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6月1日から「第5回アフリカ開発会議」が横浜市で開かれるようだ。安倍晋三首相は今後5年間で1兆数千億円規模の政府開発援助(ODA)を拠出すると表明、インフラ整備や人材育成などの支援策する打ち出す意向だという。石油や希少金属を狙っていることは言うまでもない。 日本に限らず、「西側」はアフリカの利権を得ようとしている、つまり再植民地化を狙っているわけだが、少し前までは大きな障害があった。リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制だ。1990年代の終盤からサハラ以南のアフリカとの関係を強化、「西側」からの自立を支援し、アフリカを連合国家にしようとしていたのだ。(本ブログでは何度か書いたことなので今回は割愛する) これに対し、アメリカは2007年にアフリカ大陸を担当する統合軍、AFRICOMを創設している。軍事力でアフリカの資源を支配しようというわけだが、アフリカ諸国もそうした存在を拒否、司令部はドイツに置かれ、ジブチの基地が橋頭堡的な役割を果たしていた。ジブチにはJCTF(統合連合機動部隊)が駐留している。モロッコやギニア湾にも入り込んでいた。 リビアやシリアで明らかなように、イスラム武装勢力/アル・カイダが戦闘を始めて社会を不安定化させたところで「西側」の軍が「鎮圧」するために乗り込んでくるというパターンがある。ソマリアでもJCTFを経由してCIAの資金が反政府軍へ流れていたと言われている。 現在、アフリカに最も食い込んでいるのは中国。その中国を排除することもAFRICOMに課せられた任務のひとつだろうが、かつて、中国とアメリカはアンゴラの利権争奪戦で手を組んでいたことも事実。 1975年にアンゴラがポルトガルから独立、MPLAが実権を握った。この新政権はソ連と友好的な関係にあったのだが、中国はMPLAと敵対関係にあったFNLAやUNITAを支援していた。CIAもFNLAを支援、UNITAの背後にはイスラエルやアパルトヘイト体制下の南アフリカがいた。つまり、中国はアメリカ、イスラエル、そして南アフリカと手を組んでいたということである。CIAは資金を提供するだけでなく、要員を送り込んでいる。 ところが、アメリカのガルフ石油はMPLA政権とも取り引きを続けようとする。それに対し、ジョン・マックロイを中心とする「特別調査委員会」はガルフ石油の賄賂工作を調査、ロッキード事件につながった。ちなみにマックロイは国際復興開発銀行(世界銀行)の第2代目の総裁で、1949年から西ドイツ駐在の米国高等弁務官を務め、ナチ戦争犯罪人に恩赦を連発している人物だ。
2013.05.31
未承認の遺伝子組み換え小麦がオレゴン州の農場で見つかったことを受け、日本の農林水産省はウェスタン・ホワイト小麦2万4926トンの入札を中止したという。アメリカ農務省によると、モンサントの除草剤を散布しても一部の小麦が枯れることがなかったことから発覚したのだという。この小麦は1998年から2005年にかけて試験が行われたが、認可申請を撤回していた。 モンサントはアメリカの主要農作物のうち、主に飼料として使われるトウモロコシ、大豆、アルファルファは遺伝子を組み換えた商品を売り出しているが、人間が直接食べる小麦は市場へ出していなかった。 言うまでもなく、遺伝子組み換え作物の安全性は確認されていない。長い期間、何世代にも渡る調査をしても生物の歴史を考えれば不十分なのだが、それほど本格的な調査をする前に、危険性を示す研究結果が出ている。昨年9月、フランス政府は遺伝子組み換えトウモロコシと発癌の関連性がラットの実験で示されたとして、保健衛生当局に調査を要請したのだ。 フランスのカーン大学の研究チームは200匹のラットを使い、ラットの寿命に合わせて2年間にわたって実験した結果、モンサントの遺伝子組み換えトウモロコシ「NK603」を食べたり、除草剤「ラウンドアップ」と接触したラットのグループに腫瘍を確認、臓器にもダメージが見られたとされている。 こうした腫瘍の多くは18カ月をすぎてから発見されているのだが、欧州食品安全機関に所属する委員会は2009年、90日間(3カ月間)のラット実験に基づいて「従来のトウモロコシと同様に安全」としていた。 これに対し、フランス政府はHCB(バイオテクノロジー高等評議会)とANSES(フランス食品環境労働衛生安全庁)にカーン大学の研究に関する調査を要請、その結果、従来の安全性評価が疑われるような点は何も確認できなかったという。「データが不十分」ということらしい。 こうした研究発表の裏側で、胡散臭い動きがあったようだ。例えば、フランス駐在のアメリカ大使だったクレイグ・ステイプルトンは2007年12月、フランスに対して長期にわたる「報復」が必要だと政府に進言している。こうしたアメリカ政府の働きかけがあることは、ウィキリークスが公表した外交文書で明るみに出た。 アメリカでは政府も議会もモンサントのカネ儲けを必死に守る。例えば、今年、アメリカで成立した包括予算割当法案の中には、遺伝子組み換えに関する重要な条項が潜り込ませてある。第735条。別名「モンサント保護条項」。遺伝子操作作物の作付けを規制、あるいはブレーキをかけることを禁止している。 ところで、今回、問題になっている遺伝子組み換え小麦は承認されていない。未承認の遺伝子組み換え作物も自然界を汚染し始めていることが確認されたわけで、承認されているものは拡散を止めようがない。
2013.05.31
シリアを空爆したい勢力にとって、ロシア製の地対空ミサイル、S-300は厄介な存在だと考えられている。昨年、スロバキアで実施されたNATOの軍事演習でテストした結果、「西側」の航空機や巡航ミサイルにとって脅威になることが確認されたというのだ。 そのS-300をすでに受け取ったとシリアのバシャール・アル・アサド大統領はレバノンのアル・マナーTVのインタビューで語っている。これは最初の荷で、次もすぐに届くという。EUの外相理事会が反シリア政府軍への武器禁輸を解除すると決定したことを受けての供給だとも言われている。 S-300をシリアへ提供しないように働きかけていたイスラエル政府はEUの決定に不快感を感じているとも伝えられているのだが、ヨシェ・ヤーロン国防相は力尽くで輸送を阻止する用意があると警告していた。ミサイル搬入の情報を受け、イスラエル政府内にはシステムが稼働することを防ぐと発言する人もいるようだ。 ただ、アサド大統領の発言と合わない話も伝えられている。すでにシリアへ運び込まれていたという情報と、まだシリアに供給されていないという情報だ。搬入説の内容もひとつではなく、2006年に配備が計画されたという話があるほか、一昨年の11月にはS-300が運び込まれたとも報道されている。 その一方、まだS-300はシリアへ提供されていないという情報もイスラエルの情報機関から流れている。これまでにイスラエルの国防相らの口から出た発言の通りに動くならば、シリアを攻撃してシステムを破壊しなければならない。シリアとの戦争を避けるため、イスラエルの情報機関はミサイルの搬入を否定している可能性もある。 S-300はまだ実戦で使われたことはないようだが、スロバキアでのテストの情報が正しいならば、イスラエル軍としても動きにくい。NATOも飛行禁止空域の設定、つまりシリア空爆を決断するには相当の覚悟が必要。リビアとは状況が違うと言うことだ。 リビアとの違いはもうひとつある。強い反政府感情の有無だ。リビアの場合、ベンガジなどを拠点とする反政府軍が存在していた。もうひとつ、無視できないのは人種差別の感情。ムアンマル・アル・カダフィの親アフリカ政策もあり、リビアにはサハラ砂漠以南からの移民が多かったのだが、そうした人びとに対する差別意識がアラブ系住民の中に根強く、暴力事件も起こるほど国内に不満が高まっていた。 カダフィ体制が崩壊した後、リビアではサハラ砂漠以南からの移民が襲われ、多くの犠牲者が出ているが、その原因は人種差別にある。そうした殺戮を「西側」は「民主化」や「人権」の名の下に後押ししたわけである。シリアでも反政府軍はシーア派、アラウィー派、キリスト教徒(多くは正教徒)など少数派を殲滅すると公言しているが、スンニ派にも支持されていない。
2013.05.30
ヨーロッパではイギリスとフランス、アメリカではネオコン(親イスラエル派)がシリアへの軍事介入を強化しようと働きかけている。この3者のほか、トルコ、サウジアラビア、カタールがシリアの体制転覆を目指す勢力であり、その手先になっている武装勢力の中核はアル・カイダ系のグループにほかならない。 5月27日にはふたつの注目すべき出来事があった。EUの外相理事会が開かれて反シリア政府軍への武器禁輸を解除すると決定、アメリカのジョン・マケイン上院議員はトルコからシリアへ入り、反政府軍の幹部と数時間にわたって会談したという。EUの決定はイギリスとフランスの意向が反映されたわけだ。6月6日から9日にかけてビルダーバーグ・グループの会合がイギリス開かれるようなので、シリア情勢も議題になり、何らかの動きが出てくる可能性がある。 すでに反政府軍の主力がアル・カイダだということを否定できなくなっている。そこで体制転覆プロジェクトを推進している勢力は「良い反政府軍」と「悪い反政府軍」という虚構を人びとに信じさせ、反政府軍へのテコ入れを正当化しようとしている。反シリア政府軍は、シーア派、アラウィー派、キリスト教徒(多くは正教徒)など少数派を殲滅も公言している。 正規の手続きを踏まずにシリア入りしたマケイン上院議員に対し、反シリア政府軍の幹部は重火器の供給、飛行禁止空域の設定、政府軍やヒズボラへの空爆などを要求したという。軍事力で体制を転覆させたリビアの再現を望んでいるわけだ。 すでにトルコとイスラエルは戦闘機をシリア領空へ侵入させている。昨年6月に領空を侵犯したトルコのF-4戦闘機は海岸線から約1キロメートルの地点で撃ち落とされ、今年に入ってからイスラエルが1月と5月にシリア領内を空爆した。未確認情報だが、それ以外にも戦闘機の領空侵犯があり、シリア軍はトルコのF-16を3機、またイスラエルの戦闘機を1機、撃墜したとも言われている。 シリアのバシャール・アル・アサド体制を倒すために空爆を目論んでいる勢力は現在、ロシアの地対空ミサイルS-300に神経を尖らせている。空爆を困難にしているからだ。このミサイルは1978年から実戦配備されているので新型とは言えないが、2012年にスロバキアで実施されたNATOの軍事演習で航空機や巡航ミサイルにとって脅威になることが確認されたという。 5月14日にロシアを訪問したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相もプーチン大統領に対してS-300をシリアへ提供しないように求め、もし提供したら戦争になると脅したが、ロシア政府は既存の契約通りに武器を提供するという態度を崩していないようだ。真偽不明だが、すでにシリアは200台のS-300ランチャーを受け取っているだけでなく、対艦ミサイルP-800のランチャーが36台あるとも報道されている。 イスラエルはシリアを空爆しただけでなく、地上軍をシリア領へ侵入させているともいう。例えば、シリアでの作戦を終えてイスラエルへ戻る特殊部隊をゴラン高原で撮影したという映像を5月16日にアメリカのFOXニュースが放送している。イスラエルはゴラン高原から反シリア政府軍向けに武器をシリアへ運び込んでいるとも言われている。 ジミー・カーター政権の時代、ズビグネフ・ブレジンスキーはソ連軍をアフガニスタンへ誘い込む計画をたて、成功したわけだが、その当時、アメリカのロナルド・レーガン政権はパキスタン、サウジアラビア、イスラエルと手を組んでいる。イスラム武装勢力を組織したのは、このグループ。そのイスラム武装勢力からアル・カイダは生まれた。 ネオコンのポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)は1991年の段階ですでに、シリア、イラン、イラクを殲滅すると語っていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官の話。 イラクの体制転覆に成功した後、2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは興味深い記事を発表している。アメリカ、イスラエル、サウジアラビアはシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始、その手先としてスンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を使うというのだ。実際、その通りになった。 アメリカ、イスラエル、サウジアラビアのトライアングルは1970年代の終盤にできあがっているわけだ。イギリスとフランスに関しては、1916年5月に結ばれたサイクス・ピコ協定を指摘する人も少なくない。 この協定はイギリスとフランスが秘密裏に結んだもの。大雑把に言って、ヨルダン、イラク南部、クウェートなどペルシャ湾西岸の石油地帯をイギリスが支配し、トルコ東南部、イラク北部、シリア、レバノンをフランスが支配することになっていた。協定が結ばれた翌月に「アラブの反乱」が始まるが、その黒幕はデイビッド・ホガースを局長とするイギリス外務省のアラブ局。「アラビアのロレンス」こと、トーマス・ローレンスもそこにいた。この流れの中、サウジアラビアが誕生する。 その一方、1917年にはイギリスのアーサー・バルフォア外相がロスチャイルド卿宛ての書簡で、「イギリス政府はパレスチナにユダヤ人の民族的郷土を設立することに賛成する」と約束している。
2013.05.29
