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2018.01.31
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1. 平安時代中期に、 藤原北家で藤原秀郷の子孫の公清が左衛門尉となり、 「左」と「藤」から佐藤という名字になった。2. 当時の朝廷の職の上から2番目を「佐」といい、 この「佐」を代々努めていた藤原氏も佐藤を名乗った。3. 佐渡守になった藤原氏から。・「佐藤」という大名がいれば、家臣やその地の地域民は主君と同じ名字を名乗れないので(中略)全国的に佐藤という名字の大名がいなかったことが、全国的に佐藤という名字が広がった一因といわれている(NAVERより)
2018.01.31
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2018.01.30
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2018.01.30
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最近幼馴染の様子がおかしい。「ねえ、雨衣。授業終わったよ?」「え?あ、ああ。…行こうか、木実」 男勝りで男みたいな髪と恰好をして、男より女子にもてる彼女。 僕の告白まがいのアプローチに全く気付かない彼女が、最近よく呆けている。「次体育だぞ、急げー」 その主な原因は、こいつだ。「…雨衣ー、行こうよー」 この春学校に赴任してきた新米教師、水草。 爽やかな言動と頼れる運動神経、そして彼女に一途な所が特に人気だ。 僕だって雨衣に一途なのに。 我慢強く草食男子やってきたのに。 雨衣や雨衣の兄さんに認められる為に頑張って筋肉つけたのに。 そこそこ最近もて始めてるのに。 それなのに未だに文化祭で女装とかさせられるこの女顔が悪いのか。 幼馴染で距離感が近すぎるせいなのか。 未だに僕は雨衣に男として意識してもらえない。 やきもきしてるのはいつも僕だけだ。*「……昔さ、あたし、一人称オレだったんだ」「あー、確かになんか似合います」「ありがとう。うち母親が居なくてさ。父親も兄貴も一人称オレだったから、そのまま覚えちゃって。気付いた兄貴に矯正されたけど、しばらく直らなかったな」「うーん、確かにあんまり一般的じゃないですけど、雨衣先輩の場合は馴染む気がします」「はは、そっか」 嘘を吐けないきよみが言うなら、そうなんだろう。 事実あたしは…いや、オレは、そうなろうとしてきた。 オレは、格好いい男になりたかった。 オレは親父からDVを受けていた。 年が離れた兄は、いつも優しいけど、きまってそれは親父が居ない時だけだった。 親父が居る時に庇ってくれた事は殆どなく、あってもそれは目立つから、次の日に響くから世間体が悪いと言うただそれだけの理由だった。 母に似た顔をしたオレを親父は憎んだ。 母に似た顔をしたオレを兄は直視したがらなかった。 だからオレを初めて全部見たのは、隣の部屋に住む、ネグレクトを受けていた木実だった。 親父が荒れてる時は木実の部屋に避難、木実の家の食えるものが尽きた時はオレの部屋から食べ物を持って行く。 よくばれなかったもんだと思う。 今思えばきっと、兄貴がそれとなく庇ってくれてたんだろう。 木実の部屋には暴力の臭いはしなかったけど、どこかひどく不吉だった。 大家の親父がよく愚痴ってた、電気代もガス代も水道代も家賃も貯めてる、木実が中学生になって払えるまで待ってやると。 そう言いながら、木実が部屋から発掘してきた、買ってきてそのまま置きっぱなしの、埃の積もった(兄貴が言うには蒐集癖の末路だそうだ)アクセサリーや服などを「家賃」と言って奪っていくんだからやっぱり糞だ。学校でパソコンが使えるようになってから、あの「家賃」について調べたら、質屋で買いたたかれてもなお家賃を軽く超える値段だった。 そんな親父にも、周りの奴等との違いをも糞と思いながらも、なんとか生き延びられるだけの幸運と体力と、そして支え合う幼馴染が居たからこそ頑張れた。 だけどついに、小6の時それが親父にばれた。 その日オレは親父に酷く殴られ、蹴られ、胃液に塗れて廊下に追い出された。「綺麗にするまで入ってくるな!」 大きなドアの閉まる音。 動けなかった。 いつもなら雪の降る夜でも外の水道でかじかみながら体を洗うのに。 声も出なかった。何度も何度も木実を念じた。 その想いが通じたのか、単に隣にも聞こえていたのか、木実がやっとドアを開いてくれた。 オレを介抱する木実はいつものように心配してくれた。 だけどその目はいつものやつだと思っていて、明日も明後日もこっそりオレが食べ物を持ってくることを信じていた。「木実、ここを出よう」 木実が作った、天井裏の隠れ家。そこで介抱されたオレはやっとそれだけを言った。 あまり時間がない。 二人揃って外に出たように偽装したが、親父は未だに部屋の中に居ると確信しているようで、イライラしながら下で待っている。「え?な、なんで…」「親父にばれた。もう、食べ物は持ってこられない。だけど安心しろ、学校のパソコンで調べたんだ、そういう人の為の逃げ場所があるって。そこでなら二人とも食べ物をもらえる。それにお前も一緒に学校に行けるんだ、オレが教えなくても大丈夫」 その直後、親父の携帯が鳴った。 今だ。 電話相手、恐らく兄貴だろう、そちらに集中する親父の後ろにそっと降り立った。 未だによくわかってない様子の木実の手を引いてベランダから外に出た。 その後、木実の肩を借りてやっと辿り着いた施設も環境としてはよくなかったが、あそこよりはましだった。 たまに兄貴が面会に来て、もう一度一緒に暮らさないかと言ってくれたけど、オレは曖昧に笑ってやり過ごした。 幼い時に当たり前だと思ってたことがどれだけ当たり前じゃなかったのか知ってしまったら、もう同じ場所には戻れなかった。 けど、施設で、争いごとを解決する手段に暴力が含まれてしまう俺は敬遠された。 職員にもそういう類の奴が居たせいで、オレが暴力を教育の手段と勘違いしてしまっていた。 それも木実や、学校で薄いやり取りをするだけの相手には全く振るう必要がなかったから、その年まで自分の異常性に気付けなかった。 父に、本当はどんな風に在ってほしかったのか。 それを思い返すのがリハビリの手段の一つだと、保健室の簿冊先生が言っていた。 流れに流れて4年、オレは理想の男を目指す女になっていた。「…ところで、雨衣先輩って……水草先生が好きなんですか?」「……いや、憧れてるだけだ」 ああなりたいと思う。 優しく、頼れて、爽やかで。 木実をオレだけの力で助けられるような人に。 なのにそれを言ったらきよみは変な顔で押し黙る。「……あっ、ごめんなさい、記録ノート持ってくるの忘れました!」 首を傾げると、きよみは焦ったようにそう言って、背中を向けて走り出す。 わけがわからない、と思いながらふとフェンスの方を見ると、いつものように木実がこっちを見てた。「きのみ」 小さく手を振ると、きのみはびくりとして逃げてしまった。 最近いつもこうだ。 施設でもいつも喧嘩っぱやい奴や性格のおかしい職員から庇ってやったのに。 木実に何でも教えてあげたのに。オレ達に居なかった、まともな親の代わりに、何でもやってやったのに。 反抗期か。 仕方なく、中途半端に上げた手を下ろし、オレはきよみの走り去った方向へ歩いて行った。【終】
2018.01.29
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2018.01.29
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自分からファーストになるペンギンも居れば、周囲の仲間に押されてファーストになるペンギンも居るそうな
2018.01.29
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今はもう迷わない
2018.01.29
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過去は未来に抗う力がない未来は過去を選ぶ余地がないだからこそそのたすきをつなぐ
2018.01.28
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2018.01.28
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職業×職業CPったー この職業の人とあの職業の人でCPを作るとどうなるんでしょう。創作またはパロディなどにお使いください。使いづらくてもチャレンジしてみてください。 1,035 人が診断 10 #JOBkakeruJOB みんなの診断結果 結果パターン 786,432 通り (日替わり) 診断結果茂安さんは『塾講師×葬儀屋』で一つ書(描)きましょう。どちらかが『警察官』でもいいかもしれません。*****※書いたけどヤンデレ成分入れ過ぎて誰おま状態なので代名詞消しました※かけらのような性格描写*『僕』塾講師×『俺』葬儀屋*『僕』警察官×『俺』葬儀屋
2018.01.28
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2018.01.27
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・夏A以外タイムスリップ安居回幕間※1夏A→精神逆行(一人一回) 2夏A以外→身体逆行(ループ/新ちゃん、わんこ達は毎回記憶リセット) 3 +一人ずつ蘇る・キャラ掘下げ、接点少ないキャラ同士の絡みあり・原作15巻について言及あり・胸糞気味/見方によってはヘイト創作・施設の設定ところどころ捏造(安居達が年を取る=8月=進級、状況変化 など)・三人称 01→(安居サイド・三人称)/外伝後編後→タイムスリップ→夏A10歳夏(崖登り試験) 02→(要サイド・三人称) 03→ (嵐サイド・一人称)/10歳→13歳(クラス分け)→15歳(銃教習) 03.5↓ (安居、ナツ、茂、涼サイド・三人称)********◆◆◆◆◆◆◆◆********ロープとナイフをもう一度ー曲間ー********◆◆◆◆◆◆◆◆********◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇1-幕間/施設の何処かにて◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇1-11「……あの時、殺してすまなかった」 初めにそうして頭を下げた安居を、十六夜は憎んではいなかった。「……!……あの時の人、ですよね」「…ああ。……言訳になるが、感染に警戒せずうろうろしている所が、…許せなかった」「……」「……許さなくていい。話すのも嫌なら、もう近付かないようにする」「……僕は、大丈夫です。……だけど、初めにあなたが狙っていたお蘭さんや、くるみさんには……」「…ああ、……もう、あんな振る舞いはしない」 けれど、寂しくて悲しかった。「…もう、いいです。…頭を上げて下さい」「……わかった」 ……元来彼は、頭を下げられることに慣れていなかった。 頭を上げた安居を見て十六夜はほっと息を吐いた。 安居はしばし逡巡し、別れを告げる。「……じゃあ、また。……何かあったら呼んでくれ。…出来ることなら協力する」「……安居さん、でしたっけ」「…?ああ」 歯にものが挟まったように言う安居を、十六夜は呼び止めた。 安居は首を捻る。「…もし、時間があるなら……もう少し…話をしませんか」「……」 十六夜良夜というガイドを安居はよく知らない。 お人好しで向こう見ずで弱そうな…そして、安居に殺されたガイド。 牡丹より弱く、けれど卯浪より仲間に慕われていた人間。 そして…今。折角生き返ったというのに、無駄なことに時間を割いている人間。「……自分を殺し、仲間を虐げた奴なんかとよく話す気になるな」「……」 十六夜は少し目を瞬かせ、やがて意を決したように安居の目を見詰めた。 思いもかけない強さに怯んだ安居に、十六夜は告げる。「僕も、仲間を殺しかけたことがあります」「……!?」「未来の世界で3年間、なんとか村は作ったものの、他のチームの誰とも会わず、希望も見出せず、村には麻薬と支配が蔓延って…死んだほうがましかもしれないと思ったんです。青酸カリを村の井戸に混ぜようとしました」「お前…」「だけど、嵐君が止めてくれたんです」「……」「あなたと百舌さんの確執にも、嵐君は割って入ったと聞いています。……青いですよね。だけど、優しくて、人の為に一所懸命な人だ。そんな嵐君をサポートしている分、慎重だったり警戒心の強いあの二人も同じ」「……」「僕も、お蘭さん達にとって、そういう人でありたかったんです。一所懸命で、馬鹿で、青くて、それでもけして誰かを助けることから逃げない」 安居は、茂のように死んでしまうやさしさが苦手だ。 巨船で蹲った安居の元に、ロープを碌に活かさず登ってきた、ナツや嵐の平和ボケした懸命さが苦手だ。 そして安居は十六夜に、彼らと似た匂いを感じ取っていた。「……逃げないのは勝手だが」「ここでは、自分一人の命を守ってから、他人の命を守るんだな」 安居は十六夜に背中を向ける。「……もう、俺に関わるな。秋のチームが心配するだろうし」「俺はお前が苦手だ」◇◇◇1-12 ナツは、やや茂が苦手だ。 どう接したらいいか分からない。 どこか自分に似ている弱さと依存心と自己嫌悪と人見知り。 だが茂は、自分が聞かされない安居の事情を知りたがっている。 内気で、かつ、子供らしい意地から明確に訊こうとすることはなかったが、ナツは如何せん視線や歯車の狂いに過敏だった。 ……過敏に気付いておきながら、何も出来ない。それがナツ。 言いたくても言えない、訊きたくても訊けない。 そんなナツと茂はある意味似た者同士だった。 彼らに何かあることに気付いておきながら、何も出来ない。それが茂だった。 茂は、安居をなんらかの形で励ましたかった。 いつも自分を助けようとする安居の助けになりたかった。 励まして、憧れて、必要とすることだけでなく、安居に頼まれた指示そのままに動くのでもなく、安居が立てた計画を実行するだけでなく、何か別の、もっと対等で、つまらない嫉妬などする必要のない、力になりたかった。 けれど二人は今日もろくに接触出来ないままだった。 ◇◇◇1-12ー8 青く空虚で広い空。山脈に縁どられた空を、渡り鳥が群れをなして飛んでいく。 安居は、癖のように今日も太陽を見上げている。「……今日、貴士先生と顔合わせした。8月から火の教官として本格的に働きはじめるらしい。 お前らはもう会ったか?」「…花以外、会ったよ。花の名前を誤魔化しててよかった」「……そうか…珍しい苗字なんだっけ……」「安居は大丈夫だったのか、貴士先生と顔を合わせて」「……そうだな。未来で顔を合わせたならともかく、今は、殺された皆も生きてるから平気だ」 日が陰り少し肌寒くなる。まだ四月半ば、冬の色が残っている。 少し遠くから運ばれてきた桜の花びらが嵐と安居の間を横切る。「せっかく記憶があるんだ。 もしも本当にやり直せるなら、今度こそあいつらを助けられる力がほしい」「ああ…でも、あいつらには、出来るだけ事情を話さないでことを進めたいな」「特に茂には」 話す顔に、ふいにぺたりと花びらが貼り付いて安居は目を眇めた。 かすかな笑い声がナツの耳に届く。空虚で、寂しそうで、嘲笑と安堵を含む笑い声だった。「だってあいつは優しいし、諦め癖があるから」「生き残ってどこかに「逃げる」為、何かしら他人の犠牲が必要なら、『行けないと思う』ってまた言うかもしれない」 安居はダイを撫でながら呟く。 ふかふかした毛玉を撫でて落ち着く気持ちは、ナツにもよく分かる。「…あいつはそういう奴なんだよ」「だけど、そういう茂だから、ずっと一緒に居たかった」「……未来に行けるのは、俺みたいに他者を切り捨てられる奴か、小瑠璃みたいに沢山の仲間が命を懸けても守りたいって思う奴だけだった」「…安居くんもそうじゃないですか」「は?」「安居くんも、茂さんに、命を懸けても守りたいって思われたんですよね」「……」「……洞窟での蝉丸さんの言葉と、涼さんの話を借りますが、そう思われることも『人の価値』ですよね…… それじゃ、駄目なんですか」「……いや、駄目じゃない」「駄目じゃない……」「ありがとう、ナツ」「…はい」 ナツが微笑むのを見て、安居も少し笑った。「……とはいっても、俺も、送り出す……いや、未来に引きずってでも連れていく側になりたいんだけどな」「……助ける側、助けられる側、どっちにもなりたいということですか?」「ああ。…もう茂に守られるのが嫌なわけじゃないけど、それでも、今生きてる茂が、いつか犠牲になるだなんて考えたくないんだ」 堅く目を瞑ったまま、安居は呟いた。最悪の事態を避ける為に。「だから…俺は、火を、捨てる」◇◇◇1-13 涼にとって安居という人間は、幼い頃から相対しているのが当たり前の存在だった。 ゆえにここ数年の、妙に親近感を沸かせるような、同じ側に立っているような感覚を与える安居の言動は、涼にはひどく落ち着かないものだった。 安居の様子はおかしい。だからその想定外は、矛盾しているようだが半ば涼の想定しているものでもあった。「お前、火は取らないらしいな」 涼が言うと、安居はちらりと涼を見やる。 夏の夕暮れは遅く、今の時間なら互いの表情はかろうじて読み取れる。「ああ。個人的に練習を付けてもらうことにする。幸い専門教科の教師は増えてるから多少なら大丈夫だろう……武器作りや罠作りも、資料と見よう見まねで練習するさ」「……ふん、お前の弟分は火のままみたいだが……随分ぶすくれてたぜ」「茂には、別のクラスの方が一緒に行けると言ったんだけどな」「それでもあの弱虫は納得しないだろうよ。 ……ふん、優等生の癖に騙し討ちなんてやるな安居」「…俺は優等生じゃないからな」 返答に涼は顔をしかめ、安居の目を射抜く。「…ここ数年のお前はおかしい」「!」「あいつら、新任教師が来てからか?妙に人目を気にしてあいつらと話してるよな」 涼の恫喝染みた言葉に、安居は緩やかに目を細めていく。その様子が気に食わず、涼は更に言い募る。「いや、お前がおかしくなったこと自体はもう少し前だ…… やけにお前は、俺に対して当たりが甘くなった。茂に対しても接し方が変わった。 ……生徒のほとんど全員に対して、甘くなった。 代わりに先生達……いや、要さんもだ、あいつらに対して警戒心が強くなった。違うか?」 考えていることを曝け出さない安居はひどく落ち着かない。 驚喜であれ憤怒であれ悲哀であれ安楽であれ、安居の目や仕草には何かしら感情の火が灯っていなければならない。なればこそ涼はそれを嗤うように冷静で居られたのだから。「それに…要さんに対して、たまに『先輩』と呼ばない時があったよな。 お前だけが誇らしげに呼んでるから、余程その言い方を気に入ってると思ってたのに。 ……何があったんだお前に」「…はは、涼はやっぱり誤魔化せないか」「ほら、その表情だ。……らしくない。10歳以前のお前なら、俺に対してよくむきになって、こういう問いかけをされたら突っぱねてたはずだ…安居、お前は何を隠してる」 安居が、猫のように目を細めた。「……『未来』だ、涼」「あ?」 酷く老成した、この場に相応しくない深い共感を示す笑み。 涼の背筋がざわりと震える。 得体のしれないものが、目の前に居る。 これまでの『安居』という存在の定義を全て裏返し塗り替えてしまうようなものが。「お前にとって『未来』は、どんなものだと思う?」 