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反シリア政府軍の残虐行為が止まらない。捕虜の内蔵を食べて見せたこともあるが、今度はホムスの西でふたりのキリスト教徒の首を切って見せた。そのうちひとりはフランソワ・ムラード神父だという。この集団にアメリカ、イギリス、フランス、イスラエル、サウジアラビア、カタールなどは近代兵器を与えるわけである。 アル・カイダ、サラフィ主義者、イスラム同胞団は、いずれもイスラエルのテレビ番組の中で、アメリカやイスラエルに敵対しないと明言したそうだ。アル・カイダの象徴的な存在だったオサマ・ビン・ラディンもイスラエルと直接、戦うことはなかった。(重信メイ著『「アラブの春」の正体』角川書店、2012年) 創設時代からの歴史を考えても、リビアやシリアでの出来事を見ても、イスラム武装勢力/アル・カイダは「西側」の傭兵として動いたきたように見える。かつて、エジプトにあるアル・カイダの訓練施設でリーダーを務めていたシェイク・ナビル・ナイイムも、アル・カイダ系のアル・ヌスラのリーダーはCIAの工作員だと主張した。 シリアの体制転覆プロジェクトは外部の勢力がたてた計画に基づいている。アメリカの親イスラエル派、いわゆるネオコンが言及したのは1991年のことだった。ジョージ・H・W・ブッシュがアメリカ大統領だった時代、湾岸戦争でサダム・フセインを排除しなかった。そのことに怒ったポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はシリア、イラン、イラクを殲滅すると語っていたという。これは何度も書いた話だ。 2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュがニューヨーカー誌に書いた記事によると、アメリカ(ネオコン)、イスラエル、サウジアラビアは、シリアやイランをターゲットにした秘密工作をその時点で始めたとしていた。手先はスンニ派の武装集団、つまりサラフィ主義者、あるいはアル・カイダ。実際、リビアと同じようにシリアでもアル・カイダ系の武装集団が「西側」の手先として殺戮と破壊を繰り返している。 腐敗した「アメリカ帝国」が崩壊するのは、意外と早いかもしれない。TPPなどによって巨大資本は「新封建制」を成立させようとしているが、思惑通りに進むかどうかは不明だ。
2013.06.28
ジョージ・W・ブッシュ政権がはじめたイランの核施設に対するサイバー攻撃を、バラク・オバマ政権が加速させたと1年ほど前に報道された。イスラエルと共同して実行した「オリンピック・ゲームス」と呼ばれる作戦だ。アメリカには、他国によるサイバー攻撃を非難する資格はないことを示す作戦だとも言える。この情報が漏れた件で、FBIはジェームズ・カートライト元統合参謀本部副議長を調査しているという。 支配層は内部告発に神経を尖らせている。自分たちの犯罪的な行為が知られることを恐れているのだ。最近では、NSAに関する内部告発をしたエドワード・スノーデンを執拗に追いかけ、関係国を脅し上げている。ただ、中東とロシアには通じず、エクアドルも強く反発した。日本のような国ばかりではない。 スノーデンの内部告発に基づき、通信会社、インターネット・サービス・プロバイダー、カード会社からも個人情報をNSAは入手していたと報道されたが、そうした活動は以前から知られている。その最新情報を具体的に暴露したということ。監視するためのプログラムがあることについても同様だ。 アメリカの電子情報機関NSAがイギリスのGCHQと手を組み、全世界の人間を監視するシステムを築いてきたことは、1970年代に暴露された。監視対象の規模が飛躍的に拡大しているようだが、これはエレクトロニクス技術の進歩に負うところが大きい。FBIやCIAが反戦/平和運動に神経を尖らせ、監視していたことも有名な話。 イギリスのジャーナリスト、ダンカン・キャンベルによると、NSAのコンピュータには1974年の段階で約7万5000名のアメリカ市民に関する情報が記録されていて、その中にはラムゼー・クラーク元司法長官、ロバート・ケネディー元司法長官、ジョン・コナリー元テキサス州知事、女優のジェーン・フォンダ、育児書で有名なベンジャミン・スポック博士も含まれていた。 また、1998年にヨーロッパ議会は『政治的管理技術の評価』という報告書を出しているが、その中で、監視システムや暴動鎮圧技術のターゲットは反体制派、人権活動家、学生運動指導者、少数派、労働運動指導者、あるいは政敵になる可能性が高いと警告している。 現在でも、監視対象者の中にはジャーナリスト、国会議員、裁判官が含まれ、最高裁は職員全て。恐らく、外交官も監視されている。こうした人々の場合、何らかの弱みを握れば脅しに使うことができる。すでに弱みを握られていて、監視国家に反対できないという人もいるだろう。 以前にも書いたことだが、アメリカ国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)は、個人の学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータなど、あらゆる個人データを集め、分析するシステムを開発してきた。また、スーパー・コンピュータを使い、膨大な量のデータを分析、「潜在的テロリスト」を見つけ出すシステムも開発していると言われている。 そうした意味で、エドワード・スノーデンの内部告発は目新しいものではないのだが、まだ明らかにしていない情報の中に支配システムを揺るがすものがあるのかもしれない。例えば、ブーズ・アレン・ハミルトンの役割。 1970年代にアメリカでは上院と下院、いずれも情報機関の活動を調査している。当時も内部告発が相次ぎ、例えば、CIAでラテン・アメリカ担当のケース・オフィサーをしていたフィリップ・エイジー、CIA副長官の特別アシスタントを務めたビクター・マルチェッティ、そしてラルフ・マクギー。その後、CIAは告発を防ぐための仕組みを強化していく。 そうした中、CIAが400名以上のジャーナリストを雇っていたことも判明する。メディアを使ったプロパガンダ作戦の存在も浮上した。そのプロジェクトで中心的な存在だったのは4人。アレン・ダレス、フランク・ウィズナー、リチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポスト紙の社主だったフィリップ・グラハムだ。 フィリップは1940年にキャサリン・メイヤーと結婚する。キャサリンの父親はユージン・メイヤーで、1946年には世界銀行の初代総裁になる。フィリップが情報機関と関係するようになるのは第2次世界大戦のとき。戦時情報機関OSSの長官だったウィリアム・ドノバンのアシスタントになり、アレン・ダレスたちとも親しくなったのだ。ユージン・メイヤーは金融界の大物だが、ドノバンもダレスもウォール街の弁護士である。 1963年8月に「自殺」したフィリップを引き継ぎ、キャサリンが社主になる。キャサリンは1988年にCIAの新人に対し、次のように語ったという。「私たちは汚れて危険な世界に住んでいます。一般人が知る必要のない、そして知ってはならないものがあるのです。」 スノーデンはキャサリン・グラハムに挑戦している
2013.06.28
CIAは武器をヨルダンに運び込み、1カ月以内に反シリア政府軍へ供給する計画で、8月には攻撃が可能になると伝えられている。また、トルコへはイスラエルが対戦車ロケット弾、中距離ミサイル、小型銃器、高精度狙撃用ライフルを含む武器を運び込み、戦闘員の手に渡っているという。 反政府軍の少なからぬ戦闘員は狂信的なサラフ主義者の傭兵であり、アル・カイダ系の武装集団、アル・ヌスラが中心的な役割をはたしているのだが、そのリーダーはCIAの工作員だと主張する人物がいる。かつて、エジプトにあるアル・カイダの訓練施設でリーダーを務めていたシェイク・ナビル・ナイイムがその人物だ。 リビアではNATOと同盟関係にあった地上部隊の主力がアル・カイダだということは明白になっている話。CIAとアル・カイダが手を組んだことは否定できない。ムアンマル・アル・カダフィ体制を転覆させた後、武器とともにシリアへ移動しているわけで、シリアでもリビアと同じ状況になるのは必然だ。アル・カイダの幹部がCIAの工作員、あるいはダブル・エージェントだとしても不思議ではない。 現在、エドワード・スノーデンの内部告発で苦しい立場のバラク・オバマ政権としては、シリアでの攻勢に賭けようとしている可能性がある。
2013.06.27
NSAを使い、プライバシー、インターネットの自由、人間の基本的自由をアメリカ政府は世界規模で破壊していると告発したエドワード・スノーデンは現在、モスクワの空港のトランジット・ゾーンにいるようだ。アメリカ政府は引き渡しを求めているが、ロシア政府は引き渡す理由がないとして拒否している。中国にしろ、ロシアにしろ、アメリカ政府の圧力は通用していない。改めてBRICSの力を世界に示すことになった。 スノーデンはCIAの元技術アシスタントで、最近はブーズ・アレン・ハミルトンという会社で働いていた。技術コンサルタント会社だというのだが、スノーデンはNSAの監視プログラムに関する情報を得るために入社したという。 ブーズ・アレン・ハミルトンは約2万6000人の社員を抱える巨大企業だが、NSAの仕事をしているのは限られた人間だけだろう。その中にスノーデンは入れたわけだ。CIAで働いていたという経歴が幸いしたのか、彼を信用する何らかの理由、例えば人脈が影響したのだろうが、それにしても、なぜ彼はNSAの情報をとるため、この会社に目をつけたのだろうか? ここにきて、興味深い指摘をする人がいる。少し前、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)が不正に操作されていたことが発覚、大きな問題になったが、この件にブーズ・アレン・ハミルトンも関係しているというのだ。それ以外にも、エネルギー市場や為替取引でも相場を操作している疑いがあるらしい。 相場に多少でも関わったことのある人なら、市場には相場操縦がつきものだということを知っているだろう。かつて、アメリカ議会が多国籍企業の不適切な行為を調べたときにも相場操縦は問題になっていた。「市場の自由競争」など存在しないということだ。 日本の場合、1970年代の後半から1980年代にかけて、国策として相場を動かしていた疑いが濃厚である。つまり、株価を人為的に引き上げ、時価ファイナンス(増資や転換社債の発行)で資金を調達するという仕組みだ。この操作を利用して特定の人びと、つまり一部の政治家、官僚、大企業の経営者も大儲けしていた。マスコミにも甘い汁を吸った人がいたようだ。相場を動かすために使われるのは、基本的に支配層が自由にできる庶民のカネである。 ブーズ・アレン・ハミルトンはハッキングしていたようだが、そうなると各国のデータを入手するだけでなく、操作することも不可能ではない。そうしたデータを事前に入手したり、自分たちに都合良く書き換えることができれば、大儲けだ。そうして儲けたカネの一部がアメリカの戦費に充てられている可能性を指摘する人もいる。
2013.06.25
