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こんなものを食べてみた

(8)

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2013.03.09

１回死んだネコ

(10)

テーマ：猫のいる生活(138207)

カテゴリ：ゆうくん

佐野　洋子さんの「百万回生きたねこ」という絵本が好きです。

【送料無料】100万回生きたねこ［佐野洋子］

輪廻転生を繰り返し、１００万回も死んで、生きた猫の物語。
奥が深い絵本です。

今日は、それとは全く関係ない、「１回死んだネコ」のお話です。

あるまちに、小さな団地がありました。
その団地は、こじんまりとして、住んでいる人が道路で顔を合わせると、「おはよう」「こんにちは」とお互いに声をかけあう親切な人々が住んでいました。

その団地の中でも、一番、優しくて親切なのが、マチコおばさんです。
マチコさんは、子どもたちが結婚してからは、だんなさんと二人で暮らしていました。

マチコさんは、毎朝、両隣とお向かいまでの道路をせっせとお掃除して、集団登校の子どもたちが家の前をとおると、「気をつけていってらっしゃい」と声をかかける優しいおばさんでした。

そんな親切でやさしいマチコさんですが、唯一つ苦手なのがネコです。
マチコさんにもよくわからないのですが、ネコがどうしても苦手で、触ることができません。
ネコアレルギーがあるわけでも、昔、ネコに噛み付かれたわけでもないのですが、とにかく、マチコさんは、ネコが苦手で、触ることができません。

ある年の７月、まだ梅雨が明ける前、雨がしとしと降っている夕方のことです。
マチコさんが、台所で夕食の準備をしていると、開けていた窓から「ミャ－、ミャー」とネコの鳴き声が聞こえてきます。

「気のせいかな、ネコがいるわけもないし」とマチコさんは思いました。
そして、また夕食の準備をはじめましたが‥。

「ミャー、ミャー」とまた鳴き声が聞こえてきました。

マチコさんは、料理の手を休めて、裏口から台所の前に向かいました。

「ミャー、ミャー」という鳴き声は、車庫の前の植木の根元から聞こえてきます。

すると、どうでしょう。
雨がふっている植木の根元に、産まれたばかりのクロネコの赤ちゃんがミャーミャーと鳴いていました。
まだ目も開いていません。

「どうしましょう」とマチコさんは思いましたが、ネコが苦手なので、触ることができません。

きっと産まれたばかりなので、お母さんネコがどこかにでかけているだけだろう、と思って台所に戻りました。

ネコの鳴き声も聞こえないように、窓を閉めました。

次の日も雨が降っていました。

朝刊を取りに来たマチコさんは、植木の下で動かなくなったクロネコの赤ちゃんを見つけました。

とても優しいマチコさんは、「ああ、すまないことしてしまった。私がネコが苦手なばっかりに死なせてしまった。」と涙を流しました。

線香に火をつけて、動かなくなったクロネコの赤ちゃんに供えました。
そして、庭に埋めてあげようと、クロネコの赤ちゃんを入れるための紙袋も用意しました。
マチコさん、本当は怖かったのですが、震える手で、クロネコの赤ちゃんを持ち上げました。

すると、死んだはずのクロネコの赤ちゃんが「ミャー、ミャー」と鳴き始めました。
まだ生きていたのです。
マチコさんはびっくりして、クロネコの赤ちゃんをまた植木の下に置いて、家の中に慌てて戻ってしまいました。

この日は、マチコさんは、離れて暮らす娘一家のところに行くことになっていたので、すぐに、ご主人と一緒に出かけてしまいました。

マチコさんは、クロネコの赤ちゃんのお母さん、早くもどってきてください、とお祈りしながらでかけました。

その日は、夕方まで雨が降っていました。

同じ団地にすむトモミおばさんが夕食の材料を抱えて歩いていると、「ミャー、ミャー」というネコの鳴き声を聞きました。

トモミさん、足を止めました。

鳴き声は、ちょうど前の植木の下から聞こえてきます。
トモミさんが木の下を注意してみると、小さなクロネコの赤ちゃんがブルブル震えて鳴いていました。

トモミさんは、そのクロネコの赤ちゃんに「冷たいでしょう」と声をかけながら、抱きかかえて家に持ち帰りました。

240721子猫.JPG

トモミさんは、赤ちゃんネコをダンボールの箱に入れました。

悩みました。
「ネコを飼いたいけど、難しいなぁ‥。」

トモミさんのご主人ゲンタさんは、とっても大酒のみで、給料の大半を飲み代に使ってしまうので生活が苦しかったからです。

トモミさんとその子どもたちが、少ないおかずで我慢しているのに、ゲンタさんは、一年間に２００杯以上も自分ひとりで、美味しいラーメンを食べてしまうわがままな男でした。

