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イスラエルが5日間の軍事訓練を始めた。ガザ地区やレバノンからのロケット攻撃、シリアやイランからのミサイル攻撃を想定しているようだが、こうした攻撃を受けるとするならば、イスラエルがイランを先制攻撃したケースだろう。 現在、アメリカ政府とイスラエル政府はヨルダン川西岸の入植を巡り、対立している。ガザ地区と西岸は、イスラエルが1967年の中東戦争で軍事侵攻して占領した地域。イスラエルを「建国」する際に支配できなかった場所を奪ったのだとも言える。つまり、建国時の計画を達成するためにはガザ地区やヨルダン川西岸を支配する必要があるわけで、アメリカ政府が反対しようと、イスラエルは入植を続けるだろう。 ラーム・エマニュエル大統領首席補佐官やヒラリー・クリントン国務大臣のように親イスラエル派を重用しているバラク・オバマ大統領だが、入植地の拡大によってイスラム社会の怒りが膨らみ、反米感情が爆発することを恐れている。今のところ、「親米アラブ諸国」は独裁的な体制で民衆の怒りを抑え込んでいるが、ある一線を越えて中東が真に民主化されたなら、アメリカの石油資本は中東の利権を失う可能性すらある。 資金や武器など、アメリカからの支援で強大化しているイスラエルが中東の油田地帯を支配するような展開もアメリカの「旧保守」にとっては好ましくない。イスラエルの暴走を何とか阻止しなければならず、イラクやアフガニスタンの戦乱も終息させる必要があるのだが、イスラエルはイスラム世界の混乱を望んでいる。これは1990年代からネオコンが主張していた戦略。例えば、イラクへの先制攻撃でアメリカは疲弊しているが、サダム・フセインを排除し、イラクを破壊するというネオコン/イスラエルの目標は達成された。 オバマ政権でも親イスラエル派の力は無視できないが、その一方でアメリカとイスラエルの利害対立は深刻になっている。この矛盾をどうするか、オバマ大統領も頭を痛めているだろうが、そうした時に朝鮮が核実験を行い、ミサイルの発射実験を繰り返している。
2009.05.31
朝鮮半島で軍事的な緊張が高まっている。ジョージ・W・ブッシュ政権がスタートして間もない頃にも焦臭い動きがあったのだが、それ以来のことだ。ブッシュ大統領を動かしていたネオコン(新保守)はその頃、朝鮮に対する軍事侵攻を計画していたが、東アジアに多額の投資をしている旧保守は戦争に反対、開戦の動きを止めたと言われている。 その後、アフガニスタンやイラクに先制攻撃を仕掛けたため、朝鮮半島は忘れられたような形になっていたが、ネオコンの戦略によると、サダム・フセインの排除と同じように東アジアの破壊は重要な意味を持っている。 ネオコンが東アジアを潜在的なライバルと見なし、破壊の対象だと考えていることは彼らが2000年に発表した『アメリカ国防の再構築』を読んでもわかる。ネオコンが朝鮮を脅威だと宣伝する理由もそこにある。日本と朝鮮との対立は、彼らにとって願ってもないことだ。 言うまでもないだろうが、彼らは「潜在的ライバル」を叩きつぶす戦略を持っている。つまり、ターゲットは朝鮮でなく韓国や中国、そして日本だと考えるべきだということ。東アジアを破壊したいのだ。 こうした状況の中、ジョージ・ケーシー米陸軍参謀長は、朝鮮と戦争する準備ができている発言しているのだが、ロシア政府の高官たちは核戦争にエスカレートすることを心配をしている。核戦争になれば、朝鮮半島は致命的な打撃を受け、中国やロシア、そして日本も無傷ではすまない。 イラクの場合、「大量破壊兵器」を持っていないことを知っていたのでアメリカ政府は開戦の決断を簡単にできたのであり、実際に核兵器が存在している朝鮮で同じことをするはずがないと言う人もいるだろうが、そういう人たちはイラク攻撃の前にも「まさか」と言っていたのではないだろうか? イラク攻撃の場合もそうだったが、東アジアでの戦争に積極的なのはネオコン。つまり、イスラエルの立場から情勢を分析する必要がある。1990年代からネオコンは軍事力で潜在的なライバルを叩きつぶすべきだと主張、経済成長が著しい東アジアを最重要ターゲットにしていた。つまり、東アジアを破壊することを目的とするならば、核戦争も厭わないだろう。中東とは違い、大規模な油田があるわけでなく、その点は気楽かもしれない。スクラップ・アンド・ビルドでビジネス・チャンスだと考える人間が出てきても不思議ではない。日本がアメリカで保有している債券だけでなく、タックスヘブンに隠している資金も手にするつもりかもしれない。 戦争状態に入ると、日本でも戒厳令がしかれる。そうした意味で、「新型インフルエンザ」の空港での検疫は予行演習になったかもしれない。国内での感染対策がお粗末で、単なるパフォーマンスだとも批判されているが、そうした演習としての意味はあったと言えるだろう。 朝鮮政府も敗北が明確になれば、核ミサイルを発射する可能性があるが、その前に特殊部隊が韓国や日本に侵入して破壊工作を展開することも予想される。日本海側にある原子力発電所は絶好のターゲットだろう。 東アジアで軍事的な緊張が高まる中、日本政府の高官たちの表情に緊迫感が感じられない。イラクへの軍事侵攻が議論されていた2002年頃、日本では「空気」を読むことしか能がない「ネットいなご」やマスコミは戦争に前向きな姿勢を見せていたが、「左翼」と見なされていた「知識人」も深刻な事態として受け取めていなかった。ほかの国々に比べ、日本には脳天気な人が多いようだ。 かつて、日本の友好国とされている某国の情報機関員から「日本人は毒蛇の中を目隠しして歩いているようで、怖い」と言われたことがある。今でもそうした状態は続いているようだ。
2009.05.30
