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現在、アメリカにはふたりの大統領が存在している。ひとりは言うまでもなくバラク・オバマ、もうひとりはヒラリー・クリントンだ。ふたりの違いが鮮明に出ているのはイランとホンジュラスに対する姿勢。オバマはイランの核開発問題を話し合いで解決しようとしているのに対し、クリントンは核攻撃も辞さない姿勢だ。ホンジュラスのクーデターに関しては、オバマが反対しているのに対し、クロントンは理解を示している。 オバマ大統領は一貫してイランとは話し合おうとしている。六月にカイロを訪問した際には、1953年にイランで引き起こされた王政復活クーデターにアメリカが関係したことを認めているが、これもそうした姿勢のあらわれだろう。ところが、ほぼ同じ時期にクリントン長官はテレビでイランに対する先制攻撃に言及している。 7月にクリントン長官はCFR(外交問題評議会)で、イスラエルを守るためならイランに対する軍事力の行使を躊躇しないという趣旨の発言をした。その後、ロバート・ゲーツ国防長官はイスラエルを訪問し、非軍事的な政策でイランを説得できると語っているが、クリントン国務長官の発言を大統領やゲーツ国防長官が必至に取り消して歩いているように見える。 イランに対するオバマ政権の話し合い路線は、イランの大統領選挙後の混乱で足踏みしているのだが、本コラムでは何度か指摘したように、少なくとも選挙結果はアメリカの団体が事前に行った世論調査に合致している。何者かがイラン国内を混乱させようとした可能性は小さくない。 日本のマスコミが言うところの「改革派」は、選挙結果をインチキだと主張、示威行動を展開したのだが、このグループは国営企業の民営化や貿易の自由化を主張していた人々と重なる。1990年にラフサンジャニ政権がはじめた「経済改革」の支持者ということだ。民営化(払い下げ)は、一部の人間に巨万の富を提供する。明治維新直後の日本もそうであったし、エリツィン時代のロシアもそうだった。日本の「郵政民営化」も同じことだ。 どうやら、イランでもそうしたことが起こったようである。イランでも銀行は実業への融資から抵当貸付にシフト、2005年には不動産バブルを生み出している。この年に政権を掌握したアフマディネジャド大統領は金融機関にメスを入れようとしたが、うまくいっていない。2006年にはパールシヤーン銀行の総裁を解任しようとしたが、金融界の抗議で解任を取り消している。そして、2008年にバブルは破裂する。 日本のマスコミは今でも小泉純一郎首相が推進した「改革路線」を必至に擁護しているが、イラン情勢の報道も同じスタンスを貫いている。逆に、イランでは改革路線への憎悪がアフマディネジャド支持につながっている。アフマディネジャドが改革の見直しに失敗すれば、そのときは本当に内乱状態になるかもしれない。 また、ホンジュラスだが、この国は現在、クーデターの最中にある。そのクーデターの前、今年の初め頃からチキータやドールがホンジュラスのセラヤ政権を批判していた。最低賃金を60%引き上げる方針を打ち出したからだ。 言うまでもなく、巨大企業がホンジュラスのような国にやってくるのは、劣悪な条件で働かせることができるからだが、最近では労働者が待遇の改善を求めていた。軍が労働者に発砲したり、会社が右翼グループ(テロリスト)を用心棒として雇ったりしていた。チキータが雇っている法律事務所には、ヘンリー・キッシンジャー、ジョン・ボルトン、そしてジョン・ネグロポンテも関係している。 両社に同調したのがCOHEP(ホンジュラス全国ビジネス会議)。ホンジュラスの財界を代表するような団体で、今回のクーデターでも重要な役割を果たしている。「バナナ帝国」は滅びていないようだ。こうしたアメリカやホンジュラスの企業にとって、セラヤ大統領の登場は我慢ならないのだろう。ホンジュラスで再選が認められてしまえば、労働者に指示されているセラヤがこれからも長く大統領をつとめることになり、巨大企業にとってはうまみがなくなる。 そのクーデターをクリントン国務長官は当初、クーデターと呼ぶことを拒否していた。セラヤが帰国しようとしたときには「無謀だ」と非難、クーデター派を批判することはなかった。ホンジュラスでも問題の根には経済活動がある。日本のマスコミは内でも外でも巨大企業の肩を持っているが、世界の労働者は「改革」を明確に拒否している。そこから混乱は始まっている。
2009.07.29
