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「貴方達こそ、何故ここに居るのですか?」「僕達は薄井さんに拉致されてここに連れて来られたんです。」「薄井?聞いた事がない名ですね。」「彼の目的はわかりませんが、余り彼を信用しない方がよさそうです。」「おやおや、こうして見ると双子の姉妹のようだ。」 神経を逆撫でするような声が聞こえ、千達が背後を振り向くと、そこには燕尾服姿の薄井が立っていた。「薄井というのは、この男の事ですか?」「はい。」「どうやら、わたしは歓迎されていないようだ。」 薄井はそう言うと、両肩を竦めた。「ここでパーティーが開かれるなんて聞いていませんでした。」「それはそうだろう。わたしがわざと君達に教えなかったのだから。あぁそうだ、君達に会わせたい人がいるんだ。」「会わせたい人?」 サラサラと衣擦れの音が聞こえたかと思うと、胸元にアメジストの首飾りを煌めかせた鈴江が千達の前に現れた。「鈴江さん、どうして・・」「貴方がここに居るのかって?」 鈴江はそう言って笑うと、拳銃を千達に向けた。「お前達が憎いから、彼に協力した。それだけの事さ。」 千尋は暖炉の近くに置いてあった火掻き棒を掴むと、それで鈴江の手を打った。 鈴江の手から離れた拳銃は、空しく床に転がった。『一体何の騒ぎだね?』 扉が開き、マッケンジー大尉とアーノルドが睨み合っている千達の方を見た。『いえ、何でもありません。』『君達の間に何があったのかは知らないが、こちらを巻き込まないでくれよ。』『承知致しました。』 二人が部屋から出ていくと、薄井は軽く舌打ちして二人の後を追った。『そろそろお時間です。皆様、どうぞこちらへ。』 メイド達に案内され、パーティー会場となる部屋に入った千達は、そこに意外な人物の姿を見つけ、千は思わず大声で彼の名を叫んでしまった。「坂本さん、どうして貴方がここに!?」「おぉ、急に別嬪が現れたと思うたらおんしらか!」 そう言った龍馬は、千達に向かって屈託のない笑みを浮かべた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月31日
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『どうぞ、こちらへお入りください。』 メイドによって案内されて千尋が入った部屋には、女性が使っていたと思われる鏡台や天蓋つきの寝台などがあった。『さぁ、すぐにお召し替えをなさいませ。』『わかりました。』 寝台の上に置かれている肌着へと千尋が手を伸ばすと、彼はメイドと視線が合い、思わず俯いてしまった。『暫く外でお待ちしております。』 千尋が身につけていた着物と袴を脱ぎ、用意された肌着に着替えた後、控え目なノックの音から外から聞こえた。『もう、入ってもよろしいでしょうか?』『はい、どうぞ。』 メイドが再度部屋に入って来たかと思うと、彼女はクローゼットの中からドレスを取り出した。『コルセットを締めますので、寝台の柱に掴まってください。』『はい、わかりました。』 メイドにコルセットを締められた千尋は、苦しさの余り思わず呻いた。『我慢なさってください。』『これからどうするのですか?』『わたくしはアーノルド様から貴方の身支度を手伝うよう言われただけです。』 千尋の身支度を手伝っている間、メイドは彼に対して事務的な態度を取り、それを崩さなかった。『あの、貴方はアーノルドさんと親しいのですか?』『申し訳ありませんが、個人的な事はお教えできません。』 千尋の髪をブラッシングで梳きながら、メイドはそう言って彼の髪を梳く手を止めなかった。 一方、千と総司が居る船室にも、数人のメイドが入って来た。『失礼致します。間もなくパーティーが始まりますので、お召し替えのお手伝いをわたくし達が致します。』『パーティーですか?そのような事は一切聞いていませんが・・』『早くお支度を!』 千達は訳がわからぬまま、メイド達によってドレスに着替えさせられた。「一体何があるんでしょう?」「さぁ・・」 慣れないドレスの裾を踏まないように千は歩きながら総司とそんな事を話し合っていると、金髪碧眼の少女が二人の目の前に現れた。「荻野さん、どうして貴方がここに?」「それはこちらのセリフです。」そう言った千尋は、何処か不機嫌そうな顔をしていた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月31日
