全28件 (28件中 1-28件目)
1
安倍晋三首相によると、金融政策、財政政策、成長戦略で景気は回復するらしい。オフショア市場/タックス・ヘイブンのネットワークが整備されている現在、資金を銀行に供給しても金融/投機の世界へ流れ、相場が賑わって富裕層が儲かるだけ。公共投資も巨大企業が儲かるような無用のプロジェクトばかりで、庶民は潤わない。 要するに、安倍政権は巨大企業や富裕層、つまり自分たちの天下り先や仲間を儲けさせようとしているわけで、これまで通り、庶民はその尻ぬぐいを強いられることになる。このパターンで富裕層はより豊かに、庶民はより貧しくなってきた。支配層からみると何の問題もない。いわば「1%の天国」。彼らが繰り返そうとするのは当然だ。 日本とは違い、経済破綻から急速に立ち直り、庶民の生活を引き上げた国がある。言うまでもなく、アイスランド。この国のオラフル・ラグナル・グリムソン大統領によると、破綻した銀行は救済せず、貧困層を支援し、緊縮政策(庶民への配分削減)はとらなかったという。不正行為があれば、当然、銀行の幹部でも刑事罰を受ける。 それに対し、アメリカをはじめ、多くの「西側」諸国では巨大金融機関を救済、そのツケを庶民に回し、貧困化を促進してきた。通常の経済システム自体が不公正で、社会的に優位な立場にある人びと、つまり支配層に富が集中するようにできている。投機が破綻したりして支配層が窮地に陥ると庶民が尻ぬぐいさせられ、さらに貧富の差が広がるわけである。 巨大金融機関は「大きすぎて潰せない」という教義に基づいて救済されるだけでなく、「大きすぎて処罰されない」。その結果、こうした金融機関は破綻しないということで低コストの資金を調達でき、ブルームバーグ紙によると、年間830億ドルを上回る間接的な補助金を受け取っていることになるのだという。言うまでもなく、中小の金融機関は容赦なく倒産させられ、経営者は刑務所へ送られる。 こうした実態についてハーバード大学の元教授、エリザベス・ウォーレン上院議員は上院銀行委員会でFRBのベン・バーナンキ議長に質問し、大手金融機関を閉鎖することは可能だと議長も答えざるを得なかった。「大きすぎて潰せない」なら潰せるだけ小さくするべきだという議論もあるが、この問題も避けて通れないだろう。 830億ドルの補助金を出すことは、「大きすぎて潰せない」銀行の規模を維持することにつながるわけだが、バーナンキは「自発的」に銀行が規模を縮小するだろうと議員に答えている。 日本の場合、銀行だけでなく、電力会社でも同じことが言える。東電を倒産させなかったことは犯罪的。いや、犯罪的な行為を隠し、利権の仕組みを維持するために倒産させるわけにはいかなかったのだろうが。
2013.02.28
アメリカ政府はシリアの反政府軍に対し、直接、防弾服や装甲車両を供給すると報道されている。もっとも、当初からアメリカの情報機関員や特殊部隊員はイギリスやフランスの特殊部隊員と同様、トルコにある米空軍インシルリク基地で反政府軍の戦闘員に対して軍事訓練を実施してきたと報告されている。武器もサウジアラビアやカタールを介し、渡していた。ただ、反政府軍に対する軍事的な支援を公然と口にしたことは興味深い。 これまで武器を提供し、傭兵を雇っていたサウジアラビアは最近、クロアチアから武器を調達しているとも伝えられている。昨年12月からヨルダン経由でシリアへ持ち込まれ、今年に入ってから戦闘で盛んに使われるようになったという。 一時期、シリアの反政府軍をコソボで訓練するという話が流れたが、欧米諸国から支援を受けているコソボのKLAとクロアチアの民族主義者は関係が深い。KLAは麻薬取引や臓器の密売をしていたと言われるグループだが、その最高指揮官だったアギム・チェクはクロアチアの出身。1995年からクロアチアで実施された「民族浄化」を目的とする「嵐作戦」で中心的な役割を果たしたひとりとされている。 ところで、アメリカがシリアの反政府軍に対する支援を強化しているということは、反政府軍が劣勢にあることを示唆している。「西側」ではリビアやシリアでの戦乱を「民主化運動への弾圧」だと宣伝してきたが、実際は外国に雇われた傭兵による軍事侵攻だと言われている。 例えば、「西側」では政府軍によるとされたホウラでの虐殺も、東方カトリックの修道院長はサラフィ主義者や外国人傭兵が実行したと報告している。「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。」と言うのだ。キリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムは外国からの干渉が事態を悪化させていると批判している。 多くの傭兵が投入されているようだが、外国の侵略に同調するシリア国民は多くないようで、バシャール・アル・アサド体制はまだ倒されていない。最近、北部イドリブでは反政府軍が大きなダメージを受けたと伝えられている。 反政府軍には少なからぬアル・カイダの戦闘員が参加しているのだが、こうした人たちがシリア北部から数百人単位で国外へ出てアフリカのマリへ向かったともいう。フランスが軍隊を投入している国だ。そこではAQIMというアル・カイダ系の武装集団、そこから分離したMUJAOが活動している。アンサール・ア・ディーンというグループを率いている人物はAQIMの司令官の甥である。 フランスはリビアやシリアで体制転覆プロジェクトに参加、トルコ側からシリアの反政府軍に多額の資金を提供していると報道されている。そのカネで武器を購入した戦闘員がマリに向かい、フランス軍と戦うということになる。
2013.02.27
1936年、つまり77年前の2月26日に陸軍の若手将校が武装蜂起して政府首脳や宮廷の要人を襲撃、死傷させた。いわゆる「二・二六事件」である。この蜂起を利用し、軍部は支配システム、つまり天皇制官僚国家での影響力を強めていく。 しかし、若手将校は軍部の影響力を強めるために決起したとは言えないだろう。その背景には、塗炭の苦しみをなめる庶民の存在があった。財閥や大政党は大儲けする一方、身売り、欠食児童、争議などが問題になっている。庶民の貧困化だ。 決起した将校は庶民を苦しめているグループを排除しようと考えたのだろうが、彼らは大きな間違いを犯していた。昭和(裕仁)天皇はそうした政策に反対していると考えたのだが、天皇も仲間だったのである。そして決起した将校は切り捨てられた。政府首脳や宮廷の要人を排除しても意味はない。 本ブログでは何度か書いたことだが、1923年に起こった関東大震災の後、日本の経済政策はアメリカの巨大金融資本、JPモルガンの強い影響下に入った。1920年代のアメリカは富の集中が進み、「余剰資金」が証券市場に流れ込んで一種のバブルが引き起こされていた。そのバブルが1929年10月に破裂する。 その3カ月前、日本では浜口雄幸が内閣総理大臣に就任、大蔵大臣は井上準之助になった。この井上がJPモルガンと緊密な関係にあることは以前にも書いた通り。その井上は緊縮財政(小さい政府)、産業合理化(労働者解雇)、そして金解禁(金本位制)を打ち出すのだが、これはJPモルガンを中心とするウォール街が望んでいたことだ。 1932年にJPモルガンが日本へアメリカ大使として送り込んできた人物がジョセフ・グルー。彼のいとこはジョン・ピアポント・モルガン・ジュニアの妻だった。帰国するのは1941年のこと。第2次世界大戦はジャパン・ロビーの中心人物としても活動、大きな影響力を及ぼしている。 JPモルガンの影響下にあった日本が何をやったかを振り返ってみると、1927年から28年にかけて山東出兵、1928年には張作霖の爆殺。この爆殺は河本大作大佐らが実行したのだが、この責任をとらされる形で田中義一内閣は総辞職、そして登場するのが浜口内閣だ。 1931年には柳条湖事件(関東軍による偽装爆破事件)、32年には上海事変を引き起こし、「満州国」を建国、五・一五事件、33年に国際連盟を脱退、そして36年には二・二六事件である。 この間、アメリカで大きな出来事があった。日本が頼っていたのはJPモルガン。この巨大金融機関を中心とするウォール街に操られていたハーバート・フーバー大統領が1932年の選挙でフランクリン・ルーズベルトに敗れてしまったのである。 この当時、ウォール街の大物たちはヨーロッパで台頭していたファシストとの関係を深めていたが、ルーズベルトのグループは反ファシスト。しかも植民地に反対、巨大企業の取り引きを規制し、労働者の権利を拡大しようと考え、金本位制から離脱しようとしていた。そうしたこともあり、1933年頃にはルーズベルトを排除するためのクーデターを計画している。これを議会で明らかにしたのがスメドリー・バトラー少将だったことは何度も書いた通り。 1920年代から30年代にかけての日本がウォール街の影響下にあったということは、日本のアジア侵略もアメリカ抜きに語ることはできないことを意味する。JPモルガンは日本に多額の投資をしていたわけで、日本が破綻したなら、投資を回収することができない。 戦争中、日本軍は占領地で財宝を略奪するプロジェクト(金の百合)を実行したと言われている。その一部が「山下兵団の宝物」と呼ばれているもの。カネ儲けという点から見ると、日本やアメリカの支配層にとって日本軍のアジア侵略は成功だったのだろう。
2013.02.27
アメリカ映画産業のイベント、アカデミー賞の授賞式が2月24日に開かれ、作品賞には「アルゴ」が選ばれた。1979年、イスラム革命で王制が倒れた後のイランでアメリカ大使館員が人質になった話がテーマなのだという。作品の解説を読むと、冒頭で1953年のクーデターについては触れているようだが、CIAの宣伝映画だと批判する声も聞こえる。 この映画を見たわけでないので作品としての評価はできないが、「政治的」な決定だとは推測できる。ただ、アカデミー賞は基本的に政治的に決まるものであり、今回が特別だとは言えない。 1979年の人質事件はアメリカの支配層にも大きな影響を及ぼすことになる。人質の解放ではなく解放遅延工作によってである。人質になっていた52名は1981年1月、ロナルド・レーガンの大統領就任式にあわせて解放されたが、このタイミングは象徴的だ。 イラン国王が国外に脱出したのは1979年1月、その直後にイスラエル大使館が襲われ、拘束されていた14が救出されている。その中には女性も含まれ、死体を処分する井戸も見つかった。アメリカ大使館に「ホメイニ師の路線に従うモスレム学生団」なるグループが乱入、大使館員など52名を人質にとったのは同じ年の11月だ。 翌年に大統領選挙が控えていたジミー・カーター大統領にとってこの出来事は大きなダメージ。盛り返すために人質を解放しようと考えることになる。逆に、共和党サイドは解放を遅らせようとする。 例えば、イスラエルのイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めた経験のあるアリ・ベンメナシェによると、1979年に「元CIAオフィサー」のマイルズ・コープランドが動き始めた。 ロナルド・レーガンの側近だったマーク・ブライアンをコープランドは1980年にイランへ派遣、その時にロバート・マクファーレンも同行している。ふたりは1979年11月まで暫定首相を務めていたメヘディ・バザルガンと会談、1980年3月にマドリッドで会議を開くことを決めている。アメリカへ戻る途中、ふたりはイスラエルへ立ち寄り、決定の内容を伝えた。 3月の会議は予定通りに開かれ、アメリカ側からマクファーレン、レーガン政権でCIA長官に就任するウィリアム・ケーシー、ジョージ・H・W・ブッシュと親しいCIAのドナルド・グレッグ、イラン側からはメーディ・カルビのほかサイード・アボル・カッセム・カシャニらが含まれていた。 共和党はイランとその後も会談を重ねるが、その一方、1980年9月にイスラエルとイランが接触、10月に人質を解放することで話をつけてしまった。この決定は共和党側の意向でご破算になる。人質の解放は大統領選挙の後でなければならないということだ。 10月にパリで開かれた会議にはアメリカ(共和党)、イラン、そしてイスラエルが代表を派遣、身代金5200万ドルの支払い、イランへの武器提供、そしてイラン資産凍結の解除、人質の解放は大統領就任式まで遅らせることで合意している。(人質解放遅延工作については拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) 資産凍結の解除は約束が守られなかったようだが、イランへの武器供与は行われた。この武器密輸にはアメリカのほか、イスラエルとサウジアラビアも関与、後に取り引きの一部が明らかになり、「イラン・コントラ事件」と呼ばれるようになった。 ところで、1953年のクーデターは石油利権を守るためにイギリスがアメリカに持ちかけて始まる。イギリスの会社AIOC(後のBP)はイギリス政府へ税金を支払った残りの利益の9割近くを懐に入れ、イランが受け取るのは1割強。しかも、その大半はイラン王室のものになっていた。 これではイラン国民が怒って当然。議会や政府はAIOCの国有化に乗り出した。その時に首相だったのがムハマド・モサデク。イギリス側の圧力でモサデクは一旦、辞職するのだが、すぐに復帰している。このとき、イギリスは政府を揺さぶるため、ツデー党(コミュニスト)も支援している。 第2次世界大戦後、アメリカの巨大資本はイランの石油利権に目をつけていたが、そのアメリカへイギリスは協力を要請する。話を持ち込んだ相手はアレン・ダレスだ。1951年10月にイギリスでは労働党政権が倒れて保守党のウィンストン・チャーチルが復活し、クーデターの準備は整った。 クーデター計画が本格的に始動するのはアメリカでドワイト・アイゼンハワーが大統領に就任した1953年から。ダレスは1951年1月からCIAの破壊工作を指揮する部門を担当する副長官として内部へ入り込んでいたが、アイゼンハワー政権が誕生すると長官に昇格している。ちなみに、アレン・ダレスと兄のジョン・フォスター・ダレスはウォール街の弁護士としての顔があり、顧客の中にAIOCも含まれていた。 1953年6月にジョン・フォスター・ダレス国務長官はモサデク政権を倒す許可を弟のアレン・ダレスに出し、「エイジャクス(アイアース)作戦」が動き始める。7月、あるいは8月にアイゼンハワー大統領が最終的に「ゴーサイン」を出している。8月下旬にムハマド・レサ・パーレビ国王がイランへ戻り、クーデターは成功した。 ちなみに、パーレビ朝が始まったのは1920年代。第1次世界大戦の直後にイギリスはペルシャを保護国にするのだが、そのときに陸軍の将校だったレザー・ハーンがテヘランを占領、4年後にカージャール朝を廃して「レザー・シャー・パーレビ」を名乗り、王位についている。これがパーレビ朝のはじまりだ。サウジアラビアやイスラエルと同じようにイランのパーレビ朝も背後でイギリスが暗躍していた。
2013.02.26