今度はCFR(外交問題評議会)でヒラリー・クリントン米国務長官はイラン攻撃の強い意志を表明した。「友人や利権、アメリカ国民」を守るためなら軍事力の使用を躊躇しないというわけだが、イスラエルとアメリカの親イスラエル派がイランへの先制攻撃を画策している現状を考えると、イランの反撃は許さないという宣言に等しい。イスラエルから攻撃を受けた場合には反撃すると明言しているイラン政府への恫喝ともとれる。 マイク・ミューレン米統合参謀本部議長はイランが核兵器の開発を進めていると考えているのだが、軍事攻撃を最後の手段だとしている。イランを攻撃すれば、中東が今以上に不安定化してしまうと警告しているのだ。 こうした意見に反発するかのように、イスラエルはこのところ、軍事的な示威行動を繰り返している。イランへの脅しというだけでなく、ガザ地区の戦争犯罪を国連が調査している事実、その調査にイスラエル政府が協力していない事実を隠す効果もあるだろう。入植問題ではアメリカ政府とも対立、イスラエルは追い詰められている。 過去にもイスラエルがピンチになったことがある。1973年の第4次中東戦争ではアラブ諸国にお株を奪われ、奇襲攻撃で敗北は必至という状況になったのだが、このときに使った切り札が核攻撃だった。核戦争を始めるとアメリカ政府を脅し、支援を取り付けたと言われている。 つまり、イスラエルは「核兵器」の威力を熟知している。今回もイスラエルはピンチを脱するために何をするかわからない。レーザー誘導爆弾でトンネルを作り、小型核爆弾を撃ち込む計画だとも報道されているが、有りえない話ではない。 六月には、イスラエルの潜水艦がエジプトの艦船にエスコートされて地中海から紅海へ入った。核ミサイルを発射できるドイツ製のドルフィン級潜水艦だが、さらに2隻の軍艦が紅海へ派遣されている。そのうちハニトは6月に運河を通過済みで、14日に通過したのはエイラット。従来、イスラエルは情報面の理由からスエズ運河を使わなかったのだが、今回はイランへの示威行動ということで、あえて姿を見せたわけだ。 7月上旬には、サウジアラビア政府がイスラエルのイラン攻撃を容認したと報道されたが、これは直ぐに否定された。実際はどうだったか不明だが、少なくともこうした話をサウジアラビア国民が容認することは考えにくい。実際にイラン攻撃に協力したとなれば、サウジアラビアの王制が倒れる可能性が高くなる。 エジプトの場合、ガザ地区に対するイスラエルの兵糧攻めに参加していたわけで、イラン攻撃に賛成しても不思議ではない。パレスチナ人国家の建設が交換条件になっているとする話もあるが、イスラエルが入植地を放棄し、パレスチナ人国家を認めるとは到底、思えない。せいぜい認めるのは、アメリカの先住民保留地のような存在だろう。 実際にイスラエル、あるいはアメリカがイランを攻撃したならば、エジプトで内乱が始まる可能性もある。イスラエルやアメリカの親イスラエル派の中には、核兵器で都市を破壊してしまえば、反撃する気力をなくすだろうと思っている人もいるようだが、これは「希望的観測」にすぎない。 バラク・オバマ米大統領がカイロでイスラム世界との対話を宣言したとき、クリントンはアメリカのネットワーク局ABCでイランへの先制攻撃にも言及していた。イスラエルを孤立させないための演技なのか、本当にイラン攻撃を望んでいるのかは不明だが、アメリカがイランを攻撃したならば、その影響はイラクの比ではないと見られている。イラン攻撃が実行されれば、『アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る』(洋泉社、2007年)ということになる。
2009.07.16
アメリカに「殺し屋部隊」が存在することは「知る人ぞ知る」話。現在でも複数のチームが活動していると言われている。拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房、2005年)の主要テーマは、そうしたチームの実態と背景を暴くことにあった。アメリカを「自由と民主主義」の国だということにしたい人々にとっては都合の悪い事実であろう。 1970年代の半ばから暗殺作戦は実行されていないことになっているようだが、信用はできない。アメリカの外では特殊部隊のメンバーが実行、国内では犯罪組織が殺し屋を紹介していると主張する人もいるが、支配システムの暗部にメスを入れようとしたジャーナリストの死に方を見ていると、有りえない話ではない。 ベトナム戦争では、レジスタンスの強い地域は、村ごと皆殺しにするCIAと特殊部隊による秘密作戦が展開されていた。「フェニックス・プログラム」だ。