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傷だらけの顔を決然と上げて、光の甦った双眸で己を注視する自軍の兵たちに、ビルカパサは、さらに力強く語を継いでいく。
「もはや敵軍は、火器を殆ど使えぬ状態だ。
この豪雨の中、我が援軍から水攻めに合い、火器が萎え果てている上に、体温も下がり、体力的な消耗も激しかろう。
援軍は敵の背面から猛撃している。
よって、我らは、即座に反転し、敵正面から突撃を敢行する。
腹背からの挟撃による肉迫戦にて、一気に勝負を決しようぞ!!」
血塗れの顔面を炯々とさせて、そう猛々しく声を張ったビルカパサに応えて、彼の兵たちが「オー!!!」と、勇壮な雄叫びを上げた。
そのような仲間たちを隅々まで見渡して決然と頷くと、ビルカパサは、すかさず馬ごと踵を返し、自ら陣頭を切って、一直線に敵軍に向かって突撃を開始した。
己の後を追って進撃してくる自軍の兵たちが上げる雄々しい咆哮を背後に聞きながら、ビルカパサは、胸の内で、援軍の将に向かって呼びかけずにはいられない。
(あなたは、ラ・プラタ副王領を護っていてくださるよう、トゥパク・アマル様から重々依頼されていたはず。
にもかかわらず、あなたは、いつもご自身の判断で、陛下の許可を得ることも無く、勝手気儘に動かれる。
それでは、インカ軍全体としての統制がとれず、とても困るのです。
ですが――)
そう胸の中で呟きながらも、アラゴン軍の真只中で破竹の勢いで剛腕を振るっているに違いないその援軍の将を見通すかのようなビルカパサの目元には、逞しい笑みが滲んでいる。
(ですが、此度ばかりは、そのようなあなたの到来が、誠に有難い。
心より礼を申し上げますぞ、アパサ殿!!)
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。
≪ビルカパサ≫(インカ軍)
インカ族の貴族であり、トゥパク・アマル腹心の家臣。トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官として常にトゥパク・アマルと共にあり、幾度と無く命を張って主を守ってきた。
ロレンソの恋人マルセラの叔父でもある。
≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。
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