仕方がない、可哀そうだけど、保健所に引き取ってもらおう、とトモミさんは電話をしました。

ところが、保健所の担当の人は、「今日の受付は終わりました。来週の朝、ネコをもって来てください。」と言いました。
その日は、金曜日でした。
トモミさんは困ってしまいましたが、なんとか月曜日までは赤ちゃんネコを死なせないようにしよう、とペットショップに行って必要なものを買ってきました。

そして、生まれたての赤ちゃんネコにあげるミルクと授乳器を買ってきて、赤ちゃんネコに飲ませてあげました。

240722子猫ミルク.JPG

この日の夜、マチコさんが家に戻ると、ネコの赤ちゃんはいなくなっていました。
マチコさんは、きっと母さんネコが連れて行ったのだわ、と安心しました。

さて、トモミさんの家に赤ちゃんネコが来た夜、ご主人のゲンタさんは、この日もお酒を飲んで帰ってきました。

帰ってきて段ボール箱に入っているネコを見つけました。

「どうしたんでぇ、このネコ？」とゲンタさんはトモミさんに聞きました。
トモミさんは、ネコを拾ったこと、保健所に届けようと連絡したが受付時間が終わっていたこと、週明けには連れて行くことをゲンタさんに説明しました。

「ネコのミルクってよぉ、オレの焼酎よりも高いんだろぉ」とゲンタさんは言いました。
優しい心のないひどい男です。

ゲンタさんは、ブログを書いてました。
でも、いつもネタがなくて、困っていました。
翌日の夜、ブログネタに仔猫ちゃんがやってきたと書いてしまいました。

すると、ブログのお仲間から「保健所には連れて行かないで」「飼ってあげて」とコメントが一杯寄せられました。

ゲンタさんに直接連絡をくれて、仔猫の飼い方をアドバイスしてくれた親切な人もいました。

翌週になると、トモミさんとゲンタさんは、このネコを飼うことにしました。
ネコのえさ代は、ゲンタさんがラーメンを我慢して捻出することになりました（ゲンタさんは約束守れませんでしたが。）。

クロネコの赤ちゃんには、「ゆうくん」という名前をつけました。

マチコさんは、仔猫がいなくなったことが心配でした。
本当に、母ネコが連れて行ってくれただろうか、少し動いて庭で死んでいるのじゃないか、と庭を隅々まで探したりしました。
それからも、ずっと気にし続けていました。

トモミさんのところで飼われたゆうくんは、すくすく育ちました。

240802仔猫.JPG

みるみる大きくなりました。

１０月のことです。
マチコさんの前に住んでいるユウコおばさんとご近所のおばさんたちが立ち話をしてました。
家の前をそうじしていたマチコさんも井戸端会議に参加しました。

そこで、ユウコさんから、トモミさんが雨の日に、マチコさんのところでクロネコを拾ったこと、飼いはじめたこと、ゆうくんという名前がついたこと、そのネコがすくすく育っていること、ネコなのにリードをつけて散歩していておかしいこと、ゲンタさんはやっぱりラーメンを減らしていないこと、などを聞きました。

マチコさんは、嬉しくなりました。

あの時の仔猫が生きている！

でも、マチコさんは、どうしてもトモミさんとゆうくんに声をかけることができませんでした。

本当なら、マチコさんがゆうくんをお家の中に入れてあげなければいけなかった、と自分を責めていたからです。

だから、ゆうくんの散歩している姿も、遠くから見ているだけでした。

その年の冬は寒さが続きました。

ようやく春めいたある日、この日もゆうくんは、トモミさんに散歩に連れて行ってもらいました。
お散歩でゆうくんがマチコさんの家の前まで来ると、マチコさんが玄関から出てきました。

マチコさんはトモミさんに打ち明けました。
涙を流して、雨の日のことを打ち明けました。

「本当は、私が仔猫を拾わなければならなかったのです。仔猫を拾ってくれてありがとうございました。ものすごく、苦しかったです。」と。

トモミさんは、言いました。

「ゆうくんが来てから、楽しいことばかりです。こちらこそ、ありがとうございます。」。

しばらくマチコさんとトモミさんは、楽しい会話をしました。
ゆうくんは、昔を思い出しているのか、雨の日に鳴いていた木の下にもぐりこみました。

サヨナラする時、マチコさんは、勇気を出してゆうくんの頭をなでました。

猫の毛って、柔らかいのですね、とマチコさんは言いました。

おしまい。

250309ゆうくん.JPG