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「なっ?!」死にかけているとばかり思っていたトゥパク・アマルの、至近距離からの思いがけぬ反撃に、アレッチェが目を見張る。が、その時には、トゥパク・アマルの手の平から放たれた赤黒い粉末が、アレッチェの両目や口中に勢いよく飛び込んでいた。――グアッ……!!言葉にならぬ獣のような叫びを上げて、アレッチェが、咄嗟に両目と口を手で覆う。言わずもがな、その粉末は、インカ軍のスパイス弾の中身でもあり、且つまた、燃やして有毒ガスを生成する原料としてスペイン軍が利用した、あの大量の唐辛子や胡椒の一部であった。トゥパク・アマルは、囚われる前に広間で拾い上げていたそれらの粉末の一握りを、密かに隠し持っていたのだ。「あああ…おのれっ…」唐辛子や胡椒の粉末をまともに喰らって、目も喉も、燃えるような激痛や口渇に襲われ、床を這い回って悶絶しながら、アレッチェが懐から手探りで銃を抜き取った。だが、今や盲目状態のアレッチェが銃を構えるよりも早く、猛然と立ち上がったトゥパク・アマルの鋼のように強靭な足が、その銃をアレッチェの手から瞬時に蹴り飛ばしていた。カン、カン、カンッと、けたたましい金属音を響かせ、銃が部屋の隅まで遠く吹っ飛んでいく。トゥパク・アマルの頭部や顔面に張り付いた長い黒髪は傷口から溢れ出す血で赤黒く染まり、痛々しく腫れ上がった額や唇からは今も紅い雫が滴り落ちている。傷だらけの全身は半ばよろめくような動きながらも、トゥパク・アマルの鋭い眼光は、今も生気を失ってはいない。「手荒なことをしてすまぬ。なれど、今は、こうするより手立てが無かった」トゥパク・アマルは低く囁き、半狂乱で目や喉を掻き毟って身悶えているアレッチェの姿に、痛まし気な視線を向けた。しかし、すぐまた感情を排した厳しい顔に戻って、相手の傍に、にじり寄った。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次汩現在のストーリーの概略はこちら獥HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.24
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そもそもトゥパク・アマルにこうして折檻(せっかん)を加えたのは、トゥパク・アマルが理屈で説得できぬことを知っていたが故に、毒素で衰弱している身体にさらに体刑を与えて脆弱化させ、力づくでも署名をさせたいがためであった。にもかかわらず理性を失いかけた己をやや悔いながら、生きているのか息絶えているのか、血みどろになって、ぐったりと床に崩れているトゥパク・アマルの状態を探ろうとアレッチェは身を屈めた。と、その時、彼は、不意に息を詰めた。彼の視界に、外部からの合図を知らせるための、隠し扉横に据えられた例の回転金具に付属されたライトの光が、突如として飛び込んで来たのだ。(――!)その金具の回転速度と赤々と光るライトの点滅の激しさは、これまで類を見ぬほど切迫したものであった。あの合図は、いつから送られていたのか…?いずれにせよ、よほど砦下の戦況が、自軍にとって、悪化しているに相違ない。それにもかかわらず、トゥパク・アマルへの折檻に夢中で、そちらに意識を奪われ、またも重大な合図を見落としていたのだ。アレッチェは、奥歯をギリギリと擦り合わせた。大至急、扉の外に出て戦況報告を受けて指示を飛ばさねばならぬが、かといって、死んだような状態のトゥパク・アマルの容体も早急に確かめねばならない。一瞬の迷いの間、アレッチェの動きが止まった。その刹那、時を待ち構えていたかのように、ぐったりと床に身を沈めていたはずのトゥパク・アマルが、目にも留まらぬ速さで上体を起こした。「我を忘れ、わたしを早計に殺(あや)めてしまったかと案じたか?大丈夫。これしきのことではやられぬゆえ、安堵せよ」アレッチェの眼前十数センチに迫る直近で、鮮血に染まったトゥパク・アマルの真紅の唇が、微かな笑みを浮かべて、そう動いた。と見るや、トゥパク・アマルは、縛られた両手首をアレッチェの顔面に向けて振り上げ、と同時に、その手の中に握り締めていた何かを思い切り投げ放った。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次汩現在のストーリーの概略はこちら獥HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.20
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※暴力シーンがありますので、どうかご注意ください。床上のトゥパク・アマルは、反射的に体勢を整えようとするが、それよりも早く、満身の力でアレッチェに蹴り込まれた軍靴が、彼の胴体に深々とのめり込んでいた。「―――ゴホッ…!」トゥパク・アマルの口から、真紅の血が、ドバッ、と噴き出す。「死にたいなら、望み通りに殺してやる」地底から湧き出すように低く嘯(うそぶ)くと、アレッチェの獰猛な蹴りが、再びトゥパク・アマルの腹部に、次は胸に、さらに背に、鉄槌の如く幾発も蹴り込まれていく。対するトゥパク・アマルは、箍(たが)が外れたようなアレッチェの蹴襲(しゅうしゅう)を避ける術も無く、相手の為すがままになっている。それでも、声ひとつ上げることなく、自らの血溜まりの中で、縛られた両手を梃(てこ)にして堪えながら、崩れそうな体を懸命に支えようとしている。乱れた長髪が俯(うつむ)いた顔に降りかかり、表情こそ分からないが、苦しげな一呼吸ごとに小刻みに震える輪郭からは汗や血の雫が雨垂れのように伝い落ち、相当厳しい状態にあると見て取れた。そんな相手の頭を足でガシガシと踏み躙(にじ)りながら、冷酷な眼で睥睨するアレッチェの鬼のような形相は、取り憑かれたような激しい憎悪や怒りと共に、どこか不気味な悦楽の色を帯びはじめる。――このまま、本当に、殺(や)ってしまおうか。幾度も煮え湯を呑まされてきた昔年の仇敵が、己の足元に平(ひれ)伏すような格好で、無残な苦悶の姿を晒しているのを目の当たりにするのは、自身の征服欲と優越性を少なからず満たしてくれるものであった。その、ある種の快感が、アレッチェの加虐性を加速させていく。凶器にも等しいその軍靴で、無我夢中で、果たしてどれほど蹴り続けていたのか、気付けば、足元のトゥパク・アマルは、ビクとも動かなくなっている。ハッと、半ば我に返って、アレッチェは振り上げていた足を止めた。実際のところ、トゥパク・アマルをここで抹殺することには、何の躊躇もありはしなかった。全ては密室での出来事であり理由付けは幾らでも可能な上、対外的にも、大罪人の即時処刑という名目で道理が通り、己が咎(とが)めを受けることはない。しかしながら、本当に息の根を止めてしまう前に、降伏受諾書へのトゥパク・アマルの直筆の署名は何としても欲しかったのだ。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次䘠現在のストーリーの概略はこちら㡸HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.17
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※暴力シーンがありますので、どうかご注意ください。「嫌だと言ったら?」トゥパク・アマルの研ぎ澄まされた双眸が、不動の深い光を宿したまま、血走ったアレッチェの目を射抜くように見返した。「今、この場で、おまえを殺すのみだ」凍てつく声で凄んだアレッチェの手が、銃口をトゥパク・アマルのこめかみに強くねじ込んでいく。だが、トゥパク・アマルは、確固たる覚悟を宿した揺るぎない口調で明言する。「ならば殺すがよい。この命は、とうに天に預けている」その言葉が終わるか否かという次の瞬間、アレッチェの握る銃身が、トゥパク・アマルの頭に猛然と叩き付けられた。ガッ!!――と、銃底が頭肉を裂く生々しい音と共に、傷口から吹き出した血飛沫によって、トゥパク・アマルの漆黒の長髪が朱に染まる。容赦の欠片も無くトゥパク・アマルの頭を銃で殴りつけたアレッチェの力は凄まじく、さすがにガッシリとしたトゥパク・アマルの身体も、半ば脳震盪(のうしんとう)を起こしかけてグラついた。そんな彼の側頭に、またもアレッチェの銃身が、猛烈な勢いで横殴りに叩き付けられる。そのあまりの勢いと力の激しさに、バランスを失ったトゥパク・アマルの身体は、椅子から石床に転がり落ちた。倒れた彼の上に、呪わし気なアレッチェの言葉が降りかかってくる。「いつまでも手を緩めていれば、いい気になりおって。未開地の蛮族の首領ごときが、このわたしと対等に渡り合おうなどと…!」憤激と憎悪に染まった赤黒いオーラを全身から燃え立たせながら、アレッチェは、床に打ち倒されたトゥパク・アマルの前にすかさず回り込むと、その至近距離から、硬い軍靴を思い切り振り上げた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次䘠現在のストーリーの概略はこちら㡸HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.13
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ありありと額に青筋を立てて苛立ちを露わにしているアレッチェの面前で、重厚な蒼いオーラを纏ったトゥパク・アマルが、流れるように美しいスペイン語で語り続ける。「この反乱期を通じて、自らの意志で行動することを知ったインカの民たちは、精神的な強さや生命力の逞しさを取り戻している。彼らは、今や、これまでとは違った、もっと真に人間らしい生き方があることを知っている。そのために、己自身の自由意思と力で、その道を切り拓くことができることも知っている。そのことは、インカの民だけのことではない。遠くアフリカの祖国から引き離されて奴隷とされてきた黒人の者たちはもちろん、スペイン渡来の白人たちに甚だしい差別を受けてきた当地生まれの白人たちもまた、自らの意志で立ち上がり、この国に新たな時代をもたらそうとしている」「シモン・ボリバル――!スペイン人でありながら、革命などとほざいて我らに反旗を翻している、あの売国奴の青二才のことか?あの男を焚き付けたのもおまえであろう、トゥパク・アマル」机上で握り締めたアレッチェの拳が、またも激昂のためにわなないている。そのような相手を鋭くも怜悧な瞳で見つめながら、トゥパク・アマルが、決然と応じた。「確かに、あの者の革命運動も、きっかけは我らの起こした反乱行為であったかもしれぬ。なれど、あくまで、一つのきっかけにすぎぬ。そなたたちのような暴政が長く続けば、このような解放運動が起こることは、むしろ必然であった。今この瞬間でさえも、自由と解放を求める怒涛のエネルギーが、激しく渦巻き脈動しながら、南米大陸の隅々まで広がりゆこうとしている。もはや、この戦いは、我らの手の内にあるものではない。このような紙切れ一枚、わたしの署名があったとて、何の役に立とうか」「その書類の使い方や効果のことなど、おまえが心配せずともよい…!おまえの血によって、おまえ自身に署名された降伏受諾書なれば、反乱軍を黙らせる充分な大義となり、法的根拠ともなる。それに背く者は、インカ皇帝を標榜するおまえに背く反逆者となるのだ。それでもまだ楯突くならば、インカ兵の残党どもや、すっかり生意気になった民衆どもが、最も衝撃を受け、最も落胆するような使い方を、いくらでも考え出してやる」強度の憎悪と残忍さに炯々と両眼を光らせながら、アレッチェは転がっていたペンを掴み上げ、トゥパク・アマルの指の間にギリギリと押し込んだ。と同時に、己の右手に銃を構え、撃鉄を起こす。「トゥパク・アマル、おまえは、まだ自分が置かれている状況が分かっていないようだな?おまえは、署名をするか、しないか、それを選べる立場ではない。ただ、黙って、即座に、わたしの命令に従うのだ。早くしろ!!」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ≪シモン・ボリバル≫(白人の革命軍)植民地生まれの白人(クリオーリョ)の革命分子を束ねるリーダー。ただし、一般的に貧しいクリオーリョたちとは異なり、当地生まれでありながらも富裕層に属するらしきスペイン人。トゥパク・アマルの反乱に乗じて、スペイン本国による植民地支配を瓦解させる機会を狙っている。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次䘠現在のストーリーの概略はこちら㡸HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.10
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他方、トゥパク・アマルもまた、断固とした口調で食い下がる。「このようなものに署名をしても無意味だ。この反乱は、もはや、そなたやわたしの手の内から、とうに離れたものとなっているのだ」降伏受諾書の表面に細々と並べられたスペイン語の文字列に鋭利な一瞥を走らせ、再びその視線を眼前のアレッチェに戻して、トゥパク・アマルが淀みない口調で続けていく。「インカ帝国が侵略されて200年以上もの間、インカの民は、そなたたちの言語を絶する圧政に忍従を強いられてきた。インカ帝国時代には1000万人を越えていた民の人口は、今や100万人もやっとという激減ぶり。我らインカの末裔は、そなたたちの植民地政策という名の元、何重にも渡る税を搾り取られ、過酷な強制労働で命を削られ、辛うじて生き延びている者も屍同然であった。このままインカの末裔たちが絶滅していくことを看過できず、やむなく我らは立ち上がったが、この戦いが、このように長期に渡り、広範囲に及ぶとは、わたしとて予測の範囲ではなかった」「この大謀反人めが…!いかなる言い訳をしようとも、反乱行為なぞが正当化される謂(いわ)れはない」氷のように冷たく言い捨てたアレッチェに、トゥパク・アマルは口惜し気に唇を噛んだ。「我らとて、流血を避けられぬ武力行使など、望んではいなかった。憎しみは、憎しみしか生まぬ――故に、何年もの歳月をかけて、そなたたちとの話し合いを試みた。なれど、そなたたちは、その話し合いの席に着こうとさえしなかった」「トゥパク・アマル、おまえは、今さら、一体、何を言いたい?」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次䘠現在のストーリーの概略はこちら㡸HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.06
