が結成されるという。反政府軍の75%がここに結集することになるようだ。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制転覆プロジェクトで地上軍の主力だったのはアル・カイダのLIFG。押収した武器/兵器は基本的にシリアへ送られ、バシャール・アル・アサド体制を転覆させるために使われている。化学兵器も持ち出され、シリアへ運び込まれた疑いがある。シリアのアル・カイダへ流れるのは自然だ。 この武器輸送を仕切っていた人物が現在のCIA長官、ジョン・ブレナンだともいう。その積み出し拠点は反カダフィ軍の拠点だったベンガジ。リビアからシリアやマリなどへの武器/兵器や戦闘員の輸送は2012年9月、ベンガジのアメリカ領事館が襲撃されてクリストファー・スティーブンス大使を含むアメリカ人4名が殺されてから中断しているとする情報もある。 武器/兵器や戦闘員の供給はサウジアラビアやカタールが担当してきたと言われているのだが、今年の7月にムスリム同胞団/カタールを背景に持つモハメド・モルシ大統領が排除され、サウジアラビアを後ろ盾とする勢力が実権を握った。サウジアラビアとカタールとの対立が深刻化しているのかもしれないが、シリアの動きをみると、決着がついた可能性がある。
2013.09.30
シリアにおける化学兵器の廃棄を定めた決議案が国連の安全保障理事会で9月27日に採択された。反政府軍に対してもこの決議は適用されるとロシア政府は説明している。今回、国連憲章第7章の制裁を実施するためには新たな決議案を採択することも定められているので、直接的な軍事介入への道を開くために外国政府が今回の化学兵器話を口実に使うことは難しい。 勿論、化学兵器はシリア情勢の本質とは無関係な話。シリアの体制を転覆させるためのプロジェクトを推進してきた国々、つまりアメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルなどは、化学兵器の使用を直接的な軍事介入の口実に使おうとしただけだ。こうした勢力は目的を達成するため、傭兵を雇い、武器/兵器を供給、戦闘員を軍事訓練してきた。が、思惑通りには進んでいない。 ターゲット国の体制を倒すために「反体制派」を利用した後に正規軍を直接介入させるというシナリオはアメリカの得意技。そのプロトタイプと言えるのがキューバへの軍事侵攻計画だろう。 テキサス大学のジェームズ・ガルブレイス教授によると、1957年にアメリカ軍はソ連に対する先制核攻撃計画をスタートさせ、63年後半にはソ連を核攻撃するというスケジュールになっていたという。その頃になれば核弾頭の輸送手段として長距離爆撃機のほかICBM(大陸間弾道ミサイル)も準備できるという見通しが立っていたようだ。 当時のソ連としては中距離ミサイルで対抗するしかなかったのだが、そのためにはアメリカ本国の近くに発射基地を建設する必要がある。そこでキューバは米ソ両国にとって重要な場所になった。アメリカの好戦派がキューバを軍事制圧しようと試み、ソ連がミサイルを持ち込もうとした理由はここにあるだろう。 キューバへの体制転覆プロジェクトは1950年代、ドワイト・アイゼンハワー政権の時代に始まるのだが、亡命キューバ人がキューバのピッグス湾(プラヤ・ギロン)への上陸を試みた1961年4月当時はジョン・F・ケネディが大統領になっていた。亡命キューバ人の部隊が軍事侵攻に失敗すると、すぐにチャールズ・キャベルCIA副長官は待機していたアメリカ軍の戦闘機を出撃させようと大統領に進言する。が、この要求を新大統領は却下してしまった。 そのとき、アメリカ軍の直接的な軍事介入を正当化する目的で立てられていた計画がある。ノースウッズ作戦だ。アメリカの諸都市で「偽装テロ」を実行、最終的には無線操縦の旅客機をキューバ近くで自爆させ、キューバ軍に撃墜されたように見せかけ、「反撃」という形で軍事侵攻しようという「偽旗作戦」だ。この作戦で中心的な役割を演じていたのはライマン・レムニッツァー統合参謀本部議長である。 結局、キューバの軍事制圧、ソ連への先制核攻撃を目論んでいたCIAのアレン・ダレス長官やキャベル副長官は解任され、レムニッツァー統合参謀本部議長は再任が拒否されている。このように好戦派の野望に立ち向かったケネディ大統領は1963年11月にテキサス州ダラスで暗殺された。 シリアの体制転覆プロジェクトも基本的なシナリオは似ている。このプロジェクトを推進している勢力は傭兵を雇い、武器/兵器を与えて軍事訓練、シリアへ「反体制派」として送り込んできた。外国勢力は特殊部隊を潜入させているようだが、正規軍は投入できないで現在に至っている。正規軍投入の口実として「化学兵器の使用」が使われたのだ。 今年3月、こうした外部勢力はシリア政府軍が化学兵器を使ったと配下のジャーナリストに宣伝させるが、このときは攻撃されたのがシリア政府軍の検問所であり、死亡したのはシリア軍の兵士だということから反政府軍が使ったとイスラエルの新聞にも指摘される始末。国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使用した疑いは濃厚だと発言していた。この件に関し、ローレンス・ウィルカーソン退役大佐はイスラエルが「偽旗作戦」を実行した疑いがあると発言している。 そして8月のダマスカス郊外における「攻撃」。今度は反政府軍が支配している地域で起こったのだが、国連の調査団がダマスカスに来るのに合わせるかのような攻撃で、しかも被害者はラタキアなどほかの地域から連れ去らてきた人びとだという疑いが指摘されている。(PDF) 相当無茶な設定の話に思えたのだが、アメリカの有力メディアはシリア政府軍が化学兵器で攻撃したと大合唱、一旦は攻撃必至という状況だった。この流れを変えたのがロシア政府が国連で示したとされる衛星写真などの証拠。反シリア政府軍が支配しているドーマから8月21日未明に2発のミサイルが発射され、ゴータに着弾したことをそれらは示していたとされている。この後、バラク・オバマ政権は窮地に陥る。その後、化学兵器を搭載した大型ミサイルを反政府軍が発射するところだとする映像もインターネットに登場した。 さらに、9月の上旬にも反政府軍が化学兵器を使用したとする情報が加わる。反政府軍に拉致されていたイタリア人ジャーナリストとベルギー人教師が解放されたのだが、その教師は、彼らを拘束していた戦闘員が8月に化学兵器を使ったのは反政府軍だと話しているのを聞いたと証言しているのだ。 ゴータ周辺には、サウジアラビア系の反政府軍部隊がいて、その部隊が使っていた兵器庫には化学兵器と思われるものも保管されていたと反政府軍兵士の父親が証言している。この証言が事実なら石油を使い、世界に大きな影響力を及ぼしているサウジアラビアが窮地に追い込まれる可能性がある。この辺の事情は本ブログで書いたことなので、今回は割愛したい。 シリアの体制を転覆させようとしている目的として考えられるのはイスラエルの戦略、エネルギー資源の利権問題、戦争ビジネスの思惑など。体制転覆を狙う勢力はプロジェクトを放棄したわけではないはずで、いかにして今回の国連決議を打ち破るかを必死に考えているはずだ。
2013.09.29
アメリカのメディアはイラン大統領の発言を「誤訳」することになっているらしい。9月24日にハッサン・ロウハニ大統領がCNNのインタビューに応じた際、大統領は「ホロコースト」という単語を口にしていないにもかかわらず、CNNの「翻訳」では登場、それだけでなく、言ってもいないことを大統領の発言として流している。実際は、どこかの国の首相と同じように、問題を「歴史家」に丸投げして逃げている。 CNNの説明では、イラン側が雇った通訳の問題だとしているのだが、インタビューしたクリスティーネ・アマンプールは流暢なペルシャ語を話すらしいので、今回のような「捏造訳」はすぐにわかったはず。彼女が気づかなかったとしても、CNNにはチェックする義務がある。ただ、ロウハニ大統領も英語に堪能だと言われているので、大統領側とCNNが共謀した可能性もあるだろう。 マフモウド・アフマディネジャド大統領の場合、別の方向で「誤訳」されていた。「エルサレムを占領しているこの体制は歴史のページから消えるだろう」という歴史的な予言を「イスラムは地図から消し去られるべきだ」という攻撃的な内容に変えられ、広められたのである。 また、アメリカ議会の情報政策小委員会は、イラン大統領が「ユダヤ人が虐殺されという神話を広め、これを神、宗教、預言者の上に置いている」と発言したと報告しているのだが、実際は「ホロコーストの名の下に彼らは神話を作り出し、それを神、宗教、預言者よりも価値あるものだと見なしている」と話していた。ホロコーストを否定したわけではない。 ホロコーストを西欧の作り話だとアフマディネジャド大統領は話したと報道するマスコミが今でも存在するようだが、これは間違い。こうした「誤訳」はすでに指摘されているわけで、単に怠慢なのか、確信犯なのか・・・
2013.09.27
2005年4月にJR福知山線で脱線事故が起こり、乗客106名と運転士1名が死亡、600名近くが負傷した。航空事故でも言えることだが、事故調査委員会は真相を封印するのが役割のような存在で、このケースでも証拠隠滅の疑いがある。が、それはともかくとして、この事故に関する裁判の判決があった。 JR西日本の井手正敬元会長、南谷昌二郎元会長、垣内剛元社長の3人が業務上過失致死傷罪で起訴されていたのだが、神戸地裁の宮崎英一判事は全員に無罪を言い渡した。「脱線転覆の危険性を予見できたと認められず、自動列車停止装置(ATS)設置を指導する注意義務があったとは認められない」ということらしい。 現場カーブの半径半減工事が事故の一因になっているようだが、カーブの半径が小さくなれば危険性が増すことは自明のこと。安全に電車が走行できるのかどうか、あるいは走行の条件を検討する義務が会社にはあり、そうした検討をする仕組みを作る義務が経営幹部にはある。 「経営幹部は、半径や制限速度など現場カーブの危険性を認識する具体的な機会はなかった」とするならば、それ自体が経営上の大問題であり、現場のような「半径300メートルの曲線自体は珍しいものではない」とするならば、危険な場所がそれだけあることを意味する。 車両の台車にしても、車両の編成にしても、過密ダイヤにしても、あるいは懲罰的で絶対服従を強いる「日勤教育」にしても、根本にあるのは経営者のカネ儲けと権力への飽くなき欲望。そうした中、安全性は軽視されていたのである。 何万人という社員を抱える会社の社長が業務内容の全てを把握していなかったことが問われているのではなく、安全よりカネ儲けを優先する仕組みを作り上げた経営方針が問題なのである。そのひとつの結果が福知山線での脱線事故だということだ。別の場所で同じような事故が起きなかったのは幸運なのだと考えなければならない。 そうしたJR西日本という会社の仕組みが今回の事故を引き起こし、多くの人から命を奪ったわけで、経営者が責任をとるのは当然の義務である。一種の組織犯罪だとも言えるだろうが、神戸地裁の宮崎英一判事は組織犯罪を犯罪とは認めなかったわけだ。 それに対し、個人の過失に対して日本の裁判所は非情なまでに厳しい。2007年12月に愛知県で痴呆で要介護4で91歳(当時)の男性がJR東海の東海道線共和駅で線路に入り、電車にはねられ死亡しているのだが、この事故で名古屋地裁の上田哲判事は男性の妻と長男に約720万円を支払うよう命じている。 男性の妻は当時85歳で、しかも要介護1。その当時、週6日デイサービスを使い、妻だけでなく、長男の妻も介護に加わっていた。 家族としては精一杯の対応をしているように思えるのだが、上田判事は男性の徘徊は予見できた主張、家に併設する事務所出入り口のセンサー付きチャイムの電源を入れるなどの対策をせず、常に男性を見守るヘルパーを配置せず、妻も目を離すなど注意義務を怠ったとして損害賠償を認めたという。その一方、線路への侵入防止対策を十分にとらなかったJR東海は不問に付している。 痴呆老人を介護する家族への負担が悲劇を生むことも少なくない。そうした現実が問題になったこともあるが、福祉を切り捨てる流れの中、介護の責任を個人の押しつける判決だと言える。 多くの人が指摘しているように、この判決は認知症の人を拘禁しろと言っているに等しいのだが、家庭でそのようなことは不可能。施設で拘禁するということになると、収容所のようになるだろう。企業のカネ儲けを邪魔する人間は早く処分しろと暗に強制しているようにも思える。カネがあれば施設を利用し、なければ・・・
2013.09.27
シリアへ送られたアメリカの支援物資は武器/兵器であろうと、非軍事であろうと、最終的にイスラム武装勢力の手に渡ると言う人がいる。どの程度かはともかく、そうした集団の手に支援物資が流れていることをうかがわせる写真がインターネット上に存在していることも確か。例えば、USAID(米国国際開発庁)が提供したと思われるテントの中にイスラム武装勢力の戦闘員らしき人物3名が立っている写真がある。この機関は1961年に設置されてからCIAと密接な関係にあることは有名で、98年から国務省の監督下に置かれても状況に大きな変化はない。 クーデターや破壊活動の際、しばしばUSAIDの名前が浮上する。例えば、昨年9月にボストン・マラソンのゴールライン近くで起こった爆破事件。その容疑者とされた兄弟のオジ、ルスラン・ツァルニは1992年から2年の間、USAIDの「顧問」としてカザフスタンで働いている。 そのカザフスタンでルスランは2005年4月に石油会社で役員になるのだが、この会社を経営はハリーバートンの元経営者。この会社のCEOをリチャード・チェイニーは2000年まで務めていた。 ルスランはサマンサ・フラーという女性と結婚しているのだが、その父親はCIAの幹部だったグラハム・フラー。CIA時代にフラーはトルコ、レバノン、サウジアラビア、イエメン、アフガニスタン、香港を担当、1982年に近東・南アジア担当の国家情報オフィサーとなり、86年には国家情報会議の副議長に就任、88年には国防総省系のRANDコーポレーションへ移っている。この関係からもCIAとUSAIDとの関係を推測できる。 また、2002年にベネズエラで実行に移され、失敗したクーデター計画にもUSAIDは関係している。このクーデター未遂の黒幕として名前が挙がっているのは、ネオコン(親イスラエル派)のエリオット・エイブラムズ、キューバ系のオットー・ライヒ、秘密工作の常連であるジョン・ネグロポンテ。アメリカの武官、例えばジェームズ・ロジャーズ中佐の関与も指摘されている。WikiLeaksが公表した外交文書でも、USAIDがベネズエラのウゴ・チャベス政権を倒す工作をしていたことを確認できる。 ライヒは1981年から83年までUSAIDの次長補を務めていたが、ネグロポンテは1981年から85年までホンジュラス駐在大使。この時期、ホンジュラスでは「死の部隊」が暴虐の限りを尽くしていた。ちなみに、もうひとりのエイブラムズは1981年から85年まで国務省で人権人道問題担当の次官補。人道人権、USAID、死の部隊がワンセットだ。 このUSAIDからの資金で活動しているのがNED。ロナルド・レーガン政権が心理戦を展開するために始めた「プロジェクト・デモクラシー」に基づいて1983年に創設されている。ターゲット国の体制を倒す、あるいは作り替える下準備をする機関。要するに、新自由主義的な強者総取りシステムを世界に広げ、欧米の巨大資本が富を収奪しやすい環境を作ることが活動の目的だ。 USAIDは昨年9月、ロシアのウラジミール・プーチン大統領から同国での活動を10月1日までに中止するように命令され、今年5月にはボリビアのエボ・モラレス大統領から追放されている。USAIDの背景は広く知られている話であり、対応が遅すぎるという意見も少なくない。もっとも、まだ動いていない多くの国よりはましだが。