日没。次第に薄暗く、涼しくなっていく世界で安居の眼光だけが取り残される。 これ以上こいつと会話するのは危険だと頭の中で危険信号が明滅していたが、それでも涼は退かなかった。「……弱い同級生や、馬鹿な教師が居ない世界だろ?……ああ、そうそう、夏以外の奴らを導く義務もあるんだっけな。奴らをこき使ってやる未来が俺には見えるな」「……お前ならそうだろうな」「何が言いたい」 正義感が強く優等生の安居ならば、涼の言動に何かしらの青い反感を向ける筈だった。 だが、今の安居の根源には届かない。「奴らが俺達から逃げ出して、文明が滅びた世界で生き延びるとか… あるいは…俺達の方が追放される、とは考えないか?」 涼の睨む目に動じず、安居は言葉を重ねる。やはり、らしくない。 ……だが。今の問いかけの形自体には覚えがあった。 素直過ぎるがゆえに、あらゆる物事においてあらゆる他人の影響を受け続ける奴のそれだ。 つまりは。「……有り得なくはない」 ……こいつは、妙な考えを抱いては居るだろうが…安居だろう。 その結論にたどり着いた涼は、少しだけ肩の力を抜く。「外の奴らにも、縛られない奴が居るなら可能なんじゃねえのか」 言いつつも、涼はそんなこと有り得ないと考えていた。 有り得ることは、許せない。 こんなに日々を犠牲にしている涼達よりも、呑気に親や世界、文明の庇護を受けて暮らしている子ども達が、その庇護を失ってなお、生きる力を持っていることなど、有り得てはならない。「俺は、有り得ないと思ってた」 けれどそんな涼を安居は嗤っているように見えた。「そうかよ。……で、随分いいもんでも見て気を変えたわけだお前は。何を見たんだ?」「……そうだな……お前なら、まあ、いいか」 見慣れていた筈の……以前から好んで煽っていたはずの眼光に焼かれる。 日はもうとっくに沈んでいるのに、涼の背中を汗が伝う。 炎天下。「死なないだろうし」「……あ!?」「今お前が有り得なくはないと言った状況。 ……それが要さん達の言う『未来』の一部だ」 目の前にあるもの。 猛獣の視線より、銃の照準よりももっと恐ろしい何か。「そんな『未来』にもし行って帰ってきたら、お前ならどうする涼」 真っ白な光の目が涼を射抜いた。◇◇◇1-14 『未来』。 そこがどんな世界か、あまり涼は考えたことがなかった。 ただそこに自分の命と、生きる意味があればそれでいい。 もしそこが戦場であっても、それさえあれば構わない。 ……だから、考える必要がない。 未来で出会うという、『彼ら』の存在もまたそうだ。 ……何人か、妙に調子を狂わせて来る相手、気になる相手は居るが。 ……未来で自分はどんな対応をしているのか少し気にかかるくらいには。 ……未来で、安居が彼らに少なからず影響を受けたのだろうと思うくらいには。 今日も涼は、少しずつ彼らを観察している。◇◇◇1-15「…ここだ。ここからのばら達は連れていかれるんだ」 壊され始めた日用品、その材料調達の為と言って安居達は少し遠出していた。「のどかな場所ね」「……そうだな。風景はいい方だな……ここから車に乗せられて、船を乗り継いで別の場所に行くと聞かされていた。てっきり昔は、外の世界の養護施設にでも入れられるんだと思ってたんだが……その実俺達から見えなくなった辺りで、皆気絶させられて、この施設に戻ってきてたんだろうな。肥料の材料として」「……さて、どうやって止めようかしら」「うーん…百舌さんや先生達への直談判は駄目かなあ」「バカ言え、下手するとまた口封じされんぞ」「……」 そんな会話を涼は物陰で聞いていた。「……『未来』の外れ者、か」「……あいつらが、『最後のチーム』なのか?」◇◇◇1-15 鈴木安居のした兇状 安居の異常は明らかだった。 10歳の夏頃から、妙に神経を尖らせている。先生に対する刺々しさが、生意気という程度でなくなっている。それだけでなく、同級生の殆ど、特にすぐ近くで育った相手に対し甘く、懐かしむような、実際には知らないからこの形容でいいのか分からないが…まるで兄のような振る舞いをしている。頻繁に張り合っていた涼に対してさえそうなのだから後は推して知るべし。 異常が見受けられたのは、安居単体でもそうだ。 まず何に対しても妙に対応するのが早い。 だがそのわりに、身体がついていかない。 まるでもっと背が高く体重が重く筋力のついた大人のように行動する様子に、涼は違和感を膨らませていった。 そして13歳になってからのクラス分けだ。 牡丹や苅田、そして貴士先生といった新任教師と、格闘技の訓練をしている時は殊更に、その傾向が顕著に見られた。『新しく来たあいつらは、俺達が未来で出会う他のチームに所属してる。うち7人は新しく追加される【夏のBチーム】だ』 その様子が13歳のあの日聞いた、にわかには信じられない話に現実味を与えていった。『…最終試験では……7人以外は皆、テストでギブアップ出来なかった。山の中に放り出されて、ギブアップできずに野垂れ死んだ』『…』『その途中でそれぞれ、色々あった。それぞれ違う形の”テスト”を受けさせられていたんだ。…だからそれぞれ違う形で、歪んでしまった』『必要だったのかそれは』『それぞれの経験は、未来で役には立ったんだ。未来では……』 安居はまず、未来にあるもの、設備、地形の変化、植物や動物、ウイルスや菌の異常な進化や効果といった脅威と、それらについて対処したこと、観察したことなどについてひとしきり語った。 途中で他のチームが発見したという、『龍宮』というウイルスで滅びたシェルターの話にさしかかった時。『結局未来では、生きた人間は7SEEDSプロジェクト関係者しか見付からなかった』 涼は、7SEEDSプロジェクトは結局成功だったのだと思った。その試金石となった夏、改め夏Aはまさに希望の種だ。『……だから、一般人を導く使命はなんとか皆果たせた』『それなら要さんや茂に【未来】について打ち明けても平気そうなもんだが』 音楽が流れ始めた。晩飯の合図。要の流すレコード。『……いや、それは危ない。能力としては人を導けたけど、代償にした他のものが大きすぎたんだ。だから、このことがばれたら多分危険視される』『代償?』『俺含め夏Aは皆、心のどこかを失ってる。……かくいう俺が一番どうしようもないかもしれないが』 安居はついに意を決したように、これから、そして未来の世界での涼、安居達の運命を語り始めた。『……俺達が狂わされた最後の一押しは、未来で目覚めてすぐ行うことになった殺害だ』『……すぐ?外国の浜辺ででも目が覚めたのか?』『違う』 銃の訓練はしている。だから涼も、いつか人に向けることはあるかもしれないと思っていた。外国かどこかで思想、あるいは資源の取り合いなどのせいで争ったとしたら、威嚇…そして殺人の道具として使うだろうと。だが、すぐとは。『未来の世界で目覚めた時、ガイドについてきた教師が生きて目の前に現れたんだ。仲間が目の前で死んでいったのに、奴は生きてた』『……ガイド…?』『俺達の様子があまりにひどいから、監修につけられたんだと。……俺含めて6人で銃を取って殺した。奴はいちゃいけなかったから』『……』 それなら、涼にも分からなくはない。教師。誰なのか。 卯浪、貴士、それとも要か、それとも……。どいつもあり得る気がした。『その後俺達は、さっき話した【龍宮】の近くで他のチームの奴らと遭遇した。…以後混合チームと呼ぶが、あいつらが感染病のリスクがある場所に行って…なんの警戒もせずに出てきていたから、俺は怒りを抑えきれなくてまた発砲した。一人を殺した』『……は?』 火種をいとも簡単に生んだ、話の中の『安居』が今の涼には信じられなかった。『…………ああ。どうしようもないよな、俺は』『……それで、どうしたんだ』 ひどく歯切れ悪く安居は続けた。涼にはその真偽を確かめる術はない。安居の言う事を信じるしかない。喩え、どんなに信じがたくとも。『……俺は混合チームの一人に一度攻撃され抑えつけられた』『……近かったのか?隙だらけにもほどがあるだろ』『そうだな、油断していたし侮っていたし怒りで何も見えてなかった。…その攻撃した一人を夏Aの殆どが銃で取り囲んで俺は解放された』『情けないな』 音楽が流れている。『それは十分分かってる。仲間の一人にもそんな風に言われた。 その後俺達は、遭遇した場所から立ち去った』『仲間には何か言われなかったのか?』 止めるとか、あるいは、どんなに遅くてもいいから謝れだとか。 もしも小瑠璃や源五郎、茂辺りが未来に一緒に行っているなら言うだろうと涼は思う。 だが、安居の答えは想像と違った。『…仲間の一人には、皆殺しにしちまう所だったぞと言われたな。その少し後に、他の仲間に銃弾の無駄遣いをするなと言われた』『……おかしいだろ、その反応』 音楽が流れている。『……皆、最終試験の後で他の仲間の異常に口出し出来なかったせいもある。皆何かしら、仲間が死んでいく中でおかしくなってた。……更にしばらくしてからは、安居は変わってしまったと詰られたけどな』『…そうだろうよ』『……ああ。そうだな。そうだ、その方が遥かにまともだ』『……他のチームの奴とは、再会しなかったのか?』 再会したのなら、敵対することになってしまったんじゃないのか。 涼の予想はまたしても裏切られる。『再会した。…どころか、共同生活することになった』『は!?』『…さっき言った邂逅から少し経った頃の話だ。色々あって、近くに居る時共通の危険生物に襲われて……危険だから、俺達の築いた村での共同生活を持ちかけたんだ』 音楽が流れている。『復讐されるとか考えなかったのか?』『復讐のデメリットが高いから、やらないだろうと思った。俺達は少人数だったし、あいつら…混合チームは住んでた場所を災害で失っていて定住できてなかったから、丁度いいかと思ったんだ。……目一杯不審がられたが、悪意からではないとして、共同生活はなんとか進んだ』『……なんとか、ね。うまく支配関係でも作り上げたのか?』 音楽が流れている。『技術的に、基本夏Aが混合チームに指導する立場だったから尊重はされてたな。 ……俺はリーダーとして不足だったみたいだけどな。外の奴らに対して、……あと、外の奴らと仲良くしてる仲間に対して、横暴に当たり散らしたから』『…よく仲間に見捨てられなかったもんだな。俺ならそんな奴が居たら出ていく』『……そうだな。……皆には迷惑をかけた。途中まではかなりフォローしてもらってたと思う』 音楽が流れている。『途中まで?』『……殺すつもりはなかったんだが、混合チームを一人、また殺しかけた。その時、夏Aの皆には一人を除いて、もうついていけないと言われた』『……ついてきた奴ってのは……』 どこまでも安居についていく奴と言えば。 涼の頭に、涙目の茂が思い浮かぶ。『…副リーダーのように動いていた奴だったからな、その時もそいつは俺の側についた』『……【そいつ】って誰だ?』『それは言えない。言った筈だ、個人の名前は言えない。 ……お前だって、未来の自分や仲間が何か変な事をするって言われたら意識するだろ? 俺もそうだ、誰がどうしたかどうなったか意識してしまってるから、普通に振舞えずにいる』 音楽が流れている。『……そうかよ。 しかしまた殺しか、未来のお前はどれだけ危険人物なんだ。今度は何がきっかけだ』『ある日、ある先生が娘をコネで送っていたことが分かった。それがきっかけだ』『…!』『赦せなかった。……その先生は、娘は未来に行けないからと、行ける俺達に八つ当たりをしてもいた。 ……大方、八つ当たりした後出世して、娘を送れるようになったって所だろうけどな』 ……まさか、卯浪の娘か。 ごくりと唾を呑み込み、涼は問う。『……で、赦せない先生の娘とやらに……お前はなんか、したのか』『俺は殺意と罵倒を先生の娘に向けた。日々償わせる為に面倒な雑務もやらせた』『……ま、それくらいなら仕方ないだろうな』 涼の頭に、ぽんと卯浪似の少女が浮かんだ。 新任教師の中にそんな存在いなかった気がするが、と首を捻る涼に構わず安居は話を続ける。『…話はここからだ。乾季が続いた頃、先生の娘は夜中に一人逃げようとした』『……よく気付いたな』『…見回りしてて居合わせたんだ。 だから、………… ……』 涼から目を反らし、目を瞑り、小さな声で話す安居。 そんな安居を涼は見たことがなかった。 にわかに冷えてきた背中が鬱陶しく、涼は強い調子で言う。『聞こえねえ』 涼の言葉に、安居は観念したように顔を上げた。 へこんでいる時の茂よりも情けない表情だった。『…悪い。 ……俺は……皆が、先生に甚振られた分を……やり場のない俺の怒りとか痛みとか、押し付けられた歪みとか…先生達が残していった汚れ全部を、先生の娘にぶつけようとしたんだと思う』『……殴ったか?殺しかけたか?拷問でもしたか?』『拷問が一番近いな』 13歳のあの日。 その後の安居の答えは涼の想像を越えていた。『先生の娘が脱走したことで憎悪が決壊した俺は、先生の娘を……………しようとした』『……待て。俺の聞き違いか?もう一回言え』『……だから、……………しようとしたんだ』 初め涼は、安居がおかしくなったのではないかと疑った。『もう一回、もっと大きな声で』『……紙に書いて伝えた方がいいか?』『聞き違いじゃないのか』『お前のその反応からすると、お前は正確に聞き取ってる筈だ』『……』 何も言えずただ目を丸くする涼を見て、安居の顔が更に暗く沈む。『ただ、途中で仲間の一人が止めに入った。……副リーダーが、止めてこいって言ってたみたいだ』『……なあ。 それは本当に未来であったことなのか?お前が見た夢じゃなくて』 涼にはどうにも信じられなかった。むしろ止めに入る側に安居は居そうなものだ。涼の反応に、安居はまた眉根を寄せる。『そうだったらよかったんだけどな』『……まあいい、続きを聞く。それで、途中でやってきた仲間の一人がやったことをばらして、その後で殺人沙汰になったってのか?』 安居の口が自嘲に歪む。『……いや、ばらされたのは殺人沙汰になった後だ。この後俺ともう一人によって、先生の娘が行方不明になるんだが…その動機について、先生の娘が消えた方が俺には有利だったんだろうと言われた』『……元々の恨みじゃなくて?直近の行いを隠す為にか?』 音楽が流れている。『元々の恨みより直近の行いを隠す気持ちの方が、その仲間には理解できたんだろう。 先生の娘でコネで来てるからって、先生の責任を押付ける気持ちが分からないとも言われた』『ま、責任はともかく、別の人格だからうまい償いは出来なかったろうな』『……まあな。本人じゃないとできないことはある』 また遠い目になる安居を涼は引き戻す。『……で、行方不明の経緯は?行方不明に”なる”ってことは、しようとしたわけじゃないんだな』『これまた話が長くなるんだが』『いいから話せ』『……それから数日後だ。脱走失敗の日から先生の娘は俺を避けつつも、村から逃げ出そうとはしなかった。…俺も、どうしようもないことをしかけたという自覚はあったから、同じ事はしなかった』『……そりゃそうだろうな』 未だに涼は安居の話を信じきれない。 過去に戻ったと言うことだけじゃない。 未来で安居が追放される経緯全てが、涼には信じられなかった。『……そんなある日、副リーダーが、先生の娘を高い所から落としたんだ』『【そいつ】も先生の娘を憎んでたのか?』『……【そいつ】も、先生に八つ当たりされた一人だったな。【そいつ】自身が言うには、私怨と言うより俺の為らしいが。【先生の娘】という存在が俺を傷付けるけど、俺に先生の娘を殺させるわけにはいかないから代わりにやったと言っていた』 音楽が流れている。『随分と素晴らしい自己犠牲精神だな』『…他に、うちのチームの一人を森の奥に一晩連れ込んだから俺がぶん殴った奴のことも【そいつ】は殺しかけた。殺すまでする必要はないだろうと言ったんだが、逆に、そこまでする気がないなら怪我をさせるなと言われたな。……俺が作った火種を消そうとしていたんだろう』『火種を造るなってのは分かるが……【そいつ】は随分と…』『…過保護だよな。因みに【そいつ】が、俺と一緒に夏Aの村を出た仲間だ』『過保護…か…』 過保護でいいのか。涼には【そいつ】の行動原理をどう定義すればいいのかが分からない。そんな行いをする奴を見たことがない。 やはり茂ではないのか。小瑠璃か、それとも最近足繁く通う先の源五郎やあゆか、これから急速に親しくなる相手なのか……過去に戻った安居が、接し方を変えた相手なのか。『……その時期のお前と【そいつ】は、セットで随分な悪循環を起こしてるみたいだな』『最悪のコンビとして混合チームには見られ続けたな』『だろうよ』 まさか、要か。『……で、その、俺に憎まれ、【そいつ】に落とされた先生の娘は途中引っかかりながら落ちたから無事だったけど、そこで偶然俺と鉢合わせしてしまった』『なんだその偶然……』 音楽が流れている。『……本当に、嫌な偶然だ。お互いにとって突然だったから、先生の娘は俺から逃げようとした。……その先に急流があった。俺は落ちそうになるのを止めようとしたんだが…先生の娘は、俺の手を怖がって、避けて、川に落ちた』『……ま、そりゃ、警戒はするだろうな』『俺はロープを投げかけた』『一般人を導き助けることは忘れてなかったか』『……まあな』 やっと安心したように、皮肉げに言う涼に安居は頷く。『……だが結局俺は、先生の娘にロープを投げなかった』『ああ、その前に流されたのか』 それでもたもたしていたことを責められて殺意があったとでも言われたのかもしれないと涼は思った。それならばまだ納得が行く。『違う。先生の娘は、さっき言った俺の仲間…【そいつ】が自分を落とそうとしたと叫んだ。……俺は、【そいつ】を信頼してた。……だから俺は、投げかけたロープを仕舞った』『……ここで死ぬべきだと判断したのか』 目の前で困っている人間が居て、そいつが仲間に明確な危害を与えそうにないなら、安居ならとりあえず助けるだろうと涼は思っていた。 安居なら、どれだけ【そいつ】が殺したがっても、その一線は譲らないだろうと。 しかし、安居の声は涼の思いを否定する。『【そいつ】は危険に気付く能力に長けているし、仲間の為に行動することが多い。 【そいつ】が死ぬべきだと判断する相手ならそうなるべきだと、あの時の俺は多分そう判断した』『……どんだけ【そいつ】の判断に依存してんだお前』 涼の頭に、おどおどして周囲を伺う茂、仲間にあわせて行動する茂が浮かんだ。 もし【そいつ】とやらが茂なら、安居は幼馴染の情や共感から、そんなことをするのかもしれない。『俺が出来ないことを【そいつ】は出来るし、俺が見えないものを【そいつ】は見られる。俺と【そいつ】がしてたのは依存というより補い合いだ』『……わかったよ、わかった。【そいつ】が基本的に頼れるってのは分かった。先生の娘がどうなったのか続きを話せ』 【そいつ】を庇うように言い募る安居を押し留め、涼は続きを促す。『……ああ』 【そいつ】を庇うように話している時だけは安居の目が輝いていたが、その光はじきに沈降していく。そのことだけが涼には惜しかった。『結果先生の娘は流されて一時期行方不明、……その時、さっき俺を止めた仲間、あいつが俺の行いをばらした。ロープを仕舞った俺についても、…先生の娘を落とした【そいつ】についても、行いを隠そうとしたんだろうと言われた』『……先生の娘を落とした【そいつ】は随分と短絡的だな。やることなすこと裏目じゃねえか』『俺の為だったんだ』 即答する安居に涼は顔を顰める。『……お前はそれでいいのか?』『俺がもともと、憎悪を抑えきれなかったのが原因だからな。……結局俺と【そいつ】は、他のチームだけじゃなく仲間にも排斥された。外の世界の『裁判』を模して、裁かれた。 他チームの一人を殺した事。傲慢に支配をして、外の奴が仲間とつるんでいたら怒鳴って、時には外の奴に暴力を振るったこと。そして、先生の娘自体には罪はないのに、八つ当たりで虐めて、傷付けて、結果死に追いやった事が主な罪状だ。 