仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2025.01.08
XML
カテゴリ: 東北



 朝比奈三郎が榛谷(はんがえ)四郎の頭を、入相の鐘の音に合わせて殴りつける場面。鐘がごんとなれば、「 くはん 」と握りこぶしで殴る。近松門左衛門『曾我会稽山』1718年。
 くはん(かん)は、頭を殴る音にしては明る過ぎにも思え、現代語では「がん」がふさわしいが、江戸時代の本は濁点に厳密でないので、本当は「がん(ぐはん)」で濁点を付さないだけかもしれない。しかし、ここは鐘の重い「ごん」のあとに、鐘に即応して仏具の鉢が鳴るように頭は「かん」となる、と考えたほうが良い。

2.宮沢賢治「があん」
 鉄砲の音が響いたが熊は少しも倒れないようだった。「小十郎は があん と頭が鳴ってまはりがいちめん真っ青になった。」宮沢賢治『なめとこ山の熊』1934年頃。
 音が感じられるようでもあるが、音より抽象的な衝撃のようでもある。擬音語か擬態語か一義的には決めがたい例であるが、他の用例のように、擬音語から擬態語への流れ(音の感覚から衝撃の感覚へ)にあるといえる。

3.宮沢賢治「きりきり」
きりきり とまはって小さなつむじ風になって...」「まるで何と云ったらいゝかわからない変な気持がして歯を きりきり 云はせました」宮沢賢治『風の又三郎』1934年。
 「きりきり」が二種類の意味で用いられる。前の例は、風が巻き上がる様子で、きつく引き絞る様子の用例。後の例は、歯をきりきり言わせるのだから、こすれ合って立てるきしんだ音の意味である。
 なお、近代の「きりきり舞い」は、片足で体をきつく引き絞るように回転する様子が、何者かによってなすすべなく回転させられているように見えることから生まれた言葉である。

■小野正弘『感じる言葉 オノマトペ』角川選書561、2015年 から(おだずま要約)

本の奥付によると著者の小野正弘さんは明治大学教授、1958年一関市の生まれで東北大学大学院文学研究科に居られたそうだ。

オノマトペの使用例として、宮沢賢治の作品が何度も登場している。また、宮本百合子も何度か引用されている。「むかつく」の項では、石川啄木の酒の俳句と太宰治が用例として出ている。

最初の朝比奈三郎は、宮城県人にとっては、七ツ森や品井沼を作った伝説上の大男だが、歴史上は鎌倉御家人で安房国朝夷郡を所領とした和田(朝比奈)秀義である。

著者小野さんの著作は、日本文学史や国語史に基づくものであって、東北など地域別言語学の視点ではない。私(おだずま編集長)が、手にした本から勝手に「東北」を探しただけなのだ。しかし、著者が宮沢賢治はじめや故郷の文学に格別の思いを抱きながら研究を続けて来られたのではないか、などと拝察したのだった。

■関連する過去の記事
(宮沢賢治)
めがね橋 (2016年3月21日)
花巻と里川口(花巻川口町) (10年5月16日)
歴史秘話ヒストリア「宮澤賢治」の再放送予定 (10年5月13日)
サラリーマン宮澤賢治を描いた佐藤竜一先生がTV登場! (10年5月7日)
我が心の宮澤賢治 (09年3月2日)
新宗教と東北 (09年7月7日)
雨ニモマケズ (08年11月25日)
藤原嘉藤治を讃える (07年6月16日)
(宮本百合子)
東北開発の具体像 (2023年04月06日)=安積開墾の中条政恒の孫が宮本百合子
(石川啄木・太宰治)
東北各県の三大名物集 (07年5月8日)
(石川啄木)
盛岡と豆腐 (2012年10月6日)
岩手公園の名称問題を考える (06年7月12日)
(太宰治)
千畳敷海岸 (2013年5月26日)=文学碑
小泊地区と銘菓ごんげんざき (2013年6月8日)=津軽の像





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2025.01.09 08:25:58
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

コメント新着

ななし@ Re:北のキリシタン聖地-旧大津保村を中心に(その3 大籠地域)(09/10) 『1917年(元和3)年頃の統計では、佐竹藩…
おだずまジャーナル @ Re[3]:水の森公園の叢塚と供養塔(08/03) 風小僧さんへ 規模の大きい囲いがあった…

プロフィール

おだずまジャーナル

おだずまジャーナル

サイド自由欄

071001ずっぱり特派員証

画像をクリックして下さい (ずっぱり岩手にリンク!)。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: