inti-solのブログ

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2019.08.02
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登山文化の危機! 山小屋ヘリコプター問題
6月末のある日、T航空の荷上げを翌日に控えていた僕たちは一本の電話を受けた。「ヘリが全て故障したので、当面荷上げはできません」。ここから今回の騒動は始まった。~
2019年7月下旬現在、多くの山小屋の現場で重大な異変が起こっている。営業物資、生活物資が突如として届かなくなったのだ。数年前から主要なヘリコプター会社のA社やN社が山小屋の物資輸送から事実上の撤退を示唆し、大幅値上げや契約拒否などに踏み切っていることは問題として顕在化していたが、ここにきて現状北アルプスの8割方の物資輸送を手掛けている、最後の砦というべきT航空が、一昨年来相次いだ事故やそれに誘発された人材流出、直近の機体トラブルなどによってついに機能不全に陥ってしまったのである。
先述の故障の連絡から2週間ほどでヘリコプター1機が復帰し、徐々に仕事をこなしつつあるとはいえ~僕の知る限りでも食料が届かずに客食を提供できない小屋、燃料が切れかけている小屋、営業開始半月経っても物資が届かない小屋、冬季解体して夏に再度組み立てるはずの施設が建てられず営業開始が遅れている小屋など、あらゆるレベルで影響が広がっている(全ての情報を網羅できるわけではないが、7月下旬現在、ほとんどの小屋で営業ができない状況は解消されたようだ)。~
例え当面の物資輸送の滞りが表面上は解消に向かったとしても~今後この問題は際限なく拡大して行く可能性が高い。~今回の騒動を引き水に、今後ヘリコプターによる物資輸送を受けられなくなる山小屋が続出する可能性があるのだ。~
1960年代初頭以降、ヘリコプターは山小屋運営の絶対的な生命線になった。それ以前は人が背負える範囲内の物資で山小屋を建設し、生活物資や食料を確保し、人力だけで開拓活動全般を行っていた。食料は宿泊者がある程度持参するのが慣習であった。それが60年代初頭のヘリコプターによる山岳地への物資輸送が実用化され、全てはそれを前提として発展することになった。~
山小屋のヘリコプター事情の風向きが変わり始めたのは雲ノ平山荘を建て替えた2010年頃からだったと思う。2011年の東日本大震災が何らかの形で影響を及ぼしたのかとも思われるが、それまでは前出のT航空が比較的大きなシェアを占めていたとはいえ、4社ほどがそれなりに正常な競争原理を働かせながら共存して北アルプスの山小屋の物資輸送を行っていた。それが2010年頃からA社、N社、S社などが山小屋の物資輸送を急速に撤退方向に舵を切り始めた。
当時、雲ノ平山荘で契約していたN社も突如として、山小屋の物資輸送から撤退したい旨を公言するとともに、3年間で段階的に物資輸送単価を倍近くに引き上げることを通告してきた。交渉しようにもにべも無く、一方的な通達である。その際N社の担当者が話していたことが、端的にその後の展開を物語っている。
「時代とともに農薬散布や林業などの大口の民間事業がなくなり、ヘリコプターの需要自体が限られる中、今までのように広く浅く収益を上げる方針は変更せざるを得ない。これからは電力会社の事業や公共事業などの単価が高く、大型工事にターゲットを絞る方向になる」
おそらくこの方向性はヘリコプター業界にとってはある種必然的とも言える経済判断であって、生き残り戦略でもあるのだろう。ことさら、山小屋の物資輸送は気象条件が厳しく円滑に仕事をこなすことが難しいため、ハイリスクローリターンの典型でもある。その後はN社と前後してA社、S社なども同じ方針を打ち出しはじめ、他社に契約を断られた山小屋が続出し、結果的にT航空に過剰とも言える山小屋の物資輸送のシェアが集中することになった。
~雲ノ平山荘も長い話し合い期間の末に2017年からT航空に物資輸送をしてもらえることになった。
しかしその矢先、T航空の大型ヘリコプターが墜落事故に見舞われた。T航空の関係者曰く、「もとより10ある仕事量に対して10の人材と機体でかろうじて対応していたところに来て大型機の喪失に加え、様々な経緯によって人材を失う流れとなり、その後は変わらずに10ある仕事に対して5や6の対応力になってしまった」のだ。
そもそもヘリコプターがひとたび事故に見舞われると航空局から厳しいペナルティーや制限を課せられ、ただでさえ身動きが取りづらくなってしまう。
このことを考えるほどに山小屋の物資輸送を手がけるのがT航空一社になってしまっていること自体がそもそも計り知れないリスクなのである。(以下略)