追放か強制労働か選べと言われた』『随分と素早い対処だな』『……不満が溜まっていたんだろうな』 音楽が止まった。『追放のレベルは島流しか?村に入れないってことか?』『村に入れない、だな。顔を合わせても互いに関わらないという意図も含んでいただろうな』『……さすがは元リーダーへの扱いって所か。いや、仲間ラブなお前には一番辛い刑か?』『……まあな。ああ、あと…俺は一時的に拘束されもしたが、その時右手にひびを入れられた。あの時は流石に未来で生き残れないかもしれないと思ったな。…一般人を導く立場の筈なのにこのザマだ。優等生だなんて間違っても自称できない』『……幾らなんでも、対人スキルが下手になりすぎだろ。ここの誰にでも話しかけられるお前はどこ行ったよ』 鈍いくせに神経過敏で、判断力も行動力もあるのにうっかりして、面倒見がいい分寂しがり……仲間想いな安居が。『俺の【誰にでも】は、多分幼馴染限定だ』『……幼馴染以外にはポンコツなリーダーさんか。そりゃあ乗っ取られても文句は言えねえな』『……』『混合チームとやらは賢いな。おおっぴらな復讐は角が立ってできねえから、この機を逃さず、排斥と乗っ取りでもって意趣返しをしてみせたってわけだ』『……意図的かどうかは分からないけどな』 そんな安居がもし仲間を失ったら、そうなるのか。 涼の頭の中で、未来の安居は未だ形を取らない。『その後は?お前と【そいつ】で二人旅か』『しばらくはそうだった。あてもない旅を続けている内に、俺達は海岸に出た。 そこで最後のチームと出会った。……最後のチームの何人かは、混合チームの数名を警戒していて、接触しようとする気もないようだったから、俺達は合流することにした』『……最後のチームの奴らとは相性が合ったのか?同じ一般人だろ』『何か教える立場になった時はな。あいつらは素直に関心してみせた』 まるで茂のようだと涼は思った。 涼と違い、安居に対し素直にすごい、がんばって、安居なら、と嬉しそうに言い続ける様子は馬鹿みたいではあったが、同時に平和の象徴でもある。『うち一人には【生徒会長】とかをやってたかとか、兄弟が居るかと問われたしな』『……傲慢な王様が、随分といい捉え方をされるようになったもんだな』『”師匠”だとふざけて呼ばれたことはあるな。何につけ教えるからだと』『ま、知識は持ってて損じゃないだろ』 無知が盾として使えるのは、先生の娘とやらのように、悪事に関して無関係だと主張する時ぐらいだろう。突然加わった安居と【そいつ】に対しピリピリと警戒をせずに済んだ最後のチームも無意識に使ってはいただろうが。 ようやっと涼の考える安居像と重なりだした、師匠もとい未来の安居。 ずっと空白だった未来の安居の顔がやっと描かれていく。『その教える立場ってのを、混合チームにも徹底すればよかったのに』『目覚めてしばらくは余裕がなかった……教える立場にはなっていたが、今思えば高圧的だった。高圧的に教えられるのを好まない奴も居る。先生の娘もそうだった』『卯浪に対するお前みたいな』『その喩えはやめろ。……だが、相性の悪さの度合いは似たようなものだろうな。未来に行ってからもともと何回か我を忘れたり、幻覚も見たが……先生の娘が居ることが分かってから、更に激化した。……頭が段々と冷えて、その後俺と【そいつ】が合流した、最後のチームのことは導けたけどな。【そいつ】にも、安心した様子で見られたし』『【そいつ】はお前が不安定だと不安定になるんだな』 どれだけべったりなんだ。呆れる涼に、安居は目を伏せる。『……そうかもな』『また随分と歯切れ悪いな。……最後のチームでは妙なことはなかったんだな?』『…ああ……最後のチームには、先生達の身内……いや、血縁者は居なかった。……だから俺は、傷付けずにいられた。世話を焼き過ぎとか、心配し過ぎとか、能力を信じてないとは言われたが。一緒に来てくれた【そいつ】も、だから、妙なことをする必要があまりなかった』『……【そいつ】って誰だ。そろそろ言えばいいだろ』『言えない』『……まあ、いいけどな。…よほどお前と近しい奴なんだってことだけは伝わってきた』 やはり茂なのか。 涼の脳裏に、成長した茂が浮かんでいた。『…近くに居るな、確かに』 たまに見せる無表情が涼の頭を過る。 茂が安居の為にと陰ひなたに動く姿が浮かぶ。『……排斥された俺の傍に唯一残ってくれたしな。【そいつ】は俺が幻覚を見たり、他のチームに行き過ぎた暴力を振るいそうになった時なんかは止めようともしてくれた。危険分子の殺害係と殺し合いになった時なんて、……武器を取っ…てはいたが、言葉を尽くして相手を止めようとしてた』『それなら止め続けてればいいだろうに』『俺のせいだ。俺がおかしくなったからだ…本当はそういうことをする奴じゃない。【そいつ】も俺と同じように、最終試験の悪影響を受けてたし』 なおも庇われる【そいつ】の存在が涼には少し腹立たしかった。『……それで、……最後のチームではその悪影響とやらは少しはましになってたのか?』『最後のチームは…なんといったらいいか…手強かったんだ。 仲間の【そいつ】がいくつかチームに…罠……嫌がらせを仕掛けたが、何とか生き残った』『……?』 何かをはぐらかされている。 安居の話し方に涼は違和感を覚えたが、取り敢えず突っ込まないことにした。『……その後、生きていた先生の娘に再会し、謝罪もしたが……それでも、多分俺は歪んだままだった。……今、ここに居る俺もそうだ』『…………』『…何が怖いとか、傷付けた相手にどうすればいいのかとか、俺にはもう分からないんだ』 安居の真っ直ぐさ。揺るぎない、ともすれば暑苦しくもある正義感や、未来に向ける輝く目を涼は思い返した。涼にはそんな安居が、今さっき耳にしたような未来を迎えるだなんて考えられなかった。 ……そもそも、いくらおかしくなっていたとしても卯浪のような愚かなことをするなんて。 ……そんなことがあったら、安居という存在について一から考え直さなければいけなくなる。 ……もしそんな状況に直面したら……自分なら、どうする? 涼がそう考えた時、図ったように安居は言った。『……二人で旅をする少し前、【そいつ】にも、これ以上どうしようもなくなったら見限るかもしれないと言われた』『……だろうな。見限られなくてよかったな』『ああ、本当にな』『謝罪した後、どうしたんだ。また共同生活したのか?』『いや、しばらく少し遠くで俺と【そいつ】は暮らしてた。……先生の娘と混合チームの一部には、俺と顔を合わせるのも怖いと言われたしな。その後、他のチームから船を借りることにした』『ほう』『俺と【そいつ】に加えて…最後のチームの一人は国内のシェルターをまわる為船旅に出た』『……随分と少人数の旅だな。また追い出されたのかよ』『俺があの村から出たいと言い出したんだ。航行技術が上がって、資材を集められれば海外にも行ける。そうすれば医療技術とか、新たに見付かった冷凍睡眠させられてる子たちを起こす技術を探すことに繋がる。……そうした使命を背負えたことが、俺は誇らしかったんだ。 冷凍されたままの子ども達が、施設を結局出られなかった皆に重なったんだ』『……』『それが【未来】での最後の記憶だ。細かいことは省いたが、話は以上だ。俺が同級生に甘くなり、先生達を警戒し、その割に新任教師とはよく話す経緯、あとお前に対してむきにならなくなった経緯の大筋は話した。 話は終わりだ』『……』 違う、そんなのはありえないと思った。だが。『……信じられないなら信じられないで構わない。 だが他の奴らには話さないでくれ。…特に茂と要さんには』『……頼まれても話さねえよ。しかし、そうやって強調するってことは、【そいつ】の正体は……』『言わないと言ってる』 だがしかし、違うと考えるにはあまりに安居の目が真剣で、真っ直ぐで、涼は事実と認めざるを得なかった。 まだ何か話されていないことがある気もしたが、それを今聞き出すには物事が複雑すぎて理解しきれない気がした。『……ああそうかよ。……少し整理する。後でもっと詳しい話を聞かせろ』『分かった』 その後二人は、仲良くカレーの具を減らされた。 あれから涼は、安居が省略していた話を少しずつ聞き出していた。 はじめ起きた場所からどうやって移動したか。道中でどうやって未来の生物に対処したか。 夏Aの村をどうやって作ったか。 夏Aの村にやってきた混合チームとの共同生活、哨戒の仕方は。 雨季と乾季の違いは。 怪我をした手の扱いは。 浜辺の暮らしは。 岩礁に乗り上げた船への対処は。 船の繰り方、注意点は。 海の生物の種類は。 最後のチームと入った巨大船の様子は。 海路と陸路の違いは。 海路から侵入した洞窟の状態は。 洞窟で遭遇したロボット、機械類の特性は。 未来で飼っているという大蜘蛛の弱点は、などなど。 そうした話を聞きながら涼は、個人的に未来の暮らしは悪くないと考えていた。情報や技術が、外の人々より17年古くなってしまうということは納得しづらかったが。 未来の安居とよくセットで行動してる【そいつ】や、最後のチームとやらとは気が合いそうだとも思った。 もし【そいつ】が未来の茂ならば、認めてやってもいいかもしれない。 そう思いはじめる涼に対し、説明している安居もどこか生き生きとし始めていた。 ただし個人名だけはいくらカマを掛けても安居から引き出せなかったし、そこに繋がる夏Aの今後の情報も安居ははぐらかし続けていた。まるで下手に情報を得たら涼が暴走するかのように。 一方で涼は未だ、未来からやってきたという新入り達に個人的な接触をしていない。特に情報を引き出すつもりもない。 いっそふてぶてしいまでに涼はそれまで通りを貫いている。 その実涼は未来の安居が辿ったらしい道を訊くほど彼らを信用できていなかったし、下手に接触すると先生達に怪しまれたり、『未来の安居』が更に不安定になる恐れもあった。 涼の苛立ちは日々募っていく。◇◇◇1-1× 今は、施設に小瑠璃達と安居が居ない。 のばらの見送りに行っている為だ。 涼はそちらに行かず、一人射撃場に居る。 のばらとはそこまで仲良くない。 ……そもそも、仲良くする気もない。 落ちる可能性のある生徒と仲良くすることは、甘さに繋がると涼は考えている。 最近よく話すようになった虹子とは気が合ったし、他の子どもとは違ってつるみやすかった。そして何より、一緒に未来で活動している様子がイメージできた。だからこそ共に行動していて安心できる。 一方で安居はと言えば、涼の対抗心や他の何かしらの感情を煽りはするものの、見ていてひどく落ち着かない存在だった。 真っ直ぐだが時折不安定な安居は力量としては涼と互角でも、何か決定的なものが、先生達が『未来』で動く『大人』に求めている…生き残りの席を得る条件に対し、足りない気がした。 ……10歳までの安居は、そうだった。 ……10歳からの安居は、変わった。 何かは満たされて…代わりに、どこかが壊れているような目、声、ふとした時の仕草が涼の気に障る。 そんな安居を未来で見ている自分自身など、今の涼にはあまり想像がつかなかった。「……撃つか」 簡単な点検が終わった手元の銃を、涼は二三度弄んでから握りこむ。 銃は手に馴染んでいる。だが、生きている的になど向けたことはない。 ……未来の安居は撃ったのか。 ……いつか安居は、その手で人を殺すのか。 弾倉に弾を入れる。 ……ああして悔いている癖に、どうして殺してしまったのか。 弾倉をグリップに差し入れる。 ……殺してしまったのならどうして、悔いているのか。 スライドを引く――撃鉄を起こす。 ……どうして【そいつ】とやらのしたことまでも、背負っているのか。 安全装置を外す。 ……その時、涼自身は何をしているのか。安居達を追い出す側なのか。 安居が悩んだり、新任の嵐達が要と何かやり取りをしている様子が涼の頭に浮かぶ。 ……どうしてそこまで拘るのか。 涼は溜息を吐いて、的の頭部に狙いを定める。 ……切ってしまえば楽なのに。 ……一番譲れないものだけを守っていればいいのに。 引き金を引く。 ……もしかしたら未来でも、こういうことを思うのかもしれない。 聞き慣れた破裂音。 直後、的の頭部ど真ん中に穴が開いた。*【続】
2018.01.27
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2018.01.26
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・水田の中に家を構えたもの 昔で言うと、そのように自分の田と家を持つことは豊かさの象徴(ZUU onlineより)植物クラスだからあゆの方が田中っぽい気もする
2018.01.26
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※このお話は実在の人物・団体などとは一切の関係がありません※**********ある所におかしな環境で育った男が居た。しかしおかしな環境ではあるが、男の両親は自分はまともであると信じていた。男は自分の両親も家庭もまともでリベラルで、それをおかしいと言う世間こそがおかしいのだと思うしかなかった。事実、両親の考えはご立派ではあったのだ。少々夢想的でありそれを行使する人間が非常に有能であればそれは理想論ではなくなるというくらいには。しかし両親はまだ有能であったが、男はそれにすら手が届かなかった。両親は男に天から与えられる才能と努力を地道に続ける能力を期待し続け投資し続けたが、男にとってそれは徐々にプレッシャーになっていった。DVというほどのものも受けていない。モラハラというにはどこか違う。だからどうにもできなかったが、何かが歪んでいる事だけは分かっていた。男と互いに居ない者として扱いあっている兄もその歪みに影響していた。世間や両親から半分見放されかけ、問題ばかり起こす兄。反骨精神溢れる割に自分で自分の生きる食い扶持は稼げず、結局親の言う通りの進路を選ぶ事でしか生きていけない兄。精神的に縛られる男とは対照的に、肉体的に縛られている兄。どういう人間か気になっていた。同時に、こいつのようにはなるまいと思っていた。だから、兄が好んでいた、異常者を愛する物語に足を踏み入れてしまった。理解するために。せめて歩み寄る為に。しかしのちに兄との仲は断裂し、男には異常者を愛する性癖のみが残った。男は期待に必死に応えながらも、次第に、自分は異常な環境で育ったと言える人に憧れていた。兄の影響で愛しはじめてもいた。ゆえに。愛するのみならず、ネットではそれを騙った。自分がそのとある異常環境で育った者なのだと騙り同情と共感と支持を得た。しかし罪悪感も羞恥も影響し、それは結局作った人格で人生で自分の嗜好でもあるというメッセージは陰ながら発信していた。これによって異様な形ではあったが、愛する者であり愛される者にもなれたのだ。異常環境の元ネタは、「リベラル」な両親が集めた異常者や社会道徳や歴史や法学諸々の本たちであり、また普段の聞き上手な自分を頼ってくれる、本当に「異常環境」で育った人々の相談や実体験だった。これは非人道的行為ではないと男は思う。相談への手助けはしている。win-winの関係だ。ネットで称賛もされている。win-winの関係だ。だがたまに、そんな異常環境を装って同情を誘ったりするなど下劣な行為である、異常環境に本当に身を置かれている者からしたら罵倒に近いと言う人が居る。気持ちは分からない事はないが、少し、少しだけ、「そういうもの」なのだと理解してほしいという気持ちもある。男はそのことについて愚痴をこぼす。目の前に居る従弟は、何故か何とも言えない目で男を見る。男は信じている。自分は家族の嘲る異常者ではない。男は信じている。自分は家族の犠牲になった異常者だ。そうして自分が救われる為に、自分が救う為に、あの愛しい異常者を今日も演じる。
2018.01.25
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・稲作にまつわる他の祭礼儀式・神に由来する。 大木に鈴を下げたものを鈴木と呼び、それを宗教信仰の対象とした時代があった。また神への奉職に携わる人を鈴木と呼称してきた(wikipediaより)・熊野地方で刈りとった後の稲わらを積み上げたものを「すずき」といったことから、というのが有力(木世出版社より) この一族が紀伊国藤白(和歌山県海南市)に移り、王子社の神官となり、熊野信仰と結びつき(中略)熊野信仰を布教する人たちの共通の名字として「鈴木」を名乗った(後略)
2018.01.25
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2018.01.24
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・藤原北家、佐藤公清の曾孫である基景が伊勢に住み、「伊勢」の「伊」と「藤」を組み合わせて「伊藤」を称したのが最初とされる。(ZUU onlineより)
2018.01.24
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2018.01.23
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※親殺しの後二人して逃亡した2班仕事直ちゃんと1日家の中で絵を描いてる恵ちゃんとスラム街で抗争してるロン達が出会うIF話*************たばこを吸うと大人の仲間入り。そんな馬鹿な話があるもんかと思ってたが、押し付けられた以上しょうがねえ、道了や同僚の奴らから味の感想まで訊かれるんだから吸わねえわけにはいかねえだろう。「…貴様も肺を汚し始めたか」「色々付き合いってやつがあるから仕方ねえんだよ」「知っているか?肺癌のリスクは云々カンヌン」途中から耳をふさいだ。頼んでもいねえのに分かりやすく説明してくれるその優しさに吐きそうだ。「サンタクロースかお前は。情報を毎度毎度頼んでもねえのにプレゼントしやがって」「とんでもない立場の違いがあるな」「サンタクロースと比べて随分おっかねえし正直逃げてえけど」「とてつもない扱いの差だな」それでも、逃げられないのは情ってやつのせいか。たばこのフクリューエンに露骨に顔を背けた鍵屋崎を尻目に息を吸い込む。「……おい、急に吸うと…」「げほっ」言ったそばから、と鍵屋崎が何やらうるさい。「……仕方がないな。僕の真似をしてみろ」「…何でお前が吸い方知ってんだよ」「客にたまに吸わされるものでな」「……」あー、ききたくねえこときいちまった。*その後なんとか吸えるようにはなったが、その頃にはたばこは殆ど灰になってた。ある程度吸ったら売るつもりだったんだけどな、もったいねえ。
2018.01.23
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2018.01.22
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2018.01.22