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『これに乗れ。』 大男に銃を突き付けられ、千尋は用意された馬車に彼らと共に乗り込んだ。『これから何処に行くのですか?』『それはお前には関係ねぇ。』大男はそう言うと、仲間の男に目配せした。 仲間の男は千尋に目隠しをすると、馬車を動かすように馬車の天井を長剣の柄で突いて御者に合図した。 暫く馬車は走ると、何処かの前で止まった。『気を付けて進めよ。』 大男達に連れられ、千尋はどこかの階段を降りた。『もう外してやれ。』 壁伝いに何処かの部屋に千尋が入ると、大男の仲間の一人が千尋の目隠しを外した。 するとそこには、見知らぬ男が自分の前に座っていた。『この子が、エミリーの子供か?』『はい、ボス。』『お前達は下がれ。わたしはこの子と話したいことがある。』『はい。』 大男達が部屋から出て行った後、千尋の向かいに座る男は、時折あごひげをもてあそびながら紅茶を飲んだ。『君はエミリー=レイノルズの子か?』『はい、そうですが・・貴方は一体どなたですか?』『自己紹介が遅れたね。わたしはアーノルド=ブランシェット、君の遠縁の伯父にあたる者だ。』『何故、貴方がわたくしの存在を知ったのですか?』『それは、君の母方の祖父が遺した遺言状が先月公開されてね。そこには、自分の財産の半分を君に相続させると書いてあった。』そう言ったアーノルドは、少し疎ましそうな目で千尋を見た。『わたくしを、殺すおつもりですか?』『そんな事はしない。ただ君に一目会って、話をしてみたかっただけだ。』『そうですか。』 千尋とアーノルドが互いに黙り込んでいると、外からノックの音が聞こえた。『入りたまえ。』『失礼致します。』 部屋に入ってきたのは、黒のワンピースに白いレースのエプロンをつけたメイドだった。『この子の着替えを手伝ってやってくれ。』『はい、かしこまりました。』 メイドと共にアーノルドの部屋から出た千尋は、ここが英国海軍の軍艦内である事に気づいた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月29日
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天童が竹刀を振るう姿を見た千尋は、彼が武家の出だと一目でわかった。 あの太刀筋は、一日二日で身につけられるものではない。 昨夜、天童が誰かに話していた“計画”とは、一体何なのだろうか?「おい荻野、何を呆けているんだ?」「すいません、考え事をしていました。」 千尋が我に返ると、自分の目の前には常日頃から自分を目の敵にしている隊士の姿があった。「副長に気に入られているからっていい気になるなよ、荻野。俺と勝負しろ。」「わかりました。」 彼が今日に限って妙につっかかってくる事が気になった千尋だったが、そんな事よりも彼は天童の事が気になって仕方がなかった。 面を被り千尋と隊士が互いに蹲踞の姿勢を取っていると、外が急に騒がしくなった。「大変だ、誰か来てくれ!」「佐野さん、一体何が起きたんですか?」「突然変な奴らが・・」 隊士の一人、佐野がそう言って道場に入ろうとした時、彼は眉間を何者かに撃ち抜かれ、絶命した。「佐野さん、しっかりしてください!」『狼ってのは、案外弱い生き物なのだなぁ。遊び甲斐がないぞ?』 そう言って道場に土足で入ってきたのは、巨人のような大男だった。 彼の右手に握られている拳銃が、佐野の命を奪ったものだとわかった。「貴様ら、何者だ!」 千尋の隣に居た隊士がそう言って大男をにらみつけると、お男は彼を壁まで投げ飛ばした。『お子様はここで寝てな。』大男はそう言うと、千尋の前に立った。『へぇ、お前があの嬢ちゃんの子か。母親に似て可愛いな。』 臭い息を吐きかけられ、千尋は思わず大男から顔を背けた。『おい、逃げるなよ。漸くお前の事を見つけたんだから、こっちはお前と楽しむ権利があるんだからな。』 訛りが強い英語で早口で大男にそう捲し立てられ、千尋は恐怖に怯える己の顔を彼に見せないように俯いていた。『・・貴方の望みは何です?』『俺の望み、正確に言えば俺の雇い主の望みは、お前をある場所へと連れていくことだ。大人しくしていれば悪いようにはしねぇよ。』『わかりました。』 頭に銃を突き付けられ、千尋は大男に従うしかなかった。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月29日