朝鮮が2度目の核実験を実施したようだ。朝鮮側が核実験を成功させたと発表したほか、実験によるものと見られる地震が観測されたことから確実視され、その規模は広島や長崎に投下された原爆と同程度だったと推測されている。 国連の安全保障理事会はこの実験を2006年の決議に違反していると非難、火曜日から新しい決議を作成するための協議を始めるそうだが、これは当然の話。核兵器の使用は勿論、開発も許されない。 しかし、今回の核実験を協議している常任理事国、つまり、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、そして中国は、いずれも核兵器の保有国だということも事実。核兵器を大量に保有している国々が核兵器の開発を行っている国を非難するというのは奇妙な光景だ。 この5カ国以外にも、インド、パキスタン、イスラエルが核兵器を保有、朝鮮もとりあえずは仲間入りしたようだ。イスラエルは攻撃の口実としてシリアやイランの「核兵器開発」を宣伝しているが、これはかなり誇張された話。このことはIAEA(国際原子力機関)も認めている。 中東の核兵器保有国はイスラエル以外にはない。イスラエルが核兵器開発の拠点としているディモナで働いていたモルデカイ・バヌヌが1986年にイギリスで告発、予想されていた以上に多くの核弾頭を保有していることが判明した。2006年12月にはイスラエルのエーウド・オルメルト首相も自国が核兵器を保有している事実を認める発言をしている。 イスラエルが保有する核弾頭の数は明確でないのだが、ジミー・カーター元米大統領は150発以上を持っていると語っている。つまり、イギリスと同程度、中国に迫る数字だ。インド、パキスタン、そして朝鮮のような次元の話ではない。 バヌヌの告発を掲載したのはイギリスのタイムズ紙だが、その前に接触したほかの有力メディアは取り上げることを拒否し、イスラエルの情報機関にバヌヌの動きは伝わった。その結果、バヌヌは拉致され、イスラエルで有罪判決を受けたのだが、こうしたイスラエルの行動は大きな問題になっていない。日本を含め、各国の政府もメディアもイスラエルには「寛容」である。 イスラエルは核弾頭を保有しているだけでなく、実際に「使用」している。1973年の第4次中東戦争で13発の原爆を爆撃機に積み込んだのだ。当初、アメリカ政府は目立った動きを見せなかったが、ソ連が核ミサイルをテル・アビブやハイファなどに向けたことを知ってから迅速に動き、核戦争は回避された。当時のアメリカ大統領はウォーターゲート事件で身動きのとれなかったリチャード・ニクソンである。 1967年まではフランス、それ以降はアメリカがイスラエルの核武装に協力したと言われているが、1969年にヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官はニクソン大統領に対し、「1970年末までにイスラエルは24基から30基のフランス製空対空ミサイルを保有、そのうち10基には核弾頭を搭載するだろう」とする内容の覚書を提出している。 この事実をアメリカ政府は秘密にすることになるわけだが、その理由はイスラエルの核兵器保有がソ連を刺激し、アラブ諸国に核兵器を提供することを恐れたからだという。イスラエルの核兵器保有を秘密にするという決定は1969年にニクソン大統領がイスラエルのゴルダ・メーヤー首相と会談したときに決まったとされている。 この取り決めを揺るがしかねない提案をバラク・オバマ米大統領は行っている。核廃絶に向かった進もうという発言である。その対象には当然、イスラエルも含まれている。核兵器を背景に、イスラム諸国だけでなくアメリカを脅してきたイスラエルとしては、受け入れがたい政策に思えるだろう。 朝鮮の核兵器開発は許し難い行為だが、この話だけに反応する人たちは、自分たちの滑稽さに気づいていないのだろうか?イスラエルなど核保有国にとって、朝鮮の核実験は歓迎すべき行為なのかもしれない。
2009.05.26
インフルエンザ騒動で忘れた人がいるかもしれないが、経済危機は去っていない。庶民階級から一部の特権階級へ資金が一方的に流れて滞留、「カネ余り」になり、投機市場に流出していき、「バブル」が肥大化し、そのバブルが破裂して金融システムは破綻した。このシステム自体に経済危機の根本的な原因があるのだが、このシステムを変える気配は感じられず、危機は深刻化している。 資本主義の仕組みは基本的にそうなのだが、1980年代、つまりロナルド・レーガン大統領の時代から「規制緩和」や「民営化」という形で「カネ余り」が推進され、2001年にジョージ・W・ブッシュ政権がスタートするころには暴走状態になっていた。 ソ連が消滅して誕生したロシアは勿論、「社会主義」の看板を掲げている中国も1980年前後にはミルトン・フリードマンの経済理論を政策に採り入れ、「市場原理主義」に改宗している。つまり、経済システムは「レッセ・フェール(なすに任せよ)」に移行し、資本主義国と同じような状態になった。 当局が議会を無視して動ければ、機能的に対応できると主張する人もいるようだが、そんなことはない。むしろ、経済危機を招いた、つまり不公正なシステムで巨万の富を手にした特権階級の代理人が自分たちの悪事を隠し、さらに庶民階級から略奪する仕組みを作ろうとするだけのこと。「消費税の増税」などは、その象徴的な政策だ。特権階級への資金流出を止め、滞留している資金を解放するしかない。つまり、これまで大儲けしてきた大企業や多額の収入を得てきた特権階級に資金を吐き出させるしかない。タックスヘブンへもメスを入れる必要がある。 日本にしろアメリカにしろ、危機的な庶民階級の生活を議会が何とかしようとしているようには見えないことも確かだが、これは議会が庶民階級の代弁者でないことを示しているだけ。特権階級のために活動しているということだ。「労働組合」も信用はできない。日本では「大手企業の労働者管理組合」が実態で、庶民階級とは無縁の存在。日本では港湾労働者を支配するために広域暴力団が使われてきたが、アメリカでは労働組合を支配するため、犯罪組織が介入している。 日本で言えば、大企業の経営者たち(財界)、霞ヶ関の官僚たち(官界)、財界や官界と結びついている与野党の政治家たち(政界)、財界、官界、政界をコントロールしているアメリカの特権階級、そして自分たちも特権階級の一部だと信じているマスコミは「自分たちの利益」を維持、拡大することに必死である。つまり、日本でもアメリカでも民主主義は機能不全の状態にある。経済破局への道は、この集団によって導かれている。 それでも、議会には異なった立場の人たちがいる。特権階級の内部で利害の衝突があって隠されてきた実態の一部が明るみに出る場合もあり、少数ではあるが、特権階級に批判的な議員も存在する。特権階級が議会を嫌うのは当然だろう。 議員は「選挙」によって選ばれているわけだが、だからといって「民意」を反映しているわけではない。庶民階級の利益代弁者が議会で大きな勢力を占めていれば、資金が特権階級に滞留するようなシステムはできなかった。「カネ余り」を引き起こし、「カジノ経済」の肥大化した挙げ句が「金融危機」なのであり、その後始末にこれほど苦しむことはなかった。危機が起こったとしても、危機を口実にして特権階級を助けるような政策を議会が許すはずがなかった。こうした現状から脱出するひとつの方法は、選挙で庶民の利益を議会で実現しようとする議員、政党を勝たせることにある。