シリアのバシャール・アル・アサド体制がなかなか倒れず、反政府軍、そしてNATOや湾岸産油国の正体がばれてきた。早く体制を倒そうと焦っているのか、ここにきて外部から対戦車用の武器などがヨルダンから大量に持ち込まれ、反政府軍へ渡されているとワシントン・ポスト紙が伝えている。 どの国が武器を供給しているかは不明だとしているが、戦争の経過を考えれば、アメリカ、イギリス、フランス、トルコのNATO諸国やサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦といった湾岸産油国、そしてイスラエルが関係、直接的に渡しているのはサウジアラビアやカタールの可能性が高い。 こうしたテコ入れが行われる中、2月21日にダマスカスのバース党本部やロシア大使館の近くで爆破工作があり、53人以上が死亡、数百人が負傷したと言われている。政府軍参謀本部にも迫撃砲弾が撃ち込まれたという。 本ブログでは何度も書いてきたことだが、シリアの体制転覆作戦はNATOや湾岸産油国を後ろ盾とする傭兵部隊が軍事侵攻しているのが実態で、傭兵の最大供給源はアル・カイダ系の武装グループ。 リビアの体制転覆に成功したLIFGは2007年からアル・カイダの正式加盟グループで、自分たちとアル・カイダとの関係を隠していない。もし、この事実を報道していないメディアがあるとするならば、それは「政治的配慮」、つまり保身のためだ。LIFGの戦闘員はリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制が崩壊した後、シリアへ移動して戦闘に参加している。 ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官によると、1991年の段階でネオコンのポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はシリア、イラン、イラクを掃除すると語り、2001年9月11日から10日後にジョージ・W・ブッシュ政権はイラク攻撃を決定、6週間後に作成された攻撃予定国リストには、イラクのほか、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンが載っていたという。 勿論、2001年9月11日とは、ニューヨークの世界貿易センターにそびえ立っていた超高層ビル2棟に航空機が突入、さらにペンタゴンが攻撃されるという出来事が引き起こされた日である。 ブッシュ・ジュニア政権は軍内部の反対を押し切って2003年にイラクに軍事侵攻、それから2、3年後にはシリアの反体制派を支援し始めている。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事によると、その頃にはシリアやイランを攻撃する秘密工作をアメリカ政府は始めていた。この工作にはサウジアラビアやイスラエルが協力していたという。 この3国はイランを脅威とみなすことで一致、ブッシュ・ジュニア政権はスンニ派諸国(イランはシーア派が強い)との関係を深め、サウジアラビアはハマスとファタハを和解させることになった。ちなみに、2007年2月にハマスとファタハは挙国一致内閣の樹立で合意している。そして、サウジアラビア政府はシリアのアサド政権を弱体化させるために資金や物資を供給することも決まったという。 現在、シリアの反政府軍はサウジアラビアやカタールから資金や武器などの支援をうけていて、アメリカ政府は武器を提供していないとしているが、意味のない弁明だということがハーシュの記事からわかる。 こうした流れの中、ダマスカスでの爆破で多くの死傷者が出た。国連ではこの無差別攻撃を非難する決議を採択しようとする動きがロシアを中心にあったのだが、アメリカ政府が阻止した。シリア政府を非難しないのは怪しからんということのようだ。現在、アメリカやその同盟国はシリアで攻勢を強めようとしているわけで、その手駒が行ったことを非難する決議に賛成することはできないのだろう。 シリア政府を攻撃するために「西側」のメディアが使ったホウラでの虐殺について、東方カトリックの修道院長はサラフィ主義者や外国人傭兵が実行したと報告、「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は、地上の真実と全く違っている。」としている。また、キリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムは外国からの干渉が事態を悪化させていると批判した。これが「シリア戦争」の本質だろう。
2013.02.25
バラク・オバマ米大統領と会談した後、安倍晋三首相はTPP交渉に参加する意志を明確にし、政府と与党との間で調整に入る意向を示したという。「聖域なき関税撤廃」が交渉参加の前提条件ではなく、自民党の基本方針6項目すべてをオバマ氏に伝えたから文句はないだろうという態度だ。 何らかの譲歩をアメリカ側から引き出したかのような物言いだが、中身は何もない。問題は形式的な「聖域」があるかないかでなく、TPPが日本という国をアメリカの巨大多国籍企業に従属する存在にする仕組みだということ。民主主義を否定し、「1%」が「99%」を支配する環太平洋独裁政府を生み出そうとしているとしか考えられない。この本質は何も解決されていない。 前にも書いたことだが、TPPは討議内容が秘密にされている。知っているのはアメリカを拠点とする巨大多国籍企業の幹部たち。交渉内容が人びとに知られたら反対されると考えているのだろう。この一点だけでもその反民主主義的な性格がわかる。 そうは言っても、内容の一部は外部でも知られている。中でも大きな問題になっているのがISDS(国家投資家紛争処理)条項だ。この条項によって、直接的な生産活動やサービスのルールだけでなく、労働条件、環境汚染、食糧の安全などに関する規制、あるいは健康保険や年金など社会保障の仕組みを各国政府が決めることができなくなる可能性がある。 日本の国民から見ると安倍首相は「子どもの使い」レベルだが、アメリカ政府にしてみると、今回の会談は上出来。日本を巨大企業の支配下に置く仕掛けがなくなればTPPの意味はなく、この問題が解消されるはずはなかった。この茶番会談を日本のマスコミは好意的に伝えているわけだ。アジア侵略からアメリカとの戦争へと国民を導いた新聞の伝統が生きている。 日米同盟とは日本の対米従属関係を意味しているとする声をよく聞く。第2次世界大戦後、日本は連合国でなくアメリカに支配されたことも確かだろう。この支配構造が築かれ始めたのは1945年4月のことだ。「冷戦」は何の関係もない。フランクリン・ルーズベルト大統領が執務中に急死、反ファシストから反コミュニストへ大きく政策が変更されたことで支配の性格は定まった。 大統領急死の翌月にドイツは降伏するが、その段階でアメリカはナチの幹部や協力者を保護、逃亡を助けはじめ、後に雇い入れることになる。イギリスのウィンストン・チャーチル首相がソ連に対する奇襲攻撃(アンシンカブル作戦)を計画したのもこの頃だ。日本である程度「民主化」が進んだのは、ルーズベルトに近いニューディール派がまだいたことに加え、アメリカ以外の連合国の目があった。 そうした状況の変化が東京裁判や日本国憲法にも反映されている。象徴的なのは昭和天皇の扱い方。東京裁判で天皇は起訴されず、憲法は事実上、天皇制の存続を認めている。憲法は1946年に公布されているが、のんびりしていると、ほかの連合国やアメリカ国内から天皇の戦争責任を問う声が高まり、「天皇制官僚国家」を継続させることが困難になるところだった。 戦後の日米関係を吉田茂とダグラス・マッカーサーの関係で説明することは正しくないと関西学院大学の豊下楢彦教授が指摘している。対米隷属という路線を歩き始めた人物は天皇にほかならない。その交渉相手はジョン・フォスター・ダレスを中心とするワシントンのグループ。ダレスはウォール街の代理人であり、天皇とアメリカの巨大資本が戦後日本のあり方を定めたと言える。なお、日本は大戦で敗北したが、ウォール街の対日投資は成功だったと見るべきだろう。押し込み強盗は成功した可能性が高い。 このダレス・グループと重なっているのがジャパン・ロビーであり、その実働部隊として1948年に創設されたのがACJ。その中心にいた人物がジョセフ・グルーだ。1932年にハーバート・フーバー大統領が駐日大使に任命、彼のいとこはジョン・ピアポント・モルガン・ジュニア、つまり巨大金融機関、JPモルガンの総帥と結婚していた。 関東大震災の復興資金を調達する際、日本が頼った相手がJPモルガン。当然、日本の経済政策はこの金融機関の影響下に入る。JPモルガンは日本に多額の資金を投入、その多くは電力業界へ流れている。彼らにとって日本は鵜飼いの鵜のような存在になった。 1920年以来、JPモルガンと親しくしていた政治家が井上準之助。浜口雄幸内閣で井上は大蔵大臣として緊縮財政と金本位制への復帰を決めているが、これはJPモルガンの意志だ。 フーバー大統領もウォール街の傀儡だったのだが、1932年の大統領選挙でルーズベルトに敗れてしまう。新政権は金本位制から離脱し、巨大企業への規制強化と労働者の権利拡大することは予想されていた。(裁判所の抵抗もあり、多くは実現されなかったが) 大統領に就任する17日前、マイアミでルーズベルトを含む一向が銃撃され、就任後にはJPモルガンを中心とするウォール街の大物がファシズム体制の樹立を目指すクーデターを計画している。この計画はアメリカの伝説的な軍人、スメドリー・バトラー少将の議会証言で明らかにされ、失敗に終わった。このクーデター未遂事件を「右」も「左」も触れたがらないようだが、アメリカ議会での証言であり、記録に残っていて否定できない。 日本の対米従属は遅くとも関東大震災から始まっている。アングロ・サクソンへの従属ということになると、幕末までさかのぼらなければならず、その前にはアヘン戦争がある。
2013.02.24
バラク・オバマ大統領が次期CIA長官の候補に指名したジョン・ブレナンに対する批判がおさまらない。国防長官に指名されたチャック・ヘイゲル元上院議員の場合は軍事介入に否定的だとしてネオコン/イスラエル・ロビーから激しく攻撃されているのだが、ブレナンの場合は拷問や無人機を使った暗殺工作の中枢にいたということで批判されている。 2011年9月にはアメリカ人のアンワール・アル・アウラキ、そして彼の16歳になる息子を無人機のミサイルで殺しているが、この暗殺にも関わったブレナンは今後も無人機による暗殺を止めないとしている。 これに対し、リンジー・グラハム上院議員は無人機で殺された人の数を4700人とした上で批判。イギリスを拠点とする「調査ジャーナリズム事務局」の推計ではパキスタン、イエメン、ソマリアを合計すると殺された人の数は2966名から4855名、そのうち市民が494名から1119名だ。グラハム議員の示した数字と合致する。アメリカの意に添わない国が同じことをすれば、国連やメディアから「テロ国家」という烙印が押され、「制裁」されるだろう。 こうした暗殺のために使われる無人機の基地がサウジアラビアにあることが明らかにされているが、アフリカにも基地がつくられつつある。すでにブルキナ・ファソに基地があり、エチオピア、セイシェル、ニジェールへと基地網は広がろうとしている。今後の国連軍もアメリカの無人機を使う意向のようだ。 無人機はアメリカ国内でも使われようとしている。勿論、イギリスや日本など「西側」の国々も後を追うはずだ。最近では鳥や昆虫を模した小型無人機の開発も進んでいて、室内に侵入して監視したり暗殺したりすることができるようになる日も遠くない。 ジョージ・W・ブッシュ政権の場合、軍隊を軍事侵攻させていた。2003年に始められたイラク侵略では社会生活の基盤になる施設を破壊、イラク市民を虐殺している。ジョーンズ・ホプキンス大学とアル・ムスタンシリヤ大学の共同研究では06年7月までの犠牲者を65万人と推計、イギリスのORBが行った調査では07年夏までに94万6000名から112万人、NGOのジャスト・フォーリン・ポリシーは133万9000人余りが殺されたとしているのだが、アメリカ政府は市民の犠牲者数について沈黙を守っている。 それに対し、オバマ政権は無人機や傭兵を多用しているのだが、ブッシュ政権と同じように犠牲者の数は明らかにしようとしない。「西側」のメディアも犠牲者数には興味がないようだ。「西側」と敵対関係にある政権を批判するためなら根拠が曖昧な怪しげな数字でも大々的に報道しているのだが。
2013.02.23
いわゆる「アラブの春」も一皮むけば、アメリカ、イギリス、フランス、トルコといったNATO諸国やサウジアラビア、カタールといった湾岸産油国による侵略戦争。日米欧の「有力メディア」は「民主化」や「人権」といった単語を連ねて侵略を正当化してきたものの、リビアやシリアの状況がそうした宣伝の嘘を明らかにしている。 そうした中、イスラエル政府はジェニーなる会社に対し、ゴラン高原の南部396.5平方キロメートルの地域で油田開発することを許可した。とはいうものの、ここは1967年からイスラエルが軍事占領している地域。本来は、イスラエルでなくシリアの領土だ。 ゴラン高原での油田開発を許可されたのはジェニー・イスラエル・オイル・アンド・ガスという会社で、ジェニー・オイル・アンド・ガスが管理、その親会社はジェニー・エネルギー。 興味深いのはジェニー・オイル・アンド・ガスの戦略顧問会議のメンバーで、リチャード・チェイニー元米副大統領、多くのメディアを支配し、最近は盗聴事件で責任が問われているルパート・マードック、そしてジェイコブ・ロスチャイルドが名を連ねている。 マードックとロスチャイルドはボリス・ベレゾフスキー(後にプラトン・エレーニンに改名)と親しいことでも有名。言うまでもなく、ベレゾフスキーはボリス・エリツィン時代のロシアで巨万の富を築いた人物のひとり。「規制緩和」と「私有化」の波に乗り、不公正な手段を使っての蓄財だった。少なくとも一時期、イスラエルの市民権を持っていたことがある。 エリツィンが退場した後、2001年にロンドンへ亡命、マードックやロスチャイルドと親しくなったのだが、このふたり以外にも「ジャンク・ボンド」で有名なマイケル・ミルケン、ジョージ・W・ブッシュ元米大統領の弟でS&L(アメリカの住宅金融)スキャンダルでも名前の出てきたニール・ブッシュも彼の人脈に含まれる。 2007年に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは、アメリカ、サウジアラビア、そしてイスラエルが手を組み、シリアやイランへの秘密工作が行われていると指摘していた。その背後関係を考える上で、ジェニー・エネルギーは無視できない存在だ。イスラエルと同じように、サウジアラビアなる国が作り上げられる際、イギリスが重要な役割を果たしたことも忘れてはならない。 ところで、イスラエルは第3次中東戦争でゴラン高原を占領した。1967年5月にイスラエル軍がシナイ半島に現れたという情報を受け、エジプトは予備役の兵士に動員令を出し、アカバ湾の封鎖を宣言、6月になってイスラエル軍はエジプトとシリアに対して空爆を開始、一気にガザ、シナイ半島、ゴラン高原、ヨルダン川西岸を占領する。 その直後、アメリカは情報収集船「リバティ号」を地中海の東部へ派遣するのだが、この艦船をイスラエル軍は攻撃し、その乗組員34名が殺され、171名が負傷している。イスラエル軍は執拗に攻撃したが、沈没する前にリバティ号は遭難信号を発信することに成功し、第6艦隊が動き始める。これを受け、イスラエルは外交攻勢をかけはじめ、結局、アメリカ政府は「誤爆」ということで事件を封印した。 当時の国防長官、ロバート・マクナマラはリバティ号を攻撃したのはソ連軍だと最初は思ったと証言しているので、リバティ号が遭難信号を出す前に沈没していた場合、イスラエルの軍事作戦が続いて占領地が拡大しただけでなく、米ソ開戦という事態もありえただろう。この当時、CIAのイスラエル担当は、あのジェームズ・アングルトンだ。 この出来事から46年。イスラエルには公的な文書は例外なく50年後に公開するという決まりがあり、2017年には第3次中東戦争に関する文書も明らかになるはずだった。ところが、2010年にベンヤミン・ネタニヤフ政権は情報公開を20年遅らせることを決めている。今頃、都合の悪い文書を必死に処分していることだろう。 1967年から現在に至るまで、国連もイスラエルの占領を止めさせることができないでいる。イスラエルの軍事侵略を「国際社会」とやらは、事実上、容認しているわけだ。ガザやヨルダン川西岸での殺戮と破壊に対しても手をこまねいているばかりである。