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「その事と、母の日記とどういう関係があるのですか?」「マッケンジー大尉と、お前の母親の実家と何か繋がりがねぇとかと俺はにらんでいる。」「母が日記を遺している事など知りませんでした。菊枝さんは一度もそんな事をわたくしに話してくれませんでした。」「彼女なりに思う事があったんだろう。お前の母親の日記には、お前の事や、自分の事が色々と書いてある。」「見せてください。」 千尋は歳三から母の日記を受け取ると、そこには母国から遠い異国の地で友人も知人もいない中で暮らす心細い思いが綴られていた。 日記を読み進めるにつれ、千尋はまるで母が自分の傍に居るような気がした。「これはお前にやる。お前の母親がお前に遺した唯一の形見なんだからな。」「ありがとうございます。」 千尋は涙を流しながら歳三から日記を受け取ると、それを愛おしそうに胸に抱き締めた。(母上、お会いできましたね・・)「母は、わたしを産んで幸せだったのでしょうか?」「幸せだったに違いねぇよ。お前が今こうしてここに居るのは、お前の母親のお陰だ。」「そうでしょうか?」「俺も親が早く死んで、上の姉貴や兄貴達に可愛がられて育てられたけどな、何かが足りねぇといつも思っていた。それに、色々と荒れていた時期があった。けどな、近藤さん達と江戸で会って今はこうして俺が新選組副長として生きているのは、俺がこの時代に何か役目を持って生まれたからだと思っているんだ。」「役目、ですか・・“天から役目なしに降ろされた命はない”―以前、沖田先生にあの子がそう話しているのを聞いたことがありました。人は誰しも、この世に何らかの役目を持って生まれてくるのだと思います。わたくしがこうして副長とお会いできたのも、その役目のひとつかと。」「そうか、そうだな・・」「それよりも、あの天童とかいう少年、怪しいですね。」「あぁ、俺はあいつの母親の事を知らねぇし、一度も会ったことがねぇ。あいつが何を企んでいるのかわからねぇ以上、慎重に調べる必要がある。」 その日の夜、千尋は隣で寝ている天童が起きる気配を感じ、こっそりと彼の後をついていった。 彼が厠へ行くのかと思っていた千尋だったが、彼は人気のない裏庭へと向かい、誰かと話をしていた。 天童が話している相手は丁度茂みに隠れて見えなかったが、声の感じからして若い男のようだった。「・・ええ、これから計画通りに進めます。」「そうか、気を引き締めていけよ。」 千尋はそっと、その場から離れた。 翌朝、千尋が道場に入ると、そこには面をつけて隊士達と竹刀を打ち合う天童の姿があった。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月27日
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歳三が門の前へと向かうと、そこにはまだ元服前の少年の姿があった。「父上、お会いしたかったです!」「父上!?」 少年は歳三に抱き着いてそう叫んだ後、彼の胸に顔を埋めて泣き出した。 往来の真ん中で見知らぬ少年から抱き着かれ、困惑している歳三の前に丁度巡察から帰って来た千尋が現れた。「副長、その子は一体・・」「貴方は父上のお知り合いなのですか?」「父上?副長、まさか・・」「おい荻野、誤解するな!俺はこんなガキ知らねぇぞ!」「ここは人目がありますから、中で話をしましょう。」 歳三は泣きじゃくる少年と共に副長室に入ると、彼は涙で潤んだ瞳で歳三を見た。「父上、わたしは・・」「なぁ、俺はお前と初めて会ったばかりだし、お前がどこのどいつなのかがわからねぇから、まずは名を名乗れ、話はそれからだ。」「はい、わかりました。わたしの名は天童英之助と申します。江戸から遥々父上に会いにやって参りました。」「天童、お前が俺の事を何故父上と呼ぶんだ?」「それは、母上がお前の父は新選組副長の土方歳三様だとわたしが幼い頃からわたしに話してくれたからです。」