大阪市の橋下徹市長は5月27日、日本外国特派員協会で記者会見を開いた。2週間前の発言に関する弁明が目的だという。問題とされた発言のひとつは次のようなものだった。「あれだけ銃弾の雨、銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときにね、それはそんな猛者集団といいますか、精神的にも高ぶっている集団はやっぱりどこかでね、まあ休息じゃないけれどもそういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度っていうものは必要なのはこれは誰だってわかるわけです。」(朝日新聞)「銃弾が飛び交う中で命をかけて走っていく時に、精神的に高ぶっている集団に休息をさせてあげようと思ったら、慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる。」(毎日新聞) 騒動の原因は「誤報」にあると主張したらしいが、発言内容を調べれば誤報でないことは明らか。「慰安婦制度っていうものは必要なのはこれは誰だってわかる」と発言したことは否定できないだろう。橋下が言っているのは、「俺もそう思うが、お前もそう思うだろう」ということだ。「自分の意図を真摯に説明しようとした」とは思えない。 この「慰安婦」は朝鮮を主体とする東アジアの女性が大半だったが、オランダ人女性も含まれていたと報告されている。当時、新聞記者として取材していた「むのたけじ」も書いているが、その多くは甘言を弄して集められている。(むのたけじ著『戦争絶滅へ、人間復活へ』岩波新書)つまり誘拐されたわけである。女性たちの移動を考えるだけでも、軍が関与していたことは間違いない。 橋下は「世界各国の兵士が女性を性の対象として利用してきたことは厳然たる歴史的事実です。女性の人権を尊重する視点では公娼、私娼、軍の関与の有無は関係ありません」と主張しているが、これは論点のすり替え。日本軍は占領地で数万人とも20万人とも言われる数の女性を誘拐し、「慰安婦」にしたということが問題になっているのだ。また、同じことを外国でも行っていたとい言いたいのなら、自分の主張を裏づける根拠を示す必要がある。橋下の主張は「一回は一回」という子どもの論理にすぎない。 勿論、暴力や甘言を使わなくても問題。1929年に内閣総理大臣となった浜口雄幸は大蔵大臣に井上準之助を選んだが、井上はJPモルガンと関係が深く、「適者生存」の信奉者。最近の表現を使うならば、彼は「新自由主義経済」を推進したわけだ。 彼の打ち出した政策は、緊縮財政(小さい政府)、産業合理化(労働者解雇)、そして金解禁(金本位制)。いずれもウォール街が望んでいたもので、景気を急速に悪化させ、失業者は急増、農村では娘が売られるという惨状を生み出す。身売りは一種の取り引きであり、「強制」とは言えないかもしれない。 しかし、そうせざるをえない状況を作り出した日本の支配層に責任があると考える人たちはいた。そうした怒りが血盟団の活動、五・一五事件、二・二六事件などにつながったわけだ。こうした人びとが生きていたなら、「強制」の定義を狭くして責任を回避しようとする手合いをどう考えるだろう。 橋下市長の発言は、安倍晋三首相が引き起こした近隣諸国の反発を受けてのもの。少なくとも結果として、安倍首相や自民党を助けることになった。4月23日に麻生太郎副総理など168名の国会議員が靖国神社を参拝、自身は「真榊」を奉納した安倍首相は、「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国の関係でどちらから見るかで違う」と主張したのだ。 たしかに通常、他国に攻め込むときに「侵略する」とは宣言しない。「自国民の保護」といった大義名分を日本軍は掲げたが、最近、アメリカは「民主化」や「人道」といった口実を使っている。「テロとの戦争」という意味不明の言葉もまだ使われることがある。 安倍や橋下は日本のマスコミが担いできた。橋下の場合、テレビが産み落としたタレントである。テレビ界を支配する「空気」を体現した存在だとも言えるだろう。
2013.05.28
イギリス政府の好戦的な姿勢が目立つ。シリアの反政府軍に対する武器の禁輸措置を解除するようにウィリアム・ハーグ外相は主張、体制転覆をなかなか実現できないことに焦りを感じているようだ。 そうした中、アメリカでは上院外交委員会のロバート・メネンデズ委員長とボブ・コーカー議員らは、アル・カイダ系の武装集団を主力とする反政府軍へアメリカ政府が直接、軍事支援することを認める法案を提出している。アメリカの議会はネオコン(親イスラエル派)の影響力がホワイトハウスより強く、そうしたことも関係しているだろう。 こうした動きがあるからといって、両国が軍事介入してこなかったわけではない。シリアでは2011年3月からアメリカを含む外国勢力が軍事介入を始めているのだ。地上部隊も実態は湾岸の産油国に雇われた傭兵が主力で、その中核はアル・カイダ系の武装集団だとも言われている。少なくとも、その背後にはアメリカが存在する。そうした体制で外国勢力はシリアを侵略しようとしているのだ。 イギリス、フランス、アメリカ、トルコなどNATO加盟国は軍事訓練など、サウジアラビアやカタールのような湾岸産油国は傭兵を雇い、武器を提供してきた。そこにイスラエルが加わる。イスラエルは戦闘機でシリアを空爆したほか、地上から特殊部隊を潜入させているとも言われている。5月16日にはアメリカのFOXニュースが、シリアでの作戦を終えてイスラエルへ戻る特殊部隊だという映像を流している。 外国勢力が特殊部隊を潜入させているという話は早い段階から流れていた。イスラエルの情報機関、モサドに近いと言われるメディアはイギリスとカタールが特殊部隊を潜入指せていると報道、WikiLeaksが公表した民間情報会社ストラトフォーの電子メールによると、アメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、トルコが特殊部隊を送り込んでいる可能性がある。イギリスは最も可能性が高いのだろう。 特殊部隊はシリア内部で秘密工作に従事しているだけではない。2011年の春からトルコにある米空軍インシルリク基地で、反シリア政府軍は訓練を受けているのだが、その教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員を、イギリスやフランスの特殊部隊員だと言われていた。 シリアより一足先にリビアも侵略され始めている。地上軍の主力はアル・カイダの加盟組織であるLIFG。NATOの空爆が効果を発揮しているが、NATO諸国の部隊は地上でも活動していた。アメリカ、イギリス、カタールは特に有名。カタールは軍事訓練と通信を担当、反政府軍とNATOをつなぐ役割も果たしたと公言している。2011年3月にイギリスの特殊部隊員はリビアに潜入、作戦を始めたと伝えられている。その規模は数百人だったという。イギリスは情報機関MI6のエージェントも潜入させ、アメリカのCIAもリビアで活動していたようだ。 シリアでも同じようなことが行われている可能性は高いが、シリアでは外国勢力の思惑通りに進んでいない。イギリスは自国の特殊部隊員や情報機関員が厳しい状況に陥っている可能性があるだろう。 カダフィ殺害の最終的なゴー・サインは、トリポリを訪れたヒラリー・クリントンが出したと見られている。カダフィは殺される1週間前に携帯電話か衛星電話を使用したようで、その時点から場所を正確に捕捉されていたようだ。 その後、アル・カイダの戦闘員は次のターゲット、シリアへ移動する。バシャール・アル・アサド体制を倒そうと言うわけだが、その際、マークを消したNATOの輸送機が武器をリビアからトルコの基地まで運んだとも伝えられている。
2013.05.27
第2次世界大戦の直後、イギリスとアメリカの支配層は世界規模で電子的に情報を収集する作り上げたが、1980年代に入ると、不特定多数のターゲットに関する情報を分析するシステムが実用化された。当然、ターゲットには人間も含まれ、人びとは「ビッグ・ブラザー」に支配されるようになった。 アメリカの場合、公的な情報を統合するだけでなく、銀行口座(資金の出し入れ)の内容、クレジット・カードのデータ、住宅ローンの支払い内容、投薬記録、航空券や劇などのチケット購入記録を監視、最近では電子メールの内容は全て記録され、インターネットでアクセスしたサイトに関する情報、あるいはGPSを利用して個人の動きを追いかけることも可能になっているようだ。 昨年11月、デービッド・ペトレアスCIA長官が辞任している。伝記作家との浮気が原因だとされているが、電子メールの記録が決定的な証拠になったという。ペトレアスは陸軍大将のCIA長官、ペトレアスの伝記を書いていたポーラ・ブロードウェルは軍情報部に所属していた陸軍中佐。ふたりとも情報のプロであり、通信傍受に関する知識を持っていたはず。当然、それなりの対策を講じていたと考えられるのだが、それでもばれている。一般人は丸裸ということだ。 それだけ監視技術が進歩しているということだが、そうした技術の開発に「民間企業」が関わっている。1980年代からアメリカでは軍や情報機関の「アウトソーシング化」が進んだ結果だ。 そうした流れを生んだひとつの理由は、1970年代半ばに行われた議会による調査。フランク・チャーチ上院議員を委員長とする「情報活動に関する政府の作戦を調査する特別委員会」(チャーチ委員会)やオーティス・パイク下院議員を委員長とする「情報特別委員会」(パイク委員会、当初はネッジ委員会)が中心的な役割を演じた。こうした議会の調査を回避する手段として「民営化」を推進したと考えられている。 前回書いた情報の収集/分析システムのPROMISだが、INSLAW社から奪ってから司法省は情報機関へ渡す。それにトラップ・ドアが組み込まれ、ハドロン社という「民間」の企業を介して各国政府、国際機関、あるいは金融機関へ売られている。そうした中に日本の政府機関や銀行も含まれている可能性が高い。 ハドロン社を経営していたのはアール・ブライアンという人物だが、このブライアンやロバート・マクファーレンからイスラエルの情報機関もPROMISを入手し、独自にトラップ・ドアを組み込んで全世界に販売していた。イスラエル版を売っていたのがミラー・グループの総帥だったロバート・マクスウェルの出版社。 その会社ではジョン・タワー元米上院議員も働いていた。マクファーレンと同じようにタワーもイスラエルの手先だったということである。1989年にジョージ・H・W・ブッシュ大統領はタワーを国防長官候補として選んだが、結局、承認されていない。その理由のひとつはここにある。 アメリカの国民監視システムは国防総省のDARPAを中心に開発されているが、そこには戦争ビジネスなどがつながっている。イスラエルの場合は軍の情報部隊である8200部隊が中心になっているようだが、この「部隊出身者」が数十の会社を興し、一部はアメリカの株式市場に上場されるほどの規模になっているという。こうした企業との取り引きは避けた方が安全だろう。 住民基本台帳ネットワークにしろ、共通番号制度にしろ、アメリカやイスラエルの情報機関が活動しやすい環境を整えているという側面があることも忘れてはならない。日本のエリートなら、アメリカ支配層から命令されて整備している可能性も小さくはない。日本人はアメリカの支配層から監視されることになると考えるべきだろう。
2013.05.26
共通番号制度法が5月24日に参議院で通過、成立したという。「普通の国」なら、こうした法案は「ビッグ・ブラザー」だとして大問題になるだろうだが、日本ではごく一部の人びとを除き、国全体では大した話題にならなかった。 言うまでもなく、「ビッグ・ブラザー」とはジョージ・オーウェルが1949年に書いた小説『1984』に出てくるキャラクター。オーウェルはソ連を批判する目的で書いたようだが、実際はアメリカやイギリスで現実化、日本は両国を追いかけている。 『1984』を書いた当時、オーウェルは極秘機関「IRD」に協力していた。この機関をイギリス外務省は1948年、プロパガンダを含む工作を実行する目的で創設している。ソ連の影響がイギリスの左翼へ及ばないように、IRDはイギリス労働党を支援していたとも言われている。 監視システムという点で言うと、1947年あるいは1948年に調印された「UKUSA(ユクザ)協定」が重要だろう。UK(イギリス)とUSA(アメリカ)で結ばれた協定。これは調印日も不明確なもので、イギリスのGCHQとアメリカのNSAが中心。GCHQは1942年に設立されているが、NSAが創設されたのは1952年、NSAの前身であるAFSAも1949年で、協定が調印された後ということになる。 GCHQにしろ、NSAにしろ、存在自体が秘密にされていた。NSA長官が議会の委員会へ初めて呼び出された1975年になってからであり、GCHQの名前が初めてメディアに登場したのは1976年のことだ。それまでNSAは「No Such Agency」、つまり、そんな機関は存在しないと表現されるような存在だった。 1976年にGCHQの存在をタイム・アウト誌で明るみに出したのはふたりのジャーナリスト、イギリス人のダンカン・キャンベルとアメリカ人のマーク・ホゼンボールだ。その記事が原因でホゼンボールは国外追放になり、キャンベルはMI5(治安機関)の監視下に入った。 数年後、キャンベルはタイム・アウト誌のクリスピン・オーブリー記者と電子情報機関の元オペレーターを取材、この3名は逮捕された。オーブリー(Aubrey)、元オペレーターのベリー(Berry)、そしてキャンベル(Campbell)の頭文字をとって「ABC事件」とも呼ばれている。 そうした弾圧を跳ね返し、キャンベルは電子情報機関の暗部を暴き続けた。1988年にキャンベルはECHELONの存在を明らかにしているのだが、彼の調査を日本のマスコミは無視していた。 ECHELONに関しては、1996年にニッキー・ハガーが詳しい本を出し、その後、ヨーロッパ議会も報告書『政治的管理技術の評価』を公表している。日本でこの問題が取り上げられるのは、それからしばらくしてから。しかも、内容に問題がある。 ヨーロッパ議会の報告書ではECHELONなどの電子技術を管理システムの一部としてとらえ、そうした技術を使った監視システムのターゲットは反体制派、人権擁護の活動家、ジャーナリスト、学生指導者、少数派、労働運動指導者、政敵などになる可能性が高いと指摘している。ところが日本ではカネ儲けという視点で取り上げていた。 TPPでも言えることだが、日本のマスコミは支配の問題を「国対国」、しかも「カネ」という切り口で語ろうとする傾向が強い。「西側」でファシズム化が急速に進んでいることに危機感を抱かず、気にかけていない。「支配階級対被支配階級」、アメリカで好まれている表現を使うと「1%対99%」の対立が問題なのだが、無視している。 一方、アメリカでは不特定多数の個人情報を集めて分析するシステム、PROMISがふたつの意味で1980年代から話題になっている。ひとつはシステムの能力、もうひとつはアメリカ司法省がこのシステムを横領した疑いが強まったこと。 PROMISの優秀さ(庶民にすれば恐ろしさ)は日本の検察も認めていて、法務総合研究所は資料を1979年と80年に「研究部資料」として公表している。この当時、アメリカの日本大使館に一等書記官として勤務していたのが原田明夫であり、PROMISを開発したINSLAW社と実際に接触していたのは敷田稔である。原田は後に法務省刑事局長として「盗聴法」の法制化を進め、事務次官を経て検事総長に就任、敷田は名古屋高検検事長を務めている また、横領の問題では1987年に破産裁判所が司法省の不正行為を認める判決を出し、連邦地裁も1989年に原判決を基本的に維持する判決を言い渡している。1992年には下院の司法委員会が破産裁判所や連邦地裁と基本的に同じ結論の報告書を出した。 後に巡回控訴裁判所や最高裁は逆の判決を出しているが、破産裁判所、連邦地裁、そして下院司法委員会が司法省の横領を求めた事実は消えない。こうした出来事を日本のマスコミは無視している。 住民基本台帳ネットワークでも同じことが言えるのだが、共通番号制度法でマスコミは「便利さ」と「情報の流出」を語るだけ。支配層が庶民の個人情報を握るという発想の危険性から目を背けている。こうした仕組みができれば、勿論、アメリカの支配層も日本人の個人情報を容易に入手できるようになる。 データベースがインターネットにつながっているなら、必ず情報は全世界に漏れる。犯罪に使われることは不可避だ。そうした危険性を承知の上で住民基本台帳ネットワークや共通番号制度法を導入する理由はひとつしかない。庶民の管理。自分たちが儲ける仕組みを維持することが彼らの関心事であり、その仕組みに反対する人間を見つけ、監視し、反乱の芽を摘むことが大事なのである。この仕組みが原因で庶民が被害を受けることなど気にしていない。支配層の情報を隠すシステムは1970年代から整備されてきた。
2013.05.25
