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「家族・・」ユリウスの脳裏に、アフロディーテの先ほどの言葉がこびりついて離れない。“だって私達は家族なんだからv”確かに、アフロディーテとはある意味、「家族」だ。そしてルドルフとも。だがルドルフとアフロディーテは違う。ルドルフは人間を大切にする。たとえどんなに罵られても、裏切られても、ルドルフは人間を信じ、愛する。自分の空腹を満たすためだけの餌として人間を見ているアフロディーテとは違う。家族じゃない、アフロディーテとは。「君とは・・違うんだ!」リンの冷たくなった体を抱き締めながら、ユリウスはそう言って拳で地面を叩いた。「・・私と、一緒になるためだと・・?」その頃、ルドルフとヨハンは炎に包まれたジャングルの中で向かい合っていた。「ああ、そうだ。俺はお前のことが好きだった・・お前と出会った時からずっと・・」ヨハンはそう言って、ルドルフの手を握った。「お前となら、一緒に生きてゆけると信じていた。お前となら、オーストリアを救えると思っていた・・生涯の伴侶は、お前しかいないと思っていた。」「やめろ、大公。もうあの頃とは違う。ホーフブルクで過ごした幸せな日々は、全て過去。私はあの日から、全てを捨てた・・私は死んだ、マイヤーリンクで。」ルドルフはヨハンの手を振りほどき、サーベルを構えた。「・・お前はいつも、俺のものにはならないんだな・・」ヨハンはそう言ってフッと笑った。「私は、誰のものにもならない。」「・・そうか。」紅蓮の夜空に、激しい剣戟の音が響き渡った。(ルドルフ様!)剣戟の音を聞きつけたユリウスがジャングルへと向かうと、そこにはサーベルで戦うルドルフと・・「ヨハン・・大公様・・?」彼はずっと昔に死んだはずだ。なのに何故、ここにいる・・?「なかなかやるな。その様子じゃぁ、ホーフブルクやプラハにいた頃よりも毎日稽古を欠かしてないようだな?」「自分の身くらい、自分で守らないとな。」「よく言うぜっ!」ルドルフとヨハンは、刃を交えながら笑い合った。ルドルフの刃とヨハンの刃が、それぞれの首筋に当たった。「大公もあの頃とは随分、腕が上がったようだな?」ルドルフはそう言ってサーベルを下ろした。「俺はお前の盾となる男だぜ?」「よく言う・・」ルドルフがそう言って笑おうとすると、激しい眩暈が彼を襲った。「ルドルフ様!」ユリウスが慌ててルドルフを抱き留めた。「よう、久しぶりだな。」ヨハンはユリウスを見て笑った。「お久しぶりです、ヨハン様。何故あなたがここに・・あなたはもうお亡くなりになったはず・・」「その話は長くなるぜ。」その時、ジャングルに一機のヘリが飛んできて、ヨハンとユリウスの前に着陸した。「ここに長居すると危険だぜ。それにルドルフが怪我してるしな。」「ええ、そうですね・・」ユリウスとヨハンを乗せたヘリは、ゆっくりと離陸した。「う・・」腕の中でかすかに呻いて身じろぎしたルドルフを、ユリウスはしっかりと抱き締めた。「私はここにおりますよ。」ユリウスはルドルフの額にキスをした。-第9章・完-
2008年01月11日
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「アフロディーテ、どうしてここに?」ユリウスはそう言ってアフロディーテを見た。「決まってるじゃないv兄様とお前に会うためよv」アフロディーテはリンを地面へと放り投げた。「リン!」ユリウスはリンの方へと駆け寄った。「リン、しっかりして、リン!」だがリンの体は冷たくなっていた。「君が・・リンを殺したのか・・?」ユリウスはそう言って、アフロディーテを睨んだ。「デザートにその子の血を飲んだだけよvそんな怖い顔して睨まないでよ。」アフロディーテは犬歯を覗かせながら言った。「人間の子1人相手にそんなに怒ることないでしょ?ユリウスだって人間の血を吸うじゃない?」「・・私は、君とは違う!それに人間は君のおもちゃじゃない!」ユリウスはリンの遺体を抱き締めながら言った。「いいえ、同じv」アフロディーテはユリウスの首を絞めた。「人間なんて所詮、私達を恐れるか、利用するだけの下劣な獣よ。そんな奴らと仲良くなって、愛情をかけてどうするの?結局私達は人間に裏切られるだけなのにぃ。」アフロディーテの言葉を聞いて、ユリウスの脳裏にいままで自分達の正体を知って嫌悪と畏怖の表情を浮かべる人間達の顔が浮かんだ。「ユリウス、お前をわかってくれるのは私達だけなのよ。わたしと、オルフェレウス達だけよ。私達は決してお前を裏切らないわ。だって私達は、家族だものv」アフロディーテはそう言ってユリウスにキスした。「じゃあねユリウス、また会いましょうv」返り血が付いたドレスの裾を翻しながら、アフロディーテは闇の中へと消えていった。