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アレッチェは威圧的な態度で椅子に身を沈めると、手首に血が滲むほど縄できつく縛られた相手の両手の前に、打ち付けるようにしてペンを置いた。その荒っぽい動作の刹那、尖ったペン先がトゥパク・アマルの左手の甲を掠め、その箇所に一筋の切り傷ができた。かと見るや、傷口から鮮血が膨れ上がり、ツーッと、滑らかな褐色の皮膚を伝って机上に流れ落ちた。「ちょうどよい。おまえ自身のその血で、その書類に署名をしろ。自らの大罪を自らの血で贖(あがな)った、この上ない降伏の受諾になる。後々、この降伏受諾書を目にしたインカ兵や民衆どもの顔は、さぞ見ものであろう」その表情にも、その態度にも、ありありとサディスティックな残忍さを曝け出しているアレッチェに目を向けたトゥパク・アマルの面差しにも、さすがに険しい憤怒が滲みだしている。「砦下のインカ軍の戦況が有利になっている今、なぜ降伏せねばならぬ?」「有利?ビルカパサ軍は全軍壊滅したと言ったはずだ」トゥパク・アマルの言葉を鼻で笑い飛ばし、アレッチェは厳つい双肩に圧倒的な自信を漲らせ、昂然と言い放った。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次牧現在のストーリーの概略はこちら汩HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.02.03
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沸々と内奥に憤怒を燃え立たせながら、アレッチェが隠し扉を抜けて執務室内に戻ると、眼前に突き出された机上の降伏受諾書に目を落としているトゥパク・アマルの姿があった。そちらに再び足を運びながら、トゥパク・アマルの胸中を探るかのように、彼の目から見ても忌々しいほどに整った相手の端正な横顔に、粘着的な視線を這い回らせる。そうしているアレッチェの口元には、相変わらず苛立ちと怒りが色濃く滲んでいたが、しかし、次第に、それは薄い笑みへと変わっていった。先ほどは言葉の応酬に気を取られて気付かなかったが、今、少し離れた位置から改めてトゥパク・アマルの様子を客観的に観察してみれば、その顔色は青褪めて、表情もどこか苦し気で、呼吸も浅い。己を前にした先刻のトゥパク・アマルの態度が、余裕を漂わせるほど沈着で毅然としていたため見落としていたが、大広間で吸い込んだ毒素の症状が、実は、まだ抜けきれてはいないのだ。いかに健康体を装って見せようとも、実際には、嘔気、めまい、頭痛、発熱などを今も重く引き摺っているに違いない。アレッチェは、乾いた己の唇を舐めた。衰弱しているなら、好都合――砦下の戦況が戦況だけに、トゥパク・アマルとの決着をここで一刻も早くつけてしまわねばならぬ。何か決意にも似た思いで、そう胸の内で独り言(ご)ちて、彼は冷たい靴音を響かせながらトゥパク・アマルの面前へ戻っていった。◇◆◇◆◇お知らせ◇◆◇◆◇いつもご来訪くださり、お読みくださいまして、本当にありがとうございます!また、励みになるコメントや応援をくださいます読者さまには、重ねて深くお礼申し上げます。恐縮ながら、用事のため、次回の金曜夜の更新はお休みさせて頂きます。そのため、次の更新は来週の火曜夜の予定ですm(_ _)m少し先になってしまい申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願いいたします.:*・☆ 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次牧現在のストーリーの概略はこちら汩HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.27
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「なぜ、これほど事態が悪化するまで、わたしに状況を伝えに来なかったのだ。今となっては、手の施しようがない。逐一、戦況を報告せよと、あれほど言っておいたであろう…!」呪わし気に言い放ったアレッチェに、彼の護衛兵の一人が、言いにくそうに告げる。「アパサの攻撃は電光石火で、見る間に我が軍の状況が悪化したことは事実であります。なれど、報告の兵たちは、ずいぶん前から、その隠し扉の前でアレッチェ様を呼び続けておりました。ですが、閣下は、一向に中から現われてはくれず、報告しようにも報告できぬ状態だったのであります」「……」護衛兵の言葉に、アレッチェは返す言葉を見つけられなかった。捕虜としたトゥパク・アマルの方に意識を完全に奪われ、不覚にも、扉の外から送られ続けていた合図に気付かなかったのだ。(いや、むしろトゥパク・アマルは、何もかも見通していて、敢えて、わたしの気を長々と己自身に引き付けていたのに相違ない。アパサ率いる援軍によって、インカ側の有利な戦況が決定的になるまで、わたしに采配を振るわせまいと謀ったのだ)そう気付けば、アレッチェの腸(はらわた)は、またも激しく煮え繰り返った。トゥパク・アマルに対してはもちろんだが、トゥパク・アマルの思惑に填(は)まった己自身にも憤りを禁じ得なかった。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫(インカ軍)隣国「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。 「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。 ≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次牧現在のストーリーの概略はこちら汩HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.23
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厳めしい肩をわななかせ、妖魔のごとき形相で戦場を睨(ね)め付けているアレッチェの傍では、部下たちが、彼の采配を乞い願うように平伏している。彼らは皆、予測外の決定的劣勢に転じた自軍を前に、顔面蒼白となっていた。そのような兵たちを、アレッチェの険しい相貌が振り向き、睥睨する。そして、冷厳な声で命じた。「即刻、アラゴン王子のお命をお助けせねばならぬ。この砦の一角に、毒素の及ばぬ健康状態で、わたしの親衛部隊を待機させている。せいぜい2~300名にも満たぬ少数だが、予備兵力を温存しておいたことは幸いだった。数は少ないが、親衛部隊は精鋭揃い。その全兵をもって、王子の救出に向かわせよ。その方策を伝える。もっと近くに寄れ――」部下たちを己の直近まで呼び寄せ、声を落とし、口早に策を伝ずる。「大至急、行け。王子の身に何かあっては、副王陛下に責を問われるのは、結局、我ら軍部の方だ。王子のお命だけは、何があっても、お護りせよ」「はっ!!」(アラゴン、なんと世話の焼ける……!)薄暗い通路を全速力で駆け去っていく部下たちの後ろ姿を見据えながら、胸の内で吐き捨てるように呟いたアレッチェの両の拳は、手の平に爪が喰い込むほどに、きつく握り締められていた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次牧現在のストーリーの概略はこちら汩HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.20
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「その敵援軍を率いている者は誰だ」「ラ・プラタ副王領の豪族、フリアン・アパサでございます」「アパサ、だと……?」アレッチェが喉の奥で低く呻き、その長い脚で、即座に通路の窓際に歩み寄った。夜闇と嵐に霞む窓外を見晴らすアレッチェの掘り深い横顔で、強く噛み締められた奥歯が軋み音を上げている。『此度の援軍の将が、あのアパサであるならば、なおのこと、人質としたわたしを盾に脅しても、決して屈することはないであろう。アパサがいる以上、そなたの如何なる脅しも、二枚舌も、インカ軍には通用せぬ』先ほどのトゥパク・アマルの言葉が、アレッチェの脳裏に甦る。ペッ、と石床に唾を吐き付け、雷雨に濡れた窓枠にギリギリと拳を押し付けた。爆音のように叩き付ける豪雨の彼方に聞こえくる戦さ場の喧噪に耳を欹てるも、砲撃音も銃声も鳴りを潜めているのは、インカ軍が優勢な証しでもあった。(なんという情けない状態だ。副王がアラゴン王子を戦場に繰り出してくるというから、我ら軍部は王子に戦功を上げさせるべく、どれほど神経を使ってきたことか。この砦戦が始まって早々に、我らはトゥパク・アマルとビルカパサの軍を分断し、砦に誘き寄せたトゥパク・アマル軍を行動不能にさせた上、砦に潜入していたアンドレス隊の動きも封じた。あとは弱体化したビルカパサ軍を攻め滅ぼせばよいだけの状態だった。王子のために、これほどお膳立てをしておいたというのに、この醜態はなんたるざまだ。アラゴン――!副王嫡男という極上の称号と後ろ盾を持ち、戦場でもそこそこ使えそうな骨のある男かと思いきや、ひとたび逆境に陥れば、手も足も出ぬこの有様とは。結局は、温室育ちの軟弱者にすぎぬ)【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫(インカ軍)隣国「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。 「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。 ≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次牧現在のストーリーの概略はこちら汩HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.16
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トゥパク・アマルの漆黒の瞳が、それらの銃と紙面に鋭い一瞥を投げ、それから、彼の視線は、アレッチェが先ほど出入りしていた隠し扉の方へ動いていく。そのような一挙一動とて見逃すまいと棘ばった眼光を強めているアレッチェの目の中で、トゥパク・アマルの表情は、今や能面のように感情が見えない。そのトゥパク・アマルの唇が、ゆっくりと動いた。「先ほどから、そなたを外から呼んでいるようだが」そう言って、トゥパク・アマルが、この場にあってもなお、ブロンズ像のごとき滑らかな妖艶美を宿した横顔を軽く振って、隠し扉の方を示した。ギリッと、さらに強く睨みを利かせてから、アレッチェも扉の方へ顔を振り向ける。と、確かに、扉の横に据え付けられたハンドル状の金具が、非常に慌ただしく回転を続けている。それは、扉の外側から、己の部下が、大至急、砦下の戦況を知らせようと懸命に送っている合図であった。そのハンドルの尋常ならざる切迫した回転ぶりに、アレッチェは息を詰めた。いつから、あれは回り続けていたのか――?ハンドルの回転による発電によって、ハンドル中央に真っ赤な光が点灯する仕組みとなっており、普段なら見落とすはずのないものであった。にもかかわらず、トゥパク・アマルとのやり取りに意識を奪われ、合図に気付かなかったのだ。そのような己に舌打ちしながら、アレッチェは、トゥパク・アマルの手首に縛りつけた太縄の健在を確かめるように険しい視線を走らせた後、居丈高な調子で席を立ち上がった。隠し扉を抜けて通路に出ると、血相を変えた部下たちが、切羽詰まった戦況報告を携えてアレッチェを待ち侘びていた。「閣下、砦下の戦況は、我らにとって、かなり不利になっております。インカ側の援軍の加勢を得て、ビルカパサ軍が反撃に転じ、その上、雷雨も強まるばかりで、火器を使いあぐねているアラゴン様の軍勢を圧倒しつつあります」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次牧現在のストーリーの概略はこちら汩HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.13