2013.09.27
戦争の目的はカネ儲けである。耕作地を占領する、資源を奪う、より直接的に財宝を略奪する、20世紀には賠償金を得る、最近ではカネ儲けしやすい環境に作り替えるということもある。アメリカ海兵隊のスメドリー・バトラー少将は戦争を押し込み強盗になぞらえているが、その通りだろう。「政治の継続」などという「御上品」なものではない。集団的自衛権とは強盗団の下っ端になるということ。 21世紀に入り、アメリカはアフガニスタン、イラク、リビアを先制攻撃、シリアに対しても傭兵を使って体制転覆を目指し、軍事介入している。勿論、軍事力を行使すればコストが財政にのしかかり、様々なリスクもあるが、それ以上のメリットがあるから侵略するわけだ。支配層のメリットには、イスラエルの戦略、エネルギー資源の利権問題、戦争ビジネスの思惑などがある。 千葉大学の酒井啓子教授が言うように「シリアは今の米国にとって、多大なコストをかけて軍事介入するに足りない存在」(朝日新聞、9月26日付)ではあるが、イスラエル/ネオコン、イギリス、トルコ、サウジアラビア、カタールといった国々の場合は違う。こうした国々にアメリカの支配ステムは操られている。 本ブログでは何度か書いたことだが、リビアやシリアの体制を最も熱心に転覆させようとしてきた国はイギリス。今年6月にフランスのテレビ局LCPが放送した番組の中でロランド・デュマ元外相は、シリアで戦乱が始まる前、イギリスの高官からシリアに反政府軍を侵攻させる準備をしているという話を聞いたと証言している。その理由は、シリアがイスラエルと同調しないことにあるという。 イスラエルのマイケル・オーレン駐米大使もシリアに対するイスラエルの姿勢を明確に語っている。エルサレム・ポスト紙のインタビューで、イスラエルは最初からシリアの体制転覆を望み、アル・カイダを支援してシリアのバシャール・アル・アサド体制を倒そうとしてきたと言明したというのだ。 このオーレン発言には、「西側」メディアのタブーがふたつ含まれている。ひとつはイスラエルがシリアの体制転覆を当初から目論んでいたということ、もうひとつはイスラエルがアル・カイダと同じ側に立っているということだ。 イスラエルや親イスラエル派のネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセインを排除しようとしていた。そもそもフセインはCIAが権力の座に据えた人物であり、アメリカ支配層のうち非ネオコン派にとってフセインは自分たちの手駒だった。1970年代の半ばから台頭したネオコンが中東の権力バランスも崩すことになったとも言えるだろう。 1990年にイラクがクウェートに軍事侵攻、これを口実にして91年にアメリカ軍はイギリス軍などを引き連れてイラクを攻撃したが、フセインを排除することなく停戦。それに怒ったネオコンは、この段階でイラン、イラク、シリアを殲滅するという青写真を描き、その翌年には軍事力で世界制覇するというDPGの草稿を書き上げている。 このビジョンは支配層の内部でも問題になったようで封印されるのだが、2000年にネオコンのシンクタンクPNACが「米国防の再構築」という報告書で浮上させた。この報告書の戦略の執筆者はジョージ・W・ブッシュ政権で要職に就き、実際の政策に反映させていった。 これも繰り返し書いてきたことだが、2001年の9月11日に世界貿易センターへ航空機突入し、国防総省本部庁舎が攻撃されると、ネオコン政権はアル・カイダがやったと断定し、アフガニスタンを先制攻撃、それから間もなくしてアル・カイダとは関係なく、イラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃する計画を作成している。 2000年代の半ばになるとジョージ・W・ブッシュ政権は反シリア政府派に対する支援を開始、2007年までにアメリカ、サウジアラビア、イスラエルはシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始したという。こうした流れとオーレン駐米イスラエル大使の発言は矛盾しない。 エネルギー資源の問題にはふたつの要素がある。既存の資源を輸送するパイプラインの建設問題と地中海の東部で発見されたエネルギー資源の問題だ。 現在、最も注目されているパイプラインは、イラン南部の天然ガスをイラク、シリア、レバノンを経由してヨーロッパへ運ぶというもの。2011年7月にイラン、イラク、シリアは契約に署名したと発表している。イラクとシリアとの間には原油を運ぶクルクーク・バニアス・パイプラインもあるが、これは2003年にアメリカ軍が破壊している。 その一方、天然ガスの供給国として有名なカタールは2009年にトルコとパイプラインの建設に関する話し合いを始めていた。サウジアラビアが自国領の使用を拒否したので、イラクとシリアを経由することになる。 ところが、シリアは2011年にイランから天然ガスを運ぶパイプラインの建設を選択する。ムスリム同胞団を使い、カタールやトルコがシリアの体制転覆を図っている大きな要因はここにあると見られている。スンニ派のサウジアラビアとしても、シーア派が支配的な位置を占めているイラン、イラク、シリアがパイプラインで結びつくことを嫌っている。 地中海の東側に膨大な量の天然ガスや石油が存在していることが2000年代に入ってから明確になったことも「アラブの春」と無関係ではないだろう。USGS(アメリカ地質調査所)の推定によると、エジプトからギリシャにかけての海域には9兆8000億立方メートルの天然ガス、そして34億バーレルの原油が眠っている。この地域の国々を乗っ取ってしまえば、巨万の富を手にすることができる。 今回は長くなりすぎたので詳しくは書かないが、軍需産業や傭兵会社、さらに監視ビジネスやプロパガンダを担当する広告産業が戦争によって潤うことも間違いない。この広告産業が1990年代から「戦争を売る」ために使っているフレーズが「人道」であり、それを具体化するために今回は「化学兵器」を持ち出している。 8月21日に反シリア政府軍が化学兵器を発射する場面だとする映像がインターネット上で流れている。この説明が正しいかどうかは不明だが、大型ミサイルを反政府軍が発射することは可能だということは示していると言えるだろう。
2013.09.26
ケニアの首都、ナイロビにあるショッピング・モールがアル・カイダ系の武装集団に襲撃され、多くの死傷者が出ているようだ。武装集団はソマリアを拠点とするアル・シャバーブ。2011年10月にケニア軍がソマリアに軍事侵攻、アル・シャバーブを首都のモガディシュから追い出し、その後もソマリア国内に居座っていることに対する報復だとする見方が伝えられている。ちなみに、アル・シャバーブがアル・カイダに合流したと発表したのは2012年2月のことだ。 昔から欧米はこの地域の支配に熱心。言うまでもなく、インド洋から紅海へ入り、スエズ運河を通過して地中海へ抜けるルートの入り口にソマリアが位置していることによる。 交通の要衝ということだが、それだけでなく、ソマリアやケニアには地下に石油が眠っていると見られ、最近ではそうした利権を「西側」が狙い、戦乱の大きな要因になっている。 そうしたソマリアへ1993年、アメリカ軍が介入した。その際に首都モガディシュでアメリカ軍のヘリコプター、ブラックホークが撃墜されて20名近い米兵が戦死(ソマリア側は数百名が殺されているのだが)するという出来事も起こった。 2006年に入ると、ソマリアではCIAが支援していた武装集団がイスラム勢力に敗北する。そこでアメリカ政府は隣国のエチオピアに支援を要請、一旦はエチオピア軍がソマリアのイスラム勢力を一掃したのだが、2009年1月にエチオピア軍が撤退するとアル・シャバーブなどの武装勢力が戦闘を激化させ、首都モガディシオでも多数の死傷者が出る事態になる。そしてケニア軍が軍事侵攻したわけだ。 現在、ソマリアの大統領を名乗っているハッサン・シェイク・モハマドはムスリム同胞団、さらにアル・シャバーブにつながっている。リビアで体制が倒された後、ムスリム同胞団系のグループがリビアの保有していた武器などを独占的に確保、サウジアラビア系のグループと対立が生じたとも言われているのでモハマド大統領の立場は微妙だが、それでもシリアの体制を転覆させるため、オバマ政権にモハマド大統領は協力しているという。 ところで、今回襲われたモールのオーナーはイスラエル人。そうしたこともあり、人質が取られた直後にイスラエルの治安部隊が中に入り、ケニア人部隊を指揮したと伝えられている。ケニアにはイスラエルの情報機関や軍が顧問として駐留している。 「アラブの春」が話題になってからの中東/北アフリカの動きを見ると、リビアではアル・カイダ系のLIFGが地上軍の主力となり、アルジェリアの東部にある天然ガス関連施設を襲撃してフランス軍をマリへ引っ張り込んだAQIMはLIFGと一心同体の関係。アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルなどが後押ししているシリアのアル・ヌスラ、そして今回のアル・シャバーブとも結びついている。 アル・カイダと「西側」は敵になったり味方になったり目まぐるしいが、「西側」の軍隊を引き込む役割をアル・カイダが演じていると解釈するとすっきりしてくる。そう考えている人も少なくないようだ。 サハラ以南の国々を自立させ、欧米から真の意味で独立したアフリカを築こうとしていたリビアのムアンマル・アル・カダフィ政権が倒された今、アメリカのAFRICOM(アメリカ・アフリカ統合軍)も活動を活発化させてくるのだろう。ケニアでの「テロ」も「西側」やイスラエルにとって願ってもない出来事であるに違いない。
2013.09.25
1991年にアメリカの親イスラエル派、いわゆるネオコンが立てた戦略の通りにイラクが先制攻撃されたのは2003年3月のこと。2004年にはファルージャを激しく攻撃、その際に劣化ウラン弾などが使われた。その後、イラクでは先天性の異常が増えていると報告され、アメリカ軍が使用した兵器が原因ではないかと強く疑われている。 こうした報告を受け、2012年の5月から6月にかけてWHOはイラクの健康省と共同でこの問題に関する調査を行い、11月に報告書が出されるはずだった。ところが、予定通りには出ず、今年9月11日に報告書の要約(PDF)がやっと発表されたのだが、早くも疑問の声が挙がっている。 調査に参加していた研究者の話から、この報告書でも先天性の異常や流産が増えているという結論になると言われていたが、どうやらそうした異常は認められないという結論のようだ。報告書の結論は科学的なものではなく、政治的なもの、要するにアメリカ政府におもねったのだと囁かれている。 確かに、サリンの使用を材料にしてシリアに対する直接的な軍事介入を実現したいアメリカ政府としては、ここで自分たちの攻撃が先天性の異常や流産を増やしているなどという報告書を出させるわけにはいかない。そのシリアの化学兵器使用に関する問題でも国連は杜撰な報告書を出してきた。再調査せざるをえないようだ。それも、まともに調査するかどうか疑問だが。 アメリカ政府は「なりふり構わず」という状況になっている。苦しい状況を力で強引に突破しようとしている。イスラエルも「正義」を演出する余裕がなくなったのか、7月に辞任を表明しているイスラエルのマイケル・オーレン駐米大使は、イスラエルがアル・カイダと手を組んでシリアのバシャール・アル・アサド体制を倒そうとしてきたと言明したという。 アメリカとイスラエルの同盟国、サウジアラビアは現在、アメリカ議会で買収工作を必死に進めているようだが、たとえ議員が買収されても、その光景を多くの人びとが見ている。この状態では、日本の狂信的な集団が暴走するのもアメリカ政府は制御できないかもしれない。
2013.09.25
今、「従軍慰安婦」が問題になっている。といっても、旧日本軍の話ではない。チュニジアの内務大臣によると、自国の女性がシリアへ騙されて渡り、イスラム武装勢力の戦闘員を「慰安」するためにセックスを提供しているらしいのだ。「性的聖戦」という名目でひとりあたり20人から100人の戦闘員と関係を持ち、妊娠して帰国しているという。大臣は言及していないが、シリアへ行ったチュニジア人女性は数百人だと推測されている。 チュニジアは「アラブの春」が始まった国として知られている。そのベースにあるのは社会的な不公平さに対する庶民の不満。サウジアラビアなどに比べると遙かに民主的で、政教は分離され、女性の権利も認められていたが、大統領など支配層の腐敗が目に余ったことも事実。WikiLeaksが公表したアメリカの外交文書も、そうした腐敗を確認させることになった。 怒りのエネルギーが高まる中、ひとりの青年が抗議の焼身自殺を行い、それが抗議活動の引き金になる。当初、運動の中心にいたのはチェ・ゲバラの顔写真や赤旗を掲げるような若者だったのだが、途中からムスリム同胞団が主導権を握り、サラフィ主義者が台頭してくる。ムスリム同胞団の背後にはカタール、サラフィ主義者の背後にはサウジアラビアが存在している。 若者たちには体制を倒すエネルギーがあったものの、次の体制を築く組織力がなく、民主化とは逆の方向へチュニジアは動いていった。そうした中、イスラエルやアメリカの情報機関、つまりモサドやCIAが活発に活動しているが、この両機関がムスリム同胞団と同盟関係にあったことはリビアやシリアでの動きを見ても明らかだ。 ヨルダン出身でシリアに住むサラフィ主義の聖職者、ヤシル・アル・アジュロウニは今年の春、反シリア政府軍の戦闘員に対し、スンニ派以外の女性をレイプしてもかまわないというファトワ(勧告)を出したと伝えられている。その一方、同じ頃にチュニジアの大ムフティー(最高イスラム法官)が「性的聖戦」を批判し、警告する発言をしていた。 少なくとも半年前から、こうしたことが反シリア政府軍の内部で行われていたということになる。当然、「西側」の政府やメディア、あるいは「人権擁護団体」も知っているはず。こうした人びとはアフガニスタンでは女性の権利を守ると称し、住民を虐殺し続けている。シリアの反政府軍に対し、どのような「制裁」を加えているのだろうか?