マヤ系先住民1771名以上を虐殺した責任者として禁錮80年が言い渡されてからわずか10日後、5月20日にグアテマラの憲法裁判所はエフライン・リオス・モントに対する原判決を破棄、差し戻した。 モントは1982年の軍事クーデターで実権を握り、独裁者としてグアテマラに君臨した人物だが、その後ろにはアメリカの巨大資本が存在した。つまり彼は傀儡。グアテマラの場合はユナイテッド・フルーツ(1970年にユナイテッド・ブランドへ、また1984年にはチキータへ名称を変更)に支配されていた。 グアテマラでは1944年に選挙が行われてフアン・ホセ・アレバロが当選、翌年の3月から大統領を務めることになる。この国では、民主的に選ばれた初の大統領だった。アレバロの次に選ばれたのがヤコボ・アルベンス・グスマン。在職期間は1951年3月から54年6月まで。 グスマンが大統領に就任した1951年、モントはパナマにあったアメリカの軍事訓練施設、SOA(School of the Americas)に派遣されている。この施設では反乱鎮圧技術、狙撃訓練、ゲリラ戦や心理戦、軍事情報活動、そして尋問法などが教えられ、「暗殺学校(School of Assassins)」と陰土を叩かれている。なお、SOAは1984年にパナマを追い出されて米国ジョージア州へ移動、2001年にWHISECへ名称が変更されている。 ところで、アメリカの情報機関はウォール街と深い関係にある。アメリカは大戦に参戦した直後、イギリスの情報機関を「師」とする形でOSSを創設した。初代長官に選ばれたのはウォール街の弁護士だったウィリアム・ドノバン。このドノバンと親しく、破壊活動を指揮することになるアレン・ダレスもウォール街の弁護士。アレンは兄のジョン・フォスターと同様、ユナイテッド・フルーツの仕事をしていた。 戦後、OSSはCIAに生まれ変わり、1953年からアレン・ダレスがCIA長官。この年、ドワイト・アイゼンハワーが大統領に就任している。そして、グスマン政権を倒すために始められたのがPBSUCCESS。この作戦で中心的な役割を果たしたフランク・ウィズナーもウォール街の弁護士で、OPC(当初はOSP。極秘の破壊工作組織で、CIA計画局の中核になり、後に作戦局へ名称変更、2005年にはNCSに吸収された。)の局長も務めた。 リビアやシリアでの体制転覆プロジェクトでも同じだが、反政府軍を秘密裏に編成して武器や資金を提供、グスマン政権に対するプロパガンダを開始、1954年にはアイゼンハワー大統領が軍事蜂起を巨魁している。 クーデター後、グアテマラでは共産主義者の疑いをかけられた数千名が逮捕され、その多くが拷問を受けたうえで殺害されている。1960年には、軍事独裁体制に対する軍内部の反乱があり、内戦は96年まで続いた。 ロナルド・レーガン政権もグアテマラの独裁体制を支持、市民を支える仕組みを根絶するために激しい弾圧を展開した。レーガン政府の支援を受け、数年間で約10万人が軍に殺されたと言われている。軍事政権全体では約20万人が虐殺されたともいう。 この時の外見を利用、中東/北アフリカでは「独裁政権」を倒そうと「民主勢力」が蜂起、それをアメリカなど「西側」や湾岸の独裁産油国、あるいはアパルトヘイト国家のイスラエルが支援するという形に見せている。が、実態はラテン・アメリカの場合と同じ。アメリカの巨大資本や、湾岸産油国、イスラエルの利権を拡大するために傭兵(アル・カイダ)を雇い、ラテン・アメリカの「死の部隊」と似たようなことをさせている。 モントが有罪ならば、そのモントを操っていたアメリカの政府や巨大資本も責任を免れない。アメリカの支配層は歴史を偽造して逃げようとしている。
2013.05.23
シリアの戦乱を終息させるために話し合いを始めようとする動きがあるが、平和への道は平坦でない。例えばベトナム戦争の場合、ヘンリー・キッシンジャーは話し合いを有利に進めようとして攻撃を強めた。シリアでも同じようなことを考えている可能性があるのだが、現在、反政府軍は劣勢。レバノンから反シリア政府軍への補給拠点になってきたアル・クサイルを政府軍が制圧しつつあると伝えられている。 そうした中、米国上院外交委員会のロバート・メネンデズ委員長とボブ・コーカー議員は、アル・カイダ系の武装集団を主力とする反政府軍へアメリカ政府が直接、軍事支援することを認める法案を提出した。2年前から反政府軍はNATO(イギリス、フランス、アメリカ、トルコ)、湾岸産油国(サウジアラビア、カタール)、そしてイスラエルから支援を受けている。武器を供給し、戦闘員を雇うのは湾岸産油国の役割だが、思惑通りに進んでいないということだ。 また、ゴラン高原では軍事的な緊張が強まってきた。シリアに対するプレッシャー、つまり反シリア政府軍への支援だと見ることもできる。シリア軍によると、5月21日にイスラエルの戦闘車両が停戦ラインを超えてシリア領内へ侵入、シリア軍に破壊されたというのだが、イスラエル軍がシリア領へ侵入していたとしても驚きではない。例えば、シリアでの作戦を終えてイスラエルへ戻る特殊部隊を撮影したという映像を5月16日にアメリカのFoxニュースが放送している。 すでに本ブログでは何度か書いたことだが、イギリスとカタールの特殊部隊が潜入しているとイスラエルのメディアが報道、またウィキリークスが公表した民間情報会社ストラトフォーの電子メールには、アメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、トルコの特殊部隊が入っているという推測も書かれている。反政府軍の内部に潜り込んでいる可能性は高い。 5月21日の件について、イスラエル軍も交戦があったことは認めている。ただ、警備中の軍車両1台が一部損傷、対戦車精密誘導ミサイルで反撃したとしているだけで、シリア領内へ入ったことは認めていない。 すでにシリア軍はトルコのF-16を3機、またイスラエルの戦闘機も1機、撃墜したという未確認情報も流れている。イスラエル政府がロシアの地対空ミサイルS-300に神経を尖らせている理由は,その辺にあるのかもしれない。空爆も簡単ではないということだ。
2013.05.22
遺伝性の癌を予防するため、両乳腺の切除手術を受けたとアメリカの俳優、アンジェリーナ・ジョリーがニューヨーク・タイムズ紙で公表した。母親のミシェリーヌ・ベルトランが卵巣癌で死亡していることから遺伝子テストを受け、「BRCA1」という遺伝子に変異があることがわかったという。この変異があると乳癌と卵巣癌の発症率が高くなり、乳癌が87%、卵巣癌が50%の確率で発症すると医者から聞かされたようである。 この検査を受けるためには約3340ドル(約34万円)を必要とする。アメリカのNCI(国立癌研究所)の説明では、BRCA1のほか、BRCA2の変異でも癌の発症率が高まるのだが、この2遺伝子の変異を原因とする乳癌は全体の10%に満たない。このどちらかに変異がある女性が一生のうちに乳癌を発症する確率は約60%なのに対し、変異がない人は12%。金銭的に余裕のある人にだけできる防衛策だ。 勿論、遺伝子の変異だけが癌を発症させるわけではない。放射線、アスベスト、化学物質、紫外線、ウイルス・・・原因は多い。 放射線と言えば、東電福島第一原発、チェルノブイリ原発、スリーマイル島原発の事故などの影響が議論されている。スリーマイル島原発のケースでも深刻な影響が出ているという報告もあるが、チェルノブイリ原発の場合はさらに深刻。最近の研究では癌だけでなく心臓病を引き起こし、脳細胞にダメージを与え、免疫力を低下させてさまざまな病気を誘発するとされている。 そうした原発事故の前、1954年3月には中部太平洋のマーシャル環礁でアメリカが行った水爆実験も深刻な影響を及ぼしていると言われている。実験では第五福竜丸をはじめ、多くの日本の漁船が被曝、その総数は日本政府の調査でも856隻、実際は1000隻以上に達するとも言われているのだが、一連の核実験は環礁や漁船を被曝させただけでなく、放射性物質は日本列島や北アメリカへも到達していた。その影響が出ている可能性は否定できない。 アメリカの場合、皮膚癌、リンパ腫、前立腺癌、乳癌が1970年代の終盤から目立って増え始め、1980年代の半ばから増加の割合が高くなり、この傾向は1987年まで続いたようだ。その原因は1950年代にアメリカで使われたポリオ・ワクチンにあるという噂も流れている。 ポリオ・ワクチンはジョナス・ソークが1950年代に開発、子どもたちに投与することになったのだが、そのワクチンを投与したサルがポリオを発症することにバーニス・エディという研究者は気づく。ところが警告は無視され、多くの被害者が出た。 次にアルバート・サビンが「安全なワクチン」を開発したのだが、製造に使われたサルの腎臓には人間に癌を発症させるウイルスがいて、ワクチンに癌を誘発するウイルスが混入することになったという話も伝えられている。その影響が時を経て顕在化したのではないかと疑う人もいるのだ。
2013.05.21
ボストン・マラソンのゴール近くで爆破事件があったのは4月15日。すでに1カ月を過ぎた。事件で3名が死亡、260名以上が負傷、すぐにタメルラン・ツァルナエフとジョハル・ツァルナエフの兄弟が容疑者とされたが、兄のタメルツランは射殺され、弟のジョハルは重傷を負ってまともに証言できる状態ではない。 ところが、ふたりの母親は冤罪を訴え、数年前からFBIが家族を監視、事情聴取も受けていると主張する。FBIもその事実を認めた。しかも、ジョハルの容疑を証明する十分な証拠もないようで、ジョハルを30日以内に起訴することは無理だという。事件はいまだに霧の中である。 母親ではなく、兄弟のオジ、ルスラン・ツァルニが「広報担当」のような役割を演じるのだが、この人物は1992年から2年の間、USAID(米国国際開発庁)の「顧問」としてカザフスタンで働いていたことがわかっている。USAIDはCIAがしばしば隠れ蓑に使う組織。しかも、彼が結婚した相手の父親はCIAの幹部だったグラハム・フラー。ルスランがCIA人脈に属している可能性は高い。 また、タメルランは2012年の夏にコーカサス地方の若者を対象としたワークショップ/セミナーに参加している。主催したNGOのコーカサス基金はジェームズタウン基金と協力関係にある。このジェームスタウン基金は1984年、ソ連の反体制派支援を目的に設立されたが、その際にウィリアム・ケイシーCIA長官が支援している。 それだけでなく、事件の数週間前、タメルランはムサ・カズヒムラなる人物とニュー・ハンプシャー州マンチェスターで会っていたと伝えられている。カズヒムラはチェチェンの反ロシア勢力を率いるアフメド・ザカーエフのボディー・ガードだった人物で、FBIはカズヒムラの自宅を家宅捜索したという。 ザカーエフは現在、ロンドンで亡命生活を送っている(つまり、イギリス政府が保護している)が、この都市には少なからぬロシアの富豪が住んでいる。例えば、今年3月23日に死亡したボリス・ベレゾフスキー(亡命してからプラトン・エレーニンに改名)。新自由主義経済に基づいて「私有化」と「規制緩和」を推進したボリス・エリツィン時代、彼はロシア政府の高官と手を組み、不公正な手段で巨万の富を築き、チェチェンのマフィアや反ロシア勢力と結びついていた。 ベレゾフスキーはロシアの新自由主義を復活させようとしていたが、彼を支えるネットワークは「西側」も絡んでいる。彼は多くの「有力者」と親しくしていたが、その中にはジェイコブ・ロスチャイルド(ロスチャイルド卿)やエブリン・ロベルト・デ・ロスチャイルドも含まれている。反ロシア活動の拠点になっている「カーネギー・モスクワ・センター」は、ニューヨークを拠点とするカーネギー国際平和財団が国防総省系のRANDと手を組んで設立した組織だ。 チェチェンで活動している反ロシア武装勢力の幹部だと見なされていた人物の何人かがトルコで殺されている。2011年1月にモスクワのドモデードボ空港で自爆攻撃があったのだが、その責任者とロシア当局が見ている人物がドク・ウマロフ。その側近、ベルグハジュ・ムサイエフとふたりのボディーガードが同年9月にイスタンブールで射殺された。チェチェンの反ロシア武装勢力の少なからぬ幹部がトルコにいるということのようだ。 トルコの大企業が1990年代にチェチェンの武装勢力へ資金を提供していたと、2008年にロシアのテレビ局が伝えている。その中には建設会社のENKAも含まれているというのだが、実際は資金のパイプ役にすぎないとも言われている。その背後にはENKAのような企業の集合体とも言えるATCが存在、そのATCの議長はリチャード・アーミテージだ。 日本にも大きな影響力があるアーミテージだが、ベトナム戦争当時、麻薬取引に関わっていたと言われている。(詳しくは、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を。)米陸軍の極秘機ISA(1989年に廃止され、USSOCOMに引き継がれた)に所属していた元グリーン・ベレーのジェームズ・グリッツ中佐によると、「麻薬王」のクン・サから、アーミテージは犯罪組織とアメリカ政府をつなぐキーマンだと聞かされたという。アメリカの情報機関が麻薬取引に手を出していることは公然の秘密だ。 アーミテージを含め、東南アジアで麻薬取引を含む秘密工作に従事していたメンバーの名前がロナルド・レーガン大統領の時代、「イラン・コントラ事件」やCOG(愛国者法につながる戒厳令プロジェクト)で浮上、アフガニスタンでの秘密工作にも関わることになる。この時の構図が現在、例えば、シリアでの体制転覆プロジェクトでも健在だ。
2013.05.20
このところ橋下徹大阪市長の言動が国境を越えて話題になっている。5月13日には次のようなことを記者に言ったという。「あれだけ銃弾の雨、銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときにね、それはそんな猛者集団といいますか、精神的にも高ぶっている集団はやっぱりどこかでね、まあ休息じゃないけれどもそういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度っていうものは必要なのはこれは誰だってわかるわけです。 ただそこで、日本国がね、欧米社会でどういう風に見られているかっていうと、これはやっぱり韓国とかいろんな所のいろんな宣伝の効果があって『レイプ国家だ』っていうふうにみられてしまっているところ、ここが一番問題だから、そこはやっぱり違うんだったら違うと。」(朝日新聞)「銃弾が飛び交う中で命をかけて走っていく時に、精神的に高ぶっている集団に休息をさせてあげようと思ったら、慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる。韓国とかの宣伝の効果でレイプ国家というふうに見られてしまっているのが一番問題だ。」(毎日新聞) 「慰安婦制度」が必要だということは誰でもわかる、と発言している。この制度を作り上げるためには多くの若い女性を集める必要があり、その「募集」が困難をともなうことは「誰だってわかる」だろう。 戦前、日本では娘の身売りが問題になった。身売りとは一種の商取引だが、そうせざるを得ない状況を無視することはできない。商取引だから問題ないということにはならないのだ。 1929年に組閣した浜口雄幸内閣はJPモルガンの強い影響下にあった。浜口内閣で大蔵大臣を務めた井上準之助は当時、日本で最もJPモルガンに近い人物だったと言われ、この金融機関で「大番頭」的な存在だったトーマス・ラモントの意向に沿う形で金解禁(金本位制への復帰)や緊縮財政を実施、日本から金が流出し、不況は深刻化、東北地方では娘の身売りが増えたのだ。こうした政策に対する怒りは軍隊の中にも広がっていった。浜口は1930年、井上は32年に暗殺されている。 こうした流れの中、「慰安婦」として目をつけられたのが朝鮮の女性。その多くは騙されて連れてこられていた、と新聞記者として取材していたむのたけじは『戦争絶滅へ、人間復活へ』で書いている。騙して連れてくるという手段は限りなく拉致に近い。橋下のように無反省な政治家が次から次へと出てくるので、「従軍慰安婦制度」は世界的に取り上げられるのだ。 橋本市長の発言が碌でもないことは確かだが、彼のおかげで助かったのが安倍晋三首相だろう。4月23日に開かれた参議院予算委員会で「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国の関係でどちらから見るかで違う」と発言して批判されていたのだ。 その日、超党派の国会議員が参加しているという「みんなで靖国神社を参拝する国会議員の会」のメンバーが靖国神社に集団参拝している。麻生太郎副総理をはじめとする168名で、安倍首相は参拝しなかったものの、「真榊」を奉納したという。 「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない」などということは政治家にとって関係のない話である。日本が東アジアに軍隊を出して占領、その際に破壊、殺戮、略奪を繰り返したということを「安倍晋三」がどのように考え、どのように自分の行動に反映させるのかということが問題なのである。日本のそうした行為を「侵略」と考えるかどうかとは、そういうことだ。「定義」などという話を持ち出し、自分の考えを明らかにすることを拒否したのは、明らかにできないことを考えているからだと理解されてもしかたがない。 排外的ナショナリズムは、日本の自然、そこに住む人々、人びとが築いてきた共同体、あるいは富をアメリカの巨大資本へ売り飛ばすための演出として使われている。そうした演出の一環として4月23日の発言や集団参拝はあるのだろうが、韓国や中国の怒りを誘発することになり、結果として朝鮮を利する形になった。