2009.05.24
メキシコで「新型インフルエンザ」が広がり始めたときから、権力者たちが騒動を「目眩まし」として利用、政治経済や自然環境などの危機的な状況を隠そうとすることは予想できた。この見通しが「後講釈」でないことは、本コラムを読んでいる人ならわかっているだろう。 日本のマスコミは朝から晩までインフルエンザの伝染状況を熱心に報道、結果として郵政民営化にともなう不正疑惑、経済破局による労働環境の急速な悪化(非正規雇用の労働者切り捨てなど)、あるいは自衛隊の海外派兵などの問題は軽くあつかわれることになった。 世界的に見ると、マスクは日本人の愚かさを示す象徴になっているようだ。顔にフィットしたマスクを着用しているという前提でも、インフルエンザの予防という点で市販のマスクは無力だということは、今回の騒動が起こる前から言われていた。医療用のマスクは有効だとされているが、フィルターの能力が高いだけ呼吸が困難で、1時間も着用することは難しいと聞いたこともある。当然、情報を扱う人間ならば、この程度のことは知っていたはずで、レポーターがマスクをしてインタビューするという行為自体が国民をミスリードしていることになる。 これまで人間はインフルエンザと共存してきた。遺伝子操作で致死率を高めたウイルスでないかぎり、人間は受け入れるしかない。警戒することは悪くないが、恐怖する必要はない。不安を押さえるために買うという点でマスクは「お守り」と同じ役割をはたしているのだろうが、そうした「信心」を他人に押しつけるとなると、それは犯罪的だ。 同じことが「タミフル」にも言える。これは決して特効薬ではない。早い段階に服用すれば、少し早く直るという程度の薬にすぎない。だからこそ、日本以外の国では絶対視していない。 2005年に鳥インフルエンザの患者が東南アジアで発見され、ちょっとした騒動になったが、そのときにベトナムの医者はタイムズ紙の記者に対し、WHOの指針に従って処方したが、タミフルが効かなかったと話している。投与のタイミングが遅すぎるという指摘もあるが、これは微妙な話だ。ともかく、タミフルにしろリレンザにしろ、インフルエンザを劇的に直す薬ではなく、「お守り」に毛の生えた程度の代物でしかない。 昔から、伝染病には胡散臭い側面がある。今回の「新型インフルエンザ騒動」では専門家として「国立感染症研究所」の関係者が登場する。かつて、「国立予防衛生研究所」と呼ばれていたこの研究所は1947年にアメリカ軍の命令で設立されたが、その基盤は東大付属の伝染病研究所。戦争中、中国大陸で生物化学兵器の開発のために生体実験を繰り返していた「731部隊」と深い関係にあった研究所だ。こうした実験と関わりのある人々が予研の所長や副所長に就任していた過去は消せない。 予研と同じように生物化学兵器の開発に従事していた人々が中心になって創設した会社が「ミドリ十字」。日本にエイズを蔓延させた会社である。細菌戦の過去を背負った研究所の関係者がインフルエンザについてコメントする・・・ブラックジョークとしか言いようがない。
2009.05.23
キューバ政府の抗議を無視してアメリカ軍は島の東南部を「実効支配」、そこにグアンタナモ基地はある。ジョージ・W・ブッシュ政権は同基地に「強制収容所」を設置したのだが、ここを閉鎖する方針だとバラク・オバマ米大統領は明らかにした。 少し前、同基地に設置した「特別軍事法廷」の存続を同大統領が決めたと伝えられた。この話が流れると人権擁護団体だけでなく、「公約違反」だとして世界的な規模でオバマ大統領を非難する声が湧き起こったが、こうした声を意識したのかもしれない。ただ、拷問の証拠写真を公表しないという方針は維持する。写真の公開、反米闘争の激化、オバマ批判という流れを避けたかったのだろう。 ブッシュ政権は戦争捕虜でも犯罪容疑者でも「敵戦闘員」という「御札」を張り、グアンタナモ基地へ運べば条約も法律も無力化できると主張、拘束されている人々はあらゆる権利が剥奪され、拷問を受けてきた。「水責め」などは拷問のひとつにすぎず、その実態が露見するとアフガニスタンやイラクで活動するアメリカ兵の「安全」を脅かすほどのことが行われてきたらしい。オバマ大統領が写真の公表をやめたということは、そうしたことを暗示している。戦争している兵士の「安全」とは何を指しているのかわからないが。 イラクのアブ・グレイブ刑務所での拷問は末端の兵士による「個人的な犯罪」ということにされたが、拷問が組織的に行われたことも写真を公表すると明らかになる。拷問の中心人物は副大統領だったリチャード・チェイニーや国防長官だったドナルド・ラムズフェルドだと信じられているが、そうした行為には「イスラエル人」を名乗る人物も加わっていたと同刑務所の所長だったジャニス・カルピンスキー准将(実態を明らかにしたため、大佐に降格)は語っている。 おそらく、写真を公表できない最大の理由は、「戦争犯罪」に問われる恐怖をブッシュ政権の閣僚たちが感じていることにある。ガザ攻撃ではイスラエルの軍幹部や政府も戦争犯罪に関する調査の対象になっているが、親イスラエル派が動かしていたブッシュ政権も同じように見られている。 拷問を批判する声に最も激しく反発しているのはチェイニー元副大統領だが、これは当然。司法省の長官や法律顧問などが拷問を容認する主張を繰り返していたが、最も責任が重いのは同元副大統領だからだ。 チェイニーは「暗殺部隊」を指揮した疑いも持たれている。今年3月にミネソタ大学で開かれた集会において、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュはJSOC(統合特殊作戦司令部)の秘密工作について語っている。 ブッシュ時代、この部隊は各国へ侵入して活動いるが、その際、CIA支局長にも大使にも連絡する必要がなく、チェイニーのオフィスのみに報告すれば良いことになっていた。侵入して行う工作とは暗殺。リストに載っている人物を殺害していたというのだ。 後に、暗殺に関し、具体的な話が飛び出して世間を騒がせた。「パキスタンの首相だったベンジール・ブットはチェイニーの命令で暗殺された」とハーシュが語ったというのだが、こうした発言は確認できなかった。ハーシュ自身も発言を否定している。具体的な話は知っていても口にできないだろう。 アメリカに暗殺を含む破壊工作を行う機関が存在することは1970年代に議会の調査で明確になっている。この機関とは「OPC(政策調整局)」。後にCIAの内部に吸収される形になるが、実態は「組織内組織」として機能、CIAを隠れ蓑にして破壊工作を続けた。