2008年01月11日
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「なんて綺麗なのかしらv」炎に包まれたジャングルを上空から見下ろしながら、アフロディーテは笑った。「ここに、兄様がいるのよね、オルフェレウス?」アフロディーテはそう言って、オルフェレウスを見た。「はい。そしてあなたの食糧も。」「ねぇ、あいつはもう兄様に会ってるかしら?私が南米で助けた男。」アフロディーテの脳裏に、黒髪の男の姿が浮かんだ。南米で難破船から救い出し、自分の従者にした男。あの時は誰だかわからなかったが、しばらくしてホーフブルクで兄を何かと支えていたヨハン大公だとわかった。「・・皮肉なものよね、昔は兄様の物だったあいつが、今はわたしの物だものv」アフロディーテはそう言って笑った。「全て準備が整いました、アフロディーテ。楽しいひとときをお過ごしください。」アフロディーテを乗せたヘリコプターは村はずれに着陸し、オルフェレウスとカエサルは恭しくアフロディーテの手を取った。「やっと兄様に会えるのよね、楽しみだわ~v」「アフロディーテ、これを。」カエサルはアフロディーテにマシンガンを手渡した。「ありがとう、カエサル。」アフロディーテは村へと入ると、村人を無差別に撃った。「あはははっ、楽し~いv」身に纏った真珠色のドレスを村人達の返り血で染めながら、アフロディーテは笑った。「きゃぁぁっ!」逃げまどう女性や子ども達を、アフロディーテは容赦なく撃った。そして彼らの血を吸った。アフロディーテは全身村人達の返り血を浴びていた。輝くようなブロンドの髪や、象牙のような白い肌に返り血が飛び散り、真珠色のドレスには不気味な赤い水玉模様が出来ていた。「おなかいっぱいだわ。」そう言ってアフロディーテは笑った。その時、アフロディーテの背後で何かが動いた。リンは、友達や家族を目の前で殺され、必死に逃げていた。そして安全な茂みの中へと隠れ、敵がいなくなるまで息を潜めていた。辺りが静寂に包まれ、リンは茂みから出た。「見ぃつけたぁ~v」目の前にブロンドの髪をなびかせた美しい少女が立っていた。「お前とっても美味しそうv」そう言って少女はリンにマシンガンの銃口を向けた。幼いリンの体はたちまち蜂の巣だらけとなった。(お兄ちゃん・・助けて・・)ルドルフの笑顔を思い出しながら、リンはゆっくりと地面に倒れた。「おいしかった。」食事を終えたアフロディーテは、上機嫌であの歌を歌い始めた。「リン、どこに行ったんだい、リンー!」ユリウスは燃えさかる村でリンを探していた。村には村人達の死体が転がっていた。「リンー!」ユリウスは村外れにあるジャングルへと向かおうとした。その時“あの歌”が聞こえた。歌が聞こえる方へとユリウスが向かうと、そこにはリンの血を吸うアフロディーテの姿があった。「リン・・」「ユリウス、久しぶりv」アフロディーテはそう言って犬歯をむき出しにして笑った。あとがきアフロディーテを登場させてみました。グロイシーンでごめんなさい・・。アフロディーテはルド様とは違い、人間は自分の空腹を満たすためだけの食糧としか考えていませんから。ヨハンも出してみました。登場人物の欄に書いておきながら、出番が全くなかったので・・。
2008年01月11日