2013.09.23
ミントプレスは8月29日にデイル・ガブラクとヤフヤ・アバブネの署名入りで記事を掲載した。この記事をめぐり、ガブラクと編集部との間で、もめ事が起こっている。ガブラクは記事と一切関係ないとする声明を出しているのだが、編集長のムナル・ムハウェシュは次のように反論している。 記事を28日に編集部へ持ち込んだのはガブラク。彼女は同僚のヤフヤ・アバブネがシリアへ入って反政府軍、その家族、ゴータの住民、医師を取材、その結果、サウジアラビアが反政府軍に化学兵器を提供し、それを反政府軍の戦闘員が誤って爆発させたことがわかったと話したという。 ムハウェシュ編集長によると、この情報をガブラクは同僚やヨルダン政府の高官に尋ね、サウジアラビアが化学兵器を反政府軍へ渡していることを確認したと話していたともしている。 記事はガブラクが29日に書き上げ、その日のうちに掲載したと編集長は説明、これが事実ならば、ガブラクは単なる協力者とは言えない。こうした説明を裏付ける電子メールが残っているので、やりとりを証明できるとしている。 ガブラクが記事から自分の名前を削除するように求めた理由は第三者からの圧力があったからで、記事と無関係だということにしないとジャーナリストとしてのキャリアを終わらせると彼女は脅されたという。アバブネに対しても大きな圧力がかかっているとムハウェシュ編集長は主張している。 確かに、サウジアラビアと化学兵器を結びつける記事を書けば、少なくとも「西側」のメディアで仕事はできなくなる可能性は高い。これは本ブログでもすでに指摘した。 権力犯罪に対する認識が甘い日本では、原子力発電だけでなく多くのタブーがある。このことは、福島第一原発の事故で広く知られるようになっただろう。内部告発者も守られないのが日本。「言論の自由」などは、所詮、その程度のものだ。 サウジアラビアが1970年代の後半からアメリカやイスラエルと手を組んで秘密工作を実行してきたことは確かであり、アル・カイダをコントロールしていることもすでに「噂」の段階をすぎている。その秘密工作では単なる戦闘だけでなく、資金を調達するために麻薬や武器を密輸し、銀行を創設して違法な融資や送金も行っている。 今年3月の化学兵器による攻撃でアメリカのローレンス・ウィルカーソン退役大佐はイスラエルが「偽旗作戦」を実行した疑いがあると発言していた。サウジアラビアがシリアの反政府軍に化学兵器を渡しても不思議ではない。 ミントプレスの記事については、もう少し様子を見る必要がありそうだ。新たな重要な事実が発覚する可能性もある。
2013.09.22
シリアへの直接的な軍事攻撃に執着する勢力はシリア政府軍が8月21日にゴータでサリンを使用したと叫び続けている。自分たちが「証拠」を提出したイラクへの先制攻撃時のような醜態、つまり嘘がばれることを恐れているのか、国連の調査団が提出した38ページの報告書を根拠にしようとしているのだが、その報告書が杜撰なものだということは明確になっている。 体制転覆を目指す勢力の主張に従うと、国連の調査団がダマスカスへ入るタイミングに合わせてシリア政府軍はダマスカス郊外にサリンを撃ち込み、アメリカなどが直接的な軍事介入を行う口実を与えようとしたということになる。それほど愚かな政府なら、とうの昔に倒されていると考えるのが常識的だろう。 使用されたミサイルに書かれていたコードは「4-67-179」、ノボシビルスクにある工場で1967年に生産されたことを示している。このミサイルを発射するシステムは1951年に設計され、ソ連では1967年から90年にかけて実戦配備されていた。シリア軍も遙か昔に使わなくなったという。骨董品的な代物だとも表現されている。つまり、このミサイルが使われたとしても、シリア政府軍と単純に結びつけることはできない。 ゴータでのサリン使用を調べる上で被害者の状況を知る必要があるのだが、未だに明確になっていない。そもそも被害者数がはっきりせず、フランスの情報機関は281名、イギリスの情報機関は350名としているのに対し、アメリカは1429名だと主張している。つまり、「1400人以上が命を奪われ」たと書いた時点で、その人が誰の視点に立っているのかが明確になる。 朝日新聞の記事に登場する「ダマスカス郊外に住むフーリさん」は21日の午後、運び込まれた被害者の応急処置をしたという。その際、「簡易ガスマスクをつけていたが、のどや腹部に激痛が走り、息苦しくなって意識を失」い、「野戦病院のベッドで6日間、生死の境をさまよった」としている。 この証言自体は不自然でないのだが、反政府軍が遅くとも21日の早朝に被害者を撮影して公開した映像(カリフォルニア時間では20日)とは矛盾する。映像では、「介護者」が普通の格好で、何ら苦しむことなく、意味不明の作業を続けているのだ。この矛盾について記者は何も感じなかったのだろうか? ちなみに、シリアの戦闘では反政府軍の半数近くが狂信的なイスラム武装勢力で、ナショナリストは一握りにすぎないと「西側」でも分析されている。シリアではシリア人同士が戦っているわけではない。「反体制派」という表現には大きな問題がある。 すでに本ブログでは何度か書いたことだが、犠牲者は誰なのかは大きな疑問。「あまりにも多くの遺体」が集められていたのならば、未明に起こった出来事である以上、家々のベッドから運ばれてきたことになり、救急車がサイレンを鳴らしながら走り回っていたはず。21日の午前中には異常事態が発生していることを周辺の住民は気づいていていなければ不自然だ。 そこで注目されているのがセント・ジェームズ修道院の尼僧であるマザー・アグネス・マリアムの報告(PDF)である。体制転覆派が宣伝に使っている映像に不自然な点が多々あることを指摘、ラタキアから反政府軍に誘拐された人が「ゴータの犠牲者」とされている映像の中にいるとする証言を紹介しているのだ。つまり、行方不明になっているラタキアの住民やクルド系住民が「ゴータの犠牲者」ではないか、という疑いがある。 ラタキアが反政府軍に襲撃されたのはゴータへの攻撃が行われる10日ほど前で、200名とも500名とも言われる住人が殺され、150名以上が拉致されたと言われている。その中には女性や子どもが多数、含まれていた。クルド系住民が多い地域でも似たことが起こっている。 そもそも、ゴータの出来事がなくても、ラタキアなどで拉致された多くの人びとがどうなったかを国連は調べる義務がある。「人道」を口にする人たちも同様だ。メディアも注目すべき出来事だろう。 アメリカやイギリスがイラクを先制攻撃する際、「西側」のメディアは偽情報の流布に協力し、シリアでも偽情報を流してきたことを本ブログでも指摘してきた。その結果、100万人程度のイラク人が殺されることになった。善意に解釈すれば、「誤報」の連続で大量殺戮を誘発したのだが、全く反省していないようだ。
2013.09.22
安倍晋三首相は消費税を引き上げ、法人税を引き下げる方針だという。要するに庶民からカネを巻き上げ、大企業や富裕層へ上納するということだが、これは菅直人政権や野田佳彦政権と同じ流れ。当面、選挙がないということで安心しているのか、本音を堂々と口にしている。マスコミも強者総取りの仕組みを築くために努力してきたわけだが、こちらは選挙が先だということで、少し批判的なことを主張してみたりしている。 1970年代からロンドン(シティ)はオフショア市場のネットワークを整備、大企業や富豪たちは資産隠しや課税回避に利用している。これと並行する形で庶民からの搾り取りを強化していった。現在、この仕組みが世界的に大きな問題になっているわけだ。 日本も大企業や富裕層の税率は決して高くないということは、以前から専門家が指摘している。さまざまな社会への負担が企業には課せられるが、法人税だけに限っても日本企業は優遇されている。企業利益相当額に対する法人税納付額の割合は、資本金100億円以上の企業では15〜16%にすぎない。(富岡幸雄著「税金を払っていない大企業リスト」文藝春秋、2012年5月号)つまり、日本では、法人税をほぼ法定税率どおりに払っているのは、黒字を出した中小企業だけということ。 「社会保障の切り捨て」と「消費税引き上げ/法人税引き下げ」の一体改革は1990年代半ばに日本とアメリカの支配層が集まり、決められた方針に基づいている。CSISが設置した「日米21世紀委員会」が1996年にメリーランド州で最初の会議を開き、98年に報告書を出している。委員会のメンバーは次の通り:【アメリカ】名誉委員長:ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領委 員 長:ウィリアム・ブロック元労働長官副 委員長:ハロルド・ブラウン元国防長官委 員:レスター・アルバーサル、ウィリアム・ブリーア、ウィリアム・クラーク、リチャード・フェアバンクス、ロバート・ホーマッツ、カレン・ハウス、フランク・ムルコースキー、ジョン・ナイスビット【日本】名誉委員長:宮沢喜一元首相委 員 長:堺屋太一(後に経済企画庁長官)副 委員長:田中直毅委 員:土井定包(大和証券)、福川伸次(電通、元通産事務次官)、稲盛和夫(京セラ)、猪口邦子(上智大学教授、防衛問題懇談会委員)、小林陽太郎(富士ゼロックス)、中谷巌(竹中平蔵の『兄貴分」)、奥山雄材(第二電電、元郵政事務次官)、山本貞雄(京セラ・マルチメディア)、速水優(後に日銀総裁)顧 問:小島明(日本経済新聞) この時期、「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書」も出され始めたようだ。 こうした動きが生まれる10年ほど前から日本経済は大きく揺らぎ始めている。まず、1985年にニューヨークのプラザ・ホテルで開かれたG5でドル安/円高が決まり、88年にBISが銀行は8%相当の自己資本を保有しなければならないと定めて日本の銀行は厳しい状況に追い詰められた。1989年に日米構造協議が始まると「ケイレツ」が問題になるのだが、これは日本経済の強みを中小企業にあると判断したアメリカが中小企業潰しに着手したということだろう。 1990年になると大蔵省(現在の財務省)の判断ミスもあって株価が暴落、その直後に証券スキャンダルが発覚し、銀行の不正融資が明らかになった。例えば、富士銀行では、銀行の支店幹部が架空の預金証書を発行、ノンバンクから約2600億円を引き出し、東洋信用金庫は大阪の料亭経営者に対して額面3400億円余りの架空預金証書を発行、興銀系の金融機関から約1500億円を引き出したという。架空の証書を使っての不正融資は典型的なマネーロンダリンの手法だ。 アメリカは日本の証券界や金融界の暗部を調べ上げ、脅してきた可能性がある。日本の証券会社が大企業や支配層に属す人びとを不正な手段で儲けさせていたことは公然の秘密だった。投機市場で行われているのは、所詮、イカサマ博打。証券会社や銀行がマネーロンダリングしていることも噂になっていた。その具体的な証拠をアメリカはつかんだのかもしれない。この当時、アメリカの情報機関は世界を動く資金の流れを追いかけていた。 こうした混乱のつけは中小企業へ回されることになり、日本経済に急速な没落につながる。その後、支配層は自分たちの懐を暖めることのみに熱中し、庶民は塗炭の苦しみを味わっている。ところが安倍政権はそれでも足りないと感じているようで、解雇をさらに容易にし、ただ働きも合法化したいらしい。 その一方、日本では1996年頃から金利が限りなくゼロに近づける政策を採用、結果として資金を超低金利で世界中の投機家へ提供することになった。いわゆる「円キャリー・トレード」だ。世界を巨大なカジノにした責任の一端は日本にもある。 アメリカが推進しているTPPはこうした動きの延長線上にある。TPPとはアメリカの巨大企業が環太平洋を支配する仕組みであり、そうした企業がカネを儲けやすいように日本政府は必死に「改革」を進めている。
2013.09.21
ダマスカス郊外のゴータで8月21日未明に化学兵器が使われたとされる問題を調べていた国連のチームが9月15日に報告書を潘基文事務総長へ提出、それを都合良く解釈してアメリカの政府やメディアは政府軍がサリンを使ったと再び叫びはじめる一方、ロシアやシリアの政府だけでなく、報告書を読んだ専門家も疑問点をあると批判、さらに被害者が誰なのかという根本的な問題を現地調査に基づいて提示している尼僧がいる。 反政府軍の手に化学兵器が渡ったという話はリビアでムアンマル・アル・カダフィ体制が崩壊した直後に言われていた。リビアからシリアへ戦闘員が移動、武器も運ばれているのだが、そのときに化学兵器もリビアの兵器庫から持ち出されたという疑惑だ。 反カダフィ軍の地上部隊で主力だったLIFGはアル・カイダ。実際、カダフィ体制が倒れた後、ベンガジでアル・カイダの旗が掲げられたことはYouTubeの映像だけでなく、デイリー・メイル紙も報道している。その際にリビアからシリアへ戦闘員や武器/兵器が移動した可能性は高く、必然的にシリアでもアル・カイダの戦闘員が増えることになる。 IHSジェーンズの調査によると、シリアの反政府軍は約10万人で、そのうち1万人はアル・カイダにつながる戦闘員で、3万から3万5000人がイスラム強硬派だという。アル・カイダとイスラム強硬派を分けることは難しく、反政府軍の半数近くがアル・カイダの影響下にあるというべきだろう。ナショナリストは、ほんの一握りにすぎないという。 こうした状況の中でシリアの戦闘は続いているのだが、戦況は政府軍が優勢。そこでシリアの体制転覆を目指す勢力、つまりアメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルなどは外国軍の直接的な軍事介入を目論むことになる。その口実として考えられてきたのが「化学兵器の使用」だ。 3月に化学兵器が使われたとシリア政府が発表、反政府軍も政府軍が実行したとしていた。これについてイスラエルのハーレツ紙は、攻撃されたのがシリア政府軍の検問所であり、死亡したのはシリア軍の兵士だということから反政府軍が使ったと推測、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使用した疑いは濃厚だと発言していた。 そのほか、コリン・パウエル国務長官(ジョージ・W・ブッシュ政権)の補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン退役大佐はイスラエルが「偽旗作戦」を実行した疑いがあると発言している。イスラエルはサウジアラビアと同様、「西側」のメディアが触れることが難しい国だ。なお、オリジナルの映像は削除されているが、その内容を紹介する記事、あるいはコピーは見ることができる。 8月21日の攻撃について、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使は文書と衛星写真に基づき、反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、毒ガス攻撃を受けたとされるゴータで着弾していることを国連の臨時会合で示したという。この話が伝えられた後、シリア攻撃を主張する声は急速に小さくなり、アメリカ政府は孤立していく。 そして9月8日、反シリア政府軍に拉致されていたイタリア人ジャーナリストとベルギー人教師が解放されたのだが、拘束していた戦闘員が8月に化学兵器を使ったのは反政府軍だと話しているのを聞いたと教師は証言している。隣の部屋で戦闘員がスカイプで話している会話を、半開きのドアを通して聞いたというのだ。 その前、8月29日にはミントプレスが化学兵器をサウジアラビアを結びつける記事を掲載、本ブログでも紹介している。デイル・ガブラクとヤフヤ・アバブネの名前で書かれたもので、ガブラクはヨルダンを拠点としてAPに記事を書いているジャーナリストであり、アバブネはヨルダン人ジャーナリスト。 記事の冒頭、ガブラクは調査と執筆に協力したが、シリアには入っていないと書かれているので、サウジアラビアと化学兵器を結びつける現地住民の証言はアバブネが聞いたことがわかる。ただ、ガブラクが比較的に信頼されているジャーナリストだということで記事が信頼されたことは確かだろう。 当然、この記事は多くの人が注目して話題になったのだが、ガブラクは筆者として名前が出されていることに抗議している。自分はシリアへ行ったこともなく、シリアの反政府派を取材したこともないとしているが、これは記事でも指摘されている。そのほか、記事の元になった報告もしていないとガブラクは主張している。 アバブネとガブラクとの間に何があったかは不明だが、ふたりともヨルダンを活動拠点にしているジャーナリストなわけで、ガブラクもアバブネと面識がないとはしていない。記事を読めばアバブネが現地で証言を集めたことはわかるが、世間へのアピールという点では「ガブラク」という名前の果たした役割は大きく、ガブラクの抗議で記事への信頼度が下がったことも確かだ。 世界有数の産油国であり、アメリカやイスラエルと友好的な関係にあるサウジアラビアの機嫌を損ねるようなことを日米欧の大企業もしない。そうした大企業をスポンサーとするメディアもサウジアラビアに都合の悪いことには触れないようにしているのが実態。そうしたメディアから仕事をもらいたいなら、サウジアラビアの暗部にメスを入れることはできないということも間違いない。
2013.09.21
