320life

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

2023.07.04
XML
テーマ: 読書(8448)

書名



答えは市役所3階に 2020心の相談室 [ 辻堂ゆめ ]

目次


第一話 白戸ゆり(17)
第二話 諸田真之介(29)
第三話 秋吉三千穂(38)
第四話 大河原昇(46)
第五話 岩西創(19)

引用



「晴川さんが以前、教えてくれたじゃないか。カウンセリングとは、相談者が自分自身と対話する場なのだと。私たちはただ、彼らを映し出す鏡になればいい」
「ええ、限りなくピカピカに、いつでも磨いておきたいものですね」


感想


2023年144冊目
★★★

二重らせんのスイッチ [ 辻堂ゆめ ]
君といた日の続き [ 辻堂ゆめ ]


令和2年7月8日。
新型コロナウイルス感染症流行における心の不調を相談できる「こころの相談室」が立倉市役所の三階会議室に開設された。

NHKの合唱コンクールを目指し部活に励み、高卒でブライダル業界へ就職することを夢見ていた女子高生は、コロナで将来の夢を失った。
医療従事者の婚約者に仕事を辞められないか打診し、彼女と破局した男性。
立ち会い出産も不可となり、激務の夫は家にも帰って来ない。出産後にワンオペで赤ん坊を育て、虐待寸前まで追い詰められた女性。
コロナで日雇いの仕事が激減し、ネットカフェを追い出され、ホームレスとなった男性。
憧れのキャンパスライフは夢と消え、オンライン授業で家に引きこもる男性。

それぞれがそれぞれの悩みを抱え、相談室を訪れる。
読んでいて、「ああ、そうだったなあ」と思った。
たった数年前のことなのに、どこかもう隔絶された遠い場所のことのように感じる。
それこそ十年も二十年も前の話のように。

ステイホーム。エッセンシャルワーカー。ソーシャルディスタンス。
GOTOトラベル。マスク不足。オンライン。アクリル板。消毒液。検温。
そんなこともあったなあ、なんて。
人間って本当に忘却の生き物だ。

そして、もうこういうことを読みたくない人もいるだろう。

後の世の人が、この本を読んだって、フィクションだと思うかもしれない。
「え?本当に合ったことなの?嘘でしょ」って。
それくらい、非現実的なことが一斉に起こったのだから。
誰もいない街にヘリコプターを飛ばし、テレビ局が中継していたんだよ。
今は家にいましょう、って。

この本の肝は、推理小説にある「依頼人は嘘をつく」ならぬ、「相談人は嘘をつく」。
それぞれが皆、肝心のところを隠して相談室を訪れる。
相談パート(相談者視点)ではそれは明かされず、微かな違和感だけが「ん?」と読者によぎる。
そして相談室の内輪話のパート(カウンセラー視点)で、その違和感の正体が明かされる。
ここらへんは、辻堂さんの前作『君といた日の続き』のように御本人が得意とされるところ。

最初は、「あ、そうか!だから…」と答え合わせがされるような、謎解きの面白さがあったんだけど、三話目くらいから「うーん、ちょっとこじつけすぎかなあ」となった。
お話が一周回って最後に一番最初とくっつくパターンで、私はこういうの好き。
第一話で登場するひとつのアイテム(お守り)がバトンのようにリレーされていくのは、小説的だなあと思った。

コロナが小説に現れるようになって(ここらへん、「小説の世界にもコロナの侵食を許すか」という作家の世界には葛藤があったようで、「コロナではない日常を描く」派と、「コロナがある日常を描く」派がいたように思う。)、それが執筆されて印刷されて書店に並んで…が一周回って落ち着いて、今ではコロナが取り扱われていると、「あ、コロナなんだ?」と思うようになった。
いっときはコロナ禍なのに日常でマスクしていないとか、そういうことだけでリアリティがないと感じたりもしたのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつで、すっかり逆に「まだコロナなんだ?」という印象を抱いてしまう。

けれど大事なことなんだと思う。
将来に残すために。
こういうことがありました、ということだけでなく、それが文学の世界にどう残ったかということも。

コロナにより、今の子どもは心身ともに発達が2〜3年遅れているという話もある。
詳細な記憶をもたないこの子たちが大きくなって、その時に「あの時、何があったのか」を知りたくなった時。
記録だけではなく、感情をともなう物語が必要だ。

暑さが日にしに増す令和5年の7月。
私はまだ、電車や会社の中ではマスクを付ける。
店に入る時に消毒液があると、手に吹き付ける。
でも子どもは、この春頃からマスクを取った。

さて、マスクを外すのはいつになるのだろう。
なんとなく、不安であることと。
社会的な「あ、あなたは『外す人』なんだ」と目線。
結局それって、根拠に基づくというより気持ち的なもの。

人間が不安に弱いことも、コロナで嫌というほど、思い知ったよね。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村
にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ
にほんブログ村
にほんブログ村 英語ブログ 英語学習者へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。
「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2023.07.04 00:00:12
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: