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「で、エルンスト・レーナーって何者?」寮の談話室の一角に陣取り、ルビィにドロシーがサマンサに何を教えたのか聞いてからのことを説明すると、早速ウィルは疑問を口にした。何となく予想は付いていたけど・・・。 「あの絵になった魔法使いよ。わたしが拾った額の破片にその名前が掘られていたの。たぶん間違いないと思うけど、さっきビンズ先生が言っていた書物から削除された魔術ってのが、人間を絵に変える魔法なんだわ。だからダンブルドア先生も詳しく話してくれなかったのよ」 確かに、そう考えれば納得がいく。おそらく、いや疑いなくそうなのだろう。しかし・・・。 「だとすると、またしても線が切れてしまうね。今度は禁じられた魔法を調べなきゃなんない」 「どんな魔法だったのかな? 妖精の魔法とか?」杖を取り出しながらルビィが言ってみるがキャロルは首を横に振った。 「レーナーはホグワーツの魔法薬学の教授を経て画家になってるのよ、きっと魔法薬だと思うわ。自分の得意分野でもなきゃ、新しい魔法なんて作れっこないもの」 「図書館で探してみるしかないな。削除された、とは言え全部完全に消せたとは限らない。消し忘れた本がないか探してみよう。キーワードはエルンスト・レーナーと絵。雲をつかむような話だけど、それしか手がない」 もちろん、ダンブルドアやドライロットに事情を話して調べてもらう、というのも選択肢にはあった。 そのことを初めに口にしたのはルビィだった。彼女にしては鋭い指摘というとこだけど、ウィルとしてはここまできた以上最後まで自分の手でやりたいという思いがあった、それでも人の命がかかっているのだからと妥協しかけたとき、キャロルの一言が全てを決めた。 「ただの事故ならそれでいいけど。犯罪だったら・・・」核心に迫る前に犯人に手を打たれて証拠を隠されるかも知れない。ドライロットが呪いに捕まり、全てが闇に葬られると安心している今だからこそ、突破口も開けるだろう。というのだ。 「ただの事故にしては、母親の錯乱ぶりが激しすぎると思うの。20年たっても正気に戻っていないってのも引っかかるし」 そんなわけで、可能な限り三人だけでことを進めよう、というのがキャロルの提案だ。 翌日から、三人の行動範囲は驚くほど狭まった。 学校全域から図書室一カ所へ。ただし、調べるべき対象は数千倍に増大した。今まではせいぜい数千枚の絵だったのが、今度は数十、数百万の書物になるのだ。 1746年前後、魔法薬に関する書物。 「年代がわかってるのだけが唯一の救いね」 『太古の魔法に関する一考察』、『古の偉大なる魔法使い達』、『12世紀の錬金術史』といった本を脇に避けながら、本棚をくまなく調べ始めるキャロル。ルビィは図書室の端で司書のマダム・ビンズを相手になにかを話している。 「あなたは、もう一度サマンサの日記を確認してみて。『誰』に会いたかったのかを知る必要があるわ」手伝おうと本棚に近づこうとしたウィルを見て、キャロルは声を潜めた。 キャロルの目はウィルと本棚の中間辺りを見ている、ウィルはそれだけで全てを悟った。 気づいたと知られないよう、振り向いたりしないよう気をつけながらウィルは図書室を出た。
November 30, 2005
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魔法史の教室へ行くと、ルビーがすでに来ていて期待いっぱいの目を二人に向けてきた。ウィルもキャロルも無言で席に着いたので、ルビーも状況を理解したらしく声をかけては来なかった。 二人が席に着くと、ほとんど同時にビンズ先生が黒板を通り抜けて教室へと入ってきた。授業時間ぎりぎりだったのだ。 いつものように退屈な授業が始まり、ウィルが本格的に眠りかけたところで終わった。 「待ってください、ビンズ先生。一つ質問があります」半分以上眠りかけていた頭を、首を振って起こしながら生徒が帰り支度を始める中、意を決したキャロルの声が黒板の中に消えかけたビンズ先生を呼び戻した。 「なんですかな?」長い教師生活の中にあっても、質問されるというのは希有なことだったのだろう、亀のような顔に戸惑いを浮かべてビンズ先生が戻ってきた。 「エルンスト・レーナー、という人をご存じでしょうか?」キャロルには珍しい、前後の脈略のない、唐突な質問だった。 「あの、授業には関わりないんですけど」 申し訳なさそうに付け加えたキャロルだが、意外にもビンズ先生はキャロルの席まで移動し、教科書を指し示した。 「258ページを開いて見てください」 言われるままにキャロルがページを繰る、ウィルもまだ出したままだった教科書を開いてみた。 16世紀に活躍した主な魔女・魔法使い。というページにその名前はあった。 「エルンスト・レーナー。ホグワーツ魔法魔術学校魔法薬学教授を経て魔法画家となる。1746年、第二百四十二回魔法魔術功労者大賞・選考会特別賞を受賞。その対象となった魔術により、たくさんの魔女、魔法使いが危険な思想に取り付かれたためその翌年魔法省によって使用を禁止され、あらゆる書物からその魔術そのものについての記述が削除されました。その後、魔法省内部に現在も存在する実験的魔法動物管理局の母体となった新魔法開発・使用調査室が設立されるきっかけとなった事件でもありました。どんな魔術だったのかは、わたしにもわかりませんが・・・よろしいですかな?」 あまりに簡単に答えが出たので驚いているキャロルがかろうじてうなずくと、ビンズ先生は床を抜けて教室を出ていった。 「あのね・・・」不審そうな顔をしていたのだろう、ウィルとルビィの顔を見たキャロルが何か言いかけた。が、それをウィルが手で制して目配せする。 ウィルの視線の先には、わざとゆっくり帰り支度をするスリザリン生の姿があった。例のミリセント・ブロストロードの姿もある。 聞かれたからといって困るというわけではないとも思うが、広間での事件を考えるとどんな嫌がらせがあるか知れたものではない。 よけいな情報はできるだけ与えないほうが賢明と言うものだろう。
November 29, 2005
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「夢見るドロシー」だ。 「ドロシー、いや、ドリー。僕と同じ目をした女の子。サマンサ・サンディスについて、知ってることを全部話してくれ」 そうは言ったものの、考えてみたらこの子が口を訊いているのを見たことがない。ただ、ドリーと呼ばれたときとサマンサの名前を出したときの反応はウィルの推測を肯定していた。 ドリーが彼女なのは間違いない、問題は彼女がサマンサに何を教えたか、だ。 「あの人とやらに会う方法を教えたはずだ。何を教えたんだい?」全身を冷気が包むのもかまわず、ウィルはドロシーに詰め寄った。 ドライロットが見つけられなかったものを見つけた、解決の糸口が目の前にある、その事実がウィルを熱くさせているのだ。 「・・・・地下牢教室、廊下奥の絵」聞き取れないほど小さな声が、歌を口ずさむようにそれだけを告げ、ドロシーは霞むようにして消えた。 同時に、ウィルも動いていた。核心に迫っている。長く停滞していたものが動き出している。その実感が体を衝き動かしていた。 脇を擦り抜けようとしたとき、ペネロピーの腕がウィルの襟元に伸びかけたが、その手はなぜかルビィのローブをつかみ、呼び止めようとした声はルビィの目一杯大きな声で遮られた。 「ごめんなさい! ごめんなさい!!」必死に謝るルビィ、だが、その手は彼女の後ろでウィルとキャロルに今のうちに行け、といっていた。 なるべく近づかないようにしていた場所だと言うのに、今回ばかりは一発でたどり着けた。 昼なを暗い地下牢の廊下、一番手前が魔法薬学の教室、奥の部屋がスネイプ教授の研究室兼魔法薬の材料の保管場所になっている。 だから、教室より奥にはだれ一人として行ったことがない。おそらくはウィーズリーの双子でさえ、あまり近づいたりはしていないだろう。そこへ今、ウィルとキャロルは足を踏み入れた。 「ルーモス、光よ」ウィルとキャロル、二人同時に杖を出し覚えたての呪文を唱えた。二人のたどたどしい呪文に比例してか、杖先に頼りないくらい小さな明かりが点る。 逸る気持ちを押さえ、その杖先をゆっくりと壁に向けた。 夜の闇よりも深そうな暗がり、誰の目にも付くことのない廊下の行き止まり、確かに絵はあった。そう、あった。「ある」ではなく「あった」。ウィルとキャロルが小さな明かりの中に見たもの、それは長い年月放置されたために風化し紙屑と化した絵の亡骸だけだったのだ。 「これって・・・」疑いようもない事実を前に、キャロルがなんとか言葉を探そうとするが無駄だった。彼女の目の前でウィルは完全に呆然自失の態で立ち竦んでいる。 せっかく開けたはずの真実への道が、再び閉じられてしまった。しかも今回は何の手がかりもない。 「我輩の研究室に何の御用ですかな?」 ただでさえくらい場所、暗い気分の時に、暗い声が背後からかけられた。石化してるんじゃないかと思うほど硬直していたウィルの体が激しく反応しながら、努めて振り返らないようにとしているのがわかる。 別段やましいことなどないと言うのに、この声の主を前にすると何か後ろめたい気分になってしまう。 「あ、あの、先生の部屋に来たわけではなくて、この壁にかかっていた絵に用があったんです」キャロルも、その例外ではいられないようで、妙に上擦った声で釈明を始めた。 が、その声は言葉の後半で突然普通に戻り、最後には何かうれしそうな声音に変わった。 スネイプ教授のすぐ後ろに、別の人影があった。教授の肩ぐらいの背に白い髭と丸い眼鏡。 「ダンブルドア先生」 喜色に輝く声がキャロル越しに当人に向けられた。ウィルもダンブルドアがいることに気がついたのだ。 キラキラッとした目が二人を見つめている。 「奇遇じゃな、わしらもここの絵に用があったのじゃよ」 ダンブルドアの持つ杖の明かりが、壁を照らし出した。風化してぼろぼろにひび割れたキャンバス、カビと埃で変色した額、絵がかかってた跡が残るだけの壁。全てが、ここにあった絵がもはや紙屑と木片以外の何ものでもないことを告げている。 「ふむ。確かに、もはや何ものでもない【もの】となっとる。セブルス、知らせてくれてありがとう。あとはわしがやっておくよ」校長の言葉を受け、スネイプ教授は無言のまま踵を返した。 「この絵は元はれっきとした魔法使いじゃった。魔法の絵を描くものとしてはかなり有名な画家だったのじゃよ。ところが、自分の書いた絵に恋をしてな。自分自身すら絵にしてしまったのじゃ。じゃがその相手は火事で消失、彼だけが助かった。以来、死にたがってのう。再三再四修復しようとしたが頑として受けつけんかった。そしてついに、希望通り死ねたというわけじゃな」 絵の残骸を小さな丸眼鏡越しにしげしげと見つめながら、ダンブルドアが話してくれたこと。それが、恐らくはウィル達が訊きたかったことにも通じているに違いない。 サマンサの日記、狂気に侵された母親のうわ言、ドリーがサマンサに教えたこと。それらが今、一本の線としてつながりかけている。 「あの・・・人間が絵に、なんてなれるものなんですか? いったい、どうすればそんなことが?」キャロルにも、その線が見えたらしい。微かに震える声がダンブルドアに尋ねる。 「魔法は万能ではない。じゃが、人が強く何かを望むとき、奇跡が起こる。彼は奇跡を起こしたのじゃ、どうやってかは本人にもわからんかもしれんて」いつもの、陽光が踊るような瞳にウィルたちを写し、ダンブルドアは微笑んだ。 どんな望みも、本気で望むなら叶えられる可能性がある。たぶん、そう言うことを言いたかったのだろう。だが、ウィル達にしてみると、これ以上の詮索はするな、といわれたような気がしてしまうのは否めなかった。 「さて、この亡骸を葬ってやらねば。破片を集めるのを手伝ってくれんか?」 しゃがみ込み、持っていた小さな袋にダンブルドアは破片を入れ始めた。ウィルとキャロルがうなだれながらも手伝う。 「なにかね?」粗方集め終えたところで、キャロルが小さな破片を手に取り、熱心に見入っているのに気づいてダンブルドアが声をかけた。 「あ。いえ、なんでもありません」キャロルはその破片をそっとダンブルドアの手にある袋に入れた。 「手伝ってくれてありがとう。二人とも授業に遅れんようにな」袋をマントの中にしまうと、ダンブルドアはにこやかに言って、立ち去ってしまった。
November 28, 2005
