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突然、友達が行こうと言い出したのは1週間前。 そして、昨日朝6時47分の新幹線に乗って、京都へ行ってきました。 京都駅についたのは、朝9時半近く。 新幹線に乗ったのなんて 何年ぶりだろう? それに、京都は15年以上も前に行ったきり。 まず驚いたのは京都駅。 話には聞いていたけど、これじゃまるで どこかの国の空港だ・・・とあいた口がふさがらない。 でも、泊まった ホテルは駅のすぐ上。 その便利さには感激いたしました(笑。 荷物を預けて最初に行ったのは妙心寺。 金閣寺も清水寺もなしの 京都観光。 結構、マニアックです(笑。 一緒に行った友だちが、 「特別公開」にこだわったので、京都観光らしからぬお寺まわりになりました。 特別公開だったのは、襖絵。 10世紀だの12世紀だの、いったい何百年 前に書かれたの!?っていう墨絵の襖絵。 いやー、その歴史を感じて 感動しちゃいました。 それに、建物だって、500年以上も前に日本人が 歩いた床を私も歩いていたのです。 感動しますよー。 その後は、北野天満宮へ。 あ、その前に澤屋の粟餅ははずして はいけない。天満宮の目の前にある店ですが、すんごく美味しいですから。 で、北野天満宮。 そう、学問の神様ですよ。 絵馬の数も半端じゃなかった。 私の周りには受験する人はいない ので、いちおう七福神の神様にお参りしてきましたー(笑。 お昼も彼女らしいマニアックさ・・・。 泉仙の鉄鉢料理、といえば 京都駅の近くにもあるので、ご存知の方もいるかもしれませんが、 彼女が選んだのは大徳寺店。 なんとお寺の中にある店なのです。 お庭を見ながらの精進料理は、ほんと、それらしくってよかった! もちろん、お味も大満足でした。 肉も魚もない料理。 でも、美味いしい 料理でお腹もいっぱい! ごちそうさまー。 この後は、少し大徳寺のお庭を見てから、バスに揺られて京都駅へ。 チェックインして、お部屋でほっと一息。 夕食は四条の錦市場近くにある「divo diva」というイタリアンの店 で頂きました。 季節はずれだからか、平日だからか、2階の席に グループが、1階の席には私たちだけ。 でも、味は保証いたします。 だって、四条で20年も続けているレストランですもの。 地元の方 ならみんな知っていると思います。 お昼が2時と遅かったのに、 夕食もがっつり平らげてしまいました。 こりゃ太るはずです・・・。 ホテルについたのは、9時半近く。 朝の5時起きで新幹線に飛び乗り、 京都を一日歩き回って、なんだか2日分くらい時間を過ごしたように 感じましたよ。 でもね・・・「うーん、満足」の一日でした。 そして、続きはまた明日。
January 31, 2007
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日本語使い分け辞典・・・あまりにも楽しいので、ネタ切れの時に少しずつ紹介していきたいと思いまーす。 ◆◇◆目からウロコの日本語講座◆◇◆第1回 浮く / 浮かぶ 小船が浮いている。 小船が浮かんでる。 このふたつの文章、あなたはいったいどんな状況で使い分ける のでしょうか。 * * * * * * * * * * * * * * * なーんて問題を出したのは一昨日のことですが、今日は、あいちゃん的 解釈を書かせていただきたいと思います。 実際のところ、「浮く」はアクションを表現する言葉で、浮くか沈むかの 動きを表しています。 また浮いているは意思を感じさせる表現でも あります。 「あそこに浮いてるダンボールを見て。 ねぇ、中に子犬が入ってる みたい。 どーしよう」 といったら、ダンボール箱はいかにも不安定で、浮くか沈むかって いう状況を感じとっていただけませんか? 反対に、「浮かんでいる」は状態を表す言葉で、物体が水面などに 安定しているという感じを表すようで、のどかな状況を感じさせる 表現でもあります。 「あそこに浮かんでる葉っぱ見て。 紅葉してるー。 すっかり秋だね」 なんていうと、のどかな風景が感じられますよね。 意識して使って みると、なんとなくそう思えてくるから不思議です。 何事も思い込みが大切です?! 皆さんも、そう思い込んで使い 分けてみてくださいね。
January 31, 2007
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日本語使い分け辞典・・・あまりにも楽しいので、ネタ切れの時に少しずつ紹介していきたいと思いまーす。 ◆◇◆目からウロコの日本語講座◆◇◆第1回 浮く / 浮かぶ 「浮く」は英語で「FLOAT」。 日本語の意味は・・・ 1 物が水などの液体の表面に行くこと。 2 物が底を離れて液体の中にとどまること。 物が地面を離れて空中にとどまること。 3 位置が定まらない不安定な様子。 「浮かぶ」は英語で、同じく「FLOAT」。 日本語の意味は・・・ 1 物体が液体の表面や空中にあること。 2 物事が表面に現れること。 3 思いつく、考えつく、あるいは心に描き出されること。 びみょーっすねー。 ましてや、「浮いている」「浮かんでいる」 となると、どっちも同じじゃん、って言いたくなりますよね。 小船が浮いている。 小船が浮かんでる。 このふたつの文章、あなたはいったいどんな状況で使い分ける のでしょうか。
January 29, 2007
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私たちは公園を歩いていた。 「田所さんは、翻訳とか通訳とかの仕事をしているんですよね」 「そう、翻訳が主な仕事だったんだけど、ここ2年ほどはインドと縁があるって 言うか・・・通訳関係はインド人が多い。 佐緒里さんの会社も最近、多いん じゃないですか、インドの人」 「そうですね・・・多いってほどじゃないですけど」 最近ではIT関係の仕事で世界中で活躍しているインド人が多いと聞くが、 私の中では貧富の差とか濁った川に沐浴する人々の姿が真っ先に浮かんで しまう。 田所は何度かそのインドを訪ねたことがあるという。 私には未だ あの無表情の彼らに親近感を覚えるようなことはなかった。 「そうだよね。 でも、最近じゃ日本でもインド人コミュニティはどんどん大きく なってるんだよ。 横浜に中華街があるように、千葉にはインド人街が できつつある」 「そうなの。 