バラク・オバマ米大統領はこれまでの「核抑止力」政策を放棄、核兵器の先制使用を辞さないことを明らかにした。ロシアに対して行った核兵器削減の提案は中身のない宣伝にすぎないということだ。(PDF: http://www.defense.gov/pubs/ReporttoCongressonUSNuclearEmploymentStrategy_Section491.pdf) 歴史を振り返ると、アメリカは先制攻撃を前提として核兵器を開発、保有してきた。広島と長崎で原子爆弾の効果を試した翌年、アメリカのJCS(統合参謀本部)は必要なら先制攻撃を行うという政策を始動させた。1949年に出されたJCSの研究報告では、70個の原爆をソ連の標的に落とすという内容が盛り込まれていたという。 この頃までは「机上の空論」的なのだが、1954年にビキニ環礁で水爆実験を行った直後には、アメリカが保有する核兵器は2000発以上に膨らんでいたと言われ、現実味を帯びてくる。実際、1957年になると、軍や情報機関の内部で、ソ連に対する先制核攻撃を準備しはじめた。 勿論、核弾頭だけがあっても攻撃はできない。運搬手段、つまり長距離爆撃機やICBMが必要だ。そうした準備は1963年12月までに整うとライマン・レムニッツァーJCS議長やアレン・ダレスCIA長官など好戦派は考え、1961年の半ばにはジョン・F・ケネディ大統領に説明したという。ちなみに、航空自衛隊と関係の深いカーティス・ルメイも核戦争派の中心メンバーだ。 大統領へ説明する直前、レムニッツァーやダレスはキューバへの軍事侵攻を試みて失敗している。亡命キューバ人による攻撃が成功しないことはアメリカ側も織り込み済みで、その後、アメリカ軍を投入するというシナリオがあったようだが、これをケネディ大統領が拒否していた。 このキューバ侵攻作戦もドワイト・アイゼンハワー政権の時代に考えられている。つまりソ連に対する先制核攻撃の計画と同時進行している。 レムニッツァーやダレスが1963年12月を攻撃の期日に想定していた理由は、その時点ならソ連は核兵器の運搬手段を用意できないと見ていたからだ。つまり、戦争で圧勝できると思っていたのである。ただ、問題はキューバ。アメリカの目と鼻の先にあるこの島に中距離ミサイルを持ち込まれると、面倒なことになる。当然、ソ連も同じように考えただろう。そしてミサイル危機が起こった。 しかし、こうした計画はケネディ大統領に阻止されてしまう。1961年11月にダレスをはじめとするCIA幹部を追放、キューバ危機も外交的に解決してしまった。1962年にレムニッツァーたちが計画した「偽旗作戦」、つまりキューバを装って「テロ活動」をアメリカに対して行うというノースウッズ作戦も潰される。レムニッツァーJCS議長は再任を拒否され、1963年6月に大統領はアメリカン大学でソ連との平和共存を訴える演説を行う。 1963年といえば、今から50年前。その年の11月にケネディ大統領は暗殺され、「ソ連黒幕説」が流される。これを次のリンドン・ジョンソン大統領が信じれば、報復攻撃ということでソ連に対して核戦争を仕掛けることができたのだが、実現しなかった。 日本では「核抑止力」などということを今でも口にする脳天気な人間がいるらしいが、アメリカは最初から先制攻撃を前提にして核兵器を保有してきた。そしてバラク・オバマも先制核攻撃を容認する姿勢を見せたわけだ。ただ、ロシアを攻撃する可能性は少ないだろうが、中東で使う可能性はある。 ちなみに、日本に対しては核攻撃する必要がない。何しろ、自らが「核地雷」を埋め込んでいるので、それを爆破すれば良いからだ。要するに、日本の支配層は自分たちが攻撃されると思っていない。「核抑止力」も口から出任せと言うことだ。
2013.06.25
イラクで「死の部隊」を指揮していたスタンリー・マクリスタル大将を退役に追い込む記事を2010年にローリング・ストーン誌で書いたマイケル・ヘイスティングスは6月18日、「自動車事故」で死亡した。 その数時間前に彼はWikiLeaksの弁護士、ジェニファー・ロビンソンに接触し、FBIが彼を調べているとWikiLeaksのTwitterに書き込まれていた。親しい友人や関係者がすでにFBIから事情聴取を受けていて、彼自身は「大きな事件」に取りかかっていて、姿を隠すと電子メールに書いていたとも伝えられている。ヘイスティングスは情報機関によるアメリカ国民監視問題を取り上げようとしていた。 米英両国の電子情報機関、つまりNSAとGCHQが地球規模で通信を傍受、記録、分析していることは1970年代から指摘され、日本は例外だが、当時から世界的に大きな問題になっていた。アメリカとイギリスがUKUSA協定を結び、共同して情報支配を目論んでいるわけだ。 その一端を具体的に告発したひとりがエドワード・スノーデン。CIAの元技術アシスタントで、最近4年間はNSAの仕事をしていた。一般論としては知られていても、具体的な話になるとインパクトは違うもので、アメリカでは起訴に向けて動き出していた。 そうした中、スノーデンは香港からモスクワへ飛行機で移動、そこからキューバへ向かい、最終的にはベネズエラへ行くと言われている。中国とロシア、BRICSの中心国を絡めたわけだ。 スノーデンにはWikiLeaksの法律顧問が付き添っているようで、モスクワへの移動についてtwitterで知らせている。ロシアとキューバを経由してベネズエラへ向かう段取りはWikiLeaksが行ったのだろう。 中国のエリート、特に若い世代はアメリカとの関係が悪化することを嫌うので、彼らは香港を出てくれたことでホッとしているだろう。ちなみに日本だが、プルトニウムの動きを監視するシステムは日本側には無断で作り上げている。核兵器はアメリカの一部勢力とのみ連絡を取り合っているようなので、CIAやNSAは監視対象にしているらしい。そのほかの軍事、あるいは内政、外交などは日本自らが情報を伝えているのが実態だろう。
2013.06.23
アメリカの特殊部隊と情報機関のメンバーが反政府軍兵士に対し、対戦車/対航空機兵器の扱い方を、昨年の後半からトルコとヨルダンで訓練しているとロサンゼルス・タイムズ紙が報道している。 シリアで体制転覆を目指す勢力が政府軍と戦争を開始したのは2011年3月。その頃からトルコのインシルリク米空軍基地で反政府軍兵士に対する訓練が始まっていることは知られていて、アメリカの情報機関員や特殊部隊員、あるいはイギリスとフランスの特殊部隊員が教官を務めていると言われてきた。つまり、ロサンゼルス・タイムズ紙の報道は驚くような内容ではないのだが、アメリカの有力紙が伝えたということは驚きと言えるかもしれない。 バラク・オバマ大統領は反シリア政府軍へ武器を直接供与すると6月13日に表明した。これまで、サウジアラビアやカタールが武器を渡し、その扱い方をアメリカやイギリスなど「西側」が教えるという構図ができていた。「武器は提供していない」という「西側」の発言との整合性を図るための目眩ましだ。反政府軍側の人間に言わせると、戦況を一変させるような武器をすでに入手したという。 アメリカ政府が武器の直接供給を正当化するために使った口実が化学兵器。オバマ米大統領は根拠を示すことなく、シリア政府が化学兵器を使ったと主張している。が、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテは、政府軍ではなく、反政府軍が化学兵器を使った疑いが濃厚だと発言している。実は、最初からそのように分析していた人は多く、今でも国連はアメリカ政府の主張を認めていない。 シリア政府が化学兵器を使った場合、アメリカを中心にして、イスラエル、ヨルダン、トルコが参加してシリアに設置された本部を始動させるという話も3月には流れていた。シリア政府の化学兵器使用をアメリカ政府が主張したということは、アメリカ、イスラエル、ヨルダン、トルコが一体となってシリアで政府軍と戦うということだろう。 ところが、ここに来てトルコの国内が混乱している。政府の政策に対する反発が爆発した形だが、その理由のひとつはシリアに対する攻撃にある。そうしたこともあってか、今月19日、トルコ政府は反シリア政府軍への武器供給ルートを閉鎖するとアメリカ側に伝えたという。サウジアラビア、カタール、あるいはイスラエルが武器を調達しても、輸送ルートを確保できなければ反シリア政府軍の手には渡らない。 訓練もヨルダンの比重が大きくなっているようで、アメリカはヨルダンへ150名余りの部隊を秘密裏に派遣したと昨年10月に報道された。シリアからの難民対策と同時に、化学兵器の管理ができなくなった場合に備えることが目的だという。 それに対し、「偽旗作戦」を実行するため、反シリア政府軍に化学兵器の扱い方を教えたのではないかと疑う声も聞こえてきた。化学兵器は「西側」の好戦派にとって、飛行禁止空域の設定、つまり空爆を開始するための呪文。イラク攻撃前の「大量破壊兵器」と同じことだ。 今月上旬、ヨルダンでは19カ国から約8000名が参加したアメリカ主導の合同軍事演習が実施された。演習が終わってもアメリカ軍は700名の部隊やF-16戦闘機、愛国者ミサイルなどをヨルダンへ残すようだが、トルコに替わるシリア攻撃の拠点を作ろうとしているのかもしれない。 ネオコン(親イスラエル派)にとって、シリアの体制転覆は、20年にわたって準備してきたプロジェクトである。1991年、湾岸戦争の直後に始めたのだ。ウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官によると、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はシリア、イラン、イラクを殲滅すると発言したという。 湾岸戦争の際、ソ連が動かなかったことからネオコンは強気になったようだが、当時はソ連が消滅に向かって進んでいた頃で、イラクどころではなかった。ところが、今回、ロシアは後へ引く気配を見せていない。イランも対抗上、4000名の革命防衛隊をシリアへ派遣する用意があるとしている。イギリス、フランス、アメリカはイスラエルに引きずられ、ロシアの反応を見誤った可能性がある。計算間違いは地獄への扉を開く。
2013.06.22
マイケル・ヘイスティングスというジャーナリストがロサンゼルスで死亡した。木に激突、炎上する自動車の映像がYouTubeにアップロードされているが、その自動車を運転していたようだ。 アフガニスタン駐留軍の司令官だったスタンリー・マクリスタル大将を密着取材した彼のレポートが2010年にローリング・ストーン誌に掲載され、その記事が原因で彼は退役した。マクリスタルの側近がバラク・オバマ大統領への不満を口にし、ジョー・バイデン副大統領、あるいは安全保障問題担当の大統領補佐官だったジェームズ・ジョーンズ退役大将などホワイトハウスの高官をマクリスタルのグループが軽蔑したとされている。戦争ビジネスをスポンサーとするヒラリー・クリントン国務長官(当時)には好意的な評価をしていたが。 ジョーンズ補佐官はジョージ・W・ブッシュ政権の戦争政策に批判的な軍人だったとはいうものの、イラクを先制攻撃する前、統合参謀本部の内部では戦争に反対する意見が強く、開戦が半年ほど遅れたと言われている。エリック・シンセキ、アンソニー・ジニー、グレグ・ニューボルド、ポール・イートン、ジョン・バチステ、チャールズ・スワンナック、ジョン・リッグスなどの将軍も戦争を批判している。 こうした軍人とマクリスタルとは背景が違う。マクリスタルは2003年9月から06年2月までJSOC(統合特殊作戦司令部)の司令官を務めていることでもわかるように、特殊部隊の人間。JSOCの司令官時代、マクリスタルはドナルド・ラムズフェルド国防長官(当時)とリチャード・チェイニー副大統領(当時)と緊密な関係にあった。 歴史的に特殊部隊は情報機関と近く、ベトナム戦争で実行された住民虐殺を目的とするフェニックス・プログラム(ソンミ事件もその一環)も特殊部隊とCIAの連合組織によるものだった。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を。)アフガニスタンやイラクで行われている戦争もベトナム戦争と同じように、正規軍の戦争と特殊部隊/情報機関の戦争、2つの戦争が同時に行われている。 JSOCは特殊部隊の中でも特別な存在。特殊作戦で必要な技能を研究し、統合特殊作戦演習や訓練を計画したり実行し、統合特殊作戦戦術を開発することなどが創設の目的だとされているが、実際は極秘の特殊部隊で、「ニンジャ」とも呼ばれている。事実上の「死の部隊」だ。 こうした背景を持つマクリスタルを退役に追い込んだヘイスティングスが自動車事故で死んだと聞いて、「本当に事故なのか?」と思った人は少なくないだろう。しかも、こうした疑惑を強める情報も流れている。WikiLeaksのTwitterによると、死亡する数時間前に彼はWikiLeaksの弁護士、ジェニファー・ロビンソンに接触し、FBIが彼を調べていると語っていたというのだ。今後、新たな展開があるかもしれない。
2013.06.20