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皮相な笑みを口端に浮かべながら、クックッと含み笑いを漏らしているアレッチェの面前で、しかしながら、トゥパク・アマルは、相変わらず沈着な、どこか同情さえ滲ませた面差しで、相手を静かに見つめている。「アレッチェ殿、そなたが、わたしを落胆させようとして、そのようにアパサを悪しざまに言っていることは分かる。なれど、もし、あの時、わたしがアパサの立場であれば、わたしもアパサと同じ行動を取ったであろう。あのように見えても、あの者は、人一倍、情が深い。獄中にある我らのことを思って、あの者が苦しまなかったはずはない。だが、あの時期、クスコ周辺のスペイン軍の軍備は非常に堅固で、蟻の子一匹通さぬ厳戒態勢であった。むざむざ兵を率いてやってくれば、虎視眈々と待ち侘びているそなたたちの餌食になることは自明。そのようなことに陥ることを、わたしも、ミカエラも、息子たちも望んではいなかった。アパサは、そのことを誰よりも良く認識していた。インカ軍の、ひいては、この国の民を、一人でも多く護るのが我らの使命。無駄死にをすることも、無駄死にをさせることも許されぬ。アパサは信じるに足る人物だ。その証拠に、此度、こうして援軍を率いて、当地に現われたではないか。アレッチェ殿――そのように人を疑っては、そなたは孤独で、生きにくかろう……」「黙れ!誰に物を言っているつもりだ」そう言って、トゥパク・アマルの言葉を断ち切ったアレッチェの表情には、ありありと残忍さが浮き出ている。「それ以上、くだらぬご託を並べることは許さぬ。第一、アパサなど、ここにはいない」「いや、当地にアパサはいる。わたしには、あの者の声が、はっきりと聞こえた」――ダンッ!!!アレッチェの手が、ついに荒々しく机上を叩き付けた。憎悪に燃える眼で睨みつけながら、凄みを帯びた声音で、冷やかに命ずる。「これ以上、わたしを苛つかせるな。人質としてさえ役立たぬなら、おまえをこの場で処刑するのみだ。だが、その前に、この降伏受諾書に署名をしてから、逝ってもらおうか」そう嘯(うそぶ)いて、アレッチェの手が、豪奢な銀細工の飾りを付した引出しから、一丁の銃と、一通の書面を取り出した。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。 ≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.09
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「くくく…おまえは、どこまでお人よしなのだ、トゥパク・アマル」新しい葉巻に手を伸ばしながら、真摯に語っていたトゥパク・アマルの言葉を、アレッチェが鼻で笑い飛ばした。「フリアン・アパサ、あの野蛮人に、おまえがそこまで入れ込んでいたとは知らなかった。いい加減、目を覚ましたらどうなのだ?」葉巻を上手そうに口に運び、高級椅子のゆったりとした背もたれに身を沈めながら、アレッチェの黒眼が、目尻の端からトゥパク・アマルを覗き見る。一方、トゥパク・アマルは、今度はそなたの発言する番だ、とでも言わぬばかりに、ただ黙って聞き耳を立てている。ひとしきり深く葉巻の煙を吸い込んだ後、アレッチェが、言葉にするのも汚らわしいという風情で喋りだした。「あの時、おまえが、妻子共々、クスコの地下牢に幽閉されて、拷問の責苦に喘いでいたというのに、アパサは、おまえの一番の同盟者でありながら、隣国で喃喃(のうのう)と過ごしていたのだぞ。拷問漬けの日々で、おまえは受けた傷も放置され、衰弱を極めていた。ミカエラは、美貌が災いして、拷問と称し、牢番たちに如何なる目に合わされていたかは言を俟(ま)たない。幼いフェルナンドは熱病に罹患し、処刑を待たずに死にかけていた。あの小賢しいアパサが、獄中でそのような惨劇に至っていることを、想像できなかったと思うか?そのような事態を知りながら、それでも、あの男は自分の部隊を一兵たりとも動かそうとはしなかった。アパサがおまえにどのような言い訳をしたかは知らぬが、結局のところは、我々スペイン軍の力を恐れ、己自身の命が惜しかったからに他ならぬ。もしあの時、おまえが自力で脱獄していなければ、おまえも、ミカエラも、息子たちも、獄中で発狂していたか、予定通り処刑されていた。それを重々分かっていながら、結局、アパサは最後まで救出に来なかった。トゥパク・アマル、おまえは、あの時、アパサに見捨てられたのだ。あの卑劣な野蛮人は、ただの保身の塊だ。あのような匹夫(ひっぷ)をおまえが今でも頼みにしていたとは、驚き、呆れて、空いた口が塞がらぬ」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ミカエラ・バスティーダス≫トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たち(イポーリト、マリアノ、フェルナンド)の心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。 ≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。 ≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.06
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「そう、そのような脅しは無駄だ」トゥパク・アマルは不動の面持ちのまま、机上に乗せた己の両の腕を見下ろした。その両手首は太縄で固く縛られ、さりげなく様々な方向から、グッ、グッ、と押し引きしてみるが、ビクともしない。さすがに自力では、この縄を解くのは不可能と、内心で判断せざるをえなかった。それでも、外面的には、あくまで飄々とした風体のまま、トゥパク・アマルは、アレッチェの問いに答える。「わたしを人質にしたなどと脅しても、もはやインカ軍は、そのようなことでは怯むことはない」生粋のスペイン人さえも凌ぐほどの流麗なスペイン語を淀みなく操りながら、トゥパク・アマルは、さらに語を継いでいく。「わたし一人の命などより、そなたたちスペイン役人の圧政によって苦しみに喘いでいる無数の民(たみ)の命を救うことの方が、はるかに重要であると、今や我が軍の兵たちは良く心得ている。ましてや、此度の援軍の将が、あのアパサであるならば、なおのこと、人質としたわたしを盾に脅しても、決して屈することはないであろう。あの者は、かつて、わたしが、そなたに捕えられてクスコの獄中に繋がれ、処刑を目前にしていたあの時でさえも、わたしを救出に来ることはなかった。その上、アンドレスがわたしを救けに来ることさえも、断固として阻止したのだ。獄中のわたしを救出に来ることによって、逆に、そなたの仕掛けた罠にかかり、インカ軍が一網打尽にされる危険を見抜いていたからだ。フリアン・アパサ――あの男は、常に冷静な目で全体を見通している。アパサがいる以上、そなたの如何なる脅しも、二枚舌も、インカ軍には通用せぬであろう」◇◆◇◆◇ご挨拶◇◆◇◆◇新年、明けましておめでとうございます。昨年もご来訪くださいまして、温かいコメントや応援を本当にありがとうございました!2005年のクリスマスイブにスタートした当作も、2015年の今年、10年目に入ることになりました。物語の初期から見守り続けてきてくださった読者さまにはもちろん、近年、新たにお付き合いくださっている読者さまにも、感謝の思いが尽きません。長期に渡って書き続ける環境を提供してくださっている楽天ブログさまにも感謝しております。ストーリー的には、そろそろこの砦戦に決着を付けて、次の展開に進みたいところです。今年もゆるゆるとしたペースになりそうで恐縮ですが、それに懲りず、今後とも『コンドルの系譜』をどうぞよろしくお願いいたします。全ての皆さまにとりまして、本年が希望に満ちた輝かしい年となりますようお祈りいたします。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。 ≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2015.01.01
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「……!」アレッチェの険しい目元が、ピクリ、と大きく引き攣(つ)る。――いや、何も聞こえるはずなどない。不覚にも、一瞬、跳ね上がった鼓動を鎮めながら、アレッチェが、そう己に言い聞かせ、平静を装った。そんな相手の様子の変化の一つ一つを、内面の奥底まで冷徹に見通すかのように、トゥパク・アマルの鋭利な切れ長の目が、揺るぎない光を強めてアレッチェに注がれる。アレッチェもまた、そのようなトゥパク・アマルを険しい双眸で睨み返しながら、葉巻の煙を深々と吐き出した。そうしながら、彼は酷薄な笑みを口端に滲ませて、眼前の捕虜の心を弄ぶように喋りだす。「援軍が来たなどと、おまえの希望的観測なぞ聞きたくはない。だが、仮におまえたちの援軍が来ようとも、我らには、おまえという人質がいる。おまえの命と引き換えに、援軍を黙らせれば良いことだ。無駄な抵抗を続けるならば、捕えたトゥパク・アマルの命は無いとな。さすれば――」「無駄だ」眉一筋、動かすことなく、トゥパク・アマルがピシャリとアレッチェの言葉を遮った。「無駄だと?おまえの命と引き換えでも、インカ軍は戦いをやめぬと、降伏せぬと言うか?」吊り上がったアレッチェの目元が、微かにわななく。◇◆◇◆◇ご挨拶◇◆◇◆◇本年も、ご来訪くださいまして、拙作にお付き合いくださり、また、励みになるコメントや応援をくださいまして、本当にありがとうございました。スローペースながらも、こうして今年も書き続けてこられましたのは、ひとえに皆さまの温かいお支えがあったからこそです。私にとって、小説は読者さまに育てて頂いている生き物のようなもので、皆さまのくださる貴重なリアクションによって、また、私自身の内的な変化によって、ストーリー展開も多様に変化を続けております。本来、ブログで更新するには無理のある長々しいストーリーなのですが、逆に、ブログで書いてきたからこそ、続けてこられたと信じております。コメントを残してくださる方々にも、そっと覗いていってくださる方々にも、全ての読者の皆さま、お一人お一人に、感謝の気持ちでいっぱいです。この小説、実は、先の展開がまだ長いのですが(汗)、来年も、また一歩一歩、書き進めてまいりたく存じますので、当作の登場人物たち共々、どうぞ宜しくお願いいたします。次回の更新は、年明け、1月2日を予定いたしております。全ての皆さまが、可能性に満ち溢れた輝かしい新年をお迎えになられますよう、心よりお祈りいたします。☆本日の画像は、ストーリーと直接関係ないのですが、去り行く午年に感謝を込めて、ペガサスを選んでまいりました♪ 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.26
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アレッチェは、カッ、カッ、と、石床に軍靴を居丈高に高鳴らせてトゥパク・アマルの目前まで来ると、荒々しく椅子を引いて相手の正面に座った。それから、宝石をちりばめた黄金細工の葉巻入れから、いかにも高級そうな葉巻を、一本、摘まみ出した。それを口に運びながら、トゥパク・アマルに冷ややかな一瞥を投げる。「今、伝令の兵が、我が軍への朗報をもたらした。ビルカパサの軍が、全軍、壊滅したという報告だ」口端を吊り上げて、そう言いながら、アレッチェは探るような視線を相手に馳せた。しかし、トゥパク・アマルは、未だ動揺を見せず、ひたと己を見据えながら、じっと、耳を欹(そばだ)てている。「いや、外の気配が、先ほどまでと明らかに違っている。砲撃音がやみ、むしろ、インカ兵たちの吹き鳴らすホラ貝の音や彼らの歓声が聞こえる」トゥパク・アマルの言葉に、アレッチェは、葉巻をくわえた唇を反射的に歪めた。が、それを悟られぬよう、すぐに皮相な笑みを口元に浮かべて、「追い詰められて、ついに幻聴まで聞こえるようになったか」と、嘯(うそぶ)いた。実際、この秘密部屋は、構造的に外部との遮蔽度が高く、外の音が聞こえてくることはありえない。逆に言えば、この室内の音が、外部に漏れることもない。たとえ銃を発砲したとしても、その銃声さえも、外に聞こえはしないであろう。そう分かりつつも、アレッチェは、無意識に耳を欹てずにはいられなかった。己の眼前で、半眼となった面差しで、強く意識を集中しているトゥパク・アマルが、まるで、本当に、外部の様子を聞き取っているかのように見えるからだった。水を打ったように静まり返った室内に、布石を打つかのように、トゥパク・アマルの低く艶やかな声が、厳かに響く。「援軍――我が軍の援軍が現われたのであろう」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.23
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警護のために護衛兵を隠し扉の外に残し、アレッチェは、己一人、室内に踏み入ると、今度は内部から壁をひとつ叩く。すると、また壁はゴゴゴ…と鳴りながら左右から閉まりだし、僅かの間に両側から固く閉じて、室内を外部から完全に遮断した。通路側からその部分を見たら、実際、全く普通の壁にしか見えない。まさかそこが隠し扉になっていようとは、決して誰も思い付きはしないであろう。それほど精巧な造りであった。室内に窓は無く、四方は石壁によって堅固に遮蔽されている。設置されている調度品――書斎机、椅子、ソファ、本棚、キャビネットなどは、いずれも本国スペインから調達したと思われる格調高く豪華な高級品ばかりである。随所には、黄金の燭台が幾つも置かれ、煌びやかに室内を照らし出している。陰鬱な雰囲気の砦の通路とは、まるで別世界のような場所であった。そして、その室内の書斎机の前に、トゥパク・アマルが両手首を縛られた状態で座っていた。トゥパク・アマルは、隠し扉を通って室内に戻ってきたアレッチェに、静かに視線を注いでいる。「何かあったのか?顔色があまりよくないが」低く沈着な声で言葉を放ったトゥパク・アマルを、憎悪を秘めたアレッチェの双眸が射るように見返す。彼の視線の先で、己の豪奢な机の前に座すトゥパク・アマルは、漆黒の長髪が燭台の光を反射して濡れたように輝き、褐色の美貌を際立たせている。吸い込んだ毒素もまだ抜け切れていないはずであり、その上、囚われの身であるにもかかわらず、まるで玉座にでもあるかのような気高い覇光を纏った姿が、アレッチェをいっそう苛つかせた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.18