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サングラス男は、マシンガンで無抵抗の村人達を撃っていった。男達から逃げようとする者は皆、サングラス男のマシンガンの餌食となった。「この村ひとつ全滅させるのに、10分もかからないな。」サングラス男はそう言って口端を上げて笑った。煙の中から、“標的”が姿を現した。「・・やっと見つけた・・」サングラス男は“標的”を見た。「ユリウス、お前は下がっていろ。」ルドルフはサーベルを握り締めた。「ですが・・」「ここは私1人で充分だから。」ルドルフはそう言ってユリウスに微笑んだ。「わかりました。」ユリウスはルドルフの唇をふさいで、燃え盛る村へと向かった。「お前の相手は私1人で充分だ。」ルドルフはサーベルを構え、サングラス男を睨んだ。「怪我をした利き腕で私を倒せるとでも?甘いわっ!」サングラス男はそう言って銃剣を握ってルドルフに突進した。「くっ!」慣れない左腕にサーベルを持って振りながら、ルドルフは男と間合いを取った。ルドルフの刃はサングラス男の頬を切った。その拍子にサングラスが地面に落ち、男の素顔が明らかになった。「お前は・・」ルドルフはそう言って、男を見て目を丸くした。「久しぶりだな、ルドルフ。」サングラス男―ヨハン=サルヴァトールは親友を見て微笑んだ。「どうしてお前がここに・・お前はもう死んだはずっ・・」「お前のために、血を飲んだんだ。お前の弟の血を。」「アフロディーテの・・血を・・」ルドルフはヨハンの右手首の刺青を見た。「お前と一緒になるために、俺はあいつの従者になったんだ。」ヨハンはそう言って、ルドルフの唇をふさいだ。
2008年01月11日
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ユリウスは鉈を構えて、サングラス男を睨み、地面を蹴った。「やぁぁっ!」ユリウスは下段からサングラス男に斬りかかった。「甘いわ!」サングラス男がそう言って銃剣でユリウスの胴を払った。白いシャツが破け、ユリウスの腹部から血が噴き出す。「こんな得物で俺と戦おうなど、笑止千万。」「くっ・・」ユリウスはサングラス男の隙を突き、男の腕を傷つけた。「こんなの、掠り傷にもならん。」サングラス男はニヤリと笑って、銃剣を振り回した。男の攻撃を受け、ユリウスは首、脇腹、両腕に深い傷を負った。「ふん、他愛もない。」男はユリウスの髪を掴み、ニヤリと笑った。「5分後この村はジャングルとともに紅蓮の炎に包まれる。お前たちの愛する者が、炎に包まれて死んでいくのを見るがいい・・」男はそう言って、ユリウスの脇腹を蹴って村を後にした。「こちらA部隊、現在目標地にいる。すぐに空爆を開始してくれ。」ユリウスは地面に蹲りながら、ジャングルが炎に包まれるのをなすすべもなく見ていた。炎に包まれた教会から、ルドルフは飛び出した。「ユリウス、ユリウス~!」ルドルフは必死にユリウスの姿を探した。「ルドルフ様・・」ユリウスは酷い傷を負って地面に蹲っていた。「大丈夫か、ユリウス!」「大丈夫・・です・・」ルドルフはユリウスの腕を自分の肩に回した。「立てるか?」「はい・・」「すまない、私のせいで、こんな・・」「ご自分を責めないでください・・」2人は紅蓮の炎の中、村を歩いた。村の家々を包んでいる紅蓮の炎が、不気味に夜の闇を禍々しく照らしていた。
2008年01月11日
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「なかなかやるな・・」パウロはそう言ってルドルフを見た。彼が放った銃弾はルドルフの利き腕を貫通していた。「くっ・・」サーベルが派手な音を立てて教会の床に転がった。「利き腕がやられたのだから、お前にはここで死ね。」パウロは銃口をルドルフに向けた。「殺せるものなら、殺してみろ。」ルドルフは血のような真紅の瞳でパウロを睨んだ。パウロはしばらく考え込んだ後、銃を下ろした。「彼にお前を殺してもらおう。」パウロはそう言って拳銃を1人の青年に渡した。「お前は・・」青年はルドルフに熱を上げていた、ヤンだった。「さぁヤン、これであなたの恋を終わらせるのです。」パウロはヤンの肩を叩いた。ヤンは静かに頷いて、ルドルフに銃口を向けた。「神父様、できません・・僕はこの人を、殺すことができません!」「何を言うのです、ヤン。殺しなさい!」「うわぁぁっ!」また教会に一発、銃声が響いた。「ヤン、どうして・・」胸に紅い華を散らせながら、パウロはゆっくりと床に倒れた。ヤンはルドルフに微笑んで、自分のこめかみに銃口をあて、引き金を引いた。床に倒れたヤンは、涙を流していた。その頃、ユリウスはサングラス男と睨み合っていた。「お前はあいつの連れ合いか。来るがいい。」「望むところだっ!」ユリウスはそう言って地面に落ちていた鉈を拾い上げ、構えた。サングラス男は銃剣を構えて口端を挙げて笑った。2人は同時に地面を蹴った。
2008年01月11日