2013.05.19
反シリア政府軍の部隊が常軌を逸した行動に走っている。敵を威嚇するつもりなのか、政府軍兵士の心臓をえぐり出して食べるポーズをとる映像につづき、横に並んで座らされた捕虜の後頭部に銃弾を次々と撃ち込んで処刑していく様子がYouTubeにアップロードされたのだ。 西側は「良い反政府軍」と「悪い反政府軍」を演出して乗り切ろうとしているが、そんなものは存在しない。イギリス、フランス、アメリカ、トルコのNATO諸国、サウジアラビア、カタールの湾岸産油国、そしてイスラエルを後ろ盾とするイスラム武装勢力が反政府軍の中心であり、その武装勢力とアル・カイダが重なることも公然の秘密。こうした反政府軍と戦うため、イランを後ろ盾とするヒズボラがシリアでの戦闘に参加しているようだ。 反政府軍に対しては、西側やカタールのメディアがプロパガンダで支援、NATO諸国は軍事訓練を実施、湾岸産油国は資金や武器/兵器を提供して傭兵を雇っている。最近ではイスラエル空軍がシリア領内を攻撃したものの、シリア政府は倒れていない。 そうした中、アメリカのジョン・ケリー国務長官に続き、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が5月14日にロシアを訪問した。その際、ネタニヤフ首相は地対空ミサイルS-300をシリアへ提供しないように求めたようだが、ロシア政府は既存の契約通りに武器を提供するという態度を崩していない。5月7日にモサド(イスラエルの情報機関)に近いメディアがS-300をロシアがシリアへ売却すると伝えていた。 このミサイルは1978年から実戦配備されているので新型とは言えないが、2012年にスロバキアで実施されたNATOの軍事演習で航空機や巡航ミサイルにとって脅威になることが確認されたようだ。つまり、NATOやイスラエルがシリアを空爆する際に邪魔な存在になる。 ネタニヤフ首相はロシアのウラジミール・プーチン大統領に対し、ロシアがS-300をシリアへ提供したら戦争になると脅したようだが、イスラエル側の主張は、S-300がなければイスラエルが一方的に勝つので「戦争にならない」というだけのことだ。プーチンは売却しないとは言わず、すでにシリアは200台のランチャーを受け取っているとも報道されている。また、対艦ミサイルP-800のランチャーも36台あると言われ、空母にとって脅威になるかもしれない。 6月6日から9日にかけてビルダーバーグ・グループの会合がイギリス開かれるようで、シリア情勢も議題になるのだろう。そこで何らかの方針が打ち出される可能性がある。
2013.05.17
靖国神社への参拝、「真榊」の奉納、侵略の否定などで安倍晋三首相や、その仲間たちは批判の矢面に立たされていた。そうした逆風を和らげるつもりだったのか、単に本人が愚かなのかはわからないが、大阪市の橋下徹市長は旧日本軍の「慰安婦」制度を肯定する発言を繰り返している。 言うまでもなく、そうした女性は軍隊と一緒に動いていた。むのたけじも指摘しているように、彼女たちは船で移動させられているのだが、そうした移動には軍の了解が絶対に必要。(むのたけじ著『戦争絶滅へ、人間復活へ』)つまり軍が作戦のひとつとして行ったと考えねばならない。 証拠がないと繰り返す人たちもいるが、戦争の末期から戦後にかけて旧日本軍/自衛隊は自分たちに都合の悪い文書は焼却していたのは有名な話。そうした現実を承知の上で「証拠がない」と主張するのは見苦しい限り。多くの戦争経験者が社会の中心的な存在だった時代には言えない話だ。 「銃弾の雨、銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときにね、それはそんな猛者集団といいますか、精神的にも高ぶっている集団はやっぱりどこかでね、まあ休息じゃないけれどもそういうことをさせてあげようと思ったら慰安婦制度っていうものは必要なのはこれは誰だってわかるわけです」と橋下は語ったという。 勿論、この制度には女性が必要なわけだが、その女性を思いやる気持ちが全く感じられない。しかも、女性の多くは朝鮮半島の出身者で、騙されて連れてこられていた。むのは戦争当時の取材に基づき、そのように書いているが、彼だけが主張してる話ではない。「慰安婦」の問題には日本の侵略/占領/差別が反映されているわけだ。橋下は女性の気持ちを想像できないだけでなく、歴史的な問題を直視することもできないのだろう。 また,彼は沖縄の普天間基地で司令官に「もっと風俗業を活用してほしい」と言ったという。「司令官はもう凍り付いたように苦笑い」になったというが、これは当然。今、アメリカ軍は性的な問題で批判されているのだ。 今月、空軍の中佐が街の駐車場で女性の胸や尻を触って警察に逮捕されているが、軍の内部でもレイプなど性的暴力が増え、「危機的な状況」になっている。2010年や11年は約1万9000件だったものが、2012年には2万6000件に急増したというのだ。しかも、報告された件数は、2012年の場合、3374件。大半は報復を恐れて泣き寝入りしているのが実態だという。部下の女性兵士に売春を強制していた軍曹がいたことも発覚した。 性的暴力で有罪判決を受け、収監されていた空軍のジェームズ・ウィルカーソン中佐を今年2月、クレイグ・フランクリン中将は釈放させたことも、問題になっている。こうした軍の体質が被害者を沈黙させていると言えるだろう。こうした時期に「風俗業」の話をしたなら、司令官が「凍り付いたように」なるのは当然だ。橋下は自分の発言について「国際感覚がなかった」と表現したようだが、なかったのは教養だ。
2013.05.17
大豆を栽培しているインディアナ州の農民、バーノン・ヒュー・ボウマンがモンサントに訴えられていたが、最高裁はモンサントの主張を認め、ボウマンは8万4000ドル以上を支払うことになりそうだ。報道によると、穀物倉庫で買った大豆の中にモンサントの遺伝子組み換え作物「ラウンドアップレディー」が混じっていたことから、特許が侵害されたということのようだ。つまり、穀物倉庫で穀物を買えば、モンサントの特許で縛られることになる。モンサントと関わり合いたくないなら、穀物倉庫で穀物を買ってはならないということだ。 裁判官だけでなく、議員もモンサントのカネ儲けに協力している。今年、アメリカで成立した包括予算割当法案の第735条(!)は、消費者の健康を害する懸念がある遺伝子組み換え作物の種子でも、法的に植え付けを差し止めることができないと定めている。いわゆる「モンサント保護法」だ。 それだけでなく、遅くともジョージ・W・ブッシュ政権の時代からアメリカの国務省は各国政府に対し、バイオテクノロジーを推進する政策や法律を採用するようにロビー活動を続け、バイオテクノロジーに対する常識的な安全策もやめさせようとしている。遺伝子組み換え作物の表示も許さないという姿勢だ。当然、TPPもこうしたことを要求してくるだろう。(すでに、日本政府は要求に応え始めている。) そもそも、このモンサントは化学会社。最初の商品は人工甘味料のサッカリンだったようだが、1940年代には核兵器開発プロジェクトのマンハッタン計画に参加、ベトナム戦争でアメリカ軍が使った枯れ葉剤のエージェント・オレンジを生産していたことでも有名だ。 1962年から71年にかけて、アメリカ軍は約7600万リットルの枯れ葉剤を散布した。ランチハンド作戦だ。その結果、赤十字の推計では、先天性障害を持つ15万人の新生児を含め、300万人のベトナム人がエージェント・オレンジの被害を受けたという。この時期に、この薬品は沖縄でも貯蔵されていた。 モンサントの利権集団は「軍産複合体」と結びついている。そうした集団が遺伝子組み換え作物を全世界に広めようとしているのだ。
2013.05.16
APの電話の通信記録をアメリカ司法省が入手していた。2012年4月から5月にかけて、記者の個人的な電話、ニューヨーク、ワシントン、コネティカット州ハートフォードにある支局の電話、下院のAP記者団が使っている電話など、20回線に及ぶ大規模なものだったという。こうした電話からかけられた通信の記録を当局は入手したが、外部からかけられたものについては不明。また、盗聴していたと考える方が自然だ。 勿論、これまでにもアメリカ政府はメディアの通信を盗聴したことはある。例えば、リチャード・ニクソン政権時代の1969年の出来事。このとき、ヘンリー・キッシンジャーは戦争状態になかったカンボジアを「秘密爆撃」して多くの農民を殺している。国防長官や国務長官の反対を押し切っての攻撃だった。 この攻撃をノロドム・シアヌーク首相(当時)は批判した。アメリカの主要メディアは無視するが、ニューヨーク・タイムズ紙のウィリアム・ビーチャーが攻撃の事実を記事にする。その報道にキッシンジャーは怒り、FBIを使い、21カ月にわたって政府職員13名とメディア関係者4名を盗聴したのだ。 当時の技術力ではその程度が限界だったのだろうが、1970年代からエレクトロニクス技術は急速に進歩、地球規模で不特定多数の通信を傍受するECHELONも1980年代には始動している。現在、全ての電子メールをアメリカの情報機関は記録していると言われている。ただ、情報機関の盗聴システムを司法省が自由に使えるとは思えず、独自に入手する必要があったのだろう。 情報提供者を見つけ出すために盗聴する場合が多い。アメリカにかぎらず、支配層は自分たちの正体が露見することを恐れているのだ。内部告発者を厳しく処罰しようとしているのも、そうした恐れから出たものだろう。 今年1月、元CIAオフィサー、ジョン・キリアクーに対して懲役30カ月の判決を言い渡された。キリアクーはアメリカの政府機関による拷問の実態を明らかにした人物で、内部告発に対する「報復」だと考えられている。 それに対し、拷問の責任者、あるいは拷問にゴーサインを出した司法省の法律顧問、つまりジョン・ユーは処罰されていない。拷問に深く関与しているジョン・ブレナンはバラク・オバマ政権でCIA長官に指名された。 2010年5月、アメリカ陸軍のCIDはブラドリー・マニング特技兵を逮捕した。アメリカ軍による犯罪的な行為をWikiLeaksに提供、明るみに出したことが理由だ。公開された情報の中には、戦闘行為と関係のない十数名の人々をアメリカ軍の戦闘ヘリが殺害している映像が含まれている。犠牲者の中にはロイター通信の取材クルーも含まれていた。映像を見れば、状況を理解したうえで面白半分に殺しているとしか見えない。これを「誤射ビデオ」と表現するのは間違いだ。 この映像やアメリカ国務省の文書などを公表しているWikiLeaksの看板的な存在、ジュリアン・アッサンジも攻撃のターゲットになっている。スウェーデン当局が主張する容疑に疑問があり、でっち上げの可能性が高く、被害者とされるアンナ・アーディンの背後にCIAが存在していることは本ブログでも何度か指摘した。 しかも、2006年からスウェーデンの首相を務めているフレドリック・ラインフェルトは、カール・ローブをコンサルタントとして雇っていた。ローブはジョージ・W・ブッシュの側近として知られる人物。ブッシュ・ジュニア政権では検察を「政争の道具」に利用しようと考えたようで、意に添わない連邦検察官10名近くを解雇している。最終的には93名の検察官を解雇するつもりだったという。つまり、全検察官を自分の配下の者に入れ替えようとしたわけだ。スウェーデン当局はアッサンジから事情を聞きたいのだと主張しているようだが、イギリスで事情聴取することは拒否していた。 どのような体制でも、カネと情報を握っている人間が実際の「主権者」である。国から資金を動かす力を奪い、庶民に情報が伝わらないような仕組みにする目的は明らかだ。巨大資本が資金と情報を握る支配システムを作ろうとしている。その象徴的な仕組みがTPPだ。
2013.05.15
