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2012.09.06
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カテゴリ: 大正期・白樺派

『桐畑』里見とん(岩波文庫)

「いやどうも、みんな揃ひも揃つて、呆れた怠者だ」
と岩本が結論的に言つた。「怠者つたつて、本を読まないとか、書くことが少いとかいふ意味ぢやァない。その意味でなら僕なんぞは一番ひどいが、……なんて言つたらいいか、つまり緊張を欠いてる、とでも言ふのかな。何しろ会つてみて、こいつァ出来てるな、と思ふやうな人間は実に少いね。ふわふわッと育つて来たやうな人間ばかりだ。彼らの書くものがうまいと言つても、鋭いと言つても、機智に富んでると言つても、どんな才能でもが、みんな生れた時から享けて来てゐるものなんだ。さういふ自分のなかの美点を統一して、一個の人間として、えらさなり味はひなりを出してゐるやつは殆ど一人もないと言つていいな。つまり、人間として出来上らうとする勉強が足りないといふ意味での怠者なんだ。だから、世間からは悪党のやうに考へられてゐるやうだが、実はみんな無邪気なものさ。ほんとの意味での人格なんてものは、持ち合せてゐないんだから、何をしたところで、子供がしたことと同然、腹も立てられないといつたわけのものなんだ。あんな暢気な気持でゐる仲間からは、名人や上手は出るかも知れないが、決して達人は出ないね。もしこんなことをいつて聞かせたら、彼等の答は、それでいいんだ、と言ふにきまつてる。作者としてよくさへあれば、人間としてはいくらぐうたらでもかまはない、つていつた風な考へ方なんだから、どだい手がつけられないよ」


 里見とん、です。「とん」が漢字にならないのがとっても悲しいです。
 わたくし、こんなブログを書き出すまでそんなこと思ってもみなかったのですが、何かというと、白樺派っておもしろいな、何となく気持ちが落ち着くな、ということであります。
 ヘンな言い方になっちゃいましたが、この感覚はいったい何なのでしょうね。

 実は同じような感覚を持つことが、別に一例あるのですが、これはごく個人的な感覚だろうから、ちょっと書くのを逡巡するんですが、少しだけ書いてみますね。
 私の住んでいるのは、関西は阪神間といわれるところなのですが、隣の大阪府に行きますと、今でも西鶴さながらの猥雑且つエネルギッシュなエリアがあります。(とはいえ、もう長く続く不況のため、大阪もかなり疲弊しているようですが。)

 そんなエリアの一つに、少し言葉を選ぶのですが、文学作品に代弁を願って言いますと、開高健の『日本三文オペラ』、小松左京の『日本アパッチ族』の舞台にかつてなった地区がありまして、そのへんは今に至るもかなり「猥雑的」であります。

 ところがわたくし、そこに行くと、なんとなくほっとするんですね。
 何といいますか、心の中の「凝った」部分がゆっくり解されていくような感覚になります。それと、同じような感覚が、この白樺派に。

 ……えー、白樺派って、その理想主義的思想が、一種とぼけたような雰囲気を醸し出すところがありませんか。冒頭の一文は、本小説内に書かれてあるのですが、「岩本」という小説家が、仲間内の小説家達を批判する部分です。しかしこれは、まるでまるまる白樺派についてではないですか。
 そしてこの「公家集団」に、まー、もちろんいろいろ批判はありましょうが、わたくしは、育ちの良さをとっても感じるのでありました。

 さて、冒頭の本書ですが、そんな「公家集団」の一人の書いた、とてもユニークな小説であります。
 これは一種の実験小説なんでしょうかね。
 主人公を絞り込んで(三角関係の話で、二人の男と中に挟まれる女だけの話です。ただ、中に挟まれる女が、五人もいます)、実験的状況を作り出し、心理分析を行っています。

 ただ、その心理分析が、また何といいますか、とつても、ユニークなんですね。
 それは、そのユニークさの背景に、例の「まごころ哲学」があるからであります。

 以前私は、同作家の『多情仏心』というかなり長めの長編小説を読みましたが、そこには、話が長い分もう少し丁寧に書き込まれていましたが、本書でも「まごころ哲学」に関係して、例えばこんな風に書かれています。

「君の言ふのは、それァ恋ぢやァあるまい。当時流行の『愛』ぢやァないのかい。それなら、僕だつて同時に幾人もを愛することが出来るよ。併し『恋』と『愛』とはまるで違ふからなァ。……おきぬの問題だつてさうさ。君が今のおきぬを愛するといふのなら、それァ僕だつて承認するが、恋すると言ふのは、どうも受け取れない」
 「ところが、有難いことには、僕の気持では、愛するといふことと、恋するといふことと、さう大して変りはなくなつて来たんだ。早い話が、可愛いんだ。可愛いなァ、と思つた女は、その時からもう僕に恋されてゐるんだ。だから、相手がなんであらうと、僕は躰ごと所有したい欲望を感じるよ」


 なんか高校生の会話みたいですね。でもこういう論理って、今読むと何となくこころが解されませんか?
 それは、お前の感じ方の根本に、かなり問題があるのだと言われれば、確かにそうなのかなと考えもします。
 しかし、まー、これは哲学思想書ではなく小説でありますゆえ、で万人に理解していただければと、私はこっそりと思うのでありました。


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Last updated  2012.09.06 06:54:07
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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