外国情報監視法(FISA)に基づき、外国情報監視法廷(FISC)は今年4月、通信会社大手のベライゾン・コミュニケーションズに対して電話記録の提出を命じ、数百万件の記録がNSAに提供された。 このことが発覚したのは今月6日のこと。PRISMというプログラムを使い、インターネット関連企業のシステムへ直接、アクセスできることも明らかになった。ここからエドワード・スノーデンの内部告発は始まる。 FISAは1978年に発効した法律で、本来は情報機関の暴走を防ぐことが目的だった。その3年前、アメリカでは「情報活動に関する政府による作戦を調査する上院特別委員会」が設置され、フランク・チャーチ上院議員が委員長に就任している。日本以外では、この委員会を「チャーチ委員会」と呼ぶ。 1960年代の終わりからアメリカはベトナム戦争の泥沼化に苦しみ、ウォーターゲート事件で大統領が辞任に追い込まれるなど国内も揺れていた。そうした中、要人暗殺、住民虐殺、軍事クーデター、マインド・コントロール研究、国民監視など情報機関や軍の秘密工作が明らかにされていく。 そうした流れは第2次世界大戦の終盤、フランクリン・ルーズベルトが1945年4月に急死した直後から始まっている。ホワイトハウスにおけるニューディール派の影響力は急速の弱まり、政府の政策は反ファシストから反コミュニストへ大きく変化した。軍や情報機関の内部にはソ連に対する核攻撃を望む勢力が力をつけていく。そうした中にはCIA長官になるアレン・ダレス、あるいは統合参謀本部議長に選ばれるライマン・レムニッツァーも含まれていた。 そうした中、FBIは1950年代から国民監視プロジェクト、COINTELPROをスタートさせて反戦/平和運動を監視する。尾行、電話盗聴、郵便開封、銀行口座も実施されたという。J・エドガー・フーバーFBI長官はジョセフ・マッカーシー上院議員を使って「アカ狩り」を行い、ライバルのCIAも攻撃する。 そのCIAも反戦/平和運動を危険視、ベトナム戦争が泥沼化しはじめた1967年には監視するためにMHケイアスというプロジェクトを始めた。その一環として封書も開封してのだが、その事実が1974年に発覚、責任者だったジェームズ・アングルトンは辞任に追い込まれた。 そうした流れの中、FISAは制定されたわけだが、CIAの秘密工作に対する調査に協力的で、アングルトンを追い出したウィリアム・コルビーは1976年に解任される。後継の長官に選ばれたのがジョージ・H・W・ブッシュ。 当時、ブッシュは「素人長官」とも宣伝されたが、実際はエール大学に学生だったころにCIAからリクルートされた可能性が高く、少なくとも1963年11月、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたときにはCIAの幹部だ。 ブッシュ長官が誕生したジェラルド・フォード政権ではデタント派が一掃され、替わって新しい世代の好戦派が台頭した。その中にはドナルド・ラムズフェルド、リチャード・チェイニー、ポール・ウォルフォウィッツも含まれていた。 こうした環境の中で制定されたこともあり、FISAには最初から限界があったのだが、愛国者法が制定されてからの改定で、今は骨抜きだ。言うまでもなく、愛国者法が制定されたときの大統領はジョージ・W・ブッシュ、つまりH・W・ブッシュの息子であり、副大統領はチェイニー、国防長官はラムズフェルド、国防副長官はウォルフォウィッツだった。 今回、アメリカでは通信やコンピュータ関連の会社が問題になったが、通話の内容もNSAが自由に盗聴できる状態。監視システムに組み込まれている会社も多く、銀行やカード会社は勿論、チケットの発券をコンピュータで管理している航空会社、また鉄道会社もIC乗車券を追いかけることは可能。生活の監視という点では、電力会社、ガス会社、水道局も重要な役割を果たしている。日本の公安警察もこうした会社と密接な関係にある。 料金の請求ミスを理由にして電力会社の情報力を軽視する人もいるが、膨大な個人情報を保有していることは事実であり、また、請求するための処理と、監視するための処理を混同してもいけない。勿論、ミスもあるだろうが、映画「未来世紀ブラジル」のように、それは別の問題に発展する可能性がある。実際、公安警察は電力会社などを使い、ターゲットを追跡する。 電力会社は警察や検察の仲間であり、天下りでもつながっている。放射線物質を大量に環境中へ放出しても寛容な姿勢をみせる一因はここにある。 エドワード・スノーデンは国民監視システムの一端を明らかにしたのだが、そのシステムの背後には巨大資本が蠢いている。国民を監視する大きな目的は、巨大資本の利益に反する動きを芽のうちに摘んでしまうことであり、戦争に反対する個人、団体を敵視する理由もここにある。そうした意味で、主権を庶民から奪うことになるTPPとNSAの問題は深く結びついていると言える。 1970年代、フランク・チャーチ上院議員は「多国籍企業」の活動を調べる小委員会の委員長も務めていた。アメリカを拠点にしているが、全世界で経済活動をしている巨大企業を問題にしていたのだ。チャーチ議員が情報機関の暗部にメスを入れ、巨大資本の活動を問題にしていたのは示唆に富んでいる。チャーチは1984年4月、59歳で死亡している。
2013.06.19
反シリア政府軍の意向だとして、ロウアイ・メクダドなる人物は、戦車とジェット戦闘機が必要だと「西側」に要求しているようだが、「西側」、湾岸産油国、そしてイスラエルも反政府軍への武器供給に前向きだ。こうした国々が活発に動いている理由は、反政府軍が追い詰められていることにある。 最近の動きとして流れてくる話の中には、5月20日にはロンドンでカタールとイスラエルの代理人が会談したというものもある。反政府軍が必要とする武器をイスラエルが提供し、その一方でヨーロッパの兵器産業と交渉を開始、カタールは資金を出すという方向に進んでいるのだという。サウジアラビアは地対空ミサイルを提供する意向のようだ。 こうした動きに対し、ロシアは反発、対抗措置をとると宣言している。ウラジミール・プーチン大統領はG-8サミットへ出席するためにイギリスを訪れているが、その際、水と食糧を持ち込んだという。イギリスで提供される物は口にしないということだ。 すでに地対空ミサイルS-300をシリアへ提供するとは伝えられていて、5月14日にはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がロシアに乗り込み、S-300を渡すなと脅したいう。が、これはロシア側から一蹴された。 このミサイルは高性能だとされているが、1978年には配備されたもの。ここにきてロシアが提供すると言われているのは2007年に実戦配備されたS-400だ。正に最新鋭の地対空ミサイルだが、それだけでなく、射程距離が60キロメートルだという24連装のロケットランチャーも供給する準備ができているという。 ロシアはイギリスに対し、イスラエルが攻撃しなければイスラエルに対して使うことはないと説明したようだが、逆に言えば、イスラエルが攻撃すればイスラエルに対して使うということだ。ロケットランチャーが予定通りに配備された場合、シリアの国境線近くにある軍事目標は殲滅できるとも警告したようだ。 本ブログでは何度も書いているように、ネオコン(親イスラエル派)の大物、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)は1991年の段階でシリア、イラン、イラクを殲滅すると語り、2001年にドナルド・ラムズフェルド国防長官(当時)の周辺にいたネオコンはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃することにしていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官は語っている。また、2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、アメリカ(ネオコン)、イスラエル、サウジアラビアは、シリアやイランをターゲットにした秘密工作をその時点で開始していたという。当然、ロシアもこうしたことを念頭において、作戦を練っているはずだ。 現在、イスラエルで好戦的な政策を推進しているのはベンヤミン・ネタニヤフ首相。その父、ベンシオンはウラジミール・ジャボチンスキーの「修正主義シオニスト世界連合」に参加していた人物で、ジャボチンスキーの秘書も務めている。ジャボチンスキーが死んでからは後継の指導者として活動したという。 つまり、ベンシオンは「大イスラエル」の信奉者で、南はナイル川から北はユーフラテス川まで、西は地中海から東はヨルダン川までをイスラエルの領土にするべきだと考えていた。その息子であるベンヤミンも同じ考えを持っている可能性は高い。 また、最近では地中海の東で天然ガスが見つかっていることもネタニヤフを刺激しているだろう。イラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを支配し、サウジアラビアやカタールと手を組めば、アメリカに替わって世界を支配することも不可能ではない。南米ベネズエラでクーデターを仕掛けたのもネオコンであり、イスラエルはグルジアを操ってロシアをうかがっている。 このところ、日本では歴史を無視、妄想の中にドップリつかっている人が増えている。国会は特に酷い状況だが、同じように、ネタニヤフも妄想に取り憑かれている可能性は否定できない。何年か前から、モサド人脈がブレーキをかけるような発言をしているのは、それだけイスラエルは危険な状態になっているということだろう。一歩間違うと大戦争になる可能性があるのだが、ネタニヤフは完全に情勢を読み間違っている。
2013.06.18
6月17日から18日にかけて、北アイルランドでG-8サミットが開催された。今月6日から9日にかけては、同じくイギリスのハートフォードシャーで「ビルダーバーグ・グループ」の会議も開かれている。力関係で言うと、ビルダーバーグ・グループが上だ。 ところで、2009年にはイギリスの首都、ロンドンでG-20サミットが開かれた。会議にはメンバーである19カ国とEUのほか、招待国2カ国と7つの国際機関から代表が派遣されているが、イギリスの電子情報機関GCHQがトルコなど15カ国近くを、またアメリカはロシアなどをそれぞれ盗聴していたという。 アメリカのNSAとイギリスのGCHQがUKUSAという連合体を組織、地球規模で通信を傍受していることは広く知られている。この関係を使い、アメリカの支配層は遙か以前から、「合法的」に自国民を監視してきた。この連合体は地球規模で通信を傍受するためにECHELONというシステムも作り上げている。 以前にも書いたことだが、調査ジャーナリストのダンカン・キャンベルがGCHQの存在を明らかにしたのは1976年、機関創設から34年後、今から37年前のことだった。ちなみに、アメリカとイギリスの電子情報機関が協力するという「UKUSA協定」が結ばれたのは第2次世界大戦が終わった直後の1947年、あるいは48年。NSAが設立されたのは、この協定より後の1952年だ。 この2機関の指令に基づいて動いているのがカナダのCSE、オーストラリアのDSD、そしてニュージーランドのGCSB。この3機関は各国政府ではなく、UKUSAの指揮系統下にあり、一種の「国家内国家」として機能している。UKUSAにとって都合の悪い政権が排除された一例がオーストラリアのゴフ・ホイットラム首相が罷免されたケース。 1975年11月、イギリス女王の総督、ジョン・カーがオーストラリア首相を解任したのである。カーは1944年にオーストラリア政府の命令でアメリカへ派遣され、CIAの前身であるOSSと一緒に仕事をしている。大戦後はCIAときわめて深い関係にあった。 ニュージーランドの場合、1984年に反核政策を掲げた労働党のデイビッド・ラングが首相になっているが、UKUSAにおけるGCSBの役割は変化していない。むしろ、NSAやGCHQとの関係は強まった。ただ、こうした事情はラング政権に伝えられていなかっただけである。この時期、GCSBは米英両国がラング政権を監視する仕組みとして利用された可能性が高い。 このUKUSAがECHELONというシステムを動かしていることを明らかにしたのもキャンベルだった。1988年のことだ。その後、エレクトロニクス技術の進歩で監視対象が飛躍的に拡大しているが、基本的な仕組みに変化はない。1980年代にアメリカやイスラエルの情報機関が「トラップ・ドア」つきの情報収集/分析システムを全世界で売っていたことも1990年代の初めには判明、日本以外では大きな問題になっていた。 今回の内部告発でNSAが電話を盗聴していたことも明らかにされたが、それを聞いて驚くのは「カマトト」すぎる。そうした仕組みは昔から知られていた話。内部告発者のエドワード・スノーデンが明らかにした情報に価値があるのは具体的な話だという点にある。 2001年9月11日以降、国民監視システムは急速に進化していく。そうしたシステムを開発する中核のひとつがアメリカの国防総省にあるDARPAで、個人の学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータなどあらゆる個人データの収集と分析が可能。このシステムに監視カメラやECHELONのような通信傍受システムもリンクする。 1998年にヨーロッパ議会が出した「政治的管理技術の評価」という報告書は、監視システムのターゲットは暴動鎮圧技術と同じように、反体制派、人権活動家、学生運動指導者、少数派、労働運動指導者、あるいは政敵になる可能性が高いとしている。歴史的に見ると、反戦/平和を訴える人や団体が狙われている。それに対し、「テロリスト」に関する情報は無視されることが少なくない。