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ルドルフは少年の胸を刺し貫いた。少年は血を吐いた。ルドルフは少年の首筋に歯を立てた。「化け物ぉぉ!」少年の母親はそう言って悲鳴を上げた。ルドルフはサーベルを構え、村人達に手をかけた。米兵もマシンガンで村人達を撃った。親睦のためのパーティー会場は、一瞬にして虐殺現場となった。「ん・・」ユリウスが目をゆっくりと開けると、目の前に広がっているのは血の海だった。「ルドルフ様・・」ユリウスはルドルフの姿を探した。「標的の居場所はまだ掴めないのか?」サングラス男は、そう言って部下を見た。「まだ見つかりません。」「1時間以内に仕留めろ。」ルドルフは村のほうへと向かった。教会の扉を蹴破ると、神に祈りを捧げていた1人の司祭が立ち上がってルドルフを見た。「やっと姿を現したか。」司祭の手には、拳銃が握られていた。「ルドルフ様、一体どこに・・」ユリウスが村の方へと必死に走っていると、マシンガンの銃弾が彼に浴びせられた。「ルドルフ様・・」その頃教会内では、ルドルフと司祭が睨み合っていた。「死ね!」教会に、一発の銃声が響いた。
2008年01月11日
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「ルドルフ様!」ユリウスは銃弾を受けたルドルフのほうへと駆け寄った。「う・・」ルドルフは低く呻いて、立ち上がった。先ほどマシンガンに撃たれた背中や腕の傷は、あっという間に再生していき、完全に塞がった。「リン、大丈夫か?ケガは・・」「近寄らないで、化け物!」リンは恐怖に怯えた表情を浮かばせながら、ルドルフから逃げて行った。「リン・・」ルドルフは走り去って行く少女の背中を呆然と見ていた。「化け物!」「この村から出て行け!」「悪魔め!」ルドルフに罵倒の嵐と石が飛んでくる。「ルドルフ様・・」ユリウスはルドルフを助けようとしたが、村の男達に押さえつけられて身動きができない。「悪魔を処刑するところを、お前に見てもらう。」村の男がそう言ってユリウスを見た。「彼は悪魔なんかじゃない!彼は人間だ!」「黙れ!」村の男がユリウスの後頭部を殴った。「う・・」(ルドルフ様・・)ルドルフは村人達の罵倒の嵐に必死に耐えていた。「私は化け物なんかじゃない、私は化け物なんかじゃ・・」両手で耳を塞ぎ、心無い声を頭から追い出そうとした。だが彼の脳裏には何度も、自分に憎しみと怒りの目で睨み、石を投げつけてくる人間達の姿が浮かんだ。「死ね、化け物!」村人の少年が、ルドルフに向かって石を投げた。それはルドルフの額に当たり、地面に血が飛び散った。ルドルフはゆっくりと立ち上がった。その瞳は、血のように真っ赤だった。
2008年01月11日
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「お兄ちゃん達は、どこから来たの?」リンは好奇心に目を輝かせながら言った。「私たちはパリから来たんだよ。」「フランスから来たの?いいなぁ、あたし一度パリに行ってみたい!」「私たちが生まれたところはウィーンだ。綺麗で活気のある音楽の街だから、きっと君も気に入ると思うよ。」ルドルフはそう言ってリンに微笑んだ。「いいなぁ、行きたいなぁ・・でも、今は村から一歩も出してもらえないの。危ないからって・・」それまで明るい笑顔を見せていたリンの顔が曇った。「リン・・」今ベトナムは戦火に包まれており、日に日に戦況が悪化しつつあった。「戦争が終わったら、お兄ちゃんたちの生まれたところ、行ってみたいな・・」「連れていってあげるよ。」ユリウスはそう言ってリンの頬を伝う涙をレースのハンカチで拭った。「連れて行ってね、約束よ!」「約束するよ。」ユリウスはリンの小指に自分の小指を絡めた。そのとき、後方から人々の悲鳴と爆発音が聞こえた。「なんだ、これは・・」ルドルフとユリウスが振り返ると、そこには木っ端微塵となったパーティー会場と、米兵の手によって惨殺された村人達の死体が転がっていた。「標的を発見した。」サングラスをかけた背の高い男がそう言ってルドルフを見て口端を上げた。「ユリウス、リンを安全な所へ。」ルドルフはそう言って背中に背負っていた愛刀のサーベルを抜いた。リンは安全な場所へと避難しようとするユリウスの手を振り払い、両親の姿を探した。「父さん、母さん!」リンの両親は無事だった。「友達ができたのよ。」そう言ってリンが後ろを向いた時、サングラス男が彼女に銃口を向けた。「危ない!」「お・・兄・・ちゃん・・?」リンの目の前で、マシンガンの銃弾を受けたルドルフがゆっくりと地面に倒れた。