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いつもご訪問くださいまして、また、温かいコメントや応援を、本当にありとうございます!全ての皆さまに心よりお礼申し上げます。今日から水曜日まで、ブログ&プロフィール共に用事でお休みさせて頂きます。そっとお伺いさせて頂くこともあるかもしれませんが。。。いずれにしましても、木曜日からは再開の予定ですので、その節には、またどうぞ宜しくお願いいたします.:*・☆
2014.12.14
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「せっかく、あと一息でインカ軍の息の根を止められるところであったというに」険しく吊り上がった眉根を寄せて、吐き捨てるように呻いたアレッチェが、忌々し気に舌打ちした。そのようなアレッチェを前にして、報告のスペイン兵は、アレッチェの怒りの矛先が己にも向けられるのではないかと冷や冷やしながら、表情も、身も、強張らせている。そんな兵に氷のような一瞥を投げると、アレッチェは、苛立たしげに顎をしゃくった。「行け。戦況を正確に調べ、逐次、状況を報告しろ。急ぐのだ」「はっ…!」兵は緊張を滲ませた声で恭順を示し、すかさず踵を返して、逃げるようにその場を後にした。通路を駆け去って行く兵の姿が遠くなると、アレッチェは、おもむろに石壁の方へ体の向きを変える。素早く周囲に視線を馳せ、辺りに残っているのが数名の己の護衛兵のみであることを確かめると、その強靭そうな手を通路の壁に押し当てた。そして、その手で、グッ、と壁を押すような動作をする。と見るや、アレッチェが手を添えていた部分の石壁が、不意に、ゴゴゴ…と震動しはじめ、やがて、その部分から壁が左右に開きだした。そして、なんと、開いた壁の向こうに、広々とした個室が現われたのだった。その壁部分は、いわゆる隠し扉となっているのだ。かくして、その部屋は、アレッチェの秘密の執務室であり、スペイン兵たちの中でも、彼の護衛兵以外は、ごく上層部のものしか知らぬ、特別な場所でもあった。◆◇◆お知らせ◆◇◆いつもご訪問くださり、また、温かいコメントや応援を、本当にありとうございます。来週の月~水は、ブログ&プロフィール共に用事でお休みさせて頂きます。そのため、次回の小説の更新は金曜の夜を予定しております。どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m.:*・☆ 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.12
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同じ頃、その同じ砦の奥まった場所の一角に、スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェのガッシリした長身のシルエットがあった。トゥパク・アマルによる反乱が幕を開けて以来、スペイン軍全体を取り仕切ってきたのは、このアレッチェある。しかしながら、アレッチェら軍部が反乱鎮圧に手こずっている様子に痺れを切らした副王ハウレギが、自身の嫡男アラゴン王子を戦線に繰り出してきたことによって、スペイン軍全体の最高位に君臨するのは、今や、アレッチェではなく、アラゴン王子の方である。それでも、やはり、軍部におけるアレッチェの権力は今も絶大であり、まだ若いアラゴンよりもはるかに経験豊富な軍人であるアレッチェの采配を、副王は今でも重く見ており、また、結局のところ彼を頼りにしてもいたのだった。そのアレッチェが居丈高に仁王立ちになっているその場所は、人目を避けるかのように辺りに据えられた松明も数少なく、アレッチェの姿も薄闇に溶け込むように霞んでいる。彼は通路の壁際に立ち、己の前で身を低めている部下の報告に耳を傾けながら、冷やかに相手を睨(ね)めつけている。「インカ側の援軍が現われただと?3000ものインカ兵が迫っていたというのに、方々に放っていた我らの斥候どもは何をしておったのだ」「はっ…、まさか人が通るなどとは思いもよらぬ急峻な荒山を、獣道を通って越えてきたようで……」「斥候どもの言い訳など無用。索敵を誤った者どもは厳罰に処する。この砦戦に敗れることあらば、死罪も覚悟しておけと言い渡しておけ」「はっ……」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.09
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頬を紅潮させながら、大きな琥珀色の瞳を震わせ、喰い入るように見入る窓外では、予想もしなかったインカ側の援軍の参戦によって、ビルカパサ軍が息を吹き返し、あれほど強壮だったスペイン軍の火器を封じ込め、接近戦による戦闘によって、敵軍を圧倒している。(あの援軍を率いているのは誰なんだ?そもそも援軍が来るなんて、まるきり聞いてなかったぞ!)歓喜と興奮に昂ぶる胸を打ち震わせながら、心の中で叫んだアンドレスの脳裏に、サァッと、あの時のコイユールとのやり取りが流れ込んできた。それは、砦内に流された毒気にやられて、身も心も完全に打ちひしがれていたあの時、己を力付けるために現われてくれたコイユールの幻(まぼろし)との一瞬の会話だった。『コイユール、俺は、どうしたらいい?毒のようなものを吸い込んだらしくて、目も喉もやられて、周りも見えないし、吐き気もひどい。戦うどころか、まともに歩くことさえできないのに、トゥパク・アマル様の身に危険が迫ってる…!』たとえ、それが己の夢か幻だとしても、思いがけぬ愛しい人が眼前に現われてきたことで、一気に緊張から解き放たれて、アンドレスは止めようもなく内面の思いを吐露していた。そんな彼の手を握り締める細い指先に力を込めて、コイユールは、アンドレスの瞳を見つめて微笑みながら、言っていた。『希望を無くさないでアンドレス。私、さっき、砦の向こうにある山の稜線が金色に光るのを見たの。とても力強くて、神々しい綺麗な光だった。インカの神様が、まだ諦めちゃいけないって、そう告げておられるように思うの』あの時の、コイユールの優しく涼やかな声は、今も、はっきり己の耳に、心に、残っている。(コイユール、あの時、君が言っていた金色の光っていうのは、この援軍のことだったんだね。君の言葉通り、インカの神々は、俺たちを見捨ててなんかいなかった!)アンドレスは、はからずも己の目頭が熱く込み上げるのを感じながらも、すっかり窓外に乗り出していた姿勢を正し直した。(だけど、まだ予断はならない。トゥパク・アマル様の行方も未だ知れず、あのアレッチェの所在も分かっていない。一刻も早く、なんとしても二人を探し出さねば!) 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。 ≪コイユール≫(インカ軍)インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.05
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瞬時に相手の動きを捉えたエドガルドの鋭い心眼が、反射的に身をのけ反らせ、相手の斧をギリギリよける。予想以上に反応の鋭敏なエドガルドによけられて、逆に、インカ兵の方が、瞬間、バランスを崩した。その一瞬の隙に、すかさず胸元から引き抜かれたエドガルドの懐剣が、インカ兵の急所に突き立てられる。「――…!!」言葉にならぬ呻きを上げて泥の中に崩れたそのインカ兵を見下ろし、フッと息をついたのも束の間、エドガルドの背後からは、さらに別の褐色兵が鎌を振り回しながら、野太い雄叫びを上げて襲いかかってきた。その鎌を、またも、すんでのところでかわすが、エドガルドの息は上がりはじめている。「きりがない……!しかも、この者どもは、疲れを知らぬ…!」切歯扼腕しながら呻いた彼の周囲では、同様に、スペイン兵たちが皆、雲霞(うんか)の如く群がり来るインカ兵たちの執拗な攻撃に苦戦を強いられていた。今や、砦の麓は、先刻までのアラゴン軍の圧倒的優位な状態が一変し、腹背から猛烈な勢いで挟撃をかけてくるインカ軍が、明らかに押している。 一方、砦の中では、そうした外部の気配の変化を感じて、窓から外を見やったアンドレスが大きく息を呑んでいた。(え?!一体、あの戦場では何が起こっているんだ?!)つい先刻まで、よもやビルカパサ軍の退却さえ叶えば、それ以上は何も望めぬと思っていたほどの悲惨な戦況が、はたと気付けば、いつの間にか、すっかりインカ軍が優勢に変わっている。そのような麓の光景を、窓から目の当たりにしているアンドレスやロレンソたちの驚きようは言うまでもない。彼らは、敵味方の別無く今も毒気で意識消失したままの兵たちに為す術も無く、心痛めながらも、自らも毒気の抜けきらぬ体を引きずって、敵に連れ去られたトゥパク・アマルを必死に探している真っ最中であった。そうしながらも、ビルカパサや、彼に託されたインカ軍本隊のことをどれほど案じ、救出することのできぬ自らをどれほど責め苛んでいたか知れなかった。そのような只中、窓外の戦況の思いもかけぬ大転換に、アンドレスは激しい驚嘆と興奮に、息することさえ忘れている。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。 ≪エドガルド≫(スペイン軍)副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.12.02
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他方、アラゴン軍の大軍の只中では、獣のように吠え上げながら斧や鎌を振りかざして飛び込んでくるアパサ軍や、強壮な生気を取り戻したビルカパサ軍の両軍のインカ兵たちの襲撃に、スペイン兵たちがサーベルや銃剣を振るって懸命に対抗している。その中央では、副官エドガルドを筆頭としたアラゴン王子の親衛隊たちが、堅固に王子を囲んで護りながら、続々と襲いかかりくるインカ兵たちと激しく斬り結んでいた。「何があろうとも王子をお護りするのだ!」険しい声で命じたエドガルドの言葉に、「はっ!!」と応じた親衛隊員たちは、このスペイン王党軍きっての精鋭たちである。高速、且つ、正確な彼らの剣捌きは見事であるが、それにしても、豪雨は視界を霞めさせ、ドロドロにぬかるんだ大地は、足を絡めとり、滑らせる。ひときわ剣の腕の立つエドガルドも、この時ばかりは、引き結んだ唇を歪めている。エドガルドは、己に向かって飛び込んできた褐色のインカ兵を、目にも留まらぬ剣の一撃で薙ぎ払うも、ほぼ時を同じくして、すかさず別の方向から襲いかかってきた新手のインカ兵が、獰猛な斧を振り下ろし、エドガルドの愛剣を中央からぶった切った。「我が一族に代々伝わる高貴な宝剣を、そのような野蛮な斧で汚(けが)すとは…!貴様、許せぬ……!」エドガルドの緑碧色の瞳が怒気をはらみ、美麗な目元が修羅の如く吊り上がる。「ふふん、そんな細っこいサーベルが宝剣とは、笑いが止まらねぇ!俺たちなら、そんな剣じゃあ、ガキどものチャンバラごっこにも使えねえなあ。それに、そんなもんより、あんた自身の身を心配した方がよかねえかっ?!」そう咆哮したかと見るや、次の瞬間には、そのインカ兵は、大きく斧を振りかざして宙空に高く跳躍し、エドガルドの頭頂目掛けて、斧を一直線に振り下ろしてきた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪エドガルド≫(スペイン軍)副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.28
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傷だらけの顔を決然と上げて、光の甦った双眸で己を注視する自軍の兵たちに、ビルカパサは、さらに力強く語を継いでいく。「もはや敵軍は、火器を殆ど使えぬ状態だ。この豪雨の中、我が援軍から水攻めに合い、火器が萎え果てている上に、体温も下がり、体力的な消耗も激しかろう。援軍は敵の背面から猛撃している。よって、我らは、即座に反転し、敵正面から突撃を敢行する。腹背からの挟撃による肉迫戦にて、一気に勝負を決しようぞ!!」血塗れの顔面を炯々とさせて、そう猛々しく声を張ったビルカパサに応えて、彼の兵たちが「オー!!!」と、勇壮な雄叫びを上げた。そのような仲間たちを隅々まで見渡して決然と頷くと、ビルカパサは、すかさず馬ごと踵を返し、自ら陣頭を切って、一直線に敵軍に向かって突撃を開始した。己の後を追って進撃してくる自軍の兵たちが上げる雄々しい咆哮を背後に聞きながら、ビルカパサは、胸の内で、援軍の将に向かって呼びかけずにはいられない。(あなたは、ラ・プラタ副王領を護っていてくださるよう、トゥパク・アマル様から重々依頼されていたはず。にもかかわらず、あなたは、いつもご自身の判断で、陛下の許可を得ることも無く、勝手気儘に動かれる。それでは、インカ軍全体としての統制がとれず、とても困るのです。ですが――)そう胸の中で呟きながらも、アラゴン軍の真只中で破竹の勢いで剛腕を振るっているに違いないその援軍の将を見通すかのようなビルカパサの目元には、逞しい笑みが滲んでいる。(ですが、此度ばかりは、そのようなあなたの到来が、誠に有難い。心より礼を申し上げますぞ、アパサ殿!!) 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.25