知らなかった」 「だよね・・・でも、僕はインド人からは学んだこと、たくさんあった」 「そうなんですか。 でも、私はなぜか彼らが苦手で・・・。 だって、どうして インドの人たちは笑わないのかな」 「そうだね。 じゃ、どうして日本人は笑うんだろう」 「え? どうしてって・・・あまり考えたことないけど、悪い印象を与えたくない とか・・・」 「そう。 でも、笑っている人は、みんないい人? そうじゃないよね。 そういうことなんだ。 彼らだって可笑しい時には大声で笑うよ。 でも 人にいい印象を持ってもらうためだけに笑ったりしない。 実に素直で 正直な人たちなんだよ」 「そうなの?」 「正直でストレートで、正直、ビジネスの世界ではやりにくい相手でもある けどね」 「ふーん」 「ごめん。こんな話面白くないか」 「そんなことないです」 「うん、ただ僕が言いたいのは、人間もっと自然に生きていいんじゃないかな ってこと。 悲しい時に笑う必要はないし、つらい時にはつらいといえばいい。 その瞬間は決して永遠ではないのだから。そして、また楽しい時には大声で 笑えばいい。 彼らはそういうことを思い出させてくれたんだよ、僕に」 彼は数年前まで、大手のコンピューターの会社に勤めていた。 しかし、 朝から深夜まで働く中で自分の生活を、そして自分自身を見失っていたという。 仕事の関係でインド人と接する機会が増えるにしたがって彼らに興味を 持ったのだ。 カースト制度の影響を残す社会の中で、大学を出て世界で 活躍する彼らはどんな気持ちで生きているのか。 日本で言えば勝ち組の 彼らがなぜ笑わないのか、彼らの幸せとは何なのか、そして家庭とは・・・。 そして、インドの人々と出会い、インドを旅する機会に恵まれた。 自分の 将来に不安や疑問を感じていた時だった。 田所がインドで出会ったのは、実にストレートで話好きの人々だった。 仕事で何度かあっただけの仲なのに、彼を気軽に迎え入れ、にぎやかな 食事に招待してくれた。 その中で彼が聞いたことは、インドの人々の 人生観と世界観、家族の絆。 皆が親が子を思う気持ちに感謝して、 自分の恵まれた生活に感謝して、与えられた立場を受け入れる。 それらがごく自然に彼らの中にある。 だから、彼はインドの人たちと 仕事をすることを楽しんでいる、と。 「きみにお見合いを申し込んだのにもインドが関係あるんだ」 「私のお見合いと?」 「そう。 インドでは、今でも結婚のほとんどがお見合いなんだ。 親たちは息子や娘に少しでもいい相手をと、あらゆる条件を検討する。 家族構成や宗教、食べ物の好みや、もちろん仕事もね。 そして、最後 には占星術にまで頼る始末さ。 そうして、やっと最高の相性の相手の うちに訪ねていって話をつける」 「なんだか、策略結婚みたい。 それで、二人は愛し合えるのかしらって 思っちゃうけど・・・」 「出会いはどんな形だっていいんだよ。 それから恋をして、愛を育めば いいんだから」 「うーん」 「実は、きみの話をもらった時、インド人の仲間に相談したんだ。 彼が この女性は、田所と相性がぴったりだからぜひ結婚しろって・・・」 「ええー。 それでぜひ、お見合いって?」 「そういうわけです」 田所の話を聞いても、まだ私にはお見合いをぜひに、と言った彼の本意は よくわからなかった。 でも、率直で明るい彼と一緒にいると、なんだか心が 晴れてくる。 今日、青空のしたで、こうして二人で公園を歩いていることに 感謝したくなる。 自分の将来など、くよくよ考えたってし方ない。 ただ、 自分の立場を受け入れて、自分の今ある生活に感謝する。 そんなことが できたら、なんだか幸せになれそうだ。 「ねえ、田所さん。 私もインド人のようになれるかな」 「ははは、どうかな。 いぢど彼らと話してみると面白いよ。 実に正直で 楽しい人たちだよ」 「うん。 そうしたい」 これから数ヶ月後には、私の生活はかわるだろう。 でも、その数ヶ月後 にはもっと変わるかもしれない。 そんな予感を彼は私に感じさせる。 10年後の心配なんかしていられない。 この先、くるくる変わる私の人生を 少し楽しんでみたくなってきた。 私は太陽のしたで、大きく深呼吸をした。 「ね、田所さん。 私、アイスクリームが食べたい」 「よーし、アイスクリーム食べに行こう。 1個でも2個でも食べてくださいよー」 最後まで読んでくださってありがとうございました。 これからも宜しくお願いいたします☆
January 27, 2007
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待ち合わせの場所に私が近づくと、目の前で彼はにこにこと笑いながら こちらを見ていた。 「やあ、こんにちは。 今日はお呼びたてして申し訳ありませんでした。 いやー、やっとお会いできた。 うれしいなぁー。」 「ごめんなさい。 待ちましたか?」 「いや、今来たばかりですよ」 目の前で笑っているのは、真っ黒に日焼けした田所だ。 「佐緒里さん、お腹すいてませんか? 何食べます? ラーメンでよかったら、 美味しいとこありますけど・・・」 田所が連れて行ってくれたのは、中華街の市場通りにある小さな店だった。 それでも店の名前は私でも聞いたことのあるような有名な店だった。 ウエイトレスがテーブルの上に水とメニューをおき、私たちにおしぼりを 手渡してくれた。 「あの時、田所さんの顔を見てびっくりしました。」 「ぼくもだよ。 」 「ふふふ。 なんか、顔見ちゃいます、やっぱり」 「そう? どうして」 田所は私がお見合いを断った人だった。 リビングで写真を見たとき、 どこかで会ったことがある気がしたのも当たり前のことだ。 一度、会社の ゲストハウスに通訳として来たことがあったのだから。 それなのに、私の 気持ちが落ち込んでいたせいか、それとも、写真の中の田所が今ほどは 日に焼けていなかったせいか・・・とにかく、私は全く気がつかなかった。 それが先日、受付でばったり顔をあわせて気がついた。 それも、 ふたり同時に・・・。 それならなぜ、田所は私に気がつかなかったの だろう。 お見合いを、ぜひに・・・とまで言っていたと聞いた。 「ゲストハウスにいらしたときは、私に気がつきませんでしたか?」 「え・・・ああ・・・」 「あの・・・ご注文は・・・」 二人で顔をあわせて笑ってしまった。 注文のことなど二人ともすっかり 忘れていた。 一度断ったお見合いの相手との初めてのデートだ。 まともに話をしたこともない私たちがこうして向かいあって座っているのが 何だか不思議で仕方がなかった。 「じゃあ、とりあえずビール。 で、僕はネギラーメン。 佐緒里さんは?」 「えっと・・・私は、ビールと海老ラーメン」 「ごめん。 さっきの話、なんだっけ」 「ああ、ゲストハウスにいらしたとき、田所さん、私に気が付かなかった から・・・」 「そうなんだよねー。 ごめんね。 あの会社だとは知っていたんだけど、 まさかあの事業所にいるとは思わなかったから。 申し訳なかった」 気が付かなかったのは私も同じだ。 そして、お見合いを断ったのも私。 それなのに、今こうして二人で向き合っている。 なんだか不思議で しかたがない。 佐緒里は運ばれてきたビールのビンを手にとって、田所のグラスに 注いだ。 「じゃ、とりあえず、かんぱい」