ベネズエラのニコラス・マドゥーロ大統領は今週末に中国を訪問する予定で、その際にプエルト・リコの上空を飛行するつもりでいた。ところがアメリカの当局から領空通過を拒否され、ベネズエラとアメリカとの対立はさらに厳しいものになった。 プエルト・リコはアメリカの州ではなく属領で、いわゆる自治的未編入領域。内政は認められているが、国防や外交はアメリカが行う。島内にはアメリカ軍の基地がいくつも存在している。 プエルト・リコをアメリカが支配する切っ掛けになったのは1898年の米西戦争だが、その前からアメリカ資本はカリブ海から中央アメリカに手を伸ばして経済的には支配、さらに南アメリカを狙っていた。その先兵として傭兵が使われている。 そうした時、キューバなどでスペインからの独立を目指す運動が始まり、この運動を支援するという名目でアメリカ資本は介入し始めた。1898年にはキューバのハバナ港に停泊していたアメリカの軍艦「メイン号」が爆沈、アメリカ政府はスペインの破壊工作だと主張、宣戦布告して戦争が始まるのだが、実際はアメリカの自作自演だった、つまり偽旗作戦だと考える人は少なくない。 この米西戦争で勝利したアメリカはスペインにキューバの独立を認めさせ、プエルト・リコ、グアム、フィリピンを買収、ハワイも支配下においた。さらにフィリピンを橋頭堡として中国を伺うことになる。1904年から05年にかけて戦われた日露戦争では、「棍棒外交」で有名なセオドア・ルーズベルト米大統領が講和勧告を出している。その背景にはアメリカ資本の中国を狙う目があった。 1923年の関東大震災を切っ掛けにJPモルガンの影響下に入った日本。その4年後に山東省へ出兵、1931年に柳条湖での爆破事件を口実にして日本は侵略戦争を本格化させている。1933年にフランクリン・ルーズベルトが大統領に就任すると事情は変わるが、それまでの日本がアメリカ資本と連携していた可能性は否定できない。 第2次世界大戦後にラテン・アメリカでは民主化の動きが強まり、アメリカ資本の利権が脅かされ始めると、1954年にグアテマラのヤコボ・アルベンス政権が、また1973年にはチリのサルバドール・アジェンデ政権が軍事クーデターでそれぞれ倒されるなど、CIAを後ろ盾とする軍事政権が作られ、殺戮と拷問の時代が続く。 その時代を乗り切り、再びラテン・アメリカでは自立の機運が高まっているのだが、やはりアメリカ政府はそうした動きを潰しにかかっている。2002年にはアメリカのネオコンたちがベネズエラでウーゴ・チャベス政権を倒すクーデターを仕掛けて失敗、2009年にはホンジュラスのマニュエル・セラヤ大統領が軍事クーデターで追放されてしまった。 最近ではアメリカの電子情報機関NSAがラテン・アメリカの企業や大統領の通信を盗聴していたことが発覚、ブラジルとアルゼンチンはサイバー防御で同盟を結ぶことで合意、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領は10月に予定されていた訪米を延期している。 このブラジルはBRICSの一員であり、ベネズエラのマドゥーロ大統領が訪問する予定の中国もBRICSのメンバー国。BRICS、つまりブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカは独自の通信網を作る計画もあるという。 ここにSCO(上海合作組織)、つまり中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンが重なる。インド、モンゴル、パキスタン、イランはSCOのオブザーバー国だ。 アメリカにとって、BRICS/SCO/ラテン・アメリカは自分たちの支配システムを脅かす存在であり、揺さぶりをかけようとしている。おそらく、狙われている国はインド。日本がインドにアプローチをかけている理由はその辺にあるのだろう。
2013.09.20
シリアの体制を倒そうとしている勢力はプロパガンダを使ってきた。リビアでも同じことが言えるが、独裁者に人民が立ち向かうというストーリー、あるいは巨人のゴリアテに挑む青年ダビデという構図で侵略を正当化している。 昔から戦争には宣伝の要素はあるが、1990年10月に有名な出来事があった。この年の8月にイラク軍がクウェートへ軍事侵攻、10月にアメリカ下院の人権会議へ「ナイラ」なる少女が登場し、アル・イダー病院でイラク兵が赤ん坊を保育器の中から出して冷たい床に放置、赤ん坊は死亡したと訴えたのだ。後に、この少女がアメリカ駐在のクウェート大使の娘であり、証言は嘘だということが判明する。この証言を演出したのがPR会社のヒル・アンド・ノールトン。 広告会社は「戦争を売る」ため、具体的な「敵」を作るべきだと判断、考え出されたのが「悪の枢軸」、つまりイラン、イラク、朝鮮の3国。コリン・パウエル国務長官の次官だったシャルロット・ビアーズも広告業界の大物で、プロパガンダの基本方針として「単純化」と「浅薄化」を徹底した。この手法を小泉純一郎も採用したようだ。 「西側」がユーゴスラビアに軍事介入する際にも広告は重要な役割を果たした。クロアチアやコソボのアルバニア勢力はPR会社のルダー・フィンと契約、セルビア人を悪役に仕立てていく。そこに絡んでくるのがHRWのような「人権擁護団体」。架空の虐殺話やレイプ事件をメディアが発信、「人道的軍事介入」を人びとに納得させていった。 「アラブの春」では「サルバドル・オプション」や「コソボ方式」が話題になったが、つまり「死の部隊」と「プロパガンダ」を重視するということだろう。エル・サルバドルとコソボには「麻薬による資金調達」という共通項もある。 シリアで戦闘が始まると、CNN、BBC、アル・ジャジーラといったメディアはシリア政府が「市民を弾圧している」と宣伝し始める。その情報源は「活動家」や「人権団体」で、そこが発信する情報をそのまま垂れ流していた。 そうした情報源の中で特に有名だったのがシリア系イギリス人のダニー・デイエム。政府の弾圧を訴え、外国勢力の介入を求める発言を続けていたのだ。「西側」のメディアも精力的に彼の「情報」を流している。(例えば、ココ、あるいはココ) ところが、彼のグループが「シリア軍の攻撃」を演出する様子を撮影した映像がインターネット上に流出してしまう。彼を使っていたメディアは赤っ恥をかいたわけだが、その後も反省せず、プロパガンダを続けている。 今年3月にアレッポでも化学兵器が使われたと問題になった。このときはシリア政府が調査を要請したが、イスラエルのハーレツ紙は状況から反政府軍が使ったと分析、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使用した疑いは濃厚だと発言している。ロシア政府も独自に試料を分析、サリンや砲弾は「家内工業的な施設」で製造されたもので、反政府軍が使ったと推測している。 そして8月、ダマスカスの郊外、ゴータで化学兵器が使用されたと反政府軍やその支援国が宣伝を始める。国連の調査団がダマスカスへ入るタイミングを狙ったかのように攻撃があったわけだ。あまりに無茶な設定に思えたが、アメリカ、イギリス、フランスはシリア政府に対する攻撃へ向かって動き出す。 今回は3月と違い、反政府軍が支配している地域が攻撃されたのだが、シリアのセント・ジェームズ修道院の尼僧であるマザー・アグネス・マリアムは疑問を感じ、独自に調査して報告書(PDF)を国連に出している。 攻撃は8月21日の午前1時15分から3時頃(現地時間)にあったとされている。つまり大多数の住民は寝ていた時間なのだが、犠牲者がパジャマを着ていないのはなぜか、家で寝ていたなら誰かを特定することは容易なはずだが、明確になっていないのはなぜか、家族で寝ていたなら子どもだけが並べられているのは不自然ではないか、親、特に母親はどこにいるのか、子どもたちの並べ方が不自然ではないか、「遺体」が使い回されているのはなぜか、遺体をどこに埋葬したのか・・・・・ 以前にも書いたことだが、ゴータへの攻撃が行われる10日ほど前、反政府軍がラタキアを襲撃し、200名とも500名とも言われる住人が殺され、150名以上が拉致されたと言われている。ゴータでの犠牲者を撮影したとされる映像の中に、ラタキアから連れ去られた住民が含まれているとする証言もある。クルド系住民も反政府軍に襲われ、虐殺されるだけでなく誘拐されているので、そうした人びとがゴータで犠牲者として使われた可能性もある。 9月16日に国連が公表した報告書はサリンの分析だけをしたもので、しかも杜撰なものであり、しかも犠牲者の調査が行われていない。その根本的な部分を尼僧が個人的に行っている。
2013.09.20
イスラエルの駐米大使で7月に辞任を表明しているマイケル・オーレンは、イスラエルがアル・カイダと手を組んでシリアのバシャール・アル・アサド体制を倒そうとしてきたと言明したようだ。 イスラエルと一心同体の関係にあるネオコンは、1991年の段階でイラン、イラク、シリアを攻撃する計画を持ち、2007年までにアメリカ、サウジアラビア、イスラエルはシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始したと伝えられている。イスラエルがシリアの体制転覆を目論んできたことは公然の秘密なわけだが、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に近いと言われる大使の口からそうした発言が出た意味は重い。 オーレンによると、イスラエルはイラン、シリア、レバノンのつながりを危険視、その要石をシリアと位置づけ、そのシリアのアサド体制を倒すためには、イランを背景に持たないアル・カイダとは手が組めるということだ。 1980年代から90年代にかけてイスラエル/ネオコンはイラクのサダム・フセイン体制を最大のターゲットだとしていた。イスラエルの友好国、ヨルダンとトルコの間にイラクが存在、そのイラクを抑えればシリアとイランを分断できるという戦略だった。 オーレンによると、イスラエルと湾岸諸国との間には、シリア、エジプト、パレスチナ、イランの問題で合意があるという。1970年代の終盤にアメリカが始めたアフガニスタンでの秘密工作でイスラエルとサウジアラビアは協力しはじめるが、それも自然なことだったのだろう。 イランも王政時代にはイスラエルと緊密な関係にあったが、1979年にイスラム革命が起こるとイランでも秘密工作を開始、後に「イラン・コントラ事件」として発覚することになる。このスキャンダルが明るみ出た一因はイラクをめぐるネオコン/イスラエルと別の支配グループの対立にあった。 イラクのフセイン体制を倒すチャンスが1990年にやってくる。金融問題と資源問題の対立でイラク軍がクウェートへ軍事侵攻、それを口実にして91年にアメリカ軍はイラクを攻撃したのだ。ネオコンはそのままフセインを排除するつもりだったようだが、当時のジョージ・H・W・ブッシュ政権はその前に停戦した。 その怒りがイラン、イラク、シリアを殲滅するというポール・ウォルフォウィッツ国防次官の発言、そして1992年に書かれたDPGの草稿につながる。軍事力で世界を制圧するというDPGは政府の内部でも反対する人がいたようで、メディアにリークされ、書き直されることになったという。 封印されたDPGの草稿に基づく報告書「米国防の再構築」をネオコンのシンクタンク、PNACが2000年に公表し、それに基づく政策をジョージ・W・ブッシュ政権は推進していく。このブッシュ・ジュニア政権がスタートした2001年の9月11日に起こったのが世界貿易センターへの航空機突入と国防総省本部庁舎への攻撃。この出来事の直後にアメリカはアフガニスタンを先制攻撃、それから間もなくしてイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃する計画を作成している。 辞任を表明して緊張感が緩んみ、口が滑ったのかもしれないが、オーレンの発言は中東情勢に影響を与えそうだ。
2013.09.19
シリアの体制転覆を目指すアメリカ、イギリス、フランス政府はゴータでの化学兵器使用について調べていた国連調査団の報告書を自分たちに都合良く解釈、直接的な軍事攻撃に結びつけようとしているが、報告書への批判も吹き出ている。 ダマスカスの南にあるモアダミヤの環境調査でサリンが使われた可能性が小さいことを示すデータが示されている(付録6)ことは、すでに紹介したが、それ以外にも疑問点が指摘されている。 調査が反政府軍と情報を交換しながら行われただけでなく、反政府軍の管理下で行われていたことを報告書でも認めている。時間的な制約があって十分な調査ができなかったようだが、その制約を課したのも反政府軍。(付録3)しかも、「証拠品」は調査団が入る前に動かされるなど操作されていたとしている。証拠能力に大きな疑問があるということ。 検査はいくつかの研究所に依頼されているが、その検査結果としてN/Aが並んでいる、つまり検査結果が報告されていない。(15ページ)検査を依頼された研究所が真剣に作業をしたのかどうか、疑問だ。 要するに、国連の調査は杜撰なものだということ。その杜撰な調査を指揮したスウェーデン人、アケ・セルストロム団長に対する疑惑も出ている。生化学が専門だというのだが、所属しているCBRNEセンターはスウェーデン国防省をスポンサーにしている研究所で、NATOとの関係も疑われている。セルストロム団長はシリアで追加の調査を行うことを検討しているらしいが、それだけ批判が強いということだろう。
2013.09.18
シリアのダマスカス郊外で化学兵器が使われたとされる問題を調べていた国連の調査団が報告書を9月15日に潘基文事務総長へ提出した。それを受け、アメリカの政府やメディアはシリア政府軍が化学兵器を使ったと叫んでいるのだが、アメリカ政府の主張に疑問を突きつけるデータが報告書には書かれている。 被害者数が大幅に違うと言うことはともかく、疑問のひとつとして指摘されているのは、アメリカ政府が示している被害地域。8月26日に調査団が入ったモアダミヤはダマスカスの南にあるのだが、そこではサリンが使われた痕跡がなかったという。28日から29日にかけて調査したダマスカス東部の地域では明確にサリンの痕跡があるので、モアダミヤへサリンを搭載したミサイルが撃ち込まれたとは考えにくいということになる。 被害地域が大幅に狭まると、アメリカ政府の描く構図が揺らいでしまう。反シリア政府軍が化学兵器を保有しているとする情報がインターネットで流れている現在、「大量のサリンが使われた」としなければ、政府軍が使ったと主張しにくいからだ。 反政府軍が化学兵器を入手した方法はいくつか考えられている。実際、「キッチン級」のサリンが使われているようなので、「自家製」の化学兵器を持っていることは確かだろう。 兵器級のサリンを保有している可能性も高い。リビアでムアンマル・アル・カダフィ体制が崩壊した時に兵器庫から持ち出された疑いがあり、ゴータの医師、住人、反政府軍の兵士はサウジアラビアを指摘しているという。息子が反政府軍の戦闘員だったという住民のアブ・アブデル・モネイムによると、サウジアラビア人はトンネルを武器庫に使っていて、その中にチューブ状の構造物と巨大なガス用ボトルが含まれていたと話している。 サウジアラビアは武器や資金を提供しているだけでなく、戦闘員を大量に送り込んでいるとする情報もある。以前は傭兵を雇っていたが、それだけでは足りないようで、死刑囚を恩赦と引き替えにして、シリアで戦わせているという。サウジアラビア政府は否定しているらしいが、その内訳も伝えられている:シリア人254名、サウジアラビア人212名、パキスタン人203名、イエメン人110名、スーダン人96名、エジプト人94名、ヨルダン人82名、ソマリア人68名、クウェート人44名、アフガニスタン人32名、イラク人23名、パレスチナ人21名。 トルコでの報道によると、5月27日にサリンが入れられた2キログラムのシリンダーが反シリア政府軍戦闘員の住居で発見されたという。トルコ政府はこの情報を否定しているようだが、アメリカ国防総省のOSPで分析官を務めていたマイケル・マルーフはこの報道を補完する情報を伝えている。 情報の根拠はアメリカ軍から入手した機密文書。トルコで発見されたサリンはイラクのアル・カイダ(AQI)が実験室規模の装置で作ったもので、その製造で中心的な役割を果たしているのはサダム・フセイン時代に化学兵器製造で中心的な役割を果たしていたアドナン・アル・ドゥライミ准将だという。ただ、マルーフが所属していたOSPはネオコンが偽情報を発信するために作った機関。このことから、マルーフの情報に疑問を投げかける向きもいるようだ。 シリアの放送局、アル・イクバリアは15日に放送された番組で、トルコ軍が反シリア政府軍へ化学兵器を提供していると伝えたという。トルコ政府はシリアの体制転覆を目指しているわけで、「偽旗作戦」に荷担しても不思議ではないが、今のところ真偽は不明だ。 米英仏の3国は、国連の報告書をシリアの体制転覆に利用しようとしているが、アメリカ政府は自分たちが持っているという「証拠」を明らかにしていない。イラクを攻撃する際、アメリカ政府は「証拠」を公表したが、すぐに偽情報だということが発覚してしまった。その失敗を反省し、何も公表しない可能性がある。
2013.09.18
9月13日に国連の潘基文事務総長はWIF(女性国際フォーラム)で講演、その中で8月21日の化学兵器を使用したと見られる攻撃に関する調査に言及、化学兵器は使われ、シリア政府が人道に対する多くの犯罪を犯したと言明して話題になっている。報告書を発表する予定日も16日だと語った。 この報告書が調査団の責任者から潘事務総長へ提出されたのは15日。その2日前に事務総長が報告書の内容を知っていたとするならば、事前に報告書をチェックしていたことになり、作成の過程で外部からの影響があった疑いが生じる。そこで問題になっているのだ。 インナー・シティ・プレスのマシュー・リー記者によると、事務総長より前にフランスのローラン・ファビウス外務大臣は報告書の内容を公然と語っていた。つまり、報告書は16日に発表され、シリアのバシャール・アル・アサド大統領が攻撃に関与していると話していたというのだ。この情報をフランス政府は国連事務総長から聞いたという。イギリス政府も事前に報告書の内容を知らされていたようだ。 3月のケースでは、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテが化学兵器を使用したのは反政府軍だった疑いが濃厚だと発言していたこともあり、8月の調査について、潘基文事務総長は化学兵器が使われたかどうかを調べるだけだとしていた。 ところが、報告書の作成に外部からの関与があったことを疑わせるような形で潘事務総長がリークしたのは、状況が変わったからだろう。ひとつの可能性は、シリアに対する米英仏軍の直接的な攻撃が挫折したということ。 国連の報告書に関係なく、8月に化学兵器を使ったのは反政府軍だとする証言、証拠は増えている。そうした情報、分析を否定するのならば、それだけ説得力のある内容が要求される。
2013.09.16