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山裾に広がる荒野から、突如、雪崩れ込む黒い大河のように現われ、そのままアラゴン軍の背面に突撃敢行してきた援軍の到来に、砦下で身動きを封じられていたビルカパサ軍の兵たちが驚嘆していたのは言うまでもない。「お、叔父様…、援軍が来るなんて聞いていました?」自弁の武器を振りかざして、みるみる敵軍の中に斬り込んでくる新参のインカ兵たちを、恍惚と驚きの入り混じった表情で見つめながら、騎乗のマルセラが擦れ声を漏らした。ビルカパサもまた、その鷲鼻の際立つ鋭利な横顔に驚きを隠せぬまま、「いや。援軍が来るなぞ、聞いてはいない」と、固唾を呑んでいる。そう答えながらも、ビルカパサの脳裏には、この予期せぬ援軍の正体が何者たちなのか、早くも薄々予測がつき始めていた。(この唐突な現れ方、それに、あの機動性の高さや、鈍器による戦闘の並外れた強さ。あのお方に相違あるまい)豪雨に加えて、先刻の水袋攻撃に止(とど)めを刺され、今や殆ど火器を使用できなくなったアラゴン軍の兵たちは、たちまち自軍の奥深くまで斬り込んできた敵援軍の肉弾戦に、彼らもまた、サーベルや銃剣による肉弾戦で応じるしかなかった。しかしながら、新手のインカ兵たちは、獰猛な斧や、鋭い突起付きの棍棒、分厚く鋭利な刃が光る鎌などを得意の武器としており、筋骨隆々たる腕で振るうそれらの鈍器は、スペイン兵たちのサーベルを易々とへし折り、鋼の鎧さえも貫いて破壊していく。夜闇と雷雨の中で、それらの様子をしかと感じ取りながら、ビルカパサは、自分の周囲で、みるみる生気を取り戻していく自軍の兵たちを凛然たる面差しで見渡した。「皆、願ってもない援軍の到来だ!我らも、今ひとたび、敵軍との決戦に挑もうぞ!!」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.21
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アパサは、眼前のスペイン軍の火器が自軍の水袋攻撃と豪雨によって、すっかり萎え切っているのを見極めながら、チラリと、その奥に聳える敵の高い砦に視線を馳せた。(あの砦は、なぜ、ずっと黙りこくっているんだ?トゥパク・アマル、おまえ、どういう戦いをしているんだ?アンドレス、ビルカパサ、おまえたち、一体、何をやってやがる?!)幾ら斥候を放っても、掴める情報には限りがあった。アパサは、トゥパク・アマルやアンドレスの今の戦いぶりに猛烈な苛立ちを覚えつつも、ひどく案ずる思いに駆られてもいた。(そもそも、おまえたちは無事に生き延びているのか?何が起きているのか全く分からんが、とにかく俺が行くまで、なんとしても凌げよ!)「お頭、アラゴンの部隊にこのまま突っ込みますか?!」勢いある部下の声に、アパサは、砦に向けていた視線を素早くアラゴン軍に戻した。「ああ、このまま突っ込み、間髪与えず、一気に白兵戦に持ち込む。あいつらに火器さえ使わせなければ、分(ぶ)があるのは、肉迫戦を得意とする俺たちだ。副王の王子だかなんだか知らねぇが、大砲やら銃やらばかりに頼ってきた軟弱者どもに、本当の男の戦いってもんを教えてやろうじゃねえかっ!敵軍の向こう、砦下には、インカ軍の部隊が数千はいると見た。今はアラゴンに動きを封じられているようだが、俺たちが攻め込めば、必ず、そのインカ軍も動く。敵を腹背から肉弾戦で挟撃する!」眼光を炯々とギラつかせながら豪語したアパサに鼓舞されて、彼の兵たちから、猛々しい鬨の声が、ドッと、天高く湧き上がった。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.18
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とはいえ、決して、気を緩めているわけではなかった。自らが放った斥候の報告によって、対峙している敵軍の将が、副王の嫡男アラゴンらしいと掴んでいるアパサにとって、相手が油断ならぬ大敵だという自覚は十分にあった。それでも、いや、それだけに、このアパサにとっては、愉快でならなくもあったのだ。「あのトゥパク・アマルにしろ、アラゴンにしろ、皇族だの、王族だのってのは、いつだって軟弱だったらありゃしねえなぁ!!」疾駆しながら傲然と言い放ったアパサの周囲では、「へぇ、全く、お頭(かしら)の言う通りでさぁ!」「情けねえっすよねぇ!」と、彼の部下たちも、アパサ同様、口の減らない者たちばかりである。アラゴン率いる大軍1万は、もう、すぐ目の前である。アパサの目つきが鷲のように鋭くなった。腰に括(くく)り付けた、いかにも獰猛そうな斧に、自動的に右手が走る。そんな彼の風貌はといえば、身長は中位で筋骨逞しく、その相貌も、その目は小さいながらも深く窪み、活動性と意志の強さが漲っている。地方豪族にすぎない彼は、外見に頓着しない性格もあいまって、戦闘姿も貫頭衣に胸甲を当てただけという簡素さだが、それだけに、機動性が高く、身も軽い。決して美男とはいえないが、不遜なほど不敵な覇気を全身に纏ったその姿は、多分に人目を惹く雰囲気をもっている。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.14
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「腐るな!!稼働可能な大砲だけでも構わぬ!あのインカの山猿どもは、大砲どころか、銃もまともに持たぬ連中だ。大砲一発の威力の凄まじさを見せつけてやるがよい」ブロンドの張り付いた美貌を厳しくさせて、兵に喝を入れるエドガルドに鼓舞されて、辛うじて水害を免れていた数門の大砲が火を吹いた。しかし、それらが自軍の中に突き刺さってくるのをものともせず、インカの援軍は、断固たる進撃を止めようとはしない。それどころか、疾風迅雷の進軍を続けながら、これでもかとばかり、続々と無数の水袋を投げ放ち続けてくるのだった。その援軍の陣頭では、フリアン・アパサ自身が、獣のような身ごなしで、3000の兵を率いて疾駆していた。馳せながら、自軍の放つ水袋の襲撃によって、着実に火器を封じられていく眼前のスペイン軍を見据えて、ニヤニヤと口端を吊り上げている。「よしよし、いいぞ!もっとタップリ見舞ってやれ!!もっと、もっと、もっと、だ!!」さも面白そうに、それでいて豪快に号を放ったアパサの周りでは、彼の兵たちが走り続けながら、数人がかりで大きな革袋の口を持って広げ、降り注ぐ雨水を袋の中に溜めていた。袋いっぱいに雨水が溜まると、その袋の口を頑丈なロープで縛る。さらに、その雨水入りの袋を、大きな弓を横向きにセットしたような頑強な革布につがえ――実は、投石器を応用したものにすぎない原始的な道具なのだが――、その水袋を、敵軍に向かって、数人がかりで投げ放っていた。同様の作業を幾つもの部隊ごとに組織的に行っており、準備ができ次第、それぞれの部隊が各個に次々と投げ放っているのであった。豪雨の中、泥土にまみれて走りながらの作業であったが、アパサの兵たちの動作は統制が取れており、その上、機敏で、疲れを知らない。本来、彼らがフィールドとするのは、このペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領であり、特にアンデスの山高い地域である。その上、アパサの本拠地があるティティカカ湖周辺は、アンデスの中でも殊更に標高が高い。ティティカカ湖は、インカ帝国の創始者である太陽の御子カパックが降り立ったという伝説の地であるが、その湖は標高3800メートルという世界で一番高所にある。そのような高所の希薄な酸素の中で鍛え上げられ、戦い抜いてきた彼らにとって、このような海辺の低地は、十分すぎる酸素があるというだけで、はかりしれないほど体が楽であった。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪エドガルド≫(スペイン軍)副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.11
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「撃ち落とせ!!」間髪入れず、エドガルドの険しい号が飛ぶ。火薬を雨に当てぬよう懸命の所作で狙撃兵たちが銃を構え、数十発の銃が飛び込んで来る謎の革袋に向かって火を吹いた。それらの銃弾にあっさり貫かれた巨大な革袋の群れが、アラゴン軍の真上で、ブワアッ、と派手に炸裂する。その刹那、それらの炸裂した革袋の中から、大量の水が噴き出した。ザバァッ、と水音が鳴って、スペイン兵たちはもとより、アラゴン王子やエドガルド自身の上にも、多数の桶をひっくり返したような水が降りかかる。「なんだ、これは、…ゴホッ…!ただの水か?!」既に豪雨に打たれて水濡れの冷えた体に、さらに大量の水を浴びせられて、馬上のアラゴンが、むせながら忌々し気に語を吐いた。そんな彼の跨る艶やかな高級馬も、頭上で弾けた水に襲われて、ブルブル大きく身を揺すり、遠くまで水の雫を弾き飛ばしている。「王子、大事ございませぬか?どうも、ただの水のようではありますが」アラゴンを案じつつも、自らもドップリと水を被って、全身から滔々と水を滴(したた)らせながら、エドガルドが苦々しい面持ちで周囲の状況を見定めている。そうこうしている間にも、迫り来る新手のインカ軍からは、満タンに水を詰め込んだ革袋が次々と投げ放たれてくる。それらは、ブヨンブヨン、と不格好に揺れながら宙を飛んで、見かけ上は、いかにも滑稽で、頼りなげである。そのくせ、落下して、ひとたび革袋が弾けると、スペイン兵の上のみならず、彼らの大砲や銃、雨避(よ)けをしてやっとのことで守っていた火種や火薬の上にも、容赦なく水が降りかかり、まるで大勢の小悪魔たちが高笑いしながら水鉄砲を乱射し続けているような破茶滅茶な惨状である。「ああっ……火種に水が…」「あいつらぁ…!我らの火器を台無しにさせるつもりだぞ!!」「これでは、やっと持ち堪えていた火薬も使い物にならなくなってしまう……!」アラゴン軍の砲手や狙撃兵たちが右往左往しながら、口々に悲鳴混じりの怒声を上げている。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.07
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そうしている間にも、アラゴン軍の布陣した背後の荒野からは、アパサ率いると思われる褐色の兵たちが、黒い山だかりのような群れを成して、猛然と馳せて来るのが見えてくる。その怒涛の勢いに呑まれてしまったかのように、スペイン兵たちの動きが止まっている。「何をぼやっとしている!敵援軍に向けて砲撃開始せよ!狙いつき次第、各個に撃て!!」猛々しくエドガルドの怒声が号を叫び、我に返ったアラゴン軍の砲兵たちが、迫り来る敵援軍に向けて、一斉に砲頭を回して狙い定めた。と見るや、その新手のインカ軍からも、多数の球状の何かが、上空に大きな弧を描きながら、アラゴン軍に向けて投げ放たれてくる。一見、砲弾のようにも見えるが、砲弾よりも明らかに大きく、金属物というよりは、むしろ巨大なゴムボールのような質感と動きである。「何だ、あれは?!」「こっちに向かって落ちてくるぞ!!」投げる――とはいえ、かなりの大きさのある袋状の物体であり、それを、これほどの距離を隔てた相手に届くよう飛ばすには、アパサ軍もそれ相応の機材を用いていると思われた。スペイン兵たちは、雨粒が矢のように目の中に突き刺さってくるのも忘れて、正体不明のその物体が何かを見定めようと、懸命に瞳を見開いた。その中央で、アラゴン王子やエドガルドもまた同様に、それらの得体の知れぬ物体の正体を見極めようと、目を凝らしている。続々と上空を飛来してくる球状物体が、直径50~60センチ大の革袋のようなものであると視認した時には、それらは、もう、すぐ彼らの頭上まで迫っていた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.11.04
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「援軍の首領が『アパサ』と名乗ったと斥候が申しておったろう。その名には聞き覚えがある。隣国ラ・プラタ副王領の豪族で、此度の反乱の首謀者の一人だ。トゥパク・アマルのような皇族とは異なり、一介の地方豪族ゆえ、まともな火器なぞ持たず、昔ながらの鈍器を武器に戦う蛮族の軍団の首魁。しかし、それ故に、その首魁も配下の兵どもも、野獣のように身体能力が高く俊敏で、鈍器の腕がやたらに強いと聞く。その証拠に、隣国ラ・プラタ副王領のスペイン軍を制圧して今に至る」いかにも西洋人らしい掘り深い横顔に無数の雨水を伝わせながら、厳かな口調で語るアラゴンの目元は険しさを増していく。そんな主(あるじ)の言葉に聴き入っていたエドガルドも、眦(まなじり)を吊り上げて、低く呻いた。「ラ・プラタ副王領を席巻(せっけん)したインディオ。なるほど、その人物なら、わたしも耳にしたことがございます。周辺国まで燃え広がった反乱の火の手を鎮火するためには、いずれ戦わねばならぬ相手でございます。このような時に、このような場所で、相見(あいまみ)えることになろうとは、思ってもおりませんでしたが。しかるに、援軍を率いて迫り来る、その蛮族の首魁というのは――」闘志を秘めたエドガルドの氷のような美貌に鋭利な一瞥を投げ、アラゴンは重々しく顎を引いた。「そう。トゥパク・アマルの最も有力な同盟者――フリアン・アパサだ」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アパサ≫「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.31