January 26, 2007
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「佐緒里、会社でなんかあった?」 「え? どうして?」 「別に・・・。 最近なんか元気なさそうだし、昨日、あなた一時間以上お風呂 入っていたでしょう。 何やってたの?」 「別に何もしてないよ。 ただ、お風呂の中で考え事してただけ」 母親ってすごいと思う。 娘のほんの小さな変化も見のがさない。 失敗して みんなの前で主任に叱られて、おまけに課長からは受付業務から事務の 仕事に変わらないかと言われている。 そんなことを母親に言えば惨めな 自分の気持ちが少しでも楽になったりするのだろうか。 いや、きっとかえって 自分が惨めになる。 今誰かになぐさめられれば、自分の気持ちに歯止めが 利かなくなるだけだ。 「そういえば、あの写真の人、誰だっけ。 親戚の人?」 「あ・・・見たの? 何も言わないから見てないのかと思った。 あのね、 おばさんが、あの後、すぐに持ってきたのよ、お見合いの写真。 いやだったら、いいよ。 断ったって。 なんか、あちらはぜひにって 言ってるみたいだけど・・・」 「お見合いの人なんだ・・・。 知ってる人かと思った。 どっかで、見たこと ある気がしたから・・・。 でもどうして、ぜひに、なんていうの。 でも・・・ どっちにしても、今はいい・・・」 「うん。 いいよ。 かあさん、断っておくから。 心配しなくてもいいから・・・ さ、早くご飯食べちゃいなさい。 会社に遅れるよ」 たぶん私が何も言わなくても、4月になって新人が受付に配属されれば、 私は総務課の事務の仕事につくことになる。 昔の自分にしがみついて いたってしかたがない。 私も大人にならなければ。 歳を一つとるごとに、 一つ何かを失っていく。 きっとそれが人生なのだ。 落ち込んだって 仕方がない。 誰もがそうして歳を重ねていくものなのだ・・・。 * * * その日、私は受付のカウンター業務の担当だった。 朝から寒い玄関ホールに座っていなければいけないのだ。 足元には小さな ヒーターが置いてあるが、それでも寒くてひざ掛けを手放すことが出来ない。 もうすぐ10時半になろうという頃、せわしく、一人の男性が玄関ホールへ 駆け込んできた。 「あー、すいません。 10時半の約束なんです。 田所と申しますが、 製品管理部の小池部長お願いしますっ。」 ああ、この間のインドの時の・・・。 この季節にこれだけ陽に焼けていれば、 見間違うことはない。 先日の通訳の人だ。 「お待ちくださいませ。 ただいま、小池に連絡いたします」 そう言って、電話に手をかけて顔を上げると、カウンターに手をついた彼の 顔は思った以上に近くにあった。 「あ・・・!」 そう思ったのは二人同時だった。 けれど、電話の向こうでは小池部長の 声が聞こえる。 心を落ち着けて静かに言った。 「玄関ホールに田所さまがお見えです」
January 24, 2007
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ある日私は課長から呼び出された。 なんだろう。特に失敗もしていない。 まあ、褒められるようなことをした覚えもないが・・・。 「失礼します」 「あ、真山君。 ま、こっちに腰かけて。」 「はい・・・」 「いやね、突然だけど、きみ、事務の仕事に興味ない?」 「は?」 課長の話はこうだった。 受付には4月になれば新人が配属される。 そうなれば私のようなものは総務課に入り、新人教育にまわって欲しいと いうのだ。 つまりは受付嬢をやめないかってことなのだ。 確かに30を 過ぎた受付嬢よりも入社したての若い子のほうがいいに決まっている。 私だって、いつかこんな日が来ることくらい、承知していなかった訳じゃない。 けれど、実際に言われてみると、そのショックは思った以上に大きかった。 まるで自分が女として終わったように思われた。 ここまで来ると雪乃の 慰めも、足のマッサージも何の効き目もない。 人は大きなショックを受けると 笑うのだ。 この日、私は初めてそれを実感した。 控え室に戻って、仲間が、 「真山さん、課長、何だって?」 そんな質問を興味本位でぶつけてくる。 私は、何も言えずに顔だけでなく「ははは・・・」と乾いた声に出して笑った。 きっと、変な顔だった。 顔のどこかが引きつっていたに違いない。 「お母さん、お風呂わいてる?」 「わいてるけど・・・ご飯より先にお風呂に入るの? 珍しいね」 私は部屋に戻って服を脱ぎながらふと鏡を見た。 32歳、独身、結婚予定なし。 それが私の現実だ。 湯船に浸かって、「はぁ~」なんて声を出してみると、いかにも自分が歳を とって、オヤジくさい感じがした。 10年間かけて身に付いたゲスト用トークも、 もうなんの武器にもなりはしない。 そう考えてみると、自分にはこれから 仕事を続けていく何のスキルもないことを認識して、情けなくて涙がでた。 拭っても拭っても止まらない涙をまっていたら、結局私は一時間以上も お風呂に入っていたようだ。 濡れた髪を拭きながら冷蔵庫に直行し、 冷えたビールを取り出した。 食卓にはテーブルの上にはハンバーグと サラダが置いてある。 缶ビールのプルトップを開けると、プシュっと いう音が、薄暗いキッチンに響いた。 時計を見ると、10時近い。 両親はすでに2階のベッドの上でテレビを見てる。 健康的な生活だ。 それが彼らの幸せなのだから、私は何も言うこともない。 テレビを つけようと、リビングのテーブルの上にあるリモコンに手を伸ばすと、 白い封筒が目に入った。宛名もなく、封が開いている。 手にとって 中をみると一枚の写真だった。 