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記事中のT航空というのが東邦航空を指すことは、多少なりとも山の事情に通じていれば一目瞭然です。元々、記事が指摘するように、山のヘリ輸送のパイオニアであり、私でも、「山のヘリ輸送と言えば東邦航空」というイメージがパッと思い浮かぶくらい、山と縁深い会社です。
その東邦航空が最後の砦となり、それ以外の各ヘリ会社が山小屋への輸送からほとんど撤退している、という状況にあることは、この記事を読むまでまったく知りませんでした。ゴールデンウィークの涸沢では、件の東邦航空のヘリが30分ごとに飛来して忙しく働いていたし、先月の北岳でも、露出を間違えて真っ黒な写真になってしまったためアップしませんでしたが、大樺沢の仮設トイレをちょうどヘリが運び上げているところでしたから。

記事が書くように、ヘリの荷揚げがなければ、山小屋の維持、運営は非常に困難でしょうし、従って小屋泊まりを前提とする登山も困難になります。登山者が減れば登山道が整備されなくなり、歩きにくくなって更に登山者が減る、という縮小再生産の道を歩むことになってしまうでしょう。

ボッカ、尾瀬を初めとして、何カ所かで見た記憶はありますが、20世紀の時代ばかりで、2000年代以降は山で遭遇した記憶はありません。山小屋の経営者や従業員が入山時に荷物を持って行く、という副次的なものを別にすれば、もうほとんどポッカをやる人はいないのではないでしょうか。私など、テント山行で荷物が20kgにもなると、重くてヒーヒー言うのに、60kgとか80kgを担いで人間が山を登る、というのはほとんど信じがたいことです。よりによって、雲ノ平というのは、北アルプスの中心とも言える場所に位置しており、どの登山口から入っても、一日では着けない、途中で最低一泊しないと着けない最奥の秘境です。40年前ならいざ知らず、今の時代にそんなところにボッカで荷物を運ぶ仕事をやってくれる人など、いるわけがありません。

というわけで、深刻な事態だと思うのですが、解決策はというとなかなか難しいと思わざるを得ません。引用は省略しましたが、元記事での筆者の主張は、山小屋の公的な役割を認め、公費での支援を、というものです。確かに、登山道の整備は、自治体や国から費用はでているものの、実際に委託を受けて作業を行うのは山小屋関係者であることが多いようです。しかも、公費は充分ではなく、足りない分は山小屋の持ち出しで補っている例が多いようです。また、日本の登山人口は1000万人近くにもなり、今や海外からの観光客も少なからず日本の山に登る時代ですから、登山の総合的経済効果はかなり大きなものになります。

ただ、山小屋への輸送ヘリに公費というのは、なかなか厳しいだろうなと思わざるを得ません。もちろん、個人的には賛成します。ただ、それですんなり公費助成、という流れになるはずがないな、とも思います。登山人口1000万人はすごい数ですが、逆に言えば残りの1億1千万人にとってはどうでもいい話、になってしまうでしょうから。

結局、解決策としては自力で何とかするしがない、ということにならざるを得ないのだろうと思います。入山料、というのがすぐ考えつく手段でしょうが、これは徴収自体にコストがかかるため、現実的にはどうでしょうか。あとは山小屋の宿泊料値上げ、トイレの使用料値上げ、などが考えられます。
思うに、ヘリでしか荷揚げができない場所での山小屋建設には、莫大な費用がかかります。おそらく、億の単位は超えるでしょう。そうすると、ヘリ1機の値段と山小屋の建設費は、そう大きくは変わらないのではないかと思われます。寿命は、木造の山小屋だと50-60年でしょうか?下界より厳しい環境ですから、災害で壊れたり、場合によっては火災(消防車は来ないし、尾根筋では水も足りないので消しようがない)などで、老朽化以前に壊れるリスクは多々あります。
ヘリは、寿命はその半分くらいでしょうが。
つまり、山小屋1軒だけではどうにもならないにしても、ひとつの山域数十軒の山小屋がまとまれば、ヘリを2~3機共同で運用することは可能ではないでしょうか。もちろん、実際の運用を自分たちでやるのは無理でしょうから、整備、飛行に関しては既存のヘリコプター会社に業務委託することになるでしょうけど。