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「・・・・」 「・・・・」 再び、見渡す限り三人だけ、となったときウィルとルビィは沈黙に沈んでいた。 二人とも何かを考えていたが、その内容がまったく違うものなのは考えるのを止めて出た最初の一言を聞いただけではっきりとわかった。 「ルビィも、クィディッチやりたいなぁ。シーカーってかっこいいよね?」 「ポッピーってさぁ、ポンフリーのことだよね?」 二人にはさまれたキャロルに対し、二人とも疑問形の言葉を同時に投げかけた。 さすがのキャロルも一瞬返事に窮したのか沈黙し、ため息混じりに答えることになる。 「誰でもできるって訳じゃないからかっこいいの。やればできるんならかっこいいなんて思わないでしょう? ウィル、あなた本当の名前はウィリアムでしょ? それがどうかしたの?」 二人を半々に見つめるキャロル。少しあきれているようだ。 「やっぱり? 見てるほうが楽しいからいいや」いつものように陽気に笑うルビィ。その反対側ではウィルが恐いくらい真剣な顔でキャロルを見ていた。 「どうかしたの?」 「それは君のことだよ」 どうかしたの? 言葉を繰り返したキャロルにウィルは怒ったように言った。 態度にこそ出さないが、かなり興奮しているらしい。 「わからないか? ポッピーがポンフリー。ウィルがウィリアム。だったら・・・だったらドリーは? 僕らはこだわりすぎたんだドリーの名前と存在に。ドリーが誰かの、それもごく親しい人とだけで使われる愛称だったら?」 ドリーという名前だけで探したところで見つかるはずがない。 生徒や教師ではなく。20年前からいたと思われ、ドリーという愛称を付けられそうな者の心当たり。 ウィルは突然歩く方角を変えた。踵を返して、反対方向に歩き出す。 ルビィとキャロルが慌てて後に続きながら声をかけても、ウィルは返事をしなかった。 その頭の中では、いくつかの光景が鮮明に思い出されている。ドライロットの出会い、そして組み分けが終わった後の宴会の情景。 あの時、ドライロットが言っていたではないか『娘と同じ色の瞳をした・・・・』、そして「あのコ」はウィルの目をじっと見つめていた。今にして思えば、それはまるで懐かしいものを見るような目だったような気がする。 「どこ行くの?」 「このままだと寮に戻ってしまうわ」 だんだんと急ぎ足になるウィルから離れまいと、ほとんど小走りになりながらルビィとキャロルが訊いた。 「そうだよ。寮に戻るんだ。ドリーは、ドリーは女子寮にいる」確信を込めた声だった。そう考えれば全ての辻つまが合うのだ。なぜもっと早くに気がつかなかったのか、ウィルは自分の鈍すぎる頭を呪い始めていた。 「見つけるまで探せば骨折りは無駄にならない(seek till you find you'll not lose your ladour.)」 立ち止まりもせず合い言葉を言い、開き始めた穴に飛び込むようにしてウィルは談話室に入った。そのまま女子寮へと向かう。 「なにをしているの!?」 手当り次第に布の仕切りを掻き分け、「あのコ」を探すウィル。ちょうど着替えをしていた上級生が上げた悲鳴を聞きつけて、飛んできたペネロピーが金切り声を上げたが、かまわず進む。 その後方ではペネロピーに怒られ慣れたルビィが、代わりに謝る声が聞こえていた。 そしてついに、求めていたものを目にしてウィルは歩を緩めた。 乳白色のものが、目の前に浮いている。そして、突然現れたウィルの、その瞳にじっと視線を注ぐ。
November 27, 2005
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ドリーの正体 広間での事件があった後、ドリー捜しは格段に楽になった。ハッフルパフでは一年生のほぼ全員が総掛かりで探してくれていたし、グリフィンドールのフレッドとジョージは城の中のことを誰よりもよく知っていた。 もちろんウィルたちも懸命に捜し続けている。なのに、ドリーの正体はようとして知れなかった。 この数日でウィルたちにとって朗報は二つだけ。 一つは、ジャスティンが仕入れてきた情報。この城にある絵は城が魔法学校になって以来減ってはいないと言うことだった。いろいろな事情で増えはするが減ることはないのだと言う。だとすれば、必ずどこかにあるはずだ。 情報の出所がはっきりしないと言う一点だけが不安ではある。 もう一つはジョージの計らいで森番のハグリッドがウィルのために杖の材料になりそうな枝を集めてくれることになったこと、だ。 これには誰よりもまずキャロルが胸をなで下ろしたし、ウィルとしては少し残念な思いもあったが、森の恐さは好奇心を失わせるに十分なものだったからホッとしたのも事実だった。 そのことで唯一キャロルが眉を顰たのは、ジョージがそのことを告げた後に言った一言だ。 「森は遊ぶところで仕事しに行くとこじゃない」それが、わざわざハグリッドにウィルの杖材捜しのことを伝えた理由だったのだ。 その間にも時間だけは順調に過ぎていき、二週間が経った。 もちろん、ドリーは見つからない。キャロルは自分の洞察が外れていたのではないかと期待し始め、ウィルは絵たちが偽名を使っているのではないかと疑いだした。ルビィはいろんな絵と知り合いになれたと喜んでいる。 「絵じゃないのかも・・・」 その日の最後の授業、魔法史の教室へと向かう新しい通路を探して、廊下を歩きながらも、落胆を隠そうともせずにうなだれるウィルを見かねて、キャロルが声をかけたが、その声には相手を気遣うと言うよりも、自分の願望が多分に含まれていた。 「・・・もしそうだとしたら、また手がかりが無くなってしまうってことだろ?」 ドライロットの失敗から考えて、絵という結論を得たのに、それが違うとなったら次は何だと考えればいいのか? ウィルには分からなかった。 「なにか、なにかを見落としてるんだよ! それがなんなのか」 苛立って声を荒げかけたウィルが急に言葉を切った。医務室の前にマクゴナガル先生が立っているのを見つけたのだ。 こんなところで騒いだりしようものなら、マクゴナガル先生はもちろん校医のマダム・ポンフリーにも何を言われるか知れたものではない。 「ポッピー、ネビルの具合はどう?」 「骨折ならもう治ってるわ。元気がないのは精神性の外傷ってとこね。こればかりは魔法でもどうにもならないし、本人次第よ」 誰か生徒が怪我をしたのだろう少し心配そうなマクゴナガル先生に、マダム・ポンフリーは刺のある声を出した。 「まったく。大昔じゃあるまいし、移動の手段は箒に限らないんだから飛行訓練なんてしなきゃいいのに、と思うわ。手首だったからいいものの首だったら取り返しが付かないところよ」 そう言えば、今週から飛行箒の訓練が始まると掲示がしてあった。確かグリフィンドールとスリザリンは今日からその授業が始まったはずだ。 「まして一年生にクィディッチを。それもシーカーをさせようだなんて狂気の沙汰だわね」 またクィディッチだ。 ウィルは入学初日に聞いてからずっ引っかかっていたことを思い出した。自分には関わりないと思って忘れかけていたのだけど、ここは一度キャロルかルビィに聞いたほうが良さそうだ。 マダム・ポンフリーのさらりとした、でも冷めた声にマクゴナガル先生は明らかにうろたえていた。 「ポッターのことなら大丈夫です。何しろジェームズの息子ですもの。最高の選手になることは疑いありません」 きっぱりと言い切ったマクゴナガル先生だったが、マダム・ポンフリーが次の言葉を言う前にと、せわしげに立ち去ってしまった。態度は毅然としていたけど、その場を逃げ出したのは確実だった。 「プロでさえ、怪我はする。誰だって同じこと。ミネルバともあろう人が、それが分からないわけないでしょうに」 その後ろ姿を見つめ、マダム・ポンフリーは悲し気に呟くと。医務室の中へ、患者の元へと戻っていった。
November 26, 2005
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「・・・後をつけたのね」呆れたようにキャロルが言った。 「だってぇ、きっとあの二人付き合うよ? 恋人たちの初めての出会いに立ち会うなんてなかなかできない経験だと思わない?」 「付き合うとは限らないでしょうに・・・」 「絶対付き合うもん。パーシーったらその日からずっとマートルの部屋の前を見回りしてるんだよ。昨日だってマートルのいるトイレの前ウロウロしてたし」 女子トイレの前をウロウロ? あまり格好のいいものじゃないな。 「お! ホグワーツの歴史を塗り替えた勇者様の登場だぞ」 「なんとまぁ、常々お会いしたいと思っておりましたが、ご尊顔を拝し光栄の極み」 廊下を曲がり、大きな太った婦人の絵が見えたところで、ウィルは仰々しいほどの恭しさで迎えられた。赤毛にそばかす、同じ顔をした二人の上級生が、ウィルを偉人でも見るような目で見ている。 「我々でさえ、城を抜け出し、森へ入るのに半月を要したと言うのに」 「ただ一人、それも入学三日目で偉業を成し遂げてしまわれるとは!」 ウィルが杖の材料を取りに行ったときのことを話しているのだ、見ていたのだろうか? 「森に!? 危ないからいっちゃ駄目って校長先生が言ってたのに」 「杖の材料なら、他にも手に入れる方法あるはずよ」 上級生に深々とお辞儀され、戸惑うウィルの代わりにルビーとキャロルが声を上げた。 ルビーのほうは少し楽しそうな声が含まれていたが、キャロルのは本気の抗議のようだった。言葉から見ても、ウィルが何をしようと森に行ったのか、完全に理解している。 「杖?」 双子が同時に反応してキャロルに注意を向け、キャロルが淀みなくウィルの杖づくりのことを話している。ウィルを危険な場所に行かせたくないのだろう、というのはわかるし、気持ちはありがたかったがキャロルの声がウィルの耳には少し痛かった。 「そんなことは今はどうでもいいんだ。僕らが今日ここに来たのは別の用件で・・・」 話題を変えさせようと、ウィルが蛮勇を奮って声を上げたとき、キャロルがすでにそのことを話し始めていた。 「ドリー?」 「城内の絵という絵は大体知ってるつもりだけど・・・・」 聞いたことない、という。まぁ気にかけて捜してくれると約束はしてくれた。見つけたら事情をすべて説明する、という条件で。 「ウィルって言ったな。俺はジョージ、そっちがフレッド、今度森に行くときは俺たちにも声をかけてくれよ」 「そうさ、森の中ならハグリットの次くらいには詳しいんだぜ」 もちろん、城の中もな。そう言って双子はニヤリ、と笑うとどこかに行ってしまった。 「あの二人がウィーズリーの双子なんだ。先輩がフィルチと死闘を演じる英雄たちって呼んでたよ」ルビーがはしゃぎ。 キャロルはウィルのことについて勝手にしゃべりすぎたと反省している。 「・・・まぁ、なんにしてもグリフィンドールの中にも協力者を作れたってことで、目的は果たせたんだ。帰ろう、そろそろ戻らないと変身学のクラスに遅れてしまう」 変身学に遅刻するのは森に行くより恐ろしい、言うことがいちいち正しく公平なだけにある意味魔法薬学よりやっかいだ。
November 23, 2005
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「グリフィンドールになら頼んでみるのもいいかも知れないわ」 同じことを考えていたのだろう、ホットミルクの入ったマグカップを両の手の平で包むように持って、口元に運びながら、ポツリと言った。 「うん。でも・・誰もいないよ。寮の場所知ってる?」広間を見渡し、ウィルが聞く。広間にはもうウィルたち三人しか残っていなかった。 「はい! はいはーい。ルビー知ってるよ」何枚ものお皿を重ねた小山の向こう側で両手を挙げてルビーが飛び跳ねている。 一抹の不安を感じてしまうが、ウィルたちはルビーの案内でグリフィンドール寮へ向かうことになった。 「それにしても、ルビーはなんでグリフィンドール寮の場所知ってるの?」 石の廊下を歩きながら、キャロルが聞いている。 「え? えへ、えへへへへへ・・・・」ルビーははにかむような、困ったような顔で笑い。イタズラっ子みたいな微笑みを浮かべたまま、理由を話し始めた。 「んとね、それは・・・・」 二日前のことだった。 ルビーはトイレに行こうとしていた。 階段をもう一つ上れば、三階に一度も入ったことのない場所だったが、トイレがあったはず、と歩を早めたルビーの耳にとても楽しげな声と、苛立ったような声が聞こえた。 階段を上り切らずに手摺の陰から覗くと、ずんぐりとした女の子のゴーストとレイブンクローの監督生、ぺネロピー・クリアウォーターが立ち話をしているようだった。 「マートル。あなたがゴーストになって城の中をうろうろするのはかまわないわ。あなたにだって存在する権利はあるんだから、でもね。トイレを自分の部屋として独占されたんじゃ、他の生徒に迷惑なの。やめてもらえないかしら」穏やかな口調の中に、怒りや不満、軽蔑といった感情が隠れているのがルビーにすらわかる声と表情だった。 「あら、私独占なんてしてないわ。あなたも入っていいのよ、誰もいないトイレでニキビに薬を塗りたいんでしょう?」ぺネロピーとは対照的に楽しげな声が弾んでいる。 「ニキビ、コキビ、ニキビーっ。私も生きてる頃には、みんなにそう言われたものよ。死んでも生きてた甲斐があるわね、私が他の人にこれを言える日が来るなんて思わなかったわ」ダラーッと垂れた猫っ毛と、分厚い乳白色のメガネも一緒になって弾んで、普段は陰気に沈んでいるらしい顔が笑っているので、変なふうに歪んでいた。 ぺネロピーは反論しなかった。見てるルビーが恐くなるような顔になって、マートルを睨み付けている。 「何をしてるんだ?」 ルビーとは逆に、下りてくる階段の途中で言い争うのを耳にしていたらしい男の子が、しかめっ面で現れた。 「・・・パーシー」ぺネロピーが少し上擦った声で事情を説明し始めた。 「マートルがトイレで泣く度に、水道管が破裂して壊れるの、それじゃみんなトイレを使えないから、トイレに取り憑かないように・・・」 「違うだろ」妙に焦った様子で話すぺネロピーを手で制して、パーシーはぴしゃりと言った。 「ニキビに薬を塗りに来て、マートルに見つかったから、そう言ってるんだろ?」 そう言ってパーシーがぺネロピーから視線を外してトイレの入り口のほうを見たので、ルビーも視線を追いかけてみた。するとそこには小さなチューブが落ちていた。 小さな文字で『ドクター・トクルのニキビ薬。~これであなたの顔もつるつるのすべすべに~』と書いてあるのがどうにか読めた。 「僕らの年ならニキビの一つや二つ、出るのが当たり前なんだ。隠そうとするなんてどうかしてるよ」冷ややかにすら感じる口調だった、でも、その表情は穏やかで、とても優しかった。 「だけど、君の言い方は良くないね。自分が言われて嫌だったことを他人に言うなんて、人として最低だよ。ニキビってのは日頃の不摂生と精神の不安定さから出るものだって言うけど、君の場合。間違いなく後者だろうね」 パーシーの口調はあくまで静かで、挑発したり侮辱したりしているものではなかった。 でも、マートルにとってはそんな客観的な事実より、自分の主観のほうが正しいようだ。 さっきまでの歪んだ笑顔が泣き崩れ、メガネの奥から大粒の涙が伝っている。 「そうよ、そうよ、私はどうせ性格悪のブスだわ。生きてたときはみんなにバカにされ、死んでからは嫌われ者なの。私、私、存在してるべきじゃないんだわ」ワッ、と泣き出したかと思うと、トイレのドアを吹き飛ばして中へ消えていった。 中から少しくぐもった泣き声と叫びがしばらく聞こえていたが、水の流れる音とともに、それも消えた。 「まったく、狂ってるよな」パーシーが一人呟く。その声に、小さなうめき声が重なった。 ぺネロピーが立ち上がろうとしている姿のままでローブをたくしあげ、右の足を押さえている。吹き飛んだドアの破片があたったらしい、血は出ていないが青く変色しかけていた。 「ママ特製の薬がある、僕らの寮においでよ。医務室に行くより近い。ママの薬はよく効くんだ、なにしろ僕のすぐ下の弟たちときたら、年中どこか怪我してるんだから」 そう言って手をさしのべたパーシーを、一瞬気恥ずかしそうに見たぺネロピーだが、なにも言わずにパーシーの手を取り、肩にもたれてグリフィンドール寮へと向かった。