2008年01月11日
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特殊部隊を乗せたジープは村の数メートル手前で停まった。「これから作戦を実行する。」サングラス男はそう言って部下達を見た。「標的を見つけ次第抹殺し、村人を全員殺害せよ。」「了解。」それから彼らは漆黒の闇に紛れてパーティー会場へと向かった。その頃会場では、ルドルフと村人達は睨み合っていた。「・・どうやら私達は歓迎されていないようだな?」ルドルフはそう言ってユリウスの手を掴んで広場を出ようとした。だがユリウスがルドルフの手を広場の中央へと引っ張った。「すぐに決めつけてはなりません。彼らとは初対面なので、皆緊張してるだけです。」ルドルフは鼻を鳴らし、ユリウスにそっぽを向いた。「お兄ちゃん、だぁれ?」その時1人の少女がルドルフに話しかけた。「村はずれの邸から来た、ルドルフだ。」ルドルフは無愛想に挨拶をした。「あたしはリン。仲良くしようね、お兄ちゃんv」少女は右手をルドルフの方へと差し出した。ルドルフは照れくさそうに少女の手を握った。その時、険悪な雰囲気が一変して和やかなものとなった。ルドルフとユリウスは数分もしないうちに村人達とすっかり打ち解け、ルドルフは長い間忘れていた笑顔を浮かべていた。作り笑いなどではなく、本当の笑顔を。それは長い間、ルドルフが忘れていた心からの笑顔だった。
2008年01月11日
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ルドルフとユリウスは邸を出て、村へと続く一本道を歩いていった。「パーティーなんて久しぶりだな。ウィーンにいた頃は嫌になるほど出てたのに。」「そうですね。」ユリウスはそう言ってルドルフの手を握った。「あのパウロとかいう司祭、なんだか怪しいな。」「そうでしょうか?彼はいい人だと私は思うんですが。」ルドルフは夜空に浮かぶ夏の星を見上げていた。「・・イシュルにいたときも、同じ空だったな。」「そうですね。」しばらく歩くと、2人はパーティー会場である村の広場に着いた。パーティーは盛況で、テーブルにはおいしそうな料理が並んでいる。パウロは信者と話しながら、ルドルフとユリウスの姿を見つけた。「ようこそ、パーティーへ。」その声で、村人達が一斉にルドルフ達の方を見た。ルドルフは蒼い瞳で、村人達を冷たく見ていた。村人達は突然やってきた余所者に対して冷たい視線を投げた。その頃ジャングルの中を1台のジープが駆け抜けていた。ハノイに到着した米国の特殊部隊だ。「目的地まではあともう少しだ。このジャングルを抜けたらすぐだ。」サングラス男がそう言って部下達を見た。「村では広場でパーティーが開かれているとか・・」「そうか。なら我々が最高のパーティーにしてやろう。」サングラス男は1枚の書類を取り出した。そこにはルドルフの写真と、ローマ法王直筆のサインが、文末に書かれていた。書類にはこう書かれてあった。―ベトナムに潜伏している危険生物を抹殺せよ。標的を見つければ直ちに抹殺する。そして村人達も1人残らず皆殺しにするつもりだ。そのために彼は精鋭部隊を引き連れて村へ向かっているのだ。
2008年01月11日
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ルドルフ達がこの村に来てから半年が過ぎた。「どなたかいらっしゃいませんか?」ルドルフは気だるそうにベッドから起き上がり、玄関ポーチへと向かった。またあの青年だろうか?「誰だ?」ドアを開けると、そこにはあの青年ではなく、村の司祭が立っていた。「初めまして。私はパウロと申します。」そう言って司祭は、ルドルフに微笑んだ。「今夜村の教会でパーティーがありますので、是非来ていただきたいのです。」ルドルフは一瞬考え込むと、パーティーに来ることをパウロに伝えて、ドアを閉めて再び寝室に入った。「ただいま帰りました。」買い物袋を抱えたユリウスがそう言って寝室へと入ると、そこには身支度をしているルドルフの姿があった。