2020年の夏期オリンピックが東京で開催されるそうだが、喜ぶことはできない。マスコミは「経済効果」を話題にし、株式市場では不動産や建設関連の株式が買われた。消費税で庶民から巻き上げたカネを大企業へばらまくということだが、それ以外にも大きな問題がある。監視態勢の強化、ファシズム化の促進だ。 大きなイベントは破壊活動のターゲットになる可能性があり、実際、1972年のミュンヘン・オリンピックでは襲撃事件が起こった。来年、ロシアのソチで開催が予定されている冬期オリンピックでは、チェチェンの武装勢力が攻撃する姿勢を見せている。 サウジアラビアのバンダル・ビン・スルタン総合情報庁長官が7月31日にロシアを訪問した際、ソチ・オリンピックの安全を保障するという提案をしたと伝えられている。チェチェンのグループはサウジアラビアがコントロールしていると語っていたというのだ。つまり、サウジアラビアやイスラエルが望んでいるシリアの体制転覆を妨害するなら、ソチのオリンピックで何らかの破壊工作を行うと脅したようにも受け取れる。 2012年にロンドンで開かれたオリンピックは治安/監視体制が話題になった。街中にCCTVのネットワークが張り巡らされ、無人機も監視に使われたようだ。治安部隊の配備も徹底したもので、オリンピックを口実にしてロンドンを巨大な刑務所に変えたと言われたほどだ。オリンピックの本番では、その治安/監視システムの稼働テストをしたとも言える。 アメリカでは1980年代に憲法の機能を停止させる計画を練り上げている。本ブログでも何度も取り上げたCOGプロジェクトだ。「国家安全保障上の緊急事態」が起これば、国民から憲法の認めた権利を剥奪するということ。この仕組みは2001年9月11日に始動し、アメリカは急速にファシズム化されつつある。 アメリカの属国、日本では現在、特定秘密保護法案が提出されようとしている。政府/官僚が恣意的に決める「特定秘密」を外部へ漏らしたなら、最長10年の懲役を科すつもりだという。安倍晋三政権はアメリカを真似して「国家安全保障会議」を設け、アメリカのCIAやイギリスのMI6と連携する意向らしい。アメリカでは権力の不正を内部告発した人物を厳しく追跡し、厳罰に処している。日本もそうした仕組みの中に組み込まれようとしているわけだ。 歴史的にアメリカとイギリスの情報機関は関係が深く、電子情報機関でも両国は一心同体の関係で、UKUSAと呼ばれる連合体を組織している。このUKUSAが自国民も含め、全世界を監視するシステムを作り上げていることは1970年代に発覚しているが、今年、エドワード・スノーデンが内部告発したことが切っ掛けで、現在、国際的な問題になっている。 このUKUSAはNSA(アメリカ)とGCHQ(イギリス)の下に、「第2当事国」と呼ばれるカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの機関、つまりCSE、DSD、GCSBが存在している。この3機関は自国政府でなく、NSAとGCHQの命令に従って活動していることがわかっている。つまり、米英両国がカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを支配するための道具だ。日本でも似たことが起こるだろう。 野田佳彦政権を引き継ぎ、安倍政権はTPP(環太平洋パートナーシップ)によって日本の議会制民主主義を破壊しようとしている。最近では有名になったが、この協定で特に問題なのはISDS条項。この条項によって参加国の政府や議会は手足を縛られ、経済活動だけでなく、自然環境、人間の健康、労働者、消費者を守るための規制が無力化する可能性が高い。要するに、国家が巨大資本の支配下に入るということだ。 このファシズム体制を維持する上で「国家安全保障会議」は重要な役割をはたすことになり、特定秘密保護法案は支配の強力な道具になる。1936年のベルリン・オリンピックと同じように、支配システムを築く上で、第2次東京オリンピックは「有効に」使われるのだろう。
2013.09.16
ロシア政府の主導で進められた米露交渉の結果、アメリカ軍のシリア攻撃はひとまず回避され、シリアが化学兵器を廃棄することも合意された。その直後にアメリカのジョン・ケリー国務長官はイスラエルを訪問している。この訪問について、イスラエルにも化学兵器の廃棄を求めるのかと皮肉る向きもあるが、勿論、シリアを攻撃しないことに関する弁明が中心になるのだろう。 8月下旬からアメリカ政府はシリアを直接攻撃する態勢に入っていた。イスラエルやサウジアラビアからの圧力に抗しきれなかったのだろうが、そう明け透けには言えない。そこで使われた口実がシリア政府軍による化学兵器の使用だった。つまり、シリアを攻撃する真の目的はバシャール・アル・アサド政権の打倒にほかならない。「シリアの現体制が気に入らないからぶっ潰します」と言うわけにはいかず、化学兵器を持ち出したわけだ。 しかし、そうそう都合良くシリア政府が化学兵器を使うわけもない。実際、8月21日の化学兵器による攻撃は反政府軍が実行したことを示す証言や証拠が次から次に出ている。つまり、体制転覆を狙う勢力が「偽旗作戦」を展開した可能性が高い。これは本ブログで何度も書いてきたことだ。 そもそも、化学兵器を保有しているとされている国は少なくない。シリアだけでなく、アメリカ、ロシア、イスラエルも保有国。リビアも持っていて、体制転覆後、その一部がアル・カイダによってシリアへ運び込まれたとする情報もある。そのほか、アルバニア、ミャンマー、中国、エジプト、インド、イラン、朝鮮、パキスタン、セルビア・モンテネグロ、スーダン、台湾、ベトナム、そして日本が化学兵器を保有していると見られている。 2008年12月から09年1月にかけてイスラエル軍がガザで使用した白リン弾も化学兵器の一種。白リンが衣服や人体に付着すると火を消すことが困難なため、人体に深刻なダメージを与える。アメリカ軍はイラクのファルージャを攻撃する際、白リン弾や劣化ウラン弾を使ったことが明らかにされている。 ファルージャの戦闘は、2004年3月にアメリカの傭兵会社、ブラックウォーター(現在の社名はアカデミー)に雇われた元特殊部隊員4名が殺されたことを切っ掛けにして始められた。住民側は、その4名がCIAの仕事をしていたと主張している。このケースでは不明だが、傭兵たちは確かにそうした仕事もしていた。 そのファルージャ、あるいはイギリス軍に攻撃されたバスラで新生児に奇形や脳の障害などが多発しているという報告がある。劣化ウラン弾の影響も強く疑われているが、鉛などの金属が人体に入った影響もあると見られている。 ファルージャの場合、2007年から10年にかけて新生児の半数以上に先天性欠損があったという。1990年代以前には2%以下、2004年に占領軍から攻撃される前は約10%だ。バスラの産院における先天性欠損の割合は、1994年から95年にかけて1000人のうち1.37人だったのだが、2003年には23人、そして2009年には48人に増えている。 このように、アメリカやイギリスを中心とする軍隊に侵攻された後、イラクでは先天性の異常が増えていると報告されている。その問題に関する調査をWHOも2012年の5月から6月にかけて実施、11月に報告書が出される予定になっていた。この報告書でも先天性の異常や流産が増えているとされているようだが、未だに公表されていない。 劣化ウラン弾による放射能の障害も推測されているわけで、1959年にWHOとIAEAが調印した合意文書が報告書の公表を妨害している可能性もあるだろう。この文書の第1条第3項の規定では、一方の機関が重大な関心を持っている、あるいは持つであろうテーマに関するプログラムや活動の開始を考えている場合、その機関はもうひとつの機関に対し、問題を調整するために相談しなければならないことになっている。 アメリカ、イギリス、イスラエルは「レッド・ライン」を超えた・・・どこかの国にそう言われ、攻撃されても仕方のない状況だ。
2013.09.15
アメリカの支配層、特にネオコン(親イスラエル派)や戦争ビジネスはシリアに対する直接的な軍事介入を実現しようと今でも必死のようだが、状況に大きな変化はない。今、議会で議決を採れば開戦は拒否される可能性が高く、外交的に解決するような姿勢を見せざるをえない。 シリアの反政府軍は、政府軍寄りだと見なした人びとを攻撃、建造物を破壊するだけでなく、虐殺と誘拐を繰り返してきた。犠牲者の中にはカトリック教徒も含まれ、ローマ教皇庁へもシリアに関する情報は届いている。そうしたこともあり、ローマ教皇は欧米の軍事介入に否定的な見解を発表しているのだろう。 中東/北アフリカで欧米の巨大資本に服わない体制を倒そうとしている勢力は、時間稼ぎしているあいだにロビー活動、あるいは何らかの工作で雰囲気を一変させるつもりかもしれないが、厳しい環境にあることは間違いない。 そこで、自分たちが劣勢だという印象を持たれないように宣伝している。彼らは、自分たちが「負け犬」だと思われ、一気に人心が離反してしまうことを恐れているはずだ。武力制圧が難しくなり、ロシアの提案に乗らざるをえなくなった言い訳は定番の「武力行使をする脅威を与えたことが、外交交渉の発端となった」というもの。いわば、ポーカー仕込みのはったり。 リビアでもそうだったが、シリア政府は当初から話し合いによる解決を模索していた。それに強く反対してきたのが体制転覆を目指す「西側」や湾岸産油国、そして反政府軍。完全な傀儡体制を築くためには、軍事的に前体制を殲滅するしかない。 しかし、シリアでは武力行使が難しくなった。アメリカ政府は仕方なく外交交渉に切り替えたのである。その方針転換に反政府軍は強く反発した。 反政府軍の主力はアル・カイダ系のアル・ヌスラ。現在、アル・カイダを率いているとされているアイマン・アル・ザワヒリはアメリカでの破壊活動を口にしているが、このザワヒリとエジプト、パキスタン、スーダンで行動を共にしていたシェイク・ナビル・ナイイムによると、彼はアメリカの二重スパイ。アル・ヌスラを指揮しているモハメド・アル・ジャウラニはCIAの工作員だともナイイムは推測している。 アル・ヌスラが化学兵器を保有していることを示す情報は次々に出てきている。リビアでムアンマル・アル・カダフィ体制が倒された後、リビアからシリアへ運び込まれた、あるいはサウジアラビアが提供しているという情報のほか、最近ではイラクから持ち込まれているという話が伝えられている。 5月27日、サリンが入れられた2キログラムのシリンダーがトルコ南部に潜伏していた反シリア政府軍戦闘員の住居で発見され、後にアル・ヌスラのメンバー12名が治安警察に逮捕された。後にアダナ県の知事は否定したようだが、アメリカ軍のルートから機密文書がリークされ、報道は正しかったことが確認されている。 このサリンはイラクのアル・カイダ(AQI)が実験室規模の装置で生成した「キッチン級」で、トルコを経由してシリアへ運び込んでいたようだ。このサリンを武装グループへ提供している人物は、サダム・フセイン時代に化学兵器製造で中心的な役割を果たしていたアドナン・アル・ドゥライミ准将だという。アメリカ政府は、この人物の活動を黙認しているということだろう。 8月21日の攻撃で犠牲になった人びとを見て、使われたのは「希釈されたサリン」ではないかとも言われている。それだけでなく、犠牲者が子どもと成人男性だけで、しかも同年代の子どもが並べられ、親が見当たらない。このことに疑問を持つ人も少なくない。 また、防護服やマスクをつけず、最初に犠牲者の頭髪と衣服へ最初に触れた人は、付着しているサリンで死亡、あるいはダメージを受ける可能性がある。介護者が無防備の状態で犠牲者に触れているのは不自然で、しかも、その介護者が何をしているのか不明だと指摘され、中には介護者が子どもを毒殺しているのではないかと疑う人もいる。 犠牲者の大半が子どもと成人男性だということから、クルド系住民の居住地やラタキアから拉致された子ども、あるいは捕虜なのではないかという推測も流れている。ラタキアでは約200名が殺され、150名以上が連れ去られたと言われ、拉致された子どもの親も多くは殺されている。そこで確認は難しいのだが、一部の子どもについてはラタキアから連れ去られたと確認されている。 アメリカ政府は今でもシリア政府軍がゴータを化学兵器で攻撃したと強弁しているが、説得力はない。権威に弱い人が多い日本では信じる人もいるかもしれないが、日本のマスコミが「御得意」の世論調査を発表していないところをみると、アメリカ政府を信頼していない日本人が多いのだろう。 アメリカへの信用失墜は、「集団的自衛権」と称して自衛隊をアメリカ軍の下請け部隊にする計画を進めている日本の政府やマスコミにとって大きな痛手。マスコミは必死に「大本営発表」を続けている。勿論、この「大本営」は東京でなくワシントンDCにある。
2013.09.14
シリアに対する直接的な軍事介入を決断したはずの米英仏だが、イギリスではデイビッド・キャメロン政権が提出した武力行使に関する動議が下院で否決されて攻撃参加を断念し、アメリカ政府も議会の反対が強いために立ち往生、外交的な解決を目指すというポーズを見せざるをえなくなった。イスラエル、サウジアラビア、そしてアル・カイダは攻撃の「延期」に怒っているが、庶民の多くが反対すれば何もできない。庶民がメディアのプロパガンダに騙されず現実を知るようになった現実の前では、シオニスト・ロビーも無力だ。 リビアでは外国勢力(アメリカ、イギリス、フランス、トルコのNATO加盟国、サウジアラビア、カタールの湾岸産油国、そしてイスラエル)がLIFG(アル・カイダ)と手を組んで体制転覆に成功したが、シリアでは空爆ができなかった。化学兵器の使用を口実に軍事介入しようとしたものの、国連やロシアが化学兵器を使ったのは反政府軍の可能性が高いことを示し、庶民の反対も強まり、押し切れなかったのだ。 情報の統制は独裁体制にとって死活にかかわる問題。安倍晋三政権は「秘密保護法案」なるものを臨時国会へ提出するつもりらしいが、これも支配層にとって都合の悪い情報を隠すことが真の目的である。 昔から日本では官僚機構が情報を独占、主権者であるはずの国民は重要なことを知らされていない。つまり、国民は主権者として扱われていない。そうした国だが、最近はアメリカの支配層から情報を庶民に知らせるなと強く命令されている可能性が高い。これまで以上に情報を統制し、情報の漏洩(内部告発も含まれる)に対して厳罰で望むように言われているのだろう。それほどアメリカの支配システムは揺らいでいる。 こうした情報隠しを正当化するために持ち出される口実が「国家安全保障」だが、プロのスパイにとって、秘密保護法、スパイ防止法、情報保全法といった類いの法律は何の意味もない。この法律が取り締まる対象は庶民、つまり被支配者。戦後のFBIやCIAが監視していたのは戦争に反対する人びとだったことは本ブログで何度も書いてきた。 本来、国民のものである情報を隠し、その国民を監視するシステムを支配層は築き上げてきた。2001年以降、急速に監視システムは強化されている。街頭には監視カメラが溢れ、通話、電子メール、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録が収集されるだけでなく、学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、クレジット・カードのデータなどあらゆる個人データが蓄積、そして分析され始めている。最近ではスマートフォンが個人の情報を集め、追跡する重要なツールになっている。 支配層にとって都合の良いシステム、つまり民主主義を否定し、庶民を管理しやすい体制を築こうとしても、その過程で計画が知られては反対されてしまい、実現は困難。そこで秘密裏に「新秩序」を作り上げていくことが必要になる。TPPの交渉が秘密にされている理由もここにある。 クーデターとも言えるTPPでは、ISDS条項よって通常の経済活動、自然環境、人間の健康、労働者、消費者などを守るための規制を最終的に決めるのは国でなく巨大資本になる。これまでに漏れてきた話だけからでも、これは間違いないだろう。 情報統制は「支配層の安全保障」にとって絶対的に必要なことであり、内部告発者は厳罰に処すことになる。日本のマスコミはとうの昔に「言論の自由」を放棄し、国民をミスリードするためのプロパガンダ機関になっているが、その事実を多くの人が知ってしまった現在、支配層にとってマスコミの存在意義は薄らいでいる。今後、マスコミ以外の情報を厳しく取り締まるつもりだろう。
2013.09.13
アメリカ政府などシリアの体制転覆を目指している勢力は、「傀儡軍」としてアル・カイダを使っている。その実態があからさまになったのは、リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制を崩壊させたとき。 シリアも同様だが、体制転覆をなかなか実現できず、「西側」は劣勢の反政府軍を支援するために直接的な軍事介入を目論んだ。その口実として持ち出してきたのが「政府軍による化学兵器の使用」だが、ロシア政府は反政府軍が使ったことを示す情報を明らかにし、それ以外にも化学兵器を使っているのは反政府軍だする証言が相次いでいる。 2011年に始まった中東/北アフリカの体制転覆プロジェクトでは、サウジアラビアとカタールが傭兵を雇ってきた。「独裁者」に対する「民衆の反乱」という構図に陶酔していた自称左翼もいたようだが、実態は違う。アメリカをはじめとする「西側」の支配に対して造反している国が攻撃されているのだ。 最近、カフカス(グルジアやチェチェンなど、黒海とカスピ海にはさまれた地域)出身者で構成された戦闘部隊がシリアで編成されたと伝えられているが、ここに来て別の情報が話題になっている。サウジアラビアが死刑囚を戦闘員としてシリアへ送り込んでいるという。サウジアラビア政府は否定しているらしいが、斬首されたくなければシリアで反政府軍に加われということのようだ。 その内訳は、シリア人254名、サウジアラビア人212名、パキスタン人203名、イエメン人110名、スーダン人96名、エジプト人94名、ヨルダン人82名、ソマリア人68名、クウェート人44名、アフガニスタン人32名、イラク人23名、パレスチナ人21名。 実は、ベトナム戦争の際にアメリカの情報機関と特殊部隊が実行した住民皆殺し作戦、フェニックス・プログラムでも似たことが行われている。この作戦の実働部隊だったのは傭兵で構成されたPRUで、メンバーの中心は殺人、レイプ、窃盗、暴行などで投獄されていた囚人たちだという。これまで反政府軍が残虐行為を繰り返してきた一因はこの辺にあるのかもしれない。 ベトナム戦争でアメリカは敗北したが、シリアでも「負け戦」になっている。欧米ではアメリカの直接的な軍事介入に反対する世論が盛り上がり、アメリカ議会もシリアとの開戦に反対する意見が強い。イスラエルやサウジアラビアからの圧力で戦争に向かって動き出したのだが、進退窮まり、ロシアの提案を受け入れる形でシリアに対する直接的な攻撃はひとまず遠のいた。 しかし、体制転覆を求める勢力は存在しているわけで、これでシリアに平和が戻るとは言えない。アメリカ政府は反政府軍に対して公然と武器を供給しはじめ、シリア沖に軍艦を集結させている状況に変化はない。8月17日と19日にシリアへ潜入した約550名の特殊工作部隊も撤退してはいないだろう。この部隊はアメリカ、イスラエル、ヨルダンの特殊部隊員が率いている。 それ以前にもシリアへは外部から特殊部隊が潜入していると推測されている。イギリスとカタールの特殊部隊が潜入しているとイスラエルのメディアが報道したほか、民間情報会社ストラトフォーの電子メールにはアメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、トルコの特殊部隊が入っているという推測もある。 こうした部隊と連携して体制を倒すはずだった「西側」の海軍や空軍も臨戦態勢は解いていない。例えばアメリカ軍が地中海に配備した艦船は、5隻の駆逐艦、1隻の揚陸艦、そして紅海にいる空母ニミッツと3隻の軍艦など。 アメリカ軍がシリアを攻撃してもロシア軍は手出しできないとネオコンのジョン・マケイン上院議員は宣伝しているようだが、これは1991年に同じネオコンのポール・ウォルフォウィッツが言っていたこと。だから安心して攻撃しようということなのだろうが、アメリカ国民の多くには支持されていない。 しかも、ロシア側も軍艦を地中海の東部に集結させつつある。NATOから「空母キラー」と呼ばれている巡洋艦のモスクワを中心に、フリゲート艦2隻、電子情報収集艦、揚陸艦5隻、さらにコルベット艦2隻が合流しつつある。駆逐艦(対潜水艦)はモスクワと交代で、ウラジオストックへもどるようだ。 流れは戦争回避の方向に動いているが、危険な状態が続いていることも確かだ。