その流れの中で、西ヨーロッパでは破壊工作のネットワークが築かれた。これがいわゆる「NATOの秘密部隊」。1990年にはイタリア政府が、その存在を認めている。この秘密部隊を設置した口実は、「ソ連軍に占領された場合に備えて」ということだったのだが、実際は西ヨーロッパがアメリカから自立することを阻止することが目的だ。このほかにもいくつかの「官製暗殺部隊」がアメリカ政府内に存在していると言われている。 つまり、副大統領時代にチェイニーが「暗殺部隊」を動かしていたとしても不思議ではない。実際、JSOCが「テロとの戦争」を名目として暗殺を行ってきたという3月に大学で行った話をハーシュは取り下げていない。 グアンタナモでの「超法規的拘束」をやめて収用されている人々を移送すると「テロを再発する」という主張もあるが、確かに可能性はある。例えば、拷問を示す写真を封印したとしても、拘束されている人々の声が外部に漏れれば非難の声が高まり、戦争犯罪で裁くべきだと考える人が増え、イスラム諸国の人々を刺激することになりかねない。 それだけでなく、自分たちが行ってきたことを隠すため、「アメリカのテロ部隊」あるいは、その影響下にある「テロリスト」が何らかの「テロ」を実行し、オバマ大統領を攻撃するということも想像できる。 イタリアで活動していた「NATOの秘密部隊」、つまりグラディオは「左翼過激派」を装って「テロ活動」を繰り返し、社会の緊張を高め、人々を怯えさせ、「安心と安全」のために社会のファシズム化を推進したことを忘れてはならない。「恐怖戦術」は彼らの常套手段だ。
2009.05.22
バラク・オバマ米大統領はグアンタナモの米海軍基地に設置した「特別軍事法廷」の存続を決めた。この基地にはアメリカ軍が拘束した人々が送り込まれているのだが、彼らは「捕虜」でも「容疑者」でもなく「敵戦闘員」だとジョージ・W・ブッシュ政権は主張、あらゆる権利が剥奪され、拷問を受けてきた。「御札」を張り替えれば条約や法律は無視できるという陰陽師も驚くような詭弁でネオコン(新保守)が作り出した「強制収容所」である。 ブッシュ政権の中枢にいた人々、例えばリチャード・チェイニー元副大統領は「テロリスト」だから仕方がないと主張、解放したらアメリカに対して「テロ」を仕掛けると脅しているのだが、「テロリスト」とは主観的な表現にすぎない。実際、ソ連と戦っている当時、アメリカ政府は彼らを「自由の戦士」と呼んでいた。 解放したら戦闘に復帰するということは「捕虜」についても言える。 グアンタナモのケースでは、捕虜にしろ、容疑者にしろ、アメリカ政府は適切に対処するべきだと批判されているのであり、「テロ行為を野放しにしろ」と言われているわけではない。戦闘と無関係だった人もグアンタナモには収容されているが、外に出たならば、「反米闘争」に参加する可能性は高い。つまり、拷問に対する屈辱、怒りなどから復讐のため、「テロリスト」になるというわけだ。 昔から言われていることだが、拷問で得られる情報は信用できない。筋金入りの闘士なら薬物でも使わなければ自白はしないし、普通の人々は拷問から逃れるために嘘をつくことが珍しくない。その嘘が新たな「容疑者」を生みだし、新たな嘘が語られる。嘘の連鎖である。ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが行った「粛清」でも、こうした連鎖で東ヨーロッパの共産主義勢力は壊滅的なダメージを受けたのである。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) その収容所が注目される切っ掛けは、4年前にアメリカの有力雑誌、ニューズウィーク誌が載せた「イスラム教徒を精神的に追いつめる目的で看守や尋問官がコーランを冒涜している」とする記事だとされている。書いた記者はマイケル・イシコフで、CIAと深いつながりがあると信じられている人物。「軍事強硬派」の中でもネオコン(新保守)のやり方を好ましく思わない人々が声を上げ始めたと解釈する人もいた。 この記事が掲載される前から肉体的、あるいは精神的な拷問が行われていることは報道されていた。2002年には赤十字がアメリカ国防総省に対してコーラン冒涜に関する情報を伝えている。ニューズウィーク誌が記事を載せた頃から世界各地で反米デモが激しくなったようだが、それまでは無視されていただけである。 当初、オバマ大統領はグアンタナモ刑務所を閉鎖すると明言していた。この方針をブッシュ大統領を担いでいた勢力、つまり拷問を推進していた人々は激しく批判、そうしたときにCIAのメモが外部に漏れた。ナンシー・ペロシ下院議長など民主党の有力政治家に対しても、尋問テクニックを2002年9月に説明したと書かれていたのだ。このメモを根拠にして、彼らは「民主党も拷問を知っていた」と攻撃し始めた。ペロシ下院議長は「そうした尋問方法について、司法省は合法と判断した」と聞かされただけで実態は知らなかったと反論、議事録の公表を求めている。 CIAに限らないが、将来、問題になる可能性がある作戦や政策を実行する場合、「敵」を巻き込むために「誤解を招く」ような文書を混ぜることがよくあるので、ペロシ議長の言い分が正しい可能性もあるのだが、それにしてもグアンタナモに「特別軍事法廷」を設置すること自体が民主的プロセスを否定する行為なのであり、責任は免れない。 グアンタナモの存続を公表する前、オバマ大統領は拷問に関する写真の公表も取りやめている。アメリカに対する憎しみを呼び起こし、アメリカ軍の兵士を危険にするという主張に屈した形だが、それだけ拷問がひどいものだったことを示している。 勿論、グアンタナモだけで拷問が行われていたわけではない。アブ・グレイブ刑務所での拷問は写真が外部に漏れて大きな問題になった。責任を末端の兵士に押しつけて幹部は逃げた形になっているが、こんな話を信じている人は少ないだろう。拷問は組織的に行われていたのである。 世界各地にCIAの秘密刑務所が存在し、激しい拷問が繰り返されてきたことも間違いない。拷問の問題を追及していくと国際問題に発展するような仕組みになっているのかもしれないが、今回の決定、つまりグアンタナモの特別軍事法廷を存続するという決定はオバマ政権にとって大きな賭けだと言えるだろう。
2009.05.17