「どちらへ行かれるんですか?」「パーティーだ。パウロとかいう村の司祭に誘われてな。お前はいままでどこに行っていた?」「・・ちょっと街で買い物をしました。」ユリウスはそう言ってルドルフに長方形の箱を見せた。ルドルフが中を開けると、そこにはブルーのアオザイが入っていた。「あなた様に、似合うと思いまして・・」「着るとしよう。」ルドルフはアオザイに袖を通した。「よくお似合いですよ。」「そうか・・ありがとう、ユリウス。」ルドルフはそう言ってユリウスの頬にキスをした。「本当ですか?彼が今夜広場に来るって?」「ええ。」「そうですか・・」ヤンの目が不気味な光を放った。
2008年01月11日
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「・・書けた。」ヤンはそう言って、目の前に広げた便箋を見た。そこには、彼への想いが綴られている。いままで一度も、他人に向けてラブレターを書いたことなどなかった。だが彼のことを想うとペンを走らせる手が自然と動き、時間を忘れてしまった。あとは彼に渡すだけだ。「母さん、出かけてくるよ。」ヤンは便箋を封筒に大事にしまい、村はずれの邸へと向かった。「すいません、誰かいらっしゃいませんか?」ヤンは邸のドアを叩きながら言った。するとドアが開き、ヤンの想い人が姿を現した。「何か用か?」冷たい声で、想い人は言った。「あの・・これを・・」ヤンはそう言って想い人にラブレターを渡した。想い人をひったくるように受け取り、封筒の封を切ってヤンが徹夜して書いたラブレターを読み終わると、それを引き千切った。「二度と来るな。」ヤンの鼻先で彼の想い人はドアを閉めた。ヤンはバラバラとなったラブレターを呆然とした様子で見つめた。紙くずとなったラブレターを拾い上げ、ヤンは涙を流しながら村へと戻った。その瞬間、ヤンの心から淡い恋心を捨て、激しく強い憎しみを“彼”へと抱いた。(許さない・・絶対に!)「・・どうやら、作戦はうまくいったようですね・・」木陰から一部始終を見ていたパウロがそう言ってほくそ笑んだ。
2008年01月11日
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翌日、パウロは教会でヤンに話しかけた。「ヤン、あなたと話がしたいのですが、よろしいですか?」「いいですけれど・・」ヤンはそう言って怪訝そうな顔をした。教会の中庭で、パウロはヤンを見た。「あなたは村はずれに邸に住んでいる彼に想いを寄せていますね?」「はい・・」ヤンは頬を赤く染めながら答えた。「あなたの恋を、私が助けてさしあげましょう。」「本当ですか!?」そう言ってヤンは顔を明るくした。「私に任せてください。」「ありがとうございます、司祭様!」ヤンはパウロに抱きついた。純粋なヤンは、パウロの偽りの笑顔にすっかり騙された。パウロはほくそ笑んだ。残酷な作戦は、こうして始まった。「ラブレターを書きなさい。あなたの気持ちを、彼に伝えるのです。」「わかりましたっ!」元気よく村へと走り去っていくヤンの背中を、パウロはほくそ笑んで見た。「馬鹿な人ですね・・」パウロはフッと笑って教会の中へと戻っていった。同じ頃米軍の特殊部隊が、ハノイに到着した。「隊長、目的地は?」隊員の1人がそう言ってサングラスをかけた長身の男に話しかけた。「ここだ。」男が指し示した位置は、ルドルフ達がいる村だった。
2008年01月11日
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「どうぞ、お入りください。」ユリウスはそう言ってドアを開き、パウロを邸の中へと招きいれた。「わざわざ司祭様がこちらにいらっしゃるなんて光栄です。」「あなた方のことが気になりまして、今日こちらに伺ったまでです。話によるとこちらには、病人がいらっしゃるとか?」パウロはユリウスを見て彼の反応を待った。「ええ、血液の病気を患っておりまして・・彼がこの邸の主なのですが、最近体調が悪い日が多くて・・」ユリウスはパウロの問いに平然とした様子で答えた。「・・そうですか。」それからパウロはユリウスから夕食を振舞われ、帰路に着いた。「どうでしたか、標的は?」そう言ってパウロに近寄ってきたのは、パウロの弟でヴァチカンから派遣されたジェロニモだ。