ビストロフの橋

ビストロフの橋

November 22, 2005
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テーマ: 連載(82)
カテゴリ: カテゴリ未分類
 「グリフィンドールになら頼んでみるのもいいかも知れないわ」
 同じことを考えていたのだろう、ホットミルクの入ったマグカップを両の手の平で包むように持って、口元に運びながら、ポツリと言った。
 「うん。でも・・誰もいないよ。寮の場所知ってる?」広間を見渡し、ウィルが聞く。広間にはもうウィルたち三人しか残っていなかった。
 「はい! はいはーい。ルビー知ってるよ」
何枚ものお皿を重ねた小山の向こう側で両手を挙げてルビーが飛び跳ねている。
 一抹の不安を感じてしまうが、ウィルたちはルビーの案内でグリフィンドール寮へ向かうことになった。
 「それにしても、ルビーはなんでグリフィンドール寮の場所知ってるの?」
 石の廊下を歩きながら、キャロルが聞いている。
 「え? えへ、えへへへへへ・・・・」ルビーははにかむような、困ったような顔で笑い。イタズラっ子みたいな微笑みを浮かべたまま、理由を話し始めた。


 二日前のことだった。
 ルビーはトイレに行こうとしていた。
 階段をもう一つ上れば、三階に一度も入ったことのない場所だったが、トイレがあったはず、と歩を早めたルビーの耳にとても楽しげな声と、苛立ったような声が聞こえた。
 階段を上り切らずに手摺の陰から覗くと、ずんぐりとした女の子のゴーストとレイブンクローの監督生、ぺネロピー・クリアウォーターが立ち話をしているようだった。
 「マートル。あなたがゴーストになって城の中をうろうろするのはかまわないわ。あなたにだって存在する権利はあるんだから、でもね。トイレを自分の部屋として独占されたんじゃ、他の生徒に迷惑なの。やめてもらえないかしら」穏やかな口調の中に、怒りや不満、軽蔑といった感情が隠れているのがルビーにすらわかる声と表情だった。
 「あら、私独占なんてしてないわ。あなたも入っていいのよ、誰もいないトイレでニキビに薬を塗りたいんでしょう?」ぺネロピーとは対照的に楽しげな声が弾んでいる。
 「ニキビ、コキビ、ニキビーっ。私も生きてる頃には、みんなにそう言われたものよ。死んでも生きてた甲斐があるわね、私が他の人にこれを言える日が来るなんて思わなかったわ」ダラーッと垂れた猫っ毛と、分厚い乳白色のメガネも一緒になって弾んで、普段は陰気に沈んでいるらしい顔が笑っているので、変なふうに歪んでいた。
 ぺネロピーは反論しなかった。見てるルビーが恐くなるような顔になって、マートルを睨み付けている。
 「何をしてるんだ?」
 ルビーとは逆に、下りてくる階段の途中で言い争うのを耳にしていたらしい男の子が、しかめっ面で現れた。
 「・・・パーシー」ぺネロピーが少し上擦った声で事情を説明し始めた。

 「違うだろ」妙に焦った様子で話すぺネロピーを手で制して、パーシーはぴしゃりと言った。
 「ニキビに薬を塗りに来て、マートルに見つかったから、そう言ってるんだろ?」
 そう言ってパーシーがぺネロピーから視線を外してトイレの入り口のほうを見たので、ルビーも視線を追いかけてみた。するとそこには小さなチューブが落ちていた。
 小さな文字で『ドクター・トクルのニキビ薬。~これであなたの顔もつるつるのすべすべに~』と書いてあるのがどうにか読めた。
 「僕らの年ならニキビの一つや二つ、出るのが当たり前なんだ。隠そうとするなんてどうかしてるよ」冷ややかにすら感じる口調だった、でも、その表情は穏やかで、とても優しかった。

 パーシーの口調はあくまで静かで、挑発したり侮辱したりしているものではなかった。 でも、マートルにとってはそんな客観的な事実より、自分の主観のほうが正しいようだ。 さっきまでの歪んだ笑顔が泣き崩れ、メガネの奥から大粒の涙が伝っている。
 「そうよ、そうよ、私はどうせ性格悪のブスだわ。生きてたときはみんなにバカにされ、死んでからは嫌われ者なの。私、私、存在してるべきじゃないんだわ」ワッ、と泣き出したかと思うと、トイレのドアを吹き飛ばして中へ消えていった。
 中から少しくぐもった泣き声と叫びがしばらく聞こえていたが、水の流れる音とともに、それも消えた。
 「まったく、狂ってるよな」パーシーが一人呟く。その声に、小さなうめき声が重なった。
 ぺネロピーが立ち上がろうとしている姿のままでローブをたくしあげ、右の足を押さえている。吹き飛んだドアの破片があたったらしい、血は出ていないが青く変色しかけていた。
 「ママ特製の薬がある、僕らの寮においでよ。医務室に行くより近い。ママの薬はよく効くんだ、なにしろ僕のすぐ下の弟たちときたら、年中どこか怪我してるんだから」
 そう言って手をさしのべたパーシーを、一瞬気恥ずかしそうに見たぺネロピーだが、なにも言わずにパーシーの手を取り、肩にもたれてグリフィンドール寮へと向かった。





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Last updated  November 22, 2005 08:44:56 PM
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