2013.06.18
シリアで爆弾が仕掛けられた2台の自動車が爆破された6月16日、イスラエル軍がダマスカスの西にある軍事空港を空爆したと報道されている。攻撃されたのはアル・マザ基地で、5月の攻撃と同じように、火山のような爆発だったとする証言もある。その直前に移動式のレーダーシステムが空港へ入ったとも言われているので、そのシステムが配備される前に破壊することが目的だった可能性もある。 アメリカのバラク・オバマ政権は6月13日、具体的な根拠を示さないまま、シリア政府が化学兵器を使用したとして反政府軍への武器供与を表明した。これまでもサウジアラビアやカタールを使って武器は提供してきたが、これから直接、反政府軍へ渡すという宣言である。 サウジアラビアは1980年代からアメリカやイスラエルが手を組み、軍事作戦を展開してきた。そのサウジアラビアの国内がここにきて不安定化している可能性がある。今年4月に副国防大臣のポストを外れたハリド・ビン・スルタン・ビン・アブドゥル・アジズは現在、クーデターを計画したとして自宅に軟禁されているというのだ。 今のところ、アメリカ政府は武器を提供するというところで止まっているが、イギリスやフランスは飛行禁止空域の設定、つまり空爆を主張している。反政府軍の劣勢は決定的なようで、外部からの相当のテコ入れをする必要に迫られているのが実態だ。そうした状況の中、アメリカは軍事訓練の後、ヨルダンにF16戦闘機や地対空ミサイル(愛国者ミサイル)システムを残している。空爆に備えているという見方もある。 アメリカのネオコン(親イスラエル派)は1991年から、イスラエルやサウジアラビアも遅くとも2007年から、またイギリスも2009年にはシリアを攻撃する準備を始めていたわけで、状況が悪いからと言って、簡単に引き下がることはできないだろう。
2013.06.17
イランの大統領選挙でハサン・ロハニ元最高安全保障委員会事務局長が得票率50.7%で当選した。ロハニはハシェミ・ラフサンジャニ元大統領の側近と言われ、欧米では「改革派」、あるいは「穏健派」と呼ばれている。 イラン支配層の内部にはアメリカの好戦派とつながっている勢力が存在している。両者を強く結びつける出来事が起こったのは1980年、アメリカ大統領選挙の最中のことだ。 当時、イランはイスラム革命が成功した直後で、テヘランのアメリカ大使館では館員など52名が人質になっていた。この人質がいつ解放されるか、つまり選挙前に実現するのか、選挙後にずれ込むのかで選挙結果に影響が出ると考えられていた。 結局、選挙ではロナルド・レーガンが当選するのだが、その背後では共和党による人質解放遅延工作があった可能性が高い。レーガンやジョージ・H・W・ブッシュの周辺がイスラエルのリクードと手を組み、イランと交渉していたのだ。人質が解放されたのはレーガンが大統領に就任した1981年1月20日だった。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) 人質解放を遅らせる見返りとして、共和党側はイランへの武器供与を提示していた。後にイランへの武器密輸とニカラグアの反革命ゲリラ支援が明らかにされ、「イラン・コントラ事件」と呼ばれるようになるが、その発端は人質解放遅延工作にあったわけだ。 この工作が行われている最中、イラクがイランを攻撃する。イラクに君臨していたサダム・フセインはCIAの手駒として権力を握った人物だ。このイラン・イラク戦争は1988年まで続き、イランとしては、アメリカやイスラエルからの武器提供を受け入れざるをえない状況だったとも言える。 停戦後、イランでは新自由主義的、つまり強者総取りの経済が広がっていく。私有化や貿易の自由化が推進され、少数の大金持ちと多くの貧困層を生み出すことになったのだ。そして1989年に大統領となったハシェミ・ラフサンジャニは「経済改革」を実施、新たな経済エリートを生み出し、庶民は貧困化していった。 こうしてできあがった利権集団は欧米の巨大資本と結びつき、現在に至るまで大きな力を持ち続けている。2005年の大統領選で勝利したマフムード・アフマディネジャドはこうした強者総取り経済を変えようと試み、まずパールシヤーン銀行にメスを入れようとしたのだが、成功しなかった。そうした中、イランでは不動産バブルが膨らみ、2008年に破裂している。 欧米の政府やメディアがイランの「改革派」を支持する理由はここにある。欧米の巨大資本がイランでカネを儲ける環境が良くなる、つまりイランから富を吸い上げることが容易になるからだ。イランの新興経済エリートにしても、自分たちが豊かになれば問題はない。TPPを推進したがっている日本の「エリート」と基本的に同じだ。 ただ、前回の大統領選挙でアフマディネジャドが勝利したことでも明らかなように、ラフサンジャニ流の「改革」を推進しようとすれば、強い反発が予想される。ラフサンジャニの側近だったとはいえ、露骨な資本主義化は難しいということだ。ロハニという「改革派」の当選で欧米支配層の内部に、イランに対する経済攻撃を弱めようとする動きが出てくる可能性もあるが、それを対イラン強硬派は懸念している。 イギリスの外務省は「核開発問題」に言及したようだが、核開発はイランを攻撃するために掲げた看板にすぎない。イランでは2004年に最高指導者のアリー・ホセイニー・ハメネイが核兵器の保有を禁じるファトワ(イスラムにおける勧告で、政治的にも影響力を持つ)を出し、その後も核兵器の開発を目指していないと一貫して主張している。ロハニが核問題で方針を変えるとしたら、核開発自体を放棄すると宣言する以外にない。 イランを先制攻撃する前に流した「大量破壊兵器」、あるいはシリアの「化学兵器」と同じで、イランの「核開発」は単なる攻撃の口実。アメリカの親イスラエル派、つまりネオコンの中心的な存在であるポール・ウォルフォウィッツは1991年、ジョージ・H・W・ブッシュ政権の国防次官だったときにイランをシリアやイラクと一緒に殲滅するというビジョンを持っていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の話。 また、2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが書いたレポートによると、アメリカ(ネオコン)、イスラエル、サウジアラビアは手を組み、シリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始している。イランにもアメリカの特殊部隊JSOCが潜入して活動中だとされている。 イランと欧米との対立が激しくなった理由は欧米側にある。イランの「強硬姿勢」が問題なのではなく、イランを攻撃するために「強硬姿勢」を宣伝しているだけだ。ただ、ここにきて欧米支配層の中には、イスラエルと手を組んだ好戦派に危機感を持つ人たちも増えている。好戦派の足下にも火がついている。例えば、トルコでは政府への反発が強まってデモ隊と警官隊の衝突に発展、サウジアラビアではクーデター計画があったとも言われている。
2013.06.17
アメリカのバラク・オバマ政権が反シリア政府軍へ武器を供給すると伝えられたのは6月13日のことだが、5日には予想されていた。その日、国連大使のスーザン・ライスを安全保障問題担当の大統領補佐官(NSA)に、またライス大使の後任にサマンサ・パワーを指名したことから、アメリカ政府は暴力指向を強めたと見られたわけである。6日からビルダーバーグ・グループの会議が開催される予定になっていたことも何らかの関係があるかもしれない。 ライスが大統領補佐官に指名されたタイミングは、師匠にあたるマデリーン・オルブライトが国務長官に就任した経緯に似ていると指摘する人もいる。オルブライトのケースではビル・クリントン大統領がスキャンダル攻勢で圧力を加えられていたが、ライスの場合は、電子情報機関、国家安全保安庁(これもNSA)による情報収集活動に関する内部告発。 エドワード・スノーデンによる内部告発が具体的であり、重要だということは間違いないが、NSAが地球規模で通信を傍受、各国政府や国際機関などが集めている情報を秘密裏に入手していることはこれまでにも伝えられてきた。スノーデンの告発を高く評価はするが、これまでと違ってマスコミが大きく取り上げていることに違和感を感じる。 イギリスの調査ジャーナリスト、ダンカン・キャンベルは1970年代の後半からこの問題に取り組み、NSAやUKUSA(イギリスの電子情報機関GCHQとNSAの連合組織)に関しては、アメリカの調査ジャーナリスト、ジェームズ・バムフォードが明らかにしてきたが、日本のマスコミはこれまできちんと伝えようとしてこなかった。 キャンベルのレポートも内部告発に基づいているのだが、スノーデンと似た立場、つまり軍需産業のTRWで働いていたクリストファー・ジョン・ボイスもアメリカの秘密工作を1977年に外部へ知らせている。アメリカのスパイ衛星に関する極秘情報をはソ連に売り渡したのだが、それには理由があった。 ボイスはTRWで機密情報を扱っていたのだが、その中でアメリカ政府が1973年にチリのサルバドール・アジェンデ政権をクーデターで倒し、75年にはオーストラリアのゴフ・ホイットラム首相を罷免した事実を知ったことが大きい。ボイスが関わっていたスパイ衛星はECHELONともつながるもので、スノーデンが明らかにしたシステムとも基本的に同じである。そした行為にブレーキをかけるためにソ連へ情報を提供したようだ。メディアに伝えなかったのは、メディアが信用できないことを知っていたからだろう。 さて、前にも書いたことだが、これまで安全保障問題担当の大統領補佐官を務めてきたトム・ドニロンはビル・クリントン政権で国務長官を務めたウォーレン・クリストファーに近く、軍事より外交を優先する考え方の持ち主。ソ連の消滅を背景にして、ユーゴスラビアでは「西側」の支援を受けた勢力が「独立」を宣言、そうした動きを利用して「西側」はユーゴスラビアを解体する。 その際、クリストファーはユーゴスラビアへの軍事介入に抵抗、1997年に国務長官のポストを追われてしまった。その後任に選ばれたのがズビグネフ・ブレジンスキーの教え子であるマデリーン・オルブライト。そのオルブライトの弟子に当たるのがライスだ。長官交代の2年後、1999年にNATO軍はユーゴスラビアを空爆する。 クリントンが大統領に就任したのは1993年のことだが、就任直後から激しい反クリントン・キャンペーンが繰り広げられる。この年の7月にFBIから架空融資の疑いで家宅捜索を受けたディビッド・ヘイルは親友のアーカンソー州最高裁判事ジム・ジョンソンに連絡、ジョンソンに紹介された弁護士のランディ・コールマンは、「ホワイト・ウォータ疑惑」を宣伝しはじめる。 担当検事のポーラ・ケイシーがコールマンの誘いに乗らないため、今度は反コールマンの運動を始め、ニューヨーク・タイムズ紙のジェフ・ガースと接触する。そして11月、ケイシーはドナルド・マッケーと交代になった。そしてケネス・スターが特別検察官に任命される。 その後、クリントン大統領に対する攻撃は続くのだが、1998年3月に検察側から重要証人へ多額の資金が流れていたことをインターネット・メディアのサロンが明らかにして状況は一変。「ホワイト・ウォータ疑惑」の構図は崩壊してしまったのである。 そこで攻撃側が力を入れたのは「セクハラ疑惑」。1993年からアーカンソー州の職員だったというポーラ・ジョーンズがクリントン大統領のセクシャル・ハラスメントを訴えていた。この話を最初に伝えたのはデイビッド・ブロックだが、1998年に彼自身が記事の内容を否定する。ブロックによると、ジョーンズの話を持ち込んだのはシカゴの富豪でニュート・ギングリッジ下院議長(当時)のスポンサーだったピーター・スミスだった。 一連の反クリントン・キャンペーンで黒幕的な役割を果たしていたのが、メロン財閥のリチャード・メロン・スケイフ。この人物もギングリッチと親しかったのだが、それだけではない。CIAなど情報機関とも関係が深く、ヘリテージ財団やCSISなどに対する最大のスポンサーとしても有名だ。 そして出てきたのがモニカ・ルウィンスキー。1997年にリンダ・トリップなる女性がルウィンスキーと電話で話した内容を録音、それを公表したのだ。会話の録音をトリップに勧めたルチアーナ・ゴールドバーグは、1972年の大統領選挙でジャーナリストを装ってマクガバンをスパイしていた経歴がある。 ルウィンスキーがホワイト・ハウスに雇われた1995年にNATOはボスニアとヘルツェゴビナを空爆、ルウィンスキーの事件で圧力を受けている状態で国務長官が交代になり、ユーゴスラビア空爆へ突き進むわけだ。 この当時、すでにシリアをイラクやイランと一緒に殲滅するというビジョンをポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)は持っていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官は語っている。1991年の湾岸戦争(イラクへの先制攻撃)でサダム・フセインを排除しなかったことにネオコン(親イスラエル派)は不満だったようだ。 2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが書いたレポートによると、アメリカ(ネオコン)、イスラエル、サウジアラビアは手を組み、シリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始している。6月10日にフランスのLCPが放送した番組の中で、ロランド・デュマ元外相は、2009年にイギリスはシリア攻撃の準備を始めていたと語っている。イスラエルの意向が反映されているという。
