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2023.08.06
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テーマ: 読書(8559)

書名



神戸・続神戸 (新潮文庫) [ 西東 三鬼 ]

引用


山口県の山中、道路に添って小川が流れている。その路傍の一軒一軒の前に、四斗樽が置いてあって「防火用水」と書いてあった。小川がドンドン流れているその前に。
又、背後に山々を負った小さな村々に、必ず火の見櫓ほどの、何々村対空看視哨というものが建てられていた。裏山に馳け登れば瀬戸内海が見えるような村に。(略)
白井氏は「ごくろう様」といってニッコリ笑った。私も仕方なくほほえもうとしたが、頬の筋肉がひきつただけであった。


感想


2023年冊目
★★★

2022.02.06「 2022年1月に読んだ本まとめ/これから読みたい本 」で書いたように、北海道のいわた書店さんがやっている「1万円選書」に申し込んで幸運にも当選し、カルテを書いて提出して、本を選んでいただきました。
しかしそこから読まず^^;

2023.01.03「 2023年の課題図書48冊 」として、今年は読もう!と心に決めてみるも、実行できず…。
夏なので、自分の決めた課題図書を読もう!と集中的に読むことにしました。

で、一番薄っぺらな文庫本のこれから手に取る。

薄さに見合わない濃さだった。

著者は、

西東三鬼(サイトウサンキ)
1900-1962。岡山県生れ。日本歯科医専卒業後、シンガポールにて歯科医院を開業。帰国後、33歳で俳句を始め、新興俳句運動に力を注ぐ。1940(昭和15)年、いわゆる「京大俳句事件」で検挙される。’42年に神戸に転居。終戦後に現代俳句協会を創設。一時、雑誌「俳句」の編集長も務めた。句集の他、自伝的作品『神戸・続神戸・俳愚伝』でも高い評価を得る


私はこの人を全然知らなくて。有名な人…?
この本は、戦前戦後に東京から神戸に逃れてきた著者が、混沌としたホテル住まいを描いた記録。
当時の神戸では、さまざまな国の人間が入り乱れ、暮らしていた。

今の「気取った」神戸のイメージが一新される。
なんというか、戦争についての記録とか証言って、偏っているよなあ。
残したいもの、見せたいもの。
の、裏側にある、隠したいもの、話したくないもの。
外国人を相手にした娼婦たち。
以前、京極夏彦の小説で赤線が出てきた時に、大学生だった私は初めてそれを知ったんだよ。


薄い文庫本なのに、ひとつひとつが、短編映画のような濃いお話。
読み始めは、時代背景的なものもあり取っ掛かりにくく、「これ、読み通せるかな」と思ったけれど、数章読むと引き込まれて最後まで一気に読んでしまった。
むちゃくちゃなのだ。でもそれが、読んでいて楽しい。
これはなんていうか、ちょっと、この時代の空気だからこそ書けるものという気がする。

文中に登場する「月下氷人をつとめる」って何?と思ったら仲人のことなんですねえ。

まさかの「ゼクシィ」に用語解説があった

「1万円選書」ならではの楽しみとして、「いわた書店さんが私にこれを選んでくれたのは、なぜだろう?」と考えながら読む、というのがある。
当時提出した選書カルテを読み返していると、「いちばんしたい事は何ですか?」の質問に、私は
「海外または国内で、別の場所を短期滞在しながら旅するように暮らしたい。…
違う世界に身を置いて、価値観ぐらぐらさせられたい。打ちのめされて、それでも変わらないものは何なのか知りたい。」
と書いていました。

改めて思ったのだけれど、私はこういう「様々な人が行き交う」、「袖すり合うも他生の縁」のような暮らし、「祝祭的な日々」が好き。
そこに傍観者、観察者として参加したいというか。

驚いたのが、この本の解説が森見登美彦氏(私の一番好きな作家)だったこと。
選書カルテには一言も書いていないのに。
こんなところでトミーに会うなんて!

登美彦氏は、この手記を「圧倒的な密度」で書かれた「千夜一夜物語」だと言う。
まさにそうだと思う。
魅力的な登場人物が現れては立ち消える。魔法のランプの煙のように。
作中にずっと漂う「フワフワした空気」が、まさにその煙に映し出された幻のようであるからだろう。
現代から見ればなおさら。

この本、選書してもらわなければ多分一生手に取ることはなかったと思う。
ふだん、人から本を勧められても、「うん、でも今手持ちの本でいっぱいいっぱいでね」となってしまい、素直にすぐ読むということができない。
推薦や選書だけじゃだめで、現物として手元にあること、が大事なんだろう。
そしてそれを読むことね!積読じゃなく!笑

書かれた言葉は、待っている。
「その人」に読まれることを。
その誰かに声をかけ取り持つ。
それが選書ということだろう。


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* これまで日曜日は英語学習記録を投稿していましたが、月〜日の記録なので、終了後の月曜日(明日)に投稿することにしました *





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最終更新日  2023.08.06 07:45:43
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