Pastime Paradise

Pastime Paradise

2008.06.24
XML
カテゴリ: 書籍・雑誌
米原万里 さんが書評集「 打ちのめされるようなすごい本 」の中で絶賛されていた、中国の社会派人気作家・ 張平 (ジャン・ピィン)の日本初上陸作品である「 凶犯 」を試しに読んでみた。
 …す、凄い !!読み始めたが最後、ラストまで一気に読んでしまった。
 中国の抱える政治や社会の矛盾(幹部の腐敗、道義の退廃、貧富の格差拡大など)に真正面から切り込み、人間の醜さや弱さ、狂気を容赦なく描き出す張平作品は、実際に起きた事件を題材としているらしい。この「凶犯」もモデルやストーリーはほぼ事実に即したものだとか。

 中国内陸部の国有林に派遣された誇り高き傷痍軍人・ 李狗子

 事件発生後の村人や地方幹部の話と、事件を起こすに至るまでの狗子の様子を交互に描く構成が見事で、否が応にもグイグイ引きこまれ、あまりの迫真性に目が離せなくなってしまう。

 村の権力者である四兄弟による国有林討伐を見逃すことが出来なかった誇り高き狗子は、やがて四兄弟から悪質な嫌がらせ―村唯一の井戸の使用を禁止されてしまう。仕方なく掘り当てた汲出し口も四兄弟に幾度もダメにされ、それでも四兄弟に屈することなく、不正に立ち向かう。そんな狗子を妻は日々罵り、四兄弟の言いなりになっている村人や役人達は見てみぬふりをしていた。
 そんなある日、ついに事件が起こる。四兄弟の息が掛かった店に買物(水のかわりに飲む清涼飲料水をいつも買っている)に訪れた狗子は、四兄弟から殴打、足蹴を受け、凶器で殴られ、重い什器を振り落とされ、鋭利な刃物で何箇所も体を突き刺されてしまう。元々左足が義足である狗子は、右足首を粉砕骨折され、左腕と肋骨は折れ、腎臓もやられ、腸が腹から飛び出すほどの重傷を負ったにもかかわらず、その場から自力で立ち去る。
 激痛に遠のきそうになる意識と戦いながら何とか這って自宅に戻った狗子は、ライフル銃と銃弾を手にすると、すぐさま山から這い下り、迫り来る死を幾度も追い払いながら13時間もかけて、諸悪の根源である四兄弟の抹殺へと向かう。

 不正と命がけで戦う狗子に対する、四兄弟に屈服することで生活が成り立っている村人達の冷ややかな視線にゾッとする。
 なぜ四兄弟の支配から逃れようとしないのか?なぜ、戦おうとしないのか?「生きていられればそれでいい」という村人達の無気力な生き方こそが、公然たる不正と悪行を許し、はびこらせる元凶だということが分からないのか?

 “皮肉なことに、こういう働き者だが利己的で、善良だが愚昧な、ごく普通の人々によって、公然たる不正と悪行が擁護され支持されているのだ。しかも、こういう普通の人々は、こうした不正や悪行の横行が、自分たちを踏みつけにし、自分たちの命を損なうことを知っていながら、悪党の言いなりになり、自分の考えを曲げてでも悪党に迎合し、悪党のお先棒担ぎまでしている。”
 …田舎のじーちゃんばーちゃんが自民党を支持し続けたおかげで、腐敗政治が横行する呆れた国に成り果ててしまった今の日本も何ら変わりませんな

 常日頃、狗子の愚直さを罵り続けていた妻・ 桃花 (タオホア)が、最後、夫の生き方に共鳴して役人相手に怒鳴り散らすシーンがせめてもの救いだ。 





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.06.25 05:05:51 コメントを書く
[書籍・雑誌] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Free Space

ぱすぱら趣味館
懐かし邦題アルバム 一覧
我的読書記録
「うわさの姫子」大百科
Mr.BOO! 広川太一郎 吹替伝説
80's MY FAVORITE SONGS 【BOX版】
80's MY FAVORITE SONGS 【BOX版】 VOL.2
Heavenly Rock Townとは?

ぱすぱら別館
ふらりと御朱印集め
(御朱印集め備忘録BLOG。岡山を中心に、関西にもふらりと出掛けます)

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: