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山裾に広がる荒野から、突如、雪崩れ込む黒い大河のように現われ、そのままアラゴン軍の背面に突撃敢行してきた援軍の到来に、砦下で身動きを封じられていたビルカパサ軍の兵たちが驚嘆していたのは言うまでもない。
「お、叔父様…、援軍が来るなんて聞いていました?」
自弁の武器を振りかざして、みるみる敵軍の中に斬り込んでくる新参のインカ兵たちを、恍惚と驚きの入り混じった表情で見つめながら、騎乗のマルセラが擦れ声を漏らした。
ビルカパサもまた、その鷲鼻の際立つ鋭利な横顔に驚きを隠せぬまま、「いや。援軍が来るなぞ、聞いてはいない」と、固唾を呑んでいる。
そう答えながらも、ビルカパサの脳裏には、この予期せぬ援軍の正体が何者たちなのか、早くも薄々予測がつき始めていた。
(この唐突な現れ方、それに、あの機動性の高さや、鈍器による戦闘の並外れた強さ。
あのお方に相違あるまい)
豪雨に加えて、先刻の水袋攻撃に止(とど)めを刺され、今や殆ど火器を使用できなくなったアラゴン軍の兵たちは、たちまち自軍の奥深くまで斬り込んできた敵援軍の肉弾戦に、彼らもまた、サーベルや銃剣による肉弾戦で応じるしかなかった。
しかしながら、新手のインカ兵たちは、獰猛な斧や、鋭い突起付きの棍棒、分厚く鋭利な刃が光る鎌などを得意の武器としており、筋骨隆々たる腕で振るうそれらの鈍器は、スペイン兵たちのサーベルを易々とへし折り、鋼の鎧さえも貫いて破壊していく。
夜闇と雷雨の中で、それらの様子をしかと感じ取りながら、ビルカパサは、自分の周囲で、みるみる生気を取り戻していく自軍の兵たちを凛然たる面差しで見渡した。
「皆、願ってもない援軍の到来だ!
我らも、今ひとたび、敵軍との決戦に挑もうぞ!!」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。
≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。
ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。
≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。
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