2013.02.22
安倍晋三首相がTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に参加する意欲を示したという。多くの人が予想していた通りの展開である。 農業に問題を矮小化するストーリーを今でもマスコミは語っているが、TPPの問題は、経済活動にともなう参加国の政策がアメリカの多国籍企業にとって利益になるかで決まるという点にある。 直接的な生産活動やサービスのルールだけでなく、労働条件、環境汚染、食糧の安全などに関する規制、あるいは健康保険や年金など社会保障の仕組みを各国政府が決められなくなる可能性がある。環太平洋独裁政府を目指しているようにも見える。 各国の政府や議会を縛るための武器になるのは、ISDS(国家投資家紛争処理)条項。オーストラリア政府は交渉の中でこの条項を協定に入れることを拒否しているようだが、当然だろう。 民主主義国家の最低条件は、選挙によって議員や大統領が選ばれ、政府が作られていること。日本では議員の選ぶ総理大臣を中心に国は運営されることになっているのだが、この仕組みをTPPは破壊する潜在的な力を持っている。民主主義の理念を根本から否定、日本国憲法も機能しなくなりそうだ。 具体的な仕組みは交渉中だということだが、その討議内容は秘密。交渉内容を知っているのは、実際に作業しているアメリカの多国籍企業幹部だけだとも批判されている。 富はそうした巨大多国籍企業、あるいはそうした企業を支配するファンドや富裕層へ集中している仕組みができあがっている。その仕組みをTPPは強化する協定だとも言える。 そうした富を集中させる仕組みの中枢がロンドンの金融街。この都市を中心に広がるオフショア市場/タックス・ヘイブンのネットワークを使い、多国籍企業や富裕層は資産を隠し、課税を免れている。 この仕組みはアメリカを後ろ盾とする独裁者、あるいは麻薬業者など犯罪組織にとっても便利で、実際にこうした人物や組織は金融機関の上得意になっているようだ。こうした金融システムを規制する動きもあるが、そうした規制をTPPは嫌うだろう。 TPP推進派から見れば、公的な健康保険や年金は必要のない仕組み。日本では庶民が支払うには負担が重すぎる保険料や掛け金が取られているのだが、その実態に関する正確な情報は知らされていない。今後、庶民の負担は支払うことが難しい水準まで重くし、健康保険や年金の仕組みは破壊するつもりだろう。かつて世間を騒がせた年金スキャンダルも意図的に行われた可能性もある。 こうした金融規制や社会保障への攻撃だけでなく、アメリカの大企業はTPPを使い、各国で環境や食の安全を守ろうとする仕組みを潰そうとしている。例えば、アルツハイマー病とBSE(狂牛病)との関連を指摘する研究は無視され、GMO(遺伝子操作食品)の場合は独立した研究が厳しく制限されているのが実態。すでに、アメリカ側は遺伝子操作食品を示す表示を禁止させようとしている。 勿論、GMOの危険性を指摘する声はあるのだが、高名な学者でも危険性を指摘すると社会的に抹殺されてしまう。そうした一例が生物学者のアーパド・プツタイだ。 TPPに限らず、支配層にとって都合の悪い話がインターネット上を飛び交っている。福島第一原発の「過酷事故」でも、政府や東電の嘘を暴く情報はインターネットを流れた。 そのインターネットを監視する法律もアメリカは準備している。そのひとつがCISPA。アメリカの巨大多国籍企業を頂点とする支配システムにとって都合の悪い人や団体を監視できるだけでなく、あらゆる情報をカネ儲けにも使える法律だ。「サイバー・テロ対策」だと称すれば何でもできる。だからこそCISPAを何としても成立させたい人たちがいる。誰かがアメリカに対して「サイバー・テロ」を仕掛けて欲しいところだろう。
2013.02.21
イスラエルのアヤロン刑務所で死亡した「囚人X」ことベン・ジギヤーはモサドに拉致される前にオーストラリアの治安機関ASIOに接触、モサドが行っていた工作の詳細を伝えていたと報道されている。その工作に中にイタリアを舞台としたものも含まれていたという。 現在、モサドとASIOとの関係は緊張状態にあるのだが、その直接的な切っ掛けは、ハマスの幹部だったマームード・アル・マボーを暗殺したチームのメンバーがオーストラリア人名義のパスポートを使っていたこと。 暗殺は2010年1月に実行されているが、その半年以上前からASIOは、少なくとも3名のオーストラリア系イスラエル人をモサドのスパイだと疑い、調査していたという。その3名にジギヤーも含まれていたようだ。 たとえ友好的な関係にある国の情報機関でも、自分の「縄張り」で支配システムを無視するようなことは通常、許さない。ASIOがモサドの工作に腹を立てるのは普通のこと。メンツを潰されたということである。 1986年にもモサドはイスラエルの秘密を漏らした人物を拉致、刑務所に入れている。ディモナの核施設で1977年から約8年に渡って働いていたモルデカイ・バヌヌが拉致された。この年の10月、イギリスのサンデー・タイムズ紙はイスラエルが200以上の核弾頭を保有しているとする内部告発を掲載したが、その告発者がバヌヌである。 バヌヌの情報はまずオーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙やエイジ紙へ持ち込まれるが、拒否される。その一方で新聞社側はすぐにASIOへ通報、対外情報機関のASISを経由してイスラエル側へも伝えられ、モサドが動き始める。 そこでバヌヌと協力者はイギリスへ飛び、デイリー・ミラー紙へ持ち込むのだが、この新聞社で国外の情報を担当していた編集者、ニコラス・デービスはイスラエルのエージェントだった。当然、バヌヌたちの動きはモサドに筒抜け。デイリー・ミラー紙の前にサンデー・タイムズ紙と接触していなければ、バヌヌの告発は闇に葬り去られていた可能性が高い。 モサドはイギリスの治安機関、MI5にバヌヌを監視するように要請、MI5側はイギリス内で問題を起こさないという条件で協力することになる。バヌヌの動向をつかむことは容易だったが、拉致するためにはイギリスの外へ連れ出す必要がある。そこで選ばれたのがイタリア。女性を使ってローマへ誘い出すことに成功、そこでモサドのエージェント3名に拉致され、イスラエルへ連れ去られてしまった。バヌヌは1988年3月に懲役18年の判決を受け、すでに刑期を終えているのだが、今も発言や行動は制限されている。 イタリアでは、2003年にオサマ・ムスタファ・ハッサン・ナスルがCIAに誘拐されている。この誘拐工作にイタリアの対外情報機関SISMIが協力、当時の長官も有罪判決を受けたことは本ブログでも書いた通り。イタリアは「普通の国」ではない。 第2次世界大戦後、イタリアで創設された情報機関はCIAの強い影響を受けている。特に、CIAの防諜部門を指揮していたジェームズ・アングルトンという人物は重要な意味を持っている。彼の父親、ヒュー・アングルトンは大戦の前からイタリアに住み、アレン・ダレスと結びついていただけでなく、ファシスト団体に人脈を持っていた。その人脈を息子は引き継いでいる。 その一方、ジェームズ・アングルトンはイスラエルとも関係が深かった。CIAの内部には中東を担当する部署があるのだが、イスラエルだけは防諜部門が担当している。つまり、アングルトンの担当。 ヒューの人脈にはジョバンニ・バティスタ・モンティニ、つまり後のローマ教皇パウロ6世も含まれていた。モンティニの右腕だったシカゴ出身のポール・マルチンクスは後にIOR(通称、バチカン銀行)の頭取としてアメリカの東欧工作に協力、例えばポーランドの「連帯」へ違法送金している。日本では左翼にも信奉者が多い、あの「連帯」は米英を中心とする「テロ組織」の手駒だった。 この金融スキャンダルでフリーメーソン系の非公然組織、P2が注目されるのだが、この組織は「NATOの秘密部隊」とも繋がっている。この秘密部隊はソ連軍が侵攻してきたときに備えて創設された「残置部隊」とされているが、実際は西ヨーロッパ支配、特に左翼勢力を潰すために機能してきた。 イタリアでNATOの秘密部隊はグラディオと呼ばれ、1960年代から1980年頃まで「左翼過激派」を装って爆破工作を展開している。そうした工作の容疑者として指名手配されていた人物を日本政府は迅速に帰化させ、保護している。 1982年7月、空港でP2のトップだったリチオ・ジェッリの娘が持っていたスーツケースの底にあった隠しスペースから書類が見つかっている。日付けは1970年3月18日。友好国政府が共産主義者の脅威に対する警戒心をゆるめているような場合、友好国の政府や国民を目覚めさせるために特殊作戦を実行しなければならないというようなことが書かれていた。要するに「緊張戦略」。文書作成の責任者として記載されていたのは、あのウィリアム・ウエストモーランド大将だという。 ヨーロッパだけでなく、中東や北アフリカを含む地中海沿岸を支配するためにイタリアは要石のような国。アメリカやイスラエルの支配層にとっても、イタリアは重要な意味を持つ。そこでイスラエルが何をしようとしたのか、あるいはしたのか、興味深い。
2013.02.19
今から5年前、つまり2008年の2月17日にコソボはセルビアからの独立を宣言した。その直後、アメリカ、クロアチア、アルバニアは勿論、トルコ、オーストリア、ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、台湾、オーストラリア、ポーランドなどが相次いで承認している。 コソボもセルビアも、1991年まではユーゴスラビアの一部だった。ソ連が消滅していく過程でユーゴスラビアも解体されていったのだが、その背後ではアメリカのロバート・ドール元上院議員の人脈が活動していた。その人脈には、ジョセフ・ディオガーディ米下院議員やミラ・ラディエボリッチ・バラッタが含まれている。 リチャード・パール、ポール・ウォルフォウィッツ、ジーン・カークパトリックなどネオコンが周辺にいたドール米上院議員は「アルバニア・ロビー」とも緊密な関係にあり、アルバニア系団体のコソボ独立運動に深く関与することになる。 1991年当時、コソボの独立運動をリードしていたのは非暴力のLDK。セルビアの治安当局も運動を容認していたのだが、1994年頃から状況が変わる。アル・カイダが入り込んできたほか、武装集団のKLA(あるいはUCK)が組織され、1996年から殺戮と破壊が始まる。 KLAにはクロアチアの民族主義者が入り込んでいたが、その民族主義者はナチと協力関係にあった団体の流れをくんでいる。そうしたKLAを率いていたひとりがハシム・サチなる人物。後に首相となるが、アルバニアの犯罪組織とつながり、麻薬取引や臓器の密売に関与していたという。 麻薬取引は有名な話だが、臓器の密売は旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で検察官を務めたカーラ・デル・ポンテも著書の中で明らかにしている。コソボ紛争中にKLAの指導者らが約300名のセルビア人捕虜から「新鮮」な状態で、つまり生きた人間から臓器を摘出し、売っていたというのだ。 1980年代にアメリカはアフガニスタンでイスラム武装勢力を組織、戦闘員を訓練するだけでなく、武器や資金を提供していた。さらに麻薬取引のノウハウを伝授したと言われている。この時期、ヘロイン(ケシを原料とする麻薬)の主要生産地は東南アジアの山岳地帯からアフガニスタンやパキスタンの山中へ移動している。アフガニスタンやパキスタンで生産された非合法麻薬の多くはコソボを経由して西ヨーロッパへ流れていた。 1992年には、セルビア兵の残虐行為が宣伝され始める。この年の8月にボスニアで16歳の女性3名がセルビア兵にレイプされた「西側」のメディアは報道したのだが、その情報源は亡命クロアチア人の団体で、後に嘘だということが明らかになっている。 1993年にビル・クリントンがアメリカ大統領となるのだが、この時にはすでに反クリントン工作が始まっていた。メロン財閥のリチャード・メロン・スケイフなどの大富豪が資金を出して行われた「アーカンソー・プロジェクト」である。ヘリテージ財団やCSISなど好戦派のシンク・タンクなどにスケイフは資金を出し、情報機関とも緊密な関係にあった。そうした中、モニカ・ルウィンスキーのスキャンダルが持ち上がる。 ルウィンスキーがホワイト・ハウスに雇われた1995年にNATOはボスニアとヘルツェゴビナを空爆、スキャンダルが発覚した翌年の99年にはユーゴスラビアを先制攻撃している。 ユーゴスラビアに対する先制攻撃を正当化するため、アメリカはプロパガンダを開始する。まず、ウィリアム・ウォーカーなる人物がコソボにあるユーゴスラビアの警察署で45名が虐殺されたと叫び始めた。が、実際は警察とKLAとの戦闘。その様子はAPのクルーが撮影していた。 コソボの独立は、犯罪組織に関係のある勢力がNATOの軍事力を利用して達成した。この勢力は麻薬や臓器の密売にも手を出している。この勢力と手を組んでいるNATOはユーゴスラビアに対する先制攻撃を正当化するため、メディアや「人権擁護団体」を利用して嘘を広めていた。そのコソボを「アラブの春」の国、エジプトが承認するというのだが、そのエジプトの政府に対する抗議活動がここにきて激しくなっている。すでに「アラブの春」のインチキは隠しきれなくなっている。
2013.02.18
幅が17メートル、重さは約1万トンと推測される隕石が2月15日にロシアのウラル地方へ落下、建造物に被害があり、約1200名が負傷したという。この隕石にミサイルは発射されず、ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相は新しい防空システムが必要だと語ったという。が、弾道ミサイルを撃墜することは現実的でない。「ミサイル防衛」のシステムが機能するのは、ターゲットが航空機の場合ぐらいだろう。 ところで、ロシア政府も注目しているアメリカの「宇宙兵器」がある。X-37Bと呼ばれる無人のスペース・シャトルだ。NASAの開発したX-37A(2004年からDARPAが管理)を改良したものがX-37Bで、所属は空軍。 X-37Bの1号機は2010年4月22日、2号機は11年3月5日に打ち上げられている。2012年12月11日には1号機が再び打ち上げられ、まだ飛行中のはずである。何を行っているかは秘密で、軍事衛星や「隕石」を宇宙へ放出することも可能だろう。 その一方、2月7日にロシア空軍のSu-27が2機、北海道の利尻島南西沖の日本領空を侵犯したと日本の外務省は発表、この際に自衛隊のF-2が迎撃したというが、ロシア側はこの主張を否定している。そして12日には核兵器を搭載していると思われるロシアの爆撃機Tu-95が2機、グアムの近くを飛行して米軍のF-15が迎撃したと伝えられている。 このF-15は沖縄の嘉手納基地からグアムへ移動していた戦闘機らしい。ロシアの爆撃機がグアムまで飛んでくるのは異例のようで、西太平洋の基地を復活させつつあるアメリカ軍の動きに絡んでの爆撃機飛来なのか、あるいはアメリカに対する何らかの別の「警告」なのか・・・ 冷戦時代は「ソ連脅威論」で飯を食い、ソ連が消滅してからは「中国脅威論」を叫んできたONAのアンドリュー・マーシャルを信奉するネオコンは東アジアの軍事的な緊張を高めようとしている。それに同調する日本人も多い。 そうした動きに対し、開戦になれば中国と日本との「局地戦」ではなく、ロシアとアメリカを巻き込む全面核戦争になることをロシア政府は示したのかもしれない。X-37Bが何らかの形で関係している可能性もある。