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さらに別の斥候が、髪振り乱し、目を白黒させながら、鼻息を荒げて報告を付け加える。「その蛮族の首領のような男が、信じがたいほど無礼な輩(やから)で、なななんと、『アパサ様が来た以上、おまえらの好きにはさせねぇと大将に伝えておけっ!!』と……!」「もうよい!少しは落ち着け。おまえたちの支離滅裂な報告を聞いていると、かえって混乱してくる」エドガルドが厳しい語気でピシャリと斥候たちの報告を遮り、黙って彼らの様子を睥睨していたアラゴンに視線を向けた。「王子、予期せぬ敵援軍の到来。正確な規模や正体も不明ではありますが、数も多く、俊敏な連中と思われます。ビルカパサ率いるインカ軍の兵力は約8000。対する、我が軍は兵力1万。我が軍のこれまでの砲撃でビルカパサ軍の兵力が減退していたとしても、新手の敵援軍が数千規模となれば、我が軍よりインカ側が優勢になる恐れがございます。直ちに、迎撃態勢に入ります。ビルカパサ軍への攻撃勢を、敵援軍の迎撃のために多少割かねばなりませぬが…」「已むを得まい」低く言って頷いたアラゴンの面持ちは、今も冷厳さを失ってはいない。だが、常に誇り高く、動揺や困惑など決して露わにすることのないアラゴンも、今は僅かながらも眉根を寄せて、忌々し気に奥歯を噛み締めている。「アラゴン様、案ずるには及びませぬ。そのような無礼きわまりない野性児どもなぞ、即刻、撃退いたしますゆえ」「エドガルド、此度の敵援軍、予断ならぬ相手かもしれぬぞ」ずぶ濡れになった鬣(たてがみ)で覆われた逞しい愛馬の背を撫でながら、アラゴンが物思わし気に答える。そのような王子の様子を、エドガルドの緑碧玉の瞳が、ひたと見据えた。「アラゴン様、向かい来る敵の援軍に、何か思い当たるふしがございますか?」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.28
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「何事だ?!」「ご報告いたします…!我らの背後から、インカ兵と思しき軍勢が、多数、こちらに向かってきております!!」その瞬間、稲妻が彼らの真上で炸裂し、辺り一面、目も眩むような白光に包まれ、全ての時が止まったように思われた。と同時に、包囲網を狭めていたアラゴン軍の一翼から絶叫が上がった。大気と大地を猛然と引き裂いて、そこに雷が落ちたのだ。手綱を握るエドガルドの指に力がこもる。「このような時に落雷が我が軍を襲うとは。雷による被害状況を調べよ」冷徹な声で命じると、即座に斥候たちに向き直り、険しい口調で問い質(ただ)す。「インカ軍の援軍が来たと申すか?数は如何ほどか?」「それが…風雨が激しく、正確に見極めることが難しく…。少なくとも数千はいるものと思われます」「数千だと?!そのような大軍、なぜ、このように接近するまで気付かなかった?」吹き付ける雨水と跳ね上がった泥土にまみれた斥候たちが、口惜し気に顔を歪めながら、しどろもどろに弁明する。「恐らく、我らの目につかぬよう、この豪雨と夜闇に身を紛らせ、裏手の山を延々と迂回してきたものと思われます。なれど、あの山は急峻な上に獣道ばかりで、とても軍が進んでこられるような場所では……!」「ですが、やたらスバシコイ奴らで、まるで野山の獣のような動き方をするのです」他の斥候も興奮して、口角から唾を飛ばしながら、報告を叫んだ。「身なりも簡素きわまりなく、持っている武器も斧やら棍棒やらで、山猿か原始人の集団みたいな奴らであります。歩兵ばかりの軍団で、山からウジャウジャ湧き出してきたかと見るや、不気味な速さでこちらに猛進しております!」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.24
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波打つ銀髪を叩きつける雷雨に洗われながら、馬上のアラゴン王子は、自軍の砲撃によって傷めつけられていくビルカパサ軍を厳格な表情で見据えている。撃ち込まれる一弾一弾が、逃げ場を奪われたインカ兵の群れに着実に突き刺さり、悪魔の振るう巨大な鎌の如く彼らの命を抉(えぐ)り取っていく。それでも、アラゴンの美麗な横顔で光る鋼色の瞳には、今も全く隙が無い。「このような雷雨が続いては、我らの砲撃も続行が困難になる。一刻も早く、完膚無きまでに叩き潰すのだ。砦ぎわギリギリまで追い込み、さらに包囲網を狭めよ。決して退却の余地を与えぬよう、攻撃の手を最大限に強めよ」アラゴンの言葉に、脇で戦闘指揮を執っている副官エドガルドが、長いブロンドを強風に激しく吹き上げられながら、恭順を示した。「仰せのままに、アラゴン様」「殊(こと)に、あの軍勢を率いるビルカパサを、決して生きて逃すでないぞ」「よく心得ております、王子」そう応えたエドガルドの妖艶なエメラルド色の瞳が、雷鳴を映して鋭利な閃光を放った。しかし、その時である。周辺地域一体の偵察に放っていた斥候たちの騎馬隊が、血相を変えて、アラゴンたちの元に駆け戻って来た。「アラゴン様、大変でございます!!」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.21
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マルセラの報告に黙って耳を傾けていたビルカパサの眉間には、深い皺が寄っている。「やはり、そうであったか。砦内で何か異変が生じているのではと感じてはいたのだ。それで、トゥパク・アマル様やアンドレス様は、いかがしている?お二人ともご無事か?」平素から感情統制のいき届いたビルカパサではあるが、いっそう感情を押し殺した冷厳な声で問いかける様子に、マルセラは、彼がどれほどトゥパク・アマルたちを案じているのか、痛いほど察せられて、言葉に窮した。それでも、すぐに、きっぱりした口調で「いえ、トゥパク・アマル様やアンドレス様の所在やご無事は不明です」と、ありのままに答えた。「ですが、ロレンソ殿は、アンドレス様と合流してトゥパク・アマル様の救援に向かうと言っていました。今頃は、きっと、皆、合流しているのではないかと……」最後の方は、さすがに自信なさげな声音になってはいたが、暴風雨の中で降り注ぐ砲弾の渦中にいて、ともかくも、自分たちは、この本隊を何とかせねばならない。「叔父様、私たちがここで踏ん張っていても、あの敵の大軍が砦に雪崩込んでいくのを防ぐことは不可能だわ。私たちが砦内のインカ軍を援護に向かうためにも、私たちまで、ここで敵軍に壊滅させられるわけにはいきません。ここにいる兵たちを、まずは安全な場所に退却させて、態勢を整え直さなければ!」叩き付ける雨粒に濡れた横顔にヌラヌラと火明かりを映しながら、ビルカパサは、非常に厳しい面持ちで低く呻いた。「おまえの言うことは分かる。しかし、それがならぬのだ」ビルカパサの苦渋に満ちた言葉に、飛び交う砲火の中で、マルセラも息を詰めた。「叔父様、どういう意味ですか?」「もしや砦に異変が生じているのではと、わたしとて薄々感じてはいた。なれど、この嵐にもかかわらず、敵軍の猛攻があまりに激しく執拗で、今となっては、退却の道筋を見出すことも、退却の契機を掴むことも至難なのだ」「それじゃ、退却したくても、退却することができないと……?!」マルセラの擦れ声に、ビルカパサは重々しく頷いた。そんな叔父ビルカパサの、これほどに追い詰められた苦しげな横顔を見たのは、傍近くで戦い続けてきたマルセラにとっても、かつてトゥパク・アマルが囚われた時以来のことである。語を継げずにいる彼女の周りでは、こうしている間にも、トゥパク・アマルからビルカパサに託されたインカ軍本隊の尊い仲間たちが、雨霰と降り注ぐ敵軍の熾烈な砲撃によって次々と粉砕され、人の姿を成さぬ焼け爛れた肉塊と化して、辺り中に飛び散っていく。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪マルセラ≫(インカ軍)トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人で、ロレンソの恋人でもある。砦の敵中に囚われ捕虜の身となっていたが、脱出をはかった。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.17
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その時、ビルカパサの耳に、あまりに聞き覚えのある声が風雨の間を縫って、高らかに凛と響き渡ってきた。「叔父様――!!」反射的にそちらを振り返って、吹き荒れる雨と砲火の中で目を凝らしたビルカパサが、大きく息を呑んだ。「マルセラ…?マルセラか?!」ビルカパサが驚いて擦れ声を漏らしている間にも、マルセラは、巧みな手綱捌(さば)きでインカ兵たちの間を走り抜け、ビルカパサの跨(またが)る戦馬の真横に自らの馬を一気に寄せてきた。風雨と砲弾の降り注ぐ中、全身ずぶ濡れになりながらも、ただならぬ様相で駆け込んで来たマルセラの姿に、ビルカパサは、己の直観していた砦内の異変が現実のものであることを瞬時に悟った。と同時に、敵軍を見据えて険しく吊り上がっていたビルカパサの目元が、一瞬、柔和に緩む。いかなる時も私情を排してきたビルカパサではあったが、アレッチェに囚われ残酷な目に合わされていた姪が無事に戻ってきた姿に、さすがに深い安堵の念を禁じえなかったのだ。「――マルセラ、よくぞ戻った」短いものではあたっが、己を見つめて噛み締めるように呟いた叔父の言葉に、マルセラの胸にも熱いものが込み上げずにはいられない。だが、彼女もすぐに気を引き締め直し、雨粒が伝い落ちる前髪の隙間から怜悧な黒曜石の瞳を光らせて、砲撃音に負けじと決然と声を張った。「叔父様、砦のロレンソ殿からの伝言です。砦内には、毒素のような正体不明の気体が充満し、敵味方の別無く、皆、意識を失い倒れ込んでいます。もはや砦の要塞砲を占拠するのは困難であることから、当初の作戦続行は不可能。このまま叔父様が偽装退却を続けては、砦と敵軍との間に挟み込まれたまま、退路を断たれて、ここにいるインカ軍本隊までもが壊滅させられてしまいます。せめて叔父様の率いるこの本隊だけでも、一刻も早く、この場から退却してほしいと!」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪マルセラ≫(インカ軍)トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人で、ロレンソの恋人でもある。砦の敵中に囚われ捕虜の身となっていたが、脱出をはかった。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.14
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砦の外は、ますます激しく雷鳴が轟き渡り、雹(ひょう)のような雨粒が地に叩き付けている。それにもかかわらず、スペイン王党軍率いるアラゴン王子は熾烈な砲撃を執拗に続行しており、砦の麓で抵抗を続けるインカ軍本隊を砦の真下へ着実に追い込みつつあった。かつてトゥパク・アマル軍が壊滅寸前に至るまでの打撃を受け、ついにトゥパク・アマル自身が捕縛された時でさえ、主君を取り戻すべく、スペイン軍に断固たる徹底抗戦を挑み続けたビルカパサ。今、砦麓でインカ軍本隊を率いている指揮官が、そのビルカパサであると掴んでいるアラゴンやエドガルドにとって、今こそビルカパサを叩き潰しておく絶好の機会という強い思いがあった。それが、彼らの攻撃をいっそう激しいものへと駆り立てていた。隕石のように頭上から降り注ぐ砲弾が続々とインカ軍の随所に突き刺さり、褐色の兵たちを粉砕しながら無情な空隙(くうげき)をあけていく。ビルカパサ軍からも反撃の砲撃を行おうとはしているが、スペイン副王直下のアラゴン軍のごとき最新の装備をもたぬインカ軍にとって、風雨の中で攻撃を続行できるような大砲など皆無であった。無残に痛めつけられていくばかりの自軍の真只中で、ビルカパサ自身も傷だらけの全身から滲み出す血を雨粒に洗われながら、血潮で真っ赤に染まった唇を噛み締めている。トゥパク・アマルに命じられた作戦通り、砦の射程内にアラゴン軍を十分に引き入れた今となっても、砦からの砲撃援護は気配すらも無い。(砦に進軍を果たしたトゥパク・アマル様たちは、砦のスペイン兵に阻まれて、砦の砲台占拠を成し得なかったのかもしれない。なれど、それならば、自ら射程圏内に飛び込んできた我らインカ軍本隊を、なぜ砦のスペイン兵たちは砲撃してこない?一体、砦の中では何が起こっているのだ?!)砦内では、アレッチェの策謀により、唐辛子や胡椒の刺激成分によって両軍の兵が共に意識を失い行動不能に陥っていたが、まだビルカパサはそのことを知らなかった。そのような彼にとって、まるで砦全体が死に絶えてしまったかのように不気味な沈黙を守り続けていることが、どうにも理解できなかった。(いずれにせよ、このまま敵軍の猛攻に晒され続けていては、我が軍が壊滅させられてしまうのは時間の問題だ。どうにかして退却を図りたいが、敵の攻撃が激しすぎる上、これほど砦の真下まで追い込まれては、退路を切り開くことは非常に難しい…!) 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。 反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。≪エドガルド≫(スペイン軍) 副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.10