日本では学者もマスコミも触れたがらないようだが、日本以外では「悪名高い」虐殺事件である。ソンミ村事件(ミ・ライ事件)はその一環だった。詳しくは三一書房から出した拙著を読んでもらうとして、この作戦の関係者はブッシュ・ジュニア政権でも政府の仕事をしていた。 このところ、ジョージ・W・ブッシュ政権がイスラム武装勢力「アル・カイダ」の幹部を暗殺するための殺し屋部隊を編成していたとする報道が欧米では盛んに流れている。こうしたチームの存在を知ったレオン・パネッタCIA長官は工作を中止したことになっているのだが、この報道自体が「ダメージ・コントロール」、つまり全体像が露見して大きなダメージを受けるのを防ぐため、一部の事実を自分たちにとって都合の良い解説つきで明るみに出した可能性がある。 ブッシュ・ジュニア政権がイラクへの先制攻撃を始めて間もない頃、「121機動部隊」が編成され、バース党の中心人物を拉致、あるいは殺害していると調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2003年12月に書いている。機動部隊のメンバーは陸軍のデルタ・フォース、海軍のSEALs、CIAの特殊部隊から集められたのだが、この工作はイスラエルの支援を受けていたとされている。イスラエルの特殊部隊や情報部隊がノースカロライナ州フォート・ブラッグ(陸軍特殊作戦コマンドの基地)とイスラエルでイラク戦に備えた訓練が行われたというのだ。同記者は今年3月に、リチャード・チェイニー副大統領直属JSOC(統合特殊作戦コマンド)が暗殺部隊として活動していると発言している。 イラクでの暗殺工作は、2007年に起こった事件でも注目された。アメリカ陸軍のスナイパー2名が非武装のイラク人ふたりを射殺し、バグダッドで軍事法廷にかけられたのだが、殺人は許可されていたということで無罪になっている。こうした話はほかにもある。 もうひとつ、アメリカのイラク攻撃にイスラエルが関わっていることを示す話。捕虜に対する拷問で有名になったアブ・グレイブ刑務所で所長を務めていたジャニス・カルピンスキー准将(刑務所の実態を暴露したため、大佐に降格)によると、所長の指揮下にない人たちが刑務所内で活動、記録にない「囚人」を取り調べていたとする報道もある。問題になった拷問が行われていた区域は、トーマス・パッパス大佐とスティーブ・ジョーダン中佐という二人の情報将校が管理していたと言われている。さらに、カルピンスキー所長は「イスラエル人尋問官」にも言及しているのだ。 マーク・ホーセンボールとマイケル・イシコフがニューズウィーク誌に書いた記事によると、問題の暗殺作戦はイスラエルのやり方を真似たのだという。1972年のミュンヘン・オリンピックでイスラエル選手団が襲撃された報復として、実行グループ(黒い九月)をモサド(イスラエルの情報機関)が追いかけて暗殺していった手法だ。もっとも、この報復作戦では無関係の人間も殺しているが。
2009.07.16
アメリカ政府や韓国政府のコンピュータがサイバー攻撃された。ターゲットの中には、ホワイトハウス、国防総省、ニューヨーク証券取引所、NSA(国家安全保障局)、国土安全保障省、国務省、Nasdaq、ワシントン・ポスト紙などが含まれている。韓国政府は朝鮮、あるいは同国を支持するグループが実行したと言っているが、発信源を特定することは難しく、現段階では断定するだけの証拠は明らかになっていない。 その一方、イスラエルがイランのネットワークにハッキングしているとする情報も流れている。イランの核プログラムに関する情報を集めると同時にサイバー攻撃を仕掛けているというのだ。 イスラエルは1980年代の前半からトラップドアなどを組み込んだソフトをダミー会社経由で各国政府や国際機関に売却、自動的に情報を入手する仕組みを作り上げてきた。この工作は、INSLAWというアメリカの会社が開発したシステム「PROMIS」の横領事件で広く知られるようになった。 このシステムは情報の収集と分析を行うために開発されたのだが、非常に優秀で、日本の法務省も1979年には注目して会社側に接触している。 INSLAWはアメリカの司法省と仕事をしていたのだが、ロナルド・レーガン政権になると司法省から嫌がらせを受け、倒産に追い込まれてしまう。会社側は司法省がPROMISを横領したと裁判に訴え、破産裁判所と連邦地裁は会社側の主張を認め、下院の司法委員会も両裁判所が出した判決と同じ内容の報告書を公表している。つまり、司法省が民間企業の開発した商品を横領したということを判事が認めたということだ。 