事務所らしい場所でまっすぐに正面を みて笑っている一人の男性。 だれだろう? 見たことがあるような気も するが、母の知り合いかもしれない。 私は写真を封筒にしまって、 テレビのスイッチを入れた。 画面の中では若手のお笑いタレントが ポーズを決めている。 最近人気のお笑いコンビだ。 めがねをかけた ほうの人がキュートで可愛い。 腕を振り回して踊る姿が目に入る、 けれど彼らの話は私の耳には入ってこなかった。 耳に・・・と いうより、 心が空っぽで何も受け付けようとはしなかったのだ。 私はテーブルに 頬杖をつき、ちびりちびりをビールをすすった。 静かな部屋の中では、 お笑いタレントの途切れることのないトークと湧き上がる観客の笑い声 だけが響いている。 それは遠い遠い世界の声のようで、シンと 冷えわたった部屋の中がとめどなく寂しげで私をより一層心細い気持ち にさせる。 不意にぽとりと涙がテーブルに落ちた。 この10年、私は いったい何をしていたんだろう。 そして、これからの10年私はいったい どんな風に暮らすのだろう・・・。
January 23, 2007
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「ちょっと、真山さん。 何よ、これ。 どうして、デパ地下のお菓子なのよ。 自分のうちで出すお茶菓子じゃないんだから。 和菓子といったら、 駅前の松風庵が常識でしょ。 あそこに行けば、季節にあわせて練きり も種類がたくさんあるのよ。 ああー、もういいわ。 私が行ってくるから。 ほんと役に立たないんだから・・・」 そう言って、黒いスーツ姿の主任は部屋から出て行った。 「すみません」を言う暇もなかった。 ただ、自分の不甲斐なさに愕然とした。 主任は、たぶん45歳は過ぎている。 結婚はしているが子どもはない。 彼女も昔は私たちのように受付嬢として働いていたのだが、本社の総務課 を経て、ここの受付の主任になった。 ここで一人だけ私服を許されている 存在だ。 私は彼女のようになるのだろうか。 いつかスーツを着て若い 受付嬢をしかりつけるようになるのだろうか。 想像をしてみようとしたが、 少しもその映像が浮かばなかった。 ただ自分の常識の甘さにショックを 受け、身体の力が抜けてしまった。 若い子達の視線が辛かった。 「佐緒里さん、大丈夫? さっきの主任の言ったこと気にしてるの? 元気だしてよ。 急だったんだから仕方がないよ。 主任の言い方 きついからねー。」 雪乃が慰めようとしてくれていることはありがたい。 けれど、今日 注意されたことは、32歳の私にとっては辛いことだ。 本当に私の 常識など、主任のそれに比べたらとるにならない。 結婚などしなくても 私には仕事がある、などと思っている自分が情けなくて仕方がない。 やっぱり私は生姜焼き定食なのだ。 いくつになっても天ぷらご膳の 松などにはなれないのだ。 11時前にはインド料理の店からカレーが運ばれてきた。 大きな鍋にヒヨコ豆のカレーが入っている。 私も雪乃も興味深々だ。 テーブルの上には取皿とスプーンを用意した。 でも、たぶんインドからの お客様はスプーンは使わない。 いつもなら、濡れタオルをお手拭に 用意するのだが、今日は紙ナプキンも必要だろう。 準備室いっぱいに カレーのスパイスのかおりが 立ち込めている。 コックは専用の平たい 鉄板を使って、チャパティと呼ばれる薄焼きのパンを焼いている。 小分けにしたピンポン玉ほどの大きさの生地を手早く伸ばして鉄板で焼く。 この作業の繰り返しだ。 インドからの一行は工場見学を済ませ、ゲストハウスにやってきた。 コックの作ったチャパティとヒヨコ豆のカレーがテーブルに並べられた。 無表情のインド人の顔が私たちに向けられる。 初めてではないが、 なぜかこの無表情の顔に未だ慣れない。 彼らはどうして笑わないの だろう。 食事の席では英語が飛び交っていた。 私も英語が話せない 訳ではないのに、どうしても彼らの英語が聞き取れず、ついつい通訳 の男性に頼ってしまう。 真っ黒に日焼けした通訳は、にっこりと笑う 口元の白い歯がやけに目立つ人で、彼がいるだけでなぜかその場が 和やかになった。 準備室では、コックがしょうがをつぶす音が響く。 専用のつぼにしょうがを入れて叩いてつぶす。 そして、それがチャイと 呼ばれるミルクティに入れられるのだ。 食事を済ませた一行は会議室へと移っていった。 雪乃とふたりで 片付けを始め、ほっとしてもいつものように元気が出ない。 彼女の話に 顔を緩めることがいつものように出来なかった。 * * * んがっ。 ・・・! んがって?! 私は自分のいびきで目が覚めた。 隣にいるのが雪乃でよかった。 いつものことだ。 彼女だってきっと眠ってる。 軽い寝息が聞こえるもの。 給料日のあとにはいつもふたりで来るリフレクソロジーの店だ。 45分 5000円。 決して安くはないが月に一度の贅沢だ。 それで癒される なら安いものだ。 それを今日は、雪乃が誘ってくれた。 私たちは 静かな音楽が流れる薄暗い部屋に通された。 大きなリラックスチェアが 並ぶその部屋はハーブの匂いで満ちていて、横になるだけでも癒される。 そこで、5分ほどの足温浴のあと、ハーブオイルでマッサージが施される。 ふくらはぎから足首へ、土踏まずから指先へ。 程よい力が心地よい。 「やっぱ、気持ちいいですよねー、足マッサージ、最高。 佐緒里さん、 寝てたね。 だっていびきかいてたもの。」 ああ、聞かれてた。 そう思いいながら、私は生ビールを一口喉に 流し込んだ。 こんな日には飲むに限る。 マッサージのあとの居酒屋。 こうやって私はこの何年かを過ごしてきた。 仲間と笑いながら。 きっと私は主任のようにはなれはしない。 私は私でしかなくっていいのだ と思う。 これからもずっと、こうして楽しくめげずにやっていきたいと 心から思うのだ。
January 22, 2007