民主党の新代表を決める選挙に鳩山由紀夫と岡田克也が立候補した。小沢一郎が代表を辞任したのを受けてのことだが、最大の問題は「党の顔」ではなく、民主党がどの方向に進もうとしているのか。 候補者のひとり、岡田は2004年の参議院選挙や2005年の衆議院選挙当時に掲げていた政策をさらに発展させるのだと話している。党代表だった時代の考え方を変えていないというわけだが、2005年の総選挙では自民党に惨敗している。与野党それぞれの獲得票数の差は僅かだったとはいうものの、選挙戦略に大きな問題があったと指摘する人は少なくない。 選挙当時、民主党幹部が小泉純一郎が繰り返した「郵政民営化」という「呪文」を打ち破れば逆の結果が出ていた可能性もあったのだが、そうした覇気は全く感じられず、「八百長」を疑いたくなるほどだった。岡田の発言からは、その反省が全く感じられない。これでは、小泉純一郎が推進した「強者総取り」というネオコン(新保守)流の経済に反対しないと表明しているに等しい。岡田の次に代表となった前原誠司は岡田以上のネオコン派で、自民党を追及している最中に「メール事件」を起こして「自爆」した。 ネオコンはキリスト教系カルト(シアコン)と「親イスラエル派」を形成して影響力を拡大、「軍事力信奉」という点で戦争ビジネスとも結びついている。イラン・コントラ事件で主役のひとりだったオリバー・ノースや傭兵会社を創設したエリック・プリンスもキリスト教系カルトの信者でもある。また、イラク掃討作戦を指揮していたウィリアム・ボイキン中将も同様で、イラク侵攻作戦を対イスラム戦争と認識していた。 イラク戦争ではアブ・グレイブ刑務所での拷問が露見して大きな問題になったが、そこには尋問官として「イスラエル人」がいたとする証言もある。ジョージ・W・ブッシュ政権を理解するカギは「イスラエル」だ。 アメリカでは、ブッシュ政権の推進した「強者総取りシステム」が国を破局へ向かわせることに権力/支配層の一部も気づき、軌道修正を図っている。そうした「風」を意識したのか、小沢は「新自由主義」から離脱する方向へ動き始め、鳩山は小沢が掲げた政策の継承を表明したが、現在のところ、自民党は「強者総取り」のシステムから抜け出しそうにない。資金源である財界が新自由主義の描く甘い世界に浸りきっているからだろう。民主党にも新自由主義を崇めている人間は少なくない。 しかし、民主党の党代表選に登場してくる面々を見ていると、自民党を連想することは確かだ。ネオコン化している自民党よりも自民党的であり、小沢一郎がアメリカと同じように軌道修正を図ったのは「旧保守的遺伝子」が作用したのかもしれない。 本来なら、庶民の立場から政策を打ち出す政党が対抗軸として存在しなければならないのだが、そうした状況にはない。もっとも、歴史を振り返っても、低所得層が支配/権力層に立ち向かうことは少なく、一部の特権階級が富を吸い上げるシステムを放置したまま、目前のカネに心を動かされることが多い。「体制内の異端」ではなく、本当に革命を目指した人々を眺めると、不公正な社会構造を知り、分析し、新しいビジョンを描き出す「余裕」のある人々が目立つ。そうした意味で、麻生太郎政権のバラマキは庶民を懐柔する手段として有効なのかもしれない。
2009.05.14
自衛隊の護衛艦(駆逐艦)「さざなみ」と「さみだれ」がソマリア沖へ向かって広島の呉基地を出港したのは今年3月のことだった。日本に関係のある船舶を海賊から守るためで、麻生太郎首相によると、「日本の国益を脅かす死活的な問題」なのだという。 ソマリア沖の「海賊」は漁民や沿岸警備隊崩れだとされている。無政府状態に近いソマリアの情勢に加え、経済問題、環境問題が関係しているとする指摘もある。つまり、外国の水産会社がソマリアの「主権を侵害してソマリアの水産資源を略奪している」ほか、外国企業が放射性物質を含む産業廃棄物を沿岸に投棄、沿岸の漁師など数万人に健康被害が発生、漁業を続けることも困難になり、一部の人々が海賊になったというわけだ。 しかし、こうしたことが言えるのは2000年代の初頭まで。イギリスの民間軍事会社から訓練を受けたというプントランドの「海上警備隊」が海賊行為に深く関与しているとする話も伝わっている。プントランドはソマリア北東部にあり、1998年からダロッド氏族が独自の地方行政組織の設立、ソマリアの「国家内国家」になっているのだ。このプントランドの有力者が「海賊」を支援、さらに「投資家」が資金を提供してきたと報道されている。アル・シャバーブなどの武装勢力も海賊と深い関係にあると言われている。 ソマリアの「海賊」が質的に変化した頃、アメリカの情報機関はジブチに駐留しているペンタゴンのJCTF(統合連合機動部隊)を介し、「イスラム法廷連合」と戦う武装組織に対し、毎月10万から15万ドル程度を渡し始める。イスラム勢力をソマリアから一掃したかったのだろうが、2006年の春にイスラム法廷連合が勝利してしまう。アメリカ政府は同連合と「アル・カイダ」を結びつける宣伝を展開、日本政府もアメリカの主張をそのまま垂れ流していたが、事実ではない。 武装勢力が敗北したため、次にアメリカ政府はエチオピア軍を使い、イスラム法廷連合を葬り去ろうとする。緒戦はアメリカの思惑通りに進んだが、ソマリアではイスラムのスンニ派が多数を占めているため、エチオピア軍が撤退すればイスラム勢力が再び盛り返してくるだけのことだとアメリカ政府はバカにされていた。 2009年1月にエチオピア軍が撤退、「ソマリア再解放連(イスラム法廷連合)」のシェイク・シャリフが大統領に就任すると、アル・シャバーブなどの武装勢力が戦闘を激化させて首都モガディシオでも多数の死傷者が出る事態になっている。 また、ここにきてソマリア沖の「海賊」が漁民の「個人営業」でないことを示す情報がスペインからも流れてきた。ロンドンに情報活動を行っているチームが存在し、そこからソマリアの実行部隊へ船舶に関する情報、つまり積み荷やコースなどを衛星電話で連絡しているというのである。しかも、実行グループは襲撃の訓練を受けている。反政府軍には「外国人」が加わっているとソマリア政府は主張、その外国人にはアル・カイダのメンバーが含まれているとする話も伝わっている。武装勢力は「海賊行為」で戦費を稼いでいるとも言われ、自衛隊はソマリアの内戦に巻き込まれつつあるとも言える。【参考】『お互いに「知れぬが花」の米朝関係』(Ohmynews:桜井春彦コラム、2007年6月7日) アメリカ海軍の駆逐艦が6月1日、ソマリア北東部を砲撃した。「プントランド」と呼ばれるこの地域の氏族は1998年に自治を宣言、国家内国家に近い状態にある。この地域の兵士が「イスラム法廷連合」の兵士と衝突した直後の攻撃だったという。言うまでもなく、イスラム法廷連合はアメリカ政府が敵視しているイスラム武装勢力。