NATO、湾岸産油国、イスラエルなどの支援を受けた戦闘集団がシリアに入り込み、政府軍と戦っている。そうした集団ひとつ、「オマル・アル・ファルーク旅団」を率いるアブ・サッカールが政府軍兵士の心臓をえぐり出し、口に当てて食べるポーズをとる映像がYouTubeに流れている。戦争は人間を狂わせると言われるが、追い詰められているFSAなら、なおさらだろう。 ファルーク旅団は2011年にホムスで創設され、FSA(自由シリア軍)における主力部隊のひとつだ。アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルといった国々の支援を受けてきたということでもある。 ファルーク旅団を生んだというホムスのホウラ地区では、1年前に住民の虐殺があった。FSAや「西側」はシリア政府軍が殺したと宣伝したが、事実との間に矛盾があり、嘘だということはすぐに判明する。 ホウラを調査した東方カトリックの修道院長は反政府軍のサラフ主義者や外国人傭兵が実行したと報告、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙も反政府軍が実行したと伝えている。 その修道院長によると、「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実と全く違っている。」と語っている。つまり、シリアの体制を転覆させるために嘘を広めてきた政治家や記者、あるいは自称「左翼」にも「心臓食い」を生み出した責任はある。 戦争を始めれば、そうしたことが起こっても不思議ではない。「ほとんどの男は、とても自分の家族、自分の女房や子供たちに話せないようなことを、戦場でやっている」(ものたけじ著『戦争絶滅へ、人間復活へ』)のだ。 戦争中、中国で諜報活動に従事していた元特務機関員から南京での虐殺について話してもらったこともあるが、こうした行為も珍しい話ではない。第2次世界大戦の終盤、アメリカ空軍は東京など都市部を空爆、広島と長崎には原子爆弾を投下して多くの住民を殺害、ベトナム戦争でアメリカの情報機関と特殊部隊は、作戦として住民を虐殺している。フェニックス・プログラムだ。最近では、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなどでも殺戮を続けている。 むのたけじによると、占領した地域で兵士がレイプや虐殺を繰り返すので「慰安婦」なる仕組みを考え出したのだという。船で女性を移動させるためには軍の了解が絶対に必要で、軍が作戦のひとつとして行ったのだと指摘している。記者として取材した結果、騙されて連れてこられた女性が多かったともいう。 慰安婦問題に限らず、日本の支配層は「証拠がない」として戦争責任を回避しようとする。敗戦が不可避になった時点から日本の支配層は自分たちに都合の悪い文書を廃棄、つまり証拠を湮滅している。戦後も自衛隊の内部で湮滅作業を続けているのを目撃した右翼活動家もいる。それだけでなく、情報を公開しないようにアメリカにも頼み込んでいるようだ。アメリカでは日本関係の情報公開が遅れている。「証拠がない」のではなく、「証拠は処分した」ということだ。 アメリカ軍の沖縄占領が「25年から50年、あるいはそれ以上にわたる長期の貸与というフィクション」のもとで継続されることを望むというメッセージを1947年9月に昭和(裕仁)天皇はアメリカに対して出した。(豊下楢彦著『昭和天皇・マッカーサー会見』岩波現代文庫)沖縄を貢ぎ物としてアメリカに「献上」したのである。 アメリカの占領は特に過酷だったようで、売春婦の増加という形になって現れる。竹中労によると、1960年代の後半には2、3万人に達し、ある島の商工会議所などは、遊郭をつくって賭博場をひらくという計画を立てたようだ。 言うまでもなく、売春は貧困と深い関係がある。戦前、財閥や大政党は大儲けする一方で、庶民の間では身売り、欠食児童、争議などが問題になった。言うまでもなく、身売りとは、娘を売春婦として売るということだ。富が一部に集中し、庶民が貧困化した結果である。 忘れてならないのは、関東大震災(1923年)から1932年まで、日本の支配層はアメリカの巨大金融資本、JPモルガンが動かすアメリカ政府の影響下にあったということ。その代理人がモルガン家の一族に属するジョセフ・グルーだった。1932年から駐日大使を務め、日本軍が真珠湾を攻撃した後も、しばらく日本にいた。JPモルガンの影響力は維持されていたのだろう。戦後はジャパン・ロビーの中心人物として活動、日本を属国化していく。日本の庶民が貧困化していった背景には、ウォール街と日本の支配層との関係がある。 安倍某、橋下某、高市某、石原某のような手合いが戦後になっても日本で大きな顔をしていられるのは、戦争の前も後も、同じようにウォール街と日本の支配層とがつながっているからにほかならない。ウォール街と対立していたフランクリン・ルーズベルト大統領の時代が例外だということ。「国体護持」とはそういうことである。
2013.05.14
西側諸国や湾岸産油国の支援を受け、アル・カイダ系の武装集団はシリアの体制転覆を目指して戦ってきたが、崩壊寸前にあると伝えられている。シリアでの戦闘が始まったのは2011年3月。その1カ月前、リビアでも欧米の巨大資本にとって都合の良い体制を樹立させるためのプロジェクトが始まり、8カ月後に体制は倒された。反政府軍の構図は基本的にシリアと同じ。リビアで戦った戦闘員は武器/兵器を携えてシリアへ移動した。 リビアやシリアにおいて、反政府勢力を構成するのはイギリス、フランス、アメリカ、トルコのNATO諸国、サウジアラビア、カタールの湾岸産油国、イスラエル、そしてアル・カイダ。リビアを攻撃した最大の理由は、ムアンマル・アル・カダフィ政権が計画していたアフリカ諸国の自立を阻止することだと考えられている。債務の返済に協力し、貿易の決済をドルやユーロでなく「金貨ディナール」にしようとカダフィは計画していたようなのだ。それに対し、シリアの場合はイランが絡んでいる。 アメリカの調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュは2007年に興味深い記事を発表した。ジョージ・W・ブッシュ政権はイスラエルとサウジアラビア(スンニ派)と手を組み、手スンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を手先として使いながら中東の支配構造を変えるための秘密工作を始めたというのだ。 2003年にアメリカのブッシュ・ジュニア政権はイギリスのトニー・ブレア政権を引き連れてイラクを先制攻撃、サダム・フセイン体制を倒した結果、イラン(シーア派)の影響力が増大する。フセインはCIAの協力者としてスタートした人物だが、イスラエルは排除したいと考えていた。 イランの影響力が大きくなると、今度はイランを叩きにいく。イランを後ろ盾とするヒズボラ、イランと同盟関係にあるシリアもターゲットにしたプロジェクトを始めた。この工作の延長線上にシリア攻撃はあり、当然のことながら、反シリア政府軍としてアル・カイダが出てくる。 ブッシュ・ジュニア政権はネオコン(親イスラエル派)が主導権を握っていた。そのネオコンで中心的な存在だったポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)は1991年、シリア、イラン、イラクを掃討すると語っていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官の話。当時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュだ。 イスラエル/ネオコンは1980年代からフセインを排除すべき敵だと位置づけていた。そして1991年にはシリアやイランも体制を破壊する対象とみていたわけで、2007年当時の動きは「計算違い」でなく「計算通り」だと考えるべきだろう。イラクもイランも倒すべき対象だったのだ。シリアの体制を転覆させるという計画は成功していないが。 リビアでは、カダフィ時代にもベンガジはアル・カイダが支配する反カダフィ派の都市だった。アメリカ陸軍士官学校のCTC(対テロ戦センター)が2007年に発表した「イラクにおけるアル・カイダの外国人戦闘員」でも、武装集団の拠点として、ダーナーとベンガジを上げている。ベンガジからアル・カイダの戦闘員がイラクへ向かったということだ。 リビアで戦闘が始まる3カ月前、2010年11月にフランスの情報機関員や軍人が「通商代表団」に紛れ込んでベンガジへ入って反カダフィ派と接触、戦闘開始の後、2011年3月にはイギリスはSAS(特殊部隊)の隊員とMI6(対外情報機関)のメンバーもベンガジへ潜入している。 リビアの体制転覆プロジェクトではNATO軍が空爆しているが、地上ではアル・カイダ系のLIFGが主力として戦った。この組織は2007年11月、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアが秘密工作を始めて間もなく、アル・カイダの参加団体になっている。このLIFGとアメリカ政府をつないでいたのがリビア駐在の大使だった故クリストファー・スティーブンス。カダフィが惨殺された直後、ベンガジで裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられたのも必然だ。 シリアではリビアの場合より、NATO、湾岸産油国、イスラエルは反政府軍に対する支援体制を整備していた。トルコにあるアメリカ空軍のインシルリク基地は、アメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員が反シリア政府軍を訓練、ヨルダンやレバノンにも反政府軍の拠点があるようだ。トルコやヨルダンで反シリア政府軍に化学兵器の扱い方を教えたとも報道されている。 シリアで反政府軍が劣勢になっていることを危惧してなのか、最近、イギリス、フランス、トルコはシリア政府軍が化学兵器を使ったと宣伝しはじめた。が、化学兵器の使用を最初に指摘、調査を求めたのはシリア政府であり、反政府軍が使ったと分析されていた。 シリアの体制転覆を目指す勢力はメディアの力で化学兵器を使ったのはシリア軍だというイメージを広めようとしたようだが、国連独立調査委員会メンバー、カーラ・デル・ポンテは反政府軍が化学兵器を使った疑いが濃厚だと発言、プロパガンダの出鼻をくじくことになる。トルコ政府は巻き返そうと必死。アメリカやイスラエルがロシアに接近しているのは体勢を立て直すための時間稼ぎだという見方もある。シリアが安定するのは、まだ先になりそうだ。
2013.05.13
マルコムXの孫、マルコム・シャバズがメキシコで殺された。5月9日のことだ。早い段階で流れた未確認情報では、強盗に遭ってビルの窓から突き落とされたか、射殺されたとされていたが、その後に伝えられた話によると、午前3時30分ころにダウンタウンの路上で発見されて病院に運ばれたが、殴られたことが原因で数時間後に死亡したという。アメリカから追放された労働運動の活動家、ミゲル・スアレスと会うためにシャバズはメキシコを訪れていたようだ。 殺される3カ月前、イランで開かれる「ハリウッド主義」に関する会議に出席するためにテヘランへ向かおうとしてマルコム・シャバズはFBIに逮捕されている。理由も告げられないまま拘束されたのだ。 会議への出席を阻止することがFBIの目的だったと見られているが、遅くとも2012年の初頭からFBIはシャバズの監視を続けていたという。つまり、今回の殺害はFBIの監視下で実行された可能性が高い。 労働運動の活動家と会うためにメキシコを訪れていたという情報が正しいなら、シャバスは新自由主義経済/純正資本主義と闘っていたことを示唆する。テヘランの会議に出席しようとしたのも、欧米の「帝国主義」に反対する立場があってのことだろう。 祖父のマルコムXも単に人種差別に抗議していたわけではなく、資本主義を批判していた。「強欲」を肯定、強者が総取りする経済システムは差別問題とも結びついているわけで、当然のことだろう。 公民権運動の象徴的な存在だったマーチン・ルーサー・キング牧師も人種差別に反対しただけでなく、貧困問題に目を向け、戦争に反対していた。マルコムXが攻撃的だったのに対し、キングは非暴力の立場だったが、徐々に考え方は接近していく。 ただ、ふたりが手を組むことはなかった。ソ連との平和共存、大企業の経済活動への規制強化、ベトナム戦争からの完全撤退を打ち出し、イスラエルへの厳しい姿勢を見せていたジョン・F・ケネディ大統領が1963年11月に暗殺され、65年2月にはマルコムXが暗殺されたからだ。さらに、1968年4月にはキングが暗殺され、その2カ月後には有力な大統領候補になっていたロバート・ケネディも暗殺される。 デタントを打ち出していたリチャード・ニクソン大統領がウォーターゲート事件で失脚した後、副大統領からジェラルド・フォードが大統領に昇格すると、新世代の好戦派が台頭してきた。 つまり、ジョージ・H・W・ブッシュを象徴とするCIAの好戦派、ロナルド・レーガンのようなキリスト教原理主義者、イスラエルを第一に考えるネオコンがスクラムを組み、イスラエルやサウジアラビアとも結びついた。1970年代の終盤から始まるアフガニスタンでの秘密工作でも、この同盟は機能している。(ブッシュはエール大学時代にCIAからリクルートされたと言われ、遅くともケネディ大統領が暗殺されたときにはCIAの幹部だった。) アフガニスタンで戦争が始まる直前、ソ連軍と戦わせるためにCIAはイスラム武装勢力を組織する。その「データベース」としてアル・カイダ(基地、ベースという意味)が生まれたとも言われている。 レーガン政権は憲法の停止を目論み、COGプロジェクトを始めた。このことは本ブログで何度も書いた。これは一種の戒厳令で、クーデター計画だとも言える代物。そのプロジェクトは2001年9月11日の出来事を切っ掛けにして、「愛国者法」という形で具体化している。その後のファシズム化も計画通りなのだろう。 そして現在、中東/北アフリカでは、ネオコンを中心とするアメリカ、イギリス、フランス、トルコ、イスラエル、サウジアラビア、カタールなどが連合し、欧米資本の利益に反する体制を暴力的に転覆させつつある。こうした動きをマルコム・シャバズは批判していた。祖父のような存在になる可能性が出てきていたのだが、その前に祖父のように殺されてしまったわけだ。
2013.05.12
1982年に軍事クーデターで中米グアテマラの独裁者となったエフライン・リオス・モントに対し、禁錮80年が言い渡された。1982年から83年にかけて1700名以上を虐殺した容疑で、50年は虐殺に対して、30年は人道に対する罪だという。 ラテン・アメリカの独裁者はアメリカの巨大資本を後ろ盾にしているが、グアテマラの場合はユナイテッド・フルーツ(1970年にユナイテッド・ブランドへ、また1984年にはチキータへ名称を変更)が支配していた。 モントは1951年からパナマにあったアメリカの軍事施設、SOA(1984年にパナマを追い出されて米国ジョージア州へ移動、2001年にWHISECへ名称変更)で軍事訓練を受けている。ここは1946年に創設され、反乱鎮圧技術、狙撃訓練、ゲリラ戦や心理戦、軍事情報活動、そして尋問法などを教えていた。 アメリカの巨大資本にとって都合の悪い人びとを抹殺し、そうした政権を暴力的に破壊するための軍人を育成することが目的で、「死の部隊」で中心的な役割を果たした軍人の多くはSOAの出身者だ。 モントがSOAに入った年にグアテマラではヤコボ・アルベンス・グスマンが大統領に就任した。新政権は国有地を農民に分配、「国家内国家」のような存在だったユナイテッド・フルーツの土地も買い上げ、同社が所有する鉄道と大西洋の港も国有化している。 アメリカの巨大資本、特にユナイテッド・フルーツにとっては許し難い状況。そうしたときにアレン・ダレスがCIAの長官に就任する。新長官は兄のジョン・フォスターと同じように、弁護士としてユナイテッド・フルーツの仕事をしていた。 イランで民族主義政権を倒したCIAは、次にグアテマラのグスマン政権の打倒を計画する。まず約200名のゲリラ部隊を蜂起させ、鎮圧されると、破壊活動を担当していたフランク・ウィズナーが乗り出した。OPCの長官だったウィズナーだ。(このとき、OPCはCIAの中の潜り込んでいた。)そしてサクセス作戦が練られる。 1953年春の段階でグアテマラ軍の内部で政権を嫌っている将校に武器を提供、ユナイテッド・フルーツは6万4000ドルを寄付したと言われている。その後も反政府派へ武器や資金を提供、USIAはプロパガンダでグスマン政権を攻撃する。 1954年6月になるとドワイト・アイゼンハワー大統領が軍事蜂起にゴーサインを出し、反乱軍が攻撃を開始した。このとき、2機のプロペラ式の戦闘機(ムスタング)が使われているが、これはCIAの資金でニカラグアのアナスタシオ・ソモサ・ガルシアが購入したもの。それを貸し出した形にになっていた。クーデター後、グアテマラでは共産主義者の疑いをかけられた数千名が逮捕され、その多くが拷問を受けたうえで殺害されている。 ロナルド・レーガン政権はグアテマラの独裁体制を支持していた。「マルクス主義者のゲリラ」だけでなく、市民を支える仕組みを根絶することが目的だ。レーガン政府の支援を受け、数年間で約10万人が軍に殺されたと言われている。(モントが有罪判決を受けた1700名の虐殺も含む。軍事政権全体では約20万人が虐殺されたともいう。) 弾圧を機能的に行うため、当時、レーガン大統領の国家安全保障担当大統領次席補佐官だったロバート・マクファーレンはイスラエルに接触し、10 UH-1Hヘリコプターをグアテマラ政府に渡す方法を尋ねている。これはオリバー・ノース中佐が書き残したメモに出てくる話だ。 レーガン政権でグアテマラ政府との連絡役を務めていたのはバーノン・ウォルタース。ジミー・カーター政権は軍事援助を止めていたのだが、グアテマラ政府に対し、アメリカの新政権はそうした禁止措置を解除すると伝えた。つまり、虐殺にゴーサインを出したということだ。 そしてモントが登場した。レーガン大統領と同じように核戦争後に救世主が再降臨すると信じるキリスト教原理主義の信者。この独裁者交替をアメリカ政府は歓迎したと言われている。そして先住民の虐殺が引き起こされたわけだ。 アメリカ政府が地元の武装集団を使い、アメリカ資本にとって都合の悪い政権を潰し、目障りな人びとを抹殺するという構図はグアテマラだけのものでも、ラテン・アメリカだけのものでもない。当時、アフガニスタンではイスラエルやサウジアラビアと手を組み、イスラム武装勢力を組織して戦争していた。イスラム武装勢力のデータベースがアル・カイダだとも言われている。 そして現在、リビアやシリアはじめとして中東/北アフリカでも似た構図ができあがっている。アメリカ、イスラエル、サウジアラビアはシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始、その手先としてスンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を使うと、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2007年の時点で書いている。このことを忘れてはならない。