2013.06.15
エドワード・スノーデンの内部告発でアメリカの電子的な情報収集活動が問題になる中、北アイルランドでG8が開催される直前、アメリカのバラク・オバマ政権は6月13日、シリア政府が化学兵器を使用したとして、反政府軍、つまりアル・カイダを主力とする武装勢力へ武器を直接供与すると表明した。主張を裏づける証拠が提示されたわけではなく、武器を供給するために化学兵器を持ち出したに過ぎない。これまで、サウジアラビアやカタールを使って武器を提供していたわけだが、アメリカ自らが乗り出すと宣言したということだ。 反政府軍の内部に「善玉」と「悪玉」が存在しているわけではない。統一されているとは言えないようだが、アル・カイダを中心とする傭兵集団だとは言える。そうした戦闘集団に武器を渡すことになるのだが、飛行禁止空域の設定/空爆を実施するわけではなく、傭兵を増派することはできないようなので、どの程度、効果があるかは疑問である。 ジョージ・W・ブッシュ政権はイラクを攻撃する際、「大量破壊兵器」を口実に使っていた。今回は「化学兵器」。イラク攻撃の前には攻撃を正当化するために偽情報を流していたが、今回も同じことをしている可能性が高い。 シリアで化学兵器が使用されたと最初に発表したのはバシャール・アル・アサド政権。アル・カイダ系のカーン・アル・アッサルが化学兵器で攻撃したとシリア政府は3月19日に発表、国連に対してすみやかに調査するように要求、ロシアは事態に懸念を示している。 これに対し、反政府軍は政府軍が使用したと反論、「西側」も反政府軍を支持しているのだが、イスラエルのハーレツ紙は反政府軍側の主張に疑問を投げかけている。攻撃目標はシリア政府軍の検問所であり、死亡したのはシリア軍の兵士だということ、また症状から見て使われたのは塩素ガスの可能性が高く、反シリア軍も簡単に手に入るということだ。アメリカ政府も塩素を入れた弾頭が撃ち込まれたと見ていた。 ただ、リビアで保管されていた化学兵器をシリアの反政府軍が入手しているという情報もあり、サリンなどを反政府軍が使う可能性は否定できない。カタール政府がイギリスのセキュリティ会社、ブリタム防衛に対して送ったという電子メールも公開されている。真偽は不明だが、シリア政府が化学兵器を使ったと見せかける工作を依頼してきたことを示す話が書かれている。ホムスに化学兵器を持ち込み、ロシア語の話せるウクライナ人を使ってロシアを巻き込むことも要求に含まれていたという。 その後、イギリスやフランスはシリア政府軍が化学兵器を使ったとする主張を繰り返しているが、国連独立調査委員会メンバー、カーラ・デル・ポンテは反政府軍が化学兵器を使った疑いは濃厚であり、政府軍が使用したとする証拠は見つかっていないと発言している。 また、ジョージ・W・ブッシュ政権でコリン・パウエル国務長官の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン退役大佐はこの件に関し、イスラエルが「偽旗作戦」を実行した可能性があるとしている。シリア政府が化学兵器を使ったからリビアの時とようにNATO軍が空爆して体制を転覆させるというシナリオには無理がある。 すでに本ブログでは書いたことだが、オバマ米大統領が新たな安全保障問題担当の大統領補佐官(NSA)に国連大使のスーザン・ライスを指名、ライス大使の後任にサマンサ・パワーを選んだのは、アメリカ政府が方針を変えたのではないかと注目されていた。 これまでNSAを務めてきたトム・ドニロンが軍事力の行使に消極的だったのに対し、ライスとパワーは「人道」の看板を掲げながら大量虐殺を推進するというタイプだからなのだが、シリア国民に支持されていない反政府軍の配色は濃厚で、武器を供与しても戦況に大きな変化はなさそうだ。 サウジアラビアやカタールは大金を使って傭兵を雇ってきたが、最近は戦闘員が足りていないようで、空爆が難しいなら、体制転覆を目指す国々は自国の特殊部隊を増派するしかないかもしれない。
2013.06.14
金融緩和を進めたところで実体経済は改善しない。資金は投機市場に流れていくだけのことだからだ。不景気の常態化は、資金が実社会から金融の世界へ流れ込む仕組みができあがったことに原因がある。この仕組みを変えない限り、社会の地獄度は高まるばかりだろう。 不景気とは、実社会で資金の循環が滞るか、流れが細っていることを意味している。つまり、不景気の原因は資金の滞留にある。その結果、「カネ余り」と「貧困化」という現象が現れるわけだ。 貯まった資金の行き先である金融の世界は肥大化し、「カジノ経済」と呼ばれる現象が起こる。この資金ルートができあがる上で重要な役割を果たしたのが1970年代にできたロンドン(シティ)を中心とするオフショア市場/タックス・ヘイブンのネットワークだ。 タックス・ヘイブンの代名詞として使われてきたスイス。そのほかルクセンブルグ、オランダ、オーストリア、ベルギー、モナコなども財産の隠し場所として有名だが、こうした国々は昔から同じことをしてきた。問題はロンドンにある。 ロンドンを中心にして、かつての大英帝国、つまりジャージー島、ガーンジー島、マン島、ケイマン諸島、バミューダ、英領バージン諸島、タークス・アンド・カイコス諸島、ジブラルタル、バハマ、香港、シンガポール、ドバイ、アイルランドなどが結びつき、財産を隠し、課税を回避、犯罪資金のマネーロンダリングにも最適なネットワークが築かれたのである。 19世紀に出現した強大な資本家は「泥棒男爵」と呼ばれることがある。それほど汚い手段を使い、強欲だったということだ。ジョン・D・ロックフェラー、J・P・モルガン、アンドリュー・カーネギー、ヘンリー・クレイ・フリック、エドワード・ヘンリー・ハリマン、アンドリュー・W・メロンたちだが、彼らはそれでも産業を興している。溜め込んだ資金を遊ばせるわけにはいかず、そうするしかなかったのだ。 しかし、今は違う。オフショア市場を利用して資産を隠し、課税を回避し、投機で運用するのが今の流儀。設備投資などする必要がない。金融緩和で産業への投資が増えるような時代ではない。「量的・質的金融緩和」を進めたところで、実体経済は良くならない。日銀も経済活動を回復させる気はないのだろう。
2013.06.13
アメリカの電子情報機関NSAがイギリスのGCHQと手を組み、世界規模で通信に関する情報を集めていることは1970年代から知られている。今回、エドワード・スノーデンが明らかにした事実は具体的であり、その点、重要だと言えるのだが、「そんなことをしているとは知らなかった」と言うことはできない。 NSAとGCHQが中心になり、UKUSAという連合組織が創設されていることも秘密ではない。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの情報機関も参加しているが、米英両国の機関に従属する立場にあり、米英両国がカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを支配するための「国家内国家」になっているのが実態。日本もUKUSAに関係しているようだが、彼らにとって日本は便利な協力国にすぎない。 こうした現実をEUも十分に理解しているはず。何しろ、1998年にはヨーロッパ議会の委託を受けた人びとが「政治的管理技術の評価」や「傍受能力2000」といった報告書を出し、アメリカやイギリスの通信傍受システムECHELONについても警告している。つまり、EUの支配層もUKUSAの活動を知り、容認してきたということだ。 「傍受能力2000」を書いたダンカン・キャンベルは1976年にGCHQの存在を初めて明るみに出したジャーナリストで、ECHELONの存在も1988年に指摘している。このシステムが発覚する切っ掛けは、アメリカのストローム・サーモンド上院議員に対する盗聴だという。NSAがGCHQの協力で実行していた。つまり、自分で盗聴すると問題になるので、イギリスの情報機関に委託し、「私たちは違法行為をしていません」という形式をつくっているわけだ。ここにUKUSAを作ったひとつの目的がある。 アメリカで愛国者法ができて以来、アメリカの企業は手元にある情報を政府機関へ提供しなければならなくなっている。今回、問題になった通信会社だけでなく、マイクロソフトにしろ、アップルにしろ、グーグルにしろ、アメリカの会社だ。
2013.06.13
日本政府はシリアの反政府軍を直接、支援する方針だと菅義偉官房長官は6月11日の記者会見で語ったという。つまり、アル・カイダを助けるということだ。「軍事的な用途に転用されず、紛争の助長につながらない分野に限って」だというが、その先にアル・カイダが存在している事実に変化はない。 シリアの首都ダマスカスは政府軍が制圧、戦闘はほぼ終了したとモサド(イスラエルの情報機関)と近いデブカ・ファイルは伝えている。単発的に「自爆テロ」を起こすことはできても、地域を支配できていないということだ。そのほかの地域でも政府軍が優勢で、反政府軍は追い詰められ、外国からの増援を必要としている。 アメリカでは、反シリア政府軍への直接的な軍事支援を認める法案を上院外交委員会のロバート・メネンデズ委員長とボブ・コーカー議員が提出、ジョン・マケイン上院議員はトルコからシリアへ入り、反政府軍の幹部と数時間にわたって会談したのも、そうした状況を反映しているのだろう。 また、バラク・オバマ米大統領がスーザン・ライス国連大使を安全保障問題担当の大統領補佐官(NSA)に指名、ライス大使の後任にサマンサ・パワーを選んだのも同じ理由からではないかとも言われている。 現在のNSA、トム・ドニロンはビル・クリントン政権で国務長官を務めたウォーレン・クリストファーに近く、ジョン・ケリー国務長官やチャック・ヘイゲル国防長官と同じように、軍事より外交を優先する考え方の人物。それに対し、ライスは「人道」という看板を掲げながら大量虐殺を実行するというタイプだ。 クリストファーはビル・クリントン政権でユーゴスラビアへの軍事介入に抵抗、1997年に国務長官のポストを追われ、その後任に選ばれたのはマデリーン・オルブライトはアフガニスタンで戦争を仕掛けたズビグネフ・ブレジンスキーの教え子。そのオルブライトの弟子に当たるのがライスだ。パワーもライスと同じ考え方をしている。 一方、イギリスやフランスの政府がシリアへの軍事介入を実現しようと必死なのも同じ理由による。両国はEUの外相理事会で強引に反シリア政府軍への武器禁輸を解除すると決定させた。 現在、シリア攻撃の地上軍はアル・カイダが主力だが、その背後には攻撃の拠点を反政府軍に提供しているトルコ、軍事訓練をしているアメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員、シリア国内へ特殊部隊を潜入させている可能性がある国はイギリス、カタール、アメリカ、フランス、ヨルダン、トルコ、傭兵を雇っているいるのはサウジアラビアやカタールだと言われている。 アメリカのネオコン(親イスラエル派)は1991年の湾岸戦争(イラクへの先制攻撃)でサダム・フセインを排除しなかったことに不満で、その年、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はイラクをシリアやイランと一緒に殲滅すると語っていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の話だ。 2001年の秋、9月11日から何週間かすると、ネオコンはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃するとしていたとも、クラーク元最高司令官は語っている。 また、2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが書いた記事によると、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアは手を組み、シリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始している。その結果が現在の状況だ。
