ビストロフの橋

ビストロフの橋

October 3, 2005
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テーマ: 連載(82)
カテゴリ: カテゴリ未分類
 十五年後。
 『あの人』がわずか一歳の子供の前に破れ去り、姿を消してから四年が経っていた。
 人々はようやく明るさを取り戻し、平和な時が流れていた。『あの人』がいたことを思い出させるのは、みなが集まり、乾杯をするとき必ず最初に出る言葉だけとなっていた。
 「生き残った男の子、ハリー・ポッターに乾杯」ポッター夫妻をよく知る人たちは、誰にも好かれた二人の死を悼み、ハリーの幸せを祈ったし、知らない者たちにしても、幼くして大人でさえも耐えられない運命とも言うべき重荷を背負ってしまった、背負わせてしまったハリーに少なからず負い目を感じていた。自分たちがもっと強ければ、彼は両親を失わずに済んだのだ。
 そして、彼らは決して幸せそうではない、ハリーの目撃談を話しあうのだった。
 男はそんな人々の輪から離れたところに座り、いまだに生死を彷徨う娘と現実から逃れた妻を思った。彼女たちのほうがよほど不幸せだろうに。
 彼女たちは、自分が幸せでないと考えることすらできないのだから。

 二十年後。
 男は、まだあの館の書斎を目指していた。

 白く積もった埃の向こうに黒塗りの重厚な扉、その先に目指すものがあるはずだった。
 だが、結局。男は扉を開けることができなかった。十数年の間、目指し続けていたものを目にしたとき、男の中に焦りがあったことは否定できない。
 あと一歩。あと一歩で書斎にたどり着ける、そう思ったその時、右腕に痛みを感じた。針で刺したようなものだったが外傷はなかった。
 呪いが、呪いがついに男の腕を捕えたのだ。
 男は急いで解呪を行なった。だが、無駄なことは男が一番良くわかっていた。この屋敷に張られた呪いの罠。罠を解くことはできたが呪いを止める術は結局わからずじまいだったのだ。最後の、この呪いだけが例外になるとは思えなかった。
 男は、書斎へ入るのを諦めた、生きることも諦めた。ただ一つ、どうしても諦めるわけにはいかないことがあった。
 娘の呪いを解くこと、それだけは諦めるわけにいかなかった。男は腕を切り落とした。それで呪いが止まるわけはなかったが、時間稼ぎぐらいにはなる。
 愛用のトランクを持って、男は館を後にし、ロンドンを目指した。誰かに、トランクごと夢を託すために。

 それが、昨夜のことだった。





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Last updated  October 3, 2005 10:02:31 PM
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