「その母上ってやつは、どこの女だ?」「それはこちらに。」 天童はそう言うと、懐の中から一枚の紙を取り出した。「見せてみろ。」 その紙には、天童の母親の名前と身分が書かれていたが、歳三は彼の母親の事を知らなかった。「荻野、天童をお前の部屋へ連れていけ。」「わかりました。」 天童を自室へと連れて行った後、千尋が副長室へと向かうと、中から話し声が聞こえて来た。「荻野の母親が居た置屋の女将が、彼女の日記を持っていました。」「そうか、お前達はもうさがっていい。」 監察方と入れ違いに、千尋が副長室に入ると、歳三は文机の前に座って何かを読んでいた。「それが、母の日記ですか?」「荻野、お前話を聞いていたのか?」「はい。」「そうか、実は・・」 歳三は千尋に、千と総司が英国海軍の軍艦に軟禁されている事を話した。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月27日
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「トシ、顔色が悪いぞ?」「あぁ、昨夜一睡もしてないからな。」そう言った歳三の両目の下には黒い隈が出来ていた。「総司の事が心配なのはわかるが、まずは自分自身の事を労わらないと駄目だぞ。」「あぁ、わかってるよ。」歳三は朝食を半分残し、副長室で溜まっていた書類仕事に取りかかった。「副長、失礼致します。」「入れ。」「伊東派に大きな動きは今のところありません。」「そうか。それよりも、例の件はどうなっている?」「鈴江の行方は依然としてわかっておりません。引き続き、鈴江の捜索を監察方に命じますか?」「あぁ、頼む。」(薄井と鈴江は恐らくどこかで繋がっている。そのうち、姿を現す筈だ。) 筆を硯の上に置いた歳三は、凝り固まった肩の筋肉を少し解すため、両腕を天に向かってあげた。「副長、荻野です。お茶をお持ち致しました。」「入れ。丁度いい、お前に話がある。」「鈴江さんの事でしたら、斎藤先生からお聞きしております。」「そうか。荻野、お前英国海軍のマッケンジー大尉の事を知っているか?」「いいえ、その方のことは全く存じ上げません。もう隊務に戻ってもよろしいでしょうか?」「あぁ、戻っていい。」 千尋は少し怪訝そうな顔をした後、歳三に一礼して副長室から出て行った。 千尋の方はマッケンジー大尉の事を知らないと言っていたが、マッケンジー大尉の方は千尋の事を知っている可能性がある。(確か、荻野の母親は英国貴族の娘だったな。) マッケンジー大尉と、千尋の亡くなった母親の実家とは何か繋がりがあるのではないだろうか。 以前、屯所を訪ねて来た千尋の親族―正確に言えば親族ではないあの者が何かを知っているのかもしれない―そう思った歳三は、監察方に千尋の母方の親族について調べるように命じた。「副長、お忙しいところを失礼いたします。」「何だ、どうかしたのか?」「あの、それが・・」 副長室に入って来た二人の平隊士達は、どこか気まずそうな様子だった。「副長、門の前にお客様が・・」「俺に客?どこのどいつだ?」「それが、副長に会わせろと言ってばかりで、何も話そうとしないのです。」「そうか、俺が行く。お前達は隊務に戻れ。」「は、はい・・」平隊士達は安堵の表情を浮かべながら、副長室から出て行った。 突然の来客は、新選組に大きな波乱をもたらすこととなった。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月25日
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「総司、大丈夫なのか?」「ご心配をおかけしました。土方さん、貴方はもう屯所に戻ってください。」「こんな状態のお前をここに置いて屯所に戻ることなんて出来るか!俺が屯所に戻った途端お前がまた血を吐いたらどうする!?」「土方さん、貴方は新選組副長として、局長である近藤さんの補佐と、隊士達を纏める役目があります。わたしの事が心配なのはわかるけれど、まずは新選組副長としての役目を貴方が果たしてください。」「わかった・・」歳三はそう言って総司の額にキスをすると、船室から出て行った。 するとそこへ、薄井が現れた。「おやおや、こんな所で会えるなんて奇遇ですね、土方さん。」「薄井、てめぇ何を企んでいやがる!?」