2013.02.17
イスラエルのアヤロン刑務所で死亡した「囚人X」が話題になっている。2010年2月までに収監されたというのだが、刑務所に入れられた理由はおろか、囚人の名前さえ明らかにされていなかった。その囚人がオーストラリア国籍を持つベン・ジギヤーであり、2010年12月に首をくくって死んだということをオーストラリアの放送局ABCが今月12日に報道、注目されるようになったのだ。 イスラエル政府は囚人Xの存在自体を秘密にしていた。イスラエルのウェブサイトYnetが謎の囚人の存在を2010年3月に明らかにしたが、その囚人に関する報道をイスラエル政府はすぐに禁止、記事はサイトから削除されていた。明るみに出るとイスラエル政府にとってよほど都合の悪いことがあるのだろう、ということで多くの人が興味を持った。 ジギヤーの遺体はオーストラリアへ運ばれ、死亡から1週間後には埋葬されている。こうした経過を考えるとオーストラリア政府も何らかの情報を持っているはずなのだが、明らかにされなかった。遺族や友人も沈黙を守っている。その理由もはっきりしない。 ABCが報道した後、ジギヤーについて知ったのは彼が死んだ後だとオーストラリアのボブ・カー外相は述べていたが、2月14日に開かれた議会の委員会では話を変えている。イスラエルが拘束した時点でジギヤーに関する情報をオーストラリア政府が得ていたというのだ。 「暫定自治原則宣言」、いわゆるオスロ合意に署名したイスラエルのイツハク・ラビン首相を暗殺したとされるイーガル・アミールを収監するために作られた刑務所にジギヤーは入れられていた。自殺は困難だとされていた刑務所だが、そこでジギヤーは自殺したことにされている。 ジギヤーが2000年代の初頭からモサド(イスラエルの情報機関)に雇われていたとも伝えられているが、このことも謎を深めた。イスラエル政府が「裏切り」と考える何かをしたと多くの人が推測したのは当然だろう。 その謎を解くカギだと言われているのがハマスの幹部だったマームード・アル・マボーの暗殺。2010年1月にアラブ首長国連邦のドバイで殺されたのだが、すぐにモサドの名前が挙がり、容疑者の写真もメディアに掲載されている。2月15日になると、ドバイの警察が暗殺犯は11名だと発表、モサドの関与が明確になれば、イスラエルのベンジャミン・ネタニアフ首相に対する逮捕令状を出すとしていた。 ここにきて、クウェートのアル・ジャリダ紙が報道した情報として、ジギヤーがドバイ当局と接触していたという話が流れている。26名と言われる暗殺チームのメンバーに関する情報を含め、工作の詳細を教える代わり、身柄を保護するように求めていたという。実際、ジギヤーは保護されたのだが、モサドは隠れ家を突き止めて誘拐、イスラエルへ運んで収監したという。リビアやシリアへの攻撃で湾岸諸国とイスラエルは協力関係にあり、アラブ首長国連邦からイスラエルへ情報が漏れても不思議ではない。 オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙によると、ハマス幹部暗殺の6カ月以上前からASIOは少なくとも3名のオーストラリア系イスラエル人をモサドのスパイだと疑い、調査していたという。 2009年12月にジギヤーを取材したというジャーナリストがいる。ジェイソン・クートスーキスだ。その年の10月、オーストラリアの情報機関に協力している人物と接触、イスラエルの機関がオーストラリアの法律を破り、身分証明に関する書類を集めていることを知らされた。そうした活動をしていた3名のうちひとりがジギヤーで、12月に会うことができたという。こうした接触をモサドが気づかなかったとは思えない。クートスーキスもそう考えている。 ところで、ジギヤーが拉致され、獄死した2010年にイスラエル政府は戦争を始めようという動きがあったと報道されている。ベンヤミン・ネタニヤフ首相とエウド・バラク国防相はイランを攻撃しようと考え、戦争の準備をガビ・アシュケナジ参謀総長とモサドのメイル・ダガン長官に命令したというのだ。この時はアシュケナジとダガンが戦争に反対し、実現しなかった。 モサドのエージェントであろうと、拉致したうえ、獄死させるということは大きな問題であり、非難されて当然だが、秘密工作が露見するときは支配層の内部で深刻な対立の生じている場合がある。このケースでも、そうしたことが起こっているのかもしれない。
2013.02.16
チャック・ヘーゲル元上院議員の国防長官就任が遅れている。ヘーゲルは共和党に所属しているのであり、形式的には共和党の議員が共和党の元議員の長官就任を妨害していることになる。 ヘーゲルの長官就任を妨害しているのはネオコン(親イスラエル派)。2月14日に上院の本会議で審議打ち切りの動議が賛成58に対して反対40、共和党の反対で否決されている。反撃の糸口を探るための時間稼ぎといったところだろう。 ネオコンがヘーゲルを嫌っている理由は、そのイスラエルに対する姿勢。イスラエルを絶対的な存在だとみなしていないからだ。ハト派かタカ派か、といったことではない。 ヘーゲルを指名したバラク・オバマ大統領はズビグネフ・ブレジンスキーの影響下にあるようで、平和を志向しているとは言い難い。ネオコンをはじめとする好戦派、例えばジョージ・W・ブッシュ政権とは違い、殺戮と破壊を前面に出しているわけではなく、それなりに合理的な判断をするだけだ。 ジミー・カーター政権において、ブレジンスキーはアフガニスタンで秘密工作を展開、「イスラム武装勢力」を生み出し、ソ連軍を引きずり込んだ人物であり、CIAと深い関係にあることでも知られている。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) それはともかく、昨年の大統領選挙でネオコン/イスラエル・ロビーは大きな間違いを犯した。ミット・ロムニーへ一方的に肩入れしていたのだ。その大スポンサーだったシェルドン・アデルソンは好戦的シオニストへ多額の寄付をしている富豪。ロムニーが敗北したことでネオコンは苦しい立場に陥った。 ジョージ・H・W・ブッシュ政権の時代、つまり1990年代の初頭にアメリカの国防総省ではネオコンや戦争ビジネスの影響力が強まった。そのひとつの結果が1992年に書かれたDPGの草案。リチャード・チェイニー国防長官、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官、I・ルイス・リビー、ザルメイ・ハリルザドのラインが担当したのだが、その内容はONAのアンドリュー・マーシャル室長の考え方に基づいている。 この草案はリークされて書き直されたのだが、ネオコンの戦略としては生き続けた。9年後にジョージ・W・ブッシュが大統領に就任すると復活、「中国脅威論」が叫ばれるようになる。マーシャルはソ連消滅後、新たな「仮想敵」を中国に設定していた。潜在的なライバルとして東アジアを警戒、この地域を軍事的に破壊するための口実とも言えるだろう。長州藩や薩摩藩が打ち立てた明治王朝の洗脳を受けた日本人には好まれる議論だ。 明治王朝の黒幕がイギリスだということは言うまでもない。「産業革命」後の経済戦争で中国(清)に敗北したイギリスはアヘンを売りつけるため、戦争を起こした。アヘン戦争である。この戦争で大儲けした会社のひとつがジャーディン・マセソン商会だ。 そのエージェントとして日本に渡ったのがトーマス・グラバーであり、同じ頃にラザフォード・オールコックがイギリスの駐日総領事として来日している。そして決まったのが長州藩から5名の若者をイギリスへ留学させるという話。井上聞多(馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(博文)、野村弥吉(井上勝)が選ばれた。 ところで、マーシャルもイギリスの影響を受けている。彼の師と言われているバーナード・ルイスはイギリス生まれの歴史学者。第2次世界大戦ではイギリス軍で情報活動に従事、戦後はロンドン大学で教鞭を執っている。1974年にはアメリカのプリンストン大学でも教えるようになるが、一貫してシオニストの擁護者。イスラエルを支持していただけでなく、サウジアラビアなどの湾岸産油国も支援していた。チェイニーも彼を信奉しているようだ。 ルイスの影響を受けたアメリカ人のひとりにヘンリー・ジャクソンもいる。1953年から83年までアメリカの上院議員を務めた人物で、反デタント/好戦派。そのオフィスにはスタッフとしてウォルフォウィッツやリチャード・パールがいた。後にネオコンの中心的な存在になる人物だ。 ネオコンと明治王朝の支配層は「イギリス」で結びついている。民主党の菅直人政権にしろ、野田佳彦政権にしろ、現在の安倍晋三政権にしろ、日本はネオコンの指揮下に入っているが、これは歴史を考えると必然なのかもしれない。 そのネオコンは現在、アメリカで劣勢にある。その影響が日本へも及ぶことも避けられないだろう。1933年以降の暴走が再現されないことを願うばかりだ。
2013.02.15
イタリアにはSISMIという対外情報機関がある。2003年にエジプト人のオサマ・ムスタファ・ハッサン・ナスルをCIAがミラノで誘拐した際に協力したとして、この機関で長官を務めていたニッコロ・ポラーリに対し、イタリアの控訴審は懲役10年の判決を言い渡した。すでに22名のCIAオフィサーと空軍の将校ひとりにも有罪判決が出ている。 ナスルの拉致はCIAとSISMIで編成した特殊部隊が実行したとされ、その部隊の動きを追うためにミラノ地検は携帯電話の記録を調査、通話の中心にCIAミラノ支局長だったロバート・セルドン・レディがいることを突き止めたと言われている。 大戦後、陸海空軍の情報活動を統括することを目的としてイタリアで情報機関が組織されたのは1949年のこと。SIFARと呼ばれたが、その背後にはアメリカの情報機関が存在していた。創設して間もなくSIFARは個人情報を集め始め、1964年の段階でファイル数は15万7000以上に達した。ローマ教皇もターゲットになっている。こうした情報を重要人物を操るための道具として使っていたようだ。1965年にSIFARはSIDへ名称が変更される。 このSIDは「右翼団体」を使い、「極左過激派」を装って爆破工作などを繰り替えして社会不安を作り出していく。クーデターも計画している。いわゆる「緊張戦略」だ。この背後に存在していたのが「NATOの秘密部隊」(イタリアではグラディオと呼ばれた)であり、その後ろにはアメリカやイギリスの情報機関がいた。 1977年には再び情報機関を再編成しなければならなくなり、SIDはSISMIに名称が変更されるのだが、実態に変化はなかった。1970年代にバチカン銀行を巻き込む金融スキャンダルで名前が出てくるP2もグラディオと結びついていた可能性が高い。 1981年に発見されたP2の名簿には情報機関のトップを含む政財官軍のエリートが名を連ね、P2のトップだったリチオ・ジェッリはローマのアメリカ大使館員とも接触している。シルビオ・ベルルスコーニもP2のメンバー。 SISMIはジミー・カーターの再選を阻止する秘密工作に協力、あるいはイラク攻撃前に「アフリカのニジェールからイエローケーキ(ウラン精鉱)をイラクが購入する」という偽情報を発信している。そしてCIAが実行する拉致にも協力したわけだ。 ところで、ナスルの拉致に絡んでイタリアで通信会社、テレコム・イタリアの保安部長ジュリアーノ・タバロリらが「情報の不法入手」などの容疑で逮捕されている。SISMIの防諜部門を指揮していたマルコ・マンチーニとタバロリは親密な関係にあった。 CIAの拉致工作でターゲットになったのはアル・カイダで、少なくとも54カ国が協力したという。その中にはエジプト、パキスタン、リビア、シリア、イラン、ヨルダン、アフガニスタン、マラウィ、モロッコ、スペイン、ポルトガル、アイルランド、アイスランド、フィンランド、デンマーク、ベルギー、オーストリラ、ギリシャ、キプロス、イギリス、スウェーデン、イタリア、ポーランド、リトアニア、ルーマニア、カナダなどが含まれたようだ。イラクもアル・カイダを「人権無視」で弾圧していた。 ところが、CIAに協力したリビア、シリア、イランをアメリカは攻撃、あるいは制裁している。それに対し、リビアやシリアの体制転覆作戦ではアル・カイダ系の武装集団と手を組んだ。 プロパガンダ機関であるマスコミは勿論だが、日本ではこうしたことに関心を持つ人は少ない。ほとんど見当たらない。それに対してCIAのオフィサーや自国の情報機関でトップを務めた人物に有罪判決を出すイタリアという国は興味深い。そういえば、「NATOの秘密部隊」を明るみに出したのもイタリアだった。この情報も日本では無視されている。最大の原因は、放送、新聞、雑誌、出版といったところが触れたがらないからだろう。
2013.02.14