November 22, 2005
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「どうしたんですか?」 全身が石になったような感覚に支配されかけていたウィルの後ろから声が上がった、聞き覚えのある声だ。ウィルはホッとして力が抜けそうになりながら振り返った。 思った通りの人がそこにいた。 「マクゴナガル先生!」キャロルが叫ぶ。 マクゴナガル先生はキャロルが早口で事態を説明している間、ウィルやミリセント、汚れたマントと目を走らせた。マントを見たとき、眉が少し釣り上がったように見えたのはウィルの気のせいだったろうか。 「わかりました。ミス・べランジャー、もうそれ以上は説明しなくてけっこうです」 ある程度の説明を聞いたところで先生はキャロルの説明を止めさせ、ミリセントに向き直った。 「ミス・ブルストロード。あなたの持っているマントは、私が見るところもう着てはいないようです。それなのに、なぜ持ち歩いていたのか、疑問を感じずにはいられません。もし、大切な思い出の品だ、とでも言うのであれば、このようなところに持ってくるのはどうかと思います。それに、その程度の汚れでしたら洗えば落ちるでしょう。染みにしたくないのであれば、議論している間に洗濯場に持っていくのが良いのではありませんか」 「・・・そうします」 先生の目から逃れるようにマントに目を落とし、ミリセントはスルリとウィルの横を擦り抜けて走るのと歩くのの中間で立ち去った。 ゴイルとクラッブの二人の姿は、あの図体からして信じられないことに、いつのまにか消えていた。 「ミスター・ゴールドマン。あなたの行動は勇敢さと友情を示すすばらしいものでした。今後もその気持ちを忘れずに行動することを望みます」先生は、ニコリと笑った。あまり笑うことに慣れていない者の笑いだった。そう感じたのはウィルの勝手な先入観のせいだったろうか。 ともかく、先生のおかげで難を逃れたウィルたちはマクゴナガル先生が自分の寮生とともにグリフィンドール寮へ帰っていくのを見送った後、自分たちも寮に戻るべく、席を立った。 「先生に気に入られて満足かい?」絡みつくような声が、立ち上がったばかりの背後から耳へと這い上がってきた。 振り向くと、さっきの血色の悪い少年、ドラコ・マルフォイがクラッブとゴイルを従えて立っていた。口元に意地の悪そうな笑いを張り付かせて。 「先生がいつでも助けてくれる、そう思うかい?」マルフォイは、多分に挑発するような調子で話しながら、ウィルに向かって鼻で笑うような仕種をした。 マルフォイは、一見したところ確かに血色は悪いが、いいところのお坊ちゃん、とでも言おうか上品な顔立ちと声を持っている。その顔と声に悪意がこもると、それは確実に相手の神経を逆なでするものになるようだ。なまじ、きれな声だけに、侮辱されたという気持ちが先に走ってしまうのだ。 だが、今回は相手が悪かった、というべきだろう。ウィルにしてもキャロルにしても、こういった挑発や侮辱をまともに受けるような性格はしていない。二人とも、気を悪くはしていたが、決して表に出すようなことはしなかった。 そうなると、逆に挑発してる側が安っぽい人間に見えることになる。そのことに気付いたのだろう、マルフォイが今度は演技ではなく素で顔を歪めた。 「僕が君たちなら、もう一人では歩けないだろうな」 「脅してるつもりなのか?」その前に一人で歩けるのか?いつもお付の人間がいるみたいだけど? 喉まで出かかった言葉を飲み込んで、ウィルは冷静な反応を示してみせた。 「一般的な忠告をしただけさ。・・・行こう」 お供の二人を促し、マルフォイはウィルの横を擦り抜けていき、お供のうち身体の大きい方、確かクラッブだったと思う、が間違いなくわざとウィルの肩にぶつかるようにして押し退け、その後を追った。 ウィルはマントを翻して去っていくマルフォイの背中を睨み付けた。キャロルが傍に居なかったらツバの一つも吐いていたところだ。 寮の先輩たちがスリザリン生のことを「油断のならない詐欺師ども」と悪態をついていた理由が、ようやく理解できたような気がした。
November 21, 2005
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バシッ! キャロルの頬を力一杯張ったのだ。大柄で四角張った感じの相手だ、たまらずキャロルがよろめいた。ウィルは、驚きのあまりその場で硬直した。 「まって、キャロルは悪くないよ」 声も出せずオロオロしていたウィルだったが、相手の女の子が再び右腕を大上段に振り上げたので、あわててキャロルをかばって前に出た。 キャロルがまた引っぱたかれるのを見るよりなら、自分がたたかれるほうがましだ。 女の子は、突然現れたウィルに意表を突かれたのか、キャロルとウィルを交互ににらみながら沈黙している。 「ミリー、トラブルかい?」気怠そうな、気取った声が背後からして、ウィルが振り返る。青白い、あごの尖った男の子がガッチリとした体格に、この上なく意地悪そうな顔をした二人の男の子を従えて立っていた。 「ドラコ。この女がね、私のマントにかぼちゃジュースをこぼさせたの。このミリセント・ブルストロードのマントを汚してくれたんだからお礼をしなくてはならないのに、こいつが邪魔をしてるのよ」戦闘的に突き出た顎でウィルを指して、ミリーと呼ばれた女の子が言った。 「違う。自分でこぼしたんじゃないか!!自分でぶつかって自分でこぼしたんだ、キャロルは悪くない」男の子の登場で、女の子相手に言い合いしなくて済むと思ったウィルは、必死にドラコという男の子に訴えた。だが、それが大きな間違いだということを、言葉を言い終える直前に感じ取った。 青白い顔の子はウィルを冷ややかに見つめていたし、後ろの二人は嘲笑を隠そうともしていなかった。 彼らにウィルの言い分を聞く気などないことはそれだけで明らかだった。ファーストネームで呼びあってることから考えても友達に違いない。きっと寮も同じなのだろう。 「僕はドラコ・マルフォイ。この二人はゴイルにクラッブ。ミリーともどもスリザリン生さ。選ばれたものの寮だよ」ウィルの視線に気付いたのかは知らないが、マルフォイが訊いてもいないのに自己紹介を始めた。 選ばれたもの? みんな選ばれてホグワーツに入学してるんだから当たり前じゃないか。そうも思ったが、マルフォイが言いたいのはそういうことではないらしい。 「君がどこの寮かは知らないが、寮はあのオンボロ帽子が決めるだけだから気にすることはない、けど友達は選べる。誰と付き合うかで君の未来も変わる。間違った者とは付き合わないことだ。誰と付き合うのが君のためになるか、僕が教えてあげよう」 そういって、マルフォイは右手を差し出した。握手を求めているのだろう。 「友達は大切だよ。仲間を集めるのも素敵なことだと思う。でも・・・群れるのは嫌いだ」 少し言い過ぎかとも思ったが、「間違った者」という言葉が、ウィルの気に触った。まして、誰と付き合うのがためになるか、教えてやろう。なんて。こいつは、友達をなんだと思っているのだろう? こいつ、ドラコ・マルフォイは真赤にもピンクにもならなかったが、青白い顔を意地悪そうに歪めた。 「ふんっ! しょせんはマグルの子。真の魔法使いじゃないから理解できないというわけか。救い難い奴らだ」マルフォイは吐き捨てるように呟くとマントを翻して、その場を離れた。 なのに、お供の二人はまだ残っていた。優に十センチも高い位置からウィルを見下し、せせら笑っている。 どうでも、ミリセントの言う「お礼」とやらをせずにはおけないらしい。 こうなってくると、世事に疎いウィルにも事態が飲み込めてきた。落ち着いてみれば、ミリセントの持っているマントは古い上にサイズもかなり小さいようだ。たぶん、小さい頃に使っていた古着だろう。 それを汚されたと因縁を付け、新しいのを買わせて弁償する方向に持っていこうしているのに、間違いない。 自分のおかれた状況に気付いて、ウィルは冷たい汗が背中を伝うのを感じた。
November 20, 2005
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「うまいわね」相手の気持ちを突き放すことなく、しかも自分のためにもなる。一石二鳥なウィルのやり方をキャロルはそう評した。 これで、広いホグワーツ城の内ハッフルパフ寮近辺に関しては、自分たちで捜す手間が省けたわけだ。 「どうせなら、スリザリンやグリフィンドールの人たちにも頼めたらいいのにね」 ルビーが、ようやく出てきた食欲に応えるべく、大きなドーナツを頬張りながら言った。 思わず、キャロルとウィルは顔を見合わせ、お互いに同じ気持ちなのを確認して、うなずきあった。 グリフィンドールはともかく、スリザリンには絶対に頼まない。、と。 二人の脳裏には、今朝の出来事がありありと浮かんでいた。わずか五分で、スリザリン寮の全生徒に対してのイメージを決めさせた事件だ。 ガシャン! 大広間に響いたガラスの割れる音。それが屈辱の五分の始まりを示すものだった。 ちょうど朝食の時間だった。ルビーは大好物ばかりが並んでいたらしく誰よりも早く、それも三人前ぐらいを一気に食べ、これ以上食べたらお腹が破裂しちゃう、と一足先に寮に帰っていた。この場にいては食べないわけにはいかないほど好きなものが並んでいたらしい。 そのおかげで彼女は不快な思いをしなくてすんだのだが、キャロルはまさにその中心、当事者となってしまっていた。 飲物を片手にテーブルの間を歩いていた女子生徒が、キャロルにぶつかってグラスを割り、マントを汚してしまったのだ。 ウィルの目には明らかにグラスを持っていた女の子の不注意のせいなのに、その子はキャロルがわざとぶつかったと主張し、頑として他の意見を聞こうとはしなかった。 「食事中に飲物を持って歩き回ればどうなるか、考えてみなくてもわかることでしょ?」 大げさにわめいているその女の子に、キャロルは落ち着いて諭すように言葉をかけている。雰囲気だけ見ると、姉がやんちゃな妹をなだめているような感じだ。 だけど、相手の女の子はもちろんキャロルの妹な訳ではない。キャロルの言葉を聞いた途端、顔を真赤にして誰もが想像だにしなかった行動に出た。
November 19, 2005
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「それに、薬学の知識も、だね? そうは思うけど・・・好きになれそうにないなぁ」キャロルの言い分ももっともだと思いながらもウィルはスネイプ教授は尊敬できても、敬愛はできない相手だと決めてしまっていた。 すぐ隣にいたピンクの頬の女の子が、授業の間中震えているのを見ていたのでは無理からぬことだろう。 血色のいい頬がチャームポイントの、あの少女が青ざめ震えていた。まるで死人のような顔が目に浮かぶ。 「あの・・・」突然、その少女が話しかけてきた。 驚いて見直すと、それは死人のように青ざめた少女ではなく。生来の血色の良さをさらに上回る朱色の頬をした少女が立っていて、ウィルを見つめている。その後ろには男の子が一人、付き添っていた。 「あの、私。ハッフルパフのアボット・ハンナです。さっきは助けてくれてありがとう」 鍋を支えてあげたことに、わざわざ礼をいいに来たのだ。律儀なことだ、とウィルは思った。 「運が良かったよ。ここ二カ月ぐらいひっくり返る鍋と格闘してたものだから、咄嗟に動けたんだ」オリバンダー翁のところで、何度重い大鍋を柚薬ごとひっくり返したか、ウィルは一度火傷してしまい、それ以来毎晩のように夢でうなされているのだ。 それを思い出し、思わず顔が歪みそうになったことに気がつきウィルはそっと微笑んでみせた、緊張と申し訳なさに縮こまり、ただでさえ小さなハンナがとても儚げに見えたので、少しでも気持ちを和らげようと思ったのだ。 「僕はフィンチ-フレッチリー・ジャスティン。本当なら、僕が気をつけてあげなきゃなんなかったのに・・・迷惑かけて済まなかった」ペアを組んでいた相手なのだろう、自分がフォローし切れなかったことを悔やんでいるらしく。なにか、とても痛々しい表情を見せて頭を下げた。 この場合、さらになにか言ってやっても相手を恐縮させるだけ。ウィルは数秒、なんと言ってやったらいいかわからずに沈黙した。が、すぐにあることを思いつき破顔した。 「二人とも、聞いて! 実は僕達、あることで困ってるんだ。手伝ってくれるとうれしいな」キャロルとルビーにチラッと視線を走らせ、ウィルはドリーなるものを捜していることを告げた。 なぜ捜しているかは言わなかったが、20年くらい前からこの学校にいるドリーに会いたくて捜していることを説明したのだ。元々はレイブンクロー寮の近くにいたものと思えるが、もしかしたらハッフルパフの方に行ってるかも知れない。とくに、そのドリーがキャロルの言うように絵だったとしたら、掛け代えとかがあった可能性もある。 内心、最悪の場合には処分されてしまっている、というのも考えられなくはないのだが、ウィルは口にしなかった。一瞬、絶望的な顔をしたことから、キャロルはそう言う事態もありうることに気付いたらしかったが。 「その『ドリー』を捜せばいいのね?」さっきまでの意気消沈ぶりを払拭するような明るい声と表情でハンナが訊く。 見つかるとは限らないけど。ウィルが答えるとハンナとジャスティンは早速自分たちの寮へと戻っていった。すぐにでも捜し始めるつもりのようだ。