歳三はそう言って薄井を睨みつけ、彼の胸倉を掴んだ。「乱暴はいけませんよ、土方さん。貴方にはまだ殺人の容疑がかかっているのですから、おかしな真似をしない方がいい。」「ふん、言ってくれるじゃねぇか。薄井、てめぇが千と総司をここへ連れて来たことは知っているぜ。てめぇの目的はなんだ!?」「それを貴方に教えるつもりはありません。」薄井はそう言って歳三に向かって薄ら笑いを浮かべ、そのまま彼の元から去っていった。(食えねぇ奴だ・・) 馬で港から屯所へと戻った歳三は、薄井の元に総司を置いておくことに不安を覚えた。「薄井さん、僕に話って何ですか?」 総司の看病の為に軍艦に残った千は、薄井に人のいない船室へと連れて来られた。「千君、わたしが何故君達をここへ連れて来た理由は、君に荻野千尋の影武者になって貰い、わたしと共に渡英するためだ。」「僕が荻野さんの影武者になってどうしろと言うんですか?」「わたしも君も未来から来た人間で、どの戦争で誰が勝つのかを知っている。その事を占いという形で利用すれば、わたし達は莫大な金を手に入れられる、そう思わないか?」「狂っていますね。そんなに上手くいくでしょうか?大体、占いなんて軍の上層部が簡単に信じるものでしょうか?欲を出し過ぎると破滅しますよ。」「言うようになったね、君も。流石家族を捨てた人間はこの世界で生きていく覚悟がわたしとは違うようだ。」 薄井の言葉に、千は少し胸が痛んだ。彼の言う通り、自分は家族を捨てた。だが、その事に微塵の後悔もないと言えば、嘘になる。「それがどうかしましたか?貴方が何を考えているのかはわかりませんが、僕は貴方と破滅する気はありませんよ。」千はそう言うと、もうこれ以上薄井と同じ空気を吸いたくなくて、彼に背を向けて船室から出て行った。「君はまだ青いな、千君。裏切り者というのは、案外身近に居るものなんだよ。」 屯所へと戻った歳三は、監察方から信じられない事を聞かされた。「鈴江が失踪した?」「へぇ、数日前奉行所で火事があり、その混乱に乗じて鈴江が牢番を誑かしてそのまま姿を消したそうです。」「そうか、報告ご苦労だった。」監察方が副長室から出て行ったあと、歳三は何だか胸騒ぎがしてその夜は一睡も出来なかった。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月23日
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総司は軍医の治療を受け、一時的に回復したものの、まだ予断を許さない状態だった。「千、あいつの病は治ったんじゃないのか?」「それは僕にもわかりません。でも沖田さんは、自分の寿命は神様がお決めになっていると言っていました。」「神様、ね。人の寿命は俺達人間ではなく天が決めるものという事か・・じゃぁ、俺達がお前の時代に行ったのは無駄という訳か・・」「そんな事を言わないでください、土方さん。貴方が希望を捨てたら、沖田さんはどうなるんです?」「じゃぁどうしろと?総司の病はもう治らねぇ。それに、総司の腹の子も無事に産まれるかどうかもわからねぇのに、俺はどんな言葉をあいつにかければいいんだ。」 歳三はそう言うと、壁際に凭れかかりながら深い溜息を吐いた。 その時、総司が居る船室からマッケンジー大尉が出てきた。『さっき、君の奥さんから話を聞いた。君がわたしの部下を手にかけたのは、自分を敵から守る為だったと彼はわたしに話してくれた。わたしは君にわたしへの殺意がないことを上へそう報告しておく。』 マッケンジーの言葉を、千は日本語で訳して歳三に話した。「それで、俺は無罪放免になるという訳か?」『正当防衛が認められれば、それはありえるだろう。その場に居たわたしの部下にも話を聞いてみることにしよう。』(こいつ、何か信用できねぇな。)『では、わたしはこれで失礼する。』 マッケンジーはそう言うと、歳三達に背を向けて去っていった。 マッケンジー大尉が自分達の前から立ち去った事を確認した歳三は、千の手を掴んで近くの空いている船室の中へと引きずり込んだ。「千、あのマッケンジーとかいう奴は信用しない方がいい。」「土方さん、いきなりどうしたんですか?」「あいつは、将軍暗殺を企て、それに乗じて日本を侵略しようとしている。」「そんな、あの人が・・信じられません。」