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2022.12.25
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テーマ: 読書(8559)
カテゴリ: 【読書】自然科学

本のタイトル・作者



揺れる大地を賢く生きる 京大地球科学教授の最終講義 (角川新書) [ 鎌田 浩毅 ]

本の目次・あらすじ


第一章 日本は「大地変動の時代」に突入
第二章 2035プラスマイナス5年、南海トラフ巨大地震の激甚さ
第三章 20の火山がスタンバイ状態 
第四章 富士山噴火をシミュレートする 
第五章 地球温暖化は自明でない 
第六章 減災の意識を持つ
第七章 ポストGAFAを見据えて --必要となる思考、知識、教養


引用


知的生産というのは、自分の知力を人のために使うという考え方が根底にあります。だから私は、人生でする知的活動の最たるものである勉強を、知的消費だけでなく知的生産にも繋げてみてはいかが、と学生たちにも説いてきました。


感想


2022年332冊目
★★★★

『すずめの戸締まり』を読んだこともあり、このタイトルだけで選んだ本。

著者は1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業、通商産業省(現・経済産業省)主任研究官を経て、1997年~京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は火山学。
この本は、2021年3月10日、京都大学で著者が行った最終講義の内容をもとにしたもの。



専門的な内容なのだけれどすごく読みやすくて、珍しいな、どうしてだろうと思っていた。
この本は、前半が日本という震災大国の現状(特に火山)、後半は思考や勉強の方法について。

後の方を読めば分かるのだけれど、この方は自らを「科学の伝道師」と称し、どうすれば自らの知見を世の中に還せるのか考え抜いている。
自らの学問を象牙の塔に留まらせず、多くの人に伝える。
著者は自らの願いを一言で表す。
「みんな死ぬなよ」。
東日本大震災を経て、自身の研究を「どう伝えるか」を工夫し、その見せ方を心得ている。
情報を伝達しても、実行に移させ、それを継続させることは難しいと著者は言う。

辻説法。
専門の人以外の人に、聞いてもらえる内容にしなくてはいけない。
関心を持ってもらわなくてはいけない。
誰も死なせないために。

というわけで、本のタイトルにもなっている最終講義の部分は知らなかったことをたくさん知って身を乗り出して聴く感じ。


・東日本大震災で、日本列島は東に5.3m動いた。
・前回の南海地震は1946年、前々回は1854年。この間隔92年を最短と考えると、次は2038年。
2030年代には南海地震が起こる。どんなに遅くとも2050年までには起こる。

聞いたことはあっても、改めて言われると「どうすればいいんだ…」と途方に暮れる規模の災害が十数年以内に間もなく起こる。それも確実に。私が生きている間に。
おそらく私はそれを目の当たりにする。
2038年―――16年後。
いったいどれだけの人が亡くなるだろう。
子どもたちは、私は、私の周りの人は、その時生きているだろうか。
復興には、どれほど途方もない期間がかかるだろう。
この国はそれだけの大打撃を受けても、また立ち直れるのだろうか。

いやもう、そんなこと考えたら、絶望的な気分になるんよ。
それでもこの国のこの場所に住み続けるのか、とすら思う。

たぶん、だから人間は遠い未来のことを考えないように出来ているんだろうな。
怖くて生きていけなくなるから。
生きることは「致死率百%」であることを知っていながら、今日を生きていけるのも同じで。

防災は不可能だ。いつどこで地震が発生するのかは誰にも分からない。
出来ることは減災しかない。
著者は、まずは「知ること」だと言う。知は力なり。
「率先避難者」という言葉は初めて聞いた。
知識があったらまず自分が助かること。
まず自分の身を守り、そして家族やコミュニティを守る。
助かるためには、勉強する必要がある。

というわけで、後半は「学びかた」についての内容。
こちらも大変興味深く読んだ。
著者は京大に赴任した時、独りよがりの授業をする教師だったのだけど、録画した映像を生徒にダメ出ししてもらい、授業は今や京大一の人気を誇るようになった。
ラジオのような双方向でライブ性のある熱い情報伝達。

ひとつの分野の研究だけではいけない。
様々な分野の研究が相互に関係しあう「地球惑星システム」。
また、古文書から地震の記録を読み解き、心理学で災害時の行動を理解する。
そしてそれを、マーケティングの手法等を用いて人々に伝達する。
理系文系の枠組みを超えた学び。

「地球にやさしく」という言葉に私はずっと違和感があって、それもこの本を読んでいて得心した。
地球は困っていない。巨大なシステムの中に吸収されるそれが、「人間の困っている」問題であるだけ。それは、人間の自意識過剰かもしれない。
うん。「地球にやさしく」は、欺瞞に満ちた言葉なんだよな。
だって、やさしくしてほしいのは人間のほうなのだもの。

地球の自転スピードが元々は速く、1年が1500~1600日だったというのは初めて聞いた。
それが、月の引力によって24時間になったのだって。へええ!
そうして気候の変動がゆっくりになった地球で、生命の進化も始まった。

私はバリバリの文系の人間だけれど、こういう話を聞くとSF小説好きの食指が動く。
著者はそうやって興味がない人を、話に引き込んでいく。すごい。
この方、授業ではパワーポイントを使用せず、A4コピー用紙(裏紙)を1人1枚渡して、ニックネームでコメントを書いてもらい、授業の中でフィードバックするのだそう。
ライブ感がすごい。
火山などの本以外に、学習方法などについての本も出されているので読みたいと思った。

本を読みなさいと、著者は言う。
それが一番効率の良い勉強手段であると。
アウトプットはこれまでのインプットに比例する。
幅広いジャンルの本を読み、多様で価値ある情報を、教養を身につけること。
あえて興味のなかったジャンルにも手を広げてみる。読書に対する世界観を広げる。
「難しい本は書いた人が悪い」という言葉には勇気を貰った。(笑)

私は本を読むけれど、それは果たして「知的生産」であるだろうかと自問する。
私がしていることは、あらゆる本を手当たり次第に読み散らすことは、「知的消費」なのではないかしらん。
それは私のためにはなるかもしれない―――けれど、それを何らかの形で還すことはできるのだろうか。

『すずめの戸締まり』で、扉を閉め、鍵をかけて「閉じ師」は言う。
―――お返し申す。

自らの得たものを、繋げて、「自分の知力を人のために使う」。
たとえばそれは、絶望的な未来が待ち受けると知り、それを前に立ち竦まずにいられることだろうか。
すべては知ることから始まる。

けれど文字は、言葉は、そこで終わってしまうのだ。
その先を、そしてそこから一歩を踏み出すのは、肉体は、私が動かさなくては。

揺れる大地を、賢く生きる。
この地に生まれついた。
祈るだけじゃなく、嘆くだけじゃなく、賢くなれ。

賢くあれ。

その時、動けるように。



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最終更新日  2022.12.25 22:59:24
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