November 18, 2005
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広間での事件 木曜になるまで、ドリー捜しはまったくといっていいほど進展していなかった。というのも、教室を捜すのも一苦労だというのに隠し階段や扉を、それも授業の合間を縫って、捜すというのは不可能に近いものがあったからだ。 もちろん、城中を捜さなくてはならないと思ってはいたから、そんな二日や三日で捜せるなどとは思っていなかったが。 そしてその木曜はというと、朝から気が滅入ってしまうことがあって、三人ともドリーを捜そうという気にすらならなかった。あのルビーが昼食を食べたくないと言うほどだから、大変なものだ。 気が滅入った理由。それは、今朝初めて授業のあったクラス。『魔法薬学』のせいだった。 『魔法薬学』はレイブンクローとハッフルパフ合同の授業で、学科担当はスリザリンの寮監でもあるスネイプ教授だった。 実はウィルが最も心待ちにしていた授業でもある。杖を使っての魔法より、こちらのほうが向いていると思ったし、杖づくりに役立つだろうと思えたからだ。 それなのに・・・。 「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」 べったりとした黒髪と、冷たく、うつろな、暗いトンネルのような目をして、鈎鼻で土気色の顔をした教授が話し始めたとき、楽しみにしていた気分は消え去った。 マクゴナガル教授とは微妙に違った意味で、逆らってはいけない先生なのだということが肌で感じられた。 魔法薬学の授業のある教室が地下牢ではなく、日のあたる中庭だったとしても、この寒さは消すことができないだろう。壁にずらりと並んだガラス瓶の中のアルコール漬けの動物がプカプカ浮いているのさえ、この教授に見つめられることを思えばかわいいものだという気がした。 「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力・・・諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。-ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」 これだけの大演説を椅子に座ったまま、つぶやくようにいい。しかも生徒たちが物音一つ立てられないような威圧感を与える。とてもじゃないが、生徒たちと仲良く、楽しく授業しようなんて気持ちになる人には見えなかった。というより、万一仲良くしようなんて言ってきたら恐すぎる気がする。 演説が済むと、スネイプ教授は生徒を二人づつ組にして、おできを治す簡単な薬を調合させた。長い黒マントを翻しながら、スネイプ教授は生徒たちが干しイラクさを計り、蛇の牙を砕くのを見回った。生徒全員、少なくとも二回は注意された。ハッフルパフのアボット・ハンナなどは六回注意され、七回目には足を滑らせて大鍋をひっくり返しそうになった。偶然にも、隣でルビーと大鍋をかきまぜていたウィルが寸でのところで捕まえたので、大事には至らなかったが、危なく薬品をまき散らすところだった。 その後もスネイプは生徒たちにつらくあたり、授業が終わってスネイプが教室を出るとハッフルパフもレイブンクローも、その場にいた全ての生徒が同じ行動をとった。立ち上がって背筋を伸ばし、深呼吸したのだ。 「でも、ある意味すごい先生よ。一目見るだけで、生徒が犯しそうな間違いを見つけるんだから。観察力と洞察力が並外れてるってことでしょ」食欲なんて皆無だったが、とりあえず大広間のテーブルに付いたとき、キャロルが少し考えながら呟いた。
November 17, 2005
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しばらくの間、ウィルは呆然と立ち尽くしていたのだが、他の生徒たちが起き出して大広間に行く物音や声で我に返り、急いで大広間に向かった。 せっかく誰にも気付かれずに城を抜け出し、帰ってきたと言うのに、食事に遅れたことで不審を買ったのでは元も子もなくなってしまう。 大広間に行くと、ルビーとキャロルはすでに来ていて席に着きウィルを待っていた。 待っていたといっても、ルビーはすでに空の皿を自分の前に積み上げている最中だったが・・・。 ウィルがキャロルたちが空けていてくれたらしい席に座ると、キャロルがなにか言いたそうに唇を動かしたが、なにも言わなかった。代わりに、そっと腕を伸ばして、ウィルのローブに付いていた木の葉と何かの植物の種を払い落とした。 「ドリー捜しのこと、考えたんだけど」 ウィルにマーマレードのたっぷり付いたトーストを手渡し、自分用にはイチゴのジャムが塗りたくられたトーストをとって、キャロルが話し出した。 「闇雲に探し回っても見つからないわ。だってこんなに広い城の中だもの。だから探すルートを絞り込むべきだと思うの」そう前置きをして、キャロルが話したことは実に堅実な方法だった。間違いはないが、場合によってはやたらと手間のかかる方法。 それは各授業に向かう途中、大広間での食事の行き帰り、いくつあるのかも分からない隠し扉や階段を探し当てては毎回別ルートで移動し、見かけた絵に片っ端から声をかけて歩くというものたっだ。 キャロルの推測では、僕らが日々の生活で通る場所のどこかでドリーに会うはずなのだ。サマンサがあんなことになったのは一年生の夏だった。ウィルたちも一年生なのだからウィルたちの行けない場所にサマンサが行って、そこでドリーに会った。なんてことは考えられない、というのだ。 それについてはウィルも賛成だった。サマンサがドリーを探し歩いたはずはない、日々の生活の中で偶然知り合ったに違いないのだから、ウィルたちも必ずどこかで出会うはずなのだ。 「僕もそう思う、地道に捜すしかない」 自分の考えに半ば耽りながら、キャロルがとってくれたトーストに噛り付く。ウィルの好みからいうと少し酸味がきつすぎた。
November 16, 2005
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ハーマイオニーが本の貸し出し手続きをしてもらっている声を聞きながら、ウィルは手にした本を読み始めた。昨夜会った生き物たちを探してみる。 [ニーズル];イギリス原産。現在では 世界中で飼育されている。猫に似た小型の 生物で、毛は斑点、斑入り、ブチなど。特 大の耳とライオンのような尾を持つ。知的 で自立しており、時々攻撃的になるが、魔 法使いや魔女の誰かになつくと、すばらし いペットになる。嫌な奴とか、怪しげな奴 を見分ける能力を有し、飼い主の道案内を 勤めることが多い。 ニーズルは一胎で8匹まで妊娠でき、猫 との異種交配も可能である。マグルの興味 を引くに足る珍しい姿をしているため、飼 育するには許可証が必要である。 [ボウトラックル];主にイギリス西部、 ドイツ南部、スカンジナビアの一部の森に 生息する。木を守る生き物で、小さく(最 大20センチほどの背丈)、見かけは樹皮 と小枝でできており、そこに小さな茶色の 目が2つついているので、見つけるのが極 めて困難である。 ボウトラックルは昆虫を食べ、おとなし く、非常に内気であるが、自分の棲む木に 危険が迫ると、住処に危害を加えようとす る木こりや樹医に襲いかかり、長く鋭い指 で目玉をほじくるといわれている。魔法使 いや魔女が杖用の木材を切り取る際には、 ワラジムシを供えると、ボウトラックルを その間なだめておくことができる。 ウィルは思わず目を押さえた。昨夜ニーズルに止められていなかったら、危うく目を失うところだったのだ。 次から、枝を取りに行くときにはワラジムシを用意していこう。ウィルは心に刻み込んだ。目を失いたくはない。 [ケンタウルス];ケンタウルスはヒト の頭、胴体、腕が馬の胴体につながってお り、馬の色は5、6種類ある。知的で会話 もできるので、厳密には動物と呼べないが、 ケンタウルス自身の要求により、動物と分 類されている。 ケンタウルスは森に棲む。現在はヨーロ ッパ各地に群生するが、そもそもギリシャ 原産だといわれる。ケンタウルスがいる国 では、その国の魔法当局が、マグルに煩わ されないような地域をケンタウルスに割り 当てている。しかし、ケンタウルスはヒト から隠れる手段を自ら持ち合わせており、 魔法界の保護をほとんど必要としない。 ケンタウルスの習性は、謎に包まれてい る。一般的に、ケンタウルスはマグルを信 用せず、それと同じくらい魔法使いも信用 していないし、実は、両者をほとんど区別 していないようである。10頭から50頭 の群れをなして生活する。魔法の癒し、占 い、洋弓、天文学に精通しているという評 判である。 ホグワーツ周辺にいるケンタウルスは、 約20頭ほどと思われるが定かではない。 最後の一つ、姿を見ていない生き物についてははっきりと断言するわけにはいかないが、ほぼ99%そうだろうと思えるものがあった。 [トロール];身の丈4メートル、体重 1トンにも及ぶ恐ろしい生き物である。桁 外れの力と並外れてバカなことの両方が特 徴で、しばしば暴力的になり、なにをしで かすか予測できない。スカンジナビア原産 だが、最近ではイギリス、アイルランド、 および他の北ヨーロッパ地域でも見られる。 一般的にはブーブー唸って会話するが、 これが未発達な言語を構成しているらしい。 しかし中には簡単なヒトの言葉を理解した り話したりするものもいる。トロールの中 でも知性が高いものは、訓練されて守衛と なる。 トロールは山トロール、森トロール、川 トロールの3つに分類される。山トロール が最も大きくて凶暴。ハゲており、皮膚は 薄い灰色。森トロールは薄緑色で、中には 緑または褐色のザンバラ髪が薄く生えてい るのもいる。川トロールには短い角があり、 毛深いのもいる。皮膚は紫色で、しばしば 橋の下に潜んでいるのが見られる。生肉を 食すが、獲物を選り好みはせず、野生動物 からヒトまでなんでも食う。 ホグワーツ周辺の森にいるのは、むろん 森トロールである。 本を閉じたとき、ウィルは自分でもはっきりとわかるほど血の気を失い。青ざめていた。 こんな危険な生き物たちが徘徊している森に一晩中いたのだ。武装するどころか杖すら持っていなかった。万一襲われていたら、実際にその危険はとても身近なものだったのだが、まず助かる見込みはなかっただろう。
November 15, 2005
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図書館には初日に道に迷ってたまたま行っただけだが、ウィルにとってはどこよりも身近に感じられる場所だったから、場所はしっかり覚えている。その場所まで行くための階段と扉を探すのには苦労したが、迷うことなくたどり着けた。 静寂と整理、整頓に支配された空間。 誰もいないだろうというウィルの予想に反して、先客がいた。ウィルと同年らしい女の子がいる。栗色の髪がフサフサしてるのだけがはっきりと目に付いた。他のとこはみんなお揃いのローブなんだから当然だけど。 なにか探しているらしく、ウィルが入ってきたことにも気付かずに、本棚の隅から隅まで目を走らせている。 あまりに真剣な様子なので、ウィルは少し離れたところで本を探し始めた。マグルの図書館のようにジャンルごとに分けてあるなら探しやすいのに、閲覧禁止の棚との区別がはっきりしている割りに、そういった区分は曖昧な感じなので目当ての本を探すには勘と運が頼りなのだ。 「『魔法薬の材料ーその所在と利用法』って本見なかった?」 探しはじめて数分、後から声を欠けられウィルはあわてて振り向いた。さっきの女の子が少し疲れた顔で立っていた。 「夜中に気になって探しに来て、ずっと探してるんだけどないの。図書館の蔵書リストに載っていたし、貸し出された記録もないから絶対にあるはずなんだけど・・・」 そんなこと言われても、自分が探しているわけでもない本のタイトルなんて、見ていたとしても覚えているわけが・・・ある。 「ちょっと待ってて」ウィルは急いでその本を見た覚えのある棚へ行ってみた。分厚い本の後ろに挟まっているのに気がついて、棚に並べ直した本があった。確か、そんなタイトルの本だった気がする。 『魔法薬の材料ーその所在と利用法』大判だけど、厚みはそれほどでもない。ちょっとくたびれた感じの革表紙の本。この本だ。 「これだね」本を持っていってフサフサ髪の女の子に渡す。 女の子は飛び上がって喜んだ。一瞬抱きついて来そうになったのだけど、本を抱えていたので思い止まったようだ。 「ありがとう。私、ハーマイオニー・グレンジャー。グリフィンドールよ。あなたは?」 疲れた感じの顔に微笑みを浮かべて、女の子が言った。前歯が少し大きかった。 「ウィリアム・ゴールドマン。レィブンクロー。ウィルでいいよ。あのさ、『禁じられた森』に棲む動物に関して書かれた本ってないかな? ちょっと調べたいことがあるんだけど」あれだけ熱心に本棚を見ていたなら、心当たりがあるかも、そう思って訊いてみる。 答えはyesだった。早速、その本がある棚に案内してもらう。少し奥まったところだ。 「これなんかいいと思うわ」ハーマイオニーが指し示したのは薄い細長の本だった。 『ホグワーツ城ーその森の住人たち』そのものズバリのタイトルが打たれている。 「ホグワーツのことが知りたくて、読んでみたの。結構詳しく書いてあったわ」 「ありがとう」 どういたしまして、ウィルが礼を言ったのにそう応えると、ハーマイオニーはフサフサの髪がウィルの頬を掠めるほどの勢いで振り返った。ちょうど司書のマダム・ピンスが入ってきたところだった。