2013.05.11
5月9日、衆議院の本会議で「税・社会保障共通番号法案」が可決された。参議院も通過すると、日本国内に居住する人に12桁程度の個人番号がつけられ、ICチップ入りの写真付きカードが発行されるらしい。日本居住者を数字で管理、庶民から尻の毛まで抜く道具となり、支配者に歯向かうように人間を探し出し、監視することになる。 この段階になってからマスコミは法案の問題点を報じている。早い段階でそうした点を伝えたりすると、反対の声が高まり、法案が成立しないかもしれない。そうした事態は避けたいとマスコミには考えているのだろう。ただ、全く伝えないわけにはいかないので、「アリバイ工作」的に後から形だけ報道する。 TPPの交渉内容も秘密にされている。先だって、TPP交渉に参加している11カ国が日本の参加を承認したそうだが、その頃からマスコミは問題点に触れ始めた。「組織的犯罪対策法(盗聴法)」のときも法律が成立するまで監視システムの問題に触れたがらず、今でも深く掘り下げることはない。 米英の電子情報機関による世界規模の通信傍受は1970年代から問題になっていたが、日本では無視されていた。ECHELONにしても、発覚してから日本で報道されるまでに10年程度はかかっている。しかも、内容が正しくない。 2年前の3月11日、地震が引き金になって原子力発電所が「過酷事故」を起こし、環境中の大量の放射性物質を放出しはじめた。日本の原子力安全委員会や原子力安全・保安院はチェルノブイリ原発の事故に比べ、放出された放射性物質の量は10%程度だとしていたが、計算の前提に大きな間違いがあり、アーニー・ガンダーセンは2〜5倍だと推測している。(アーニー・ガンダーセン著、岡崎玲子訳『福島第一原発』) それはともかく、長年にわたってマスコミが垂れ流してきた原子力発電の「安全神話」は粉々に砕け散った。さすがにマズイと思ったのか、事故の実態などを報道するようになるが、全体から見ると扱いは小さい。最近ではほとぼりが冷めたと判断したのか、再び原子力推進のプロパガンダを始めている。 もっとも、支配者とメディアとの親密な関係は諸外国でも見られる現象だ。ウォーターゲート事件でリチャード・ニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントン・ポスト紙を崇める人もいるようだが、実態はそれほどでもない。 そのウォーターゲート事件で有名になったカール・バーンスタインは1977年に同紙を辞め、ローリング・ストーン誌に「CIAとメディア」というタイトルの記事を書いた。彼によると、当時、400名以上のジャーナリストがCIAのために働いていたという。 CIAは情報を提供する代わり、情報の公開を制限する場合がある。その取り決めを文書にし、サインさせるのだが、CIAの幹部だったデイビッド・アトリー・フィリップスによると、戦後、1960年代までに少なくとも200名のジャーナリストが合意文書に署名しているという。 CIAのネットワークはアメリカにとどまらない。バーンスタインによると、1960年代にCIAはチリのサルバドール・アジェンデ政権を攻撃するため、記者を使っている。反アジェンデ勢力に資金を運び、アジェンデを攻撃する記事を書いたというのだ。(日本でもありそうな話だが。) メディアのコントロールは組織的に行われたようで、ジャーナリストのデボラ・デイビスによると、1948年にはメディアを利用した情報操作プロジェクトが始まったという。その中心メンバーは、情報/破壊活動の大物として有名なアレン・ダレス、ダレスの側近でOPCの局長だったフランク・ウィズナー、やはりダレスの側近で後にCIA長官となるリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポスト紙の社主だったフィリップ・グラハムである。フィリップの妻がウォーターゲート事件で名を売ったキャサリンだ。 1980年代になると、アメリカとイギリスの支配層は「BAP」なるプロジェクトを始めている。当時、イギリスで反米感情が高まっていた。このことを危惧した米英両国のエリートが始めたらしいが、特徴のひとつはメディア関係者が多数、参加していること。トニー・ブレアはこのBAPから支援されていた。必然的にブレア、そしてニュー・レーバーの暗部をメディアは伝えようとしなかった。(これも日本でもありそうな話だ。)
2013.05.10
日本の支配層は国民を番号で管理しようとしている。まるで囚人扱い。そのために「共通番号制度」を導入するのだが、その法案が5月9日、衆議院の本会議で可決された。住民基本台帳ネットワークと目的は同じ。 日本では新自由主義経済、要するに純正資本主義を推進中で、ごく一部の人間が富を独占しつつある。この仕組みを支配層が崩そうとするはずはなく、庶民の貧困化はますます進み、社会は不安定化していくことだろう。 今のところ、「幻術(プロパガンダ/洗脳)」で庶民を操っているものの、何かの拍子で術が解けるかもしれない。暴動ならともかく、リーダーが出現して怒りが革命に結びつけられると厄介。早い段階から革命の芽を潰すためにも、庶民を監視するシステムを整備する必要があるわけだ。 第2次世界大戦後、アメリカではFBIやCIAが市民を監視してきた。1950年代にはFBIがCOINTELPROを、1967年にはCIAがMHケイアスを、それぞれ始動させている。そのターゲットは反戦/平和運動。尾行、盗聴、郵便物の開封、そして銀行口座の調査が実施され、スパイも潜り込ませている。 第1次世界大戦のときもそうだったが、巨大資本は戦争を望み、平和を嫌う。言うまでもなく、この大戦ではイギリス/フランス/ロシアがドイツ/イタリア/オーストリアと戦ったのだが、ロシアでは戦争をめぐり資本家と大地主が対立していた。地主は戦争を嫌がっていたのだ。 1917年3月の「2月革命」で成立した臨時革命政府は産業資本家が実権を握り、戦争を継続しようとした。その政策にメンシェビキやエス・エルも同調する。 そこで、ドイツはスイスに亡命していたウラジミール・レーニンに目をつけ、ロシアへの帰国を助けた。レーニンが率いるボルシェビキは戦争に反対していたからだ。そして11月の「10月革命」につながる。ボルシェビキ政権は即時停戦を宣言した。 ジョージ・W・ブッシュは大統領時代、「経済を復活させる最善の方法は戦争」だとアルゼンチンの大統領だったネストル・キルシュネルに語ったという。「アメリカの経済成長は全て戦争によって促進された」というのだ。オリバー・ストーンが制作したドキュメンタリー、「国境の南」の中でキルシュネルが証言している。 スメドリー・バトラー少将が語ったように、戦争とは押し込み強盗にすぎない。何らかの形で略奪できれば戦費を回収し、儲けることもできるが、そうでなければ国家財政は破綻してしまう。それを承知で巨大資本は戦争を望むのだが、理由はひとつ。国が倒れても自分たちが儲かれば良いのだ。国が潰れれば、巨大資本が国を支配できる。 ところで、国民を監視するシステムの導入は、2001年9月11日を契機にして急速に進んだ。例えばDARPAが始めたTIAプロジェクトでは、個人の学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータなどあらゆるデータの収集と分析を目的にしていた。TIAが発覚して問題になると次々と別のプロジェクトがスタート、監視を支配層があきらめる様子は見られない。 日本の支配層はTPPで主権を放棄する一方、国民を監視するシステムを整備している。
2013.05.09
ボストン・マラソンの爆破事件で容疑者とされている兄弟は警官隊に銃撃された。その結果、兄のタメルラン・ツァルナエフは殺され、弟のジョハルは重傷を負っている。しかも弟は拘束された際、武装していなかったという。何者かが兄弟の口を封じようとしたと疑われても仕方のない状況だ。 この事件では兄弟のオジ、ルスラン・ツァルニにメディアは群がった。冤罪を訴える母親より、当局にとって都合の良い話をするオジを選んだわけである。しかも、この人物にはCIAの臭いがする。石油会社の役員になる前、1992年から2年の間、CIAがしばしば隠れ蓑に使うUSAID(米国国際開発庁)の「顧問」としてカザフスタンで働いていたのである。しかも、ルスランが結婚した相手はCIAの幹部だったグラハム・フラーの娘、サマンサ。後にふたりは離婚したが、その前に結婚していた事実は消えない。 USAIDとCIAとの関係は有名で、昨年9月にはロシアのウラジミール・プーチン大統領はUSAIDのロシアにおける活動を10月1日までに中止するように命令している。 これまで、ロシアではアメリカ大使館を中心に反プーチンのキャンペーンを続けてきたが、要するにボリス・エリツィン時代のような、「巨大資本に優しい」新自由主義経済を復活させたいのだ。USAIDもそうした活動の一翼を担っている。「民主化」や「人権」は、単なる名目にすぎない。 南米のボリビアでもUSAIDを追放しようとしている。これは正しい判断だろう。何しろ、アメリカの支配層はラテン・アメリカを「裏庭」と認識、自立の道を歩もうとする政権が登場すると暴力的に倒してきた。そうした勢力の仕掛けは破壊する必要がある。 例えば、1954年にはグアテマラのヤコボ・アルベンス・グスマン政権を、1973にはチリのサルバドール・アジェンデ政権をアメリカ政府は軍事クーデターで倒し、独裁体制を樹立させている。最近の例では、2002年のベネズエラにおけるクーデター計画。 ベネズエラのケースではウゴ・チャベス政権を倒そうとしたのだが、その中心にはアメリカ政府の高官がいた。つまり、ネオコンでイラン・コントラ事件のも登場するエリオット・エイブラムズ、キューバ系アメリカ人で1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、そして1981年から85年までのホンジュラス駐在大使で、後に国連大使にもなるジョン・ネグロポンテである。このクーデターは事前に情報がチャベス側に伝えられていたため、失敗した。 実は、バラク・オバマ大統領もUSAIDと関係がある。母親のアン・ダンハムはインドネシアでUSAIDやフォード財団の仕事をしていたのだ。 アンがオバマの実父とハワイで結婚したのは1961年2月。その年の8月に後の大統領は生まれた。要するに「できちゃった結婚」だが、1964年にふたりは離婚し、その翌年にアンはインドネシアの留学生と結婚している。1966年に養父はインドネシアに帰国、アンはその翌年に大学を卒業してから息子とインドネシアへ渡った。 1965年9月30日からインドネシアでは軍事クーデターが始まり、アハマド・スカルノ政権は倒されている。まず小集団の若手将校が6名の将軍を誘拐のうえ殺害、ジャカルタの主要箇所を占拠、自分たちはCIAの支援を受けていると放送したという。 この混乱を利用し、実権を握ったのがスハルト。その直後から親米派による大量虐殺が始まり、30万人から100万人が殺されたと言われている。非同盟運動に参加するなどアメリカの支配層が嫌う政策を推進していたことからスカルノはアメリカ政府に狙われていたのだ。CIAはスマトラ島を拠点とする反スカルノ勢力を支援、1957年から訓練を始める。このとき、沖縄の基地も重要や役割を果たした。「9月30日事件」はCIAが仕掛けたクーデター。これは世界の常識である。 その一方、フォード財団は貴族階級出身のインドネシア人をアメリカに留学させて訓練していく。学生たちは「バークレー・ボーイズ」とか「バークレー・マフィア」と呼ばれるようになる。クーデターの際、勿論、反スカルノ派として虐殺にも参加している。こうした激動の時期にオバマ大統領は養父と実母と一緒にインドネシアで過ごしたわけだ。こうした背景があるため、オバマ大統領はCIAと深い関係にあると推測する人が少なくない。
2013.05.08