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「佐緒里さん、お見合いはどうでした?」 月曜日、会うなり山口綾乃が訊いてきた。 同じ受付で働く仲間だ。 29歳で私と一番歳が近くて仲がいい。 今回のお見合いのことも、 知っているのは彼女だけだ。 「ふぅー。 私が生姜焼き定食で相手が天ぷらご膳の松。」 「えー、佐緒里さん、生姜焼き定食頼んだの? お見合いで?」 「ちょっ! 声、大きいよ。 頼んでないってば・・・」 「だって、今、私が生姜焼き定食で相手が天ぷらご膳って・・・」 「だから、価値観の話だってば。 相手は私のゲスト用トークが楽しかった んだって。 私は仕事の続きかと思ったよ。」 「そうなんですかぁ。 初お見合い、撃沈ですか。」 「やーね、変な言い方しないでよ・・・」 その時、控え室に入って来た主任が私たちのほうをチラリと見て、 咳払いをした。 私たちの控え室は8畳ほどの部屋で、ゲストハウスの 隣にある。 いすとテーブル、キッチンに電子レンジに冷蔵庫・・・。 お客様へのお茶の用意をするのもこの部屋だ。 今日は海外からの お客様と、本社の営業本部長たちのランチがある。 受付業務以外にも エプロンをかけてするような仕事もあるのだ。 「真山さんと山口さんは、今日はゲストハウスの仕事、お願いします。 インドからのお客様は午前中の工場見学を終わった後はランチだから。 ゲストと担当者を合わせて14人。 問題ないと思うけど、今日カレーを 頼んだのはいつもの店じゃなくて、専門店ののケータリングだから、 あとで、時間の確認をお願いね。 それから、本部長たちのランチは いつもの松花堂弁当ね。」 「はい。」 最近はアジアからのゲストも多い。 宗教上の理由からお出しする 食べ物には気を遣う。 いつものカレーランチミーティングの時に出すの とは訳が違う。 ベジタリアンのお客様の時は大変なのだ。 ランチの 時間をずらしてくるゲストもいるが、工場見学ともなればそんな短い時間 ではすまない。 今日は、横浜市内にあるインド料理の店からカレーが 運ばれてくる。 インドのコミュニティーは絆が強い。 ベジタリアンだ というと、快くケータリングを引き受けてくれた。 ランチの準備を進めていると、主任があわただしく部屋にに入って来た。 「ねぇ、今日の本部長のランチキャンセル。 午前中の予定がおして、 ランチには間に合わないって。 お茶菓子用意しなくっちゃ。 ね、真山さん、 ちょっと買ってきて欲しいの。 6人分。」 「はい。 分かりました。」 私は急いでエプロンを外して外出のしたくをした。 駅まで行けば デパートがある。 今から行けば時間は十分にある。 ここは地元ではないが、もう10年も通っている場所だ。 このデパートには なじみがある。 けれどデパ地下となれば話は別だ。 主婦でもないし、 デパ地下を歩き回ったことなどほとんどない。 私は食品街の一角に 和菓子の店をみつけ、ショーケースをのぞいて見た。 けれど、あるのは 串だんごやら大福やら、おはぎやら栗饅頭やら、いかにも庶民の茶菓子 といった感じだ。 はたしてこんなものを本部長に出せるだろうか? ふとみると、隣に小ぶりで品のいい饅頭がある。 これなら、お茶の席で 見たことがある感じだ。 私は選択の余地もなく、小さな饅頭を8個求めた。 ふいの人数変更にあわせて余分に買っておくのが常識だ。 しかし、私の常識など、帰った時点で打ち砕かれた。 主任が菓子を見るなり顔色を変えたのだ。
January 21, 2007
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うちに帰ると、リビングでは母がにやにやと笑いながら私の顔をみて 言った。 「どうだった? 真面目そうで素敵な方でしょ。 誠実だし健康そうだし、 あんな方と結婚したら将来安泰。 ねぇ、佐緒里ちゃん、そろそろ 決めちゃえば?」 はぁ? そんなに簡単に結婚って決めるものなのか。 今日のお見合い といったら、スタンダードの王道を行っていた。 レストランに入ってから は相手の仕事について質問した。 彼は、自分の働く総務部の仕事の 流れから、ご丁寧に隣の席の事務員の名前まで教えてくれた。 私は ため息を漏らすこともなく、つつがなく彼の説明を最後まで聞くことが できた。 そして、高校の時に、県大会の準決勝まで行ったという彼の 特技であるテニス(あれは特技っていうのか?)の話も十分に聞いた。 そして、食事のあと、散歩をして、喫茶店でコーヒーを飲み終わった ところで、私の胸の赤いボタンがピコンピコンと点滅した。 ため息が 出る・・・もう限界だ・・・ 上手くいくはずがない。 これで結婚を決める人などいる訳がない。 たった、3,4時間一緒に過ごしただけで、相手のいったい何が分かると 言うのだ。 そして、その時電話がなった。 「はい。 真山でございます。 あ、こんばんは。 今日は佐緒里が お世話になりまして・・・。 はい、あ、はい・・・」 おばさんからの電話だった。 お見合いの出来と結果を知らせる 電話は、おばさんの一方的な話が続いているようだった。 母はほとんど 「はい」しか言っていない。 だからどうなの。 「はい」だけじゃあ、私に その内容はいっこうに伝わらないではないか。 「佐緒里ちゃん、よかったわねー。 先方はすごく楽しかったんですって、 ぜひ結婚を前提に付き合ってほしいって。」 な、なぬ~~~。 結婚を前提にだとー? あのお見合いのいったい どこが楽しかったというのだ。 私の頭の中には会社の彼の隣の席の 事務員が「佐藤さちこ」って名前だってことと、高校時代のテニスの 県大会の準決勝で負けたのは試合中に解けた靴紐が原因だったと 言う話しか残ってない。 彼はそんな話を私に聞いてもらうために、 付き合うとでも言うのだろうか。 そうか、私にとっての生姜焼き定食は、 彼にとっては天ぷら屋さんの『松』なのか? ひとつひとつ揚げたての 天ぷらに説明を添えて運ばれる。「お客様、こちらは大葉の天ぷらで ございます。 こちらはまいたけの天ぷらでございます。 こちらが えびで、こちらがきすで、こちらがぎんなんで・・・」。 ああ、結局彼は 私とは全く違う世界に生きる人なのだ。 私は激しく落ち込んだ。 私の性格のせいだ。 私の仕事のせいだ。 どうして、私はいつだってこんな風に気を遣って相手に話を合わせて しまうんだろう。 私が望む結婚の形ってそんなんじゃない。 気を 遣わずに、お互いを自然に受け入れられる人と一緒にいたい。 学歴 や勤め先や顔だって体型だって問題じゃあない。 私は高望みでも しているだろうか。 結局、今回のお話はお断りさせていただくことにした。 母は渋い顔 をしたが、こういうことは早めのほうがいい。 翌日、何とか理由を くっつけて、丁寧に断ってくれた。 「あんた、食事のあと散歩して、喫茶店まで行ったの?」 突然母が私に訊いてきた。 「うん。 行った。」 「普通、食事のあとまでついて行ったら、OKですっていう意味なん だってよ。」 そんなこと初めて聞いた。 私は天ぷらご膳の『松』にデザートまで つけて彼の前に運んでしまった。 私の落ち込みはとどまる事を知らな かった。