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→1 『巻き戻せない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『手段を選ばない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』あらすじ:・外伝後安居・涼・まつりタイムスリップIF二次創作小説・安居(過去)を拉致し、夏B村(過去)で暮らす涼(未来)・涼(過去)を説得し、混合村(過去)で暮らす安居(未来)とまつり(未来)**************カイコ 14**************「……涼。やっと戻ってきたのか。何でお前はいつも勝手な事ばかりするんだ」「この時期のお前は不安定なんだから仕方がないだろ。花達と引き離し、夏Bの漂流した所に連れて行って会わせ、精神の安定を図った。ついでに夏Bにも恩を売ってきた。なんの不満があるんだ」「目的はともかく、手段がおかしいんだよ。ろくに交渉もせず過去の俺一人を連れ去るのは強引すぎるだろう。こっちは、過去のお前が切れて俺に殴りかかってきて大変だったんだが」「……それでもこうして一緒に行動しているということは、説得はできたんだろう」「……相当疑わし気だったがな……お前が残っていればよりスムーズに話が進んだと思うが……お前達が戻ってくるまでの間、まつりと一緒にこの村で暮らすという話になった。他の奴等には事情はばれてない……そうだ、まつりだ、お前ら恋人同士なんだろう、どうして置いていくんだ」「流石に二人運んでは逃げきれないからな。まつりがいつ目覚めるかも分からなかった。この村で暮らすなら、少なくともお前らの生命は保障されるだろうと思った」「過去の涼によってまつりともども俺が追放されたり、拘束されたり、最悪殺される可能性は考えなかったのか」「……」「お前は、俺の為に誰かを殺そうとしたことが何度ある。 俺が狂う前にハルを殺しかけ、俺が殺す前に花を殺しかけ、俺を殺す前にかな」「あのなあ。流石に、いくら洗脳されても、いくら怪しくても、お前と同じ姿で同じことを言う奴は、殺せねえよ。追放もない。俺とお前とまつりが合流したら、過去のお前ひとりが人質に取られている事になる。逃げそうになくて仕事に協力的な奴なら、拘束して飼い殺しにするのも時間と食料と労力の無駄だ」「……」「今の俺なら、過去のお前をあの村や、先生達の狂気から引き剥がせると思った」「……」「今のお前なら、過去の俺の暴走を止められると思った」「……」「事実そうして相方としてやっているだろう」「……『安居なのに安居じゃない』と何度も言われたが」「それでもだ」 溜息を吐く俺に、涼は憮然とした表情で返す。 もう何を言ってもこいつの暴走を止められる気がしない。 捻くれ者で、相手を試すような事もする奴だが、根は善意で動いている。 だからこそ手に負えない。 なるほど、いつかこいつが言っていたように俺達は似ているのかもしれない。 相手の為と言って独善的な事をする。 多大な自信と決断力と、そして使命感で、大抵のことはできてしまう。 その結果に犠牲が付き纏っても、成果が大きければそれでいいと思ってしまう。 そしてそれは先生達と要さんの教育の賜物なんだろう。「……分かった、お前が過去の俺を連れて行ったのは正解に近いんだろう。 だが一つ訊いていいか」「何だ」「……過去の俺は妙に楽しそうだが、何があった」「……」 涼は一瞬口を開いて、また閉じた。 どういうことだ。 嫌な予感がする。「おい、答えろ。嵐と競泳をしたからか?ナツに食べられる物や縫物のやり方を教えたからか?船の救出とメンテナンスの仕事が完了したからか?それとも螢の手相占いで童心に返ったのか」「……悪い報告がある、貴士先生の子供のことを、過去のお前に話せなかった」「説明になってない。どういう事だ!涼、ちゃんと説明しろ」「大丈夫だったのか安居」「大丈夫だ。そっちはどうなっている。村に異常はなかったか」「大きな異常はない。今の所な」 突如。 涼に食って掛かる俺の耳に、後ろで会話している過去の俺と涼の声が入ってきた。「……安居、お前の方こそ、今までどこに行っていた」「夏のBチームが居る海岸だ。そうだ、涼! そこに要先輩が居たんだ!」「……」「……」「……」 嬉しそうに語る過去の俺。 固まる俺。 俺に視線を向けている未来の涼。 会話の止まった俺達に気付く事無く、話を聞き続ける過去の涼。「……要さんは、元気そうだったか」「かなり老けていたが、健康そうだったな。夏のBチームはサバイバル能力に欠けた奴が多すぎるから、要先輩が先生みたいになってサバイバル術や船の操作方法を指揮してた」「…そりゃ、頼れる同行者だな。要さん要さんって、昔のお前らにされてたみたいに質問責めにされてたか?」「……そうだな。何か危機に陥るとすぐに頼られてたみたいだ。といっても、もうあそこには居ないんだがな。春のチームは洪水でばらばらになって、未だ数名行方不明な事を告げたら、要先輩は探索救助しに行くと言って姿を消してしまったんだ」「そうか。あの人らしいな。……所で安居、夏Bのメンバーに、『百舌』という奴は居たか」 あ。「ああ。要さんのことだろ。苗字が百舌戸だから、簡潔に百舌と呼ばせているらしい」「……そうか……」 やってしまった。「……悪いな、こうなるとは」「……仕方ない。 こっちも悪い報告がある、涼。過去のお前にまずいことを教えてしまった」「何をだ」「百舌が、危険分子の俺を殺しかけたことをだ」「……おい」 未だによく分かっていない顔の過去の俺は、呑気に「混合チームの中で要さんと接触した奴なんて居たか?」と言っている。 過去の涼はそれを無視して、こちらに振り返る。 氷のように表情も血の気も失せた顔。「……お前ら、詳しく話を聞かせろ」【続】
2018.01.21
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・夏A以外タイムスリップ安居回※1夏A→精神逆行(一人一回) 2夏A以外→身体逆行(ループ/新ちゃん、わんこ達は毎回記憶リセット) 3 +一人ずつ蘇る そんなファンタジー展開欲張りセットな話。ファンタジー成分においてとらじネタあり。・キャラ掘下げ、接点少ないキャラ同士の絡みあり・胸糞メリバ気味循環話・施設の設定ところどころ捏造・嵐視点・主に 安居(ヤンデルカイワレ族)+要さん(サイコパスエコロジスト)+嵐(青臭いお人好し)SS 01→(安居サイド・三人称)/外伝後編後→タイムスリップ→夏A10歳夏(崖登り試験) 02→(要サイド・三人称) 03↓ (嵐サイド多めダイジェスト)/10歳→13歳(クラス分け)→15歳(銃教習)原作/15歳前半(のばら脱落)→15歳後半~16歳?(早撃ち試験・赤い部屋)→16歳?(船実習)→17歳(貴士先生の獣作り&最終試験忠告)→最終試験(干支殺人予告・火・水・山)********◆◆◆◆◆◆◆◆********ロープとナイフをもう一度ー第三小節ー********◆◆◆◆◆◆◆◆********◆0ー青田嵐の見た井戸 白状すると、俺達がこの時代にやって来るのは1度目じゃない。2度目だ。 最初にタイムスリップに巻き込まれたのは、未来の世界で。次が……この過去の世界での事。 初めのタイムスリップは流星群の降る仄明るい空を見ていた時だった。『…あの流れ星、大きいね』『……まさか、また隕石とかじゃな……』 花の声は途中で途切れた。 ひときわ大きな星がまたたいたと思ったら、次にはその光が線となり、やけに多い流星群となり、その光の渦が周囲の陰になっている山々まで巻き込んで、夜空と背の高い木々がぐるぐると回る感覚が襲ってきて、……木々のざわめきが、次第にちゅうちゅうと鼠の鳴くような耳障りな音になり……唐突に、どんと背の高い草むらに投げ出された。『嵐!』『花…!』 俺は花が隣に居たから、それだけで少し落ち着けた。 混乱はその後の事。 もともと外に居たのにどこに投げ出されるんだ、と一緒にあたりを見回したら村の別の場所に居た筈の人達が、唐突に家が消えたと集まってきていた。そこまではいい。 その中に、船で涼や安居と旅に出た筈のまつりも居たのだ。『……あ、あたし、置いてかれちゃったのかなあナッちゃん……』『え…さ、流石にそれはないと思うよ、なんか、なんかの間違いだよ……』『……まつり、ナツ、危ない!』『……え!?』『…大蜘蛛だ!』 しかも。俺達…………人間だけじゃない、ご丁寧に新巻さんの犬達から秋の村の家畜たち、挙句の果てには最近安居達が置いていった大蜘蛛までタイムスリップしていた。ロープはついていたものの、杭などで縛られていないからそいつらは一気に脅威に早変わりした。飼い慣らされて多少動きが鈍くなっていただけ少しましではあったけど。 …犬や家畜はともかく大蜘蛛などは抑え込むのが大変で、わたわたしている内に外で楽器を吹いていた過去の百舌さんに見付かった。 俺達は隕石が落ちる24年前の佐渡に戻ったんだと、そこではじめて気付いた。 先生達を呼んでこられ、保護された時は正直ほっとした。 だけど、前の時はこの巻き戻りの仕組みも、施設のシステムのこともよく分からなかった。 ……でもこれが夢や幻覚じゃないということは、なんとなく皆認識していた。『……なんとなく、これ、現実に近い気がするんです』『螢ちゃん…』 螢ちゃんの近く、じっと考え込むような顔をしていたひばりちゃんをお蘭さんが見やった。『ひばり。あんたも分かる?これ、現実?』『…螢ちゃんがそう言ってるんだから、現実でしょ』『…ひばりだから、分かることもあるかもしれんやろ。それを話してくれへん?』『……分かったわよ。現実…かも。……なんか…別の……現実なんだけど、別の世界……でも偽物じゃ、ない』 どこか神秘的な雰囲気をまといながら、ひばりちゃんは目を星々に向けた。『当たってる保証はないけどね』『……分かったわ。ありがとう、ひばり』『ありがとうな』 お蘭さんと角又さんに、ひばりちゃんはフンと鼻息を鳴らして答えた。『……別の世界、かぁ……ドラ●もんに出て来る鏡面世界みたいなもんやろか』『どんな喩えよ…』 そんな会話をしている所に過去の百舌さんがやってきて、事情聴取され、この場所は通常立ち入り禁止区域だと説明されて……ここには過去の百舌さん達が居る事、そして事情を知っている者を外には出せないということだけが分かってきた。 未来からやってきたと突飛な内容を話した蝉丸も、俺達は偶然遭難してここにやってきてしまったけどあんたらはここで何してるんだと現実的な、それらしいことをでっちあげて話した秋ヲさんも、どちらも百舌さんに訝しまれた。 即座に出ていくか、それともここからずっと出ていかないかの二択を迫られた。 次の巡回船が来るまで助けてくれと食らいついた対応は、結局の所失敗だった。それは後者を選択したのと同じだった。 百舌さんは、巡回船が来る前に折角だからと施設を見学させてくれた。 …その太っ腹な様子を怪しむ余裕は俺達にはなかった。 その際幼い頃の安居や涼達を見ることもできたけど、殆ど土に塗れて畑を弄っている様子や、命綱を着けて崖登りしている様子、木造校舎での、やけに進んだ授業を一瞥するくらいが限度だった。* 小さい子どもたちは100人近くいるらしかった。最初はもっと多かったんだよ、と子ども達の中でもしっかりした感じの子が教えてくれた。 皆同じ格好で、同じように訓練をして……俺達には最初、だれがだれだかも分らなかった。「小さい涼くん…!」「一瞬で見付けたねまつりちゃん」「愛の力は偉大だな」揶揄う蝉丸に、まつりは首を振る。「……ううん、分かりやすい。涼くん、よく一人で居るみたいだし…」「けど安居とか茂にはよく絡んでるな」「……」茂さんだろう、おとなしそうな少年の髪を引っ張る幼い涼。なんだか見覚えがあるなと思ってる内に幼い安居が止めに入り、幼い涼がその様子を皮肉る。涼は相変わらず涼だなと思っていると、ナツがまつりの前で手を振っていた。「まつりちゃん…まつりちゃん?大丈夫?」「……えっ、うん、大丈夫」 ……概ね、概ね、そんな妙なシーンはあったものの、子どもたちは皆、素直で、子供らしくて可愛くて……そして、個性に満ちていた。「…花、大丈夫?」「大丈夫。……お父さんは、まだこの時代、ここに居ないみたいだし…… 安居も涼も、別人みたいだし」「本当に、何があったのかしらね」「…この子達が皆犠牲にされてしまうなんて…」 くるみさんが不安そうに、不憫そうに呟いた。 新ちゃんをぎゅっと抱き締める腕は、この生に満ちた施設の物陰に潜む、どことない不吉さを感じ取ったかのように鳥肌を立てていた。「小瑠璃明るいな…」「安居もちょっと怒りっぽいけど優しいね」「…やめろよ…小瑠璃が言ったこと思い出すだろ」 ハルくんがむっすりと返したけど、多分ハルくんも、今の安居の性格は未来と大分違うとは思ったんだろう。「…もし、このままやってきてたら、あんなこと起こらなかったのかな」「十六夜さんは、殺されなかったやろな…」 ……だけど、俺達を助けてくれたあの能力は身に着いていたのか。 今それを言っても、なんら意味はないから言えないけど。◆ 日がな一日場所を共有して生活するということ。 未来でのそれを、彼らは当たり前のように実行していた。 基本的には会話に参加しないけど、若い頃の百舌さんは時々彼らの会話を聴いて噴き出したり、ツッコミ役になったりしていた。「ねえ要さーん!」「これなんて虫ー?」「これはね……」「要さん、これどうしよう…」「まずおちついて。大丈夫だから」「要先輩、これどう?出来てる?」「おしい!ここがまだ抜けてる」「あっ、そうか」「だけどあと少しだ、頑張れ」「はーい!」 百舌さんはその空間で、小さな神様のように尊敬されて、お伺いを立てられていた。 先生達より笑顔で、生徒達より冷静に佇むその姿は、お地蔵様の姿とどこか似ていた。 子ども達もよく笑う。未来のあの姿を連想できない程に幸せそうに無垢に笑う。「うわー!卯浪が来たぞー!」「逃げろー!!!」 いたずら真っ最中の子達が走り回っては小瑠璃さんやあゆさん達に馬鹿ねえ、という目で見られていた。 平和、とてつもなく平和な世界がそこにはあった。 秋ヲさんが「温室じゃねえか」なんて言っているのを、俺や蝉丸は注意することもできずにいた。 ……俺も、『思っていたよりも随分幸せそうで満たされてるじゃないか』なんて考えてしまったから、慌ててそれを打ち消した。…何が分かる。少ししか見てない癖に。 ……だけど、その後先生達と百舌さんによって用意された展開は、かつて安居と涼が見せていた人間不信に相応しく、不穏だった。 俺達はどこかの宿に連れていかれた。ここまではいい。 だけど食事をして後は風呂に入って休もうかと言う所で俺達の意識は強制的に奪われた。 意識を先に手放したのは花だった。 初めは、ただ慣れない疲れで眠くなっただけだと思っていた。 けれど花はどんなに揺すっても起きず、違和感を感じている内に俺の体も急激に重くなってきた。何か盛られたとやっと気付いた。でも、その時には全て手遅れだった。「は…な……」「……」 眠る花の顔が徐々に蒼褪めていく。 …生きては、いる。だけど、これは、ただの眠りじゃない。 もう二度と…… たとえ、どんな痛みを受けようとも、目が覚めなそうな…… 花。 花の姿が、瞼のせいで見えなくなっていく。 こんな瞼切り落としたい、せめて錆付いた喉ももっと震わせて、花を安心させる為に声をかけたいのに。 何も動かせない。 花を守れない。 駄目だ、こんな終わり方、あまりにもひどい。 花の手を握っていた俺の手は最早微塵も動かず、ずるりと畳に落ちた。 役立たずな俺の腕と畳と目の前の花を巻き込んで、窓の外の空がぐるぐる渦巻く。デジャヴ。毒のような紫がそこに混じって、そこで意識が途絶えて…… 俺は、『もう一回』と祈った。* 高らかで美しい音で気が付いた。 意識が戻った直後触れた温もり。 抱きしめ、潤む目で確かめた荒れた長い髪。「…嵐…?」 寝ぼけたようにかすれた声。「花…!花、大丈夫か!?」「……え、どうしたの?」 戸惑いながらも抱き締め返してくる腕。 その全部が愛おしくて、守れなかった自分が情けなくて、俺は嗚咽を漏らしながら花をずっと抱き締めていた。 しばらくして、おーい、と蝉丸達に声を掛けられ、やっと俺は我に返った。「花……俺達、戻れたのかな」「……多分、そうだよ嵐」 戻れたんだ。俺達は、また、あの時に戻ることが出来た。だからこうして生きている。 ……あれ、でももし俺達が、最初と同じ条件で同じ場所に戻ってきたなら。「あ、大蜘蛛は……!?」「大蜘蛛なら、牡丹さんや秋の皆さんが抑え込んでくださったので大丈夫ですよ」 螢ちゃんが先回りして教えてくれた。情けない。 秋ヲさんがこちらが落ち着くのを見計らって、口を開く。「……ありゃあ殺されたな」「…同感。こっちも、ナツが先にやられた」 蝉丸も俺と似た姿でナツを抱き締めていた。 目を覚まさせる為に引っ張られたナツの頬が少し赤くなっていた。「めーちゃんは…こうなること……知ってたの……?」「……」 若い百舌さんと死神の姿が脳裏で重なった。だけどそんなことを言えるほど俺の口は軽くなく、ただ震える花を抱き締めて落ち着かせた。「…花、守れなくてごめん」「……ううん」 あの震えと、少しも揺らぐことのない綺麗なセッションが『今回』のはじまりの記憶だった。◆1-10 ……だけど。 一周目の収穫は、失敗と死ばかりじゃなかった。「……あれ?皆さん……」「あんた…!」 二周目がやってきたとき、なんと、俺達の所に、ざくざくと夏草を踏み分け十六夜さんがやってきたのだ。 お蘭さん、秋の面々がお互いを揺さぶる。 そして幽霊やない、と茜さんが呟いて、十六夜さんがゆるやかに目を瞬かせるのを見て歓喜の声を上げた。「お蘭さん!?…無事ですか!?撃たれませんでした!?」「無事よ…あんたのお蔭で…」「…お、お蘭さん大丈夫ですか?泣いて…」「泣いてないわよっ!!」 鼻声でお蘭さんは十六夜さんに背を向けた。「……何なのよ…一体…撃たれた時の傷も消えてるし……」「…あれ?……夢…?ですかね、これ…」「……そうかもね…」「ええ…!?」「ちょっとお蘭さん…!?」「えっ、また幻覚なんですかこれ!?」 わたわたと戸惑う十六夜さんと皆。「……いえ、多分、幻覚じゃないです…!十六夜さん!…この子、あの時の子です」「あなたが助けてくれたから、この子はこうして生まれることができたんです」「くるみさん…流星くん!」 またわっと沸く秋のチーム。 だけど、皆あの洞窟で幻覚騒動に巻き込まれた以上、やっぱりなかなかこれを現実と思えない。幸せな夢を見ている時のように、皆喜びながらもどこか不安を滲ませてもいた。 花もその例に漏れず。「…嵐、……幻覚じゃないよね?」 地味に傷付いた。「…本物だよ、花。……『1m先を』」「…見てるよ、嵐。……本物だね」「ああ」 幻覚の中の自分ほど甘くない答え。それを耳にして、花は信用してくれたようだった。 それから数時間。俺達は戸惑いながら、今度は警戒されないようにしようと計画を立て、夜中に少人数で近づくことにした。 そこではうまくいった。 だから、今回は比較的安全に、前の周と同じものを見るだけだと思ってた。 子供達の顔と名前リストや、職員の雑務だけ教えられて数日。 ……その後にこんなハプニングが起こるとは思ってもみなかった。「…安居!?」 俺達の目の前で幼い安居は卒倒した。 ……目の前で保健室に運ばれていく安居とついていく茂さんを見送り、俺達は朝礼を終えた。 ……もしかして、まさか。 目配せを皆でし合い、その後俺達の初仕事が決まった。 安居の見舞いだ。◆1-××安居の居た井戸「ここか……」 あれから三十分後、俺達は保健室の戸の前に居た。 メンバーは俺とナツとくっついてきた蝉丸、心配でついてきてくれた牡丹さんの4人。 少し躊躇する俺達を他所に、木製の引き戸が横へぱしーんと開かれる。「たのもー!」「蝉丸うるさい」「小学生じゃないんだから…」 入った瞬間、強い視線を受けた。見覚えのある眼光と、興味深げないくつかの目。 少し前に目を覚ましていたらしい安居が信じられないものを見るような目で俺達を見ていた。 そんな安居に、隣に居た茂さん達も警戒心を露わにしている。「…なんで…お前たち…ここに……」「心配してきたんだよ」「いや、そうじゃなくて」 予測が確信に変わる。「…………安居くん、記憶があるんですか?」「…え…ああ……ごほっ」 幻覚じゃないのか、と焦って咳き込みながら呟く安居に、蝉丸が顔をしかめた。「幻覚じゃねーよ!なんなら俺の料理食べて確かめてみっか?」