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芸術ってなんだろう。芸術ってどこまで人の心を変えることが出来るのだろう。 ベルリンの壁が崩壊する4年ほど前の東ドイツ。社会主義体制の中で個人の行動、言動、思想統制の厳しさが描かれていて、そういえばこんな設定の映画を観るのは、初めてだったかもしれない。でてくるのは、劇作家ドライマン、女優クリスタ、そして、彼らを監視し続け、盗聴し続ける冷酷な大尉ヴィースラー。 ドライマンとクリスタという芸術家二人を盗聴し続ける中で始めてヴィースラーは、芸術の世界に出会う。そして、ドライマンの部屋から盗んだ本(文学)を読み、ドライマンの弾くピアノの『善き人のためのソナタ』に感動して涙を流す。彼は生まれて初めて芸術というものがあたえる感動に出会ってしまったのだ。 そしてそれゆえに、彼のに中に人間らしい感情が芽生え始め、ドライマンとその恋人クリスタの二人にいつしか情が移り、つい味方してしまった結果、自分は大尉の地位を奪われ、地下室のメイル係という仕事に追い込まれてしまう。 それでも、いつか善意は必ず伝わるものなのだろうか。ベルリンの壁崩壊後にヴィースラーの存在を知った劇作家ドライマン。ヴィースラーのことを書いた本を手にして、自分ことをドライマンが感謝してくれた事実をしるヴィースラー。 人知れずする善意の行動は、いつかかならず相手に伝わるのだろうか。けれど、人は人のために善き事をするわけではなくて、自分の内側の抑えようのない思いゆえに善行をするもので、だから大尉は自分の行動に悔いている様子はないし、逆に今までの彼の自信満々で傲慢で冷酷な態度は、後半一転して、おとなしく生気のない人となる。 それでもラストで、ドライマンの本を手にしたヴィースラーの姿にほっとする。 芸術にまで政府が口出しをする社会主義世界で、書きたいものも書けずにいたドライマンが、いざ東西ドイツ統合で言論と表現の自由を手に入れてみれば、今度は逆に何にも書きたいものがなくなってしまうというジレンマ。 そんな中で知った、ヴイースラーの存在は彼にもう一度執筆の熱情を沸き立たせる。善意が善意をよびさらに善意につながっていくそこに、芸術がもつ力。 この映画で描かれているのは、社会主義社会の非道や、言論表現統制だけでなく、どんな社会にあっても、決して人の中から、芸術を奪い去ることはできないという、人の中の芸術、人によってしか生み出されることのない芸術の姿なんだと思う。 表現の自由を奪われた社会主義体制下にあってもなお、芸術はその力を失わないどころか、いっそう力を増していくように見える。 本、文学、演劇、絵画、音楽。 芸術の美しさが人を感動させる。芸術が人の心を美しくするのか、人の心の美しさが芸術を作るのか。 善き人のためのソナタ@映画生活
2007年11月01日
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