November 14, 2005
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ふと見ると、あの猫みたいのが一歩前をちょこちょこ歩いて、時々立ち止まっては辺りに気を配っている。 そして、突然歩く方向を変えた。振り向いてウィルにも付いてくるように、というような仕種をした。ウィルは逆らわなかった、そのまま後を追う。 しばらく歩くと、さっきまで歩いていた辺りから木をなにかで打ち付け、引き裂いて振り回す、そんな音とブーブーといううなり声が聞こえてきた。なにか大きな生き物がいるのだろう。 鉢合わせ、なんてことにならなくて良かったと胸をなで下ろし、この猫のようなのが危険を回避してくれたことに気付いた。 その後も、何度か方向を変えて歩く猫のようなのに付いていく。と、森の少し開けたところに人影が見えた。その人は馬に乗り、夜空を眺めて、何事かつぶやいていた。 猫のようなのが、平然とその影に向かって歩くので、ウィルもその人のところへと歩き続けた。そして、自分が大きな間違いをしていたことを知った。その人影は馬になんか乗ってはいなかったのだ。 プラチナブロンドの胴、淡い金茶色のパロミノ。蹄を持った四本足のそれは馬だっが、本来首があり頭のあるはずのところに人間の上半身が付いていた。 明るい金髪が月明りでさらに明るくけぶるような雰囲気になり、ウィルは夢を見ているような気がした。 この夜、この森でいくつかの生き物と会ったが、今ウィルは初めて正体のわかる生き物と対峙していた。本の中ではよく出会ったものだ。あくまでも空想上の生き物として。 「生徒さんだね。こんな夜中に森に入るのは危険だよ」信じられないような青い目、淡いサファイヤのような目がじっとウィルを見下ろしている。 その目が、さらに下。猫のようなものを捕え、そのケンタウルスは静かに微笑んだ。 「ニーズルが一緒なら、大丈夫。森の外へ安全につれていってくれるでしょう。行きなさい、じきに夜が明けます」 その後、ウィルは自分がどうやって森を出たのかを知らない。ケンタウルスに会った、話しかけられたことに舞い上がって、なにも考えられなくなっていたのだ。 気がついたとき、ウィルは森を出てハグリッドの小屋の前にいた。いつのまにか猫のような生き物、ケンタウルスによればニーズルという名の生き物らしいが、は姿を消していた。 「・・・! そうだ」朝食の時間にはまだ間がある。ウィルは森で会った生き物たちのことを調べるために、図書館へ行ってみることにした。 図書館には初日に道に迷ってたまたま行っただけだが、ウィルにとってはどこよりも身近に感じられる場所だったから、場所はしっかり覚えている。その場所まで行くための階段と扉を探すのには苦労したが、迷うことなくたどり着けた。
November 13, 2005
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ゴクリ、ウィルは自分が大きな音を立てて唾を飲み込む音を聞いた。ともすれば、すくんでしまいそうになる足を叱咤して歩く。 あそこに、行かなくてはならないのだ。 月が晃々と柔らかな光を地上に投げかけているが、それは雲に時折遮られてしまうのであまり当てにはできない気がした。 森は近づくにつれて、ますます黒く深く見えた。夜の闇よりもなお暗く深い森。全身が小刻みに震え出したことに気づいたが、ウィルはそれを無視して歩き続けた。 しばらく歩くと目の前に木でできた小屋が現れた。入り口のあたりにブーツらしきものが置いてあったが、どう見ても普通の五倍はある。一足並んでなかったら、燃えないゴミのポリバケツだと思ったところだ。 きっとハグリッドのものだ。と、ウィルは思った。他の何者が、こんな巨大なブーツを履くだろう。彼は森の番人だから、森に近いここに住んでいるのだ。 明かりは点いていなかったが、足音を忍ばせて歩く。見つかったらやっかいだ。 小屋の前を通りすぎて森の中へと足を踏み入れる。途端にゴーストと同じかそれ以上の冷気が全身を包み込んだ。凍りついてしまったかのように身体が硬直し、ウィルは数秒その場から動けなくなった。 強いて気を取り直し、ウィルは再び歩き出した。目当てのものを捜しながら、森の奥に向かって。 目当てのもの、それは枝だった。杖と似通った形のものがいいわけだが、それだけでいいというものでもない。 太さ長さはもちろんだが木の種類、乾き方、枝別れして小枝が多かったり、風雨や野生動物に踏まれて傷ついていたり、となかなか条件に合う枝は見つからない。 足下や頭上、手の届く範囲にばかり目を凝らすうち、自分がどんどんと森の奥に入り込んでいってることに、ウィルはまったく気づいていなかった。 望みのものがなかなか見つからないことに失望しても、絶望はせずに歩き続けていたウィルの目に、ついにお望みのものが現れた。これ以上ないってぐらいに枝ぶりのいい、大きなイチイの木が月の明かりにうっすらと照らし出されているのが見える。 ウィルは喜び勇んで、イチイの木の根元へと駆け寄った。そして、一番先に目に付いた枝に手を伸ばした。 が、その手が枝をつかむことはなかった。突然、なにか小さな生き物が腕に飛びかかってきて、枝に触れることなく空を切ったのだ。 「わっ!?」びっくりして飛び上がったウィルの前に、一匹の猫がいた。斑点模様で耳がすごく大きい。それに、尻尾がライオンみたいになっている。 猫じゃないっ!! ウィルは直感的にそう感じて二歩ほど後退った。 その猫そっくりな生き物は、イチイの大木の前に立ちはだかって、ウィルをじっと見つめている。 もう、襲ってくる様子はないので、ウィルはじっくりとその生き物を観察することにした。無視してまたイチイの木に向かう、それも考えたが生き物の透き通るように澄んだ目が、そんなウィルの動きを制していた。 ウィルはその目にあえて逆らおうとするほど、行動派の人間ではない。 よく分からないが、何となく。この生き物がウィルになにか伝えようとしているような気がした。その証拠に、この猫のような生き物は、ウィルがイチイの木に近づこうとすると遮るように動き、離れようとするとそこを動かずに見送るだけだった。 どうしても、イチイの木にウィルを近づかせたくないらしい。 「この木、なにかあるのかな?」確かに枝ぶりはいいし、結構な古木ではあるだろうが、それ以外にもなにかあるのだろうかとウィルは目を凝らした。 「別に、これと言って・・・・あれ?」別段、変わったところもなさそうだと思ったとき、おかしなことに気がついた。小枝が何本か、風もないのに揺れたのだ。 さらによく見ると、動く小枝のあるあたりの樹皮に、艶のある節が二つ見えた。その節が月の光を受けて光った瞬間、ウィルはようやくそれがなんなのかがわかった。 小さな生き物だ。20センチもないような生き物が木の幹に捕まってウィルを見ている。見ている、というより警戒しているのだ。姿形からして木に似ているところを見ると、木の上で生きる生き物に違いない。もしかするとここに住んでいるのかも知れない。 「これ以上近づくと、あれに襲われる? 危険なの?」目の前の猫のような生き物に訊いてみる。 その猫のような生き物は、うなずいた。見間違いではない。明らかに、ウィルの問いにうなずいてみせたのだ。 ウィルはそう信じた。だから、自然と足が今来た道を逆に歩き出す。この木を見た後では、他の木を探す気にならなかったし、そろそろ日付が変わった頃だ。先生たちに気付かれないように帰るためにはそろそろ城に戻らなくてはならない時間でもあった。
November 12, 2005
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天文学の授業は意外と楽しかった。かなり退屈しそうに思えたのだが、都会の喧噪から完全に隔絶されたホグワーツ城の天辺から見る空はとてもきれいで、星が手を伸ばせば届きそうなくらいに近くで輝いていた。 学科担当のシニストラ先生はとても無口な人だったが、まったく無感動な人というわけではなかった。天文学が魔法使いと魔女にどれほど重要な意味を持つ学科かを説明するとき、それは証明された。 何かの魔法をかけるとき、呪文とともに重要になる杖の振り方。それは星の運行が元になっているのだ、と誇らしげに言い。次に、占い学を専攻するにあたっては自分と占う相手の生まれた年、日、時間の星の位置を知ることが重要なのだということを、不本意なのだろう、嫌々説明したのだ。 星々の動きは常に一定で、不確実な事象などありえない。それが、占い学などという魔法社会において最も不確実なものに使われるなど、不愉快。というわけだ。もちろん、直接そう言ったわけではないが、聞いている人間にはそうとしか聞こえなかった。 「目的のところへ、たどり着けそうか?」 天文学が終わって、寮に帰るとレイブンクロー寮の守り番『守りの翼』が問いかけてきた。その問いに対する答えが合い言葉になっていて、答えられないと寮に入れてもらえない。 「一歩一歩進めば遠くまで行ける(step after step goes far)」淀みなくキャロルが答え、翼が閉じられる。寮の入り口が見えた。 ウィルはルビーとキャロルにおやすみを言って、自分のベッドに急いだ。眠かったからではない、その逆だった。目が冴えてとても寝る気になれない。 今夜は徹夜で『柚薬』の研究をしよう。そう、ウィルは決めた。 そのためにはどうしても必要なものが一つ欠けているのに、ウィルはベッドにたどり着く前に思い出した。ただ、それは日中はできないことだったから後回しにしていたのだ。 どうせ徹夜するのなら・・・、ウィルは踵を返して寮の外に出た。 『守りの翼』が鋭い視線を向けてきたが、なにも言わずに通してくれた。 明かりが落ちた廊下を歩く。薄暗くはあるが、静寂とは程遠い。周囲の絵たちのざわめきが聞こえていた。みんな話のわかる者たちらしく、こんな時間に校内を歩く生徒を見ても注意したり、騒ぎ立てたりする気はないようだ。 階段一つを降り、いくつかの隠し扉を抜けたとき、絵たちのざわめきとは違うはっきりとした声が聞こえ、ウィルは立ち止まった。 一つ先の曲り角、その向こうから聞こえている。何となく聞き覚えがあり、耳を澄ますと、聞き覚えがあるどころではないフレーズが耳に飛び込んできた。 「問題!」『霧の中のレイチェル』が誰かに問題を突きつけている声だった。こんな時間にもなぞなぞをやっていることに少なからず驚いたが、そっと覗くと相手はミセス・ノリスで、その横では頭に矢の刺さった『風穴のテリー』がにやにやと笑いながら、ウィルに今のうちに行け、と合図している。 「ありがとう」唇の動きだけで、そう言うとウィルは足音を忍ばせて先を急いだ。目の前、少し上のほうにはレイチェルのもう一人の友人『ペンキ屋トム』が自慢の大きな目を見開いて周囲に警戒の目を向けていた。 先導してくれているのだ。 その姿が突然消えた。と、上の階からビーブズが悪態を付く声が聞こえてきた。危うく、ビーブズに見つかるところだったのだ。 さらに階段を二つと、どう見たって絵画にしか見えない(それにしてはちっとも動こうとしないので、違和感はある)隠し扉を抜ける。途端に少し冷たい風がウィルの髪を巻き上げて吹き過ぎていった。ゴーストたちの協力のおかげで、ウィルは寮ばかりでなく、城をも抜け出すことに成功したのだ。 月明りに目を凝らすと、校庭の向こうに黒々とした森が見えた。『禁じられた森』、話によればこの森には幾多の魔法生物が棲んでいるはずだ。 歓迎会で、ダンブルドア校長が入ってはならない。とわざわざ注意したほどの場所でもある。
November 11, 2005
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森の住人 「学生じゃなかったってことなんじゃないの?」夕食の時、日記とメモのことを話すと、こともなげにキャロルが言った。 「先生ってこと?」一足先に食べ終えて、一息入れていたルビーが興味津々な顔で身を乗り出した。 「そうじゃなくって、ほら、この学校には教職員や学生よりも多くの[人たる存在]が居るでしょ」 言いながら、キャロルは塩ナメクジゼリーを突き刺したフォークで壁を指し示した。 大きな絵がかかっている。夜会服を優雅に着こなしたブロンドの美女の絵だ。そこに突然皺々の魔女の絵が加わり、寝ていたらしいブロンドの美女の髪を引っ張った。 「痛! ・・・バイオレット!! なんの用なの、なんの用にしても髪を引っ張るのはやめて、痛いじゃないの」憤慨すろブロンドの美女に皺々魔女は何事か囁いている。 そうだった。ここでは絵や鏡、いろんなものに意志があり名前がある。特に絵なんてかぞえるのがばかばかしくなるほど飾られているのだから、そのうちの一枚にドリーなるものがいる可能性は十分にある。 「それと、あの人、はここにはいないわね。だって家に帰るまでに薬を準備しなきゃってことは家に帰ってから薬を使うつもりだったに違いないわ。あの人ってのは自宅の近所にいたのよ」 これ以上ないってくらいに明快な解説だった。言われてみればまったく当たり前のことなのだ。 明快な解説の出た後は、明白な行動を起こすだけ。三人は明日から、校内の絵という絵全てを訪ねて歩く覚悟を決めた。ウィルとしては謎のままで放っておくのでは寝つきが悪くなるばかりだし、好奇心旺盛なルビーにとっては『面白そう』なだけで行動を起こすには十分な理由だったろう。 道に迷うであろう確信のもと少し(かなり)早く授業に向かった三人は、天文学の教室、一番高い塔のてっぺんがそうだったが、に行くあいだ一言も口をきかなかった。廊下の両側にある絵の枚数に、いまさらながら気の遠くなるような気分を味わっていた。壁一面に絵がある。絵がないところを探すほうが難しいほどなのだ。この中からたった一人のキャラクターを探さなくてはならないとなると・・・正直言って、やめてしまいたくなる。