「いや、それはいい……他の確かめ方はないのか」「……安居、もう大丈夫なの?記憶…幻覚って?最近安居が眠れなかったのと関係あるの?」「…茂」 俺達は集団で異常現象に巻き込まれたけど、同じような迷いを一人で抱えていたらどうなっていたか。安居の目の下の隈がそれを現していた。 そんな安居をじっと見た小瑠璃さんが言う。「……ほんとほんと。なんか最近安居、調子悪そうだよ」「だから平気だって。もういいから帰れお前ら。さっきからずっと喋り倒して……食べ物の話とかここじゃなくていいだろ」「ひどーい安居、少しでも気を紛らわせようとして話してたのに」「お腹きゅるるって鳴ってたくせに」「鳴ってない」「鳴った!」「鳴ってないって言ってんだろーが!」「だからさっき憎まれ口叩かなきゃよかったのに」「そしたらカレーの具よそったげたのに」「おいしかったなー」「だから鳴ってねえっていってんだろ、帰れお前ら!」 元気な三人娘を追い返し、顔を真っ赤にした安居が一息吐く。 ぜえぜえと息を吐いてはいるものの……なんか、思ってたのと、違う。 続いて、四人のやりとりを微笑まし気に見ていた茂さんに安居が言う。「…茂も、もう大丈夫だから。先に部屋に戻ってろ」「……ええ……でも……」「平気だから。……本当に辛かったら、こうして話せてないだろ?」「……うー…ねえ、ほんとに大丈夫?」「本当だ」「ほんとのほんと?」「ほんとのほんとだ」 何度も振り返り振り返り保健室を出ていく茂さんに、安居は微笑んで手を振っていた。幼い、気を許したような顔で、秋のチームが見たら目を疑いそうな表情だった。「……で……お前らは、……お前らも、未来から来たのか」「……ああ。安居も、そうみたいだな」 だが数分後、異常現象についてお互いの経緯を説明し合う時には、その顔は年不相応に引き締められていた。「……俺がここで気が付いたのは二か月前。茂と崖を登ってるのが、初めの記憶だ。 未来の世界では船に乗ってたから環境の変化が大きかったな…… 変化が大きすぎて、最初はその中で夢でも見てるのかと思ってた」「…じゃあ、あたし達よりも先にタイムスリップしたってことでしょうか」「そうなるな」 乾いた喉を潤した安居が口を開く。 傍らの水の入ったコップは、ナツが水道から水を汲もうとしたのに断わり、ふらつく安居自身の手足で汲みに行った賜物だ。 …あまり借りをつくろうとしないところは、子どもの姿になっても健在のようだった。 それから俺達は十分ほど、タイムスリップの状況について情報交換をした。 未来で暴走していたとはいえ、流石に長年リーダーを務めていただけあって安居の話は分かりやすかった。「ありがとう、安居くん。……眠いでしょう、一旦休みなさい」「……」「眠ってる間もここに居るから」 互いの事情を一頻り話して、疲れた様子の安居に牡丹さんが言う。「……分かった。……ありがとう」 ひとつ小さなあくびをして、安居は布団をかぶった。 生え代わる途中なのだろう、真っ白な歯列の隙間はとても子どもらしかった。 …だけど、充血した目と力のない表情は長く年を取った人のそれだった。 布団からはみ出す黒い短髪にも三本ほど白髪が見えた。「……何か聞こえた?」「いや…」「わわっ」 引き戸を開き保健室と書かれた看板の下に踏み出すと、わたわたと走っていく子どもの後ろ姿が見えた。…見覚えがない後ろ姿だ。「……あ、あの、何を話してたんですか?」 戸の右、柱の陰からひょっこりと小さな顔が出て来る。「…安居、そんなに具合悪いんですか…?」「まさか、外にでなきゃいけないとかじゃないですよね」「いつもはもっと元気いっぱいなんです」 残った子たちが口々に話し始める。 さっき付き添っていた茂さんと小瑠璃さん、繭さん、のばらさんだ。「最近よく眠れてないみたいだね、って話をしてたのよ」「…そうだよ、多分、もう少し休んだら、元気になれるよ」 少人数でやって来て良かった。「……分かりました」 俺達と入れ違いに保健室に入っていく茂さん達、そして牡丹さんを見送る。「…安居……寝てるの?」「ああ……ちょっと眠い……15分くらい休んだら、戻る。……悪いが茂、お……僕の課題一緒に出しといてほしい」 休み時間の曲らしい音楽は、そろそろ終盤に近付いていた。「……分かった。……ほんとに、無理しないでね」「ああ」「あんまり無理してると…」「代わりにご飯食べちゃうから」「そうそう、今日のお昼もあたしたち当番だし」「お前らな…」 ……以降は、人気の少ない所で話した方がいいな。「……どっか別の所に行くか?」「そうしましょうか」「じゃあどこに……って、うわっ」 角を曲がると、小さな影とぶつかりそうになった。「……!」「あれ?涼」「……」 小さな影……というか涼は、おそろしく顔をしかめて去っていった。……小学生くらいの子のする表情じゃない。◆「……ナッちゃん!安居くん大丈夫だった?」「うん……多分」「……もう少し、人目のつかないところで話そう」「そうしましょうか」 あまり人数が多くても変だということで、待機していた皆。 少し歩いた所にちょうどいい場所があった。 安息の地は、大きな橋の上。「……ここで大丈夫?」「大丈夫そうだね」 ここなら見通しも効くし、周囲に川があるお蔭で少し音も掻き消せる。 俺のもたれた手すりの近くにはロープと浮き輪がついていた。近くの川で危ないことがあった時に使うのかもしれない。 ナツがなおも周囲の様子をうかがいつつ口を開く。「……安居くんも、未来の記憶を持ってる。姿は子どものままだけど」「まさに身体は子ども、頭脳は大人だね…」「……私達を見て、パニックになってしまったんでしょうね」 さっきの安居の蒼褪めた顔が浮かぶ。俺達のせいではないと安居も言ってたけど、なんとなく罪悪感。「……どうする?」 安居に対して。……そして、俺達自身が。「…なんか、こういう変な世界にやってくる話って、おーぱーつ?とかいう奴を見付ければもとに戻れるっていうけどな」「またゲーム?」「おうよ。なんかよ、その時代にある筈のないモンとか、変な現象とかを見掛けたり触ったりすると、元の時代に戻れんだよ」「……この施設、見おぼえないものばっかりだな」「だから安居なら、何が変なのかとか分かるかもしんねーだろ?」「……安居、協力してくれっかな」「…してくれると思いますけど…」 …安居が記憶を保持していることは不安な一方でありがたくもある。 ここの施設の始まりから終わりまでを見ている彼の協力があれば、この世界をもう少し長く見届け、そして元の世界に戻れそうな気がしたから。 それに、これが幻覚なのかどうか散々に悩み倒した安居を見ていると、やっぱりこれ、幻覚じゃないよなあと確信を持つこともできた。「……それより安居くんとしては、ここで起こったことを変えたいんじゃないでしょうか…」「…うーん……安居くんきっと、同じ事を繰り返したくないよねえ…」「タイムスリップものって、変に未来から来た奴が介入すると拗れるんだよな。ドラ●もんだと確かの●太が、両親の結婚を止めそうになっちまって消えそうになってたような気ィする」「でも……ひばりちゃん、別の世界、って言ってましたよね。……それなら、介入しても大丈夫なんじゃないでしょうか」「……螢ちゃんも、別の世界だと思うの?」「そうですね。…ひばりちゃんの言葉で、違和感の正体が分かった気がします」「もしかしたら、並行世界っていうやつかも」「……それなら…取り敢えず、自由に動いても大丈夫か?」「殺されなきゃな」「うっ…」「……先生見習いとして動いてくれる限り、身分は保証してくれる、って言ってたよね」「そう、それ、ちまきちゃん。……未来で知ったこととか、いろいろきっと役に立てられるよ」「……そう…だな。……安居も、俺達の話で少し顔色良くなってた気がするし…… 俺達はきっと、協力関係になれると思う。 俺達が先生として力になれるかどうかはまだ分からないけど」「…ま、なんとかなるだろ!」「……さ、三人寄れば文殊の知恵、って言いますし。もっと寄ったら、もっと、きっと、知恵が浮かびますよ」「…そうだなあ」 …そう。人が協力する際の、簡単で大きな効果はそれだ。 確認の必要がないこと、二度手間でないこと、やらなくていいことをやらなくていいこと。 着実に積みあげるため、計画を立ててその通りに実行して、前日に達成したものから新たな道を伸ばしていくことは、協力している人が多く、その相手と意思疎通がうまくできているほど容易になる。 また、こうした計画を立てる時、周囲の人を参考にしたり、アドバイスをもらったことを活かしたり……他の人の作戦に寄り添わせたりすることで、人と人の関係が1+1に限らず、もっと大きな効果も齎すのも俺は好きだった。 ……ここでも、安居とそういう関係を築ければいいんだけど。◆1-11 俺達の存在が契機となって、安居に聞いたクラス分け前の準備期間とやらはかなり早くにはじめられた。 俺と茜さんは水のクラスとして子ども達と川やプールに行き、流星くんは風のクラスでハングライダーを繰って螢ちゃんは星や風から何かを読み取って告げ、お蘭さんは土のクラスとして17年間の変化も含めて指導をし、ちまきは造るもののスケッチ方法や作図方法を教え、牡丹さんや苅田さん達は火のクラスで格闘技の相手になり(時折腕にぶら下がられ)角又さん達は武器や狩りの仕方について見守り、くるみさん達は動物クラスでファームの経験を活かし…花もその手伝いをして、藤子さん達は医療クラスで海外でのボランティア経験を語りながら動き、まつりやナツ、蝉丸たちは植物クラスで植物の進化や用途、似てるキノコや草で痛い目に遭った経験について話し……と、数か月やっていくうちに、俺達は何とか施設の職員として認められ始めた。 因みに新巻さんの犬達や、混合村の家畜達、安居達の置いていった大蜘蛛は家畜舎の近くで家畜として働くことになった。……とはいえ、大半の面倒は俺達が見ることになっていたけれど。『その方がいい』と安居も言っていた。最終試験に巻き込まないで済むから…と言う声は苦かった。 ……ともあれ。これでやっと、一周目で失敗したことを取り返せたような気がする。 ミスはやり直すものじゃなくて、取り返すものだ。 やるんなら、もしこうだったらと考えるなら、叶わない過去の仮定でなく未来のシミュレーションをすべきだ。 安居もそういうタイプだと思っていた。真面目で融通が利かなくて、だけど時折現れる不測があればそれも計画に組み込む。 それが習慣として身に着いていることは、財産だ。 当たり前だ。 やり直せるより、やり直す必要がない方がずっといいんだから。 あれから、ぽつりぽつりと俺達は話すようになっていた。 勿論TPOは選んでいる。 未来と違って命の危険がないからか、まだ夢を見ているような感覚だからか、安居も比較的色々な話題に乗ってきてくれる。 特に、先日安居と茂さんセットでひどい風邪をひいた後なんて何でもいいからと言って知識を新しく取り込もうとしていた。 そうした様子に対し、秋や新巻さんあたりは素直過ぎて拍子抜けするような顔もしていた。「…過去に戻ってるのは俺だけだと思ってた」「俺達も、夏Aの中に記憶を持ってる人が居るなんて思わなかったよ」「…未来で俺が人を殺したり、傷付けたことを話したのか?要さんに」「いや、話してないよ」 話してどうなる。 普通の人がおかしくなる世界を糾弾する為に話したとしても、それじゃあ他の夏Aはどうなのかという話に行きつくだけだろう。 他の夏A…涼はこの際考えから除くとして…彼らは卯浪以外を殺さなかった。 だけど、安居の立場や経験と他の夏Aは違う。 そして、どうしようもなく、安居がリーダーとして全てを負っていたせいとか、それともその真っ直ぐな気質があの異常と相性が悪かった、という理由もあるだろう。 …そういったことを考慮せず、また安居が俺達を助けたことを聞きもせず、未来で暴走した要さんを見た後では、下手に未来の事情を漏らすわけにはいかない。「……お前が、…失敗作として、『始末』されかねないんだろ?」 そう言うと安居はほっと顔を緩め、直後引き締めた。「…後ろめたいのかな、俺は」「……未来でのことはともかく、過去の世界のことは…… 苦渋の選択を迫る方が悪いだろ」 今現在は、安居が何もしていない時間軸だ。 人を殺しても、傷付けてもいない。 だけど、心は何かをした後のそれだ。「……選択、か」 安居の白髪はまた増えていた。「……お前には俺を理解しきれないだろうし、俺もお前を理解できない。 だけど、目的は近いと思う。……だから、…俺が選択をする前に、少し話をしてもいいか」「勿論」 そう言うと、安居はやっと不安を吐露しはじめた。 毎日、毎日、恐怖と殺意がふとした瞬間に過っていたという。 だからこそ夢だと思いたかった、心まで子どもの頃のように無邪気に帰りたかったと、それを俺達の存在がぶち壊してしまったと言う。「……だけど、…そうしないと駄目なくらい、弱ってたのかもな」「お前たちは現実だ。…だけど、力でもあるんだ、きっと」 呟いて、安居は俺達をじっと見た。 その目に走る閃光は、背後の窓の向こう、飛行機雲と同じ色をしていた。◆1-12「俺は、火を捨てることにする」 あと1年でクラス分けが決まるという時に安居はそんなことを言い出した。 落ち葉集めが終わった後ということで、ほかほかになった焼き芋を安居は配ってくれた。「……格闘技とか、武器の扱いとか、料理や材料を加工してる時の火の管理とか……身に着けなくていいのか?」「格闘技以外は頭の中に入ってる。不慣れだけどな。……銃の訓練場は誰でも使えるし」 銃、と言うと、花や秋の人達が、安居に銃を突き付けられたことが頭に浮かんでしまう。 安居に言及する気がなくても。「で……問題は、代わりにどのクラスを取るか、だ」「取りたいものにすればいいんじゃないのか?」「…いや、同じクラスだと一緒に通りづらいとか…最終試験でどういう動きをすることになるのかとかが変わって来る」 安居に説明を受けた所、最終的なクラス選択は大体今の体験版に来てる面々と変わりはないようだった。今、よく土クラスと植物クラスの体験に来ている虹子さんが、土クラスと水クラスを選択するようになるくらいだろうか。 安居、涼、茂さんは火と水の体験。 虹子さんは水と土、あと植物の体験。 小瑠璃さんは風と医療の体験。 繭さんは土と…水や植物の体験。 のばらさんは…動物と火の体験。 鷭ちゃんは動物と医療、あと植物の体験。 あゆさんは植物と……土、医療の体験。 源五郎さんは動物と植物の体験。 確か、そうして別々の選択をしていた気がする。「……今回の俺が通ると言う保証もないけどな。……最終試験で、不得意な分野も補えるだろうから、少なくとも茂とは別のクラスにしたいんだ」「……人が少ないクラスにしてみたらどうでしょう?」「…それなら多分、風クラスだな。もともと選ぶ人が少ないのと、通常試験が苦手だって言ってるやつが多いから…」「……でもお前、人が落ちるの見てられるのか?自分が落ちるのも」「それなんだよなあ……」 安居が頭を抱える。「……動物は、無理だと思う。源五郎みたいに話せないし」「……話すのは、源五郎くんも多分無理じゃないですか?……それに、安居くんだってダイくんと仲良さそうにしてたじゃないですか」 動物舎でもふもふによく癒されているナツが、少し残念そうに言う。 未来で、ダイが背中に飛び乗るのを受け容れていた安居が思い浮かぶ。「あれはダイが特殊なんだ。ダイは誰に対しても人懐こい。 ……話を元に戻そう。あと、医療と植物は難しいな。血や中毒に対して迅速な対応をできる自信がない。……有り得るとしたら土かな。物を造るのは好きだ」「ああ…、橋とか昇降機とか色々造ってたよな」「そうだな……」 一頻り話しているうち、焼き芋はなくなっていた。「……そろそろ、帰る。相談に乗ってくれてありがとう」「いや、こちらこそ。焼き芋ごちそうさまでした」 言うと、安居は少し嬉しそうに笑った。 ◆1-13 クラス発表から半日。 1の名を付けられた校舎で、俺達は集まっていた。 施設の中でも傷みと拉げる音の年々強くなるそこは、夕方人気が少なくなる。 そこに、俺達より少し小さな人影が現れる。「悪い、涼にばれた」 人影は、現れるなり爆弾発言を寄越した。「えっ」 あまりにも悪びれない様子に、俺は絶句することしかできなかった。 俺だけじゃない、他の面々も一緒だ。 よりにもよって。 誰かにはばれるかもしれないと思ってたけど、よりにもよってか。 未来で最悪のコンビとして一時期扱われていた安居と涼の様子が頭に浮かぶ。「でも大丈夫だ、当たり障りのないことしかばらしてないから」「えっえっ」 安居達にとっての当たり障りのないことという基準が分からない。「未来の世界で必要になるものとか、未来の世界の状況とか、俺達が起きた時期とか」「……」 それくらいなら……まあ…いいのか……?「あと、外の奴と仲違いして俺達が一時的に離脱して、夏のBと合流したくだりは話した」 ……え?「よりにもよってそれ!?」「……ちなみに、その仲違いの原因は…」 俺達の思いを代弁するように叫ぶ蝉丸とお蘭さんの苦々しい問いかけに、安居は少し緊張した面持ちで口を開く。「話した」「……全部?」「全部だ。誤解を与えないようにしたいなら、出来る限り正確に伝えた方がいいだろ」 重苦しい空気を前に、安居は焦ったように言葉を重ねる。「だって相手は涼だぞ。何か誤魔化したり隠しながら伝えたら、そっちの方がろくに信用されずに悪い方向に転がるだろ……俺だけに有利な部分を話したら、涼とお前らの仲がどうなるか分からなかったし…… ……何か、違うか」「違うっていうか……」「……涼以外にもしばれたら、ここまで話さないぞ」 どこかばつの悪そうな顔で安居が言う。 いや、相手が相棒だとしても、だ。 迂闊に話せない部分として扱うもんじゃないんだろうか。「いや、どこが当たり障りないんだよ」「……安居くん、ごめんなさい、それは当たり障りある気がします…」「でも…個人の名前は出してない。あと、要さんと殺し合いになった事も言ってない」 個人名はともかく、後者は比較対象がおかしい。 ……やっぱり安居達の感覚は俺達とは違う気がする。 蝉丸が呟く。「こいつらぶれねえなあ…」 同感。「……あんたらが2人揃って、しかも周囲にまだ見放されてないとなったら手に負えないんだけど。涼がもし下手に暴走したらどうしてくれるの」「……いや、この頃の涼はまだ、俺の為には動かない。むしろ俺と喧嘩したりする」「それはそれで厄介なんだけど…」「……茂くんを虐めてたのもその一環でしょうか」「…分からない。……前に15歳になった時は多分、茂が弱そうに見えたからやったんだと思うけど」 巨船での、涼が安居に向けた言葉を思い出す。 あそこまでやれるとは思わなかった、と涼は言っていた。そして安居に向け、『主人公として認めてやれ』とも叫んだ。 ……茂さんは、見た所あまりしっかりしてるようには見えなかった。 記憶力や気遣いといった面で秀でた部分はあったものの、やはりここの他の生徒たちに比べるとやや遅れてついてくる子だった。それに、甘えん坊気質な所もあるみたいで、特に安居とはニコイチのように行動していることが多かった。 ニコイチ。まさしく、二人はお互いを支え合っている所があった。寄り掛かりあっていると言い換えてもいいかもしれない。 そんな茂さんを喪った安居がおかしくなるのは頷ける。 茂さんの最期を看取り、おかしくなった安居を支えようとした涼がおかしくなっていったのも。ずっと一緒に居た幼馴染。残された二人が、異常で、血の海のように深く、俺達には理解のしがたい関係を……どこまでも縺れながら続けてきた結果があれだったんだろう。 ……今なら、それを止められるのか。 ……俺達がそれに、割って入っていいのか。 分からない。 ……だけど、黙って見ているままということもできない。◆1-14 クラスが決定して一年。 火のクラスを取らず、安居は風クラスを取った。 元々気象モノが好きだったんだと安居は言っていた。 