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瞬時に相手の動きを捉えたエドガルドの鋭い心眼が、反射的に身をのけ反らせ、相手の斧をギリギリよける。
予想以上に反応の鋭敏なエドガルドによけられて、逆に、インカ兵の方が、瞬間、バランスを崩した。
その一瞬の隙に、すかさず胸元から引き抜かれたエドガルドの懐剣が、インカ兵の急所に突き立てられる。
「――…!!」
言葉にならぬ呻きを上げて泥の中に崩れたそのインカ兵を見下ろし、フッと息をついたのも束の間、エドガルドの背後からは、さらに別の褐色兵が鎌を振り回しながら、野太い雄叫びを上げて襲いかかってきた。
その鎌を、またも、すんでのところでかわすが、エドガルドの息は上がりはじめている。
「きりがない……!
しかも、この者どもは、疲れを知らぬ…!」
切歯扼腕しながら呻いた彼の周囲では、同様に、スペイン兵たちが皆、雲霞(うんか)の如く群がり来るインカ兵たちの執拗な攻撃に苦戦を強いられていた。
今や、砦の麓は、先刻までのアラゴン軍の圧倒的優位な状態が一変し、腹背から猛烈な勢いで挟撃をかけてくるインカ軍が、明らかに押している。
一方、砦の中では、そうした外部の気配の変化を感じて、窓から外を見やったアンドレスが大きく息を呑んでいた。
(え?!
一体、あの戦場では何が起こっているんだ?!)
つい先刻まで、よもやビルカパサ軍の退却さえ叶えば、それ以上は何も望めぬと思っていたほどの悲惨な戦況が、はたと気付けば、いつの間にか、すっかりインカ軍が優勢に変わっている。
そのような麓の光景を、窓から目の当たりにしているアンドレスやロレンソたちの驚きようは言うまでもない。
彼らは、敵味方の別無く今も毒気で意識消失したままの兵たちに為す術も無く、心痛めながらも、自らも毒気の抜けきらぬ体を引きずって、敵に連れ去られたトゥパク・アマルを必死に探している真っ最中であった。
そうしながらも、ビルカパサや、彼に託されたインカ軍本隊のことをどれほど案じ、救出することのできぬ自らをどれほど責め苛んでいたか知れなかった。
そのような只中、窓外の戦況の思いもかけぬ大転換に、アンドレスは激しい驚嘆と興奮に、息することさえ忘れている。
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。
≪エドガルド≫(スペイン軍)
副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。
スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。
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