朝鮮が3度目の核兵器の実験を行ったとマスコミは大騒ぎである。中国は事前の警告を無視する形で実験が強行されたこともあり、朝鮮の大使を召還して強い不快感を表明している。 確かに、核兵器は物質的な破壊力のみならず、遺伝子に大きなダメージを与える碌でもない代物で、開発などすべきではなく、廃絶すべきだ。殺戮と破壊を目的とする全ての武器、兵器は否定すべき存在だが、特に核兵器はそうしたことが言える。 しかし、核兵器はすでに存在し、実戦配備されている。原爆を実戦で使ったアメリカをはじめ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、そして朝鮮。核弾頭の保有数ではアメリカとロシアが突出し、それぞれ数千発。イギリスやフランスは200から300発、中国は百数十発だというが、問題はイスラエル。 実際にイスラエルの核施設で働いていたモルデカイ・バヌヌによると1986年の時点で200発以上、イスラエルのイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めた経歴を持つアリ・ベンメナシェによると1981年の時点で300発以上で水爆も保有、そしてジミー・カーター元米大統領は150発だと推測している。イギリス、フランス、中国並みということだ。 イスラエルは核兵器を保有しているだけでなく、1973年の第4次中東戦争で使おうとしている。この年の10月にエジプト軍が奇襲攻撃を始めてイスラエルは窮地に陥る。そこでイスラエル政府は核ミサイルの発射準備をすることで合意したのだ。ソ連の情報機関はこうした動きに気づき、その情報がエジプトやアメリカへも伝えられている。 敗色濃厚のイスラエルをアメリカは支援、ソ連はエジプトに対して停戦するように説得する。イスラエルはアメリカに停戦を約束するのだが、攻撃は止めない。ソ連はアメリカに対し、共同で軍事介入しようと提案し、アメリカが拒否すれば単独で軍隊を送ると伝えた。その直後に停戦が実現している。 そうしたイスラエルに対してアメリカをはじめとする「西側」や国連は甘く、制裁もされていない。イスラエルの動きは石油の生産と直結、日本にとっても死活問題なのだが、マスコミも静かなものだ。 他国や民主主義に対する「脅威」というなら、アメリカの右に出る国はない。イラクへは偽情報を世界に広めて先制攻撃、イギリスの医学雑誌「ランセット」が2006年10月に掲載したジョンズ・ホプキンズ大学とアル・ムスタンシリヤ大学の共同研究に基づく報告によると、2003年3月から2006年7月までの間に65万4965名以上のイラク人が死亡、そのうち60万1027名は暴力行為(要するに戦闘)が原因。イギリスのORBが行った調査では、2007年夏までに約100万人が戦争で殺されたという。 ユーゴスラビアやリビアへはNATOという形で軍事介入しているが、それも偽情報を口実にしていた。ベトナムへ本格的に軍事介入する口実として使われたトンキン湾事件が自作自演だったことは間違いないだろう。 アメリカがインドシナへの軍事介入に向かって歩き始めるのは1954年1月のこと。ジョン・フォスター・ダレス国務長官がベトナムでのゲリラ戦を準備するようにNSC(国家安全保障会議)で提案したのである。朝鮮戦争が休戦になって半年後のことだ。そこでCIAはSMMを編成、「北部地域の現地人に対する政治的、心理的、かつテロリスト的な活動を開始」した。 朝鮮半島では1950年6月に大規模な軍事衝突が起こり、戦争が始まる。元特務機関員で戦後はアメリカの情報機関でエージェントとして働いていた中島辰次郎によると、その年の2月には金日成軍に対する挑発行為を始めていた。偽装帰順し、相手の将校を皆殺しにするという作戦を繰り返していたという。「開戦」前から小規模な軍事衝突は頻発していたとも語っていた。 この当時、アメリカの破壊工作はOPCが実行していたが、この年の10月にはCIAに吸収されている。OPCはフランク・ウィズナーという人物が局長を務めていたが、事実上のボスはアレン・ダレス。このダレスが1951年1月にCIAに入り、破壊工作担当(計画局)の副長官に就任した。 1951年4月にCIAは国民党軍の兵士を率いて中国領内に軍事侵攻したものの、人民解放軍の反撃にあって追い返されている。1952年8月にも再度、中国へ攻め込んだが、このときも中国側の反撃で撃退されてしまった。朝鮮戦争は中国との戦争でもあり、ベトナム戦争を始めた一因もここにある。 日本の場合、「左翼」でも朝鮮戦争は北側が先制攻撃して始まったとするアメリカ国務省や国連の「公式見解」を信じているようだが、大きな疑問がある。 中島の証言だけでなく、例えば、ダグラス・マッカーサーに同行して日本にいた歴史家のジョン・ガンサーは韓国軍が先に攻めたとしていた。半島からマッカーサーに入った最初の電話連絡は「韓国軍が北を攻撃した」というものだったというのだ。「開戦」の2日前から韓国軍は北側を空爆し、地上軍は海州を占領したとも言われている。 1960年代から80年頃までの期間、イタリアでは「NATOの秘密部隊」を使い、「極左過激派」を装って爆破工作を繰り返していた。この秘密部隊はアメリカとイギリスの情報機関が作り上げたもので、その源流はOPCと同じジェドバラ。 最近、アメリカは「イスラム武装勢力」という傭兵を使うようになってきた。リビアやシリアが典型例。直接、カネや武器を渡しているのはサウジアラビアやカタールのような湾岸産油国だが、後ろ盾はアメリカ。イギリスやフランスなどと一緒にアメリカはそうした武装集団を軍事訓練、電子戦での支援もしている。リビアではNATOという形で直接的な軍事介入をしている。 アメリカは朝鮮に対する挑発も続けてきた。1998年には、朝鮮に対する先制攻撃、体制転覆、傀儡政権の樹立を目的とする「OPLAN 5027-98」を、また99年には朝鮮の体制が崩壊した場合を想定したCONPLAN 5029を作成している。2003年にアメリカは空母カール・ビンソンを中心とする艦隊を朝鮮半島に派遣、そのほか朝鮮への核攻撃を想定したCONPLAN 8022も作成している。 アメリカは「テロ国家」であり、世界の平和にとって最も危険な存在。イスラエルは核兵器を使おうとした国だ。アメリカやイスラエルを人びとが「脅威」だと言わないのは、本当に脅威だからにほかならない。怖いのだ。朝鮮を批判するのはその逆。事情を知っている人間なら、大きな脅威だとは考えていない。怖くもない。だからこそ、国連の安全保障理事会も気楽に非難声明を出すことができ、日本のマスコミも恐怖を煽ることができるわけだ。なぜ、朝鮮は核実験を強行したのか?誰にとって実験が都合良いのかを考えることも無駄ではないだろう。
2013.02.13
中国軍のフリゲート艦が自衛隊の護衛艦(駆逐艦)に対して火器管制レーダーをロックしたとされる問題で、状況が少しずつ明らかになってきた。伝えられているところによると、1月30日には中国のフリゲート艦が日本側の主張する領海内に入り、自衛隊の駆逐艦と3キロメートルの距離まで近づいたという。そこで中国の艦船はレーダーをロック、日本側は兵器を中国艦に向けて戦闘準備、一触即発の状況になったが、このときは双方が後退して事なきを得たとされている。 こうした事態を受け、中国では戦争に備えるかのような動きが見られる。例えば、福建省の南安で砲兵隊が2月3日から数日にわたって演習を行い、中国福建省の厦門、漳州、そして浙江省の湖州で2月3日から6日に100輌近い軍用車両が移動、2月3日には湖北省の十堰の軍事基地から多くの戦車など軍用車両が沿岸地域へ移動したという。 開戦になった場合、日本側の最も近い空軍基地は約500キロメートル離れた沖縄で、自衛隊のF-15はその分、戦闘に制約を受けることになる。それに対し、中国は福建省にある基地を使えるため、戦闘機の能力を考えると、日本のような制約はない。アメリカの空母が出てこない限り、日本は負けるという見方が常識的。 両国間の全面的な戦闘になれば、海岸線に乱立する日本の原発は破壊され、それだけで終わりだ。日本が敗北するというだけでなく、人間が住める場所ではなくなり、環境破壊は全世界に及ぶ。 小野寺五典防衛相は2月5日にレーダーの件を公表したが、その前にアメリカ政府へ通告、新たな体制に移行しつつあるバラク・オバマ政権に「中国の脅威」を強調して「日米同盟」の重要性を喚起させようとしたとも伝えられた。この件は日本政府から説明を受け、納得していると国務省のスポークスパーソン、ビクトリア・ヌランドは2月11日の記者会見で語っているが、平和的な解決を求めている。 アメリカ政府の思惑とは違い、民主党政権も現政権も軍事的な緊張を高める方向へ国を導いてきた。特に大きな節目になったのは、都知事時代の石原慎太郎。彼が尖閣諸島/釣魚台群島の領有権問題に火をつけたと言える。 安倍晋三政権も「中国の脅威」を演出しようとしている。今年1月13日に陸上自衛隊の第1空挺団が「離島防衛」のシナリオで訓練を実施して中国を挑発、15日には小野寺五典防衛相は記者会見で尖閣諸島を特別扱いしないと語った。状況によっては警告射撃の可能性はあると示唆したわけである。 さらに、菅義偉官房長官も16日の記者会見で、尖閣諸島周辺でも国際的な基準に基づいて、領空侵犯機に対しては厳正な対領空侵犯措置を実施すると述べている。尖閣諸島を中国や台湾は自国領だと主張しているわけで、そうした国々から見れば、単に攻撃してきたということになる。 翌16日にはアンス・フォ・ラスムセンNATO事務総長に「NATOとの安全保障上の連携強化を呼びかける首相親書」を手渡すため、安倍首相は自民党の河井克行をベルギーに派遣、自分自身はベトナム、タイ、インドネシアを歴訪している。 18日には岸田文雄外相がアメリカを訪問したが、アメリカ側から期待したような反応はなかったようだ。ヒラリー・クリントン国務長官(当時)は記者会見で領土問題に関して中立だとする従来の立場を繰り返している。安倍政権としては「中国の脅威」をますます必要とする状況だが、一歩間違えれば東アジアは火の海だ。 田中角栄政権が切り開いた日中友好の流れが断ち切り、「棚上げ」になっていた尖閣諸島の領土問題に火をつけたのは、前原誠司、石原伸晃、石原慎太郎、猪瀬直樹のような政治家とマスコミだが、最前線で戦う覚悟ができているとは思えない。家族を戦場へ送り出すという発想もなさそうだ。 こうした人々は「戦争ごっこ」と本当の戦争が区別できない幼児と思考回路が似ているのだろうが、幼児と違って社会的な影響力があり、始末が悪い。子どもがおもちゃを欲しがるように、石原は核兵器を持ちたがっている。石原に言わせると、外交力とは核兵器なのであり、核兵器を日本が持っていれば中国は尖閣諸島に手を出さないのだそうである。 この発言が掲載されたのは2011年3月8日付けの紙面。記事が掲載された翌日に三陸沖でマグニチュード7.3の地震があり、この地震に誘発されたかのようにして11日にマグニチュード9.0の巨大地震、「東北地方太平洋沖地震」が発生する。この巨大地震で東電の福島第1原発が「過酷事故」を起こしたわけだ。 すでに日本は大陸間弾道ミサイルを手にしている。射程距離の問題だけでなく、複数の弾頭を別々の位置に誘導するMARVの技術も保有、小型のバンカー・バスターを製造することもできる。そうした技術が使われていたのがLUNAR-Aだ。CIAに情報パイプを持つジャーナリスト、ジョセフ・トレントによると、日本が保有する核兵器級のプルトニウムは70トンに達する。 いつ日本が核兵器を作ってもおかしくないが、その先にあるのは日中核戦争。ネオコンやキリスト教系カルトなどはそうした戦争を望んでいるかもしれないが、日本人にとっては地獄。アメリカ政府としても、日本の「瀬戸際戦術」につきあう余裕はなくなりつつある。 今日、朝鮮が核実験をしたと報道されているが、これは日本、中国、アメリカにとって状況を打開する突破口になるかもしれない。
2013.02.12
2月11日は「建国記念の日」なのだという。何年か前のこの日、日本という国がつくられたというのだろうが、具体的にどのような出来事を指しているのだろうか? 第2次世界大戦で敗北した後に民主化され、新たな日本が生まれたと解釈するならば、いくつかの節目が存在する。日本がポツダム宣言の受諾、つまり降伏を決断し、同盟通信の海外向け放送で連合国側に伝えたのは1945年8月10日、15日には国内向けに「玉音放送」とか「終戦勅語」と呼ばれている放送が流されている。 正式に降服したと言えるのはこの年の9月2日、東京湾に停泊していたアメリカの戦艦ミズリー号の甲板で、政府全権の重光葵と軍全権の梅津美治郎が降伏文書に調印した時だろう。新たな国のあり方を定めた日本国憲法が公布されたのは翌年の11月3日、施行されたのは5月3日である。 しかし、「建国記念の日」は8月10日でも、15日でも、9月2日でも、11月3日でも、そして5月3日でもなく、2月11日・・・ カマトトぶるのはやめよう。言うまでもなく、2月11日は「明治王朝」を樹立した勢力(薩摩藩や長州藩、その背後のイギリス)の定めた「紀元節」を復活させたのである。その根拠だとされているのが『日本書紀』の記述。そこに「辛酉年春正月庚辰朔天皇即帝位於橿原宮」(辛酉の年の正月1日、庚辰の日に天皇が橿原宮で即位した)とあり、それを明治王朝の役人が換算して紀元前660年2月11日に建国されたと決めたようだが、その計算方法は明らかにされていない。 この説に従うと、「神武天皇」は縄文時代晩期/弥生時代前期の人ということになる。現在でも日本では「邪馬台国論争」が続いているが、その主人公である卑弥呼が登場するのは弥生時代後期。神武天皇は卑弥呼よりはるか昔、釈迦や孔子が生まれる前の人物だということになる。 要するに、紀元節は日本書紀を利用して明治王朝が創作した「神話」にすぎない。こうした代物を恥ずかしげもなく「建国記念の日」に定めているのが現在の日本。否定されたはずの「皇国史観」は健在である。カルト国家と言われても仕方がないだろう。いや、明治王朝は天皇を神だと称するカルト集団として始まり、その呪縛から少なからぬ日本人がいまだに逃れられないでいる。 戦前には「四大節」とよばれる祝日があった。紀元節のほか、元日の「四方節」、4月29日の天長節(昭和天皇の誕生日)、11月3日の明治節(明治天皇の誕生日)だ。12月23日の天皇誕生日を天長節と理解すれば、4月29日は「昭和節」ということになろうか。元日はともかく、現在、これらは建国記念の日、みどりの日、文化の日として続いている。ちなみに、勤労感謝の日は戦前の「新嘗祭」である。
2013.02.11
尖閣諸島/釣魚台群島の領有権問題は存在しないと日本政府は主張、中国や台湾の政府を「相手にせず」という姿勢だが、アメリカ政府は中立の立場をとっている。日本に組するとは言っていない。 かつて、アメリカ政府のこうした姿勢が戦争を引き起こしたこともあった。1990年8月2日のイラク軍によるクウェートへの軍事侵攻だ。 1990年7月24日にアメリカ国務省のスポークスパーソンは、アメリカがクウェートを守る取り決めを結んでいないと表明、翌25日にイラクのサダム・フセインはアメリカのエイプリル・グラスピー大使と会談している。その際にイラク側はアメリカに友好的な姿勢を表明し、米大使は「アラブの問題」には中立だと語っていた。 一応、紛争は平和的に解決するよう、アメリカ大使はイラク側に伝えているが、戦争の可能性があることは十分に認識していたはず。ジャーナリストのジョナサン・クックによると、その2年前、CIAはイラクがクウェートへ軍事侵攻すると予想していたのである。にもかかわらず、イラクに対して中立だと伝えたわけだ。軍事衝突してもアメリカは介入しないと理解されても仕方がない。 当時、イラクは経済的に苦しい状況に陥っていた。イランとの戦争で多くの犠牲者を出し、負担が膨らみ、石油収入も減少していたのだ。減収の理由は輸出量の減少と相場の下落にあったのだが、相場を押し下げていた原因のひとつがサウジアラビアやクウェートの増産。 しかも、クウェートに石油を盗掘されているとイラク側は信じていた。湾岸の産油国をイスラム革命から守ったとイラク側は自負していただけに、クウェートなどへの怒りは大きかった。 アメリカ大使との会談で、イラク側はホワイトハウスの内部にフセインを排除する動きがあることを指摘、気にしている。国防総省の内部で勢力を拡大していたネオコン(親イスラエル派)の一派のことだろう。 ネオコンやイスラエルは1980年代にフセインを明確に敵視、排除しようとしていた。すでの何度も書いたことだが、1991年にネオコンはシリア、イラン、イラクの「掃除」を決めていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官は語っている。 また、1996年に作成された「決別」と題されたネオコンの文書でも、サダム・フセインをイラクから排除して親イスラエルの体制の国に作り替えとしている。その中で、ヨルダンからトルコに至る「親イスラエル国」の帯を作り、中東を不安定化して国力を衰退させようと提言されている。パレスチナ人に対する敵対的な姿勢も明確だ。 そして2001年1月、大統領に就任したジョージ・W・ブッシュはアンドリュー・マーシャル仕込みの中国脅威論を叫ぶが、これは米太平洋軍の司令官だったデニス・ブレア提督から批判される。まだネオコンは絶対的な力を握っていたわけではないということだ。 ネオコンがホワイトハウスを制圧するのはこの年の9月11日。この日、ニューヨークの世界貿易センターにそびえていた超高層ビル2棟に航空機が突入し、国防総省の本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたのである。この出来事を切っ掛けにしてネオコンが実権を握ることになった。 この年の4月、日本ではネオコン色が濃く、社会的に優位な立場にある強者が富を総取りする新自由主義経済の信奉者、小泉純一郎が首相に就任している。2006年に小泉の次の首相となったのが安倍晋三。その安倍が昨年12月、再び首相となった。 2010年の前原誠司、11年の石原伸晃、12年の石原慎太郎は東アジアの軍事的な緊張を高める言動を見せてきたが、今年1月には陸上自衛隊の第1空挺団が「離島防衛」のシナリオで訓練を実施、尖閣諸島の近くを中国機が飛行した場合は警告射撃する可能性があると防衛相や官房長官が発言している。 16日に安倍晋三首相は自民党の河井克行をベルギーに派遣してアンス・フォ・ラスムセンNATO事務総長に「NATOとの安全保障上の連携強化を呼びかける首相親書」を手渡す一方、自身はベトナム、タイ、インドネシアの歴訪に出発した。 第2次安倍政権もネオコンの戦略に基づいて中国に圧力をかけているようだが、小泉政権や第1次安倍政権の時代と現在では大きな違いがある。アメリカでネオコン勢力が衰えているのだ。現在、ネオコンは起死回生を図り、チャック・ヘイゲル元上院議員の国防長官就任を阻止しよう必死である。 ネオコンには彼らなりの「戦略」があるのだが、日本の支配層やその追随者にそうしたものは感じられない。単に「威張りたい」、「稼ぎたい」というだけに見える。そんな日本の「暴走路線」はリスクが大きい。