November 10, 2005
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[七月三十日。 私、サマンサ・サンディスはホグワー ツからの入学許可の知らせをもらった。 わかっていたことではあるの、グラン パは以前、あの学校の理事も勤めていた し何代か前には校長だった人もいる家系 に生まれついた私が、魔女でないはずが ないんですもの。 でも、実際にそうなってみてうれしく ないわけではもちろんないわ。 だから、いつも研究室に籠もりっきり のパパが知らせを聞き、お祝いに日記帳 を買ってきてくれたのを機に、日記を書 き始めようと思うの。 来年の今頃には、この日記がホグワー ツの思い出で埋まっているといいんだけ ど。] ドライロットの娘が書いたものであるようだ。プライバシーの侵害かな?とノートを閉じようとしたウィルが、あることに気がつき、もう一度別のページを開いた。 厚い羊皮紙が一枚挟み込まれている。 まず羊皮紙に目を向けると、それは学生名簿だった。部外秘の印がしっかりと押されたホグワーツ校の名簿。その証拠に羊皮紙の中央にホグワーツ校の校章が描かれている。 だが、その名簿は今やなんの役にも立たなくなっていた。名前が全て線を引いて消されている。余りにたくさん線が引かれているために名簿と言うよりも黒い紙と言ったほうがいいくらいだ。 隅に乱暴な走り書きがあった。 『一体誰なんだ??』 誰かを探してでもいたのだろうか? 日記を見てみる。 [五月二十一日。 ついに今日、あの人に会いに行く方法 がわかったわ。 もうずいぶん前から話してみたいと思 っていたのになかなか出てきてくれない から、私から会いに行く方法がないか探 してたの。そしたらドリーが見つけてく れた。 ちょっと難しいけど薬も調合できそう だし、夏休みに家に帰るのが楽しみね。 それまでに薬を完成させなきゃ。 もう二カ月しかないんだもの。] サマンサの丸い文字の日記が書かれ、その下の余白にドライロットのものだろう書き込みがあった。 [前から会いたかった人? ドリー? 一体誰なのか、薬、間違いなく魔法薬 だ。一体何の薬だったのか、もしや、娘 の身体の変化は薬のせいかも知れない。 薬の副作用、または調合に失敗したの かも・・・この二人に会って話を聞けれ ばなにかがわかるかも。なのに、私には ここに書かれている二人が誰なのか見当 もつかない。娘のことはなんでもわかっ ているつもりだった。なのに・・・。 考えてみれば、研究室にばかり籠もり、 何一つ父親らしいことをしてやっていな かった。その罰だとでもいうのか。 手がかりを得たというのに、手も足も でない。私はなんという愚かものだろう。 考えられる限りの人間には会って話を 聞いた。だが何一つとして情報がない。 もう、私にはどうしたらいいのか分から ない。] 父親の悲痛な叫びが聞こえてくるような文面、文字だった。所々インクがにじんでいるのは涙のせいだったかも知れない。 あの真っ黒な学生名簿は、サマンサと関わった者ばかりでなく、同じ空間にいた全ての人間に一縷の望みをかけ、自ら聞きに走った結果なのに違いない。それでも見つけられなかった。それで、あの館へと挑む覚悟を決めた、のだろう。 思わず、涙が溢れそうになったウィルは、ややぎこちなく日記を棚に戻した。戻しながら、ふと思う。学生名簿に載っていなかった二人って本当に居たのだろうか、居たのだとしたらどこに居たというのだろう? このとき、首をもたげた疑問とウィルは正面から向き合ってしまい、その謎を解いてみたいという欲求に捕われてしまった。 ドライロットは一人で全てに挑んだ。もしかしたら視点が一カ所だけに集中していて他のものに目が行かず、大切ななにかを見落としていたのかも知れない。 肘掛け椅子に座り直し目をつぶって日記とメモの内容を反芻しながら、ウィルは自分の灰色の脳細胞の中に居るワトソンに声をかけた。「謎が僕を呼んでいるよ」と。 この瞬間、そこはドライロットの書斎から、ウィルにとってのべーカー街。某探偵事務所へと変化した。
November 9, 2005
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女子寮から男子寮に戻ったウィルはまっすぐ自分のベッドへ行き、ベッドの下から『七つ鍵のトランク』を引っ張り出して床に置いた。鍵の束を取り出して、七番目の鍵でトランクを開ける。 上からのぞき込むと手前に梯子、眼下には荷物の小山があった。オリバンダー翁に宿題を出された帰りに、買い揃えておいた『柚薬』の材料と鍋などの道具一式だ。 梯子をゆっくりと降り、とりあえず荷物の小山を片づける。鍋をかけるためのスペースを確保しなくてはならない。 もっとも、それほど広い空間が必要なわけではないから、材料を近くの空いてる棚に放り込んで火をかけるための竈をしつらえればいいだけだ。魔法薬の調合に使う火はある程度の魔法がかかっていて無駄に燃え広がったり、逆に消えてしまったりはしないものだから、周囲の可燃性のものにそれほど神経質になる必要はない。 大した手間もかからず、準備が終わるとウィルは初めて書斎の中を見渡した。ドライロットが座っていたであろう肘掛け椅子に体を預け、四方を囲む雑然とした棚を見渡す。 奇妙なものが入ったガラス瓶、ボロボロの本やノート、いわくありげな人形などの置物、一言で言ってしまえば「怪しい」物ばかりだ。 「あれ?」視線で書斎を一周していると、何か異様な違和感を感じ目を止めた。 薄汚れ、埃にまみれたものが多い中で異彩を放つ棚がある。椅子に座ったままでは死角になる位置にある棚とその一角だけが、やたらきれいに整理されていて埃もかぶっていない。 本来なら、他人のプライバシーに興味を持つウィルではないが、なぜか気になり棚へ歩み寄った。整然と並んでいる本の一冊に何気なく手を伸ばす、バシッ!・・・伸ばしかけた腕がまるで何かに弾かれるようにして後ろに飛んだ。衝撃でウィルは肩が外れるかと思ったほどだ。 しびれて動かなくなった右腕を押さえながら、もう一度棚を見ると上段部分に『跳ね返し呪文を使用中、一度目は良くても二度目は腕がなくなるぞ』とある。 誰かに見られたりしないよう魔法をかけてあるのだ。魔法を解けなければ見ることはもちろん触れることもできないというわけだ。 人の秘密を暴いて楽しむ趣味をウィルは持っていなかったから、がっかりはしなかったが「どうせならもっと分かり易いところに注意を書いておいてほしかった」と、腕をさすりながら恨めしく思った。 見せたくないんなら無理に見ることもない、ウィルが立ち去ろうとすると目の前に奇妙な光が舞った。光は徐々に光度を増し、見ていられなくなる直前になって思いがけないものへと変貌を遂げた。 「ドライロット・・・」 光は人の姿になっていた。それは紛れもなくこの部屋の主ドライロット、フレドリック・サンディスその人だった。 「我、フレドリック・サンディスの名において、この者に『絶対自由の許可』を与える。我が魔法我が呪いよ、いついかなるときもこの者を阻む事なかれ」受信感度の悪いラジオのようなノイズだらけの音がそう言って、ドライロットの姿は再び光となって舞った。 と、思う間もなく光は渦を巻いてウィルのしびれて動かない右腕、手の甲へと染み込むように消えた。後には薄くFの文字が残った ウィルはその一連の出来事を呆気に取られて見つめていたが、自分の腕が勝手に動き出したのを見て驚いた。さっきまでしびれて動かせなかった右腕からしびれが消えたと思っていたのに、しびれが消えたのではなく感覚がなくなっていて、自分の意志とは関係なく動き始めたのだ。 とっさに左手でその動きを止めようと考えたウィルだったが、右腕が何をしようとしているのかに気がついて、過度の緊張を解いた。右腕は、さっきウィルがしようとしていたことを再びしようとしていた。 コマ送りの映像のような動きで右腕が上がり、棚へと伸びる。また弾かれるのではないかという考えは不思議とおこらなかった。腕は『跳ね返し呪文』とかいう魔法の境界に触れ、水の中に手を入れたような感じだな、とウィルが思う間もなく、棚から一冊のノートを取り出していた。 かなり厚めのノート、それは日記だった。 ページを開くと、丸っこい小さな文字が踊るような字体で書き込まれていた。
November 8, 2005
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翌日はウィルたちにとっては学校内を知るいい機会になりそうだった。 授業が午前中しかなかったのだ。朝はちっちゃな魔法使いのフリットウィック先生が教える「妖精の魔法」で魔法の唱え方、発音方法と、記号の意味を習い。その後は唯一ゴーストが先生の「魔法史」だった。ビンズ先生は昔教員室で居眠りをしてしまい、翌朝起きてクラスに行くとき、その時はすでに相当の歳だったのだが、生身の体を教員室に置き去りにしてきてしまったのだ。 ゴーストにも給料は払われるのだろうか?つまらないことが気になるほど、先生が教科書を一本調子で読むだけの授業は堪らなく退屈だった。 ウィルは、この授業が昼食前であることを感謝した。ご飯を食べた後だったら確実に眠り込んでしまう。ある意味「闇の魔術の防衛術」同様、教科書を一人で読んでいるほうが覚えやすそうだ。 大広間での昼食の時、ウィルがそう言うとアイスブルーの瞳の周りを紅く充血させたキャロルが熱心に同意した。眠いのをかなり我慢していたようだ。(ルビーはいつものように全神経を注いで食事に励んでいて、話しなんて聞いてもいなかった。) 「ウィリアム、ちょっといいか?」キャロルと話していると同じレイブンクローの新入生ブート・テリーとブロックルハート・マンディに呼ばれ、ウィルは席を立った。二人が少し離れたところから手招きしている。 「なんだい?」ウィリアムじゃなく、ウィルでいいよ。と言い添えて聞く。 「午後から俺たち学校の中を探検してみようと思ってるんだ。一緒に来ないか?」深い藍色の目をきらきらさせてテリーが誘ってくれた。 こんなふうに誘ってもらったことのないウィルはすごくうれしかったのだが、横でマンディがちらちらとキャロルのほうを見ているのに気がつき、妙に納得してしまった。 本当はキャロルを誘いたいのだ。だけど紹介もされていない女の子に、直接申し込むのは気恥ずかしいので、ウィルを利用しようというのだろう。 「・・・キャロルがどうするつもりか聞いてきてみようか?」 少し皮肉っぽく、ウィルは言ってみたのだが二人ともそんなことは気にならないようで、熱心にうなずきウィルをキャロルのほうへと押しやった。 「午後はなにして過ごすの?」テリーとマンディの熱い視線を背中に感じながらウィルが訊いた。 「少し眠るわ。だって夜には天文学の授業があるのよ。魔法史みたいだったら、今度こそ起きていられる自信ないもの」キャロルらしい答えだ。キャロルの性格からすれば、各教室への道さえわかれば他がどうなっているかなんてのは興味ないことだろう。 聞くだけ無駄だったな。ウィルはキャロルの横の椅子に座り直しながら、後ろで見ている二人に交渉決裂のサインを送った。二人とも打ちのめされたような顔になって、他の生徒たちと一緒に大広間を出ていった。 それはいいとして、「天文学」? 驚いて、ウィルはローブのポケットから時間割りを取り出した。確かに、火曜の深夜に「天文学」とある。だから、午後は授業がなかったのだ。 「ウィルは?」 「うん。ちょっとやることがあって・・・部屋にいるよ」ウィルは、その必要がないことを知りながら言葉を濁した。 「『七つ鍵のトランク』で、杖作るの?」 ウィルは息を呑んだ。まさしく、その通りだったからだ。 すると、キャロルがちょっと悲しそうな目になったので、ウィルは急いで言葉を添えなくてはならなくなった。 「そうだけど。何をヒントにそんな簡単に当てられるの?」 軽い調子で訊いてみる。 「だって・・・」ウィルの質問にキャロルは少し首をひねりながら自分がした思考の軌跡を順に話し始めた。 「ここには自分の『部屋』なんてないでしょう? ベッドの脇をカーテンで仕切れるだけじゃ部屋とは言えないもの、なのに部屋って言った。それに『七つ鍵のトランク』を持っているのは知ってる、だから部屋ってのはトランクのことだってわかる。『やること』、勉強なら勉強って言うと思うの、第一それなら談話室でもいいんだもの。だから、人前ではしたくないことなんだなって思ったわ。そうなると思いつくのは『杖作り』しかなかった。それだけ」 それだけって・・・。 よくもまあ、そんなわずかな手がかりからそこまで、それも無意識のうちに考えられるものだとウィルはかなり感心してしまったが、キャロルにとっては呪われているかのようにつらいことなのだと思うと複雑な気持ちになった。 「じゃ、天文学のクラスで」キャロルに声をかけ、ウィルは立ち上がった。 「あ、待って! その前に手伝ってくれなきゃ」ウィルの言葉に数瞬小首を傾げたキャロルだったが、何かに気がついてちょっと困惑した様子でウィルを呼び止めた。 何事かと振り向くと、キャロルの視線の先でルビーが心地良さそうに寝息を立てていた。いつのまにか食事を終えて眠り込んでしまっていたらしい。 あまりにも気持ち良さそうな寝顔で、無理矢理起こすのがためらわれる。と、なれば方法は二つしかない。ここに置いていくか、寮のベッドまで運んであげるか、だ。もちろん、ウィルは後者を選んだ、親友としては置いていくという選択肢は選べない。そんな選択肢があることさえ、ウィルは気がつかなかった。 ウィルはローブから杖を取り出し、杖先をルビーに向ける。人間相手に魔法を使うのはすごく気を使ったが、軽量化の魔法は今回もうまくいった。そっと抱き上げ、キャロルと並んで寮へと歩き出した。 ウィルたちと同じように午後の授業がないレイブンクローとハッフルパフの一年生は校内のあちこちに出かけ、他の生徒はみな授業なので、ウィルは女の子を抱きかかえているところを見られて冷やかされずに済んだ。 一つだけ例外を上げるなら一人、というか一体、歓迎会のときウィルの傍に居たゴーストが女子寮をフワフワ漂っていた。彼女は決して声をかけてきたりはしなかったが、ウィルがルビーをベッドにそっと寝かすのを大きな目をさらに大きく見開いてじっと見つめ続けていた。 ルビーのベッドには手の平くらいのミニチュア模型のユニコーンが三頭いて毛布に包まっていたが、ルビーを抱えたウィルを見ると慌てて枕のほうへと避けた。 「じゃ、夕食のとき大広間でね」 ルビーに毛布をかけてやりながらキャロルがさっきのウィルの言葉を訂正するように言って、そっと微笑むと今度は自分のベッドに向かった。その表情と口調から、まだかなり眠いのだということがわかる。