この判決は最終的に最高裁でひっくり返されているが、そのソフトがアメリカとイスラエルの情報機関へ別々に流れ、それぞれがトラップドアを組み込んだというのだ。イスラエル側でそのソフトを売っていた人物が「ミラー・グループ」の発行人だったロバート・マクスウェル。ヨルダン政府にも売り込み、同政府が集めていたパレスチナ人に関する情報をイスラエル政府は居ながらにして入手することができた。勿論、治安対策/弾圧に有効だった。 1970年代からアメリカの電子情報機関NSAやイギリスのGCHQは地球規模の通信傍受システムECHELONを築いてきたが、コンピュータ技術の進歩でECHELONの能力も飛躍的に向上、例えば、ECHELONで情報を収集してPROMISで記録と分析ということができるようになった。 1990年代に入るとアメリカとイギリス(UKUSA)による情報支配が世界的な問題になるのだが、日本のマスコミは取り上げようとしない。個人的な体験で恐縮だが、一般に「左翼」と見られている記者/編集者も、この問題に触れようとしなかった。結局、記事を取り上げてくれたのは「軍事研究」(2001年2月号)だ。 この問題は拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房)でも詳しく説明しているので、是非ご覧ください。(2009.07.09)
2009.07.09
イスラエルに対してイラン攻撃の「青信号」をアメリカ政府が出したとする見方をバラク・オバマ米大統領は明確に否定した。5日にジョー・バイデン米副大統領がアメリカのネットワーク局ABCの番組の中で、イスラエルのイラン攻撃を止めないと語ったことから、そのように解釈する人が出てきていた。 物事を単純化し、「アメリカはユダヤ人に支配されている」という「公式」を自動的に当てはめて何かを理解したかのように錯覚する人もいるようだが、これはネオコンの思うつぼだ。現実はもっと複雑である。親イスラエル派に従えばアメリカのエリートたちに喜ばれると思っている人間が日本の政界やマスコミにいるようだが、根本的に間違っているということだ。 ラーム・エマニュエル大統領主席補佐官やヒラリー・クリントン国務長官のような親イスラエル派がオバマ政権の内部に存在していることは確かだが、1980年代から親イスラエル派と対立してきたロバート・ゲーツ国防長官やブッシュ・ジュニア政権の「中国脅威論」を太平洋軍司令官の立場から公然と否定したデニス・ブレア国家情報長官、イラク攻撃に軍人として反対したエリック・シンセキ退役軍人長官なども配置されている。 親イスラエル派は「ネオコン(新保守)」と「シアコン(神保守)」を柱にしているのに対し、ゲーツたちはアメリカを拠点とする勢力で、いわば「旧保守」である。彼らも決して平和的なグループではないのだが、アメリカという国家を崩壊させるような政策には反対する。ベトナム戦争を経験し、戦後の戦争は儲からない、つまり領土を拡大できず、財宝を略奪できず、賠償金も手にできないことを悟り、「デタント(緊張緩和)」に舵を切った人たちも出てきた。ネオコンが「第2次朝鮮戦争」を始めようとしたとき、東アジアに多額の投資をしている旧保守は止めさせている。 日本には戦争が大好きでネオコンに惹かれる人が少なくないようだが、希望的観測から決めてかかるべきではない。戦争好きな人の多くは「儲かる」と信じている。それで、不景気になると戦争待望論が出てくる。 考えてみると、明治以降、日本の輸送は東海道、つまり太平洋のすぐそばを通る道路や鉄道が中心になっている。日本海の沿岸には原子力発電所が乱立している。日本が攻撃されると考えれば、ありえないことだ。他国が戦場になるだけで、自分たちは戦争の被害を受けないと思っているとしか考えらえない。「防衛戦争」は想定していないのだろう。第2次世界大戦を経験した人々は違うだろうが、「戦争を知らずに育った」世代で想像力のない人たちは、他国に攻め込むことで頭がいっぱいのようだ。 ところで、中央アジアの混乱は中国の西部、新疆ウイグル自治区へも波及、最近ではウイグル族と漢族が衝突して多くの死者が出たと言われている。自治区の西にはカザフスタンがあり、そのカザフスタンを含め、カスピ海周辺は世界有数の油断地帯である。地政学的な意味も含め、中国政府としては手放したくない地域だろう。 別の民族が住む地域を支配しようとする場合、自分たちに近い民族を移住させようとすることはよくあるが、土地を奪われる形になる先住民が怒るのは当然のことだ。