2013.02.10
安倍晋三首相の私的諮問機関だという「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が2月8日に首相官邸で会合を開いた。座長を務める柳井俊二元駐米大使は「集団的自衛権行使を容認する基本認識を再確認した」と記者に述べたという。自衛隊をアメリカ軍に手駒として提供する方向へ安倍政権は大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。 この懇談会は第1次安倍政権時代の2007年4月に設置されている。「解釈改憲」について討議し、安倍首相が体調不良を理由に辞任した後、08年6月に報告書を福田康夫内閣に出したのだが、「店ざらし」になっていたという。自民党から見ても、それだけ問題が多かったということ。その報告書を懇談会は安倍首相に再提出したわけだ。 報告書では、(1)公海における米艦の防護、(2)アメリカに向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃、(3)国際的な平和活動における武器使用及び、(4)同じ国連PKO等に参加している他国の活動に対する「後方支援」について議論され、(1)と(2)については「集団的自衛権」の行使は可能だと判断、(3)は武力行使にあたらず、(4)は一律に禁止するべきでないとしている。 再び懇談会を始めるのは情勢が変化したからだと安倍首相は説明した。つまり「北朝鮮やイランにおける核拡散の動き」、「地球的規模のパワーシフト」、「我が国周辺の東シナ海や南シナ海の情勢変化」などに対応し、「テロ組織」など国家以外からの脅威への対応に関する憲法上の問題点も新たに協議することを決めたと伝えられている。自衛隊にどのような役割を押しつけるつもりだろうか? 福田内閣に提出したという報告書だが、演習にしろ、軍事作戦にしろ、公海上で自衛隊がアメリカ軍の艦船と一緒にいるという前提がまず問題。「アメリカに向かうかもしれない」ミサイルとはいい加減な話だが、弾道ミサイルを迎撃することなど現実的でない。 日本が「国際的な平和活動」や「国連PKO等」に参加するという前提だが、これにはNATOや「有志連合」は含まれている可能性がある。ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア・・・すべてアメリカ軍は先制攻撃しているわけで、相手が反撃してきたらどうするのか。日本も先制攻撃に加担することになりかねない。 アメリカの好戦派が行ってきたことを振り返ると、実際は自分たちが先制攻撃しているのだが、相手が先に攻撃してきたように演出をすることが珍しくない。例えば、キューバに軍事侵攻するため、1960年代の前半に「ノースウッズ作戦」が計画されている。(関係文書が拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』に掲載されている)統合参謀本部の議長だったライマン・レムニッツァーなどが中心メンバー。 この作戦では、まず、プロパガンダから始まり、キューバ軍を装った親米キューバ人をグアンタナモの米軍基地に侵入させ、破壊活動を実行しようとしていたとして拘束、基地のゲートでも暴動を起こす。基地の内部で弾薬を爆発させ、航空機に放火、基地の外から迫撃砲を撃ち込み、海などから近づくチームを逮捕、基地を襲撃する武装集団を逮捕、湾に浮かぶ船に火を放ち、湾の入り口で船を沈め・・・。 また、やはりキューバ軍を装い、グアンタナモ湾でアメリカの船を爆破、キューバの領海で無人の船を爆破、マイアミなどフロリダの都市やワシントンで「テロ活動」を展開し、プラスチック爆弾を仕掛けてキューバのエージェントを逮捕、事前に用意しておいた「キューバの介在を実証する書類」を公表する・・・ カストロ派を装った戦闘員をカリブ諸国に侵入させ、キューバからの偽メッセージをドミニカの地下組織へ送り、ミグ・タイプの航空機を使って挑発、ハイジャックを試みる・・・ そして、旅客機のクローン機を作り、そのクローン機にアメリカ側が仕込んだ乗客を乗せてマイアミを飛び立ち、途中で無人飛行の旅客機と入れ替え、キューバ近くでミグ機に攻撃されていると通信した後に自爆・・・・ こんな作戦が練られていたことがわかっているが、これは当時の大統領、ジョン・F・ケネディに阻止されてしまった。中心人物のひとり、レムニッツァーは1962年に議長の再任が拒否され、西ヨーロッパへ追放されている。アレン・ダレスCIA長官が解任されたのはその前。ケネディが暗殺されたのは1963年だ。 アメリカがベトナムへ本格的な軍事介入をする口実に使われたトンキン湾事件もアメリカが仕掛けていた。事件が起こったのは1964年8月。リンドン・ジョンソン大統領はアメリカの駆逐艦が北ベトナムの魚雷艇に砲撃されたと宣伝、翌年の2月には「報復」と称して本格的な北爆を始めている。 実は、1964年1月には統合参謀本部直属のSOGという秘密部隊が編成され、2月には北ベトナムに対する破壊工作をスタートさせている。この年の7月にSOGの隊員2名は南ベトナム兵を率いてハイフォンの近くにあったレーダー施設を襲撃して失敗している。 北ベトナムはこの襲撃に対する報復として、8月に情報収集活動をしていたアメリカ海軍のマドックスを攻撃したと言われている。マドックスを攻撃した北ベトナムの艦船は米軍機などの攻撃で撃沈された。このマドックス攻撃を北ベトナム軍による先制攻撃だと宣伝、アメリカ議会は「トンキン湾決議」を可決している。 1993年3月に実行されたユーゴスラビアへの空爆も偽情報を流して実現した先制攻撃。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を)アフガニスタンへの先制攻撃は「9/11」が口実に使われたが、この事件には疑問点が多く、アフガニスタン側の協力姿勢を隠していた。 イラクに対する先制攻撃は1990年代の初頭、ネオコンが描いた作戦に従って実行されたもので、サダム・フセイン政権はアル・カイダを「非人道的方法」で弾圧、その情報をアメリカへ伝えていた。リビアやシリアに対する直接的、あるいは間接的な軍事介入もネオコンの計画に従っている。NATOや湾岸諸国がアル・カイダを手駒として使っていたことも明確になっている。 アメリカが「偽旗作戦」を使って戦争を始めることは珍しくない。イスラム武装勢力のような傭兵を使って他国を攻め、混乱したところで軍事介入したならば、反撃、つまりアメリカ軍が攻撃されることもありえる。こうした戦争に自衛隊を加担させるのだろうか?
2013.02.09
中国軍のフリゲート艦が火器管制レーダーを自衛隊のヘリコプターと護衛艦(駆逐艦)にロックしたと小野寺五典防衛相は発表していたが、中国側はこれを否定したようだ。日本と中国、どちらかが嘘を言っているのか、勘違いしているのか、現段階ではわからない。 もし、日本政府の主張を無条件に信じる人がいるとするならば、記憶力や思考力に問題があるのか、権力に媚びへつらっているだけのこと。例えば、東電福島第一原発の事故で政治家、官僚、大企業経営者、学者、マスコミの記者などが嘘八百を並べていたことを覚えている人はまだ多いだろう。その後も反省せず、彼らは嘘をつき続け、国民を危険にさらし、国を破壊しようとしている。 事故の当時と政権が代わったからといって、「嘘つき」ということに変化はない。何しろ、地震国日本に原子力発電所を乱立させ、その過程で「安全神話」という大嘘を広めたのは現在の与党、自民党にほかならないからだ。しかも、官僚機構は全く変化がない。 昨年12月に成立した安倍晋三内閣は中国との緊張を高める方向に動いていた。今年1月18日には岸田文雄外相がアメリカを訪問したが、アメリカとの関係が緊密だということをアピールしたかったのではないだろうか。中国側は、今月下旬に予定されている安倍首相の訪米との関係を指摘しているようだ。 その布石ということもあったのか、1月13日に陸上自衛隊の第1空挺団が「離島防衛」のシナリオで訓練を実施して中国を挑発、16日に安倍晋三首相は自民党の河井克行をベルギーに派遣してNATOのアンス・フォ・ラスムセン事務総長に「NATOとの安全保障上の連携強化を呼びかける首相親書」を手渡したという。 NATOは中東/アフリカで軍事介入、ロシアや中国と対立しているアメリカとイギリスを中心とする軍事同盟。中国に対する挑発と見られても仕方がない。 河井が派遣される前日、小野寺五典防衛相は記者会見で次にように語っている:記者:「つまり、中国の飛行機が日本のいわゆる領空に入ってきた場合、この警告射撃ということは、ありうるということでしょうか。」大臣:「どこの国も、それぞれ自国の領空に他国の航空機が入って来て、さまざまな警告をした中でも退去しない、領空侵犯を行った場合、これはそれぞれの国がそれぞれの対応を取っておりますし、我が国としても、国際的な基準に合わせて間違いのない対応を備えていると思っています。」 尖閣諸島を特別扱いしないことを確認、つまり状況によっては警告射撃の可能性はあると示唆したわけである。菅義偉官房長官も16日の記者会見で、尖閣諸島周辺でも国際的な基準に基づいて、一般的に領空侵犯機に対しては、従前通りの厳正な対領空侵犯措置を実施すると述べている。 一方、安倍首相は16日からベトナム、タイ、インドネシアを歴訪している。経済成長の著しい東南アジアとの関係を緊密にし、中国を封じ込めることが目的だと判断する声も国外から聞こえてきた。 しかし、アメリカ側から期待したような反応はなかったようだ。ヒラリー・クリントン国務長官(当時)は記者会見で領土問題に関して中立だとする従来の立場を繰り返している。日本のマスコミは領土問題に関してアメリカは中立だという長官の発言を無視していたが。 中立の立場だということを前提に、「島々が日本の施政下にあることを認識し、日本による施政を弱体化させることをもとめるいかなる一方的な行為に反対し、全ての関係者に対し、事件が起こることを回避すること、平和的な方法によって不合意事項を扱っていくことを勧めます。」とクリントン長官は語っている。 尖閣諸島を中国や台湾も自国領だと主張しているわけで、日本が警告射撃するならば、同じように中国や台湾も警告射撃をするということになる。日中両国が無人機を投入し、軍事的な緊張が一段と高まると懸念する声も国外から聞こえてくる。 警告射撃の応酬や無人機の投入が軍事衝突、さらに戦争に発展する可能性がることは日本政府も理解しているだろう。尖閣諸島は係争地でないとする日本側の主張がそうした危機を招く原因なのだという事実を、日本政府は直視するべきである。
2013.02.08
アメリカは無人機による暗殺を続け、少なからぬ非武装の市民も殺害している。この暗殺用無人機の基地がサウジアラビアにあると報道されている。アメリカ軍に基地を提供していたことが明るみに出たことでサウジアラビアの王室は苦しい立場に追い込まれる可能性がある。サウジアラビアはイスラム武装勢力(アル・カイダ)を雇っているが、戦闘員の中に何らかの理由から許せないと感じる人間が出てきても不思議ではない。 この件では、もうひとつ大きな問題がある。一昨年からアメリカのメディアはサウジアラビアにアメリカ軍の基地があることを知りながら、報道しないことで政府と合意していたのである。アメリカのメディアはアウラキが殺された直後にはサウジアラビアにアメリカ軍の基地があることを知っていたようだ。無人機を使った暗殺でメディアは政府と共犯関係にあると批判する声もある。 サウジアラビアから飛び立つ無人機の主な飛行空域は隣国のイエメン。2011年9月にはそこでアンワール・アル・アウラキを16歳の息子と一緒にミサイルで殺したのだが、この人物は米国ニューメキシコ州生まれで、アメリカ国籍を持っていた。アメリカ人を正式な裁判の手続きを経ずに殺したということになる。 このアウラキ暗殺にかかわったひとりがジョン・ブレナン。言うまでもなく、このブレナンは、バラク・オバマ米大統領が次期CIA長官として指名した人物。CIAのサウジアラビア支局長を務めた経験があり、捕虜(ジョージ・W・ブッシュ政権は「敵戦闘員」と呼んだ)の拷問(日本のマスコミでは「過酷な尋問手法」と表現される)で中心的な役割を果たし、無人機によるアウラキ暗殺を正当化していた。 メディアと支配層との協力関係は昔からのことではあるが、建前上、「西側」には「報道の自由」があり、政府からは独立していることになっている。その建前に基づき、特定の国を「報道の自由がない」と批判したりする。傍から見ていると滑稽なのだが、本人たちはどう考えているのだろうか? 新聞、雑誌、放送・・・巨大多国籍企業から見るとマス・メディアは小さな会社だが、それでも個人から見れば大きな会社であり、簡単に設立することはできない。設立しても会社を運営するためには収入が必要で、販売価格を抑えようとすれば広告に頼らざるをえない。つまり、スポンサーには逆らえない。 例えば、年金や保険の問題を批判的に取り上げるマスコミに対してトヨタ自動車の奥田碩相談役は2008年11月、「正直言ってマスコミに報復してやろうか。スポンサーでも降りてやろうか」と発言、マスコミの編集権に経営者が介入するやり方があるとも口にしている。正直と言えば正直だが、頭が良いとは言えない。この程度の人物が日本の経済界で大きな顔をしているとは驚きだ。 日本の場合、自動車会社や電力会社のような大スポンサーだけでなく、金融機関もメディアにとって脅威。銀行が融資を止められれば、どれほどの優良企業であっても倒産する。業績が良好でない新聞社などはどうしようもない。 政府、官僚機構、大企業などの権力犯罪を暴いて報復されるより、支配層に迎合し、政府、企業、あるいは「御用専門家」たちを情報源にして偏った情報を伝えた方が楽。支配層に受けの良いイデオロギーを撒き散らして「ご機嫌伺い」しているマスコミも少なくない。 第2次世界大戦後、アメリカでは組織的に報道をコントロールする仕組みが作られた。いわゆる「モッキンバード」だ。このプロジェクトで中心的な役割を果たしたのは、大戦中から破壊工作を指揮していたアレン・ダレス、ダレスの側近で戦後は破壊工作(テロ)機関OPCの局長を務めたフランク・ウィズナー、やはりダレスの側近で後にCIA長官に就任するリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポスト紙のオーナーだったフィリップ・グラハムの4人。いずれも金融界と結びついていた。 勿論、日本のマスコミはアメリカよりも支配層に迎合している。