November 7, 2005
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「思ってたほど大したことないね」 夕食のあと、談話室のテーブルに付いたときのルビーの第一声だ。(彼女は、大広間では食べるのに夢中で何かを喉に放り込むとき以外は口を開けなかった。)難しくて逃げたくなることを期待してでもいたのか、とても残念そうだ。 「そうね・・・でも、こんなもんなんじゃない? だって、私たちが習うのは特別なことじゃないもの。魔法族の大人なら誰でも知ってる知識よ。もちろん技術は練習しなきゃ身に付かないでしょうけど。わけがわかんないってほどのものなんてあるはずない」 「僕にとっては、未知の世界なんだけど?」 キャロルのもっともな言葉に心の中でうなずきつつもウィルが言った。ダイアゴン横町に行く前は言葉や文字も違うんじゃないかと心配していたほどなのだ。 「そんなことない! 同じ国に住む同じ人間でしょ? 腕が三本あるわけでもないし、何も違わないわ。文化の基本が魔法か・・・何だっけ?・・・えっと・・・あ!「科学」、そうよね? かの違いがあるだけよ」 少し驚いてウィルはキャロルを見つめた。初めて身を乗り出して熱心に話すのを見たのだ。 「でもでも、ドライロットは闇の魔術と対抗するために自分にいろんな魔法をかけたって言うよ?」 「あの人は特別よ、・・・特別だったわ」 だった、過去形を強調してキャロルが言う。少し寂しげに声が震えた。沈痛な空気が流れ、沈黙が広がる。 ウィルは何となく居心地の悪さを感じて、妙に落ち着かなかった。初めに親友という言葉を使ったのはウィルだ。なのに、その親友の会話に付いていけないもどかしさを感じていた。 「ドライロットって、誰?」しばらく続いた沈黙に耐え兼ね、ウィルが聞いた。 驚愕の顔でルビーがウィルを見つめ、キャロルはハッとしてウィルに向き直った。 「ごめん、ウィル、知らないわよね。魔法界では割と有名な人なの。「例のあの人」が暗躍していたとき、「例のあの人」の陣営に加わろうか迷っていた闇の魔法使いのほとんどを倒したって聞くわ。もし彼がいなかったら、あのハリー・ポッターが生まれるより早く、魔法界は「例のあの人」のものになっていただろうっていわれてるの」 「わたし、写真持ってる!」 突然立ち上がったルビーがそう叫ぶと、あっというまに女子寮のほうへと走り去った。 ガシャガシャとトランクをひっくり返す音とぺネロピーがなにか叫ぶ声が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間には大きな声で謝りながら再び走ってくる足音が聞こえた。 「これよ、これ!」ルビーが突き出した手に握られていたのは古い新聞だった。表になっている紙面には小さなモノクロの写真が載せられていた。 傷だらけの顔で、時折自嘲気味に笑う初老の男。 「この人!?」ウィルは驚いて新聞をルビーの手からひったくった。モノクロだから目や髪の色は分からないが、その写真の男は間違いなくウィルに『七つ鍵のトランク』をくれた人物だった。 急いで記事を読んだ。 三つの赤、消える 二十年に渡り、闇の魔術や呪いと対決 し続けていた男。常に影で活躍し続けて きたドライロット、本名フレドリック・ サンディス、その活動についに終止符が 打たれる時がきた。 去る七月二十九日、彼の館を調べてい た彼は、とうとう呪いに捕まったらしい。 翌日、ダイアゴン横町に姿を現した彼は、 片腕を失っており、呪いを取り除き切れ なかった肌は土気色だったと伝えられる。 「全て終わった」 知らせを聞きつけて駆けつけた魔法省 の役人に対して、それだけを言い残し、 彼は姿を消した。 恐らくは、友人のミルボーン・クリス トファー氏のもとへ向かったのだろう。 氏はこの二十年フレドリック氏の奥方を 預かり世話をし続けている。 ついに救うことのできなかった妻と娘 に、最後の別れを告げるのだろう。 悲劇は、悲劇のままで幕を下ろすこと になりそうである。 「僕、彼からトランクをもらったんだ」 ルビーとキャロルにグリンゴッツでのことを話して聞かせながら、あの老人がウィルが思うよりも有名で力のある魔法使いだったことを認識した。 ウィルが考えている以上に、トランクを貰ったという事実には重い意味があるのかも知れない。
November 6, 2005
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道もそうだが、何よりも重要なのは魔法の授業が行なわれる、ということだった。魔法族の家庭で育った子ばかりではない、マグルの家の子もいる。そういう子たちにとって魔法は未知のものだ。どんな授業が行なわれるのかと、不安を隠し切れないでいた。 その不安を取り除いたのは、初日(月曜)の午後にあった「薬草学」だった。ずんぐり小柄なスプラウト先生が担任の教科だが、城の裏にある温室での一回目の授業の題材は、魔法族もマグルにとってもなじみ深いハーブの特性と効能だった。午前中にあったマクゴナガル先生の「変身術」では、教室に入った途端に机が羊の群れになって生徒たちを迎え、散々ノートを取らさせられた挙げ句にマッチ棒を針に変える練習が行なわれたのだが、だれ一人満足に変身させられずに全員揃って自信を喪失していただけに、見慣れたハーブが心を和ませてくれたのだった。 その後の「闇の魔術の防衛術」も肩透かしだった。言葉からして、相当レベルの高い難しい授業になるだろうと思われたのに最初の授業、二時間に渡るクィレル先生の講義で得られたものは先生は一言発する度におびえて吃るので、言ってることを理解するためには教科書と照らし合わせなくてはならない、ということと吸血鬼はニンニクが嫌いだ、ということの二つだけだった。そんなのは幼稚園児の妖怪辞典にだって載っていることで、学校で講義してもらうようなこととは思えなかった。
November 5, 2005
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魔法の授業 翌日、朝起きた瞬間からウィルたち一年生は困難にぶつかった。食事にすら行けないという事実を突きつけられたのだ。 食事は全て、全寮生の集まる大広間にて行なわれる。なのに、一年生は道をまったく覚えていなかった。先輩に聞けばいい、そう軽く考えていたのに先輩たちは一様に道順を口で教えはするが、つれてまでは行ってくれないのだ。 学校内の秘密は自分の身で体験して知るべし、それがホグワーツ開校以来の伝統なのだと言う。 そう言われて、ウィルは途方に暮れてしまった。ホグワーツには一四二もの階段があった。広い壮大な階段、狭いガタガタの階段、金曜日にはいつもと違うところへつながる階段、真中辺りで毎回一段消えてしまうので忘れずにジャンプしなければならない階段・・・。扉もいろいろあった。丁寧にお願いしないと開かない扉、正確に一定の場所をくすぐらないと開かない扉、扉のように見えるけど実は硬い壁が扉のふりをしている扉。物という物が動いてしまうので、どこに何があるのかを覚えるのもたいへんだった。肖像画の人物もしょっちゅう訪問しあっているし、鎧だってきっと歩けるに違いない。 要するに、目印のつけようがなく。ほとんど勘で歩くことになる。目を頼るな、と言う教えのつもりなのか、それとも遊園地のびっくりハウスをまねて作られてでもいるのか・・・昨夜の歓迎会の時のダンブルドアの挨拶の突飛さを思うと、何となくウィルには後者なように思えたが、どちらにしても迷惑な話しだった。 幸い、迷いそうなときウィルにはゴーストの道案内が付いていたが、なぞなぞ形式でだから答えを見つけるのはそれほど楽ではない上に、凍りつくような寒気と一対のものだったからウィルとしては、凍えてしまう前に道を覚える必要を強く感じずにはいられなかった。 それにホグワーツでは道を覚える以外にもいろいろな障害を潜り抜けなくてはならなかった。 そのうちの一つであるゴーストは寒気さえ我慢すれば害はない。それどころか道を教えてくれたりもする親切さも持っている。スリザリン寮に住む陰気なゴースト「血みどろ男爵」にだけは話しかける気になれないにしてもだ。 だが、ポルター・ガイストのビーブズとかいうのだけは始末が悪かった。「霧の中のレイチェル」に言わせるとビーブズは厳密に言えばゴーストではないらしい。確かに見た目からして違う、ゴーストたちは白く透き通るような色なのに、ビーブズは青かったり紅かったり、着てる服も毎回違ってる気がする、が、そんなことはどうでも良かった。問題なのは、こいつの性格の悪さだった。教室だろうが廊下だろうが、寮の中だろうがおかまいなしで突然頭の上でバケツの水をぶち撒けたり、段が消えてしまう階段のところでジャンプした途端ローブを引っ張ったり、考えられる限りのイタズラをするのだ。 中でもやっかいなのが、管理人のアーガス・フィルチを巻き込んだときだ。ビーブズはともかくフィルチの方はビーブズを憎み切っているのだが、それでも規則違反をする生徒よりはマシと考えているようで、ビーブズに追われて逃げ込む先で待ち構えていて、実際はビーブズがフィルチのところへと生徒を追い込むのだが、地下牢に閉じ込めるとか塔の上から逆さづりにするぞと脅すのだ。生徒たちへのお仕置が好きで堪らないらしい。 そんなだから、ビーブズなしでもフィルチはやっかいだ。フィルチはミセス・ノリスという、やせこけたほこりっぽい色で目はフィルチそっくりのランプみたいな出目金の、猫を飼っている。ミセス・ノリスは一人で学校内を見回り、規則違反をする者を見つけるとすぐにフィルチにご注進、二秒後にはフィルチが息急切って駆けつけて来る。 フィルチは秘密の階段を誰よりも知っていて、ゴーストと同じくらい突然目の前に現れた。生徒たちはみんなフィルチが嫌いで(もちろんフィルチの方でも生徒を嫌っている)、ミセス・ノリスを一度しこたま蹴り飛ばしたいというのが密かな熱い願いだった。
November 4, 2005
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まだ組分けが済んでいないのはあと三人だけになった。「ターピン・リサ」もレイブンクローになった。ルビーの隣に座った。次の「ウイーズリー・ロン」はグリフィンドールに、「ザビニ・ブレーズ」はスリザリンに決まった。マクゴナガル先生はクルクルと巻紙をしまい、帽子を片づけた。 アルバス・ダンブルドアが立ち上がった。腕を大きく広げ、みんなに会えるのがこのうえもない喜びだというようにニッコリ笑った。 「おめでとう! ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」ダンブルドアは席につき、出席者全員が拍手し歓声を上げた。ウィルは完全に、緊張を緩和されてしまった。城の壮大さや、年代を感じさせる装飾に少なからず気圧されていたのが嘘のように消えていく。 それを計算して、こういう突飛な挨拶をしているんだとしたら・・・すごい切れものと言うところだけど、単に常識外れなだけかも知れない。 「わぁお!」 ルビーの歓声で視線を再びテーブルに戻した。一瞬、言葉がなかった。目の前にある大皿が食べ物でいっぱいになっている。 「私からも、おめでとう!を言わせてもらうわね。・・・問題!今日から、昨日までと比べられないくらい増えるのはなぁ~んだ?」 再び、あのゴースト少女が問題を出題してきた。銀色の瞳がウィルを見つめている。何故か気に入られてしまったらしい。 ウィルには答えがなんなのか、考えるまでもなくわかったが即答せずに、答えを待つレイブンクロー生全員を視線で一撫でして微笑んだ。 「家族!」 マクゴナガル先生も言っていた。学校では寮生全てが家族のようなものだ、と。 もちろん、正解だった。一瞬にして、新入生の歓迎会は家族の団らんの場となり、あちこちで談笑の花が咲いた。 家族の話し、授業の話し、話題に困ることはなさそうだ。おそらく、ウィルのいる辺りが一番静かだったろう。ルビーは無我夢中で出てきた料理を端から食べ尽くそうとしているし、キャロルはロジャーとかいう上級生に取り分けてもらったステーキと格闘を演じている。彼女には大き過ぎたらしい。 そして当のウィルに至っては何人ものゴーストに取り囲まれ、冷凍庫に放り込まれたような気分になっていた。 「問題!」先刻からウィルにつきまとっていた、やたら問題を出す少女。『霧の中のレイチェル』と言う名だそうだが、この子は相変わらず問題を出し続けているし、『夢見るドロシー』は一言もしゃべらずにウィルの目を見つめている。後の二人、頭に矢の刺さった『風穴のテリー』とやたらと目が大きい『ペンキ屋トム』は少し離れたところからウィルを見てニヤニヤ笑いながら浮いていた。 あまり気分のいいものではない。なぜ鳥肌が出ないのか、ウィルにはとても不思議だった。 食べ物が消え去り、お皿が前のようにピカピカになった。まもなくデザートが現れ、ありとあらゆる味のアイスクリームが出てきたがウィルには自分もアイスになりそうな気がしてとても食べる気にはなれなかった。 それでも、なんとか体の冷えを防ごうとアップルパイを一切れ手に取ったところで、耳元で悲鳴が上がった。 