ふつうの生活 ふつうのパラダイス

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2006年06月05日
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ニューワールド 』の ジョンスミス 。『 シンレッドライン 』の スタロフ大佐

私の目にはこの二人は似ている。どちらもやさしい。そして、やさしすぎる。

このやさしすぎるということがどんな意味をもつのか。
目の前のかわいそうを断ち切れないのだ。
男の人というのはその先の結果を考えて、目の前のかわいそうを断ち切らなければならないような、そんな決断をしなければならない場面にしばしば出会うものだ。
けれど、スタロフ大佐は、太平洋戦争の全体の流れよりも、今目の前にいる部下の命の方を優先しててしまう。今部下を行かせれば死んでしまう。そのことを踏み切れない。

ジョンスミスもまた、自分のために故郷を追われてしまった ポカホンタス への罪悪感が大きい。たとえ人質扱いであろうと彼のために故郷を追われてきたボカホンタスを、自身の感情をのりこえ、ボカホンタスを受け入れることが、どうしても出来なかったのだろうか。彼がポカホンタスを置いて、イギリス本国の命令に従ってアメリカを離れる時、自分を待ち続けてしまうかもしれないことを思って死んだことにしたのか。あるいは、ポカホンタスを危ない冒険の旅に連れ出すことが忍びなかったのか。イギリスからの命令を断ることが出来なかったのか。それとも、断ることはできたかもしれないのか。ちょっとわからないけれど。

このやさし過ぎる男というのは、 テレンスマリック その人なのだろうか。彼は自分の映画の中に優しすぎる男を描いてみせる。

それはテレンスマリック自身そのものの姿なのだろうか。

目の前のかわいそうを断ち切れないそのやさしさは、しばしば男性社会の中で、彼に生きにくさを味あわせてきただろう。彼は人生の中で自身の優しさをどう扱えばいいのか悩み続けてきたのだろうか。この手の優しさは男社会の中では、かなりしんどいものなのではないかと思う。

目の前のやさしさをたちきることのできる普通の男性であれば、この手の悩みにであうことはない。だから、この手の悩みをその映画に映し出すことも出来ない。

男が優しすぎるということがどんな意味を持つのか。そのやさしさは否定されるものなのか、肯定できるものなのか。テレススマリックは自らの映画の中で問う。

男が目の前のかわいそうを断ち切れないやさしさは捨てなければいけないものなのか。持ち続けてもいいものなのか。必要以上にやさしすぎる自分は間違っているのだろうか。

彼の映画『シンレッドライン』の中で、 ウィット という非常にビビットな感性を持つ青年が登場する。たぶん、主役。彼は戦闘から逃れるために、戦争という苦痛からのがれるために、しばしば脱走する。けれど、脱走して訪れる島民の村の中で、辛いのは戦場だけではないこと、平和な世界であろうとも、争いや病気やそのほかいろいろのことがあって、生きるというそのこと自体が辛いのだということに思いいたる。彼はただの歩兵だから、スタロフのように上官として部下の生死にかかわるような決断を迫られることはない。それでも、そのやさしさや感性はスタロフと同じように戦場における疑問と苦痛を伴いうるものだ。けれどそののち、同僚のために自らの命を犠牲にして、日本兵に殺されてしまう。ウイットは逃げるのをやめたのだろうか。

『ニューワールド』の中でも、ジョンスミスは自身の罪悪感とやさしさからポカホンタスの愛を受け止めることを止めた。けれどその事が間違いだったことに、後年イギリスでポカホンタスと再会することで、ジョンスミスは気づくことになる。目の前のかわいそうという感情を振り切ってその先のことを考えて行動を決めることが必要とされることに、気づくことになったのだろうと思う。

自身のやさしさに人生の中で迷ったテレンスマリックが出した一つの答えなのだろうか。

先のことを考えて今目の前にある感情を切れ捨てなければならないという男性得意の感情とは別に、まず、先のことより何より目の前にあるものをかわいそうだとして最優先させる女性得意の感情もまた決して悪いものではないだろうと思う。どちらが悪いということではなく、どちらもまた必要なモノなのだろうと思う。

しかし、この男女それぞれ独特の感情への対し方というものは、お互いになかなか理解しにくいものがあって、それがしばしば、男女の、恋人同士の、夫婦の、意識のずれを生み、、あるいはケンカとなり、別れを、いさかいを導いてしまうものだ。

最近話題になる熟年離婚もまた、そのあたりのことで、今病気で辛いしんどい状態の自分を置いて、仕事に行ってしまう夫に対しては冷たい、家族のことはどうでもいいのかと思うけれど、男にすれば妻は病気で辛そうではあるけれども、病気はいつか治るものだし、それよりも今仕事を投げ出せば、仕事を失いこの後の家族の食い扶持を稼ぐことができなくなり、家族を路頭に迷わせることになるかもしれないことの方が優先されることになるのだろう。男性は目の前の妻のかわいそうな状況よりもその先のことを考えて仕事に出てしまうのだろうけれど、妻にすれば会社の状況など想像できるものでもないし、たかだか一日休むくらいで、仕事がなくなるとも思えないのだから、それで、仕事を優先させる夫というのはただ家族や妻のことも考えずに仕事ばかりする冷たい男にしか見えないだろう。

男性的感覚と女性的感覚は相容れないというか、一つの人間が両方の要素をもつのは不可能だからこそ、男女に振り分けられているのだろうと思う。そして、それはどちらが良い悪いということではなくて、どちらも必要な感情なのだと、思う。

先のことを考えればふりきったほうがいいように思えるものでも、今現在のかわいそうだという感情を優先させた方が結果的によい場合もまた、ありうることがあるもので、今だんだんに会社でも、家族や家庭の事情を考慮して、男性社員を全て仕事優先の生活に追い込まないような仕事のあり方を模索しはじめてもいる。

テレンスマリックはたぶん、やさしすぎる男であろうと思うのだけれど、彼は答えをだせたのだろうか。

ところで『シンレッドライン』の中にでてくる、指揮官の トール中尉 。この人はまさに男らしい男なのだけど、戦場では兵士の命より、戦闘の結果や、名誉や勲章が優先されてはいるのだけれど、(まさに男)、戦闘中自分の命令に逆らったスタロフに対して除隊を促し、その際に勲章や名誉を考慮し、除隊にされるスタロフの立場も慮って、気を配ってあげる当り、結構やさしいじゃないかと私は思ったのだけれど、なんか間違ってるかなあ。確かに戦争最優先だけれど、タバコをすいながら物思いにふけるトール中尉を見ていると、結構いい男じゃないかと思ってしまった。彼もまた戦争のために目の前のものを切り捨てながら、決して何も感じていないわけではなく、本当はやはり、心に痛みを感じているのだろうと思う。決して冷たい男なわけでも、自分勝手なわけでもないのだろうと思う。その痛みを心の奥にしまいこみながら、自身の役目をこなそうとしているのだろうか。いかにも男らしい男の中の男ってやつですかねえ。





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最終更新日  2006年06月05日 10時40分35秒
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