PR
Free Space
Comments
Category
Freepage List
Keyword Search
Calendar
頬を紅潮させながら、大きな琥珀色の瞳を震わせ、喰い入るように見入る窓外では、予想もしなかったインカ側の援軍の参戦によって、ビルカパサ軍が息を吹き返し、あれほど強壮だったスペイン軍の火器を封じ込め、接近戦による戦闘によって、敵軍を圧倒している。
(あの援軍を率いているのは誰なんだ?
そもそも援軍が来るなんて、まるきり聞いてなかったぞ!)
歓喜と興奮に昂ぶる胸を打ち震わせながら、心の中で叫んだアンドレスの脳裏に、サァッと、あの時のコイユールとのやり取りが流れ込んできた。
それは、砦内に流された毒気にやられて、身も心も完全に打ちひしがれていたあの時、己を力付けるために現われてくれたコイユールの幻(まぼろし)との一瞬の会話だった。
『コイユール、俺は、どうしたらいい?
毒のようなものを吸い込んだらしくて、目も喉もやられて、周りも見えないし、吐き気もひどい。
戦うどころか、まともに歩くことさえできないのに、トゥパク・アマル様の身に危険が迫ってる…!』
たとえ、それが己の夢か幻だとしても、思いがけぬ愛しい人が眼前に現われてきたことで、一気に緊張から解き放たれて、アンドレスは止めようもなく内面の思いを吐露していた。
そんな彼の手を握り締める細い指先に力を込めて、コイユールは、アンドレスの瞳を見つめて微笑みながら、言っていた。
『希望を無くさないでアンドレス。
私、さっき、砦の向こうにある山の稜線が金色に光るのを見たの。
とても力強くて、神々しい綺麗な光だった。
インカの神様が、まだ諦めちゃいけないって、そう告げておられるように思うの』
あの時の、コイユールの優しく涼やかな声は、今も、はっきり己の耳に、心に、残っている。
(コイユール、あの時、君が言っていた金色の光っていうのは、この援軍のことだったんだね。
君の言葉通り、インカの神々は、俺たちを見捨ててなんかいなかった!)
アンドレスは、はからずも己の目頭が熱く込み上げるのを感じながらも、すっかり窓外に乗り出していた姿勢を正し直した。
(だけど、まだ予断はならない。
トゥパク・アマル様の行方も未だ知れず、あのアレッチェの所在も分かっていない。
一刻も早く、なんとしても二人を探し出さねば!)
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。
≪コイユール≫(インカ軍)
インカ族の貧しくも清らかな農民の少女。義勇兵として参戦。
代々一族に伝わる神秘的な自然療法を行い、その療法をきっかけにアンドレスと知り合う。
アンドレスとは幼馴染みのような間柄だったが、やがて身分や立場を超えて愛し合うようになる。
『コイユール』とは、インカのケチュア語で『星』の意味。
≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。
目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら
★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!
コンドルの系譜 第九話(1122) 碧海の… 2016.10.25
コンドルの系譜 第九話(1121) 碧海の… 2016.10.17
コンドルの系譜 第九話(1120) 碧海の… 2016.10.10