イタリアのジュリオ・アンドレオッチ元首相が死亡したという。1972年2月から92年6月まで合計7期、首相を務めた人物で、ローマ教皇庁や犯罪組織のコーザ・ノストラ(マフィア)とのつながりが話題になっていた。が、その第6期目、1990年に「NATOの秘密部隊」が存在することを公式に認めたことも忘れてはならない。この秘密部隊は各国で呼び方が違い、イタリアの場合は「グラディオ」だ。 グラディオは1960年代の終わりから1980年代の初めにかけて、「極左」を装って爆破工作などを繰り返したことで知られている。社会不安を煽り、「治安」を求める声を高めてファシズム化を促進したのである。アメリカ流の「緊張戦略」。「赤い旅団」が過激化するのは元々のリーダーが逮捕された後で、組織が乗っ取られた疑いがある。 1970年代の後半になると、アメリカは「敵」のエンブレムを「アカ」から「テロ」へ変更する。「テロ」の黒幕がソ連だというわけだ。1979年7月にアメリカとイスラエルの情報機関関係者がエルサレムに集まり、「国際テロリズム」に関する会議を開いているのだが、これは象徴的な出来事だった。 アメリカからの出席者には、ジョージ・H・W・ブッシュ、レイ・クライン元CIA副長官、CIAの内部でソ連の脅威を誇張する役割を果たしたネオコンのリチャード・パイプス、ジャーナリストだと称するアーノウド・ド・ボルクグラーブやクレア・スターリングが含まれ、参加者はソ連が「テロリズム」の黒幕だと叫んでいた。 そうした中、ジミー・カーター政権で大統領首席補佐官を務めていたズビグネフ・ブレジンスキーはアフガニスタンで秘密プロジェクトを始める。詳細は割愛するが、1979年4月にブレジンスキーはゲリラ戦を計画したのだ。 この年の5月にはCIAイスタンブール支局長がパキスタンの情報機関ISIのアドバイスでアフガニスタンのリーダーたちと武装グループの指導者を決めて活動を開始、12月にはソ連軍機甲部隊をアフガニスタンへ引き込むことに成功した。秘密工作の一端は「イラン・コントラ事件」という形で発覚、アメリカ(ネオコン)、イスラエル(リクード)、そしてサウジアラビアというトライアングルが浮かび上がる。 このときにイスラム武装グループが組織され、戦費はサウジアラビアが提供するだけでなく、ケシ系の麻薬(ヘロイン)の密輸で調達された。その麻薬密輸ルートの中にコソボのKLA(UCK、コソボ解放軍)も含まれている。 当初、テロの黒幕をソ連だとしていた欧米の支配層だが、ソ連が1991年に消滅すると新たな「エンブレム」が必要になる。その前年、中東ではイラクが領土/石油採掘問題で揉めていたクウェートへ軍事侵攻、サダム・フセインはエンブレムのひとつになった。その翌年にアメリカ軍を中心とする部隊はイラクを先制攻撃している。 1990年代の前半にアル・カイダはバルカンでNATOと連合する形で活動するが、後半に入ると反米活動で売り出す。1998年にケニアのナイロビ、タンザニアのダル・エス・サラームで、それぞれアメリカ大使館を爆破し、2000年にはアメリカ海軍の駆逐艦、コールを攻撃している。 そして2001年9月11日。航空機がニューヨークの世界貿易センタにそびえていた超高層ビルへ突入、国防総省の本部庁舎が攻撃されるとジョージ・W・ブッシュ政権はすぐにアル・カイダの犯行だと宣伝、アル・カイダとは敵対関係にあったイラクを攻撃した。 ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官によると、1991年の段階でネオコンのポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はシリア、イラン、イラクを殲滅すると語り、2001年9月11日から10日後にジョージ・W・ブッシュ政権はイラク攻撃を決定、6週間後に作成された攻撃予定国リストには、イラクのほか、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンが載っていたという。 その中でもブッシュ政権が重要視していたのがイラン。2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが明らかにしたように、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアはイラン、そしてイランと同盟関係にあるシリアをターゲットにした秘密工作を開始、スンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を手先として使っている。 そして、2年前からNATO、より具体的にはイギリス、フランス、アメリカ、トルコが湾岸産油国のサウジアラビアやカタールと手を組んでリビアとシリアに対する攻撃を開始、さらにイランに揺さぶりをかけている。その手先になっているのがアル・カイダ(イスラム武装勢力)だ。ハーシュの描いた構図に従って動いている。NATOの手先という点で、「右翼過激派」とアル・カイダには共通点がある。 おそらく今でもNATOには秘密部隊が存在する。少なくともNATOが創設されてしばらくの間、加盟するためには秘密部隊の設置を定めた反コミュニストの議定書に署名する必要があったと言われ、このネットワークが簡単に消えるとは思えない。 そうした秘密部隊のひとつ、グラディオが明るみに出る切っ掛けは、武器庫の発見だった。1972年にイタリア北東部の森で偶然、子どもが見つけたのである。隠蔽工作で調査は進まなかったが、1984年にその事実をある判事が気づき、捜査を再開させる。その結果、アンドレオッチ内閣はグラディオの存在を認めざるを得なくなったわけだ。 ちなみに、1969年12月にイタリアのミラノにある国立農業銀行が爆破された事件にからみ、実行者のひとりとして2001年6月にミラノ地裁で終身刑を言い渡された人物が日本で1989年に国籍を取得している。 この人物、1974年に武器の不法所持で有罪判決を受けていたのだが、79年から日本で生活していた。2000年にはイタリア政府から正式の引き渡し請求があったようだが、日本政府は拒否している。また、ミラノで判決が出た後にこの人物を「テロリスト」と呼んだ日本のマスコミに対し、2003年に東京地裁の和田剛久判事(当時)は合計300万円の支払いを命じている。超法規的な鉄壁の守り。特別扱いされているとしか思えない。
2013.05.07
現在は賭博の時代である。その主役はヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティ投資会社といった投機筋。そうした人びとは株式、債券、石油、穀物、通貨など、さまざまな市場で資金を動かしているが、何らかの価値を生み出しているとは言い難い。 安く買って、高く売る(あるいは高く売って、安く買う)のが基本だが、現物取引は流行らない。何らかの形で融資を受けて売買する方法は昔からあったが、最近ではデリバティブ取引なるものが盛んになり、投機性が高まった。売買の対象になる物が存在する必要もない。 賭場全体を考えると、相場が上昇するのは外部から資金が流入しているとき。実社会で富の集中が進み、「カネ余り」になると富裕層は賭場へ資金をつぎ込む。そこで相場が上昇し、みんな、儲かった気になるわけだが、その間、庶民は貧困化していく。庶民が相場の上昇を喜ぶのは滑稽、ということだ。 相場が上昇しているときは、多くの相場参加者は大儲けしている気分になるが、これは絵に描いた餅にすぎない。賭場への資金流入が細ると相場は天井を打ち、下がり始めるわけだが、そうなると大半の人が大損することになる。 昔なら、博奕に負けた人間は身ぐるみ剥がれて終わりになるが、最近は「大きすぎて潰せない」という摩訶不思議な議論が罷り通り、庶民から新たに資金をむしり取る形で損を帳消しにする。不正行為が発覚しても「大きすぎて処罰できない」というから呆れる。 大きすぎて何もできないというなら、解体して小さくする必要があるが、それと同時に金融取引を厳しく規制しなければならない。すでに投機は犯罪の領域へ入り、経済活動や社会を破壊しはじめた。少なくともアメリカでグラス・スティーガル法を復活させ、同様の法律を各国で制定する必要はある。 そうした投機筋の大手にブラックストーンという会社がある。先日、どこかの新聞が取り上げていた。ピーター・ピーターソンとステファン・シュワルツマンが1985年に設立した法人で、2012年の総資産は約290億ドル、純利益は2億ドルに達する。 ピーターソンは1973年から84年までリーマン・ブラザースの会長兼CEO(最高経営責任者)を務めていた人物で、ブラックストーンを創設したのと同時にCFR(外交問題評議会)の議長に就任、2007年まで務めている。 CFRはアルフレッド・ミルナーがイギリスで創設したRIIA(王立国際問題研究所)のアメリカ支部とも見られていた団体で、当初はJPモルガンの影響下にあった。ところが1933年にJPモルガンを中心とするウォール街のグループが反ルーズベルト大統領のクーデターを計画して失敗すると、ロックフェラー系の人々が主導権を握るようになった。 1969年にピーターソンはジョン・D・ロックフェラー3世、ジョン・マックロイ、ダグラス・ディロンといった金融資本の大物に目をかけられ、72年には商務長官に就任、その翌年にリーマン・ブラザースへ移ったわけだ。 シュワルツマンはエール大学出身で、ブッシュ親子やジョン・ケリー国務長官と同じようにスカル・アンド・ボーンズ(海賊のマーク)に入会を許されている。この結社の出身者は金融界や情報機関の幹部になるケースが多く、そうしたネットワークにシュワルツマンも組み込まれているのだろう。 現在はシュワルツマンが君臨しているブラックストーン。大儲けしているのだが、払っている税率は15%だという。アメリカの一般企業は35%と言われているので、かなり低い。大金持ちには巨大な税金の抜け穴が用意されているわけだ。 ただ、日本の大企業に比べると、税率がそれほど低いようには見えない。中央大学の富岡幸雄名誉教授によると、企業利益相当額に対する法人税納付額の割合は、資本金100億円以上の企業では15〜16%で、法定税率30%の半分程度ということになる。(「税金を払っていない大企業リスト」、文藝春秋、2012年5月号) 富岡教授以外にも、少なくとも大企業に限ると、日本の法人税は高くないと指摘する専門家はいる。日本も多国籍企業も1970年代にロンドン(シティ)を中心に築かれたオフショア市場/タックスヘイブンのネットワークを利用しているだろう。大企業や富裕層は資産を隠し、課税を回避する抜け穴が用意されているのだ。投機を規制する動きにイギリス政府が反対するの理由は言うまでもないだろう。 北海油田の生産が落ち込み、リビアやシリアへの押し込み強盗がうまく行っているようには見えない現在、イギリスは資産隠し/「節税」支援業を止めるわけにいかない。
2013.05.06
5月2日から3日に続いて5月5日にもイスラエル軍はシリアを空爆したが、その際に劣化ウラン弾が使われたとシリア軍は主張していると伝えられている。アメリカ軍がイラクで使用、深刻な健康被害が出ていると報告されている爆弾だが、イスラエルなら使っても不思議ではない。 2008年12月から1月にかけてイスラエル軍はガザへ軍事侵攻、住民を虐殺し、住宅だけでなく学校、病院、さらにUNRWA(国連難民救済事業機関)の施設も攻撃された。その際に一種の化学兵器である白リン弾、さらに軌道修正しながら目標へ向かうスマート爆弾を使っていた。 今回の空爆は反シリア軍に対する支援になる。その反シリア軍の主力はいわゆる「イスラム原理主義者」であり、反政府軍が制圧している地域に「非宗教勢力は見当たらない」とニューヨーク・タイムズ紙も伝えている。アル・ヌスラ戦線のようなアル・カイダ系の武装集団が大きな影響力をもっていることを「西側」のメディアも否定できなくなっている。 少なくともアメリカのネオコン(親イスラエル派)にとって、アル・カイダの影響力拡大は想定内のこと。しつこく書くが、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事には、そうなることが予告されていた。 つまり、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアはシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始、その手先としてスンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を使うとしていたのだ。サウジアラビアやカタールに雇われた傭兵が反政府軍の主力になっているのも必然。 その反シリア政府軍が化学兵器を使用したとシリア政府は主張していたが、ここにきて国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使った疑いは濃厚だと発言している。その一方、政府軍が使用したとする証拠は見つかっていないという。もっとも、最初から、そのように分析していた人は多いが。 この問題でもイスラエルが関係していると推測する人がいる。例えば、ジョージ・W・ブッシュ政権でコリン・パウエル国務長官の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン退役大佐は、イスラエルが「偽旗作戦」を実行したた可能性があるとしている。つまりイスラエルがシリア政府を装って化学兵器を使った疑いがあるということ。アメリカやイスラエルに対しては腰が引けている潘基文国連事務総長にとって頭の痛い展開だろう。
2013.05.06
5月5日の未明にもイスラエル軍がシリアの軍事研究施設やダマスカス空港を空爆したようだ。イスラエルは1月30日、そして5月2日から3日にかけても爆撃している。アメリカ政府が思い通りに動かないことにイスラエルがイライラしているように見える。 その間、3月にはアレッポの近くで何者かが化学兵器を使用した可能性がある。イスラエルのハーレツ紙は反政府軍が使ったと分析していたが、ジョージ・W・ブッシュ政権時代、コリン・パウエル国務長官の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン退役大佐は、イスラエルが「偽旗作戦」を実行したという見方を明らかにしている。この推測が正しいなら、イスラエルはシリアのバシャール・アル・アサド体制がなかなか倒れないことに焦りを感じているということになるだろう。 一連の攻撃は反シリア軍の主力、つまりアル・カイダ系の武装集団を支援することになるが、これは1980年代にから続く構図。アフガニスタンでイスラエルはアメリカやサウジアラビアと手を組んでいたが、そのアメリカの情報機関がソ連軍と戦わせるために組織したのがイスラム武装勢力。訓練したうえで武器を提供していた。戦闘員のデータベースが「アル・カイダ(直訳すると基地/ベース)」だとも言われている。 リビアやシリアでの戦闘、そしてイランに対する「制裁」、つまり経済攻撃を考えると、2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュがニューヨーカー誌に発表した記事を思い出す。この記事に触れないでここ2年間の中東/北アフリカ情勢を語ることは不可能だろう。 ハーシュによると、アメリカ(当時はネオコンが主導権)、イスラエル、サウジアラビアはイランの基盤を揺るがす目的で秘密工作を始めていた。そのためにレバノンのヒズボラを弱体化させ、イランと同盟関係にあるシリアも秘密工作のターゲットにしていたという。また工作の手先としてスンニ派の「過激グループ」、つまりアル・カイダにつながる武装集団を使うことも、すでに決められていた。 本ブログでは何度も書いたことだが、アフガニスタンは勿論、イラクでもアメリカを中心とする占領軍はアル・カイダを引き込み、リビアやシリアでは地上軍の主力として雇っている。イスラエル空軍がアル・カイダを支援するような軍事作戦を実行するのは、当初の計画からすると自然なことだ。 しかし、イスラエル空軍の攻撃でアル・カイダが助かり体制転覆につながったとしても、アル・カイダがその後もイスラエルに忠誠を誓うとは言えない。イランとの戦争になれば戦乱は燎原の火のように広がり、中東/北アフリカ/中央アジアは収拾不能の混乱に陥る可能性がある。そうなれば石油の供給も難しくなり、アメリカがベネズエラの油田を支配しようとすれば、戦乱はラテン・アメリカに飛び火してしまう。イスラエルが核兵器を持ち出せば、事態を深刻化するだけだ。勿論、日本にとっても大変な局面になる。
2013.05.05