2013.09.12
12年前の9月11日、ニューヨークの世界貿易センターに並んでそびえていた二つの超高層ビルに航空機が突入、爆破解体のように崩壊、さらに別のビルも同じように壊れた。同じ頃、バージニア州アーリントン郡にある国防総省の本部庁舎(ペンタゴン)も攻撃されている。 当時のジョージ・W・ブッシュ政権は実行者を「アル・カイダ」だと即座に断定、「テロとの戦争」を始めた。アル・カイダの象徴はサウジアラビアの富豪一族に属すオサマ・ビン・ラディンだったが、このビン・ラディンを匿っていると称し、アメリカ企業と石油利権で対立していたアフガニスタンを攻撃、ついでアメリカ軍の反対を押し切り、アル・カイダを激しく弾圧していたイラクを先制攻撃した。 イラクを攻撃する際、「大量破壊兵器」が口実に使われたが、この主張が嘘だと言うことは開戦の前から指摘されていた。また、アル・カイダがアメリカで何らかの破壊工作を計画していることも、事前に外国政府から警告され、アメリカの機関も同じ判断をしていたことがわかっている。 ウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官によると、湾岸戦争でジョージ・H・W・ブッシュ(ジョージ・Wの父親)大統領がサダム・フセインを排除しなかったことに不満を抱くネオコン(親イスラエル派)のポール・ウォルフォウィッツ国防次官は、1991年の段階でシリア、イラン、イラクを殲滅すると話していた。 「911」の直後、ブッシュ・ジュニアはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃する計画をたて、2007年にシーモア・ハーシュが書いた記事によると、アメリカ政府はサウジアラビアやイスラエルと共同でシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始した。 こうした軍事作戦を正当化するためにアル・カイダは利用されてきた。つまり、アル・カイダはアメリカの敵なはずなのだが、リビアやシリアの体制転覆プロジェクトでは、そのアル・カイダと手を組んでいる。現在、シリアで劣勢のアル・カイダを助けるため、ネオコンはフランスを引き連れ、空爆しようと必死だ。(イギリスは離脱した。) リビアやシリアに対し、アメリカはイギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルなどと一緒に反政府軍に武器や戦闘員を供給、そうした戦闘員に対する軍事訓練も行っている。供給された武器の中に化学兵器が含まれ、訓練の中にそうした兵器の扱い方も含まれていた可能性はきわめて高い。 こうした勢力によるリビアやシリアに対する支援は重大な問題を提起している。アル・カイダとは何者なのか、ということだ。1970年代の後半にズビグネフ・ブレジンスキー米大統領補佐官のプランに従ってイスラム武装勢力は組織され、その中からアル・カイダは生まれた。そのアル・カイダが実行したとされる「911」を口実にして、アル・カイダと対立していたイラク、リビア、シリアが攻撃され、すでにイラクとリビアの体制は倒された。 今、シリアに対する直接的な軍事介入を巡り、ロシアや中国など軍事介入に反対する勢力は、ネオコン/イスラエル、フランス、サウジアラビアなど早く攻撃すべきだとする勢力とつばぜり合いをしている。この対立を考える時、「アル・カイダ」はキーワードだ。敵だったはずのアル・カイダをなぜ支援しているのか、ということだ。 今、2001年9月11日のことを思い出している人は少なくないだろう。あの時、実行犯だけでなく、イスラエルとサウジアラビアの動きが話題になっていた。そうした指摘をアメリカの政府や「西側」のメディアは「陰謀史観」という呪文で封印したが、この封印が解けてきている。 当然、リビアやシリアの情勢を伝える報道にもアル・カイダ、イスラエル、サウジアラビアという名詞の出てこなければならない。出てこないなら、メディアの編集者や記者が無能なのか、事実を隠そうとする意思が働いているとしか考えられない。隠そうとしているなら、彼らも共謀犯だということになる。
2013.09.12
シリアに対する欧米の軍隊による直接的な攻撃はひとまず遠のいた。イスラエルやサウジアラビアが強く求めているが、アメリカと最も近い関係にあるイギリスがすでに離脱、ローマ教皇も軍事介入に反対、各国の世論も戦争を拒否している。アメリカ国内では軍隊の内部でも「アル・カイダのために戦いたくない」という声が挙がり、下院では反対意見が圧倒、上院でも攻撃に賛成する見通しは立たない状況だ。 イスラエル/シオニストやサウジアラビアはアメリカに対して大きな影響力を持っていると考えられてきた。その2カ国が手を組んでいるにもかかわらず、彼らのプラン通りに事態が進んでいない。支配システムに大きな変化が起こっている可能性がある。シオニスト神話の崩壊は今後、大きな意味を持ってきそうだ。 サウジアラビアの影響力が石油資源からきていることは言うまでもない。イスラエル/シオニストの場合は1970年代の前と後では事情が違う。イスラエルが建国を宣言した当時、選挙のキャスティングボートを握ることでアメリカの外交政策を動かしていた。そうしたことを可能にした一因は、ユダヤ系住民の4分の3以上がニューヨーク、カリフォルニア、ペンシルベニア、イリノイ、オハイオ、フロリダの6州に住んでいるということにあった。 1970年代にはキリスト教原理主義者(聖書根本主義者とも言われる)と連携、それまでより、遙かに大きな影響力を持つようになった。このキリスト教の一派はキリストが再臨し、自分たちが救われることを願っているのだが、彼らの教義によると、キリストに従う「善の軍勢」と反キリストの「悪の軍勢」が「ハルマゲドン」で最終戦争を行うことが前提。 この最終戦争は核戦争だと彼らは考え、その戦いよって人類の歴史は幕を閉じることになっている。著名なテレビ説教師の大半がこの説を信じていて、「四千万を超えるといわれる聖書根本主義者たちは、聖書に書かれた神の都シオンと現代のシオニズム国家イスラエルを中心に信仰体系を打ち立てている」(グレース・ハルセル著、越智道雄訳『核戦争を待望する人びと』朝日選書、1989年) こうした背景に基づき、イスラエル/シオニストはアメリカに大きな影響力を持ち、そのロビー団体であるAIPACに議員の大多数は従ってきた。その仕掛けが今回、機能していない。 ダマスカス近郊のゴータで化学兵器が使われたとされているのは7月21日だが、その直後にロシアのビタリー・チュルキン国連大使は国連の臨時会合で文書と衛星写真の情報に基づき、反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、ゴータで着弾していることを示した。この情報がシリア攻撃に向かっていた流れを一変させた可能性が高い。 ゴータが攻撃される10日ほど前、バシャール・アル・アサド大統領と同じアラウィー派が住んでいるラタキアが反政府軍に襲撃され、約200名が殺され、150名以上が拉致されたと伝えられている。拉致された住民の中には女性や子どもも含まれていたのだが、ゴータで殺されたとされる子どもの一部はラタキアから連れ去られているとする証言がある。この話も含め、ゴータに関する「西側」の情報には疑問があり、捏造されている疑いもあると「西側」からも指摘されている。 反政府軍はシリア政府寄りと見られているアラウィー派やシーア派だけでなくキリスト教徒も破壊と殺戮の対象にしている。昨年、ホウラで虐殺が発覚した際、「西側」メディアは政府軍の仕業だと宣伝していたが、現地を調べた東方カトリックの修道院長は、反政府軍のサラフィ主義者や外国人傭兵が実行したと報告、この事実はフランクフルター・アルゲマイネ紙も確認していた。 修道院長は「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は、地上の真実と全く違っている。」と語っていた。シリアを破壊し、血の海にした責任の一端はメディアにあるということだ。 シリア政府軍が化学兵器を使ったとする主張を否定する情報は次々に出てくる。最近の例では、9月に入ってから反シリア政府軍に解放されたイタリア人ジャーナリストとベルギー人教師は、反政府軍がゴータで化学兵器を使ったと、彼らを拘束していた戦闘員が話していたと証言している。 こうした状況だが、イスラエル/シオニストやサウジアラビアはまだ諦めたわけでないだろう。シリア政府が支配している地区から化学兵器をイスラエルに向かって発射するという計画を反政府軍が立てているという情報も流れているが、こうしたショッキングな出来事を演出して一気に戦争へ突入するというシナリオが消えたわけではない。シリアの体制転覆を狙っている勢力は追い詰められているが、それだけに状況を一変させるような衝撃的な作戦を練っている可能性がある。
2013.09.11
アメリカのバラク・オバマ大統領がシリア攻撃に消極的な姿勢を見せ始め、イスラエルやサウジアラビアは必死に巻き返しを図っている。アメリカ議会に対するロビー活動をAIPAC(イスラエル/シオニスト・ロビーの団体)が強める一方、NATOのアナス・フォー・ラスムセン事務局長がネオコン(親イスラエル派)と同じ論調でシリア政府を攻撃している。ラスムセンは5月に政治的解決を目指すべきだと語っていた人物だが、状況の変化で本音を出さざるをえなくなったのかもしれない。 ラスムセンはデンマークの政治家で、2009年までは首相を務めていた。新自由主義者として有名で、嘘で塗り固めた口実でアフガニスタン、そしてイラクを先制攻撃したアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)と親しい。ネオコン/イスラエルの傀儡とも言える人物だ。 イギリス、フランス、そしてアメリカはシリア政府が化学兵器を使ったと主張、それを口実にして攻撃しようとしたのだが、すでにその主張は信頼されなくなっている。ロシア政府からの情報だけでなく、カトリックの聖職者を含む地元住民の証言、反政府軍に拉致されていたふたりも、化学兵器を使ったのは反政府軍だと語っている。 そうした流れの中、オバマ大統領やアメリカ議会はシリアを攻撃すべきでないと考えるようになってきたのだが、ラスムセンはシリア政府が化学兵器を使ったことは間違いないと今頃になって断定している。勿論、根拠は示していない。イスラエルやサウジアラビアの主張を繰り返しているだけだ。 NATOの内部にはシリアを攻撃することに反対の国が存在する。だからこそ5月には政治的に解決すべきだとしていたのだろうが、そうした余裕がなくなったようだ。NATOの事務局長もシリア政府は信用できないと考えていると言って、AIPACなどはアメリカの議員を説得するつもりかもしれないが、その程度で状況が変わるとは思えない。
2013.09.10
時間が経過するにつれ、アメリカ政府はシリアを攻撃しにくくなってきた。イギリス政府やフランス政府の主張に同調、化学兵器の使用を口実にしてシリア政府軍を攻撃しようとしていたが、日々、その根拠が崩れている。 アメリカの政府や議会にはイスラエルやサウジアラビアから強い圧力がかかっているらしいが、アメリカを含む大多数の国で、世論はシリア攻撃に反対していると伝えられている。日本のマスコミがよく使う怪しげな「国際社会」はどうだか知らないが、世界の人びとは戦争に反対しているわけだ。(そう言えば、日本のマスコミはこの件で御得意の「世論調査」をしているのだろうか?) そうした中、ロシア政府はひとつの提案をした。シリア軍が保有する化学兵器を国際管理の下に置いたらどうかというもので、シリア政府はすぐに同意、バラク・オバマ大統領も歓迎すると発言している。ただ、ジョン・ケリー国務長官や安全保障問題担当のスーザン・ライス補佐官はシリア攻撃の姿勢を崩していないようで、ホワイトハウス内で意見の対立が生じているのかもしれない。 今年3月にも化学兵器の使用が問題になったが、このとき、国連独立調査委員会のメンバーであるカーラ・デル・ポンテは反政府軍が化学兵器を使用した疑いが濃厚だと発言し、ロシア政府は化学兵器を使ったのは反政府軍だとする100ページの報告書を7月に国連へ提出している。この話を口実にしてシリアを攻撃することが難しくなっていたということだ。 そして8月21日の攻撃だが、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使は文書と衛星写真に基づき、ダマスカスに近く、反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、毒ガス攻撃を受けたとされるゴータで着弾していることを国連の臨時会合で示したという。この話が伝えられた後、シリア攻撃を主張する声は急速に小さくなり、アメリカ政府は孤立していく。 オバマ政権は国際的に孤立するだけでなく、国内でも支持者を失っていく。国民が戦争に反対しているだけでなく、軍の内部でも「アル・カイダのために戦いたくない」として攻撃に反対する声が出てきたのである。 そして9月8日、新たな情報がもたらされる。4月から反シリア政府軍に拉致されていたふたり、イタリア人ジャーナリストとベルギー人教師が解放されたのだが、拘束していた戦闘員が8月に化学兵器を使ったのは反政府軍だと話しているのを聞いたと証言している。隣の部屋で戦闘員がスカイプで話している会話を、半開きのドアを通して聞いたというのだ。 今後、時間が経過すればするほど、シリアを攻撃する口実が崩れていくだろう。ロシア政府の提案は、オバマ政権が面子を保ちつつ逃げられる道を作ったとも言える。シオニストやサウジアラビア王室の圧力があっても、この辺が潮時だとオバマ大統領が考えたとしても不思議ではない。
2013.09.10
2020年の夏季オリンピックは東京で開催されることになったという。日本の政府やマスコミは浮かれているが、学校の運動部では旧日本軍を彷彿とさせる暴力が横行、スポーツ予算も少なく、国民が運動を楽しむ環境が整っているとは到底言えない。それでも豊かな自然があればまだしも、環境破壊は止まるところを知らない。トップレベルにあっても生活がままならない競技も少なくないという。 オリンピック開催ということでスポーツ関連予算が増えるらしいが、東北地方太平洋沖地震/東電福島第一原発事故からの復興を名目とする予算が大々的に流用されてきたことを考えても、本来の目的に使われるかどうか、はなはだ疑問だ。 例によって欲ボケのマスコミは「経済効果」を話題にしているが、人間の欲望がストレートに出るという点で株式相場も面白い。オリンピックの東京開催決定を受けて相場は大きく買われたそうだ。値上がり銘柄は不動産や建設関連の株式が中心のようで、オリンピックを日本人がどのように見ているかを明確に示している。巨大企業を儲けさせるための大規模開発を行う大義名分ということだ。 かつて、日本では「ゴルフ屋」と呼ばれる開発ゴロがいた。定員の2倍、3倍の会員権を発行してカネを集め、自然を破壊してゴルフ場を建設、できあがったらお人好しに押しつけて逃げるという稼業。ゴルフ場の経営などに興味はない連中だ。 日本の政府や大企業も、こうした開発ゴロに近い発想の持ち主。大規模開発には熱心だがメンテナンスはおざなり。深刻な事故も起こっているが、大企業にはメリットがないので維持管理に予算を回さないということだ。こうしたカネ儲けに役人が絡むと、間違いなく尻ぬぐいは庶民に押しつけられる。 オリンピックを招致した東京都は臨海副都心開発を推進してきたが、今は破綻状態。それとオリンピックが結合して目も当てられない状態になる可能性もある。土建業者、不動産会社、金融機関、そして広域暴力団が大儲けして終わることになりかねない。 オリンピック招致で中心的な役割を果たしたのは日本オリンピック委員会だろうが、この委員会の委員長には気になる人物が含まれている。1964年に東京でオリンピックが開かれた時の竹田恒徳(1962年から69年)と長野オリンピックを実現する上で活躍したという堤義明(1989年から90年)だ。なお、竹田恒徳は1967年から82年にかけて国際オリンピック委員会の委員を務めている。現在の会長、竹田恒和は恒徳の息子だ。 中国を侵略していた時期、日本軍は組織的に財宝を略奪していたと言われている。その集積地がフィリピンにあり、そこから日本へ運ぶルートができていたのだが、戦争の激化でフィリピンから運び出すことができなくなり、山中に隠された。これがいわゆる「山下兵団の宝物」である。この工作を指揮していたのは秩父宮雍仁で、その補佐をしていたのが竹田恒徳だ。戦後、竹田邸は西武グループに売却されて「高輪プリンスホテル」が建設されている。
2013.09.09