攻撃の3日前、プントランド側は武装勢力の侵入を認識していた。 アメリカ政府はソマリアのイスラム勢力がアルカイダと関係していると言い続けてきた。かつてはソ連軍と戦う「自由の戦士」、今ではアメリカ軍と戦う「テロリスト」と呼ばれているアルカイダ。外国人が参加しているためなのか、今回の武装グループをアメリカのメディアはアルカイダと結びつけて報道しているようだが、まだ推測の域を出ていない。そもそも、アルカイダの実態がよくわからないのだが。 それはともかく、1月4日の本コラムでも書いたように、アメリカの情報機関CIA(中央情報局)は2002年ごろからソマリアの反イスラム勢力へ毎月10万から15万ドルを提供してきた。隣国ジブチに駐留しているJCTF(統合連合機動部隊)を介して資金は流れているとされている。 ところがアメリカ側の思惑は外れ、昨年の春から初夏にかけてイスラム勢力が優勢になってしまう。そこでエチオピア軍が昨年末に軍事侵攻、イスラム勢力を首都から追い出すことに成功した。が、今年3月になると戦闘が再び激しくなり、エチオピア軍のヘリコプターが撃墜されている。 もちろん、戦争は武器弾薬を消費する。ソマリア侵攻でエチオピアは軍事物資を補給しなければならなくなった。旧ソ連製の武器を安く手に入れられるということで、エチオピアは朝鮮から商品を購入している。1月に戦車などを積んだと思われるエチオピアの貨物船が朝鮮の港を出港したというが、アメリカ政府は朝鮮からの武器購入をエチオピア側に許可していたとも報道されている。「お互いに知れぬが花よ、世間の人に。知れりゃ互いの身の詰まり……」という有名な小唄があるが、これは男と女の色っぽい話。武器をめぐる秘密は身の毛がよだつ。 似たようなことは2002年にもあった。イエメン政府が朝鮮からスカッド・ミサイルを購入、船で運んでいたのだが、その船をスペインの哨戒艇(しょうかいてい)が拿捕(だほ)したのだ。その当時、イエメン政府はアメリカの要請を受け、アルカイダのメンバーを追跡していた。イエメン政府の抗議を受けたアメリカ政府がスペイン政府と話をつけ、船は解放されている。 1980年代にはアメリカの情報機関人脈が直接、朝鮮からの武器購入に関係したこともある。アメリカの情報人脈は秘密工作を実行する「隠れみの」として少なからぬ「民間企業」を所有している。そうした会社のひとつ、GMT(ジオミリテック)はイランからカチューシャ・ロケット弾の注文を受けた。当時、CIAはイランへの武器密輸とニカラグアの反政府ゲリラ支援をセットにした秘密工作を展開、後にその一端が「イラン・コントラ事件」として明るみに出ている。アメリカの戦時情報機関OSS(戦略事務局)出身でイラン・コントラ事件でも中心的な役割を果たしていたジョン・K・シングローブ退役少将が友人のバーバラ・スタッドレーとGMTを経営していた。GMTはイスラエルに武器の調達を依頼する。 イスラエルの情報機関員は武器を仕入れるためにポーランドへ向かうが、そこで約20万発という大量のロケット弾を確保することはできなかった。そこで目をつけた先が朝鮮。現地で国防大臣と会って商談は成立、品物は平壌から直接イランへ送られたとイスラエルの情報機関元幹部は証言している。 1990年代になると、統一協会が朝鮮に接近している。アメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)によると、1991年11月30日から翌月7日にかけて同教団の文鮮明教祖が朝鮮を訪問、その際に「4500億円」(DIAは円で表記している)を寄付、1993年にはアメリカのペンシルベニア州に保有していた不動産を売却して得た資金300万ドルを香港の韓国系企業を介して朝鮮に送っている。金正日(キム・ジョンイル)の誕生日プレゼントだったとされている。 ところで、ブッシュ家が統一協会から多額の報酬を得てきたことは有名だが、安倍晋三首相など少なからぬ日本の政治家も統一協会と親密な関係にあると言われている。
2009.05.13
民主党の小沢一郎が代表を辞任すると表明した。公設第一秘書の逮捕から始まる反小沢報道が影響したわけだが、この逮捕劇に問題があることは検察のOBからも指摘されている通り。法律の運用を検察が恣意的に、劇的に変えることは許されないと思うが、この逮捕を適切だと主張するならば、同じことをしている議員、あるいは議員秘書を逮捕しなければならず、自民党は壊滅状態になる。・・・で、この問題は多くの人が論じているので深入りせず、小沢の秘書が裁かれることになる法廷について考えてみたい。 横浜事件に対する最高裁の判決でもわかるように、日本の司法システムが民主的だとは到底言えない。現在でも検察サイドには全ての証拠や証言を開示する義務はなく、被告に有利な証拠や証言を弁護側は自力で調べる必要がある。これだけでも裁判は長引くことになるのだが、裁判の長期化に批判的なことを言ったり書いたりしているマスコミはこの点を気にもしない。真相の究明などに興味はないようだ。 日本の支配/権力層が大好きなアメリカでは、基本的に全ての裁判記録を外国人にも公開している。裁判の公開は民主主義にとって不可欠なことで、誰でも公判を見に行くことができる。勿論、裁判の公開を定めた最大の理由は、警察や検察だけでなく、裁判官も信用できないことを先人は経験から学んでいたからである。「民主主義」の看板を掲げている以上、日本でも公判は公開せざるをえない。その法廷での審議を通して有罪か無罪か、有罪ならどの程度の刑罰が適切なのかといったことが決められる。 ところが、日本で始めようとしている「裁判員制度」は評議の経過や内容、さらに「職務上知り得た秘密」などについて守秘義務を課している。この制度では法廷に提示されない「秘密」が裏で示され、議論されるのだろうか?評議の場で裁判官が不適切な「説示」を行うと想定しているとしか思えない。 日本の支配/権力思想は戦前から戦後まで基本的に変化していない。人脈も途切れることなく、延々と続いている。「日本国憲法」がこうした闇を封印しているだけのことで、隙あれば表の世界を奪還しようと「闇の勢力」は狙っている。「戦後レジームからの脱却」とは、そういうことだろう。 裁判員制度は裁判を「民主化」するように感じられるが、その実態は裁判を秘密化する第一歩のように見える。警察/検察が持っている証拠や証言の全面的開示の義務化、評議内容の透明化が実現されない限り、裁判員制度は日本を暗黒帝国へと導くことになりかねない。小沢一郎の秘書逮捕をめぐる検察の動きも、こうした疑いを強くしている。
2009.05.11