January 20, 2007
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初めての経験だ。 話には聞いているが、まさか自分が経験するとは 思わなかった。 「お見合い」 なんだかその文字にはずい分と古めかしい響きがある。 自分のまわりに お見合い結婚をしたという人がいない訳ではない。 ただし、同期の中には いないだろうし、いるとしたら私よりもずい分年齢が上の人だろう。 それ なのに、よりにもよって、私のところにお見合いの話が舞い込んできて しまった。 確かに私は32歳にもなって結婚の予定はないし、それどころか 彼氏すらいない。 だけど、私にはいつか彼氏が見つかるだろうし、結婚 だってするだろう。 そうでなかったとしたって、私には仕事がある。 某電気メーカーの受付をしているのだ。 たとえそれが電気会社の工場だと したって、受付の制服は本社のそれと同じだし、みんなの憧れの的である ことには変わりはない。 ただ、私が受付嬢と呼ばれるには、少しだけ年齢 が高いだけにすぎない。 お見合いとは、流行も廃れもなく、スタンダードを崩さない。 初めての お見合いで私はそれを知った。 親類のおばさんに連れられて行ったのは、 横浜のホテルのティールームだった。 「そそうのないようにね」なんて、 いつの時代かわからないような注意の言葉もドラマの中だけの話では なかった。 私たちが着くと、すでに相手は、やはり紹介の女性に随えて 窓際の席に腰かけていた。 私たちが近づくと、愛想のいい女性とは 対照的に、無表情の男性がこちらに顔を向けた。 なるほど、確かに写真 と同じ顔だ。 にこりともしないところが写真そのままだ。 おばさんは 遅れたことを言い訳がましく詫びている。 約束の時間に遅れたって訳 でもないのに。 まあ、そんなことはどうだっていい。 とにかく私たちは 席についてコーヒーを注文した。 なぜだかおばさんは私に訊きもせずに、 「こちら様と同じものを・・・」 なんて言った。 まるでドラマの世界じゃないか。 お見合いスタンダード。 次はいったい何だろう。 趣味を訊いて、欲しい 子どもの数でもきくんだろうか。 運ばれてきたコーヒーをお行儀よくすすりながら、私は何も話さなかった。 そう、何も話さない。 相手の付き添いの女性と私の親類のおばさんが、 まるで井戸端会議でもしているように私たちふたりのプロフィールを説明 している。 相手の男性も表情を変えずにまるで、プレゼンの説明を聞いて いるかのように小さくうなづき、コーヒーをすする。 某有名大学卒、某有名 建設会社勤務、身長171センチ。 趣味は映画鑑賞で特技はテニス。 おいおい、そんなことは、わざわざ説明しなくても、ここへ来る前に履歴書 を拝見させていただきました・・・なんて言えるはずもなく、私は黙って笑って 聞いていた。 ああ、ため息が出てしまう、と思ったちょうどその時、相手の付き添いの 女性が言った。 「じゃ、あとはお若いお二人で・・・」 でたー! 超スタンダード! これぞお見合いの生姜定食ですわ!? そうして、私たちはふたりでおいてきぼりにされてしまった。 「どうしましょう。 これから何か予定は考えていらっしゃいましたか?」 「あ・・・いえ」 あっそ・・・。 「そうですか。 それじゃ、元町か中華街のほうでも歩いてみませんか。」 「あ・・・はい」 りょーかい。 JRの切符を買って(私が買った)彼に渡すと、小さく頭を下げて切符を 受け取った。 にこりと笑って歩き始めると、そのあとを子犬のように ついてくる。 生姜定食はどんなだったっけ? 生姜焼きに野菜を添えて、 白いご飯とお味噌汁。 お新香がつけば上等か? 私は、そんなことを 考えながら、スタンダードで楽しいお見合いを続けた。 「お腹、空いてませんか? 元町だったら、イタリアンかフレンチの店が 多いんですけど、中華がお好きなら中華街へ・・・」 「あ・・・どちらでも」 あっそ・・・。 「じゃ、近くの店に入りましょうか。 あそこの店、ローストビーフが 美味しいって有名なんですよ」 「あ、はい」 お見合いってこんなものかな。 きっと、そそうはしなかったはずだ。 ゲストを気持ちよく送り出すように、私の初めてのお見合いは終わった。
January 19, 2007
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「あったかい・・・」 尚之の体温がマコに伝わるはずもないのに、彼女はそう言った。 たった 一時間前にコンビニで出合って、一緒に冷たい風を切ってここまでやって きた。 大型トラックの多い16号線を走っている時も、カーブの続く道を 走った時も、マコは尚之に身をまかせていた。 そんなマコを抱きしめて みると、ダウンの中の彼女の身体がピタリと尚之の身体にそって張り付く 感じが伝わった。 「おかしいね。 主人にはこんなこと言えないのに、今日初めて会った ナオくんにはこんなことを頼めるなんて。」 「どうして言えないの? 夫婦なのに。」 「私、どうしていえないんだろう。 夫婦なのに・・・。」 尚之には理解できない話だった。 夫婦ってそんなものなんだろうか。 自分が今までしてきた恋のゲームの話じゃない。 ただ何となく寝た女の 話じゃない。 夫婦の愛ってなんだろう。 我慢する愛ってなんだろう。 そんなことにいったいどんな意味があるのだろうか。 そして、夫婦間で 満たされない心の奥の寂しさが他人によって癒されるとしたら、それが 愛でなくて、いったいなんと呼ぶのだろう。 「もう帰らなくちゃ・・・。」 「このまま、あのコンビニまで?」 「そう、私たちが初めて会ったコンビニまで。」 「それで、終わり? 他に僕に望むことは何かないですか?」 マコは足元に置いてあったコーヒーの空き缶を拾い上げて 立ち上がり、しばらく何もいわずに空を見上げていた。 尚之は不思議な 気持ちでその姿を見つめた。 穏やかな笑みを口元にたたえているマコの 横顔は、尚之には幸せな妻の顔に見えて、どうしてもその向こう側の顔を 見ることができない。 もっと知りたい。 彼女の心の中をもっと深く。 こんど会うことがあったら、もっと強く抱きしめたい。 そしてもっと・・・。 「お金、今、渡したほうがいい?」 尚之のほうへ向き直ったマコが訊いた。 「え、お金ですか・・・いや、さよならを言う時で・・・。」 「了解。」 