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まるで夥(おびただ)しい屍(しかばね)のみが捨て置かれたまま、命あるものは全て立ち去ってしまったかのような、不気味に静まり返った異様な空間がそこにはあった。アンドレスも、ロレンソも、彼らと行動を共にしている兵たちも皆、蒼白になって、広間の中に飛び込んだ。「トゥパク・アマル様、どこです?!」トゥパク・アマルも、それらの兵たちの中に混ざって倒れているのでは?!――アンドレスたちは、ますます顔色を失(な)くしていく。無数に倒れ伏している兵たちの様子に胸潰れる思いで床を這い回りながら、彼らは必死にトゥパク・アマルの姿を探しはじめた。ロレンソ隊の兵たち数名が扉付近や室内の各所に立ち、トゥパク・アマルを懸命に探し回っているアンドレスやロレンソが不意の敵襲に合わぬよう、険しい面持ちで銃を身構え、広間や通路の周辺全域に厳しい監視の目を光らせている。「トゥパク・アマル様、どこですか?!」「トゥパク・アマル様!!」我武者羅になって探し続けても見つからぬトゥパク・アマルの姿に、アンドレスたちの胸中には、別の強い不安が頭をもたげてくる。「俺たちが来るのが遅すぎたんだ。トゥパク・アマル様は、アレッチェか奴の手下に、どこかに連れ去られてしまったに違いない…!」「アンドレス……」口惜しさと心配のあまりに肩をわななかせているアンドレスを前にして、何か声をかけようにも、ロレンソ自身も動揺が激しく、すぐには言葉が出てこない。(アンドレスの言うように、手遅れであったか…。トゥパク・アマル様、今、どこにおられるのです?!) 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.07
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そのままアンドレスやロレンソたちは、大広間に向かって、できうる限り精一杯の速度で突き進んでいく。ついに広間の重厚な正面扉まで辿り着き、アンドレスが即座に扉の取っ手に指をかけた。そんな彼の方に、ロレンソの鋭利な瞳が、ゴーグルの向こうから敏捷に注意を促す。(アンドレス、気を付けて開けろよ。まだ意識のある敵兵が中に残っていて、いきなり発砲してこないとも限らない)(ああ、分かってる)アンドレスも鋭い眼差しで応じ、共に広間の前まで進み来ているインカ兵たちにも、念のため扉の陰に身を隠すよう目線で促した。それから、注意深く扉の取っ手を回し、引き開けていく。ギイイイイイイイと軋み音を上げながら、分厚く重い鉄扉が開きだした。皆、扉の陰に身を隠したまま、緊張した数秒の時が流れる。幸い、懸念したような、大広間の中からの敵の銃撃は起こらなかった。それでも予断はならない。先ほど投打した敵兵から奪った銃を身構えながら、その撃鉄を起こし、アンドレスは、半身だけを覗かせて大広間の中に視線を馳せた。(こいつは、ひどい……!)愕然と大きく見開かれたアンドレスの瞳が、激しく揺れる。大広間の中は、数ヵ所に設けられた窓が開け放たれてはいるものの、アンドレスたちが突き進んできた通路以上に換気が悪く、毒気による惨状は、さらに惨(むご)たらしいものであった。幾重にも折り重なるようにして倒れ込んでいるインカ兵やスペイン兵の体で石床は埋め尽くされ、もはや意識の保たれている者は見当たらない。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.10.03
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「そうだな、急がねば!ロレンソ、俺もマルセラを信じる。敵軍に追い立てられて、ビルカパサ殿は、かなり砦の傍まで来ている。あのマルセラなら馬を駆れば、すぐだろう」「それに、これほどまでに風雨が強まっては、いかに強壮な敵の砲火とて、いつまでもつか分からぬぞ。このような乾燥地帯でこれほどの暴風雨になるなど、尋常ではないと思わぬか?」「ああ、確かに。こんな嵐みたいな天候になるなんて普通じゃない」「アンドレス、そなた、覚えているか?この砦戦が始まる前にも、トゥパク・アマル様が敵軍の上に雷雲を呼び寄せたことを。それに、かつてのトゥンガスカの本陣戦の時だって、アレッチェの陣営を凄まじい落雷が直撃したではないか」「あ…ああ、だけど、どれも偶然だったかもしれないじゃないか。まさか、ロレンソ、この嵐もトゥパク・アマル様が引き起こしたとでも?」「トゥパク・アマル様のお力は、わたしにも計り知れぬ。なれど、少なくとも天は我らに味方している」冷徹さと情熱の両方を宿した力強い声音でそう応じると、ロレンソは、鋼のように強靭で引き締まった褐色の腕をアンドレスの方へ差し出した。その腕の先には、投打したスペイン兵たちから剥ぎ取ったゴーグル、マスク、銃のセットが握られている。「さあ、そなたも、これを付けよ、アンドレス。借り物だが、無いよりはましであろう」「このマスク、サルセードが使っていたやつじゃないだろうなあ。あいつとの間接キスだけは避けたいぞ。せめて他のスペイン兵の……」受け取ったマスクを指先でつまみながら難色を示しているアンドレスへ、「アンドレス、そなたの良いところは、分け隔てのないところであろう。どれが誰のものかなど分かるものか」と、ロレンソが有無を言わさぬ口調で一掃する。「それより、今は一刻の猶予もならん。すぐにトゥパク・アマル様をお助けに上がらねば」そう言って、ゴーグルやマスクを己自身も装着したロレンソの周囲では、彼の隊員たちやアンドレス配下のジェロニモたちも、ゴーグルやマスク、銃を早々に身に着け終わっている。そんな彼らの様子に、アンドレスも、受け取ったマスクとゴーグルを慌ててかぶり、手渡された銃を懐に押し込んだ。【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。≪マルセラ≫(インカ軍)トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人で、ロレンソの恋人でもある。砦の敵中に囚われ捕虜の身となっていたが、脱出をはかった。≪サルセード大佐≫(スペイン軍)此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.30
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「マルセラ殿や彼女と脱獄を果たした兵たちは、窓から砦を抜け出し、ビルカパサ様の元へ向かっている。ビルカパサ様に砦で起こった異変を知らせ、もはや我らに要塞砲の占拠は不可能であろうこと、それ故、手遅れになる前に今は兵を退かれるよう、お伝え頂くようマルセラ殿に依頼した」「そうか、マルセラが行ってくれたか!」アンドレスは彫像のような端正な目元を見開いて、深々と嘆息をついた。そして、さらに語を継いでいく。「ロレンソ、よく決断してくれた。俺たちの作戦が頓挫したことは悔しいが、全軍壊滅になるよりは、ビルカパサ殿に預けた本隊だけでも生き延びてくれたらありがたい。俺も、ビルカパサ殿に、この砦の状況を伝える方法を探しあぐねていたんだ。マルセラが行ってくれたなら、希望が持てる。何といっても、ビルカパサ殿はマルセラの叔父上だ。話しの通りも早いだろう」「ああ。マルセラ殿が、自ら行くと申し出てくれたのだ。彼女は騎馬が得意だから、砦の門前に繋いだままの騎兵部隊の馬を使えば早かろう。ただ、この天候と戦況だ。無事にビルカパサ様の元に辿り着いてくれるとよいのだが」そう答えたロレンソの表情が、微かに曇る。アンドレスも眉根を寄せて、心配そうに呟いた。「そうだな。戦火も、雷雨も、あまりに激しすぎる」「ああ、なれど、わたしはマルセラ殿を信じている。それより、我らも早くトゥパク・アマル様の援護に参らねばならぬ。さあ、アンドレスも、皆も、急ごう」【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。≪マルセラ≫(インカ軍)トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人で、ロレンソの恋人でもある。砦の敵中に囚われ捕虜の身となっていたが、脱出をはかった。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.26
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「アンドレス、そなたを探していたのだ。それにしても、大変なことになってしまったな。せっかく大軍を率いて砦への進軍を果たしたというのに、このような毒気にやられて、手も足も出せぬとは」口惜し気に低く呻いたロレンソに、アンドレスは頷きながらも、相手の鋭利な双瞼を見据えて答える。「ああ、だけど、まだ諦めちゃいない。俺たちは、トゥパク・アマル様をお助けに上がるところだ」ロレンソも、アンドレスの大きな琥珀色の瞳を真っ直ぐに見つめたまま、頷き返した。「地下牢でマルセラ殿に合流し、地上階に戻りかけたところで、砦内の異変に気付いた」「マルセラに会えたか、良かった!」安堵の笑顔を輝かせたアンドレスに、「ああ、スパイス弾を派手に喰らったがな。マルセラ殿は相変わらずだ」と、ロレンソも可笑しそうに白い歯を覗かせて笑顔を見せた。「え、スパイス弾を喰らった?」キョトンとした顔のアンドレスに、ロレンソは再び表情を引き締め、続けていく。「それはさておき、上階に戻りかけて、毒ガスだか何だか分からんが、強烈な何かが砦内に蔓延していると察したのだ。ここまで進んで来るのも、窓から窓へと息継ぎを繰り返して、難儀したぞ。が、その度に風雨に当たったせいか、毒気もだんだん抜けてきてくれたがな」ロレンソの話しに聴き入りながら、そういえば、とアンドレスも口の中で呟いた。(外の新鮮な空気や豪雨を浴びて多少なりとも浄化されたせいなのか、確かに体が楽になってきている)一方、ロレンソは口調を早めながら続けていく。「あまり、ここでのんびり話し込んでいる暇は無い。とにかく、このような時でも、そなたのことだから、トゥパク・アマル様の居場所へ引き返しているに相違あるまいと思って、戻ってまいったのだ。そうしたら、予想的中だ」「それで、マルセラたちは、どこに?ロレンソ、君と一緒じゃないのか?」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。≪マルセラ≫(インカ軍)トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人で、ロレンソの恋人でもある。砦の敵中に囚われ捕虜の身となっていたが、脱出をはかった。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.23
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歓呼の声を上げたアンドレスの方に、ロレンソも視線を向けて、通路の奥から力強く頷いた。ロレンソの周りには、彼の配下の隊員たちが十数名、凛々しい風貌で控えていたが、恍惚としたアンドレスの視線が自分たちの方にも注がれていることに気付くと、敏捷に礼を払って応じた。ロレンソや彼の隊員たちの手には、インカの投石器(オンダ)が、しかと握られている。そのオンダの石を背後から投げ放って、サルセードたちを一撃で仕留めたのだと、我を取り戻したアンドレスにも合点がいった。「アンドレス、皆も、大事ないか」張りのある艶やかな声で問いかけてきたロレンソに、アンドレスたちは、興奮と安堵に頬を紅潮させながら、うんうん、と首を大きく縦に頷かせた。そんな彼らの様子に、ロレンソもホッと息をつきながら笑顔を見せたが、次の瞬間には、そのロレンソもまた、ゴホッ、と咳き込んだ。ロレンソや隊員たちも、やはり毒気に当てられているようだ。そう悟ったアンドレスが、再び心配そうな表情に変わる。しかし、そんなアンドレスの様子をよそに、ロレンソや彼の隊員たちは、冷たい石床に倒れ込んでピクともしないサルセードらの傍に走り寄っていく。ロレンソは、サルセードや彼の兵たちが完全に意識を失っていることを確かめてから、彼らが装着していたマスクやゴーグルを剥ぎ取った。「これをはずしておけば、自分たちの撒いた毒を吸入して身動きできまい。その代わり、このマスクもゴーグルも、我々が有効活用させてもらおうではないか。それに、せっかくだから、ついでに銃も拝借させて頂こう」そう目配せしたロレンソに、彼の隊員たちは「はっ」と恭順を示し、投石器によって投打されたスペイン兵たちのマスクやゴーグル、そして、銃を、素早く取り去っていく。「こいつは、すごい。たいそう本格的なマスクにゴーグルだ」品定めするように満足気に呟いたロレンソは、今度はアンドレスたちの方へ、それらを手にして駆け寄ってきた。「アンドレス、そなたたちも、これを」「ロレンソ!」再会を果たしたアンドレスとロレンソの腕は、互いの健在を確かめるように、ガッチリと双方の肩を握り合った。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。≪サルセード大佐≫(スペイン軍)此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.19
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「トゥパク・アマルには、これからアレッチェ様が大事な御用があるのでな。おまえたちに邪魔をさせるわけにはいかんのだ。いやはや、それにしたって、まさか、まだ砦の中を動き回っている輩(やから)がいたとは、たまげたものだ」そう言って、サルセードは、大袈裟に両腕を開いて、さも驚いた、という仕草を見せた。「さすがに我らのような繊細な民族とは違って、蛮族のおまえたちは、体のつくりからして妙に頑強にできておるのだな。だが、害虫のようにしぶといおまえたちも、ここまでだ。その腑抜けた体では、我らの銃からは逃げられまい。大人しく、ここで捕まってもらおう…かっ……?!」したり顔で話していたサルセードの声が、突然、悲鳴に似た語尾と共に途切れた。と見るや、口から泡を吹いて、バッタリ、前に倒れた。たっぷり肥満した図体が石床に叩き付けられるように倒れ込み、その衝撃波で、砦全体が揺れたのではないかと思えたほどだった。否、サルセードのみならず、数十名に及ぶ彼の部下たちまでもが、ほぼ同時に、次々と石床に崩れ落ちたのだ。彼らに一瞬の抵抗の隙も与えぬままの、驚くほど正確で、俊敏な攻撃技である。まだ何が起きたのか分からぬアンドレスは、体が硬直した状態で、すぐには動くことができない。そんな彼の目の前で、倒れたスペイン兵たちの体から、ゴトッ、と重い音を立てて、見覚えのある星型の石が床に転がり落ちた。(この石は!)生唾を呑み込んで目を見張るアンドレスたちが、卒倒しているサルセードたちのさらに背後の通路にいる一群の人物たちに気付いて、「あっ」と、大きく顔を輝かせた。「ロレンソ!!」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ロレンソ≫(インカ軍)アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。≪サルセード大佐≫(スペイン軍)此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.16