シリア沖の海域にアメリカ、フランス、ロシア、中国が軍艦を集結させ、イギリスはキプロスに戦闘機を送り込んでいる。アメリカ政府はこうした軍事的な緊張を緩和する意思がないようで、チャック・ヘイゲル国防長官によると、バラク・オバマ大統領はあらゆる偶発的事態に備えるように指示したという。当然、ロシアや中国との戦争も視野に入れているということで、世界大戦も辞さず・・・とも受け取れる。 オバマ政権はシリアを攻撃する理由として、8月21日にシリア政府軍がダマスカス近郊のゴータで化学兵器のサリンを使用したからだとしているが、本ブログでも指摘しているように、証拠を示していない。しかも、反政府軍が何らかの化学兵器を使った疑いは濃厚。3月にも似た状況があったのだが、そのときに化学兵器を使ったのは反政府軍だとする100ページの報告書をロシア政府は7月に国連へ提出している。 シリアでは早い段階から外部から特殊部隊が潜入していると推測されている。イギリスとカタールの特殊部隊が潜入しているとイスラエルのメディアが報道したほか、民間情報会社ストラトフォーの電子メールにはアメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、トルコの特殊部隊が入っているという推測もある。 8月22日付けのフィガロ紙によると、アメリカ、イスラエル、ヨルダンの特殊部隊員に率いられた300名の戦闘部隊がシリアへ潜入、19日には第2陣が入ったとしている。別の報道では、17日に250名、19日には300名だとされている。戦闘員はヨルダンで数カ月にわたって特殊工作の訓練を受けていたようで、大規模な作戦を予感させる動きだった。 言うまでもなく、特殊工作部隊がシリアへ入ったのはゴータで化学兵器が使用されとされる日より前。問題の日に、この潜入部隊はゴータの近くにいた可能性がある。トルコやヨルダンで反政府軍の兵士は欧米に雇われた傭兵から化学兵器の取り扱いも教えられているとも言われ、この特殊工作部隊も化学兵器を扱えたとも考えられる。 本来なら、このままアメリカ、イギリス、フランスはシリアに対する空爆を実施、それに呼応して地上部隊も総攻撃する予定だったのかもしれないが、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使が国連の臨時会合で、反政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、ゴータで着弾していることを示す文書と衛星写真を明らかにしたようで、その頃から状況は一変した。その影響はアメリカにも及んでいる。 リビアでも似た動きがあった。首都、ダマスカスを攻略する際、「西側」や湾岸産油国は事前に手勢を市内に潜入させ、武器も運び込んでいるのだが、その際に自国の特殊部隊も潜入させていた。 特に活発だったのはイギリス。数週間をかけて武器、通信機器、そして精鋭部隊をトリポリに送り込み、MI6(対外情報機関)は「暫定国民評議会」が作成した攻撃プランを添削、アドバイスしていた。 首都攻撃が始まると、イギリス軍は精密誘導爆弾のペイブウェイ IVを情報機関の基地に落とし、トルネードGR4戦闘機がトリポリ南西部にある重要な通信施設を破壊、海からも攻撃している。 リビアではNATO軍の空爆とアル・カイダを主力とする地上軍の連携で体制を倒すことができたが、シリア政府も同じように潰したいのだろう。イスラエルやサウジアラビアの圧力もあり、アメリカ政府は強硬姿勢を崩さず、巡航ミサイルの攻撃にとどまらない可能性を否定できない。すでにアメリカ軍は巡航ミサイルを搭載した5隻の駆逐艦のほか1隻の揚陸艦を地中海に配備、紅海にも空母ニミッツと3隻の軍艦が控えている。 これに対し、ロシアは対潜艦と巡洋艦をまず派遣、ここにきて2隻の揚陸艦と情報収集船をシリア沖へ向かわせ、さらにもう1隻の揚陸艦も合流すると言われている。中国も数隻の艦船を地中海に入れたようだ。 1991年の湾岸戦争でアメリカ政府はサダム・フセインを排除しないままイラクと停戦した。このことにポール・ウォルフォウィッツ国防次官などネオコン(親イスラエル派)は怒るのだが、そのときソ連軍が出てこなかったことで強気になり、軍事力で中東/北アフリカを制圧できると考えたようだ。この段階でウォルフォウィッツはシリア、イラン、イラクを殲滅するとしていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官は語っている。 当時はソ連が消滅する寸前で、しかも「西側」の傀儡だったボリス・エリツィンが主導権を握っていた。イラクと米英との戦争に介入するどころの話ではない。当時と今は全く違う状況下にあるということだ。今回もロシアが出てこないと考えていたとしたならば、相当の愚か者だということになるが、そうしたことはないだろう。だからこそ、アメリカ軍は戦争を嫌がっている。 現在、戦争に最も積極的な姿勢を見せているのはイスラエル/ネオコンやサウジアラビア。次はイランということだろうが、アメリカとロシアを戦わせ、双方を疲弊させようとしている可能性もある。かつて、ナチの残党や旧日本軍の一部が考えていたプランだ。
2013.09.09
週明け後、イスラエル/シオニスト・ロビーのAIPACが250名の活動家を動員、アメリカの上院議員と下院議員にシリア攻撃を支持するように働きかけると伝えられている。すでにロビー活動を展開しているが、さらに圧力を強めるということだ。戦争ビジネスと手を組んでの活動になりそうだ。 これだけイスラエル/シオニスト・ロビーが苦戦しているひとつの理由は、「アメリカの戦争」の胡散臭さを感じている人が増えていること。リビアでの体制転覆作戦でアル・カイダ系の武装集団が地上軍の主力だったことが明らかになり、その戦闘員がシリアへ移動したことも秘密ではない。だからこそ、アメリカ軍の内部から「アル・カイダのために戦いたくない」という声が出てくるわけだ。 イスラエルだけでなく、サウジアラビアもシリアを攻撃するよう、各国政府に働きかけている。7月下旬にシリア政府軍が化学兵器を使用したとアメリカ、イギリス、フランスなどの政府は主張、その直後にサウジアラビアのバンダル・ビン・スルタン総合情報庁長官はロシアを訪問、ソチ・オリンピックでの「テロ」を示唆してウラジミル・プーチン大統領を脅したが、成功しなかったようだ。 そのロシア政府は衛星写真などで反政府軍が化学兵器を使った可能性があることを国連でも説明し、支配層のレベルでも「アメリカ離れ」を起こす一因になっている可能性が高い。この流れにAIPACも押されているということだろう。 当初、シリアへの直接的な軍事介入に消極的だったバラク・オバマ政権だが、6月上旬にシリア攻撃へ舵を切った可能性が高い。国連大使だったスーザン・ライスを安全保障問題担当の大統領補佐官に、またライス大使の後任にサマンサ・パワーを指名したのだが、このふたりは「人道」を旗印に、破壊と虐殺を行うというタイプの人間で、素直に解釈すれば、オバマ大統領がシリアを攻撃すると腹をくくったということだ。 中東/北アフリカでの工作では武器の供給や傭兵の雇い入れ、あるいはアル・ジャジーラを使ったプロパガンダで重要な役割をカタールが演じてきた。そのカタールが動かしているのがムスリム同胞団で、エジプトのハメド・ムルシ大統領やトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相がその影響下にある。 そのカタールで6月下旬に首長がハマド・ビン・ハリーファ・アールサーニーから息子のタミーム・ビン・ハマド・アールサーニーに交代、7月上旬にはムルシが軍の力で大統領の座から引きずり下ろされてしまった。エジプトの新体制はサウジアラビアと関係の深い勢力が動かしている。シリア攻撃の指揮系統を整理したと見ることもできる。 ところが、シリアの体制を転覆させるシナリオが多くの人に見抜かれ、攻撃側の嘘が明らかになりつつある。アメリカ軍の中からも反発する人が出ている。それでも攻撃に突き進んだ場合、アメリカが築いてきた支配システムが崩壊する可能性もあるだろう。
2013.09.08
最近50年間を振り返ると、歴史の節目となる出来事が2度、9月11日に起こっている。最初は1973年にチリで実行された軍事クーデター。2度目は2001年にアメリカのニューヨークにある世界貿易センター、そしてバージニア州にある国防総省本部庁舎(ペンタゴン)に対する攻撃だ。チリのクーデターは強者総取りの新自由主義経済が導入される幕開けになり、2001年の出来事はアメリカを一気にファシズム化させる引き金になった。 アメリカの権力システムを動かしてきた原動力は、巨大資本の利権をいかに守り、拡大するかということ。チリの場合も自国の庶民に目を向けた政策を推進する政権が登場したことがクーデター計画につながっている。 チリを含むラテン・アメリカはスペインやアメリカの支配層に略奪されてきた。単純に財宝を盗んだだけでなく、鉱物資源を奪い去っている。象徴的な存在がボリビアのポトシ銀山で、採掘された銀はヨーロッパ支配層に莫大な富をもたらした。20世紀に入ると、アメリカが略奪者として登場する。 こうした利権構造を揺るがしかねない存在だと見られた政治家がサルバドール・アジェンデ。1970年の大統領選挙における有力候補で、CIAはマスコミなどを使って大規模な反アジェンデのプロパガンダを展開したものの、36.63%の得票で第1位となり、35.29%を獲得した第2位のホルヘ・アレッサンドリと議会で決着をつけることになる。そして選ばれたのがアジェンデ。 アジェンデ政権は最低賃金を大幅に引き上げ、学校に通う子供たちには毎日1杯の牛乳を支給、1年後には銅鉱山を国有化している。賃金の上昇で民衆の購買力は高まって経済活動は活発化した。その代わり、巨大資本はボロ儲けできなくなる。 そこでアメリカの支配層は経済戦争を仕掛ける。チリの重要な輸出品である銅の市況を暴落させ、ウォール街はチリへの融資をストップ、世界銀行も新たな融資を止めてしまった。さらに、トラック運転手がストライキを実施、商店主、工場経営者、銀行なども同調し、全国的なロックアウトに発展している。 こうしてアジェンデ政権を揺さぶった後、オーグスト・ピノチェトを中心とする軍人がクーデターを実行、アジェンデの政策を支持していたと見られる勢力を弾圧し、多くの人が殺害されている。 巨大資本に批判的な勢力が弱ったところへ登場したのが、新自由主義経済の伝道師たち。ミルトン・フリードマン教授やアーノルド・ハーバーガー教授の教えを信奉する「シカゴ・ボーイズ」だ。大企業/富裕層を優遇する政策を実施した。 「新自由主義経済の父」とも言われているフリードリッヒ・ハイエクはチリでの実践に満足、マーガレット・サッチャー英首相にフリードマン理論を売り込み、イギリスでも導入された。この当時、北海油田で莫大な利益が出始めていたので表面化しなかったが、イギリス社会は破壊され、貧困化が水面下で進む。シティ(イギリスの金融街)を中心とするオフショア市場のネットワークが整備され、富豪/巨大企業が資産を隠し、課税を回避する仕組みが整備されたのも、その頃だ。 アジェンデ政権を崩壊させる秘密工作にはオーストラリアの対外情報機関ASISも手を貸していた。1972年12月に首相となったゴフ・ホイットラムはASISに対してCIAとの協力関係を絶つように命令、73年3月には情報を政府に隠しているという理由で対内情報機関ASIOのオフィスを捜索させている。 後にニュージーランドでも発覚するのだが、情報機関は自国の政府でなく、アメリカやイギリスの情報機関から命令を受けて動いていた。いわゆる「国家内国家」だ。1974年8月には情報機関を調査するための委員会を設置する。 オーストラリアのパイン・ギャップにはアメリカやイギリスが築いていた通信傍受システムの重要基地があったのだが、その使用期限が1976年に迫っていた。自国の情報機関に対し、CIAとの協力を打ち切るように命令する首相が使用契約を更新しない恐れは十分にある。そこで動いたのがイギリス女王エリザベス2世の総督、ジョン・カー。ホイットラム首相を解任したのだ。カーは第2次世界大戦中にアメリカへ派遣され、CIAの前身であるOSSと一緒に仕事をしている。 ホイットラムが排除された原因は情報機関に絡む問題以外にもある。首相就任後、徴兵制を廃止、ベトナム戦争から撤退、人種差別政策を採っていた南アフリカとのスポーツ交流を停止、中国との国交を樹立、パプア・ニューギニアの独立を承認、フランスの南太平洋における大気圏核実験を中止に追い込み、大学の授業料を無償化したほか、健康保険制度などの社会福祉を充実させ、芸術にも積極的な支援を行っている。日本の歴代政府と全く逆。大変な行動力だが、これはアメリカやオーストラリアの巨大資本にとっては驚異だった。 また、2001年9月11日の出来事は、1980年代の初めから準備していた「戒厳令」を実行に移す引き金になった。その準備とは、1982年に始まった「COGプロジェクト」。当初は核戦争を想定していたが、1988年から「国家安全保障上の緊急事態」に変更された。政府が主観的に緊急事態だと判断すれば発動、憲法を停止できることになったわけだ。その緊急事態が「911」だったということ。日本でも似た仕掛けを導入しようと目論んでいるようだ。
2013.09.08
G20の閉幕に合わせ、化学兵器の使用はシリア政府に責任があるとする声明が出た。署名したのは、アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、トルコの体制転覆を狙っている5カ国のほか、アングロサクソン仲間のカナダ、オーストラリア、さらにイタリア、スペイン、韓国、そして日本。合計すると11カ国になり、G20の過半数のように見えるのだが、スペインはG20のメンバー国に含まれていない。G20関連記事の中で「11カ国の首脳」と表現するべきではないということだ。 ちなみに、アメリカに追随しなかった国は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICS諸国と、ドイツ、メキシコ、インドネシア、アルゼンチン、EU。 シリア政府軍が8月21日にダマスカス近郊、ゴータでサリンを使用したとアメリカ政府などは主張しているのだが、兵器級のサリン(シリア政府が保有しているであろうサリン)が使われたという話に疑問を持つ化学兵器の専門家は少なくない。欧米のメディアはこの点に触れている。(例えばココ) しかも、ゴータで犠牲になった中に、ラタキアで拉致された子どもがいるとする話も伝えられている。その地域はバシャール・アル・アサド大統領と同じアラウィー派が住んでいる地域で、ゴータが攻撃される10日ほど前に反政府軍に襲撃され、約200名が殺され、150名以上が拉致された(「西側」の政府は気にもしていないようだが)と報告されている。拉致された住民の中には女性や子どもも含まれていた。 本ブログでは紹介済みだが、衛星写真などの証拠に基づき、反シリア政府軍が支配しているドーマから8月21日未明に2発のミサイルが発射され、ゴータに着弾したことをロシアのビタリー・チュルキン大使が国連の臨時会合で示したとされている。この後、バラク・オバマ政権は窮地に陥り、G20でも挽回できなかった。 アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビアなどは中東/北アフリカを自分たちにとって都合の良い体制に転覆しようと秘密工作を続けてきた。傭兵(アル・カイダ)を使った軍事介入を続け、自国の特殊部隊も潜入させていると以前から指摘されている。 ところが、未だにシリア政府は倒されていない。シリアの体制転覆を目指している国々は、自らが空爆、場合によっては地上部隊を派遣しないわけにはいけない状況だ。直接的な軍事介入になるとその中心はアメリカにならざるをえず、攻撃されるシリアを除くと、最も大きなダメージを受けることになる。が、何しろイスラエル/シオニスト・ロビーのAIPACが強力な圧力を議員にかけ、シリアの反政府軍に化学兵器を供給しているとも噂されているサウジアラビアもシリアを攻撃するように強く求めている。バラク・オバマ政権は進退窮まった。
2013.09.07
反シリア政府軍兵士の話として、APはカフカス(コーカサス)出身者で構成された戦闘部隊がシリアで作られたと伝えている。カフカスといえば、黒海とカスピ海にはさまれた地域を指し、反ロシアの軍事勢力が活動しているグルジアやチェチェンも含まれる。 そのグルジアでは、2003年の「バラ革命」でミヘイル・サーカシビリが実権を握っている。ウクライナの「オレンジ革命」でも言えることだが、そのスポンサーは「西側」の巨大資本を背景に持つ富豪たち。 2008年にサーカシビリは南オセチアを奇襲攻撃、ロシア軍の反撃で撃退され、作戦は失敗に終わるということがあった。このとき、グルジアがアメリカやイスラエルから軍事的な支援を受けていることが話題された。 奇襲攻撃の直前、グルジア軍はアメリカの傭兵会社に雇われた元特殊部隊員から訓練を受けているが、それ以上に注目されたのがイスラエルとの関係。2001年からイスラエルの「民間企業」がロシアとの戦争に備えてグルジアに武器を提供し、軍事訓練を行っていた。サーカシビリ政権にはイスラエルと関係が深く、流暢なヘブライ語を話せる閣僚がふたりいた。国防大臣と南オセチアとの交渉担当者だ。奇襲攻撃の翌年、ロシア軍の情報機関GRUの長官は、NATO、ウクライナ、そしてイスラエルが兵器を提供していると発言している。2008年の奇襲攻撃にイスラエルが関与していた可能性は十分にある。 昨年10月、グルジアでは総選挙があったのだが、その際にサーカシビリ政権が反対勢力を拷問していたことが発覚して窮地に陥る。そして選挙の前月、ロシアとの国境近くでチェチェン人が殺されるという出来事があった。 サーカシビリ大統領はダゲスタンから武装勢力がグルジアへ侵入したと批判しているのだが、その後の調査で、殺されたチェチェン人はヨーロッパでグルジアの内務省、あるいは国防省に雇われ、グルジアで数カ月にわたって訓練を受けていた疑いが濃厚になる。 チェチェン人グループは「偽旗作戦」を演出するための罠にはまったという説もあるのだが、総選挙を直前に控え、サーカシビリに批判的なビジナ・イバニシヴィリを殺すことが目的だったのではないかとも言われている。イバニシヴィリの率いる政党が勝利した。(ちなみに、ダゲスタンやチェチェンといた名前は、ボストンでの爆破事件でも浮上している。) この地域では、来年、ソチでオリンピックが開催される予定。そのオリンピックで「テロ」を実行するとサウジアラビアのバンダル・ビン・スルタン総合情報庁長官は示唆、ロシアのウラジミル・プーチン大統領を脅したと言われているが、この作戦に使うため、グルジア人を雇っているともいう。 1970年代にズビグネフ・ブレジンスキーが始めたプロジェクトは今でも続き、旧ソ連圏から中東、北アフリカへと戦乱は拡大している。この地域が同時に燃え上がり、アメリカ軍とロシア軍が衝突する可能性も否定できない。そうした動きの背後にいるのがイスラエルとサウジアラビアだ。この両国が同盟関係にあるという視点で21世紀の出来事を振り返る必要もあるだろう。
2013.09.06