そのヘリが、例えば山岳遭難が発生すれば救助にもあたる、ということであれば、公費で補助金という話も、それほど敷居の高いものではなくなるように思います。
それにしても、ヘリコプターは事故が多いものですね。上記のヘリ会社いずれもが、ほぼ数年おきに死亡事故を起こしています。
そういえば、以前に、知人で元海上自衛隊のヘリパイロットだった人がいました。本人はある事情から視力が悪化し、途中からパイロットができなくなったのですが、その人が言うに、自分の同期のパイロットで民間に引き抜かれて移った仲間のうち、6人が事故で亡くなったというのです。みんな、電力会社の仕事で高圧電線を張るで墜落した、と。山小屋の物資輸送や遭難救助なども、場所が場所だけに一瞬のミスが即墜落につながることは明らかです。そういう意味では、ヘリが危険というよりも飛ぶ場所が問題なのでしょうけど、ともかく事故の危険が付きまとう乗り物であることは間違いなさそうです。

ゴールデンウィークに涸沢で幕営した際に撮影した、T航空こと東邦航空のヘリの写真です。







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最終更新日  2019.08.03 19:31:24
コメント(8) | コメントを書く
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Re:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
甲斐駒ファン さん
 少し遅くなりましたが、8/8日東京新聞特報面にも取り上げられていたことで興味深い話題なので一言。有人の有料の山小屋は当然営利目的ですが、山岳という特殊な環境の立地から、遭難救助や登山道・水場の整備など、直接営利とは関わりのない公的な業務にも携わっています。かつての甲斐駒ヶ岳五合目小屋は、黒戸尾根の登山道の梯子などの整備にも携わっていましたが、それに対する自治体の姿勢は「金は出さずに口は出す」だったそうです。ヘリコプターの経費なども含めて、山小屋料金などに上乗せるなどして徴収すべきと考えます。ちょっと調べたのですが、1泊2食付の山小屋の料金は以下のとおりです。下界の旅館と単純比較は出来ませんが、安すぎるような気がします。これに数百円程度上乗せするのは許容範囲かと思います。

尾瀬地域 9000円
南アルプス 8700円 (北岳肩の小屋)
北アルプス 10300円 (非繁忙期の燕山荘)

 入山料も同様の主旨ですが、何らかの形で登山者が負担するのは避けられないと考えます。
 蛇足ですが、ボッカについて。平坦な木道が多い尾瀬では、まだ多くのボッカが活躍しています。荷物を高く積んで遥か遠方を歩いている姿はよく見かけます。






(2019.08.09 13:09:17)

Re:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
Bill McCreary さん
旅先でこの記事拝読しまして、大変興味深く感じました。ヘリコプター輸送に山小屋が依存するのは仕方ないでしょうが、当の航空会社がやっていけないといったらどうしようもないですよね。まさにおっしゃるように、

>ひとつの山域数十軒の山小屋がまとまれば、ヘリを2~3機共同で運用することは可能ではないでしょうか。

ということを現実に考えなければいけないでしょうね。

>ヘリコプターは事故が多いものですね。上記のヘリ会社いずれもが、ほぼ数年おきに死亡事故を起こしています。

今回東邦航空のヘリコプターが回らなくなった大きな原因が、2年前に群馬県での事故で、代替機がいまだないということがあるようですね。上の引用の

>航空の大型ヘリコプターが墜落事故に見舞われた。

というのがそれですね。東邦航空は、もともと山岳遭難救助をやっていましたが、カリスマの篠原氏が事故で亡くなって撤退したりと、非常に危険ですよね。 (2019.08.09 23:18:20)

Re:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
Bill McCreary さん
余談です。今日知り合いの山女の女性に、この件をかいつまんで話したところ、それは困ると言っていました。私も、公費で輸送ヘリを出してもいいと思いますが、実現性があるかというとなさそうですから、やはり山小屋と利用者側が協力しないとなかなか打開できないでしょう。 (2019.08.09 23:20:37)

Re[1]:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
inti-sol  さん
甲斐駒ファンさん

地元の信濃毎日新聞に記事が出たのは知っていたのですが、東京新聞にも出ていましたか。

>遭難救助や登山道・水場の整備など、直接営利とは関わりのない公的な業務にも携わっています。かつての甲斐駒ヶ岳五合目小屋は、黒戸尾根の登山道の梯子などの整備にも携わっていましたが、それに対する自治体の姿勢は「金は出さずに口は出す」だったそうです。