2013.02.07
先月、一歩間違えると自衛隊と中国軍が衝突する事態になっていたことが小野寺五典防衛相から明らかにされた。中国軍のフリゲート艦が火器管制レーダーを自衛隊のヘリコプターにロックしたのが19日のこと。30日には自衛隊の駆逐艦(護衛艦)がレーダーのターゲットになったという。 この小野寺防衛相は15日、つまりヘリコプターがターゲットになる4日前、記者会見で中国軍を刺激する発言をしていた。記者:「つまり、中国の飛行機が日本のいわゆる領空に入ってきた場合、この警告射撃ということは、ありうるということでしょうか。」大臣:「どこの国も、それぞれ自国の領空に他国の航空機が入って来て、さまざまな警告をした中でも退去しない、領空侵犯を行った場合、これはそれぞれの国がそれぞれの対応を取っておりますし、我が国としても、国際的な基準に合わせて間違いのない対応を備えていると思っています。」 尖閣諸島(釣魚台群島)を係争地でないとするのが日本政府の主張であり、係争地だと認識している鳩山由紀夫元首相を小野寺防衛相はBSフジの番組で「国賊」だと罵倒している。尖閣諸島を特別扱いしない以上、状況によっては警告射撃の可能性はある。16日の記者会見では菅義偉官房長官も、領空侵犯機に対しては国際的な基準に基づき、厳正な対領空侵犯措置を実施すると述べている。 しかし、言うまでもなく、中国や台湾も尖閣諸島/釣魚台群島は自国領だと主張しているわけで、彼らから見るならば、自衛隊の航空機や艦船は領空/領海を侵犯しているということになる。日本政府の発言が中国や台湾の政府から同じ対応を引き出しても不思議ではない。日本政府がそれを願っていた可能性もある。 中国の艦船がレーダーをロックしたのは日本側に対する警告であると同時に、こうした日本政府の姿勢を放置することは危険だというメッセージをアメリカ政府に送ったのだとも解釈できる。尖閣諸島が係争地でないという主張は、中国や台湾と日本が軍事衝突し、戦争の勃発を引き起こしかねないということ。これは本ブログでも指摘した。 もし、以前にも中国側がレーダーをロックすることがあったとするならば、なぜ今回、このタイミングで発表したのかという疑問が出てくる。1月25日に公明党の山口那津男代表が北京で中国共産党の習近平総書記と会談、安倍晋三首相の親書を手渡したことが日中双方に影響を及ぼしているだろうが、やはり1月15日の小野寺発言は重要な意味を持っている可能性が高い。 現在、アメリカでは次期国防長官をめぐって激しいバトルが繰り広げられている。大統領が指名したチャック・ヘイゲル元上院議員にネオコン(親イスラエルの好戦派)が拒絶反応を示しているのだ。ヘイゲルは共和党員だが、ジョージ・W・ブッシュ政権の戦争政策には批判的な姿勢を見せていた。戦乱が拡大しないように、イラクやアフガニスタンから撤退するべきだとも考えているようだ。 ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードによると、就任直後のバラク・オバマをヘイゲルは訪問、ジョージ・H・W・ブッシュ政権の時代から大統領は国防総省を制御し切れていないと語ったという。ブッシュ・シニア時代の軍事戦略はネオコン人脈が仕切っていた。 ドワイト・アイゼンハワー大統領は1961年1月の退任演説で「軍産複合体」への警戒を呼びかけている。1970年代の半ば、ジェラルド・フォード政権ではネオコンが合流し、「修正主義シオニスト世界連合」の流れをくむ好戦派と結びついた。2001年9月11日の出来事を切っ掛けにして、ますます強大になっている。 ブッシュ・シニア政権では、潜在的なライバルを軍事力で葬り去るというDPG(国防計画指針)の草稿が書かれたが、その草稿を書いていたグループのひとり、国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツは当時、シリア、イラン、イラクを「掃除」するとしていた。 この草稿は書き換えられたようだが、その後も「影の戦略」として生き続け、2000年にPNACの「米国防の再構築」として復活、ブッシュ・ジュニア政権に採用された。 こうした好戦的な戦略の発信源はアンドリュー・マーシャル。1921年に生まれ、シカゴ大学で経済学を専攻し、49年に国防総省系のシンクタンク、ランド・コーポレーションに入っている。リチャード・ニクソン政権の時代、1973年にONA(ネット評価室)が設置されると、その室長に就任した。当初は「ソ連の脅威」を主張し、ソ連が消滅してからは「中国の脅威」を叫び続けている。 シカゴ大学にはネオコンの思想的な支柱と言われるレオ・ストラウスも教授として名を連ねていた。新自由主義経済の教祖的な存在、ミルトン・フリードマンも1946年から76年までシカゴ大学で経済学の教授を務めている。 1960年代、下院議員だったドナルド・ラムズフェルドはシカゴ大学のセミナーに参加し、そこでフリードマンに心酔するようになったという。ラムズフェルドの弟分にあたるのがリチャード・チェイニーだ。両者はフォード政権で台頭、ブッシュ・ジュニア政権でラムズフェルドは国防長官、チェイニーは副大統領を務めた。 中東/北アフリカでは、ラムズフェルド、チェイニー、ウォルフォウィッツなどの好戦派がアメリカを戦争へ引きずり込みんだ。この地域ではサウジアラビアやカタールが資金を提供、アル・カイダが傭兵として動いているが、東アジアでは日本がスポンサーと傭兵の二役を押しつけられそうだ。日本は破滅の瀬戸際にある。
2013.02.06
日本は受験シーズンに入った。最近は受験の方法が増え、従来通りに試験を受ける「一般入試」だけでなく、出身校から推薦された学生を選抜する「推薦入試」や出願者の個性や適性に対して多面的な評価を行って選抜するという「AO入試」など学校側の主観で合格者が左右される方法が多用されている。公正な入試とは言い難い。 公正さの上でさらに問題なのは、教育を受けるために多額の資金を用意しなければならないという現実。学校の授業料が高騰、塾や予備校へも通うならば、さらに資金が必要。学校制度の変更で「勝負」の年齢が下がり、長期間にわたり、そうしたカネを負担できる富裕層が圧倒的に有利になっている。 教育水準と資金力が結びついているという点で日本より一歩先を行くアメリカ。そのアメリカのテキサス州で昨年5月、ある高校生が授業の欠席が多いという理由で、ラニー・モリアティー判事から100ドルの罰金と、24時間の収監が言い渡されて話題になった。 この女子生徒は両親が離婚、家計を助けるためにクリーニング店で働くほか、週末にはウェディング・プランナーを助ける仕事をしていた。そのため、疲労などもあって授業に出られないことが多く、「犯罪者」扱いされることになったのである。成績は優秀で生活態度に問題がなかったにもかかわらず・・・。 このケースの場合、後に「前科」は記録から削除されることになったようだが、アメリカの教育システムに大きな問題がある事実に変化はない。ハーバード大学の教授から上院議員に転身したエリザベス・ワレンによると、アメリカ人が破産に追い込まれる原因の多くは治安と教育の問題だという。 アメリカの場合、私立の進学校へ子どもを通わせるためには膨大な学費を支払う必要があるのだが、中産階級には困難。公立の学校は荒廃が進んでいるため、少しでもマシな学校へ子どもを通わせるためには不動産価格の高い地域に住む必要がある。つまり、不動産で家計が破綻した人の少なからぬ部分は、教育が真の理由だったというわけだ。 トルーマン・カポーティは『叶えられた祈り』(川本三郎訳、新潮文庫)の中でウォール街で働いているディック・アンダーソンなる人物に次のようなことを言わせている。 「二人の息子を金のかかるエクセター校に入れたらなんだってやらなきゃならん!」 エクセター校とは「一流大学」を狙う子どもが通う有名な進学校で、授業料も高いようだ。そうしたカネを捻出するため、「ペニスを売り歩く」ようなことをしなければならないとカポーティは書く。アメリカの中では高い給料を得ているはずのウォール街で働く人でも教育の負担は重いということだ。 こうした状況についてワレン議員は次にように主張する。 「G.E.は税金を払わず、大学生には教育を受けるためにもっと借金しろと言い、最上級生には生活を切り詰めろと言う。これは経済の問題ではない。モラルの問題だ。」 アメリカと同じアングロ・サクソンの国、イギリスも事態は深刻なようだ。昨年11月にイギリスのインディペンデント紙が行った覆面取材の結果、学費を稼ぐための「思慮深い交際」を紹介する、いわゆる「援助交際」を仲介するビジネスの存在が明らかになったのである。 手取りはサービスの内容によって違い、年間5000ポンドから1万5000ポンド。(現在の1ポンドは約150円)17歳から24歳までの学生、約1400名が在籍していると仲介業者は主張しているが、ほかにも似た業者がいるようで、これは氷山の一角だという。 事実上、売春の仲介をしているとして逮捕されたマーク・ランカスターという人物はコンピュータ・コンサルタントで、国防省の仕事をする許可を受けているという。国防省はランカスターが売春の仲介をしていることに気づかなかったのか、その稼業を問題だと思わなかったのか・・・いずれにしろ救いがたい。 アングロ・サクソンの後を追いかけている日本でも学費の負担が庶民に重くのし掛かっている。低所得層の子どもは教育を受ける権利を奪われているのが実態だ。教育課程審議会の会長を務めた作家の三浦朱門に言わせると、「できん者はできんままで結構。・・・限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。」(斎藤貴男著『機会不平等』) こうした状況を改善するためには法律面からの働きかけも必要になるが、そうした問題に取り組むような弁護士が出てきにくいシステムに変えられている。司法試験を受けるまでに多額の資金が必要になり、試験に受かっても司法修習生に対する給付制が廃止になって新人弁護士の多くは借金まみれ。カネになる仕事、カネを出せる人物や組織の仕事を弁護士になってからせざるを得ない。 ボリス・エリツィン時代のロシアでは新自由主義経済が徹底され、クレムリンとつながる一部の人間が不公正な取り引きで巨万の富を得る一方、大多数の庶民は極度に貧困化して犯罪者と売春婦が街にあふれたという。アメリカ、イギリス、そして日本の支配層は国を借金漬けにし、庶民を債務奴隷化して国家を支配しようとしているようだ。
2013.02.05
サイバー兵器で外国を先制攻撃するように命令する権限をバラク・オバマ米大統領は手にした、と報じられている。が、アメリカがサイバー攻撃をしかけていることは多くの人に知られていたこと。昨年5月にイランで発見された「フレーム」と呼ばれる不正プログラムもそうした兵器のひとつである。NSA(電子情報機関)を中心とするアメリカの情報機関が開発し、イスラエルの8200部隊が協力したと言われている。 サイバー攻撃はジョージ・W・ブッシュ政権が始めたのだが、次のバラク・オバマ政権はそれを加速させたと報じられている。ブッシュ政権はサイバー攻撃でなく、戦闘機やミサイルなど現実の兵器を使ってイランを攻撃したがっていた。 フレームは侵入したコンピュータ・システムに関する情報を入手して外部に伝える不正プログラムで、LANやUSBスティックを介して伝染すると見られている。2010年夏に見つかったスタックスネットはコンピュータ・システムを破壊することができ、フレームのプラグインだったという。つまり、両プログラムは同時期に、少なくとも情報を交換しながら開発されたということになる フレーム/スタックスネットでイランのコンピュータ・システムを攻撃した目的は、核開発プログラムを止めることにあったという。イランの核兵器開発は2003年の時点で止まっていると見られているが、発電のためであっても認められないと考えている人たちがいる。核兵器と原子力発電は密接な関係にあると認識しているのだろう。実際、日本でも原発が核兵器の開発に結びついている可能性は高い。 こうしたサイバー兵器だけでなく、アメリカの軍や情報機関はコンピュータ・システムやインターネットを舞台にした工作を続けてきた。例えば、1970年からアメリカとイギリスは世界規模で通信を傍受するシステムを築き上げ、80年代になると各国政府や国際機関のデータベースに「バックドア」を仕込み、情報を収集しはじめている。 その過程でアメリカの司法省がINSAW社の開発した情報の収集分析システムPROMISに注目、そのシステムを手に入れて情報機関、あるいは情報機関の内部に入り込んでいたグループへ渡している。 その後、トラップドアが組み込まれたPROMISが全世界で販売されるのだが、トラップドア付きシステムは2種類存在した。イスラエルの情報機関にも渡され、アメリカ版とイスラエル版が流通したのだ。 日本では大手都市銀行や動力炉・核燃料開発事業団(後に日本原子力研究所と統合され、今は日本原子力研究開発機構)が購入したとする情報がある。CIAは日本が核兵器を開発していると確信しているので、そのためにプルトニウムの動きを追跡しようとした可能性がある。 このシステムが世界的に注目されたのは、PROMISを司法省がINSLAWから横領したという判決を破産裁判所と連邦地裁が出したからである。下院司法委員会も同じように判断している。「司法省が横領した」という判決を欧米のメディアは報道する価値があると考えたのだが、日本のマスコミは違った。司法省が犯罪を犯すのは普通のことでニュースとしての価値がないと考えたのだろう。 1991年にポール・ウォルフォウィッツ国防次官は、シリア、イラン、イラクを掃除すると話していたというが、その直後にイランの軍防諜局がクリプトAGというスイスの会社のテヘラン駐在員ハンス・ブエラーをスパイ容疑で逮捕している。この会社の暗号ソフトには、NSAが解読できるように、「秘密のカギ」が組み込まれていたのである。クリプトAGはシーメンスの秘密の子会社で、NSAの人間が顧問として働いていた 最近、中国によるサイバー攻撃をマスコミは大きく取り上げている。外国から大規模なデジタル攻撃がある信頼できる証拠が浮かび上がってきたならアメリカは先制攻撃できるそうなので、攻撃の雰囲気作りをしているとも見える。 しかし、サイバー攻撃の主体が誰なのかを特定することは簡単でない。コンピュータを熟知した人びとにとって、インターネットの世界で別人になりすますことは可能で、他人のパソコンを遠隔操作して犯罪予告していたことが日本でも発覚している。予告した本人が明らかにするまで警察は無関係の人間を逮捕、マスコミは警察情報を垂れ流し、容疑をかけられた人物の中には「自供」した人もいたという。個人ができるなら、巨大な組織や国家機関はそれ以上のことができるだろう。簡単に結論を出すことはできない。