小瑠璃さんに比べ、かなり危なっかしく安居は空を飛んでいて……特に墜落については過去のトラウマに苛まれていたようだったけれど、最近は段々と落ち着いてきている。 今日もその訓練が終わった所だ。 薄暗くなった空の下。焚火の中で、じっくりと川魚が焼けていく。 焚火の火を目に宿しながらも、安居の目は薄暗いままだった。 だけどこちらに気付いた時ぱっと明るくなる。「嵐か」 その明るさが今は痛い。「俺達も居るぜ」「ナツ、牡丹さん!……と、蝉丸」「何でいきなりテンションが下がってんだよ」「まあまあ、で、安居くん、今日の調子はどう?」「ああ、少しずつ長く飛べるようになってきた。小瑠璃の腕には程遠いけどな。 ……あ、でも、ハングライダーを造るのは上達してきた気がする」「そうなの!今度見せてもらいたいわ」 一頻り話した後、安居が口を開く。 ……先日の話の続きだ。「……なあ、……この間、少し触れた話なんだけど……」 来た。「ここの施設では、生徒は落第したら殺される。 ……死なずに済むなら、死なない方がいいと思うよな」 未来の世界で迷った時、前に誰かが残していった標を見た俺達みたいに、幼い安居の目は輝いていて、そして切実だ。「のばらを助けられないか?」 期待の光にじりじりと焼かれそうだ。背中を脂汗が伝う。「……のばらさんが……はじめに、いなくなるの?」 のばらさん。小瑠璃さんと繭さんとよく一緒に居る様子が思い浮かぶ。「……俺の周りではな。『外に出た』と言われた皆の中で、俺が死体を確認したのもあいつだけだ。……他の生徒も皆、多分既に殺されてるけど」 なんとなくわかってはいた。だけど、要さんに身分を保証され、施設職員として雇われている以上、あまりそうした際どい問題について言及することは出来なかった。 落ちた理由について庇えるものなら庇ってみろと、いつも話を反らされる。 ましてや、止めることなど出来る筈もなかった。「……のばらちゃんって、確か、成績いいわよね」 彼女は、先生達、またその影響を受けた生徒に『優秀』と称されていた筈。安居とはトップ賞で張り合ってもいた。「…成績の問題じゃない。遺伝リスクの問題だ」「……遺伝?」「視力」「……!」「お前達も、視力はいいんだろ?遺伝病も大怪我をしたこともなく。一般人枠なら多分それが最低基準だ。多少体力とかに疑問があっても、個性で済むってことなんだろう」「……あと付け加えるなら、身内に犯罪者を含む人も居ないってのも基準の一つね」牡丹さんが付け加える。「……犯罪者、か」「…?」「……殺人が無罪になるなら……殺された奴は人じゃない…ってことになるのか」「え…」「いや……まあいい、それは後で話す。……のばらの話に戻ろう」 安居が後で話すと言った話。……誰のことを言っているのか、分かってしまった。 この場に花が居なくて良かったと心底思った。 当事者なのに抱えている秘密を知らなかった、それだけだ。本当にそれだけなのに。 沈み込む俺に構わず、安居は話を続ける。「今から一年後、のばらは視力が低下して殺される」 その話自体はどことなく予想がついていた。7人以外は殺された、と耳にしたことがあったから。だが、その後に続いた言葉が衝撃的だった。「殺されて、家畜の臓物とぐしゃぐしゃに混ぜられて、植物の肥料や動物の餌にされる」 声変わりの最中、やや引きつれた声で安居は呻くようにこぼした。 龍宮の日記が頭を過る。 花も確か読んでいたな、花がこれをきいたらどうするんだろう、ああでも貴士先生とは多分関係ないだろうからいいのか、でもあちらとも貴士先生は関わっている。 ……だけど、あそこは閉鎖空間で、殺されているのは『余分』とされた大人達だ。ここはこんなに綺麗な青空と山々とのどかな小鳥のさえずりに囲まれているのに、……対象は皆まだまだ未来の拓けている子ども達なのに、どうしてそんなことが起こる。「……どうしてそれを知ってるんですか」「…俺が15の時、卯浪を殴って、懲罰房の『赤い部屋』って所に入れられたんだ。そこで見た」「…先生達にとっては、俺達も家畜も同じだ。自分の都合で育てて、不都合だから殺せる」 血を吐くような独白だった。 どうして卯浪先生を殴ったのかだとかいうことより、その事実の方が気になった。「…じゃあ、皆で立ち向かえばいいじゃないか」「そんなの、皆殺される。……万が一逃げ出せても、そこからどこに行けばいい?俺達に逃げる家なんてないのに」 だから、もし、もし本当に大丈夫なら、家を用意してほしい、と安居はつぶやいた。 俺は何も返せなかった。「そろそろ食べ頃だ」 安居にもらった川魚はどこか懐かしい味がした。「……これで本当に未来が変わるのなら、十六夜の為にも助けておきたいところだけどね」 未来では死んでいる筈の十六夜さん。……この時間軸だからこそ、蘇った十六夜さん。 吹雪さんや美鶴さんだってもしかしたら蘇ってくれるかもしれない。 それに。もしも世界を、今の時点から変えられるなら、彼らだって様々な方法で助けられるかもしれない。 その実証として、まず安居達を助けてみるかと秋のチームや、新巻さんを気遣ったちささんたちは言っていた。「もしも助けられないなら……」 その続きを新巻さんは言わなかった。 だけど誰もがその先を、出来る事ならずっとここでと続くと思っていただろう。◆1-15 焦燥と苛立ちの行き場がどこにもない。 俺達に彼らは救えないという事実が痛いほどのしかかってくる。「……君達、分かってる?……いくら君たちが別の世界からやってきたと言っても、これは変えられないよ」 安居に記憶がありますと言っても、きっとのばらさんの死は止められない。「これは、政府の極秘プロジェクトだからね」「だからこそ、資金源も限られる。……居てはいけない子の行き場所も限られる」「だからって…」「もしも一般人に秘密が漏れて…パニックが今後17年続いたら、君達は責任を取れるのかい?」 息をするように、要さんは人倫を破る。 だけどその人倫を守るだけの力を俺達は持たない。「この秘密が漏れて、17年間コールドスリープやシェルターを造る過程で支障が出たら……君達はそれを補えるのかい?」 眼鏡の奥はいつでも凪いでいる。「それでも…食べさせる必要はないでしょう? 人は…共食いしません」「……余裕のある内はね」 どこかでしたような会話だった。「……結構死体ってね、いい養分になるんだよ。随分と、経費を節約できる」「それに、未来に行けないなら、せめて血肉だけでも連れて行ってあげないといけないだろう?」 脳裏に過る、再会したばかりの安居の言葉。『要さんは訊けば何でも答えてくれる』 確かにその通りだ安居。 だけど、その先はないのか。 百舌さんが答える、既に決まり切っている回答の先から、レールの外へは逃れられないのか。「……それに、甘い経験では人は伸びないよ」 百舌さんとの会話。行き着く結論は絶対的に間違っている筈なのに、何も言い返せない。「未来で君達の仲間が夏Aと合流した際、支配関係に一時期なったらしいね」 百舌さんにある圧倒的な力は、権力だけじゃなく、多くの、動かしようもない知識と経験に根差している。「どうしてそこから彼らは逃れなかったんだい?」 山のようにどっしりとした体制、こちらの無知と甘さをやさしく、けれど容赦なく突いてくる鋭さに追いつくことができない。「どうして対等なやりとりや取引ができなかったんだい? ……夏Aの『誰か』の導く力を、本当は認めていたからなんじゃないのか?」 ゆるやかに、けれど有無を言わせない調子で百舌さんは続ける。「その導く力の源が、この施設が与えた経験でないとどうして言える?」 百舌さんの語る『事実』一つ一つが、彼らの背負う使命とかトラウマとかそういうものと繋がっていた。「百舌さん……百舌さんにとって、あの子たちは、なんなんですか。 ……伸びなかったら殺すなんて、まるで家畜みたいな…」「家畜……家畜扱いをしてるつもりはないよ。 彼らは、特別な子だ」 安居達が秋ヲさんに言われたと言う、『温室』という言葉が頭を過る。 温室。まさしく温室だ。 伸びなければ間引きして、特別ならば出荷して、他の生き残りの役に立てと。 子育てには異常な環境だ。 なのに特別という言葉を使われると、部外者の俺には口出しを出来ない。 立場の垣根を越えるとか、理想の違いとか、そういう問題じゃない、もっと深い溝が俺達の間にはある。「だから特別な機会を与えられているし、特別な使命も背負っている」 取り付く島もなかった。「だから、君達の物差しで測られない」◆1-1× あれから、月日は何事もなく過ぎ去ってしまった。「のばらちゃん、元気でねー!!」 今。ここで見送ったら、もう、生きているのばらさんとは二度と会えない。 それなのに、時間はどうしようもなく、いつも通り流れていく。「…嵐…」「……っ」 俺はどうして今、目を反らしたんだろう。「……安居、どうした」 卯浪先生の声に安居が答える。「……いや、何でもないです」 俺の考えてることは正しい筈。 だけど、正しくても、何もできない。誰も救えない。「嵐。……普通に、見送ろう」「…!」「あくまで、普通に、何事もなく、門出を祝おう」 どうすればいい。『どうするの』『坊や』 秋の村での後悔が今更蘇る。 あそこで彼らは支配されていたのに、それを当たり前のこととして受け取っていた。 俺は首を突っ込む余所者で、無力で青くて、裁くことも、救うことも、何も出来なかった。 ……花に会いたい。 俺を救い、裁いてくれるのは花だけだ。 だから、花が大丈夫と言ってくれるなら、花が抱きしめてくれるなら俺は大丈夫なのに。「ミサンガ、絶対に外さないから!」 喩え目の前に居る子ひとり助けられなくても。◆*******【続】
2018.01.21
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2018.01.20
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2018.01.20
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2018.01.19
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・「高橋」もまた「鈴木」と同様に物部氏と関係の深い古代氏族といわれる。大和国添上郡の高橋神社(奈良県奈良市八条町)を氏神とし、日本書紀に「神に酒を捧げる者」として登場する人物が「高橋」姓のルーツと考えられる。 また渓谷など高い場所にかけられた橋に由来する「高橋」姓も(ZUU onlineより)・はしごだかのたか橋/はしごを表しているようで(中略)「天まで通じる柱」という意味合いから、神職に関係した職業の方が多く使っていた文字(エフ・ロムより)
2018.01.19
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→1 『帰れない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『誘えない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』あらすじ:・過去にやってきた安居・涼・まつりIF二次創作小説・過去にやってきた安居・涼・まつり・安居(過去)を拉致し、夏B村(過去)で暮らす涼(未来)・涼(過去)を説得し、混合村(過去)で暮らす安居(未来)とまつり(未来)*************カイコ 13************* 未来から来たという安居はわりかしそつがない。無様ではない。そそらない。 だが少し見ない間に人との距離感がおかしくなっていた。小瑠璃の頭を撫でることもなくなったし、あゆを筆頭に、俺以外の夏Aにどこか遠慮しているような素振りを見せている。 他のチームに対しては比較的やんわりとした態度を取ってはいるものの、花やハルに対しては無視に近い形で接している。 気味が悪い、大人げない、あれだったら睨まれた方がまし、などと言われているが、実のところは。「……目を合わせたら攻撃してしまうかもしれないだろう。 極力接しないのが最善策だ」「野生動物かてめえは。つーか未来ではどうしてんだ。今はまだ共同生活始めたばっかだからまだしも、一年後それじゃあ支障が出るだろ」「この先色々あって埋めようもない溝が出来たってのはもう話したよな。 ……当然、向こうから思い切り距離を取られたし、そもそも生活圏が重ならないよう互いに注意していた」「……」「俺達が船に乗ったのは、俺があそこに居るままだとあいつらも暮らしづらいと思ったからだ。……俺を庇ってくれた夏Bの立場も悪くなるし」「……でも、今はまだそこまでの溝はねえだろう。十六夜の件は……今の所そこまで言われてないし」「言わないだけだ。あいつらの中では燻ってる、他に俺が罪を犯した時、まとめて裁かれる」「何が裁かれるだ。俺達がここの法だろ、保護者だろ。あいつらに裁く権限はない」「……秋のチームだけなら、裁くとかは言い出さなかったろうな。だが、あの時は混合チーム全員に加え、俺達以外の夏Aが全員裁く立場に回った。大人しく判決に従うしかないだろう」「……殊勝なこった」「それに、最近気付いたんだが、暴力を振るったり見殺しにしかけた相手に普通に接されている違和感が気持ち悪い」「こっちの世界じゃあまだやってねえだろ」「……それでも、いつ怒りと苛立ちが暴発するか分からない。花は、周囲に親の事を知られてもいないんだぞ。知られた上で認められているならまだ納得はできるが」「そんなの言っちまえばいいだろう。そうすれば勝手に孤立してくれるさ」「……いや、そうすると今度は花がここの共同体から一人で逃げようとする。責任を放棄して、体のいい理屈をこじつけて、コネで選ばれた恋人の所に行って、一人楽に生きる。 そんな様子を見たら俺は憎悪を抑えきる自信がない」「……」 あいつなりの冷静でいる為の方法なのだが、それを伝える手立てはない。 ただ「あいつもお前らも無駄に気が強いから、まともに接してたら喧嘩に発展すると思ったんだろう」とだけ言っておいたが、二人は釈然としない様子だった。 仕方がないから、あまり近付くなという警告の意味も含めて銃とナイフをちらつかせたら何故か安居が真っ青な顔で止めに来た。「……お前……いい加減にしろよ……」「お前こそいい加減にしろ。ここまで消極的な手段を取るなんてらしくねえぞ。 先生達のテストで学んだだろうが、諍いの種は無視して放置しておくと大きな問題に発展するってよ」「……分かった、それなりに対処はするから、頼むからお前は手を出すな」 そんな会話をした数日後、何故か源五郎がサブリーダーになっていた。「分からないことがあったら源五郎に訊け。俺に訊くな」「他の人に指示や指導してるのは貴方じゃないですか。何であたし達だけ…」「役割分担だ。お前達だって、俺に教わりたくはないだろう……行くぞ涼」「別にそんな、子供みたいなこと言いませんよ!…無視しないで下さい!」「……涼、やめろ」「こうした方が手っ取り早いのによ」「いいから」 ポケットに突っ込んだ手を抑えられた。 人のいいことで。 そつがなく、棘が少なく、大人げない『安居』。 その目は色々なものを諦めていて、妙に澄んでいる。 夜中に哨戒している時も、以前のように焦点が合わない目などしていない。 満ちる途中の月の光と、意志をはっきり宿している。 奴等と顔を合わせる度に顔を真っ赤に、あるいはどす黒くして怒鳴っていたあいつはどこへ行ってしまったんだ。 深夜徘徊しては俺達に心配されていたあいつはどこへ行ってしまったんだ。 何があって、ここまで達観できるようになったんだ。 未来から来たと言う『俺』に誘拐された我らがリーダーは、これを見たら何と言うんだろうか。 そもそも、『俺』は我らがリーダーを何と説得して連れまわしているのやら。 ああ、安居に会いたい。 「……涼!」「安居!?」 噂をすれば影。 花を避けて山を登り川を越えて洞窟を抜けて歩いてきた俺達は、ちょうどこちらに向かってくる奴等二人と出くわした。【続】
2018.01.18
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・渡部(わたのべ)から転じた職業や渡し場に由来する。(wikipediaより)・酒呑童子・茨木童子がやられて鬼一門がビビるのちに、茨木童子は腕を取り戻すことに成功するが、渡辺綱の強さは彼らに衝撃を与えた。そのため鬼は渡辺一門を恐れるようになり、ひいてはワタナベ姓の子孫にも近づかなくなった(RcchetNews24より)
2018.01.18
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涼→安居*********放っておけないだとか、手を差し伸べたいとか、元に戻したいとか、そういうまともな気持ちのほかに薄暗い靄がある。安居が必死に腕を伸ばす先。過去に眠る茂と、未来で待つ要さん。内心、その二人に何度も奪うなと叫んだ。だが安居の伸ばした手が空を掻くように、俺の憎む先も願う先も空虚で、俺達は一体何をこんなに必死になっているんだろうと始終虚しさが付き纏う。いっそ誰も居ない遠い場所に二人だけで行けたら、そうしたら安居の傷は癒えるのだろうか。もうあの二人に手を伸ばさずとも生きていけるのだろうか。それとも、そんな安泰な状況で、リーダーとしての本能を奪われた安居を俺が無様だと思うのか。答えは分からない。だから分かるまで、俺は俺のできることをする。その目を覆いふらふらと歩む安居の前にある障害を取り除いてやる。躓くかは分からない。気付くかどうかも分からない。取り除いたら更に悪いことになるのかもしれない。それでもこの方法以外に、彼岸への抗い方を知らない。
2018.01.17
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→1 『帰れない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『誘えない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』あらすじ:・過去にやってきた安居・涼・まつりIF二次創作小説・安居(過去)を拉致し、夏B村(過去)で暮らす涼(未来)・涼(過去)を説得し、混合村(過去)で暮らす安居(未来)とまつり(未来)************カイコ 12************ 誰か、誰でもいい、助けてほしい。 誰も、誰もいない。助けはいらない。 俺達は強い。 俺達は特別だ。 俺達は大丈夫だ。 俺達は大丈夫じゃない、一般の、弱い奴らを導き、守らなくてはいけない。 必要なら粛清もする。 必要なら破壊もする。 もはや俺達が法だ。 俺達を縛り、従え、導き、救う者などどこにも居ない。 だからこそ今日も俺達は歩ける。 やらねばならないことをする為に、生きていける。* 俺達の法を形作ったのは要先輩だ。 俺達に法を守らせたのは先生達だ。 先生達の事は憎んでいた。もし再会したら卯浪ほど残酷にではなくとも、殺していただろう。 要先輩にはずっと会いたかった。もし再会したら、俺達のこの選択は、生活は正解なのか訊きたかった。 答えは何? 要先輩はいつも正しい事を教えてくれる筈だ。「要先輩!」 だから、涼に無理やり連れていかれた先で要先輩と出会えて、俺は心底喜んだ。 涼はそんな俺を冷たい目で見ていたが、気にする余裕はなかった。 どうやって生きていけばいい?……要先輩のように、他のチームを陰ひなたにサポートすればいい。 どうやって、過去を昇華すればいい?……要先輩のように、失敗や挫折を全て前に進む力に変えればいい。 どうすれば、圧し潰されそうな責任感をどうすればいい?……要先輩のように、沈着冷静に、なすべきことだけをなせばいい。 混合チームも、花とやらも、夏Bも。 同様に俺達が導き守らねばならない相手だ。 余計な事は知る必要も、考える必要もない。 それだけが、真実だ。 それだけが、救いだ。【続】