「それにしても、何故あいつがお前と総司の存在を知ったんだ?」「土方さん、実は僕達をここに連れて来たのは、薄井さんなんです。」「薄井が?」「とにかくマッケンジーさんと薄井さんには用心して、暫く大人しくしておきましょう。」「わかった。」 敵と完全に立ち向かうには、それなりの準備が必要だ。 千と歳三が船室から出ると、軍医が二人の元へとやって来た。『君の奥さんが目を覚ましたよ。』『本当ですか!?』 二人が総司の居る船室に入ると、意識を取り戻した総司が翠の美しい瞳で二人を見つめていた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月23日
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最初から最後まで読ませる作品でした。続編もあるようなので、機会があったら読んでみたいです。
2019年01月20日
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※BGMと共にお楽しみください。 (あれか・・) 歳三は港に停泊している一隻の軍艦を見つけた。 あの中に、総司と千が居る―歳三は馬から降りると、見張りに立っている兵士の目を盗み、艦内へと侵入した。(総司、どこだ?) 焦る気持ちが敵を誘き寄せてしまったらしい。 歳三は、廊下の向こうから二人組の兵士がやって来る事に全く気づかなかった。『何だお前は?』『侵入者だ、すぐにマッケンジー大尉に・・』歳三は兵士の一人を躊躇いなく斬り伏せた。「総司、どこに居る!居るなら返事をしろ!」(あれは、土方さんの声?) 千が廊下の方から聞こえて来た歳三の声に気づき、船室の外へと飛び出した。 するとそこには、兵士達に銃口を向けられている歳三の姿があった。『大人しくしろ!』「総司はどこだ、総司に会わせろ!」 興奮した歳三は、そう怒鳴りながら兵士達を睥睨していた。「土方さん、落ち着いてください!」このままだと歳三が抜刀しかねない―そう思った千は慌てて歳三と兵士達の間に割って入った。「千、総司は何処に居る?」「沖田さんは、船室の中で軍医の治療を受けています。」「総司は大丈夫なのか?」「正直言って、厳しい状態です。沖田さんは、もし自分が明日死んでも悔いはないと言っていました。近藤さんと土方さんと会えて、一緒に武士として生きられたからって・・」「総司・・あいつが、そんなことを・・」「土方さん、沖田さんと会って、話しかけてあげてください。」「わかった。」 千と共に歳三が船室に入ると、ベッドの上には蒼褪めた総司が寝かせられていた。 その白い額には時折脂汗がうっすらと浮かび、彼の呼吸は荒かった。「総司、お願いだから俺の元へ戻ってきてくれ。まだ俺を置いて逝くな、宗次郎!」 紫の双眸を涙で潤ませながら、歳三は必死に総司にそう呼びかけると、彼の手を握った。 すると、歳三の声に応えるかのように、総司の手が微かに歳三の手を握り返した。 その時、船室の扉が乱暴に開かれ、部下襲撃の知らせを受けたマッケンジー大尉が怒りで顔を赤く染めながら入ってきた。『彼は一体何者だ?こいつがわたしの部下を襲ったのか?』『マッケンジー大尉、彼は沖田さんの夫です。どうか、彼の狼藉を許していただけないでしょうか?彼はただ・・』『それはわたし一人の一存では決められん。暫く時間をくれ。』 マッケンジー大尉はそう言って歳三を一瞥すると、船室から出て行った。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月20日
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※BGMと共にお楽しみください。 歳三は、刺客の男から渡された文の内容を思い出した。 そこには、将軍暗殺と英国海軍が将軍暗殺に乗じて日本を侵略するという恐ろしい計画が書かれていた。「さるお方とは、誰だ?」「マッケンジーというお方だ・・その方は今、大坂近くの港にいる・・」 刺客の男は歳三にマッケンジーの事を話した後、こと切れた。「副長、ご無事ですか?」 馬のいななきが闇の中から聞こえたかと思うと、白馬に跨った斎藤が歳三の前に現れた。「斎藤、馬を貸せ。総司達の居場所がわかった。俺はこれから大坂へ向かう。」「お気をつけて。」