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他方、トゥパク・アマルもまた、断固とした口調で食い下がる。
「このようなものに署名をしても無意味だ。
この反乱は、もはや、そなたやわたしの手の内から、とうに離れたものとなっているのだ」
降伏受諾書の表面に細々と並べられたスペイン語の文字列に鋭利な一瞥を走らせ、再びその視線を眼前のアレッチェに戻して、トゥパク・アマルが淀みない口調で続けていく。
「インカ帝国が侵略されて200年以上もの間、インカの民は、そなたたちの言語を絶する圧政に忍従を強いられてきた。
インカ帝国時代には1000万人を越えていた民の人口は、今や100万人もやっとという激減ぶり。
我らインカの末裔は、そなたたちの植民地政策という名の元、何重にも渡る税を搾り取られ、過酷な強制労働で命を削られ、辛うじて生き延びている者も屍同然であった。
このままインカの末裔たちが絶滅していくことを看過できず、やむなく我らは立ち上がったが、この戦いが、このように長期に渡り、広範囲に及ぶとは、わたしとて予測の範囲ではなかった」
「この大謀反人めが…!
いかなる言い訳をしようとも、反乱行為なぞが正当化される謂(いわ)れはない」
氷のように冷たく言い捨てたアレッチェに、トゥパク・アマルは口惜し気に唇を噛んだ。
「我らとて、流血を避けられぬ武力行使など、望んではいなかった。
憎しみは、憎しみしか生まぬ――故に、何年もの歳月をかけて、そなたたちとの話し合いを試みた。
なれど、そなたたちは、その話し合いの席に着こうとさえしなかった」
「トゥパク・アマル、おまえは、今さら、一体、何を言いたい?」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
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