そしてマコは初めて会ったときと同じように、小さな白い手に黒皮の手袋を はめ、ヘルメットをかぶってスクーターにまたがった。 * * * 尚之が気がついたのは、病院の白いベッドの上だった。 尚之の右足 には白い包帯が巻かれて動かすことができなかった。 次第にはっきり する頭に事故のことが思い出される。 淵野辺の交差点。 もうじきマコと 初めてあったコンビニ・・・という場所だった。 青信号をみて直進したにも 関わらす、交差点に差し掛かったところで、右に小型トラックの影が目に 入った。 「やばい」そう思った時には後部に強い衝撃をうけてスクーターは 倒れ、大きな弧を描きながら回転し、歩道の段差にぶつかって止まった。 激しい鼓動と膝の痛み。 何度か大きく息を吸い込んでから、尚之は ゆっくりと右足をスクーターの下から引きずり出した。 身体を起こして マコの姿を探すと、自分よりも数メートル後方でマコが横たわっていた。 横たわるマコの胸はダウンの上からもわかるほど大きく上下しているのが 見え、その口は弱ったコイのようにパクパクと宙の空気を吸おうとしていた。 * * * 尚之の怪我は膝蓋骨の骨折だった。 手術のあと、腫れが引いたら 退院して自宅に戻れると言われた。 その間に何度か看護師にマコの 容態を訊いてみたが、看護師の表情は一様に堅かった。 マコという 名前は本当の名前ではないだろうし、尚之が心配しなくても、彼女の ところには夫が駆けつけているに違いない。 そして彼女が言わなくても、 夫はマコを抱きしめて、彼女は幸せそうに笑うのだろう。 数日後、母親に代わって父親が尚之の病室を訪ねてやってきた。 事故は小型トラックの飲酒運転と信号無視が原因だったと伝えられた。 警察から連絡をもらった尚之の父親は事故の状況を聞いてだいたいの ことは知っているに違いない。 けれど、歳の離れたマコがどんな女性 なのか、そして、どんな関係なのかということを口にすることは一度も なかった。 退院の日、若い看護師にもう一度マコのことを訊ねてみた。 「あの・・・僕と一緒に運ばれてきた人、もう退院しましたか?」 「え? あ・・・ああ、退院・・・してませんよ。」 彼女は、まだこの病院のどこかで夫に付き添われて微笑んでいる。 きっと、何度も抱きしめてもらったかもしれない。 そう考えずには いられない、と尚之は思った。 そうでなかったら、すぐにでも駆けつけて 自分が抱きしめてあげたいと思えたから。 彼女が望むなら何度だって・・・。 ほんの数時間一緒に過ごしただけなのに、自分時間を買うと言った人 なのに。 自分がこんな気持ちになるのはなぜなんだろう。 そして人は こんな尚之の気持ちをなんと呼ぶのだろう。 「そうですか・・・。 ありがとうございました。」 「お大事にね。」 尚之は、あの日コンビニで、初めてガラスの向こうで微笑んだ彼女の 顔を思い出そうとした。 なのにどうしてもそうすることができない。 そして何故だか空を見上げる横顔の、穏やかな口元だけが思い出された。 もう一度だけマコさんに会いたい・・・尚之はそう思って、溢れた涙を 何度も何度もぬぐいながら青い空を見上げた。 ************************** 今回は今までで最長のお話になってしまいました。 最後までお付き合いくださって本当にありがとうござさす。 本年もどうぞ宜しくお願いいたします。 **************************
January 4, 2007
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尚之がスクーターのエンジンを止めると、真夜中の駐車場はしんと 静まり返った。 時計を見るとまもなく午前1時になろうとしている。 「寒いでしょ。」 「そうね。 ちょっと寒いかな・・・。」 「いま、あっかいもの買ってきます。」 そう言って尚之は自販機のほうへ歩き出した。 缶コーヒーのボタンを 押してマコのほうを振り返ると、黒皮の手袋をはずして口元で両手を すり合わせる彼女の姿が見えた。 「お待たせ。 向こうにベンチがあるから・・・。」 熱いくらいのコーヒーの缶をマコに手渡すと、彼女は大事そうに両手で 包み込んだ。 尚之は、マコに少しだけ先立って公園の中へと進んだ。 今年の冬は例年に比べると暖かいと言われている。 それでも一時間 近くもスクーターで走ってきたのだ。 身体の芯まで冷たい風は吹き 抜けて、すっかり二人の体温を奪っていた。 湖の見渡せるテラスに 置かれたベンチに尚之が腰をおろすと、その隣にマコも座った。 「マコさん・・・大丈夫?」 「大丈夫よ、これくらい。 私、そんなにやわじゃないのよ。」 缶のプルトップをカチリと開けて、ふたりはしばらく黙ったまま缶コーヒーを 口に運んだ。 「あー、少し暖まった。 あまりにも寒くて、顔がしわだらけになっちゃう かと思った。 やーね、年取るとお肌がカサカサになっちゃうよ。」 「スクーターの乗り心地はどうでしたか?」 「うん、悪くなかった。 バイクよりずっと身体が楽。 一時間近くも乗って いたのに腰も痛くならない。 それに、こんなすてきな場所に連れて きてもらえたし。 なんか、すごく空、広いねー。 星もいっぱい・・・。」 「そうでしょ。 よかった。 ぼくはひとりで時々ここに来るんです。 落ち込んだり、一人になりたい時。 とにかく、お客様に喜んでもらえて よかったです。」 「やだな。 そんな言い方しないでよ。 ナオくん、ってこんなふうなこと よくするの?」 「まさか! 初めてですよ。 お金を払うっていったマコさんに、僕のほうが びっくりです。」 「そうかもね。 私自身もね。 こんなこともあるのかな・・・って。 ははは。」 可笑しそうに声をあげて笑うマコの目元にしわがよる。 「マコさんっていくつですか?」 「すごーい、直球。」 「あ、すいません・・・」 「いいよ。 私・・・35歳。 びっくりでしょ?」 「いえ・・・もっと若いかと思った。」 「ありがと。 お世辞でもうれしいわ。」 尚之は改めて、隣に座るマコの顔を見た。 缶コーヒーを傾ける彼女の 横顔は尚之がよく知る女子大生のそれとは明らかに違う。 口元や肌の ハリは失われつつあり、化粧の薄い目元ときれいに弧を描く眉は母を 思い出させた。 「あの、質問していいですか?」 「なに?」 「こんな時間に、大学生にお金を払って、こんな場所までくる・・・っていう その理由、聞いてもいいですか? ご主人はうちにいないんですか?」 「うん・・・。