「この文を、近藤さんに渡してくれ。」「はい、必ず。」 斎藤は馬から降りると、歳三から文を受け取り屯所へと戻った。(待っていろ総司、必ず助けてやる!) 一方、英国海軍の船に軟禁されている総司と千は、宛がわれた船室の中で互いに黙り込み、暗い水面を窓から眺めていた。「ねぇ千君、わたし達はこれからどうなるんでしょうね?」「それは僕達にもわかりません。ですが、マッケンジーさんは僕達に危害を加えないと約束してくれました。」「ここに居る限り、わたし達の身の安全は保障されるという事ですね?」「ええ。」「よかった。」総司がそう言って笑おうとした時、彼は激しく咳込んだ。「沖田さん、大丈夫ですか?」そう言って千は、総司の白い掌が血で赤く染まっている事に気づいた。「沖田さん・・」総司の結核は現代で完治した筈ではなかったのか。「わたしの寿命は、神様が決めてしまっているんですね。」「そんな・・」「わたしはもし明日死んでも悔いはありません。だって、近藤さんや土方さんに会えて一緒に武士として生きられたんですもの。」「沖田さん・・」「少し横になれば治まりますから、君はもうお休みなさい。」「人を呼んできます。」 苦しむ総司を放っておけず千が船室を飛び出すと、白衣姿の兵士がたまたま彼の前を通りかかった。『お願いします、助けてください!』『どうしたのかね?』『同室の者が突然血を吐いて苦しんでいるんです。』『今すぐ船室へ案内してくれ。』 千が白衣姿の兵士とともに総司が居る船室へと戻ると、そこには床で苦しそうに息をしている総司の姿があった。「沖田さん!」「千君、土方さんの事を頼みます。」「まだ、逝かないでください!貴方には、まだこの世での役目が残されているんです!」「千君・・」 総司は震える手を千に向かって伸ばすと、千はしっかりとその手を握った。“土方さん”(総司?) 歳三は一瞬総司に呼ばれたような気がして闇の中を見つめていると、一匹の蛍が歳三の前に現れた。 歳三がその蛍の光を道標に進むと、やがて彼は潮の匂いを感じた。この作品の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月20日
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ミスター・メルセデス三部作の完結編。タイトルで、ホッジズの最後の事件だとわかりました。上下巻で結構分厚いページ数でしたが、かなり読みごたえがありました。ブレイディの狂気が最後まで伝わってきて怖かったです。ラストがハッピーエンドでよかったです。
2019年01月16日
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結構、読みごたえがありました。友だちって、数が多いだけが正義じゃないですよね。SNSのフォロワー数もそうですし・・まぁ、別に多ければいいというわけではなく、腹を割って話せる相手がいるだけでもいいんですよね。
2019年01月16日
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昨年夏ごろからインスタグラムを始めたのですが、わたしは主に、ハムスターの可愛い写真や動画を観るためだけにインスタグラムを使っています。インスタグラムのハム垢様のハムちゃんはどの子も表情豊かで、とても飼い主さんに愛されていることがわかります。先週末、インスタグラムをチェックしていると、フォローしていたハム垢様のハムちゃんの訃報を知りました。そのハムちゃんはおなかに腫瘍を抱え、生後4ヶ月という短い生涯を終えましたが、その子の写真や動画はどれも笑顔で、飼い主さんが撮った最期の姿も微笑んでいました・・飼い主さんの投稿を読むと、最期を看取れなかったから、二人で過ごした思い出を話しかけたら、微笑んでいたと・・ハムスターは犬猫と違って人に懐くことよりも「慣れる」動物だといわれますが、そのハムちゃんは最期まで笑顔を浮かべていたのは、飼い主さんの愛情故だと思うのです。ハムスターの寿命は2~3年、病気を抱えているハムちゃんの寿命はもっと短いです。その短い生涯を全うさせるのは、飼い主さん次第だと思うのです。動物を飼われている方へ。動物は言葉を話せませんが、あなたが自分に対してかけてくれる言葉、愛情はちゃんと理解しています。だから、動物と過ごす一日一日を大切にしてください。病気や怪我などをしても、年老いても、最期を迎えるまで愛してあげてください。