「血液の病気とかいって上手く周囲に誤魔化しています。彼はどうやら私たちよりも1枚も2枚も上手のようです。」「・・では、長期戦となるのですね?」「ええ、そうなりますね。これから作戦を立てなくては。」その夜、ジェロニモとパウロ、そしてヴァチカンから派遣された同僚達は、ルドルフとユリウスをどう仕留めるかを話し合った。「吸血鬼は胸に杭を打ってしまえばよいのです。銀の銃弾や剣も効くでしょう。」司祭の1人の発言に耳を傾けていたパウロの顔が曇った。「・・それはどうでしょうか?彼は他の吸血鬼とは違います。吸血鬼の始祖とも呼ばれる存在なのですよ?」「ではどうすれば?」「・・村のヤンという名の青年を使いましょう。あの子は彼のことが好きです。あの子の恋心を利用して・・」「それは、いい考えですね。」かくしてパウロ達の残酷な作戦が始まろうとしていた。
2008年01月11日
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「どうしてあなたがここに・・ヴェネチアで死んだはずじゃ・・」ジュリオはそう言って“素敵な人”―ソロモンを見て呟いた。「兄さんに、助けてもらったんです。」「兄さん?」「話せば、長くなります。」ソロモンはそう言って椅子に座った。「あの方は、今どこにいるんですか?」「ママは、ハノイにいるよ。正確に言うと、ハノイ近郊の村だけどね。」ジュリオはソロモンの分のチキンを取り分けながら言った。「そうですか・・」ソロモンはため息をついて山盛りのフレンチフライを見た。「僕が告白しようとすると、あの人はいつもいなくなってしまう・・」「ひとつ、質問してもいいですか?あなたはどうして、僕達の前に姿を現したんですか?」ソロモンのトルマリンの瞳がかすかに揺らいだ。「・・それは、今日僕の決意をお話するために来たからです。」「決意?」ソロモンはチキンを一口かじった。「・・僕は、一生あの人を守ります。そのためなら、僕は世界中を敵に回しても構わない。」ソロモンの言葉を聞いて、ジュリオはうつむいた。「それじゃあ、あなたを助けてくれた人たちとはどうなるの?」「袂を分かつことになるでしょう、完全に。ですが僕はそんなことは恐れません。」「そう・・」ジュリオはフレンチフライを焼くために、キッチンへと向かった。その頃南国の村では、ユリウスが夕食を作っていた。「どなたかいらっしゃいませんかぁ~?」オーブンの火を止めて外に出ると、村の司祭がユリウスを見た。「どなたですか?」ユリウスの声に司祭が振り向いた。「初めまして、私はヴァチカンから派遣されてこの村にやって来たパウロと申します。以後お見知りおきを。」
2008年01月11日
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ユリウス達がベトナムの村で悠々自適に過ごしている頃、パリではサリエルとジュリオが夕食を作っていた。「ママたち、元気にしてるかな~?」「大丈夫だろう、あの2人なら。」サリエルはチキンを焼きながら言った。「そうだよね、百戦錬磨の2人ならね。」ジュリオは食卓にバゲットを置いた。「それにしてもヴィクトリアは遅いな・・一体どこで何を・・」「ただいま!」ヴィクトリアはそう言って通学カバンをソファへと投げた。「お行儀が悪いよ、ヴィクトリア。」ジュリオはヴィクトリアを睨んだ。「ごめんなさい、ママ。」ヴィクトリアは俯いた。「二度とそんな乱暴なことしないで、わかった?」「わかったわ・・あのねママ、今日素敵な人を連れて来たのよv」「素敵な人?誰?」「入ってv」ドアが開き、“素敵な人”が部屋に入ってきた。「あなたは・・」ジュリオは“素敵な人”を見て絶句した。「お久しぶり。」そう言って“素敵な人”は、ジュリオに微笑んだ。
2008年01月11日
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「標的は村はずれの邸に住んでいるようです。」ヤンの告解を受けた司祭―パウロはそう言って仲間の司祭を見た。「そうですか・・では標的をすぐに抹殺しましょう。」「早まってはいけません、ペドロ。まずは敵と仲良くなることです。」パウロはそう言って口端を上げた。翌日、パウロは村はずれの邸へと向かった。「どなたかいらっしゃいませんか?」朝靄の中でパウロは声を張り上げた。だが邸の中からは声どころか、人の気配すらしない。「・・出直すしかなさそうですね。」パウロはため息をついて村へと戻っていった。「で、どうでしたか?標的は姿を現しましたか?」「いいえ。でもまだ諦めるわけにはいきません。」パウロはそう言ってベッドに入った。