イスラエルの戦闘機が5月2日から3日にかけてシリアを空爆したようだ。レバノンからシリア領空へ侵入したという。2年前からトルコでは反政府軍が訓練を受け、攻撃拠点も提供され、最近ではヨルダンやレバノンからも戦闘部隊がシリア領内へ侵攻しているようだ。そしてイスラエルからの攻撃。さまざまな方向からシリアへ軍事的な圧力を加えている。 今回、空爆実施の情報はアメリカ政府の内部から流れ、後にイスラエル側も確認している。直接的な軍事介入に消極的な姿勢を崩さないアメリカ政府を意識しての作戦だろう。根回しはしているはずだが、それでも危険な挑発行為であることに違いはない。 今年1月30日にもイスラエル軍はシリアを空爆している。後の報道によると、1月22日にバラク・オバマ大統領はアビブ・コチャビAMAN(イスラエルの軍情報部)司令官から攻撃計画の説明を受け、合意したという。同じ時期にイスラエル政府は安全保障担当の顧問、ヤコフ・アミドロールをロシアへ派遣して攻撃を通告していたとも言われている。 この時、イスラエルの攻撃に反撃しなかったとトルコの外相がシリアを批判している。両国の戦争が始まれば、NATOが介入しやすくなると考えたのかもしれない。 アメリカ政府は反シリア政府軍への武器提供を検討しているというが、これは直接的な軍事介入には消極的だということ。3月にアレッポの近くで化学兵器が使用されたと言われているが、その際にイギリスやフランス、そしてトルコはシリア政府を結びつけようとした。軍事侵攻へつなげたかったのだろうが、アメリカ政府の姿勢に変化はなかった。 イスラエルのハーレツ紙が化学兵器を使ったのは反政府軍だと分析したように、政府軍側に被害が出ていることを考えると、シリア政府に責任を押しつけるのは無理だった。アメリカ政府も政府軍が化学兵器を使用したとは思っていないだろう。この件で最初に調査を要求したのは政府側だ。反政府軍が体制転覆後のリビアから化学兵器を手に入れた可能性があり、反政府軍が使ったと考えても不合理ではない。 また、ジョージ・W・ブッシュ政権時代、コリン・パウエル国務長官の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン退役大佐は、イスラエルが「偽旗作戦」を実行した可能性を指摘している。軍事介入の口実を作りたかったと推測しているようだ。 中東/北アフリカの状況を見ると、まずシリアの反政府軍はサウジアラビアやカタールに雇われた傭兵が主力。つまりサウジアラビアの手が伸びている。レバノンではヒズボラが影響力を強め、イラクでもサウジアラビアをスポンサーとするスンニ派の武装勢力が戦闘を激化させようとしているようだ。イスラエルにとって好ましい状況ではない。 しかし、リビアのようにアメリカ、イギリス、フランスがアル・カイダと手を組む形で直接的な攻撃に参加した場合、ロシアとの間で軍事的な緊張がさらに高まる。中央アジアで活動している反ロシア軍とシリアの反政府軍はつながっているので、シリア情勢はロシアにとって大きな問題だからだ。 1月の場合、イスラエル軍が空爆すると、その日のうちにロシア軍はミグ31をシナイ半島からイスラエルへ向けて飛行させている。領空へ入る直前に左へ旋回して地中海へ向かったが、そこには18隻で編成されたロシア軍の艦隊が待機していた。今回はどのような反応を示すか、注目する必要がある。
2013.05.04
5月3日は「憲法記念日」。アメリカ海軍のミズーリ号で日本政府全権の重光葵と大本営全権の梅津美治郎が降伏文書に調印したのが1945年9月2日のこと。それから1年2カ月後の1946年11月3日に日本国憲法は公布され、その翌年の5月3日に施行された。 アメリカが主導する形で作られた憲法だが、そうせざるをえない事情もあった。日本側の支配層に民主化の意志はなく、その一方で連合国側では天皇の戦争責任を問う声が高まっていたのである。靖国神社を破壊し、天皇の戦争責任を問うべきだとする人は少なくなかった。 日本へ帰る前、1946年に堀田善衛は上海で中国の学生から、「あなた方日本の知識人は、あの天皇というものをどうしようと思っているのか?」と「噛みつくような工合に質問」されたという。(堀田善衛著『上海にて』)「どう思う」ではなく、「どうしようと思う」と詰問されたのである。中国の学生にかぎらず、世界の人びとはそういう目で日本を見ていた。 急がないとアメリカの支配層にとって好ましくない事態になる。つまり、ウォール街と手を組んでいた天皇制官僚国家体制が崩壊してしまう。が、彼らにとって「幸運」なことに、フランクリン・ルーズベルト大統領は1945年4月12日、ドイツが降伏する前の月に急死していた。 ルーズベルト大統領の急死によってニューディール派/反ファシスト派は急速に弱体化、巨大資本がホワイトハウスで主導権を奪い返し、政策が劇的に変化していく。反ファシストから反コミュニストへ、巨大資本に対する規制から経済活動の自由化へ方向転換していたのだ。その影響は日本にも及ぶことになる。 ルーズベルトの死によって、日本の支配層は「国体」が維持されると安心したかもしれないが、政策を瞬間的に変更することはできない。まだ、反ファシストの雰囲気も残っていた。 そうした中、1945年9月26日に哲学者の三木清が獄死した。降伏文書への調印からすでに24日が経過しているが、政治犯は獄につながれたままだった。戦前の治安体制は続いていたのである。 こうした事態に驚いたのは外国人。ロイターのR・リュベン記者は10月3日に山崎巌内相をインタビューしているが、その際、内相は特高警察の健在ぶりを強調、天皇制に反対する人間は逮捕すると言い切ったという。その日、岩田宙造法相は中央通訊社の宋徳和記者に対し、政治犯を釈放する意志はないと明言している。日本の状況を世界の人が知ることになった。 政治犯は10月10日に釈放されるのだが、記事を受け、ダグラス・マッカーサー連合軍最高司令官が「政治、信教ならびに民権の自由に対する制限の撤廃、政治犯の釈放」を指令した結果である。 憲法が施行される前、1947年1月に作家の堀田善衛は上海から帰国しているが、その時に心底ショックを受けたと書き残している。引き揚げ船が佐世保沖で足止めになっていたとき、様子を見にきていた警察官に日本で流行っている歌をうたわせたところ、出てきたのは「リンゴの唄」。 つまり、「敗戦ショックの只中で、ろくに食べるものもないのに、こんなに優しくて叙情的な歌が流行っているというのは、なんたる国民なのかと、呆れてしまったんです」というわけだ。しかも、「明白な敗戦なのに"終戦"とごまかしている。この認識の甘さにも絶望しました」と書いている。(堀田善衛著『めぐりあいし人びと』) 当時、民間でも民主的な憲法を作る動きがあったというが、国民全体はこうした体たらくだったのである。認識の甘さは今も続いている。 民主化を謳いながら天皇制を存続させる目的でアメリカは日本国憲法を作った。短期間で作る必要があったので、ニューディール派の意向も反映され、民主的な要素が憲法に盛り込まれる一因になっただろう。天皇に関しては、「神」から「象徴」へと表面的な役回りは変化したが、その後も「神聖にして侵すべからざる存在」でありつづけている。 それでも日本の支配層には第9条を懸念する人が少なくなかった。その代表的な人物が昭和(裕仁)天皇。コミュニストが日本を制圧し、自分を絞首台や断頭台の前に引きずり出すのではないかと恐れていたようだ。 憲法が施行された直後、天皇はダグラス・マッカーサーに対して憲法第9条への不安を口にしたという。通訳の奥村勝蔵はその内容をメディアにリークした。マッカーサーは天皇に対し、アメリカが日本の防衛を引き受けると保証したというのだが、これは情報操作だった。 奥村は会談の後半部分を隠していたが、そこでマッカーサーは違うことを主張している。つまり、「日本としては如何なる軍備を持ってもそれでは安全保障を図ることは出来ないのである。日本を守る最も良い武器は心理的なものであって、それは即ち平和に対する世界の輿論である」。(豊下楢彦著『昭和天皇・マッカーサー会見』) そして、1950年4月に池田勇人がアメリカ政府に伝えたメッセージにつながる。そこには、アメリカ軍を駐留させるために「日本側からそれをオファするような持ち出し方を研究」してもかまわないという内容が含まれていた。(豊下楢彦『安保条約の成立』) このメッセージは吉田茂からのものだとされているが、実際は天皇からのものだった可能性が高い。吉田が行っていた発言と矛盾するのである。そして6月22日、朝鮮戦争が勃発する3日前にジョン・フォスター・ダレスは東京で「夕食会」を開いている。日本側から出席したのは、大蔵省の渡辺武(元子爵で後の駐米公使)、宮内省の松平康昌(元公爵で三井本家家長の義兄)、国家地方警察企画課長の海原治、外務省の沢田廉三(妻は三菱合資社長だった岩崎久弥の娘)。戦前、アメリカの巨大資本と手を組んでいた人脈だ。 現在、アメリカは軍隊の「アウトソーシング(外部委託)」を推進している。傭兵会社と契約、中東/北アフリカではサウジアラビアやカタールのカネで傭兵を雇っている。そのテータベースが「アル・カーイダ」。そして、自衛隊もアメリカの傭兵になろうとしている。日本国民がカネを出し、アメリカが命令する傭兵。そのためにも憲法第9条を変えたいとアメリカの支配層は考えている。安倍晋三首相たちが行おうとしているのは、「押しつけ改憲」である。
2013.05.03
少し前の話になるが、2020年のオリンピック招致に関し、猪瀬直樹都知事がライバル都市のイスタンブールとマドリッドを貶めたとして問題になった。ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューでの発言だ。猪瀬知事に関する情報をほとんど持ち合わせていないのだが、記事を読む限り、教養のなさが露わになっている。 現在の日本では剥き出しの悪口雑言が喜ばれる傾向にあり、石原慎太郎前知事もそうしたことを繰り返し、人気を得ていた。論理的な思考のできない幼児が口にする悪口と大差のない水準の発言だ。 ニューヨーク・タイムズ紙の記事で自分の発言が問題になると、猪瀬知事は「私の真意が正しく伝わっていない。」という日本では定番になった言い訳をしている。相手が日本のマスコミでないことを理解できていない。日本語のできる記者が取材し、録音していると反撃されてしまった。 次に出てきた弁明は、「インタビューの終了間際の雑談の中で出た話」。つまり、インタビュー中ということだ。弁明になっていない。自分が用意した宣伝内容は言い終わったので、それだけで記事を書くと思ったということだろうが、相手は日本のマスコミでないのだ。 その日本のマスコミはロシアで醜態をさらしている。安倍晋三首相がロシアを訪問、記者会見を開いたが、その最後にTBSの記者はメモを読みながら挑発的な発言をしている。 まず安倍首相に対し、「北方領土の帰属問題が解決されない中」と切り出すのだが、両国の首脳は領土問題を解決するために話し合いを始めたいと言っているわけで、質問になっていない。だいたい、「北方領土」という用語をストレートに使うこと自体、「ロシアの不法占拠」という主張を口にしたことになる。日露間に「領土問題は存在しない」という態度だ。 また、「実効支配」にも同じ意味があり、「日本にとっては、受け入れ難いような状況」は、ほとんどアジテーション。プーチン大統領に対しても「北方領土」の念押し。 この「質問」に対し、プーチンは記者がメモを読んでいたことを指摘、そのメモを書いた人へ伝えてほしいと皮肉を言ってから答え始めた。外部の何者かに「質問」の内容を指示されたのか、記者仲間で決めた質問なのかは不明だが、いずれにしろ、日露交渉を不快に感じている雰囲気は良く出ていた。 どのような事情があろうと、記者を名乗る以上、知りたい情報を引き出すことに集中するべきである。自分の感情をぶつけても仕方がないわけで、「グッジョブ」とは到底言えない。 メモが記者団でまとめたものだったとしても、その背後には、ある種の権力者がいるのだろう。日本のマスコミはそうした権力、権威に擦り寄りながら、日々、生活している。要するに、「反体制」は勿論、「左翼」そして「右翼」と呼べるマスコミは日本に存在しない。ただ強者の手先として庶民を騙すことしか考えていない宣伝機関。雑誌を眺めても、せいぜい体制の枠内で「左翼」を装う程度。北輝次郎の方が、よっぽど左だ。そうしたマスコミと毎日接している猪瀬都知事は、ニューヨーク・タイムズ紙を相手に見苦しい姿を見せてしまったわけである。
2013.05.02
言うまでもなく、核戦争の主役は潜水艦である。世界有数の核弾頭保有国と信じられているイスラエルはドイツからドルフィン級の潜水艦を1998年から導入、今年中に5隻目が就役するもようだ。4月29日にはドイツのキールで式典が開かれ、イスラエル側から国防省のエウド・シャニ少将、海軍司令官のラム・ルトバーグ提督が出席したという。ドイツもNATOの一員として、中東の不安定化に貢献しているというわけだ。 核弾頭を搭載でき、射程距離1500キロのポップアイ・ターボSLCM(潜水艦発射巡航ミサイル)を発射できる潜水艦で、イラン攻撃を念頭においているとも言われている。イランが核武装したなら、この潜水艦も使いにくくなるが、今なら実際に発射しなくても脅しに使える。イスラエルにとって目障りなのはロシアだけ。 中東/北アフリカの支配体制を1980年代、ロナルド・レーガン政権の時代から作り替えようとしていたのはイスラエルとアメリカのネオコン(親イスラエル派)。最も強く敵視していたのはイラクのサダム・フセイン体制。フセインはCIA人脈だが、イスラエルから見ると邪魔な存在だった。 ジョージ・H・W・ブッシュ政権は1991年にアメリカ軍をイラクを攻撃させたが、フセイン体制を破壊しない。そこで、ネオコンはシリア、イラン、イラクを攻撃する計画を立てていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の証言。また、2001年9月11日から6週間後の時点で、ネオコンはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃予定国リストに載せていたとも彼は語った。2003年3月にアメリカとイギリスを中心とする軍隊が再びイラクを先制攻撃、フセイン体制を倒すことになる。 1970年代の後半から、アメリカはイスラエルやサウジアラビアと手を組み、パキスタンの協力を得てイスラム武装勢力を組織、戦闘員を訓練し、資金や武器を提供してきた。そのデータベースが「アル・カイダ(基地)」。こうしたプロジェクトの中心人物がズビグネフ・ブレジンスキーだということは、本ブログで何度か書いた通りだ。この時の敵はソ連軍だった。 2000年代の半ばになると、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアのグループは秘密工作を始動させる。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事によると、この3カ国はシリアやイランなどをターゲットにした秘密工作を始めたというのだ。ヒズボラのほか、シリアやイランをターゲットにしているという。手先としてスンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を使うとしていた。 イスラエルは中東を戦乱に巻き込もうとしていたわけだが、それと並行する形でドイツから潜水艦を手に入れていたわけである。そして現在、シリアでは激しい戦闘が続き、町は破壊され、多くの人が殺された。反政府軍の大半が狂信的な宗教勢力やサウジアラビアなどに雇われた傭兵だということは本ブログで書いてきた通り。最近ではニューヨーク・タイムズ紙もこの事実を認めている。2007年にハーシュが書いた通りだとも言える。 現在、イスラエルやサウジアラビアもシリアの体制を転覆させようと必死だが、同じようにイギリスやフランスも直接的な軍事介入を実現しようとしている。ロシアの存在を考えると、アメリカも巻き込みたいと考えているようで、その突破口として「化学兵器」を使おうとしている。 イスラエル軍の白リン弾やアメリカ軍の劣化ウラン弾などには触れず、シリア政府軍が化学兵器を使ったと宣伝しているのだが、その主張も根拠がないに等しい。反政府軍は体制転覆後のリビアで化学兵器を手に入れたと言われているのだが、そうしたことも無視している。 イスラエル・ロビー、イギリス、フランス、サウジアラビアなどからの圧力を受けているであろうアメリカのバラク・オバマ大統領は、この化学兵器が使われたことは認めたものの、いつ、どのように、誰が使ったかがわからないと発言、シリアへの直接的な軍事介入には否定的な姿勢を崩していない。
2013.05.01
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