NATO(北大西洋条約機構)軍のグルジアでの軍事演習を延期するようにロシア政府は求めてきたのだが、そうした要請を無視する形でロシアを「仮想敵」とする演習は始まった。その背景にはイスラエルが見える。 昨年8月にグルジア軍は南オセチアに奇襲攻撃を仕掛け、ロシア軍の反撃で惨敗した。この出来事が今回の軍事演習の背景にあることは間違いない。演習開始の直前、グルジアでは戦車部隊の一部が、サーカシビリ大統領に反抗し基地内に立てこもり、クーデター未遂事件も摘発されたと報道されているが、眉唾ものだ。昨年の奇襲攻撃の直前にも公然と嘘をついている。 実は、昨年の軍事衝突はグルジアのミヘイル・サーカシビリ大統領が分離独立派との対話を訴えてから約8時間後、深夜近くに始まった。絵に描いたような奇襲攻撃である。日本には「進攻」などと表現しているマスコミもあるようだが、サーカシビリ大統領に肩入れしすぎている。そういえば、昨年もマスコミは当初、「ロシアの挑発」という表現を盛んに使っていた。 この戦闘ではアメリカのメディアもロシアを悪役にしようと努力していた。例えば、FOXニュースは南オセチアから脱出してきた12歳のアメリカ人少女とおばの証言を露骨に遮り、事実を封印しようとしている。このときの様子はYouTubeで流されて世界中の人が知ることになり、FOXは醜態をさらすことになった。同局が隠したかった証言とは、グルジア軍の攻撃による具体的な被害状況だった。 グルジア軍の奇襲攻撃では、イスラエルの存在も注目されている。2001年からイスラエルの会社がグルジアに武器を提供、兵士に対する軍事訓練も行ってきたのだ。2002年にアメリカ政府は特殊部隊のメンバーを含む約40名のグループをグルジアへ派遣しているが、その前からイスラエルはグルジアに食い込んでいたことになる。 サーカシビリ政権には「元イスラエル人」もいるほどで、グルジア側もイスラエルとの関係を隠そうとしていない。昨年の奇襲攻撃もイスラエルが支援していたとロシア軍は信じている。つまり、奇襲攻撃を仕掛けたグルジア軍は「小イスラエル軍」だったと見ることができる。 おそらく、グルジア政府は南オセチアを占領できると考えていたのだろうが、思惑は外れた。グルジア軍によるミサイル攻撃が始まって間もなく、ロシア軍は戦車を含む戦闘車両150両を南オセチアに送り込み、グルジア軍を逆に圧倒してしまったのである。こうした経緯があるため、日本のマスコミや欧米の親イスラエル派が期待したほど、西ヨーロッパ諸国はロシアに強硬な姿勢を見せなかった。 イスラエルがグルジアを押さえ、ロシアにプレッシャーをかけようとしている最大の理由は、おそらくイラン攻撃にある。グルジアをイラン攻撃の拠点にしようとしている可能性があるということだ。その際、ロシア軍が介入しないように、NATO軍の存在を見せつけておきたいと考えても不思議ではない。ボリス・エリツィン時代のように、ロシアをイスラエル系の人間が支配する体制にしたいと願っているかもしれないが、ロシアに軍事侵攻する可能性はきわめて小さいだろう。 拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房)でも詳しく説明したように、NATOは、米英両国が西ヨーロッパを支配するための道具として機能してきた。NATOの内部に「秘密部隊」が存在してきたことは1990年にイタリア政府が公式に認めている。1960年代にフランスがNATOの軍事機構から離脱した理由も、この秘密部隊の存在なしには語れない。フランスの現政権はNATO軍への復帰を決めたが、西ヨーロッパ諸国のエリートたちはNATOを信用しているとは思えない。今回の演習も米英、特にアメリカの思惑が反映されているはずだ。バラク・オバマ米大統領はロシアとの関係修復を考えていると言われているが、大統領の政策に反対している人間も少なくない。 ジョン・マケインの顧問を務めたランドール・シューネマンはネオコンの大物で、グルジアのロビイストととして働いた経験があり、NATOの東ヨーロッパへの拡大で重要な役割を演じている。つまり、NATOの動きでも親イスラエル派が重要な役割を演じている。
2009.05.06
アメリカとは違い、EUはイスラエルの残虐行為に厳しい目を向けている。政府の姿勢だけでなく、メディアの報道内容もアメリカとEUには違いがある。建国以来、イスラエルが使ってきた「ユダヤ」という隠れ蓑にほころびが見えてきたとも言えるだろう。イスラエルはシオニストの国であり、ユダヤ教徒の国ではないと考える人も増えている。 EUの中でも特にスペインはイスラエルの行動に批判的だ。例えば、スペインの司法当局はイスラエルによるガザ地区への攻撃が人道的な犯罪に相当するかどうかを調べ始めたと伝えられている。捜査対象の中には陸軍参謀長のモシェ・ヤーロン将軍、空軍のダン・ハルツ将軍、さらにドロン・アルモグ将軍、シン・ベト(イスラエルの治安機関)のアビ・ディクターも含まれている。 こうした状況の中、イスラエルを必死に擁護しているのがイタリアのシルビオ・ベルルスコーニ政権。イスラエルのアビグドル・リーバーマン外相と会談した後、フランコ・フラッティーニ外相は、EUが中東で「重要な役割」を演じたいならば、イスラエルとの関係を強化しなければならないと発言している。 現在のイタリア政府がイスラエルの立場から発言する理由のひとつは、ベルルスコーニ首相の政治的な立場にある。ベルルスコーニは少なくとも一時期、非公然結社のP2に所属していた。この結社の名前が世間に知られるようになったのは1980年代の初頭。1970年代にバチカン銀行を舞台とした不正が発覚、アンブロシアーノ銀行が倒産しているが、この事件に絡んだ捜査で会員名簿が押収されて実態が明るみに出たのである。 P2はリチオ・ジェッリなる人物が率いていたとされているが、この人物には強力な後ろ盾がいた。フリーメーソンの一派「大オリエント」の幹部、ジョルダーノ・ガンベリーニである。P2にはイタリアのエリートがメンバーとして名を連ね、1979年の時点ではSID(国防情報局)や後継機関のSISMI(情報軍事安全保障局)、また治安機関のSISDE(情報民主安全保障局)などの長官をはじめ、953名に達していた。ガンベリーニはCIAとつながりがあった。 ガンベリーニの指示でジェッリはP2を創設したのだが、この幹部の動きは大オリエントの総意ではなかったようだ。別の幹部、リノ・サルビーニなどは「ジェッリのクーデター計画」を結社の会議で警告しているのである。 1960年代から1980年頃までイタリアでは「爆弾テロ」が多発、当初は「左翼過激派」の犯行だとされていたが、現在では「NATOの秘密部隊」のグラディオが黒幕で、その背後にはアメリカの情報機関が存在していたと信じられている。1990年にこの秘密部隊の存在はイタリア政府が公式に認めている。このグラディオとP2は車の両輪のような関係にあり、そのP2にベルルスコーニは参加していたのである。