2013.06.11
電子的に情報を収集し、分析するのがNSAやGCHQの仕事である。「テロにつながるような不審な行為を発見する」ためではない。そうした活動はプライバシー、インターネットの自由、基本的な人間の自由を世界規模で破壊しているだけだと考え、エドワード・スノーデンという29歳の若者は内部告発を決意した。 スノーデンはCIAの元技術アシスタントで、最近4年間は、国防契約会社で働いているという形で、NSAの仕事をしていた。年収は20万ドルだったという。その高収入を放棄して告発したわけだ。6月6日にガーディアン紙のグレン・グリーンワルドからインタビューを受けているが、その時には香港にいた。 過去に情報機関や捜査機関が行ったことを考えれば、最も重要なターゲットは戦争に反対する団体や人びとにほかならない。そうした人びとの動きを監視するだけでなく、弱みを握って攻撃する情報を手に入れようとする。FBIのCOINTELPRO、CIAのMHCHAOSもそうしたプロジェクトだった。 イギリスのジャーナリスト、ダンカン・キャンベルによると、1974年の時点でNSAはアメリカ市民約7万5000名の個人情報を集め、記録していた。監視リストの中には、ラムゼー・クラーク元司法長官、ロバート・ケネディー元司法長官、ジョン・コナリー元テキサス州知事、女優のジェーン・フォンダ、育児書で有名なベンジャミン・スポック博士も含まれていたという。FBIがマーティン・ルーサー・キング牧師が宿泊していたホテルの部屋を盗聴、脅迫に使おうとしたことも広く知られている。 1947年、あるいは48年に調印された「UKUSA協定」に基づき、NSAとGCHQは「連合体」を組織、1960年代には通信傍受システムのECHELONをNSAは構築、エレクトロニクス技術の進歩で能力は長足の進歩を遂げた。今では全ての通信を傍受し、記録する能力がある。今回、問題になっているバウンドレス・インフォーマントは今年3月、世界にコンピュータ・ネットワークから970億件の情報を入手、アメリカ国内だけでも30億件に達するという。 巨大企業が情報機関に協力することは珍しくなく、例えば、1998年にはWindowsのセキュリティ機能をコントロールするソフトウェアに2種類のカギが存在していることが発見され、Windows 2000の中には3種類のカギが発見されている。いずれも、NSAが自由に入り込めるように「秘密のカギ」が仕込まれたのだろうと言われている。 ヨーロッパ議会が1998年に出した『政治的管理技術の評価』という報告書が指摘しているように、監視システムや暴動鎮圧技術のターゲットは反体制派、人権活動家、学生運動指導者、少数派、労働運動指導者、あるいは政敵になる可能性が高い。
2013.06.10
アメリカの電子情報機関、NSA(国家安全保障庁)が通信大手のベライゾンから数百万という顧客の通信記録を入手したと伝えられている。外国情報監視法廷(FISA)が認めたのだという。PRISMというプログラムを使い、インターネット関連の大手企業のシステムへ直接、アクセスできるとも伝えられている。バウンドレス・インフォーマントという強力な情報収集ツールも存在するという。 過去の事例、例えばFBIのCOINTELPROやCIAのMHCHAOSは反戦/平和運動を監視することが目的だった。1998年にヨーロッパ議会は『政治的管理技術の評価』という報告書を出しているが、その中で、監視システムや暴動鎮圧技術のターゲットは反体制派、人権活動家、学生運動指導者、少数派、労働運動指導者、あるいは政敵になる可能性が高いと警告している。これが常識的な見方。 アメリカで監視システムが急速に強化されたのは2001年9月11日以降のことだが、例えば、2001年夏までにはアル・カイダがアメリカの航空機をハイジャックしようと計画しているとする情報を、NSA、CIA、FBIは入手していた。そうした警告をした人の中にはイラクのサダム・フセインも含まれている。 航空機が世界防衛機センターの超高層ビルに突入、国防総省の本部庁舎が攻撃された直後、ジョージ・W・ブッシュ政権はアル・カイダの犯行だと断定している。リビアやシリアの体制を転覆させるため、「西側」、湾岸産油国、イスラエルはそのアル・カイダと手を組んでいる。 NSAはイギリスのGCHQと緊密な関係にある。両機関に加え、カナダのCSE、オーストラリアのDSD、ニュージーランドのGCSBのアングロ・サクソン系の5カ国でUKUSAという連合体を組織しているのだ。ただ、名前を見ても明らかなように、その中心はUKとUSA。ECHELONというシステムを使い、世界規模で通信を傍受していることでも悪名が高い。 PRISMの件でもNSAとGCHQは協力関係にあるのだが、それだけでなく、イスラエル系の会社、ナルスとベリントが関係、今年の初めまでベリントはコンバースの子会社だった。コンバースはイスラエルの情報機関と緊密な関係にある。本ブログでは何度か取り上げたが、不特定多数の情報の収集と分析をするPROMISというシステムのケースでもイスラエルとアメリカの情報機関は協力関係にあった。 アメリカ国防総省のDARPA(国防高等研究計画局)は、個人の学歴、銀行口座の内容、ATMの利用記録、投薬記録、運転免許証のデータ、航空券の購入記録、住宅ローンの支払い内容、電子メールに関する記録、インターネットでアクセスしたサイトに関する記録、クレジット・カードのデータなど、あらゆる個人データを集め、分析するシステムを開発してきた。スーパー・コンピュータを使い、膨大な量のデータを分析、「潜在的テロリスト」を見つけ出すシステムも開発していると言われている。 電子化の進んだ社会ではコンピュータによって、簡単に個人情報が集められ、分析されてしまう。街には監視カメラがあふれ、昆虫サイズの「無人機」も開発中で、人びとはGPSを搭載した携帯電話を持ち歩き、自分がいる位置を知らせている。住民基本台帳ネットワークにしろ、共通番号制度にしろ、そうした作業を容易にすることが目的だろう。パソコンにもトラップドア、バックドアが組み込まれている可能性がある。
2013.06.09
ゴラン高原にはUNDOF(国連兵力引き離し監視軍)が駐留している。シリアとイスラエルの停戦を監視するため、非武装地帯に駐留しているのだが、オーストリア政府は自国の部隊を撤退させると発表した。 元々、この地域はシリア領だった。1967年にイスラエル軍が軍事侵攻、占領したのである。国連もイスラエルの併合を無効だと決議しているのだが、現在に至るまで支配している。「国際社会」とやらはイスラエルに対して寛容だ。 オーストリア政府の決定は、シリア情勢と無関係ではないだろう。イスラエルの情報機関、モサドと近いと言われるメディア、デブカ・ファイルによると、シリアの首都ダマスカスは政府軍が制圧、戦闘はほぼ終了した。レバノンから反シリア政府軍への補給拠点になってきたアル・クサイルも政府軍が押さえたと伝えられている。 6月3日にイスラエルのモシェ・ヤーロン国防相は国会でシリア情勢について報告、反シリア政府軍がまだダマスカスの4地区を支配、政府軍はシリア領の40%をコントロールしているだけだと説明したのだが、これは嘘だとデブカ・ファイルは伝えている。シリア全土を政府軍が制圧しつつあるということだ。 アメリカでは、反政府軍へアメリカ政府が直接、軍事支援することを認める法案を上院外交委員会のロバート・メネンデズ委員長とボブ・コーカー議員が提出、ジョン・マケイン上院議員はトルコからシリアへ入り、反政府軍の幹部と数時間にわたって会談した。一方、イギリスやフランスは軍事介入を実現しようと必死。EUの外相理事会で両国は強引に反シリア政府軍への武器禁輸を解除すると決定させている。それほど焦っているわけだ。 2001年秋の段階でネオコン(親イスラエル派)はイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃することにしていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官は語っている。また、2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが書いた記事によると、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアはシリアやイランをターゲットにした秘密工作を開始していたという。 イスラエルの思惑としては、シリアもリビアのように片づけ、レバノンを制圧すればヒズボラも叩けると計算していたのだろう。が、シリアで目算が狂い、ヒズボラは弱体化するどころか、イスラエルとゴラン高原で軍事衝突する可能性が出てきた。オーストリア軍が撤退する理由はその辺にありそうだ。そうした動きを受け、ロシア政府は部隊をゴラン高原へ派遣する用意があると表明したが、国連は断ったという。イスラエルの友好国でなければ困るということなのだろう。 また、シリアへの軍事介入を支えてきた国のひとつ、トルコではレジェップ・タイイップ・エルドアン首相の足下に火が付いた。エルドアン首相もシリアの体制を簡単に倒せると踏んでいたのだろうが、思惑は外れた。彼の政策に対する国内の不満を押さえきれなくなり、反政府運動は全国に広がりつつある。
2013.06.08
バラク・オバマ米大統領は国連大使のスーザン・ライスを安全保障問題担当の大統領補佐官(NSA)に指名、ライス大使の後任にサマンサ・パワーを選んだ。大量虐殺を正当化するために「人道」という看板を掲げるという共通項が二人にはあり、シリアへの軍事力行使に消極的な姿勢を見せてきたアメリカ政府が方針を変えたのではないかと注目されている。 現在のNSA、トム・ドニロンはビル・クリントン政権で国務長官を務めたウォーレン・クリストファーに近く、ジョン・ケリー国務長官やチャック・ヘイゲル国防長官と同じように、軍事より外交を優先する考え方の人物だ。 クリントン政権でクリストファーはユーゴスラビアへの軍事介入に抵抗、1997年に国務長官のポストを追われている。NATO軍がユーゴスラビアを空爆したのは長官交代の2年後、1999年のことだった。 クリストファーの後任に選ばれたのはマデリーン・オルブライト。彼女はアフガニスタンで戦争を仕掛けたズビグネフ・ブレジンスキーの教え子で、そのオルブライトの弟子に当たるのがライスである。 一方、パワーは空爆の年にハーバード・ロー・スクールを卒業、「人道」を名目とした大量殺戮を正当化する著作を発表している。リビアへの軍事侵攻にも賛成していた。こうした姿勢に対してはハワード・ジンやエドワード・ハーマンといった学者から批判されているのだが、その一方、日本だけでなく、世界的にパワーと似た主張をする「自称左翼」が少なくない。 「人道」を口実とした大量殺戮を「西側」が大々的に行うようになったのは、ユーゴスラビアを先制攻撃したころから。ソ連が消滅した後、バルカンに対する「西側」の工作が激しくなり、行き着いた先が虐殺だった。 ユーゴスラビアでは1991年にスロベニア、クロアチア、マケドニアが独立を宣言、翌年にはボスニア・ヘルツェゴビナが続き、セルビア・モンテネグロはユーゴスラビア連邦共和国を結成した。その連邦共和国から分離しようとしたのがコソボのアルバニア系住民。当然、「西側」の支援を受けていた。 当初、コソボで展開された自治権を求める運動はイブラヒム・ルゴバが率いるLDKが主導、平和的なものだった。そこでセルビア側も運動を容認していたのだが、徐々に状況が変わってくる。