2008年01月11日
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「こんにちは~!」ポーチで元気な青年の声が響いた。彼は先ほど司祭に告解をしていた者であった。「おはよう、ヤン。いつもありがとう。」ユリウスはそう言って青年に微笑んだ。「いいえ、とんでもない!あなた方のお陰で村が豊かになったんですから、これくらいしませんと。」青年―ヤンはユリウスに新鮮な卵が入った籠を渡した。「あの・・今日はあの人は?」「ルドルフ様かい?今日はなんだか気分悪いらしくて寝てるよ・・」「そう・・ですか・・」ヤンは俯いて自転車で村へと帰っていった。彼はルドルフに密やかな恋心を抱いていた。ルドルフがこの村にやって来たのは数ヶ月前。村はずれにある荒れ果てた邸にヨーロッパから来た2人の男が買い取ることとなり、ヤンは彼らの引越しの手伝いに駆り出された。そこで、“彼”と出会った。南国の太陽の下で輝くブロンドの髪と、陶磁器のような肌理の細かい白い肌。そして青空をそのまま写し取ったかのような蒼い瞳。ヤンは一瞬、“彼”に恋をした。それ以来、邸の修繕作業のたびに来ては、“彼”の姿を生垣越しに見てはため息をついた。ヤンはやがて、“彼”を想うあまり、夜も眠れなくなってしまった。最近“彼”は、村に姿を現さなくなった。村人達は“彼”が悪魔なのではないかと噂していた。ヤンは“彼”が悪魔ではなく、天上から遣わされた天使なのだと思い込んでいた。この村を救ってくれた天使だと。
2008年01月11日
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1965年、ベトナム。ハノイ近郊の村で、ユリウスとルドルフは迫り来る戦火を感じながらも暮らしていた。「ルドルフ様、お体のお加減はいかがですか?」「ああ。それよりもお前は大丈夫か?私が思いっきり血を吸ってしまったから・・」ルドルフはそう言ってユリウスの首筋に巻かれた包帯を見た。3日前、ルドルフは目覚め、ユリウスの血を大量に吸った。ユリウスはさきほど昏睡状態から意識を回復したばかりだった。始祖魔族の血を授かった人間の従者は、始祖魔族の覚醒期による吸血行為により度々命を落とすことがある、とオイゲンのノートには記されてあった。(私がいつか、ユリウスを殺してしまうかもしれない・・)人間と同じような食べ物を食べているが、始祖魔族にとっての最大の食料は人間の血と、従者の血だ。もし自分のせいでユリウスが死んでしまったら・・ルドルフは最近そんな不安で胸がざわつく日が増えた。「ルドルフ様、お顔の色が悪いですよ?」「・・なんでもない。」その頃、村にある教会では、村人達が静かに祈りを捧げていた。祭壇の近くにある告解室では、ヴァチカンから派遣された司祭が村人達の祈りを見ていた。しばらくすると、告解室に1人の青年が入ってきた。「あなたの罪を告白なさい。」「私は・・1人の人を好きになってしまいました・・彼のことが頭から離れません。輝くようなブロンドの髪、陶磁器のような白い肌、そして何よりも空のような蒼く澄んだ瞳・・」「祈りなさい。主はあなたを許してくださいます。」「はい・・」青年は司祭の目が格子越しから一瞬光ったことに全く気づかなかった。「・・厄介なことになりましたね。」司祭はそう言ってため息をついた。
2008年01月11日
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皆様、新年明けましておめでとうございます。昨年4月にこのブログを立ち上げ、つたない小説をアップして参りました。今年は年をまたいで『月光花』を更新してゆく予定です。そして色々な作品をアップしてゆきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。2008年元旦 千菊丸
2008年01月01日
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