「きゃー! ペネロピー、大変よ!!」 びっくりして振り返ると、一つか二つ年上の女の子がウィルを目を見開いて見つめていた。 どうせなら笑いかけてほしいな、そう思ったウィルの耳に別の声が割り込んできた。 「どうしたの? チョウ」更に年上の女の子が駆けつけてきて、同じように目を見開いて立ち尽くした。 「なんてこと! あなたたち離れなさい!! この子を凍死させる気!?」ゴーストたちに向かって叫んで、追い散らすと、その女の子はテーブルを片手で軽く叩いた。 「ホットココアを一つ!」 一瞬の間を置いて、暖かな湯気を立てる甘い香りの液体を入れたゴブレットが現れた。 「さ、これを飲みなさい! 死人みたいな顔になってるわよ」 チョウと呼ばれてた子が、ゴブレッドをつかんでウィルの口元まで運んでくれた。ウィルはそれを受け取ると、一口すすった。途端に、全身に感覚が戻ってきた。凍りついていたのが解けた感じがする。ウィルはゆっくりと熱いココアを飲み干し、ほっと息を吐いた。 ウィルが何も食べないうちにデザートは消えてしまい、ダンブルドア先生がまた立ち上がった。広間中がシーンとなった。 「エヘンー全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、また二言、三言。新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。一年生に注意しておくが、構内にある森に入ってはいけません。これは上級生にも、何人かの生徒たちに特に注意しておきます」 ダンブルドアはキラキラッとした目でグリフィンドール寮のほうを見た。 「管理人のフィルチさんから授業の合間に廊下で魔法を使わないようにという注意がありました」 「今学期は二週目にクィディッチの予選があります。寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡してください」 「最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません」 ルビーが微かに笑い、キャロルが硬直した。ペネロピーが理由の説明もなしに立入禁止なんて変だとか別の誰かと囁いているが、ウィルはまったく違うことを考えていた。魔法世界に入って初めて、意味の分からない言葉に出会ったのだ。 クィディッチって、なんだろ? 「では、寝る前に校歌を歌いましょう!」 ダンブルドアが声を張り上げたので、ウィルは考えるのをやめた。予選だとか、チームだとかいう単語の出るものに自分が関わるはずがない。 ダンブルドアが魔法の杖をまるで杖先に止まったはえを振り払うようにヒョイと動かすと、金色のリボンが長々と流れ出て、テーブルの上高く昇り、ヘビのようにくねくねと曲がって文字を書いた。 「みんな好きなメロディーで。では、さん、し 、はい!」 学校中が大声でうなった。 ホグワーツ ホグワーツ ホグホグ ワッワッ ホグワーツ 教えて どうぞ 僕たちに 老いても ハゲても 青二才でも 頭にゃなんとか詰め込める おもしろいものを詰め込める 今はからっぽ 空気詰め 死んだハエやら がらくた詰め 教えて 価値のあるものを 教えて 忘れてしまったものを ベストを尽くせば 後はお任せ 学べよ脳みそ 腐るまで みんなバラバラに歌い終えた。ウィルは歌詞を読むので精一杯だったし、キャロルは周りの大音響に驚いて呆然と立ち尽くしていた。一年生のほとんどがそんな感じで、ウィルの見る限りルビーだけが陽気に歌っていた。あえて、どんなメロディーかとは言わないけど。 「ああ、音楽とは何にも勝る魔法じゃ」 いったい今の歌のどこに感激したのか、涙を拭いながらダンブルドアが言った。 「さあ、諸君、就寝時間。駆け足!」 ダンブルドアの声に一番早く反応したのはグリフィンドールだった。ざわめく人混みの間を突っ切って広間を出ていく。次いでスリザリンが整然と立ち去り、次がレイブンクローだった。 さっきホットココアをくれたぺネロピーという上級生が先頭に立って誘導している。 ウィルはなんとか道順を覚えようと辺りに目を配りながら列に付いて歩いたが、いくつかのドアを通りぬけ、廊下を二度ほど折れたところで断念した。何しろドアに見えるのが絵だったり、絵が扉だったり、しまいには今通ったはずの廊下が次の瞬間振り向くと消えていたりするのだ。複雑すぎて一度では覚えきれそうになかった。 「さあ、着いたわ」 ぺネロピーの声で目を向けると、そこには大きな双頭の鷹の像が翼を広げて生徒たちを待ち受けていた。 「食事は済んだか?」 その鷹が重々しく聞いた。 「stange how a good dinner reconciles everybody.(いい食事をすると、みんな仲良くなれる)」 ペネロピーがそう応えると、鷹は広げていた翼を閉じ、その後ろに左右一つずつ細い亀裂があるのが見えた。みんな一人ずつその亀裂を潜り抜けた。三年生のジョーゼフ・ジェイコブズというのが途中つっかえてしまい、みんなに笑われていた。 亀裂はレイブンクローの談話室につながっていた。正三角形の部屋に木製の肘掛け椅子と、円形のテーブルがたくさんあって、真中の奥、正面の角に大きな暖炉があった。 左右の角にはドアがあって、右が女子寮、左が男子寮に続いているとペネロピーが言い、その指示でそれぞれの部屋に入った。ウィルはルビーとキャロルにおやすみを言うと、鉛のように重くなった足を引きずってあてがわれた部屋へ向かった。 部屋は大きな広間を厚い藍色のビロードのカーテンで間切りしてあるだけのもので、カーテンの中には天蓋付きのベッドが五つ置いてあった。 荷物はもう届いていた、みんなものも言わずにパジャマに着替え、ベッドに潜り込んだ。 隣に誰がいるのかも分からないまま、眠りにつく。明日から、いよいよ授業が始まる。その興奮も眠りをさまだげることはできなかった。ウィルは夢も見ずに熟睡した。
November 3, 2005
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マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻紙を手にして前に進み出た。 「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けてください」 「アボット・ハンナ!」 ピンクの頬をした、金髪のおさげの少女が、転がるように前に出てきた。帽子をかぶると目が隠れるほどだった。腰掛けた。一瞬の沈黙・・・ 「ハッフルパフ!」と帽子が叫んだ。 右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、ハンナはハッフルパフのテーブルに付いた。太った修道士のゴーストがハンナに向かってうれしそうに手を振るのが見えた。 「ボーンズ・スーザン!」 帽子がまた「ハッフルパフ!」と叫び、スーザンは小走りでハンナの隣に座った。 「ブート・テリー!」 「レイブンクロー!」 今度は左端から二番目のテーブルに拍手がわき、テリーが行くと何人かが立って握手で迎えた。 次の「ブロックルハースト・マンディ」もレイブンクローだったが、その次に呼ばれた「ブラウン・ラベンダーが」が初めてグリフィンドールになった。一番左端のテーブルからはじけるような歓声が上がった。「ブルストロード・ミリセント」はスリザリン。「フィンチーフレッチリー・ジャスティン」はハッフルパフだった。 前のほうにいた「フィネガン・シェーマス」は、まるまる一分間椅子に座っていて、それからやっと帽子は「グリフィンドール」と宣言した。 「ゴールドマン・ウィリアム!」 いよいよウィルの番だ。ウィルはルビーの微笑みと、キャロルの片手を上げての挨拶に引きつった笑顔で応えて前に進み出た。 帽子が目許まで落ちて、ウィルは帽子の内側の闇を見た。 「フーム」低い声がウィルの耳の中で聞こえた。 「知性に満ちている。苦労をいとわない忍耐もある。他人のために力を尽くす勇気も持っている。・・・ふむ、知識を吸収しようという貪欲な欲望もあるな・・・知識欲、か。ならば・・・レイブンクロー!」 ウィルは帽子が最後の言葉を広間全体に向かって叫ぶのを聞いた。帽子を脱ぎ、ウィルはレイブンクローのテーブルへと急いだ。 何百もの視線に晒されることに、慣れてなかったし、どちらかと言えば嫌いだったから。 レイブンクローの寮生たちが何人か立ち上がって握手を求めてきたり、肩を叩いたりして歓迎してくれた。ふと見るとテーブルの上のあたりに、さっきの少女のゴーストがフワフワ浮いて微笑んでいた。 組分けの儀式はどんどん進んだ。うれしいことにルビーとキャロルもレイブンクローだった。正直、キャロルはともかくルビーは違う所になるんじゃないかと心配していたから、とってもホッとした。 ようやく気持ちが落ち着いてきてテーブルに目を向けると空っぽの金の皿がいくつも置いてあった。ウィルは、食べかけだった『漏れ鍋』の弁当のことを思い出した。 その時、広間全体の空気が変わった。ザワザワと話し声のしていた広間にシーッという声が広まり、シンッと静まり返ったのだ。 「ハリー・ポッターだって・・・」誰もが息を呑んで組分け帽子をかぶった少年を見つめている。 息の詰まるような数分が過ぎた。 「・・・グリフィンドール!」ずいぶん時間がかかって結論が出た。帽子を脱いだその男の子は、黒髪で少しヨレた感じの眼鏡を掛け、額には・・・さきほどまで聞いていた噂通りの稲妻型の傷があった。 グリフィンドールのテーブルからひときわ大きな歓声があがった。 「ポッターを取った!ポッターを取った!」 ウィルのようにマグル出身のものには理解できないが、魔法族の家庭で生まれ育ったものには相当に大きな存在であるらしい。 見かけはちっとも強そうじゃない。それどころかひ弱にすら見える男の子をウィルは目で追いかけた。ハリーは襟服のゴーストと向き合って座り、腕に触れられたようで身を強ばらせていた。 ハリーが顔を上げ、何かを見た。視線を追って始めて、ウィルは来賓席を見た。端っこにあの巨体が座っていて、ハリーの視線に気付くと親指を上げて「よかった」という合図をしていた。ハリーも笑顔を返している。 来賓席の真中で金色の椅子に座っているのがアルバス・ダンブルドア校長だろうということは、容易に察することができた。あの顎髯に口髭で、ただの管理人だ、なんてことがあるはずない。『漏れ鍋』にいたクィレル先生もいた。大きな紫色のターバンを付けた姿がひときわへんてこりんだった。
November 2, 2005
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「さあ行きますよ」厳しい声がした。 「組分け儀式がまもなく始まります」 マクゴナガル先生が戻ってきたのだ。ゴーストが一人ずつ壁を抜けてフワフワ出ていった。 「さあ、一列になって。ついてきてください」マクゴナガル先生が言った。 足が鉛になったように妙に重かった。ウィルの前にルビーが並び、後ろにキャロルが続いた。一年生は部屋を出て再び玄関ホールに戻り、そこから二重扉を通って大広間に入った。 そこには、ウィルが夢にも見たことのない、不思議ですばらしい光景が広がっていた。何千というろうそくが空中に浮かび、四つの長テーブルを照らしていた。テーブルには上級生たちが着席し、キラキラ輝く金色のお皿とゴブレッドが置いてあった。広間の上座にはもう一つ長テーブルがあって、先生方が座っていた。マクゴナガル先生は上座のテーブルのところまで一年生を引率し、上級生の方に顔を向け、先生方に背を向けるかっこうで一列に並ばせた。一年生を見つめる何百という顔が、ろうそくのチラチラする明かりで青白い提灯のように見えた。その中に点々と、ゴーストが銀色の霞のように光っていた。みんなが見つめる視線から逃れるように、ウィルが天井を見上げると、ビロードのような黒い空に星が点々と光っていた。 「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」前のほうで誰かがそう言うのが聞こえた。 そこに天井があるなんてとても思えない。大広間はまさに天空に向かって開いているように感じられた。 マクゴナガル先生が一年生の前に黙って四本足のスツールを置いたので、ウィルは慌てて視線を戻した。椅子の上には魔法使いのかぶるとんがり帽子が置かれた。アンティークって言ってあげたいのは山々だけど・・・ぎりぎりゴミじゃないって方が近そうだ。 一瞬、広間は水を打ったように静かになった。すると、帽子がぴくぴく動いた。つばのへりの破れ目が、まるで口のように開いて、帽子が歌い出した。 私はきれいじゃないけれど 人は見かけによらぬもの 私をしのぐ賢い帽子 あるなら私は身を引こう 山高帽子は真っ黒だ シルクハットはすらりと高い 私はホグワーツ組分け帽子 私は彼らの上をいく 君の頭に隠れたものを 組分け帽子はお見通し かぶれば君に教えよう 君が行くべき寮の名を グリフィンドールに行くならば 勇気ある者が住まう寮 勇猛果敢な騎士道で 他とは違うグリフィンドール ハッフルパフに行くならば 君は正しく忠実で 忍耐強く真実で 苦労を苦労と思わない 古き賢きレイブンクロー 君に意欲があるならば 機知と学びの友人を ここで必ず得るだろう スリザリンではもしかして 君はまことの友を得る どんな手段を使っても 目的遂げる狡猾さ かぶってごらん! 恐れずに! 興奮せずに、お任せを! 君を私の手にゆだね (私は手なんかないけれど) だって私は考える帽子! 歌が終わると広間にいた全員が拍手喝采をした。四つのテーブルにそれぞれをお辞儀して、帽子は再び静かになった。 組分けの儀式は帽子をかぶるだけでいいらしい。キャロルの推察は見事に的を射ていたわけだ。
November 1, 2005
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