「人権擁護団体」のHRWやマスメディアがセルビア側の「弾圧」を宣伝し始め、アル・カイダがアルバニアからボスニアやコソボへ活動範囲を広げてきたのだ。ボブ・ドール米上院議員と関係の深いアルバニア・ロビーも宣伝活動を始めている。 この時期、アメリカ政府はLDKに冷淡な姿勢を見せていた。KLA(UCKとも表記)を台頭させようとしていたのだ。KLAは1996年にコソボ北部にいたセルビア人を襲撃して活動を開始した。 KLAが麻薬密輸で資金を稼いでいることは有名で、ユーロポール(ヨーロッパ警察機構)もKLAとアルバニアの麻薬組織とのつながりに関する報告書をヨーロッパ各国の警察や司法関係の閣僚に提出している。 アフガニスタンとパキスタンの山岳地帯で生産されたヘロインはEUなどへ流れていくのだが、その主要ルートのひとつがコソボを経由、全取引量の約40%だという。KLAは麻薬だけでなく、武器や臓器の密輸にも手を出している。欧州会議が発表した報告書によると、そうした取り引きのトップはハシム・サチだともいう。 いわば、KLAとは犯罪者集団なのだが、「親西側」ということで大した問題にはならない。それに対し、「西側」にとって邪魔な存在であるセルビアのイメージを悪くするためには嘘も使う。アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、イランなども同じように攻撃されてきた。 ボスニアの場合、ニューズデーのロイ・ガットマンは16歳の女性が3名のセルビア兵にレイプされたと報道したが、事実でないことが別のジャーナリストによって確認された。当時、ガットマンはドイツのボン支局長で、彼が頼っていた情報源はクロアチアの民族主義政党HDZの副党首で、クロアチア亡命者のプロパガンダ組織CICのザグレブ事務所の責任者だったヤドランカ・シゲリ。ここからレイプ情報が発信されている。 1993年、ガットマンにはセルビア人に関する報道でピューリッツァー賞を贈られ、シゲリは人権問題のヒロインとなり、1996年にはHRWが彼女を主役にしたドキュメント映画を発表している。ICRC(赤十字国際委員会)はセルビア人による組織的なレイプを示す証拠はないとしたうえで、全ての勢力が戦争で「不適切な行為」を行ったとしているのだが、「西側」には無視された形だ。 人権や人道は重要な概念であり、そうした目的を達成するための団体は支配層にとって目障りなはずだが、そうした目障りな存在を支配するのも支配層の常套手段。ロナルド・レーガン政権時代に始められた「プロジェクト・デモクラシー」は、「民主化」を装って国内をファシズム化し、外国を侵略しようというものだ。標語が大好きな、ある種の日本人はまんまと術中にはまっていた。 例えば、スザンヌ・ノッセルの場合、1999年から2001年までリチャード・ホルブルック国連大使の下で働き、2005年から07年にかけてウォール・ストリート・ジャーナルの副社長、2009年から11年にかけては国務省の副次官補を務めていた。2012年1月から今年1月までアムネスティ・インターナショナルUSAのエグゼクティブ・ディレクター、現在はPENアメリカン・センターのエグゼクティブ・ディレクターだ。その間、HRWのCOOや経営コンサルタントのマッキンゼーを経験している。アムネスティやHRWのような「人権擁護団体」が「西側」の殺戮に寛容な理由がわかる。
2013.06.07
欧米の「影響力」のある人びとが集まる会議が6月6日から9日まで、イギリスのハートフォードシャーにあるグローブ・ホテルで開催される。「ビルダーバーグ・グループ」と呼ばれている集団の集まりで、保険業のAXAグループでCEOを務めるアンリ・ド・キャストゥルが議長を務めるという。 今年の会議で討議されるテーマには、経済成長、仕事、債務、外交、教育、医療、サイバー戦争などのほか、現在、欧米が体制を作り替えようとしているアフリカや中東の問題が含まれているようだ。当然、シリア情勢も議論されるのだろう。 ビルダーバーグ・グループは討議内容など詳しい情報を秘密にしているが、グループの名称が明らかになり、参加者も百数十名と多く、「秘密組織」とは呼べない。以前から言われていることだが、権力者が何かを新たに決めるというより、欧米支配層の利害を調整することが目的だとみるべきだろう。ただ、その討議結果が国際的に大きな影響力を及ぼすことは間違いない。 このグループが創設されたのは1954年5月で、最初の会合はオランダのビルダーバーグ・ホテルで開催されている。その中心メンバーはポーランド生まれのヨセフ・レッティンゲルとオランダのベルンハルト王子で、レッティンゲルの背後にはアメリカ経済界の大物、アベレル・ハリマンやデイビッド・ロックフェラーがいた。 ザキ・ヤマニ元サウジアラビア石油相は「1973年5月にスウェーデンで開かれた秘密会議」で石油価格の値上げが決められたと語っているが、この会議を開催したのがビルダーバーグ・グループ。その結果に基づき、OPECは原油価格を1バーレルあたり3.01ドルから5.12ドルへ引き上げている。 ヤマニによると、サウジアラビアのファイサル国王は値上げを嫌っていた。コストの高い油田がライバルとして登場するほか、代替エネルギーの開発に拍車がかかることなどがその理由だったようだ。にもかかわらず値上げされたのは、アメリカ政府で大きな影響力を維持していたヘンリー・キッシンジャーが求めたためだという。この値上げでイギリスは経済的な苦境から脱することができ、アメリカの石油会社にも利益をもたらし、原子力発電を目論んでいた人びとにとっても追い風になった。
2013.06.07
東電福島第一原発の事故による日本国民の集団線量は、甲状腺がチェルノブイリ原発事故の約30分の1、全身は約10分の1だと国連科学委員会は推計、健康影響はチェルノブイリとは異なり、癌の発生を見つけるのが難しいレベルだと結論づけたらしい。5月27日付けの朝日新聞が伝えている。 しかし、公式記録を比較しても、放射性ヨウ素の放出量と人口密度を考えるとありえない数字だと専門家から指摘されている。そうした批判を予想したのか、「原発事故による放射性物質の放出量や、放射性ヨウ素の実測値が不足しているほか、被曝線量については不確定要素も多」く、「低線量被曝による健康影響もまだ十分に解明されていない」と逃げ道を作っている。そうした無責任な報告書だということ。 福島県の「県民健康管理調査」検討委員会は6月5日、18歳以下で甲状腺癌の診断が確定した人が9人増え12人に、また癌の疑いがある人は15人になったと発表した。調査対象は約17万4000人なので、「確定」した人だけでも1万4500人にひとりということになる。 原発推進派御用達の「学者」、山下俊一と長瀧重信らが、チェルノブイリ原発の周辺で事故から5〜7年後に行った甲状腺の超音波検査によると、癌が見つかったのは1万4000人にひとり(0.0071%)であり、高汚染地域では4500人にひとり(0.022%)。福島ではチェルノブイリより早いペースで癌になっている可能性がある。 アーニー・ガンダーセンの『福島第一原発』によると、福島第1原発で漏洩した量はチェルノブイリ原発事故の2〜5倍に達する可能性があるという。甲状腺癌の発生が早くても不思議ではない。ということは、20年後、30年後には、ほかの癌や奇形だけでなく、心臓病や免疫の低下、脳神経への影響なども深刻な事態になるということだ。 それに対し、「調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の四~五年後以降だった」として「放射線の影響は考えられない」と説明しているという。科学者や医者を名乗る人なら口にできない発言だ。 科学者、あるいは医学だというなら、先ず事実を尊重しなければならない。そこから出発し、調査、分析をして結論/仮説を導くという作業の繰り返しが必要なのである。チェルノブイリ原発事故による癌が見つかったのは事故から4〜5年後だとしても、それを一般化できるとは限らない。そもそも、「チェルノブイリ原発事故による癌が見つかった」ということと、「チェルノブイリ原発事故による癌が発生した」のとは全く違う話だ。この甲状腺癌も、否定しきれなくなり、イヤイヤ認めたというだけのことだろう。 こうした結論を発表した検討委員会のメンバーは次のようになっている。明石真言(放射線医学総合研究所理事)井坂晶(双葉郡医師会顧問)稲葉俊哉(広島大学原爆放射線医科学研究所長)春日文子(日本学術会議副会長/国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長)児玉和紀(放射線影響研究所主席研究員)佐藤敏信(環境省環境保健部長)清水一雄(日本医科大学内分泌・心臓血管・呼吸器外科統括責任者/日本甲状腺外科学会理事長)清水修二(福島大学人文社会学群経済経営学類教授)高村昇(長崎大学原爆後障害医療研究所国際保健医療福祉学研究分野教授/福島県放射線リスク管理アドバイザー)津金昌一郎(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター長)床次眞司(弘前大学被ばく医療総合研究所放射線物理学部門教授)成井香苗(福島県臨床心理士会 副会長)星北斗(福島県医師会常任理事)前原和平(福島県病院協会会長)室月淳(宮城県立こども病院産科部長/東北大学大学院医学系研究科先進発達医学講座胎児医学分野教授) 今年、WHOが発表した福島第一原発の事故による「健康リスク評価」の執筆者には、明石真言(放射線医学総合研究所理事)と丹羽大貫(京都大学放射線生物研究センター長)が含まれている。 最近では広く知られるようになったが、1959年にWHOとIAEAが調印した合意文書の第1条第3項の規定によると、一方の機関が重大な関心を持っている、あるいは持つであろうテーマに関するプログラムや活動の開始を考えている場合、その機関はもうひとつの機関に対し、問題を調整するために相談しなければならない。表面的には「相互に」という形式だが、事実上、WHOがIAEAの検閲を受け入れたということだ。 広島や長崎に落とされた原爆、ビキニ環礁で行われた水爆の実験、あるいは水俣病なんどの公害による被害を「エリート」は隠蔽してきた。スリーマイル島原発、チェルノブイリ原発、そして福島第一原発の事故でも同じことが言える。
2013.06.06
トルコの反政府デモが全国に広がり、死者も出ている。アムネスティ・インターナショナルによると、6月1日の段階で少なくとも2名が死亡したという。6月3日には、共和人民党の青年組織に所属するアブドゥラ・コメルトが、シリアとの国境に近いハタイで射殺された。警官が撃ったとする情報も流れている。 レジェップ・タイイップ・エルドアン首相は「トルコの春」なることはないと強気の姿勢を崩していないが、その気持ちは理解できる。何しろ、「アラブの春」は背後で彼らが煽っていたからだ。リビアやシリアの場合、仕掛けも全て彼らによる。トルコで同じことを彼らは行わない。 彼らとは、トルコ、アメリカ、イギリス、フランスのNATO加盟国、サウジアラビア、カタールの湾岸産油国、そしてイスラエル。戦闘部隊の主力は湾岸産油国に雇われた傭兵であり、その中核はアル・カイダの戦闘員。 湾岸の親米国家、バーレーンでも民主化を求める運動が2011年2月から続いている。平和的な抗議活動で、リビアやシリアと違い、武装した戦闘員がゲリラ戦を展開しているわけではないのだが、政府は暴力的に弾圧している。それにもかかわらず、この場合も「アラブの春」とは見なされず、弾圧も大して問題にされていない。 バーレンの抗議活動では初日にひとりが殺され、翌日には葬儀に参列していたひとりが射殺された。これまでに80名以上が犠牲になり、拘束された人びとは拷問されている。こうした弾圧を知る立場にある医療関係者も当局に狙われ、刑務所へ送られている。「西側」の姿勢は「寛容」だ。 抗議活動は始まって間もない2月22日には20万人が参加したと言われるデモがあったのだが、これに危機感を持ったのか、サウジアラビアはバーレーンへ約30両の戦車を送り込み、約1000人の兵士を派遣したと言われている。そのほか、アラブ首長国連邦も500名ほどの警官を派遣したようだ。 こうした弾圧を取材したCNNのチームは兵士に銃を突きつけられ、カメラは没収、写真や映像は消され、6時間にわたって尋問されたという。その時の体験に基づくレーポートをCNNは放送するが、国内向けに1度だけでお蔵入りになったようだ。国際向けの番組では取り上げられていない。しかも、その後、チームの中心だったアンバー・リオンは会社を解雇されたという。 中東/北アフリカで「西側」の巨大資本にとって都合の悪い体制を転覆させるプロジェクトが進行中だが、その「西側」と結びついているバーレーンでの弾圧を「西側」は黙認している。トルコでも「西側」は寛容な姿勢を見せている。 シリアの体制を転覆させるため、外国勢力は2011年3月頃から戦闘員を送り込んでいるが、そうした戦闘員を訓練していきたのがトルコにある米空軍インシルリク基地。教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、あるいはイギリスとフランスの特殊部隊員だとされている。 特殊部隊は戦闘員の訓練だけでなく、シリアへ潜入して活動を続けてきたと伝えられている。WikiLeaksが公表した民間情報会社ストラトフォーの電子メールによると、トルコも特殊部隊を送り込んでいる可能性がある。エルドアン首相が外国勢力の存在を主張したくなるのも当然だろう。今、鏡に写った自分の姿を見ているのだ。
