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2023.07.22
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テーマ: 読書(8198)

書名



先祖探偵 [ 新川 帆立 ]

目次


第一話 幽霊戸籍と町おこし
第二話 棄児戸籍と夏休みの宿題
第三話 消失戸籍とご先祖様の霊
第四話 無戸籍と厄介な依頼者
第五話 棄民戸籍とバナナの揚げ物

引用


動けば状況をよくできるのに動かない。そんな西口たちにじれったさを感じる。だがそういう人たちがいるのも痛いほど分かった。動く余力がないほど困窮し、疲れている。


感想


2023年159冊目
★★★

元彼の遺言状 [ 新川帆立 ]
倒産続きの彼女 [ 新川帆立 ]
剣持麗子のワンナイト推理 [ 新川帆立 ]
競争の番人 [ 新川帆立 ]
競争の番人 内偵の王子 [ 新川帆立 ]

の新川さんの単独本(シリーズ物じゃない)。
「先祖探偵」というタイトルから、推理好きのご先祖様の守護霊と会話しながら謎を解く…みたいな話を予想していたら、全然違う話だった。
(ちなみにこの「全然違う」というのは誤用ではなく、「全然〜ない」という呼応のかたちで使われるようになったのは後づけである。)
閑話休題。
「先祖探偵」というよりは、「戸籍探偵」だった。

捨て子だった風子は、依頼人の戸籍を調査することで先祖をたどることを生業としている。
風子は依頼人の仕事をこなすうち、自らの出自を明らかにする機会に出会いーーー。

以前、韓国語の先生に「日本の人は先祖のことを知らないことにびっくりする」と言われた。
この本にも、自治体から高齢の曽祖父のことを訊かれ、存在すら知らなかったことに驚いたひ孫が依頼してくる。

自分はどこから来た何者なのか。

父と母。2人。
それぞれの父と母(祖父母)。4人。
そして祖父母のそれぞれの父と母。8人。

私が知っているのも祖父母までで、そのさらに上となると、うっすら話を聞いたことがあっても、名前や兄弟構成など知っているわけではない。

親戚が集まっている時に説明を受けた、「あれはおじいちゃんの従兄弟」みたいなのって、ぼんやりとした「親戚」という集団に統合される。
「〇〇のおっちゃん」「△△屋の〜ちゃん」みたいな呼称に落ち着く。
(名字が同じだとややこしいから、というのもあるけれど)

昔の戸籍を取り寄せて見たことがあるけれど、昔って養子も離婚も再婚もあるし、子どもがいっぱいいて、幼くして・あるいは戦争でたくさん亡くなっている。
それを系統立ててどんどん遡って、家系図を作っていくのが、先祖探偵・風子の仕事。
血縁者と思われる人に手紙を書き、現地を訪れてご近所さんの話を聞き、郷土資料館の写真を見て…。

この小説でひとつ驚いたのが、棄児戸籍(捨て子)には日本は簡単に戸籍を作ってくれるのに、無戸籍だったり、南米から引き上げてきた人の戸籍は作るのがとても難しいということ。
そしてその人達が、戸籍がなく生きていくことがいかに困難か。

最後、風子は自身の出自を知る。
何も分からない、何も覚えていないと言いなさい。
母が子を棄てたのは、子どもに戸籍をつくるためだった。

私は旧姓使用で仕事をしている。
社会的には私は、生まれたときから同じ名前の「私」として連続している。
けれど、戸籍上に掲載された名前は、婚姻により姓が変わった私だ。
会社からたまに「本名を記入してください」と指定のある書類が来るとき、そこに書かれた名前を誰なんだろう、と馴染みのない他人を眺めるように思う。

私が死んだ後、戸籍に残る名前はこの名前だ。
墓(があるのなら)に刻まれる名前だって。
私のようで私でない、他人のような女の名前。

西尾維新『戦物語』では、伴侶の姓を自らの姓に変えることは、相手を安い絵の具で塗りつぶしたような、人を刺したような感触だと、夫側が言う。
しかしそれを、過去の自分から剥がれる「グレート・リセット」と言っている本もあった。

私の子孫がいたとして、三代先くらいまでのまだ記憶にある段階であったって、私はただ下の名前で認識されるんだろう。
顔の上から張り紙をされたようなその状態。キョンシーみたいに。
私は私のままであるのに、そこに私はいない。

無戸籍であっても、それは同じことだろう。
その存在はたしかにそこにあるのに。
社会的な管理の網の外にある。
そこにいるのにそこにいない存在。
戸籍という不可思議で絶対的な紙。


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最終更新日  2023.07.22 08:10:57
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