2018.01.17
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・古代、山は神がおりてくる神聖な場所とされ、神をまつった家に由来する(民俗学の広場より)
2018.01.17
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2018.01.16
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一緒に痴漢根絶の演説してる所。似ない…😊
2018.01.16
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→1 『帰れない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『誘えない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』・過去にやってきた安居・涼・まつりIF二次創作小説・安居(過去)を拉致し、夏B村(過去)で暮らす涼(未来)・涼(過去)を説得し、混合村(過去)で暮らす安居(未来)とまつり(未来)***********カイコ 11***********「……え?」 目が覚めるとあたしはどこか知らない場所に居た。 シンプルだけどしっかりしたつくりの天井。 誰かの家にあたしは居た。「……どこ、ここ?」 天井と、その横の窓と、あと見えないけどしっかりしたつくりの、多分新品のベッドはお店に並んでるみたいに綺麗だ。 何ここ?現代日本? ……もしかしてあたしはずっと夢を見てたの? 普通に隕石が落ちてない世界で今も生きていて、どっか道端で貧血でぶっ倒れて夢見てて、そのまま親切なおばさんが自分の家に連れてきてくれたの?「……どういうこと?あたしどうなってんの?」 隕石が落ちる夢、夏のBチームのみんなと生き残る夢、ナッちゃんと親友になる夢、涼くんや安居くんがやってくる夢、二人の船出についていって、嵐に巻き込まれる夢。「って、んなわけないよねぇ」「あ……気が付いた?」「ん?」 目の前には、小瑠璃ちゃん。「あっ、こる」「起きたのか!!」 小瑠璃ちゃんあなたが助けてくれたの!? と言いかけた言葉は変な所で途切れた。 安居くんが凄い勢いでやってきたからだ。「安居、どうしたの」「小瑠璃に聞いていた様子から、今日あたり目を覚ますかもしれないと思ってたんだ」「安居くん!ねえ、これどういうこと?あたし達の乗ってた船、壊れちゃったの?」「どうだろうな。乗っている人間だけ放り出されたのかもしれない」「ウソー!やだー!」「後で探すから」「ど、ど、どうしよう。ナッちゃんたちに合わせる顔がない!」「ひとまず落ち着け。小瑠璃、悪いがこいつになんか飲み物と粥作ってきてくれないか?俺はこいつに色々聞きたいことがある。どこからやってきたのかとか、仲間は何人居るのかとか」「え?え?え?」「分かった」 何でそんなことを訊くんだろう。一緒に旅に出たのに、まるで初めて会う人みたいに。 でもあたしは一応空気を読んで何も訊かなかった。 空気を読むのは得意だ。 小さな背に固い空気を纏った小瑠璃ちゃんが、ドアを開けたまま出て行く。「……さて、お前の名前は」「天道…まつり……デスケド」 同じくおかたい雰囲気の安居くんに自然と背筋が伸びて敬語になってしまう。 これじゃいつぞやかの蝉ちんみたい。 何で知らないの。何でこんな他人みたいな尋問されてんの。 こういうシーン、どっか、デートで行った映画で見たよこんなの。 子供の時ド〇えもんでも見た気がする。 タイムリープとかタイムトラベルとかタイムスリップとかいうの。「どこまで覚えてる」「……えっ、とぉ……」 …これ、言っていいのかな。駄目なのかな。 もしかしてあたし、タイムスリップってやつ、しちゃったんじゃないのかな。 未来に来たばっかりの安居くんと涼くん達は気が立ってたっていうし、おかしなこと言うと変なやつって思われて追い出されないかな。「……えっと、仲間二人と船に乗ってたんだけど、放り出されちゃったかな?って感じ」「……」 沈黙が!!痛いよぉ!!「その仲間は、『安居と涼』で合ってるか」「……え?」「俺もだ」「ええ?」「ここには今いないが涼も、何故か知らないが過去の混合村にやってきてしまったみたいだ。 時期としては、俺達が追放されて夏Bの村に来る一か月前くらいだ」「えええ!?」「だが、それを過去の俺と過去の涼以外には秘密にしている。お前も秘密にしてくれ」「秘密……」「頼む」「……分かった」「お前は、どこかから流されてきて、この村の近くの沼に流れ着いた。 俺と涼に発見された。その時は辛うじて意識があったから俺と涼の名前は分かるが、他の面々の名前は分からない。そういう設定にしたから、今だけでもその振りをしてくれ」「……わ、わかった」 こくこくと頷いた時、キュルキュルとおなかがなった。「わわっ」「安居、出来たよー」「……丁度よかった」 ドアからやってきた小瑠璃ちゃんが、あたしに水とお粥を渡してくれる。その手際は良い。「小瑠璃ちゃん、ありがとう」 さっき名前を呼んでた筈だから、不自然じゃないよね。「安居、まだ訊きたいことや話したいことがあるの?出来たらこの子の体調に異常がないか検診したいんだけど…」「……いや。ここにやってくる経緯は訊いたし、この村に居るメンバーの名前は教えた」 あたしの方は、まだ訊きたいことがある。 過去にあたし達がやってきたなら、過去のあたし達はどうなったのか。 あたし達は、あの時代に戻れるのか。 それを読み取ったかのように、安居くんはちらりとこちらを見て、言った。「……ああ、それと涼だが……今は別件で外している。後で涼と一緒に話を訊きにくる。その時にここの事や、俺達の事を詳しく話す。それまで待っていろ」「……うん…」 さっきから混乱してばかりの頭に、涼くんが思い浮かぶ。 涼くん、どうしてるかな。 涼くんも無事でよかった。 お粥をふうふう言いながら啜って、安居くんの背中を見送る。「ごちそうさま!おいしかったー!」「そう。それならよかった」 ほんとにおいしかった。おかげで二分も経たないうちに野菜入りのお粥を完食しちゃった。器をベッドサイドの机に置いて、待ってくれていた小瑠璃ちゃんに向き直る。「小瑠璃ちゃん、お待たせ」「ううん。ちょっと脈と体温見させてね」「う、うん」 そういえば、このしっかりしたベッドは誰のなんだろう。「……そういえば、このベッド、誰の?」「ああ、あたしのだよ」「え!?ごめんなさい、ずっと寝こけてて」「仕方ないよ、一人でなんとか生きようとしてたんだから、疲れてて当然。 あたしは別のベッド作ったし」「えっ!?すごい!!」「慣れてるから」 やっぱり小瑠璃ちゃんは優しい。 …早く、元の時代に戻りたい。 元の時代に戻ったら早く、くりくり同盟同士集まりたいなあ。「……異常はないみたいね」「うん……あの、あのね、小瑠璃ちゃん」「何?」「ここであたし、なんか手伝えることない!? 助けてもらってばっかりで申し訳ない……」 小瑠璃ちゃんは無表情のまま瞬きをして、言った。「……そうだね、体調回復したら、簡単な事から手伝ってもらおうかな。 あなたの得意な事は何?」「えっとねー、畑!うち、農家だったから、植物の育てるとか、食べられる物探すのとか、ちょっと出来るよ!あと美容師目指してたから髪切るの得意!あとね」「…そっか。じゃあ、あゆちゃんと話合うかもね」「そうなんだ!話すの楽しみー!」 ハイテンションでバンザイするあたしに、小瑠璃ちゃんが初めて、少しだけ笑った。 うわ、美少女だなぁ……。 涼くんが小瑠璃ちゃんの事気にしてたのを思い出して、ちょっとジェラシー。「また具合悪くなるかもしれないから、もう少し休んでてほしい所だけど……結構長くあなたは眠ってたから、筋肉固まらないように、軽いストレッチはしとく?一応、眠ってる間あたしもあなたの手足動かしたりしてたんだけど」「うわ、何から何までほんとごめんなさい……」「いいよ。私は医療クラスだから、当たり前のことをしただけ。……今は夕方だから、明日の朝もし大丈夫そうなら、他の夏Aや、混合チームの所に顔合わせに行く?」「うん!」 あゆさん。 そういえば、あんまり話した事ないや。 ナッちゃんや蝉ちん達は同じ植物チームに振り分けられたから、話してるのかもしれないけど……どんな人なんだろう。 涼くんは他の所に行ってるって言ってたけど、朝会えるかなあ。 ……船、ほんとにどうしよう。ナッちゃん達が見付けたのに。牡丹さんに安居くんと涼くんが頼み込んで借りてたのに。 ……元の世界に戻れるのかなあ。 もし、涼くんと安居くんが仲間に追放される前なら……二人は、未来に帰りたいと思うのかな。 どきどきとわくわくと、ちょっと不安を抱えながらあたしは、小瑠璃ちゃんに手伝ってもらいながらストレッチを始めた。【続】
2018.01.15
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握り潰した
2018.01.15
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2018.01.14
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・とある安居周囲の人達と安居についての仮定・三人称オムニバス未満・突き詰めると未来教あるいはメタ********岩清水ナツは駄目人間である岩清水ナツは駄目人間である。「あたしのことすごくダメだと思ってるから少し悲しくなるんです」ナツは、安居といつか対等になれたらと思った。安居にとって、ナツを助ける事とナツを導くことが救いだった。対等を目指す限りそれらは両立しない。ナツは、安居が助けてくれていることを皆に言うことで、恩返しをしようとした。それは天秤を平らに近付けることだった。しかし結局それは成立しなかった。岩清水ナツは安居を救えなかった。互いに生きていることを救いとするには、二人の立場が違い過ぎた。********青田嵐は聖人君子か?青田嵐は「いい人」である。そして、危険なことから逃げる器用さも併せ持っている。その言葉は安居の目を開けた。安居の言葉は嵐の命を助けた。だがしかし彼は調停役だった。青田嵐は安居を救えなかった。互いの価値観を教え合って行くには、二人の目標が違い過ぎた。********末黒野花は英雄である末黒野花は冒険家である。冒険家は前へ前へ行き、他の人達の分も怪我をして、他の人達の得られないものを取って来ることがその使命である。時に敵と戦い、時に皆の行動の指針となることがその役割の一つでもある。さて、風を切り、怪我をして、他の人の分何かを取って来ることは安居の背負う使命でもある。時に敵と戦い、時に皆の行動の指針となることも負う役割の一つだった。さて、敵対する同じ者同士が出会うとどうなるか。かけることの、二人を育てた二人による怨嗟。答えはどうしようもない互いの精神の摩耗と消えない禍根。末黒野花には安居は救えなかった。隣に立つには、二人には、互いの欠けた部分を埋める力も配慮もなかった。********百舌戸要は神様である百舌戸要は死神である。監視し、管理し、揺り籠から墓場まで死神は見届ける。それは要の紛れもない使命であり、現実であり、そして願望だ。百舌戸要には監視と殺害以外の行為が出来ない。安居の求める言葉も、感情も、はなから持ち合わせていないのだから渡せるはずがない。百舌戸要には安居は救えなかった。想い出通りの関係に戻るには、二人の、失ったものに向ける感情が違い過ぎた。********佐藤涼は影である佐藤涼は影である。リーダーの影として、涼は安居を救いたかった。初めはいつも通り、過去の関係通りでいようとした。だが徘徊する安居を止め、憎悪の言葉に相槌を打つ内、涼は安居の憎悪に自分の憎悪を混ぜ、密かに安居の為と言っては、自分の為だけではできないことをし始めた。だが、涼が動けば動くほど、安居の立場も精神状態も悪化していくようで、実の所涼自身途方に暮れていた。夏のBチームに出会い、巨大な船の中で安居の呪縛が解けた後も。虹子と再会し、夏のAチームを追って洞窟に入った安居に続いて洞窟に入った後も。要と再会し、要を止めようとした後も。嵐が叫び、安居が要との相互理解を諦めた後も。安居の為に、花との接触、会話、しいてはわだかまり解消の機会を用意した後も。出港した後も。何が本当に安居の救いになるのか分からない。佐藤涼に安居は救えなかった。完全に救い切れることがありえないからこそ、それだけ喪ったものを想うからこそ、救えなかった。********茂は死者である茂は安居達の想い出の中で生きている。茂の安居への最期の願いは、未来でも頑張ることだった。それ以外に、茂は新たに安居に言葉を残せない。未来で安居と再会した遺体は少し笑っていたこと。未来で安居に告げられた、ロープが切れた時の事実。それらを背負って、生きている人達がこれからも生きていくしかない。茂に安居は救えなかった。想い出に救われる未来は、同時に想い出と違う現状を突きつける。********安居は自責癖である鈴木安居の心の中、昔の安居は、現在の安居を殺したくなる。現在の安居は、昔の安居について、もっと何か出来たのではないかと考え続ける。何度でも安居はあの暗い穴に落ち続ける。死にたくないと思った狡さと、代わりに誰かの死を意識した汚さが何度でも蘇る。7SEEDS計画の備品である夏Aとしての意識が、生き続けて人を導けと言う。7SEEDS計画の備品である夏Aとしての意識が、消えて人を傷付けないようにしろと言う。それらは救いではない。7SEEDS計画の為に消耗された何かが、失った過去を恋しがり、追い求める。7SEEDS計画の為に消耗された何かが、喪った過去を悔やんで、殉じたがる。その先に救いはない。結局今日も安居は、身体を動かし、頭を働かせ、課題をクリアし続けることしかできない。進める道を探り続けることしかできない。新たな世界に、風を切りながら歩き続け、人の為となる何かを探し続けることしかできない。いつか進む場所がなくなって、背負うものに潰されるまで。*******彼の進む先には、欠けたものがある。彼の歩いた場所に、満たされたものがある。そうしている限り、彼の目の前にはいつも空っぽの欠けが広がっている。「いつか」の未来で埋められる、可能性の群れ。それは岩清水ナツの駄目な所であり、それは岩清水ナツの「いつか」克服したい所であり、それは青田嵐の知らなかった世界であり、それは青田嵐の「いつか」知りたい世界であり、それは末黒野花の分からない事であり、それは末黒野花の「いつか」自分の頭で考えていきたい事であり、それは百舌戸要のかつて失った感情であり、それは百舌戸要の「いつか」思い出すかもしれない感情であり、それは佐藤涼の試してみなかった生き方であり、それは佐藤涼の「いつか」試すかもしれない新たな生き方であり、それは茂の記憶について置き去りにされたままだったことであり、それは茂の記憶について「いつか」思い出されることであり、それは安居のこれまで気付けなかったことであり、それは安居の「いつか」気付くことである。救われる「いつか」があるからこそ、救われない「いま」を突きつけるものたちが、そこにある。生きている。行く先を求めて、歩き続けている。救われないまま、いつかの為に迷い、苦しみ、探し続けている。「いつか」訪れる未来がある限り、現在の彼は救われない。「いつか」に繋がる現在、共に生きてきた周囲の人々、築き上げた建築物や得た経験を彼が振り返る日まで、それは彼の救いではない。救われないからこそ、まだ救えていないからこそ、彼は今日も歩き続ける。
2018.01.14
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→1 『巻き戻せない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『手段を選ばない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』あらすじ:・外伝後安居・涼・まつりタイムスリップIF二次創作小説・安居(過去)を拉致し、夏B村(過去)で暮らす涼(未来)・涼(過去)を説得し、混合村(過去)で暮らす安居(未来)とまつり(未来)**********カイコ 10********** 夜の哨戒。 過去の涼は毎晩俺と同じ時間に村の内部や周辺の哨戒をする。 そして俺の方に近寄ってきては、一言二言話して戻っていく。 その話しぶりは周辺の状況や明日の予定を確認する為というより、俺の安否を確認しているようだった。 いくら相方同士とはいえ、ここまで保護者のように……まるで俺達が幼い頃の要さん達のように、放牧していた馬が一頭消えた時の源五郎のように気にされていると、若干居心地が悪い。 今も、何を目的とするでもなく、特に必要と言うわけでもないのに、俺達は二人でゆっくりと村を見回っている。確認すべき事も話し終え、お互いに無言。 満月が近い。最近夜はことに明るくなった。 逆に生物の蠢く音は少なくなったせいで沈黙が耳に痛い。 気まずさを紛らわす為、何も考えず口を開く。「…まつりはまだ起きないな」 起きたら、初対面の演技をするよう言わねばならない所だったが、未だその機会は訪れない。 あれから3日になる。いくら疲れているとはいえ、ここまで起きないのはやはりおかしい。「何故あいつをそんなに気に掛ける」「未来でお前と仲が良かったからな。それに俺も世話になった、その分だ」「世話ぁ?」 過去の涼に返答すると、渋面を作られる。「……この先ある人に俺は、殺されかける。その時まつり達が庇ってくれたんだ」「何故だ。どいつに殺されかけたんだ。秋のチームにか?」 よく衝突していたからそう思うのも当然だが、違う。「いや、今は合流していない一人だ。危険分子をいざという時殺す役目で未来に送られたらしい」「……そんな奴が居るのか。で、お前はそいつに危険分子として認定されたわけか」 そう。要さんはきっと、俺のような奴を殺す為に未来に来ていた。「ああ。十六夜や卯浪を殺し、花も殺しかけたから、他のチームの人間も殺す危険人物に違いないと、その人に決めつけられ、殺されかけたんだ。その時、こいつと、他の夏Bが俺を庇って、その人を説得してくれたんだ」「何だ、その人っていうのは。相当短絡的だな、そいつの方が危険人物なんじゃないのか」 嵐も蝉丸もまつりも、要さんに、『それはおかしい』と言っていた。 鷭は、幻覚を見た後で体力も消耗しているから休んだ方がいい、と言っていた。「俺のやった事は許されない事だったから、当然だろう。 ……それに、その人は疲れていた。毒で幻覚にも追い詰められていたから、そういう結論に早急に行き着くのは仕方がない。……恨むつもりもない」「人のいいことだ……なあ、そいつは……」「そいつは?」「『死神』と呼ばれていたか?もしくは、自称していたか?」「……死神……?……そう名乗ってはいないが……どちらかというと審問官のようにふるまっていたな」 天国と地獄の審判のように、大怪我を負って幻覚を見てすらどこか超然的に話していた、要さんの姿を思い出す。「……もしかして、『先生』の生き残りか、それは」「……」「押し黙る所を見ると図星だな。貴士先生か?」「……お前も読んだだろう、貴士先生は竜宮で粉々になって死んだ」「…………」「……………」 沈黙が続く。「も…」「要さんか」「……人の話を聞け。百舌という男だ」「…百舌…?百舌は秋の季語じゃないのか。……そいつはどのチームなんだ。春か、夏Bか」「夏Bだ。……安心しろ、涼。俺達が以前夏Bと合流した時は、百舌はそこに居なかった。それにまだ過去の俺は、百舌に目を付けられていない。殺される心配はない」「……どうだか」 涼は嘲るように笑って、「俺はお前達が俺達だってのも信用してないんだぜ」と呟く。「それよりも、水資源が大分減っている事の方が問題だろう」「……そうだな。未来でお前達はどうやって打開策を編み出したんだ」「少し歩いた所に洞窟があって、その中に真水の川があった」「じゃあ、まだ余裕がある今の内にそこに行っておくか」 百舌が、要さんであること。 要さんは、この後起こるだろう山火事で混合村の前に現れること。 それを告げるべきだったのかもしれない。 だが、俺の目には、目の前の涼と、俺に庇わせる為に花に刃を向けた涼が重なって見えてしまった。今ここで言うべきではないと思った。 涼に以前、俺がちゃんとしていないと調子が狂うと言われた事がある。 つまりあの涼は調子が狂った結果の涼だ。 俺が暴走しなければいい。 俺が我慢すればいい。 俺がリーダーの使命を全うしていればいい。 俺が嫌われなければいい。 そうすれば、あんなことはもう起こらない筈だ。 何でもないふりなんて、慣れている筈だ。 15歳の時に、既に経験したことだ。 それでも、花の親を知らず和気藹々と接しているあいつらに、どこからともなく苛立ちが湧いてきてしまう。 花の親を知ってなお、それでも関係ないと言っていたあいつらの方がまだよかった。 自分の親のことについて悪いことをしていたと知った花の方がまだましだった。 俺は何も言っていない。言うべきじゃない。 言ったらあの時みたいに決壊して、卯浪のように貴士先生のように汚い手を使ってしまいそうだ。 しかも今回は、怒鳴り散らす事も、呻くことも出来ない。 まともな振り、平気な振りをしないと、涼が代わって暴走しかねない。 分かっている。 分かっている。 分かっている。 けれど未来に昇華されるだろうこのしがらみと、今どう接したらいい。【続】