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アンドレスたちが、反射的にそちらを振り向く。と同時に、ぐっと息を詰めた。「サルセード……!」アンドレスの口端から、軋んだ声が漏れる。まぎれもなく、彼らの背後にいたのは、サルセード大佐であった。この砦戦でアレッチェの副指揮官を務めるサルセード――勲章の押し並んだ鋼色の軍服に肥満した体をギュウと押し込め、いかにも高機能そうなガッチリしたゴーグルとマスクを装着し、仁王立ちになって、こちらを睨んでいる。「アンドレス、お前も部下たちも、ここで命を落としたくなければ、無駄な抵抗はしないことだ。いずれ処刑されるお前たち大罪人どもを、ここで射殺することに、我らはなんの躊躇(ためら)いもないのでな」そう冷やかに嘯(うそぶ)いた彼の背後には、同様に重厚なマスクやゴーグルで防御したサルセードの兵たちが20~30名、銃口をこちらに向けて、アンドレスたちの動きに身構えている。アンドレスの腕は、反射的に腰の帯剣に走った。とはいえ、人数的に劣勢な上、銃を手にした相手と、しかも、この弱った身体でどこまで戦えるのか、さすがに心もとなかった。下手な動きをすれば、サルセードの言葉通り、容赦なく敵の銃口が火を噴くだろう。アンドレスは、激しく切歯扼腕しながらも、周囲のインカ兵たちに素早く目配せをした。(皆、動いてはいけない。今は堪えよ……!)そんなアンドレスの様子に、サルセードは、贅肉たっぷりの顎を満足そうに撫でながら、「よしよし。聞き分けがよくて、なかなかよろしい」と、小刻みに頷いた。その都度、彼の顎肉が、タプタプと音を立てて揺れる。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪サルセード大佐≫(スペイン軍)此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.12
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窓から吹き込む大粒の雨に打たれながら、大きな瞳を震わせ、愕然と窓外を見据えるアンドレスの傍に、ジェロニモが這い寄った。彼も、かなり毒素にやられているらしく、いつもは黒い顔の中で生き生きと白く輝いている白目を、真っ赤に充血させている。どんな時でも周りを陽気な気分にさせずにはおかない明るい声も、今はガラガラに擦れて、ひび割れ、息も絶え絶えであった。それでも、ジェロニモは、アンドレスの肩を前方にグッと向き直らせ、諭すように言う。「アンドレス様、とにかく大広間に急ぎましょう。あのビルカパサ様のことです。この状況になっても砦の俺たちが何も援護しないなんて、おかしいって…、何か予測外のことが起こったに違いないって、きっと…勘付いているはずです。ですから、俺たちはビルカパサ様を信じて、とにかく、今は…トゥパク・アマル様を、一刻も早く…お助けに行きましょう」喉をゼーゼー言わせながら、赤く腫らした目で懸命に己に訴えかけるジェロニモに、アンドレスも唇を噛んで頷いた。(ジェロニモの言う通り、ビルカパサ殿は、この砦で起こった異変に勘付いてくれているかもしれない。あるいは、勘付いていないかもしれない…。今でも俺たちが予定通りに要塞砲を占拠していると思い込んでいて、敵軍を射程内に充分に引き入れるまで、俺たちが砲撃のタイミングを見計らっているだけだと思っているかもしれないんだ。だけど、だからって、今の俺たちに何ができる…?ここで為す術もなく立ち往生していたって、何も始まらないじゃないか!ならば、ジェロニモの言う通り、ビルカパサ殿を信じるしかない。何もかもが手遅れになってしまう前に、トゥパク・アマル様をお助けに上がらねば…!)アンドレスは、吹き付ける雨水の伝い流れる顔を振り向かせて、ジェロニモや周囲の仲間たちに、「このまま前進を続けよう」と、苦渋を押しのけた力強い眼差しで合図を送った。周囲の兵たちも、「はっ!」と凛々しく頷いて、アンドレスに応じる。彼らは、もうひとしきり息を止めて這い進むために、叩き付ける雨粒でズブ濡れになりながらも窓から身を乗り出し、新鮮な外気を胸いっぱいに吸い込んだ。だが、その時、聞き覚えのある声が背後で響いた。「トゥパク・アマルを助けに行くだと?そうはさせまいぞ、しぶといドブ鼠どもめ」 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。現在は、砦内に進軍したトゥパク・アマルに代わり、砦外に配されたインカ軍本隊を率いている。≪ジェロニモ≫(インカ軍)義勇兵としてインカ軍に参戦する黒人青年。スペイン人のもとから脱走してインカ軍に加わった。此度の作戦では、アンドレス隊に属する多くの黒人兵を統率し、アンドレスを補佐している。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.09
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かくして、副王ハウレギの嫡男アラゴン率いる大軍によって、聳え立つ砦の壁ぎわへと追い詰められて来るビルカパサ軍を、アンドレスも砦の窓から愕然とした眼で見つめていた。彼は、アレッチェに狙われているに相違ないトゥパク・アマルを救出したい一心で、トゥパク・アマルがいるはずの大広間に向かって、長大な通路を無我夢中で引き返している真っ最中であった。できるだけ砦内の空気を吸わぬよう息を止め、通路上に等間隔に据えられた覗き窓ごとに息継ぎをしながら走り続け――這いずり続け、と言った方が正確だが――、大広間まで、あと100メートル弱という距離まで迫っていた。そんなアンドレスの姿に触発されたインカ兵たちが――辛うじて意識を保てており、不自由ながらも身動きが可能な者たちのみではあったが――一人、また一人と、倒れた上体を起こし、石床を這うようにして、共にトゥパク・アマルの元へ急いでいる。その数、ざっと十数名にのぼるだろうか。アンドレスと同様に息を殺して通路を進み、覗き窓ごとに息継ぎを繰り返しつつ這っていく彼らもまた、窓外のビルカパサ軍が、砦とアラゴン軍に挟み込まれながら砲火に呑まれているさまに蒼白になった。外は、いつしか嵐のような激しい風雨に変わっている。それでもなお、攻撃の手を緩めぬ敵軍に、アンドレスはどうにも堪え切れず、窓から転げ落ちぬばかりに大きく身を乗り出した。「ビルカパサ殿――!!それ以上、こっちに来ては駄目だ!完全に退路を断たれる前に、なんとかそこから部隊を退却させてくれ!!」己のどこにそのような力が残っていたのかとアンドレス自身も驚くほどの大音声で、反射的に外に向かって叫んでいた。が、いくら血を吐くほどの大声を張っても、天を割らんばかりの雷鳴や吠え上げる大砲の轟音に勝てるはずはなかった。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪アンドレス≫(インカ軍)トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。 剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。現在は、砦内に進軍したトゥパク・アマルに代わり、砦外に配されたインカ軍本隊を率いている。≪アラゴン≫(スペイン軍)スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.05
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ますます迫り来る窓外の轟音や震動を、全身で聴き取り、感じ取りながら、トゥパク・アマルは、懺悔と口惜しさに震える瞼を伏せた。己の内面を押し包んでいく絶望の暗雲を苦渋の思いで感じながらも、彼の心眼は、さらにその奥深くで、今も煌々と燃えている炎を探し当てていた。猛々しくも神々しく澄んだ炎――それは己の命の源なのか、魂なのか、いずれにしろ、それは、トゥパク・アマルの心の目が見つめれば見つめるほど、放つ光の強度を増していく。(インカの神々は、決して我らを見捨てはしない――!)カッ、と見開かれたトゥパク・アマルの鋭利な双眸に、夜空の稲光が反射し、彼の瞳を黄金色に光らせた。その瞳をぐっと押し上げ、彼は、祈るように、それでいて、挑むように、天頂を決然と振り仰ぐ。その瞬間、分厚い雷雲で覆い尽くされた夜空を、これまでにも増して激しい稲妻が幾筋も駆け抜けた。地上で轟く豪壮な砲音さえも掻き消すほどに、耳を劈(つんざ)く雷鳴が、無数の青光りと共に夜空を席巻(せっけん)し、時を合わせたように風雨が強まる。窓から吹き込む大粒の雨がトゥパク・アマルの全身に叩きつけ、漆黒の長髪と黒マントを強風がバサバサと音を立てて弄(なぶ)り上げた。敵の火器を鈍らせるそれらの雷雨を、さらに煽り、愛おしむように、トゥパク・アマルは天を見据えたまま、雹(ひょう)塊のごとく叩き付ける雨粒に身を晒している。それでもなお、敵の砲撃音や銃声は、執拗に戦場に鳴り渡り続けている。険しく吊り上がった切れ長の目をさらに険しくさせたトゥパク・アマルの耳に、不意に、すぐには何者とも分からぬ男の声が、途切れ途切れに聞こえてきた。(――俺だ、トゥパク・アマル!聞こえるか?!聞こえるわけねぇけど、聞こえてくれと願って呼びかけてる!俺は、今、砦の――・・・)さらなる風雨の強まりに掻き消されたが、耳に聞こえたというよりも、心に聴こえた、と言った方が正確な、その荒々しく野性的な声音と口調には、確かに聞き覚えがあった。その声の主に、ハッ、と思い至ったトゥパク・アマルの表情が、恍惚を帯びた驚きの色に染まる。「まさか――」思わず声を上ずらせて、窓から大きく身を乗り出したトゥパク・アマルは――しかし、次の瞬間には、己の背に、冷たい銃口が押し当てられるのを感じていた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.09.02
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視力は効かないながらも、砦外に配されたビルカパサ軍が、敵の大軍によって、この砦の方角へ追い立てられて来るところであろうことは、迫り来る激しい喚声、喧噪、馬の嘶(いなな)き、銃声や砲声などによって察することができた。やはりビルカパサは、己が命じた作戦通り、砦の射程内に向かって今も偽装退却を続けているのだ。そう悟ると、トゥパク・アマルの心は再び凍りついた。ビルカパサたちは、砦に侵入を果たしたトゥパク・アマル軍やアンドレス軍が、首尾よく要塞砲を占拠している真最中だと、現在も思い込んでいるに違いない。確かに、当初の作戦では、ビルカパサ軍が偽装退却によって砦外の敵軍を要塞砲の射程内に誘(おび)き寄せ、トゥパク・アマルたちが占拠した要塞砲によって、射程内に引き入れた敵軍を迎撃する予定であった。そうでもせねば太刀打ちできぬほど、砦外に配された敵軍の武装が強壮であったからだ。しかしながら、今や、状況は全く変わってしまっているのだ。このままインカ軍本隊がビルカパサに率いられて砦の方へ偽装退却を続けても、トゥパク・アマルたちによる要塞砲の援護など無いばかりか、砦外の敵軍によって砦の真下まで追い込まれ、逆に逃げ場を奪われたまま、全軍壊滅させられることになりかねない。トゥパク・アマルの横顔を冷たい汗が伝い流れた。(ビルカパサ、ならぬ…!そのまま、砦に向かってきてはならぬ。手遅れにならぬ前に、本隊を退却させてくれ。我々もろとも一網打尽にされてしまう前に、せめて、そなたたちだけでも逃げてくれ)そう胸の内で叫んだ己の言葉が、ビルカパサに届きようもないまま己の中で虚しく消えていくのを、トゥパク・アマルは絶望的な思いで感じていた。 【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆ ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) 反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。 「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。 清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。≪ビルカパサ≫(インカ軍)インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。現在は、砦内に進軍したトゥパク・アマルに代わり、砦外に配されたインカ軍本隊を率いている。≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。 ◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆ 目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら ★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!(1日1回有効) (1日1回有効)
2014.08.29
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