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「腐るな!!
稼働可能な大砲だけでも構わぬ!
あのインカの山猿どもは、大砲どころか、銃もまともに持たぬ連中だ。
大砲一発の威力の凄まじさを見せつけてやるがよい」
ブロンドの張り付いた美貌を厳しくさせて、兵に喝を入れるエドガルドに鼓舞されて、辛うじて水害を免れていた数門の大砲が火を吹いた。
しかし、それらが自軍の中に突き刺さってくるのをものともせず、インカの援軍は、断固たる進撃を止めようとはしない。
それどころか、疾風迅雷の進軍を続けながら、これでもかとばかり、続々と無数の水袋を投げ放ち続けてくるのだった。
その援軍の陣頭では、フリアン・アパサ自身が、獣のような身ごなしで、3000の兵を率いて疾駆していた。
馳せながら、自軍の放つ水袋の襲撃によって、着実に火器を封じられていく眼前のスペイン軍を見据えて、ニヤニヤと口端を吊り上げている。
「よしよし、いいぞ!
もっとタップリ見舞ってやれ!!
もっと、もっと、もっと、だ!!」
さも面白そうに、それでいて豪快に号を放ったアパサの周りでは、彼の兵たちが走り続けながら、数人がかりで大きな革袋の口を持って広げ、降り注ぐ雨水を袋の中に溜めていた。
袋いっぱいに雨水が溜まると、その袋の口を頑丈なロープで縛る。
さらに、その雨水入りの袋を、大きな弓を横向きにセットしたような頑強な革布につがえ――実は、投石器を応用したものにすぎない原始的な道具なのだが――、その水袋を、敵軍に向かって、数人がかりで投げ放っていた。
同様の作業を幾つもの部隊ごとに組織的に行っており、準備ができ次第、それぞれの部隊が各個に次々と投げ放っているのであった。
豪雨の中、泥土にまみれて走りながらの作業であったが、アパサの兵たちの動作は統制が取れており、その上、機敏で、疲れを知らない。
本来、彼らがフィールドとするのは、このペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領であり、特にアンデスの山高い地域である。
その上、アパサの本拠地があるティティカカ湖周辺は、アンデスの中でも殊更に標高が高い。
ティティカカ湖は、インカ帝国の創始者である太陽の御子カパックが降り立ったという伝説の地であるが、その湖は標高3800メートルという世界で一番高所にある。
そのような高所の希薄な酸素の中で鍛え上げられ、戦い抜いてきた彼らにとって、このような海辺の低地は、十分すぎる酸素があるというだけで、はかりしれないほど体が楽であった。
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アパサ≫
「ラ・プラタ副王領」の豪族で、トゥパクの最も有力な同盟者。
「猛将」と謳われる一方で、破天荒で放蕩な性格の持ち主だが、実は、洞察と眼力が鋭く、全体をよく見通している。
かつてアンドレスを戦士として鍛え上げた恩師でもある。
≪エドガルド≫(スペイン軍)
副王の嫡男アラゴンへの絶対的忠誠を誓う腹心の部下。
スペイン王党軍を統率するアラゴン王子の副官でもある。
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