2013.02.04
4機のイスラエル軍戦闘機がシリアを1月30日に空爆した。アメリカ政府は大量破壊兵器がヒズボラなどの手に渡ることを危惧、イスラエルに攻撃を許可していただけでなく、将来の攻撃も認めていることをレオン・パネッタ国防長官が2月1日に示唆、アメリカ軍の攻撃もありえるという西側の情報機関オフィサーの見方も報じられている。 オバマ大統領が攻撃に合意したのは、1月22日にアビブ・コチャビAMAN(イスラエルの軍情報部)司令官からワシントンで攻撃計画の説明を受けた後で、同じ時期にイスラエル政府は安全保障担当の顧問、ヤコフ・アミドロールをロシアへ派遣して攻撃を通告していたとも言われている。 攻撃の2日前、イランはイスラエルに対し、シリア領に対する攻撃はイラン領に対する攻撃だと見なすと警告していたが、ロシア・ルートからイスラエルの動きが知らされていた可能性がある。そうなると、シリア政府も事前に攻撃を知っていたと考える方が自然であり、攻撃された後の対応を検討、反撃を自重したのだろう。トルコの外相がシリアの反撃自重を批判しているのは興味深い。イスラエルの空爆にシリア軍が反撃し・・・別の展開を期待していたのかもしれない。 攻撃を正当化するために持ち出されたのは、高性能兵器や大量破壊兵器。対空ミサイルSA-17のような兵器が「テロリスト」の手へ渡ることを防ぐためにアメリカはあらゆる手段を講じ、反政府軍がアレッポで「大量破壊兵器」を管理下に置きそうになったなら、アメリカは攻撃する準備ができているという。アメリカ政府はイスラエル側に騙されているのか、騙された振りをしているのか、ということだろう。 対空ミサイルSA-17や化学兵器。こうした高性能で大量破壊を可能にする兵器が「テロリスト」の手に渡らないようにするため、アメリカはあらゆる手段を講じるとパネッタは語ったというのだが、シリアの体制転覆を計画し、「テロリスト」を雇い、訓練し、武器を提供してきたのはアメリカ、イギリス、フランス、トルコなどのNATO諸国とサウジアラビア、カタールなどの湾岸諸国。 つまり、NATOと湾岸諸国はリビアに続いていシリアの体制を転覆させようと計画し、「テロリスト」を送り込んでシリアを殺戮と破壊で混乱させ、混乱して危険だからといってシリア領内を攻撃するというわけだ。シリアを攻撃したいだけの話である。シリアを攻撃する口実が大量破壊兵器の存在・・・イラクの場合と手口は同じだ。 当初、米国政府筋からの情報として、シリアからレバノンを拠点とする武装勢力、ヒズボラへ対空ミサイルSA-17を含む兵器を運んでいた車列が攻撃されたとされたのだが、すぐにレバノン側から国境近くでの空爆はないといる証言が伝えられ、今では取り消されている。軍事基地内に停車中だった車列や研究施設が攻撃されたということになっている。 この研究施設はイスラエルの戦闘機に破壊される前、反シリア政府軍の攻撃を受けていた。化学兵器、あるいは生物兵器がそこで保管されていて、反シリア政府軍の手にそうした兵器が渡ることを嫌ったイスラエル軍が攻撃したという解説もあるのだが、別の情報もある。実際、そうした研究を行っていたならば、攻撃後にその影響が出てくる可能性が高いのだが、そうした話はいまだに聞かない。 攻撃された当時、その施設では政府軍が回収した兵器関連の物質を分析していたとする情報がある。その物質はイスラエル製の可能性が高く、イランやロシアで詳しく調査する予定になっていたのだが、イスラエル軍の攻撃でそれは不可能になったという。反シリア政府軍もその物質を回収、あるいは破壊する目的で攻撃したが、失敗に終わり、イスラエル軍が攻撃したというのだ。 中東/北アフリカの体制転覆プロジェクトでイスラエルが表に出てきたわけだが、これまで無関係だったわけではない。1980年代にアメリカの情報機関や軍がイスラム武装勢力を作り上げてソ連軍と戦わせているが、この工作を含む「イラン・コントラ事件」にはイスラエルもサウジアラビアも連座している。 ソ連が消滅した1991年の段階でアメリカの親イスラエル派(ネオコン)はイランやイラクと同じように、シリアを攻撃する計画を持っていた。2001年9月11日から6週間後にネオコンが主導権を握るジョージ・W・ブッシュ政権は、イラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンを攻撃する計画を作成、2007年には調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュがアメリカ、サウジアラビア、そしてイスラエルの同盟関係を指摘している。 こうした攻撃プランの節目節目で登場するのがアル・カイダ。アフガニスタンでアメリカなどの国々とアル・カイダは同盟関係にあったことは言うまでもないが、リビアでの工作でこの関係が再び表面化した。シリア、マリ、アルジェリアでアル・カイダを「悪役」として描き、軍事介入の口実に使っているが、説得力はない。
2013.02.03
株式相場が上昇し、企業の業績に「急回復の兆し」が出てきたと浮かれている新聞を見かけた。株式相場が上昇し、大企業の業績が急回復しても庶民の収入は減少し、労働環境は悪化してきたのが日本。大企業や富裕層を儲けさせるための経費は、これから庶民が支払わされる。 日銀から市中銀行へ資金が供給されれば投機市場へ流れて相場は値上がりし、ドル相場が上昇(円安)すれば輸出産業が楽になるのは当然。それを見越して買いに入る投資家/投機家もいるであろうし、短期的には証券会社や銀行が株高を演出することもありえる。が、浮かれるような状況とは言えない。 日本を含む「西側」の経済が破綻の瀬戸際に追い詰められている最大の理由は資金が地下に潜り、課税を回避して投機市場/金融の世界へ流れていることにある。その結果、金融の世界は賑わうが、経済は疲弊し、庶民は貧困化していく。 富の集中と庶民の貧困化はコインの表と裏の関係。庶民の立場から見ると、相場の上昇を「慶兆」と見ることはできない。国内の産業構造が崩れている現在、円安で輸入品の値段が上がることも庶民には痛手だ。しかも、この先には消費税率の引き上げがある。引き上げの環境作りに「景気回復」を宣伝している可能性もある。 富の集中を加速させている原因だと指摘されているのがオフショア市場/タックス・ヘイブン。昔からスイス、ルクセンブルグ、オランダ、オーストリア、ベルギー、モナコなどがタックス・ヘイブンとして知られていたが、1970年代にロンドン(シティ)を中心としたオフショア市場が整備され、状況は一変した。資産を隠し、課税を回避、マネーロンダリングすることが容易になったのだ。 この問題にメスを入れなければ経済を再生することは不可能。当然、欧米では大きな問題になっている。問題になっていない日本が異常なのである。日本の「エリート」に経済を再生させたいという意志は感じられない。 ロンドンを中心とするオフショア市場ネットワークに多国籍企業や富裕層は引き寄せられるのは当たり前のことで、対抗上、アメリカは1981年にIBFを、また日本は1986年にJOMをオープンさせた。富はごく一部が独占し、負担は庶民がおわされるという仕組みが世界的に広がったということである。 19世紀のアメリカにも不公正な手段で巨万の富を築いた人たちがいて、「泥棒男爵」と呼ばれていたが、彼らは現在のような資金を隠すシステムを持っていなかった。そこで生産活動に投資、結果として産業を育成することになる。 しかし、今は違う。生産活動などに投資する必要はない。ビジネスを起こすリスクよりも、投機市場でカネを回していた方が儲けは大きく、リスクは小さい。何しろ、損をしても不正が発覚しても政府が守ってくれる。詐欺的な取り引きをしても事実上、責任は問われない。巨大金融機関は「大きすぎて処罰できない」そうだ。そして、政府はツケを庶民に回す。ツケを払わないと厳罰に処す。これで実体経済が良くなるはずがない。 新自由主義経済の世界における「新泥棒男爵」の典型がボリス・エリツィン時代のロシアで不公正な手段で大儲けした「オルガルヒ」。その代表的な人物がボリス・ベレゾフスキー(後にプラトン・エレーニンに改名)である。エリツィン失脚後にロンドンへ亡命、別のオルガルヒはイスラエルへ逃げ込んだ。 言うまでもなく、ベレゾフスキーたちがロシアを逃げ出した理由は、ロシアが自分たちのカネ儲けにとって好ましくない、つまり「やらずぶったっくり」をしにくい状況になったから。そこで強者総取りの新自由主義経済を広める工作を始める。その結果がグルジアの「バラ革命」やウクライナの「オレンジ革命」。ロシアや中国に対する工作も進んでいるが、まだ成功していない。 投機経済の繁栄/金融の肥大化は、実体経済の衰退/庶民の貧困化と表裏一体の関係にある。アメリカやイギリスをはじめとする「西側」の経済力が低下するのと反比例する形で台頭してきたのがBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)やSCO(中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン)などだ。中央アジア、中東、アフリカで「西側」はBRICSやSCOに押されていた。 「西側」が優位に立っているのは軍事力ぐらいであり、「覇権」は軍事力で勝負するしかないと考えているのがネオコン(親イスラエル派)。中国と日本の資金にアメリカの財政は支えられている。その資金を使って中国と戦おうという倒錯したプランだ。そのプランを日本が後押しする。 2008年にアメリカがAFRICOM(アフリカ統合軍)を始動させた目的は、アフリカの利権争いで中国と戦うためだと言われているが、現在、軍事作戦はNATOを核にして動いている。日本も中国との戦いに取り込まれつつある。 現在、沖縄ではV-22オスプレイの配備に対する抗議活動が続いているが、この航空機の導入をネオコンは強く求めていた。ネオコン系のシンクタンク、PNACが2000年に公表した『アメリカ国防の再構築』でV-22を海兵隊へ配備する必要性を訴えている。海兵隊の活動範囲、「殴り込み」の対象エリアを広げることが目的だという。その活動のための訓練場所が日本。勿論、オスプレイの配備と日本の防衛との間に直接的な関係はない。 すでに「暴走の兆し」が見えている安倍晋三政権だが、参議院選挙で勝利しなければ、消費税率の引き上げにしろ、TPPへの参加にしろ、原子力発電所の再稼働にしろ、憲法改定にしろ、「本格的な暴走」は難しい。マスコミは何とか現政権を守り立て、暴走を実現させようとしているようだ。
2013.02.02
1月30日の夜明け頃、4機のイスラエル軍戦闘機が超低空飛行でシリア領空に侵入、首都ダマスカスの近くにある軍事研究センターを空爆、2名が死亡したと伝えられている。シリアからレバノンを拠点とする武装勢力、ヒズボラへ対空ミサイルSA-17を含む兵器を運んでいた車列が攻撃されたとする話がアメリカ政府筋などから当初は流れていたが、事実ではなかった可能性が高まった。 NATOや湾岸諸国が傭兵を使った軍事侵略を受けているシリアは、殺戮と破壊で惨憺たる状態になっている。そうした中、化学兵器が周辺に拡散し、ヒズボラの手に渡る恐れがあるとイスラエルは主張、そうした事態が生じることを阻止すると宣伝していた。危機感を煽り、軍事攻撃に対する風あたりを弱めようとしていたのだろう。 その宣伝に乗り、シリア領内での空爆に踏み切ったのはヒズボラとの本格的な戦闘を回避するためだと書いているマスコミもあるが、現在の状況でシリア政府が化学兵器を使用する可能性は限りなくゼロに近く、ヒズボラに渡すとも思えない。シリア軍が化学兵器を使うことを望んでいるのは反シリア政府軍側だ。NATOやイスラエルがシリアを直接、攻撃する口実になる。 レバノン軍からの情報によると、イスラエルのシリア空爆には4機編成の戦闘機集団が3グループ、参加している。最初のグループがレバノンの領空を侵犯したのが29日の午後4時半。4時間後に別のグループと入れ替わり、翌日の午前2時まで飛行、そこで3番目のグループが登場し、午前7時55分に離れていったという。この3番目のグループが攻撃したということになる。 攻撃の2日前、イランはイスラエルに対し、シリア領に対する攻撃はイラン領に対する攻撃だと見なすと警告していた。イスラエルがシリアを攻撃する準備をしていることに気づいていた可能性がある。 また、今年に入ってNATOは「化学兵器話」を口実して、トルコに地対空ミサイル・システムを配備しはじめたが、イスラエルもレバノンやシリアとの国境に近いハイファへ防空システムの「アイアン・ドーム」2ユニットを配備したと報道されている。シリアを攻撃する準備だと見る人も少なくなかった。 レバノンからの情報によると、イスラエルの攻撃にロシア軍は速やかに反応、30日の段階でミグ31がシナイ半島を横断してイスラエルの方向へ飛行、イスラエル側からの警告を受けて西に転回して地中海に出るが、その地中海には18隻で編成されたロシア軍の艦隊が待機していた。アメリカ政府に対し、ロシア軍の「本気度」を見せつけた形だ。 そのアメリカ側では、トルコの米空軍インシルリク基地の部隊、あるいはヨルダンに駐屯している特殊部隊などが警戒態勢に入ったと言われている。アラブ首長国連邦に配備されたF-22ステルス戦闘機も同様。 インシルリク基地は、アメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員が反シリア政府軍を訓練してきた。その反シリア政府軍の主力はサウジアラビアやカタールに雇われた傭兵で、その中にはリビアの体制転覆でNATOや湾岸諸国と手を組んでいたアル・カイダ系武装集団も含まれていることは本ブログで何度も書いてきた。 その反政府軍はシリア政府をなかなか倒せず、最近では凶暴な実態を隠しきれなくなっている。アル・カイダを使ったのに続き、リビアでNATOや湾岸諸国はアルジェリアやマリでも同じ手口を使っているようだ。 マリで活動している「反体制武装勢力」に資金を提供しているのはカタールだという話も流れているわけで、アメリカ、イギリス、フランスあたりが中心になって描いた「アル・カイダを利用した軍事侵略プロジェクト」は綻びを見せている。ぐずぐずしていると、「解放後のリビア」の惨状も隠しきれなくなるだろう。 そうした状況から脱するため、NATO軍やイスラエル軍が直接、攻撃に参加したいところだろうが、それには口実がいる。今回のイスラエル軍による攻撃にシリア側が反撃していたなら「開戦」になったかもしれないが、シリア軍は挑発に乗らなかった。政府軍を装った反シリア政府軍に化学兵器を使わせ、それを口実に使うというプランもあるようだが、これは見透かされている。アメリカでチャック・ヘイゲルが国防長官に就任したならば、ますます好戦派/ネオコン/イスラエルは動きにくくなるだろう。
2013.02.01
全28件 (28件中 1-28件目)
1