新疆ウイグル自治区でも以前から不満は爆発寸前で、北京オリンピックのときには同地区からきていた人たちは北京から追い出されている。アメリカ、イスラエル、ドイツ、クロアチアなどの場合、邪魔な民族を大量殺戮したが、そうしたことのできる時代ではなく、できてもするべきではない。 さて、新疆ウイグル自治区と関係が深いカザフスタン、そしてイラクのクルド人が居住している地域で親イスラエル派の大物、リチャード・パールは石油ビジネスを展開しようとしていると報道されている。 パールが休暇をともに過ごすほど親しいアレキサンダー・ミルチェフはワシントンを拠点とするコンサルタントで、カザフスタン政府の顧問を務めている。この話が正しいかどうかは不明だが、注目しておく必要はある。
2009.07.08
ジョー・バイデン米副大統領はアメリカのネットワーク局ABCが5日に放送した番組の中で、イスラエルのイラン攻撃を止めないと発言した。主権国家が自らの安全に関して決めたことに口出しはしないということのようだが、この発言をイラン攻撃の「青信号」だと解釈するのか、イスラエルを突き放したのだと解釈するのかは微妙なところ。アメリカが積極的に動くことはないというようには聞こえるが。 先月4日、バラク・オバマ大統領はカイロでの演説でイスラム諸国との新たな関係を築く意志を示したのだが、障害は多い。まず、イスラエル。この国は和平に興味がなく、アメリカ政府の意向を無視して入植活動を継続し、国連が行っているガザ攻撃における「戦争犯罪」の調査にも背を向けている。イランでは大統領選挙の結果が出た後、「改革派」のホセイン・ムサビ候補の支持者が選挙に不正があったと主張して抗議活動を始め、混乱している。アメリカ政府としてもイランと話し合うことは難しい状況だ。 本コラムでは何度も指摘しているが、投票の3週間前にアメリカのNPO「TFT(恐怖のない明日)」が調査を行い、ダブルスコア以上の差でマフムード・アフマディネジャド大統領が圧勝するという結果が出ていた。発表された投票結果では、その世論調査よりも差は縮まっていたが、ほぼ調査通りの結果だった。結果を左右するような不正があったとは言えない。当初は反アフマディネジャドで威勢の良かったイギリスのメディアも、この調査の存在が伝えられると直ぐにトーンダウンしている。 本当に自分たちが勝ったとホセイン・ムサビ候補や支持者は信じていたのか、信じた振りをしていたのかは不明だが、もし信じていたとするならば、誰かに騙された可能性が出てくる。騙されたのならば誰が騙したのか?信じた振りをしたのならば、目的は何なのか? ムサビ陣営を騙す可能性があるのは、アフマディネジャド陣営かイスラエルだろう。国内を緊張状態にしておいた方が統治しやすいと考えても不思議ではない。また、イラン攻撃を実現したいイスラエルや親イスラエル派にとってもイランの混乱は好都合だ。 実際、イランの混乱を口実にしてアメリカ議会の親イスラエル派は、イランを攻撃するべきだと発言し、オバマ大統領に圧力を加えている。イスラエル、あるいは親イスラエル派にとってムサビ派の行動は願ってもないことだった。混乱を収拾するためにイラン政府が強権を発動してくれれば、さらにありがたいだろう。 その一方、アメリカ政府にはイラン攻撃を避けたいと思っている人たちが少なくない。ロバート・ゲーツ国防長官はイラン攻撃がイスラム世界に「聖戦世代」を作り出し、孫の世代にはアメリカが戦場になると発言していると伝えられているが、これまでに行った彼の言動から判断して、信憑性はある。オバマもゲーツもイラン攻撃には反対している。 しかし、ホワイトハウスの中にも親イスラエル派は存在し、イラン攻撃にも前向きな姿勢を示している。例えば、先月7日、大統領がカイロで演説していた頃、ヒラリー・クリントン国務長官はABCの番組で、イスラエルを攻撃したらアメリカが報復すると発言、イランに対する先制攻撃にも言及した。大統領と国務長官が「同床異夢」だということは明らかだ。 イラン攻撃にはサウジ・アラビアも賛成しているとする報道もあるが、実際に攻撃があれば、サウジ・アラビアの国内で反乱が起きて王制が倒れるような事態に発展する可能性も出てくる。親米独裁国家の支配者の思惑とは関係なく、一般民衆がイスラエルに対する報復攻撃を始めることも考えられるのだが、そうなったとき、アメリカは主権国家としてのイランに対し、イスラエルに代わって報復攻撃するのだろうか?
2009.07.05
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