ぞうりむしの図書館
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【老人と海】 ヘミングウェイ 【Story】 キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。老人と海 <読書感想> 「やつはおれの運命だ」18フィート(5メートル半)もの大魚が老人にとって何を意味したのかは明らかだ。老人はもはや海に縛られていただけではないのか。とうの昔に失った過去の栄光に。本当は気付いていたのか。幾度となくあらわれる夢の中のライオンは、その誇りを失うことなく陸で生きたいと願う老人の願望ではなかったか。大魚との戦いに勝利して、老人の心は揺れる。誇り高き漁師としての自分を殺しはしたが、屍になってなお、己を失う恐怖と戦う。「やつがおれを運んでいくのか おれがやつを運んでいくのか」それも、やがて鮫(サメ)の大群が跡形も無く食い尽くす。身を引きちぎられる思いに耐え、そして老人は自由になる。小船は重い荷を失って、身も軽々と海上をすべってゆく。それは、解き放たれた老人の心なのだ。老人はもう海には出ないだろう。老人の意志を継ぐ少年がいる。そしてなにより老人はライオンになった。誰もがみな、現役を引退する時がくる。死に物狂いで戦ってきたその第一線を退く時の心の葛藤はいかほどだろう。そして、その瞬間を誰かに決められるのではなく自分自身で決めなければならないとしたら…。ぞうりむしの父は今年還暦を迎え、来年自営業をたたむ。後を継ぐものはいない。目覚めた時に、少年のしたように、せめてあたたかいコーヒーだけでも差し出すことができたらと思う。
2007/10/29