2019年01月16日
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戦時下の北海道を舞台にしたミステリー。 アイヌと和人の混血児・八尋、朝鮮人のヨンチュン。 八尋は日本とアイヌ、どちらにも属せない、何者であるかということがわからない人間。 でも最後は、自ら生きようとする彼の姿に励まされました。 読み応えのある作品でした。
2019年01月12日
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昨年5月に出版された小説。湊かなえさんの作品は好きなのですが、今回の作品はかなりえぐかった。児童虐待というか、そういった面がきつかったなぁ・・ラストは希望に満ちたものだったけれど、再読はないかな。
2019年01月08日
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闇に包まれた八木邸の前で暫く歳三が立っていると、向こうから提灯の仄かな灯りが彼の顔を照らした。「貴様が土方か?」そう歳三に尋ねた男とその数人の連れは、珍妙な形の武器で武装していた。「てめぇら、何者(なにもん)だ?」「それは今から死ぬ奴には関係ねぇだろう!」黒い頭巾のようなもので顔を半分覆っている坊主頭の男がそう叫ぶと、腰に提げている短剣を取り出し、その切っ先を歳三に向けた。 歳三は素早く和泉守兼定の鯉口を切り、短剣で自分に襲い掛かろうとしている男の頸動脈を斬った。 大量の返り血を浴びた歳三の白い頬が赤く染まったが、それを気に留めることなく歳三は残った敵と斬り結んだ。 四対一という圧倒的に不利な状況の中、歳三は息ひとつ乱すことなく三人を倒し、残ったのは提灯を持った男だけとなった。「もう一度聞く、てめぇらは何者だ?」「これを、さるお方から預かってきた。」 男はそう言うと、震える手で歳三に一通の文を渡した。 そこには、驚くべきことが書かれてあった。「総司と千の元へ案内しろ。」「わかった。」 一方、千は軍服の男達が全員寝静まったのを確認した後、そっと船室の扉を開けて廊下に誰もいないことを確認した。「沖田さん、起きてください。」「千君、どうしました?」「ここから逃げましょう。この船はまだ停留しているので、ここから逃げられたら、土方さん達がいる京へと帰れます!」「千君、わたしはここで土方さんを待ちます。」「沖田さん、どうして?ここから出なければ土方さんと近藤さんに二度と会えないんですよ、それでもいいんですか?」「それは・・」『貴様ら、一体そこで何をしている?』 背後から野太い声が聞こえたかと思うと、巨人のような男が千の着物の衿首を掴んだ。『離してください、僕は何もしていません!』『大人しくしろ!』男はそう千に怒鳴ると、彼を寝台の上へと乱暴に突き飛ばした。『お前、そこで何をしている?』『マッケンジー大尉、こいつはこの船から脱走を図ろうとしたのです!』『彼に乱暴はよしなさい。君は自分の部屋に戻れ。』『ですが・・』『彼にはわたしが事情を聞く。』男は少し納得がいかない様子でちらりと千の方を見ると、そのまま船室から出て行った。『何故、君はここから逃げ出そうとしたのかね?何もわたし達は君達を取って食おうとするわけじゃない。ちゃんと事情を話してくれればわたしは君達をここから解放する。』『それは、本当ですか?』『わたしが嘘を吐くと思うかね?』マッケンジー大尉は、そう言うと美しい琥珀のような瞳で千を見つめた。『僕達はただ、家に帰りたいだけです。何故、僕達をここへ連れてきたのですか?』『それは、今は言えない。だが、わたし達は絶対に君を傷つけないと約束しよう。』小説の目次はコチラです。にほんブログ村
2019年01月04日
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新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。2019年元旦 千菊丸
2019年01月01日
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