2013.06.04
アメリカの属国、日本で「第5回アフリカ開発会議」が開催されたのは意味深である。 今から1年半ほど前、アフリカを取り巻く情勢は大きく変化した。アフリカを自立させようとしていたリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制が倒され、欧米に再植民地化される恐れが出てきたのだ。 カダフィがアフリカに目を向けた理由のひとつは、アラブ世界の支配層に団結して欧米に対抗しようという意識が薄いことにある。そこでカダフィはアラブ世界に見切りをつけ、アフリカに目を向けたというのだ。アラブ世界のこうした傾向は十字軍の時代(11世紀の末から13世紀)から見られるようで、「イスラエル建国」の際にも動きは鈍かった。 シオニストは1948年4月4日に「ダーレット作戦」を発動し、8日にデイル・ヤーシーン村で250名以上のアラブ系住民を虐殺、恐怖に駆られた住民は難民化する。アラブ軍が出てくるのは「建国」が宣言された翌日、5月15日になってからだ。 1967年6月にイスラエル軍はエジプトとシリアに対して空爆を開始、エルサレム、ガザ地区、シナイ半島、ヨルダン川西岸、ゴラン高原などを占領している。いわゆる「第3次中東戦争」だが、この時もアラブ諸国の軍隊は庶民の期待を裏切った。そうした中、奮闘したのがファタハ。そのスポークス・パーソンだった人物がアブー・アンマール、つまりヤセル・アラファトだ。1969年2月、アラファトはPLOの執行委員会議長に就任する。 イスラエルはアラファトを警戒、ライバルを育てることにする。そこで選ばれたのがムスリム同胞団のアーマド・ヤシン。拘束されていたヤシンをすぐに釈放、シン・ベト(イスラエルの治安機関)の監視下、イスラム・センターを創設し、1976年年にはイスラム協会を設立、87年にハマスを作り上げた。アラファトは2004年に死亡するが、暗殺説は消えていない。 アフリカを統合しようという動きは1999年のシルテ宣言で始まる。AUもこの宣言に基づいて設立された。言うまでもなく、シルテはカダフィの拠点だ。それに対してアメリカは2007年にアフリカ大陸を担当する統合軍、AFRICOMを創設したのだが、当然、アフリカ諸国は反発、司令部はドイツに置かれている。リビアのカダフィ政権もアメリカ軍がアフリカに基地を建設することに強く反対していた。 アメリカ政府がイスラエルとサウジアラビアと手を組み、スンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を手先として使い、シリアやイランをターゲットにした秘密工作を始めたと調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが書いたのも2007年のことだ。 AFRICOMが創設される前年、コンドリーザ・ライス国務長官(当時)はイスラエルのレバノン空爆について「新しい中東の産みの苦しみ」だと表現、顰蹙を買ったが、「新しい中東」を作る動きは1990年代の初めには開始されている。例えば、1991年にポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)は、シリア、イラン、イラクを殲滅すると語り、2001年の時点でドナルド・ラムズフェルド国防長官(当時)はイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃することにしていた。 アメリカ、イギリス、フランスはアフリカの再植民地化プロジェクトを始めている。日本も略奪グループの仲間に入ろうとしているのだろうが、カネだけ巻き上げられて終わりということも考えられる。
2013.06.03
トルコで反政府デモが拡大、参加者は数万から十数万人に膨らんでいると伝えられている。抗議活動の切っ掛けはイスタンブール市の中心部にあるタクシム広場の再開発計画に対する反発。公園をオスマン帝国時代風の兵舎とショッピング・モールに作り替えようという計画に反対する人々が声を上げたようだ。 このデモを警官隊が催涙弾、ゴム弾、放水などで鎮圧しようとしたのだが、火に油を注ぐ形になり、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相の辞任を要求するデモになった。アル・カイダを含む反シリア政府軍への支援、反体制派弾圧、メディアへの圧力など、エルドアン政権が行ってきた政策に対する不満が爆発したと言えるだろう。勿論、「オリンピック招致」という次元の話ではない。 長い間、シリアのバシャール・アル・アサド政権はトルコと友好的な関係にあり、両国は経済的にも結びついていた。トルコの庶民はシリアに友好的な感情を持っていただろうが、支配層はNATOに強く影響されている。 トルコはNATOの加盟国だが、加盟する際、秘密の議定書にも署名しなければならない。つまり、「秘密部隊」を創設し、手先になる「右翼」グループを庇護する必要がある。エルドアン政権はNATO、つまり米英の意向には逆らえないのだ。 トルコの秘密部隊が注目された事件が30年余り前に起こっている。1981年にローマ教皇、ヨハネ・パウロ2世がサンピエトロ広場で撃たれたのだ。「西側」ではソ連黒幕説が宣伝された。 銃撃したモハメト・アリ・アジャはトルコの右翼団体「灰色の狼」に所属していた。この団体は「民族主義者行動党」の青年組織として1960年代に創設され、NATOの秘密部隊につながっていると言われている。 シリアの体制を転覆させるプロジェクトで、トルコの米空軍インシルリク基地は反シリア政府軍の訓練基地として機能してきた。2011年の春から戦闘員を訓練、その教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、あるいはイギリスとフランスの特殊部隊員が務めている。さらに、シリアを攻撃する拠点もトルコ政府は反シリア政府軍に提供してきた。 ところが、5月にトルコで2台の自動車に仕掛けられた爆弾が炸裂、46名が死亡する。トルコ政府はシリアの情報機関が実行したと宣伝したが、野党はアル・カイダ系のアル・ヌスラが犯人だと主張している。 この主張が正しいなら、エルドアン政権が支援してきた武装勢力がトルコで破壊活動を行ったということになる。シリア政府はトルコ政府の主張を否定、客観的に見てもエルドアン政権のストーリーには無理がある。 本ブログでは何度も書いていることだが、アメリカ、パキスタン、サウジアラビア、イスラエルの同盟関係は1970年代の終盤から続き、この中からアル・カイダを含むスンニ派の武装勢力は生まれた。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事によると、アメリカ政府はイスラエルとサウジアラビアと手を組み、スンニ派の武装グループ(アル・カイダも含まれる)を手先として使いながら中東の支配構造を変えるための秘密工作を始めたという。 その一方、トルコはNATOの一員であり、米英両国の影響下にある。今年3月にアメリカのバラク・オバマ大統領はイスラエルを訪問したが、その際、トルコとの関係を改善するように言われ、ガザへの支援物資を運んでいた船団をイスラエル軍が公海上で襲撃した件でイスラエルはトルコに謝罪した。 NATO、湾岸産油国、イスラエルはシリアの体制転覆に手間取っている。その間、反政府軍の主力がアル・カイダだということが判明、その残虐行為も明らかになった。 リビアではNATOの空爆もあり、短期間で目的を達成できたが、それでも主力がアル・カイダだったことはすぐに判明した。しかも、サハラ以南出身のリビア人、あるいはそうした地域から働きに来ていた労働者を反カダフィ軍は虐殺している。「民主化」や「人道」を名目にして、「人種差別」に基づく「民族浄化」が行われたのである。これは「西側」の「人権擁護団体」も否定できず、メディアも報じている。 リビア抜きにアフリカの問題を語ることはできない。語らないとするならば、都合が悪いからである。アメリカ政府は軍事力で、また日本政府は札束でアフリカ諸国をコントロールしようと考えているようだが、大量殺戮の影響はこれから現れてくるだろう。
2013.06.02
イスラエル政府がロシア政府を脅している。グルジア政府を使ってイスラエルがロシアに揺さぶりをかけていたことは本ブログでも何度か書いたことがあるが、今回はシリアに対する地対空ミサイルS-300供給が問題になっている。もし、このミサイルをシリアへ渡せば破壊するというのだ。この脅しにロシアが屈するわけはなく、軍事的な緊張が高まればS-300の引き渡しペースを速めるとしているようだ。 すでにNATOやイスラエルはS-300の現物を調べているはずで、対策は練っているだろうが、今度はMiG-29戦闘機がシリアへ提供されるという話が出てきた。F-15やF-16に対抗するために開発された戦闘機で、実際に配備されたなら、「西側」にとっては厄介な存在になるだろう。 シリアの前に体制を転覆させたリビアで「西側」は人種差別を利用した。TwitterやFacebookなどを利用して偽情報を流し、それを「西側」の既存メディアが広めるという手順で、サハラ以南から働きに来ている人、あるいはサハラ以南出身のリビア人を傭兵だと宣伝し、虐殺を誘発させている。多くの建設労働者が犠牲になった。体制転覆後も「民族浄化」が起こっている。 リビアで体制を倒すという目的を達成した後、アル・カイダの戦闘員は武器を携え、シリアへ移動している。戦闘員が運ぶだけでなく、マークを消したNATOの輸送機もリビアからトルコの基地まで武器を運び、反シリア政府軍に渡されたともいう。 このときに化学兵器がシリアへ運ばれた可能性があり、反シリア政府軍はトルコやヨルダンで化学兵器の扱い方を教えられたとも報道された。5月27日にはアル・カイダ系の戦闘員がトルコで逮捕されたのだが、その際、2キログラムのサリンが押収され、シリアとトルコで使う準備をしていたとも伝えられている。「西側」にとって、化学兵器はシリアを空爆するための口実。そのため、化学兵器を準備していた可能性がある。 ヒラリー・クリントン前国務長官に言われるまでもなく、アル・カイダを作り上げたのはアメリカ政府である。ソ連軍をアフガニスタンへ誘い込み、そのソ連軍と戦わせる戦闘集団としてイスラム武装グループが編成されたのだが、その中からアル・カイダは生まれた。「アル・カイダ」とは基地、あるいはベースという意味で、一説によると、武装グループの「データ・ベース」なのだという。 アフガニスタンのプロジェクトでCIAはBCCIなる銀行を使っている。麻薬資金を扱うなど、少なからぬ違法活動が明らかにされて後に倒産するが、その中枢にはパキスタンやサウジアラビアの支配層がいて、CIAにもつながっていた。イラン・コントラ事件もアフガニスタン工作の流れの中で起こっている。 このイラン・コントラ事件ではイスラエルも中心的や役割を果たした。発端はイランのアメリカ大使館で起こった人質事件。カーター大統領の再選を阻止するため、共和党陣営(ロナルド・レーガン派とジョージ・H・W・ブッシュ派)は人質の解放を大統領選挙の後に引き延ばす工作を行った(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を)のだが、それ以来の関係だ。 アメリカ、サウジアラビア、イスラエル、イスラム武装勢力(アル・カイダ)という構図は、1970年代の終盤にはできていたことになる。そして今も機能している。
2013.06.01
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