そうなのですよね。「金は出さずに口は出す」の例は、おそらく甲斐駒ヶ岳五合目小屋だけではないはずです。
ところで、わたしは甲斐駒ケ岳は2回登っていますが、いずれも北沢峠からで、黒戸尾根を登ったことはまだありません。あれは、なかなか厳しそうですね。

尾瀬地域 9000円
南アルプス 8700円 (北岳肩の小屋)
北アルプス 10300円 (非繁忙期の燕山荘)

なるほど。わたしが山登りを始めた当初は、尾瀬は覚えていませんが、南アルプスは6500円、北アルプスは8000円だったように記憶しています。それがだんだん上がってはいますが、すべての荷物をヘリで荷揚げしていることに見合う額とはいえないかもしれません。でも、上げすぎるとお客さんが来なくなるだろうし、加減が難しいでしょうね。

個人的には、北アルプスの幕営料が、長らく1人1泊500円だったのが、3~4年前から1人1泊1000円になってしまったのが残念・・・・・でしたが、これも仕方がないでしょうね。
(2019.08.10 21:15:52)

Re[1]:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
inti-sol  さん
追記ですが、尾瀬は今もボッカが活躍していますか。実は、はじめて尾瀬に行った1991年には、ボッカの姿を見た記憶があるのです。あの荷物は印象的ですから。でも、2度目に行った2011年は、診た記憶がないのです。だから、今はどうかな、と思っていましたが、健在なのですね。
(2019.08.10 21:21:00)

Re[1]:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
inti-sol  さん
Bill McCrearyさん

そうなのですよね。直接的には、その事故の影響が大きかったようです。場所柄から言っても、高所の山小屋への輸送はリスクがあるでしょうし、他社が、他に収入源があればそんなものはやめたい、というのは、理屈では分からないこともありません。ただ、他社がみんな公共事業関連に仕事を絞る、というのは、それはそれでどうなの、とは思いますが。(高圧電線を敷くのも、実質的には公共事業に限りなく近い性質でしょうね。)

私も工費でヘリを出すべきだと思います。でも現実性ということを考えると、その意見が通る見通しが立たないことも確かなのです。

山小屋の宿泊料が上がるのは厳しい部分もありますが、現実的にはそこで吸収するしか見通しが立たないでしょうね。
(2019.08.10 21:25:28)

Re[2]:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
甲斐駒ファン さん
inti-solさんへ

 確かに、宿泊料金もかつてと比べるとだいぶ上がっていますが、ある程度の負担は受け入れたほうがよいですね。
 ちなみに甲斐駒ケ岳の黒戸尾根は長くて大変ですが、山麓の広葉樹林(標高1000mから上のブナ林がきれいです)、亜高山帯の針葉樹林、五合目から上の岩場、七合目から急激に開ける素晴らしい視界と、変化に富んだ素晴らしい道なのでぜひお訪ねください。ただし、夏は暑いので秋が良いです。また、麓から七合目まで一切宿泊施設はありません。その点、五合目小屋が無くなったのは痛いですね。
(2019.08.11 20:59:48)

Re[3]:登山ブームの影で進行する山小屋のヘリコプター危機(08/02)  
inti-sol  さん
甲斐駒ファンさん

わたしは2000年頃から怪我をした2017年まで、厳冬期を除くとほぼテントでしか山登りをしてこなかった(厳冬期の八ヶ岳と八方尾根だけが例外)のですが、怪我以降、体力の衰えもあって再び山小屋利用が増えつつあります。
テント山行と山小屋利用では一長一短はありますが、混雑する時期の山小屋の、1畳に2人で寝るとかは辛い反面、体力的な面と悪天候時の快適性は、山小屋のほうが圧倒的に上です。でも、テントの自由さは捨て難いんですけどね。
場所柄、ヘリですべての物資を輸送していることなどの条件を考えると、私も料金が上がることはやむを得ないとは感じますが、その反面「ならばテントで」とも思ってしまうんですよね。

黒戸尾根、多分行くとなったらテントだと思うのですが、あの標高差を夏でも15kg以上の荷物を担いで登るのは、今の私には相当きついかな、と。しかも、長いだけではなくて上の方はそれなりに峻険ですよね。相当の覚悟が要りますが、いつか歩いてみたい憧れのコースであることは確かです。 (2019.08.11 21:23:21)

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