ひとつの出来事に複数の側面があることは言うまでもなく、現在、中東/北アフリカで続いている戦乱にもいくつかの原因が考えられる。例えば、シオニスト/イスラエルの戦略、エネルギー資源の支配、戦争ビジネスのカネ儲け、経済/金融問題などで、これらが相互に影響し合う。 こうした問題の中で、このところ注目されているのが経済/金融問題。ティモシー・ガイトナー財務次官補からローレンス・サマーズ財務副長官に宛てた1997年11月24日付けの文書が明らかにされたことが切っ掛けだ。 その文書の中でガイトナーはサマーズに対し、金融/証券会社のCEOと連絡をとるように勧めている。その相手とは:バンク・オブ・アメリカのデイビッド・コールターシティバンクのジョン・リードチェース・マンハッタンのウォルター・シップリーゴールドマン・サックスのジョン・コーザインメリル・リンチのデイビッド・コマンスキー 巨大な銀行と証券会社で、いずれも「FLG(金融リーダーズ・グループ)」に所属。WTO(世界貿易機関)の金融サービス交渉が最終場面に入った時期にFLGのCEOに会うことは良いアイデアだろうとガイトナーはしている。 この時期、金融の分野で最も大きな問題は何だったかと言えば、グラス・スティーガル法(1933年銀行法)の廃止だろう。1920年代の経験から投機が経済を破壊すると考え、銀行業務と証券業務を分離していた。1933年にアメリカ大統領となったフランクリン・ルーズベルトは金本位制から離脱している。金市場は一部の勢力に支配されていたため、金相場を操作することで通貨を支配することも可能だった。 金融界から見ると、この規制はカネ儲けにとって邪魔な存在。「新自由主義経済」、つまりレッセ・フェール的資本主義が1970年代から「人気」になり、「規制緩和」と「私有化」が推進された。イギリスでは1986年に金融市場で規制緩和、いわゆる「ビッグ・バン」が実施され、アメリカではグラス・スティーガル法の無力化が進み、99年の金融制度改革法で完全に撤廃されている。 1990年代の後半から2000年代のはじめまで、日本でも金融の規制緩和が実行されている。銀行業務と証券業務の分離を止め、顧客への責任転嫁を推進、デリバティブのような投機性の高い商品を扱えるようになった。その前提とされた情報開示の徹底は実行されていない。その典型例が東京電力だ。 WTOのFSA(金融サービス協定)によって、金融取引を各国政府が独自に規制することが困難になり、巨大銀行のデリバティブ取引も受け入れざるをえなくなった。本ブログでも何度か書いたことだが、金融/投機は経済を破壊する。現在、経済が比較的に順調な国はFSAのくびきに拘束されていない。 ひとつの国がWTOに立ち向かうことは難しいだろうが、いくつかの国が団結したなら不可能ではない。「西側」がBRICSを敵視する一因はここにあるだろう。2001年にアメリカ政府が攻撃リストに載せたイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンにもそうした側面がある。南アメリカ諸国も団結に向かっている。日本が東アジアで団結を阻もうとしている理由は言うまでもないだろう。 「西側」が湾岸の産油国と手を組み、アル・カイダを使って体制を転覆させたリビアの場合、ムアンマル・アル・カダフィはアフリカをひとつの共同体にしようと考え、「金貨ディナール」を導入して貿易の決済に使おうとしていたと言われている。ドルとの決別である。 こうした服わぬ国をアメリカは軍事力で制圧しようとしている。そうした中で「アラブの春」も現れた。勿論、TPPも巨大資本が世界を支配する仕組みの一部にほかならない。
2013.09.05
シリアに対する直接的な軍事介入を控え、アメリカではイラク攻撃直前と似た状況が生まれている。アメリカ軍将兵の中からシリア攻撃に反対する声が出てきたのだ。その理由はイラクの際より深刻。アル・カイダのために戦いたくないというである。 リビアやシリアで「西側」の支援を受けた地上軍の主力がアル・カイダ系の武装集団だということは隠しようのない事実。アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルといった国々の支配層はアル・カイダと同盟関係にあるということ。 リビアの場合はLIFGがそうした戦闘団で、そのリーダーは自分たちがアル・カイダだということを隠していない。ムアンマル・アル・カダフィが惨殺された後、反カダフィ派の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられている。 その映像がすぐにYouTubeにアップロードされ、「西側」のメディアもその事実を伝えている。当然、こうした話を日本の政府やマスコミも知っているはずで、この点に触れないとするならば、都合が悪いので事実を隠蔽しているということだ。 カダフィ体制が倒れた後、リビアから武器や資金がシリアの反政府軍に流れ、戦闘員も移動していくのだが、こうしたことは半ば公然と行われ、メディアでも取り上げられていた。その頃からシリアでの戦闘がエスカレートしていったことを偶然で片付けることはできない。リビアからシリアへ移動した兵器の中に化学兵器が含まれていた疑いもある。 武器や戦闘員をリビアのアル・カイダからシリアのアル・カイダへ移動させることをバラク・オバマ大統領やジョン・ブレナン補佐官(現在はCIA長官)が承認していたことを明らかにする証拠を、ペンタゴンの幹部が一部の議員に示しているとも伝えられている。 それに対し、イスラエル/シオニスト・ロビーはシリアを攻撃するよう、議員に強く働きかけている。(AIPACが圧力をかけているという印象を薄めるためか、ニューヨーク・タイムズ紙は何度も記事を書き直しているようだ。)親イスラエル派として有名なジョン・マケイン上院議員やリンジー・グラハム上院議員に対しては何もする必要がないだろうが、「800ポンドのゴリラ」とも呼ばれているらしいロビー団体のAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)は攻撃を実現するため、議員に圧力をかけ、その影響下にある議員も攻撃を実現するために叫んでいるようだ。 国民の多数意見や軍内部の批判を封印するためにも「秘密保全」は重要で、アメリカの支配層は内部告発者を厳しく罰している。本当のことを庶民に知らせるわけにはいかない。日本でも、そうした仕組みを強化しようとしている。 ワシントン・ポスト紙のオーナーだったキャサリン・グラハムは1988年にCIAでこんなことを言っている:「一般大衆の知る必要がなく、知ってはならない情報がある。政府が合法的に秘密を維持することができ、新聞が知っている事実のうち何を報道するかを決めることができるとき、民主主義が花開くと私は信じている。」 これが支配層にとっての「民主主義」だ。
2013.09.04
9月3日の6時16分(GMT)/9時16分(ダマスカス時間)/15時16分(日本時間)に地中海の中央から東へ向かって2発の弾道ミサイルが発射されたことをロシアの早期警戒システムが探知した。2発とも海中に落ちたが、シリアに向かって発射されたと思われても仕方のない状況だった。 その後、イスラエル軍の発射したミサイルだということが判明する。イスラエル国防省によると、アメリカと合同で行った防空システムのテストにともなう発射だというのだが、事前に周辺国(少なくともロシア)へ通告はなく、通常のテストとは言えない。アメリカ軍はこのミサイル発射に関与していないとしている。シリアやロシアのミサイル探知能力を調べた可能性もあるが、シリア攻撃を延期したアメリカ政府への恫喝とも考えられる。 アメリカの軍艦がシリアの近くにいるとき、例えばイスラエルの潜水艦がミサイルを発射し、シリアが反撃してアメリカの艦船が被害を受けた場合にどうなるだろうか? 1964年7月30日に南ベトナムの哨戒魚雷艇が北ベトナムの島を攻撃した。攻撃した哨戒艇はすぐに姿を消すが、その海域ではアメリカの駆逐艦、マドックスが情報収集活動をしていた。31日にアメリカ海軍の特殊部隊SEALのメンバーふたりに率いられた南ベトナム兵部隊が再び島を襲撃、北ベトナム軍はマドックスを攻撃する。アメリカ政府は北ベトナムが先制攻撃したと宣伝、8月7日にアメリカ議会は「東南アジアにおける行動に関する議会決議(トンキン湾決議)」を可決し、本格的な軍事介入につながった。似たことが中東で起こる可能性がある。 1967年6月7日にはアメリカの情報収集船のリバティはイスラエル軍から執拗な攻撃を受け、乗組員34名が死亡、171名が負傷している。これだけの被害ですんだのは、船が何とか沈没を免れ、通信兵が寄せ集めの装置とアンテナでアメリカ海軍の第6艦隊に遭難信号を発信、アメリカ軍が緊急体制に入ったからだ。この時、ロバート・マクナマラ国防長官はソ連軍がリバティ号を攻撃したと思ったと後に告白している。リバティ号が沈没し、第6艦隊へ連絡できなければ、アメリカとソ連が軍事衝突する可能性もあった。 目的のためならアメリカ軍の艦船も攻撃するのがイスラエル。そのイスラエルと同盟関係にあるサウジアラビアは1975年3月にファイサル・ビン・アブドル・アジズ国王が暗殺されてから親米色を強め、イランでイスラム革命が成功してからイスラエルとも結びついた。 おそらく、イスラエルとサウジアラビアが行った最初の合同プロジェクトは、ズビグネフ・ブレジンスキーを中心として展開されたアフガニスタンでの秘密工作。「イラン・コントラ事件」でも両国の名前が出てくる。アフガニスタンで作り出したのがイスラム武装勢力であり、そこからアル・カイダも生まれ、その武装集団をサウジアラビアが操っている。
2013.09.03
現在、アメリカのバラク・オバマ政権にシリアを攻撃するよう仕向けているのは、イスラエルとサウジアラビアである可能性が高い。両国の圧力を受け、一度はシリア攻撃を決断したアメリカ政府だが、攻撃を先送りする事態になってしまった。 シリアを攻撃するように要求しているイスラエルとサウジアラビアの心中は穏やかでないはず。9月1日にジョン・ケリー国務長官がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話、サウジアラビアのバンダル・ビン・スルタン総合情報庁長官から電話で意見を聞いたのも、そうしたことを配慮してのことだろう。1日にはオバマ大統領自身がネタニヤフ首相に電話したとも伝えられている。 両国に対し、ケリーやオバマが実際のところ何を話したのかは不明だが、シリア攻撃を宣言してしまったアメリカ政府は国際的に孤立していることは確か。日本のマスコミはアメリカの攻撃計画を正当化する「報道」を続けているが、日本国民の多くは反対しているのではないだろうか。 巡航ミサイルでシリアを攻撃すると8月の半ばにアメリカ政府と合意していたイギリス政府やフランス政府にとっても苦しい状況だ。このまま突き進むことはできないとオバマ大統領は判断し、議会を巻き込むことにしたようだ。 状況を一変させた原因は国連の臨時会合での出来事にあるだろう。その席でロシアのビタリー・チュルキン国連大使は衛星写真や文書を示し、反政府軍が支配しているドーマから8月21日午前1時半頃、2発のミサイルが発射され、毒ガス攻撃を受けたとされるゴータで着弾していることを明らかにしたという。 アメリカ政府の論法では、化学兵器の使われたことが確認できれば、反政府軍は化学兵器を持っていないので、政府軍が使ったことになる。ロシアが提示したという証拠は、この論法を揺るがす。しかも、多くの専門家は反政府軍も化学兵器を保有しているとしている。 反政府軍の手に化学兵器がわたるルートはいくつもある。体制転覆後のリビアから運び込まれた可能性のほか、サウジアラビアが提供しているという話も流れている。化学兵器の攻撃を受けたとされるゴータの医師、住人、反政府軍の兵士たちは、サウジアラビアから化学兵器が持ち込まれていたと話しているともいう。 また、今年5月にトルコで逮捕されたアル・ヌスラ(シリアで活動中のアル・カイダ)のメンバー7名は2キログラムのサリンを持っていたと報道された。その後、12名が拘束されたという。サリンはトルコとシリア、両国で使用する予定だったようだ。また、今年6月にはイラクでアル・カイダの化学兵器工場が摘発されている。 つまり、シリアでサリンが使用された痕跡(ある程度、時間が経過すると、サリンそのものは検出されないという)を見つけたとしても、政府軍が使った証拠にはならないということ。今年3月のケースでは、反政府軍が化学兵器を使用した疑いが濃厚だと国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテは語っている。 アメリカに支援の手をさしのべるためなのか、潘基文国連事務総長によると、シリアの化学兵器問題を調査している国連の調査団は、化学兵器が使われたかどうかに決着をつけるように命じられているだけで、誰が使ったかを特定するようには言われていない。デル・ポンテのような発言を恐れているのだろう。 何度も書いてきたことだが、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアのトリオは2007年にシーモア・ハーシュがニューヨーカー誌で書いたレポートに登場する。そのころ、この3カ国がシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始したというのだ。 この同盟関係は、少なくとも1970年代の後半までさかのぼることができる。ジミー・カーター大統領の補佐官だったズビグネフ・ブレジンスキーの戦略に基づいてアフガニスタンで秘密工作が始まったときだ。アメリカ、イスラエル、サウジアラビアにパキスタンを加えた国々はイスラム武装勢力を組織、その中からアル・カイダも生まれた。 今回の問題で、サウジアラビアの総合情報庁長官がイスラム武装勢力をコントロールしていることが明確になった。アル・カイダやチェチェンの戦闘集団はビン・スルタン長官の配下にあるということだ。シリアでの恨みをソチ・オリンピックで晴らすということも考えられる。中国の支配層はアメリカに取り込まれているが、ロシアの場合はNGOとしてアメリカの手が伸びている。今後、戦乱が全世界に広がるかもしれない。そうした中、日本は「集団的自衛権」とやらで自衛隊をアメリカ軍の傭兵にしようとしている。
2013.09.02
日本が連合国に降伏したのは68年前の9月2日だった。この日、降伏文書の調印式があり、日本側からは重光葵外務大臣と梅津美治郎参謀総長が、また連合国側は最高司令官のダグラス・マッカーサーのほか、アメリカ、イギリス、オーストラリア、オランダ、カナダ、ソ連、中国、ニュージーランド、フランスの代表が出席、降伏文書に署名している。 この文書によって、日本はポツダム宣言を履行する義務を負い、それにともなってカイロ宣言も受け入れることになった。領土関係では、「日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限」され、「第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト」、「満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト」とされ、「暴力及貪欲ニ依リ日本国ノ略取シタル他ノ一切ノ地域ヨリ駆逐セラルヘシ」ともしている。 連合国が「決定スル諸小島」は、1946年1月に出された「連合軍最高司令部訓令」によると、「対馬諸島、北緯30度以北の琉球諸島等を含む約1000の島」で、竹島、千島列島、歯舞群島、色丹島などは除かれている。(孫崎享著『日本の国境問題』) こうした事実を完全に無視、「領土問題」を演出し、アメリカ(ネオコン/軍事強硬派)の戦略に従う形で東アジアの軍事的な緊張を高める手助けをしているのが日本のマスコミ。中国の支配層、特に若手をアメリカ支配層はすでに懐柔しているが、軍事的には中国やロシアに対する攻撃態勢を整えつつある。 マスコミは中東/北アフリカの問題でも、ネオコン/軍事強硬派が描くシナリオに従って「報道」してきた。そのネオコン/軍事強硬派は中東や北アフリカを破壊しつつあり、この地域を制圧するビジョンを持っているとも言われている。 こうした侵略プランをアメリカの支配層全体が支持しているわけではない。アメリカにとって不利益になるからだ。あくまでもネオコン/軍事強硬派が主導している。そのネオコン/軍事強硬派に日本の「エリート」は従属、日本の庶民を売り飛ばしてしまった。 そのネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセイン体制を危険視、アメリカ支配層のうちでフセインを手先と考えていた勢力と対立することになった。当時、アメリカ政府の中でネオコンと対立していた勢力には、ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領、ジェームズ・ベイカー財務長官、ロバート・ゲーツCIA副長官が含まれていた。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) 1991年にアメリカは偽情報を利用してイラクを攻撃したが、ジョージ・H・W・ブッシュ政権はフセイン体制を倒さないまま停戦してしまう。これに怒ったのがネオコンで、その中心的な存在だったポール・ウォルフォウィッツ国防次官はシリア、イラク、イランを殲滅するというビジョンを語っている。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の話だ。 その後の展開は省略するが、イラクにしろ、リビアにしろ、レバノンにしろ、シリアにしろ、イランにしろ、ネオコンは長い年月をかけて体制転覆を計画してきた。その延長線上に現在の状況はある。 しかも、リビアではアル・カイダがアメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルなどの手先として動いていることも明らかになった。シリアでも同じ構図がある。 シリアでは、軍事介入を正当化する「レッド・ライン」として「化学兵器の使用」を「西側」は設定した。今年3月には化学兵器が使われたが、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテは反政府軍が化学兵器を使用した疑いは濃厚だと発言している。 また、現場で採取した試料を分析したロシアは「家内工業的な施設」で製造された化学物質が使われているとしている。軍隊が使う兵器の場合、保管のため、化学的に安定化させる物質を使うのだが、その安定剤が添加されていなかったのだという。分析結果は80ページの報告書にまとめられ、国連の潘基文事務総長に提出された。 ジョージ・W・ブッシュ政権の国務長官、コリン・パウエルの補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン退役大佐は、イスラエルが「偽旗作戦」を実行した疑いがあると発言している。「第1弾」は失敗に終わった。 そして今回の化学兵器使用。シリアのクルド系政党、PYD(民主連合党)のサレハ・ムスリム代表が言うように、アサド政権が化学兵器を使ったとする話は不自然。本ブログで何度も指摘したことだが、戦闘は政府軍が優勢であり、使う必然性がない。「政府軍が化学兵器を使った」という状況は、シリアの体制転覆を目指す勢力が望んでいることだ。 しかも、国連の臨時会合でロシアの国連大使、ビタリー・チュルキンは、反シリア政府軍が支配しているドーマから8月21日午前1時半頃、2発のミサイルが発射され、毒ガス攻撃を受けたとされるゴータで着弾していることを文書と衛星写真に基づいて示した。この後、シリアを攻撃するという話が急速に後退することになる。バラク・オバマ大統領も開戦の決定を議会に投げてしまった。このままアメリカが攻撃すれば、取り返しのつかない傷を負うことになる。 アメリカ政府がシリア攻撃の動きを見せると日本のマスコミは浮かれ、戦争を煽るかのような「報道」を続けた。状況が変わったことを知っているだろうが、強者に媚びへつらうという姿勢を変えられず、アメリカに都合の悪い情報を無視している。自分たちの無様な姿に気づいているのだろうか?
2013.09.01
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