2009.05.04
メキシコで発生したという「新型インフルエンザ」は経済的、あるいは軍事的な問題を隠す「目眩まし」として機能している。日本の場合、マスコミは朝から晩までインフルエンザの伝染状況を熱心に報道、結果として郵政民営化にともなう不正疑惑、経済破局による労働環境の急速な悪化(非正規雇用の労働者切り捨てなど)、あるいは自衛隊の海外派兵などの大問題から人々の目をそらすことに役立っていることは否定できないだろう。 これまで「専門家」たちは中国の南部で「鳥インフルエンザ」が変異して人間にも感染するようになるだろうと宣伝していたこともあり、多くの人々はアジアに注目していた。そのため、アメリカでの新型発生に驚いている人もいるようだが、アメリカには前歴がある。1918年から20年にかけて猛威をふるい、2000万人から1億人が死亡したと言われている「スペイン風邪」だ。ウイルスの種類はH1N1。現在、世界を騒がせている「新型インフルエンザ」と同じ型である。 最も有力だとされている説によると、スペイン風邪はアメリカのカンザス州で出現している。つまり本当は「アメリカ風邪」だった。少なくとも、スペインで発生したインフルエンザではない。メキシコで多くの犠牲者を出した今回のインフルエンザは豚から人間に感染したとされているが、「スペイン風邪」の場合、豚を介さず、鳥から直接、人間へうつったと言われている。 このスペイン風邪と同じ型のインフルエンザが1977年に流行している。つまり「ソ連風邪」だが、このインフルエンザも出現した地名から名づけられたわけではない。これは中国の北西部で流行し始め、そこからシベリア、ソ連(当時)の西部、あるいは日本などへ広がったと言われているのである。「スペイン風邪」を経験せず、H1N1の免疫を持っていない若者に大きな被害が出たという。研究室に保管されていたスペイン風邪のウイルスが何らかの理由で外部に漏れたとする説もあるのだが、真相は不明だ。
2009.05.04
日本の憲法を改めようとしている人たちがいる。与党の自民党にも野党の民主党にもそうした考え方の政治家は少なくない。彼らは「アメリカ」に押しつけられた憲法を自前の憲法に変えるべきだと宣伝しているようだが、新憲法が成立した直後から「アメリカ」が改憲を要求していることは秘密でも何でもない。 日本を「民主化」しようとしたアメリカ人、つまりニューディール派が憲法を作り、日本を「右旋回」させたアメリカ人、つまり軍事強硬派が現行憲法を破壊しようとしているわけだ。そして、改憲を望むアメリカ人を利用して「戦前レジーム」を復活させようとしている日本人もいる。 本コラムでは何度も指摘しているように、戦前から第2次世界大戦を経て現在に至るまで、日本の支配構造に本質的な変化はない。憲法が重しになり、そうした支配構造が見えにくくなっているだけだ。天皇は統治の主体から「象徴」に変わったとはいうものの、支配層/権力層の内部では「天皇制」が今でも生きている。各国にある日本大使館を見てもそうした実態を知ることができる。マスコミは天皇を「神聖で侵すことのできない存在」として扱っている。 ドワイト・アイゼンハワー米大統領(1953年1月から1961年1月まで)は退任演説の中で「軍産複合体」、つまり軍部と軍需産業の連合体が危険な存在になっていると警告したが、この連合体だけでなく、ウォール街を支配する金融資本、その配下にある情報機関の「テロ部隊」も警戒すべき存在である。日本の改憲派はこうしたアメリカのグループと結びつくことで権力を手にして「私益」を得ようとしている。この辺の事情に興味があるならば、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房)を読んでいただきたい。 憲法を改めようとする動きが「日米軍事同盟」と関係していることは否定できない。自衛隊をアメリカ軍の手先として利用するためには現在の憲法が邪魔である。「超大国」という看板の陰でアメリカの経済は衰退し、巨大な軍隊を支えることが難しくなっている。 アメリカの伝説的な軍人、スメドレー・バトラー少将はかつて戦争を押し込み強盗になぞらえた。つまり、軍事行動にはそれなりの見返りがあったのだが、今は違う。戦争になれば軍需産業や傭兵ビジネスは潤うだろうが、それは政府という装置を経由して国民の資産が戦争ビジネスへ移動するだけの話で、国の衰退につながる。日本の支配層/権力層もそんな程度のことは理解できているだろう。それでも戦争に執着するのは「国益」というラベルを貼った「私益」のためだ。 ジョージ・W・ブッシュ大統領の場合、ネオコン/シアコン(親イスラエル派)の戦略に協力してアフガニスタンやイラクに先制攻撃を仕掛けただけで、アメリカの巨大資本の利益にも反していた。だからこそ、イラクへ軍事侵攻を開始する前、石油産業とつながりの深い人間が開戦に反対していたのである。イラクだけでなく、イランやシリアの破壊を願っていたのはネオコン/シアコンやイスラエル政府だった。シアコン、つまりキリスト教原理主義者は宗教的な信念からイスラエルを支援している。日本の改憲派に新たな同盟相手が見つかったとも言えるだろう。 日本の憲法を作り替えようとしている改憲派は漠然と感情的に「改憲」を訴えているだけで、どの条文をどのように変更したいのか、あるいはどのような憲法を作りたいのかというビジョンを公然とは語ろうとしない。マスコミも同じだ。「新憲法草案」は作成され、一部で議論の対象にはなっているものの、最大の問題点は憲法改正を容易にした点にある。つまり、改憲派は「真の新憲法草案」、つまり本当のビジョンを隠している可能性が小さくないということだ。 世論調査によると、第9条は変えたくないが、改憲は何となく必要だと感じている日本人が多いらしい。だが、何をどのように変えたいのかという意見を持っている人が多いとは思えない。成り行きに身を任せているだけにしか見えない。改憲派は教育で思想的な下地を作り、マスコミで感情的に扇動している。そして、改憲の「雰囲気」を作ることには成功している。
2009.05.02
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