そうね、ナオくんには不思議でしょう? こんなことしてたら、 普通は主人の浮気とか家庭不和とか欲求不満とか・・・そんなことを 想像するんでしょうね。」 「ええ、まあ・・・。」 「きわめて普通よ、主人とは。 ただ、彼は忙しいから、うちにいる時間は 短いわね。 でも、だからと言って、愛してないわけでも愛されてない わけでもないの。」 「じゃあ、どうして?」 「ナオくんは人を愛したことってある?」 「愛・・・ですか? どうかな。 好きになることはありますよ。 で、彼女の ことばかり考えて・・・。 好きで好きで、彼女の姿を見かける度に頭の 中では押し倒しちゃってます。 ははは。」 「ふふふ。 ナオくんは本当にストレートなんだね。 今の子はみんな そうなのかな。」 「・・・ですかね。」 「若い時って誰かに恋して、好きになって一緒にいたくて、抱きしめたくて、 キスしたくて・・・。 でしょ?」 「そうですね。」 「でも、結婚するとそうじゃなくなるのよ。」 「好きじゃなくなるってことですか?」 「ううん。 そうじゃなくて・・・。 たとえば、お姉さんや妹さんのことを愛して いるかと聞かれて、愛しています、と答える人は少ないと思うの。 でもね、 間違いなく愛しているのよ。 夫婦もそう。 どんなに言い争いをしても、 一緒にいる時間が少なくてもそれを乗り越えられる、そんな愛。」 「それって、愛・・・ですか。」 「・・・と私は思う。 でも、やっぱり時々自信をなくしちゃうのよ。 それは やはり愛じゃなくて、あきらめなんじゃないかって。」 恋は突然始まって、知らぬうちに大きくなってしまうもの。 時として 自己中心に求める気持ちばかりが先に立ってしまうことがある。 今まで であった女の子達がそうであることが多かったし、尚之自身もそうであったと いわざるをえない。 しかし、愛はどうだろう。 ゆっくり始まって、相手を知り、 寄り添って育むもの。 青い海にゆっくりと身を沈め、深い海底をゆくような もの。 時として深海で自分居場所を見失う時だってあるかもしれない。 「寂しいの?」 マコが尚之の顔を見て笑い、両手を自分の腕に絡めて擦った。 「寒いですか?」 「そうね、少し。」 尚之はマコの肩をつかんで引き寄せた。 「ナオくんにお願いがあるんだけど・・・。」 「なに?」 「強く抱きしめて欲しいの。」
January 3, 2007
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彼女が指定したのは16号線沿いのコンビニで、指定の時間は 午前0時。 相模大野を過ぎた辺りにあるそのコンビニにはイートイン のスペースがあるという。 16号線と聞いて、尚之の心の中に 浮かんだ行き先はそこからそう遠くはなかった。 尚之がその店に着いたのは指定の期間よりも少しだけ早かった。 店の中にはコンビニの店員が二人。 客は尚之がひとり。 しかし、 大通りに面しているこの店は、自分がバイトをしている雰囲気とは 全く違う。 町田の小さな駅の側にある尚之の働くコンビニのほうが 夜中の様子はもっと寂しい。 終電の終わったあとは、まるで祭りが 終わったあとの神社のようで、静まり返った住宅地へ続く車道にも 車は少なく、人の消えた廃墟のようにも感じられた。 尚之は雑誌を 手にとり、パラパラとページをめくる。 ガラスの向こうを通る大型 トラックが時折地面を揺らした。 ショートカットのその人は、ガラスの向こうで尚之をまっすぐに 見つめて歩いてきた。白いダウンジャケットにジーンズ。 首には 鮮やかなターコイズブルーのマフラーを巻いている。 両手を ポケットに入れたまま。 彼女はガラスの向こうで尚之の前に立ち、 少しだけ笑った。 そして、店に入ってくると店内をゆっくりと見回して から尚之に近づいてきた。 彼女をまっすぐに見つめて尚之は言った。 「お買い上げありがとうございます。」 そして、彼女は小さく噴出して 笑った。 口元を押さえる手が妙に白くて小さかった。 スクーターの横に立つ彼女が、斜めにかけたバッグの中から取り 出した黒皮の手袋をはめている。 「僕はあなたのことをなんて呼べばいいんでしょうか。」 「そうね・・・。 マコって呼んでもらおうかな。」 「まさか、魔女の子どもと書いてマコ?」 「そう・・・かもね。」 彼女の笑い顔は、尚之が思っていた以上に若かった。 「ナオ・・・くん、だっけ。 そう呼んでいい?」 「はい。 いいです。」 「で、ナオくん、私をどこへ連れて行ってくれるの?」 「さあ、どこでしょう。 そう遠くはないですよ。 とにかく静かで、星の きれいに見える場所ですよ。 楽しみにしていてください。」 「了解。」 「スクーター、乗ったことありますか?」 「ふつうのバイクなら・・・かなり若いときにね。」 「バイクよりは乗り心地いいと思いますよ。 ここか、この辺につかまって 適当にくつろいで乗っていたください。」 尚之はスクーターのグリップと自分のムートンのジャケットの腰の辺りを 指差して言った。 「くつろぐ・・・ね。 うん、やってみる。」 そう言って、尚之が手渡したヘルメットをかぶりながら、マコは肩を すくめて見せた。 16号線を橋本方面へ。 しばらくはコンビニやファミレスが立ち並ぶ にぎやかな通りが続いた。 とっくに12時をまわっているというのに、 車の通りは少なくない。 しかし、413号線に向かって左折すると 通りに車は減り、静かな住宅地にスクーターの音だけが響いた。 頬を切る風が冷たい。 最初は緊張して、力を込めて尚之のジャケットを つかんでいたマコの手だったが、次第にリラックスした様子が背中に 感じられた。 カーブでも力が抜けている。 尚之も初めて乗せるマコ の存在を自然に受け入れた。 左手には貯水場が見えてきた。 目的地はここからはそう遠くない。 ゆるいカーブを何度か曲がって城山ダムの鉄橋を渡った。 眼下に 広がる津久井湖は60年代に城山ダムの完成によってできた人口湖だ。 冬の湖はたっぷりの水をたたえ、鏡のような水面が広がっていた。 そして、城山公園は津久井湖の周囲を巡る公園。 駐車場は夜に なるとしまってしまうが、管理人のいなくなったその場所に、一台の スクーターを止めることなど容易なことだ。 尚之は、入り口に立てて ある黒と黄色のコーンを避けて、右に広がるパーキングスペースに ゆっくりとスクーターを滑り込ませた。
January 2, 2007
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