2018.01.13
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→1 『巻き戻せない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『手段を選ばない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』あらすじ:・外伝後安居・涼・まつりタイムスリップIF二次創作小説・過去の涼を説得し、まつりとともに混合村で暮らす未来の安居・過去の安居を説得した過去の涼、過去の要と再会*********カイコ 9********* 嘘を吐くなら、より大きな嘘で支えなければならない。 恐怖を見ない為には、より大きな憎悪で塗り潰さねばならない。 その為に安居は狂った。 死んでいった仲間の為に。 生き残ってしまった自身と、仲間の為に。 だからまずあの場所から離すべきだと思った。 根源の一つ、貴士先生の娘からも。 安居が守ろうとした仲間達からも。 そうして俺なりの最善を尽くした結果が、安居を殺しかねない要さんとの再会だ。 当の安居は楽し気に要さんとこの世界の食べ物について話している。「この根は冬の新巻が食べられると言っていました。このままだと固いですが、煮物にすると結構おいしかったです」「そうか、では今晩食べてみるか」 ……安居よ。そいつは、俺達の地獄を造った張本人だぞ。 ……安居よ。お前はそれに気付いているんだろう。見て見ない振りをしているだけで。 ……安居よ。過去の俺じゃない俺が、お前にどうやって、茂の最期を伝えたらいい。 茂に似た(と安居が思っている)ナツは、未だに遠巻きにこちらを見ている。 蝉丸も、要さんが居る為か過度にナツを弄らない。「何だ、飯の話か?それならコックの俺様に任しとけ」「ではこれを」「……なんだその根、マンドラゴラかよ!」「……は?マンドラゴラってなんだ」「ほらよくあるじゃん、ゲームとか映画に出てくる。ナツ、お前も知ってるだろ」「え…は…はい……」「俺達はそういう架空の娯楽は見たことがない」「……そ、そうですか……」 安居も、ナツが気になってはいるようだが、茂の代わりにするほど面倒を見てはいないし、深夜の徘徊も完全には収まっていない。 そもそも俺達は、船を挟む岩礁の破壊とメンテナンスの為に来ている。…ということになっている。事実、かつて安居が率先してやりたがったことだ。だから、今回も安居が言い出すから仕方なくそうしている、と俺は言い張った。 その仕事が終わったらここを一旦離れて、村に戻って水源の確保をした振りをしなければいけない。実際はあちらには未来の安居が居る、水源の場所も覚えているだろう。心配する必要も対処する必要もさほどない。だからあくまで様子見だけすればいい。 その後で改めて、適当に理由を造って、俺達二人で夏のBに身を寄せる。 要さんの監視を制限する為にも、安居と花の衝突を防ぐ為にもそれが最善だろう。 ……しかし、これで、いいのか。 安居は未だに花の苗字を知らないし、要さんが花を育てていた事も知らない。 だからああして、かろうじて、正気で居られる。 安居達から視線を外し、手元のナイフに目を向ける。 タッチアップが必要だ。「涼くん、今何してるの?」「……まつりか。道具のメンテをしている」「見ててもいい?」「好きにしろ」 まつりはこの世界でも馴れ馴れしい。 ……とはいえ、適切な距離感を取ろうとしている事も分かる。「涼くん、左利きなの?」「ああ」「左利きってかっこいいよね」 …………いつかも、こんな会話をした気がする。 混合村に残してきたまつりは元気だろうか。 ……過去の俺と、うまくやっていけるのか。 過去のまつりの笑顔を見て、少しだけ、そんな事を考えた。【続】
2018.01.13
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2018.01.13
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カメレオンのように姿を変えてきた。付き合う人。好きな人。親兄弟。先生。友。全部人を喜ばせる為だった。自分が嫌われない為でもあった。皆大なり小なりそうしている筈なのに、どうしてか皆途中から私を気味が悪いと言う。あんたはあたしじゃなくてもいいのよねと言った人。おまえの本当の顔が分からないと言った人。どうしてこんな子が産まれちゃったのと嘆いた人。皆身勝手ね。そう思いながら私はその不満に合わせてまた姿を変えていく。そんな時、彼女に出会った。バイト先の料理屋のシェフ、偏屈で有名なおばあさん。あたしはあたしを嫌わない人だけ傍に居ればいいという彼女だけは、私を気味が悪いと言わなかった。そのおばあさんの許で私は、料理だけは彼女の好みに合わせるようになった。一緒に食べて、感想をもらって笑う私は、きっと、誰も見た事のない顔をしているんだろう。
2018.01.12
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動物は言葉が通じないので苦手…と若干蒼褪めつつ言ってる13歳時源五郎みたいに動物の言葉話せないと言ってる18歳時とても良いんだけどそれぞれそれを実感したエピソードとかあるのかなと考えると楽しい。©ヒヨちゃん・豚/動物のお医者さん
2018.01.12
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→1 『巻き戻せない』→2 『わけがわからない』→3 『話せない』→4 『置いておけない』→5 『収拾がつかない』→6 『違えない』→7 『手段を選ばない』→8 『知らない』→9 『受け止めきれない』→10 『溶けない』→11 『訊けない』→12 『救われない』→13 『そつがない』あらすじ:・外伝後安居・涼・まつりタイムスリップIF二次創作小説・過去の涼を説得し、まつりとともに混合村で暮らす未来の安居・過去の安居を説得した過去の涼、過去の要と再会********カイコ 8******** 要さんは、21歳当時よりはかなり老けていたが、それでも最後に未来で会った時よりはずっと健康そうだった。勿論左手も、右目も健在だ。「……要…さん」「要先輩も来ていたんですか!……俺達は今、探索の為にこっちに来てます。座礁した船があるから気になって」 息堰切って話す安居。複雑な気持ちになる。 要さんは、未来でお前を失敗作と誹り、殺しかけるのに。「……俺達が暮らしてる地域で、水不足が深刻になってきてな。……水を辿って歩いていたら、遠くに船が見えたんだ」 過去の安居は何も知らない。花との確執も要さんとの殺し合いも。 同時に過去の要さんも何も知らない。 ……夏Aの生徒が何か問題を起こしたら、自らの手で処分するという決意は、もう既に携えているのかもしれないが。 だから俺が、会話を誘導するしかない。「そうか、乾季が始まっているのか」「ああ……この地域じゃそんなことはないだろうがな」 海辺ってだけじゃない、今はまだ間欠泉がある。「水不足はそんなに深刻なのか?」「ああ。この阿呆が考えなしに人数を増やしたからな。秋のチーム、冬のチームと合流した。春のチームの一部ともだ」「……そうか。残りの春のチームは」「洪水で村ごと流されて、行方不明らしい」 そうじゃねえだろ、要さん。 あんたが気になるのは花の事だろう。 だが俺は言わない。「……他のチームのガイドはどうしている」「春のチーム……柳踏青、だったか。あいつは、確か他の奴を庇って死んだらしい」 未来で、角又がそんな事を話していた。墓石に刻んであった名前しか俺は知らない。「……正義感の強い方だったからな。彼らしい。……秋と冬は?」「冬は15年前にこの世界に来たらしいが、異常気象と猛獣のせいで1人しか生き残らなかったんだとよ。ガイドは確か熊川冴だったか、あいつも死んだとさ。 秋は……秋の十六夜良夜も、死んだ。同じチームの奴を庇って」 隣の安居がぎしりと固まるのが分かる。 下手な動きをするわけにはいかないので、極力俺だけでも平然と話す。 嘘は言ってない。「……そうか」「ああ。……卯浪も死んだよ。手の施しようがなくてな、小瑠璃も鷭でさえも助けられなかった。 ……死ぬ寸前まで呪詛吐いてたがな……おい、安居よ。落ち着け」 今度は怒りを膨れ上がらせた安居をどつく。 これなら不自然ではないだろう。「……それで、……あんたは、夏Bなんだろう?他のチームと会ったと聞いた。 そっちのガイドはまだ生きてるのか」「……ああ。早乙女牡丹と言う。立派で生命力の強い女性だ」「それなら安心だな。……他の夏Bと会ってもいいか」「………………」「見た所、船が岩礁に乗り上げて挟み込まれたんだろう」「……そうだ」「銃弾と楔で何とか外す。他の夏Bとも会わないと不自然だろう」「……分かった。やってくれ」 要さんはやはり警戒心が強い。 俺が夏Bに『テスト』の真似事をした時も、要さんが居たら形にすらならなかっただろう。 要さんが背を向ける、その背はきっと銃を向けられても瞬時に反応できるほど、静かな緊張を漲らせている。「……安居、大丈夫か」「……ああ……」 ここに来る途中、今回も安居は不安定だった。 夜中、幾度となく茂を追って彷徨い、要さんを思い出して不安定になっていた安居。「……要さんは、もし俺達が来なかったら、ここを離れるつもりだったのか」「…そうだな、牡丹は頼れるガイドだから……私一人離れて、他のチームの捜索やサポートをするつもりだった」 そういえば、蝉丸達と出会った当初、蝉丸が『百舌っていうおっさんが居た』『どっか行っちまった』と言っていた。今はその直前だったのだろう。 今、この時期に、要さんと、ナツと、嵐と……他の夏Bと出会ったら。 安居は少し落ち着くんだろうか。 桃太郎を茂と誤認していたかつての安居を思い出す。 茂と要さんを呼んで蹲っていた安居を思い出す。 あの大きな船の中で蹲っていた安居を思い出す。 あの後、もう一度前を向いて、覚醒した安居の目を思い出す。 あそこまで、こいつを連れていくには、どうすればいい。【続】
2018.01.11
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2018.01.11
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好き嫌いはない方だった。嫌いなものを食べるくらいなら餓えた方がましという奴の気持ちが分からなかった。今となってはそれが羨ましくもある。*信号無視のトラックにはねられて俺は異世界に行った。そこで俺は勇者になるどころか、魔物になった。姿が変わってればまだ救いはあったのかもしれない。俺は元の人間の姿そのままでこの世界にやってきてしまった。何せこの世界では、全然人が居なかった。変なモンスターばっかりが群れで暮らしてて、そいつらは文明を築きかけてる節すらあった。むしろ俺の方が異世界から召喚された魔物みたいな扱い。いつもいつも食べ物にありつくたび、その食べ物の仲間に追いかけられて逃げ回る日々。植物も動物もみんながみんなそう。そいつらのエネルギー源は土のような塊と太陽なもんだから、俺一人が人食い鬼のような存在になってる。俺一人野垂れ死ねばいいんだろうが、それでも俺の生命維持本能がそれを許してくれない。いっそ俺なんか何か別の生き物が食って、楽に無にしてくれりゃいいのに。それか、俺と同じような境遇の人間が一人でも二人でも居てほしい。年齢も外見も思想も言語もどうでもいい、ただ俺にとって美味しそうに見えなきゃいい。そう思いながら俺は眠りにつく。生き物のいないこの洞。この世界のところどころにあるここは暖かくて、いつも俺は溶けるように眠りに落ちていく。疲れや凝りがびっくりするほど取れて、体も柔らかくなっているような気がする。目が覚めるとひどく空腹に襲われるのが、ただ一つの難点だ。
2018.01.10
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大分端折ってる要さん視点*******ラプラスの悪魔 *******人がどんな動き方をしているか。人がどんな立ち位置にいるか。それだけで、人がどう動くのか分かった。だから僕は人を管理するシステムに口を出した。相応に努力と観察と管理を継続すればいいだけの簡単な話。過去と同じように、未来の事も何もかもが見えると思っていた。佐渡の養育施設で、職員以上、資金元以下の位置で僕は働いていた。子供達はみな有望だった。中でも安居や涼は格別で、成績のみならず、安居の責任感、涼の注意力には、大人の手が回らない所で随分と助けられた。これからもそうだと思っていた。だがそれは誤算だった。だから殺さねばならないとも思った。だがそれも誤算だった。今の僕にはただ観察することしかできない。100人の子供達が徐々に起き出して、動ける程度に回復し始めてからはより人目を避けることが困難になった。攪乱程度に蟻を追い払っては洞窟に潜み、生き残りの彼らが分散して探索・冒険していて接触しそうになったら角又に断ってから墓の近くに掘った地下室に隠れ潜み……かつての誘拐犯からの逃亡生活を彷彿とする暮らしだ。自業自得。それはわかっている。どこに居ても尊敬あるいは畏怖の目線を受けたあの頃とは違う。俺の生きて動いている姿を目撃し、手紙などで交流している相手は今の所角又、牡丹、螢くらいだ。三人にはそろそろ顔を出したらどうかと言われているが、出すつもりは今の所ない。悪影響を及ぼす可能性があると一点張りをして、拒んでいる。ここまで来たらもう意地に近い。自分の正義に固執して殺しかけた安居。そんな彼達が居ない時に顔を出すと言うのもどこか狡い気がする。……次にぞうとらいおん丸が帰ってきたら、また考えてみよう。償えるとは思わない。赦されるとも思えない。それでも、いつか、話をしたい。くだらない事でもいい、汚い事でもいい。観察だけでは分からないこと、法則の外にあることを話せる日がきたらいい。
2018.01.10
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きっと僕はキューピッドの生まれ変わりなんだろう。小柄な体、中性的な顔に、色素の薄い髪と肌と目。けれどそれよりももっと重大な、僕がそう自覚するに至った理由がある。自分が会わせた人同士は皆、自分よりも仲良くなる。恋人であれ親友であれ、一生を通じての絆を築く。それに後悔するのはいつものことだった。席を代わってやるのもいつものことだった。だが彼は何故か未だに僕を、彼女との間に置きたがる。歩いている時は僕が真ん中だ。いたたまれずに僕が外に行こうとしても轢かれるぞ、とか壁にぶつかるぞ、とか言って僕をもとに戻してしまう。座っている時も彼は僕を膝の上に座らせる。確かに僕は身長が低いが、ぬいぐるみのようにこうして置いておくのはどうなんだろう。最初は笑っていた彼女も、じきに曖昧な困ったような顔を僕に向けるだけとなった。だから僕は気を利かせて二人を二人っきりにさせようとあれこれ画策したのに、彼ときたら僕が居ないとうまく話せないだなんてへたれる。話せるよ。だってお前はあの娘に、既に僕よりずっと好かれてるんだから。少し話がつっかえるとか、つまんない話をするくらい、彼女は許してくれるだろう。それとも何だ、なよっちい僕を横に置いて自分のたくましさでもアピールしたいのか。イライラした僕は、縋る彼の手を振り払い、以後二人どちらとも接触しないことに決めた。その後、風の噂で二人は別れたと聞いた。*あれから十年経った。今では僕もすっかり大人になった。A●Bに入れそうと言われた顔も、学生の頃に鍛えまくったおかげでいかつくなり、美大ではパンチパーマあてたような某彫像に似てるよな、なんて言われた。それでも僕のキューピッドな能力は健在で、僕はもう気軽に彼女や親友同士を会わせないようにしていた。そんな時、仕事の帰りに彼に会った。中学生の時よりたくましくなっていた彼は、同じくたくましくなっていた僕を見て一瞬で相好を崩して言った。「久しぶり!……あ、俺の事、覚えてるか?」覚えてるとも。僕が最後に縁を持ってあげようとした相手だから。「ああ。好井、久しぶり。変わってないな」「愛田は随分逞しくなったなあ」彼は僕の気まずさなど気にしていないかのように近付き、大型犬のように豪快に笑った。「……そういえば、恋懸こいけさんは?まだ付き合ってるの?」「ああ、懐かしいな。とっくの昔に別れたよ」「そうか…残念だな」「ま、しゃーないしゃーない」訊かないのも不自然な気がして言ったけれど、彼はむしろ言われる方が心外だとでも言うように素っ気なく返した。「今帰り?これも何かの縁だし、飯食いに行かねえ?ここら辺にうまい飯屋があるんだ」「……そうか、じゃあ、紹介してくれ」ついでにこいつが、誰かいい人を紹介して、キューピッドになってくれたらいいのに。そんな僕の期待を裏切るように、彼は静かな、狭い個室のある居酒屋に僕を連れて行った。「だっから、僕は昔っから、大事な人がみんなくっついて離れちゃうのが嫌で嫌で」「うん、そうか、でも俺は今お前といるからな」「…それは、ありがとよ…」「よかったら今度、一緒にどっか遊びに行こうぜ」「……いいのか?」「おーよ」「…うん………じゃあ…まあ…行くか」「めっちゃ戸惑うやん」笑う彼を見て、実感する。ああ、これだ、欲しかったのは。安心して、微睡む僕に好井の手が伸びる。起きろって言われるか、肩をたたかれるか。そんな予想に反して、手は眠りを促すように優しく僕の頭を撫でた。僕の意識はゆっくりと闇に溶けていった。【続】
2018.01.09
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